赤月島。
人口数百人の小さな島だが。
南国のリゾート地として有名。
最大の見所は夜になると超でかく月が見える事で
ロマンチックさを求めるカップルに人気。
毎年けっこういろんな人間が訪れ、設備も比較的充実している。
そんな赤月島にゆき兄は来ていた。
1人で。
「色とりどりの花が咲き乱れて、気候は温暖」
1人でぶつぶつとビーチでしゃべりながら歩くゆき兄
「夜にもなれば、リゾートで開放的になったカップルがこの島特有のドでかい月を見ながらロマンス全開…」
しばらく頭を抱えて1人で手足をジタバタさせて暴れるゆき兄
周りのカップルはちらちらと見ながら距離を離していく。
「何で!!こんな南国リゾートに1人で来るハメになったんだぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
砂浜に倒れバタバタと暴れて、道行くカップルを唸り声で威嚇する。
目の前でイチャイチャしようものなら海水をぶっかけ、流れるプールに投げ込む
仲良く手を繋いで歩くカップルを見るとサーフボードを振り回して追いかけ回す
キスなんかしようものなら半泣きでエアーガンをカップルに対してフルオートで乱射する
南国気分で膨れ上がる妄想をどうする事もできずにとりあえずカップルに敵対心を抱き暴挙を繰り返すゆき兄。
そもそも何故、1人でこんな場所にゆき兄がいるのか。
王国をガンガン発展させていく高橋が「いると邪魔になる」と言う理由で「休暇」「自分探しの旅」という名目でゆき兄を送り込んだ。
当初は全力で楽しんでいたゆき兄だがさすがに一週間が過ぎるとカップルだらけの中で自分は1人だと言う事に気がついた。
帰ろうにも高橋側が手を回してくれないと帰れずにかれこれ3週間、赤月島に閉じ込められていた。
かまってくれる人間がおらず、精神的にガンガン疲労していくゆき兄だった。
「ちくしょうちくしょう!ここは天国だがある意味地獄じゃねぇか!!」
カップル賑わうビーチにゆき兄の絶叫が響いた…
そんなゆき兄であったが、3週間も滞在するうちに仲良くなった奴らもいた
「や、ゆき兄」「またカップルいじめてんのかよ」「そのうち捕まるぞ」
赤月島の子供たちである。
赤月島唯一のゲームセンターに置いてあったシューティングゲームでバリバリのフェイバリットアクションを決めたゆき兄。
それを見ていた子供たちが話しかけてきたのが仲良くなった発端。
精神年齢が大方一致したのか無駄に仲良くなったのである。
ちなみにすでにゆき兄の手持ちの金は尽きていた
よってゲーセンに行ってもやる事は無い
ホテル代などは高橋が支払っているので食う寝るには困らないが
やることといえば泳ぐぐらいしかないのである
ちなみに飲み物はどうせ高橋の金だからとホテル備え付けの冷蔵庫からコーラのみをチョイスして飲みまくっている
金を使わない遊びとして子供にサーフィンを教えてもらっているがどうにも運動センスは無いようで半ば諦められている
何度かワイプアウト(ボードから落ちること)を繰り返して、砂浜で仲良くなった子供のうちの1人と話していた
「なぁ、ショウ」
「何だ?」
「何か面白いことないかな」
「面白い事か…そうだな、赤月伝説って知ってるか?」
【伝説】その単語にゆき兄の厨二脳は強烈な興味を示した
「何だそれ、kwsk」
ショウはケラケラ笑ながら話し出した
「赤月島に伝わる言い伝えだよ、えっと確か…」
赤月伝説
数千年の時を経て、地獄は死者で溢れ
我らを抱く、大いなる月は血で染まる
赤き月に選ばれし赤き悪魔は人々を浄化せんと
魔なる兵器を持ち出し、全てを壊していく。
森は焼き払われ、文明は破壊し尽くされ
人は皆、浄化という死を受け入れる
鉄の雲が空を覆いつくし、錆色の風が大地に吹き荒れ
水は枯れ、大気は宇宙へ逃げていき
永劫の終焉が近づいて来る。
絶望に挫かれ、力は萎え崩れ
あの激しい情熱は消えうせた。
疲れ果て、唯重い足を進め
かろうじて歩くだけの僅かに残る人々。
住む家も失い、行くべき処もわからず。
何を信じていたのかもうわからない人々。
最早、力無き自分を偽る必要も無く。
やがては埋められる事も無い死人のように
大地に横たわるのであろう。
悪魔はけたたましく笑い声をあげ、
全てを嘲笑うかのように鉄槌を下していく。
誰もが全てを諦めた、誰もが死ぬ事を受け入れた
しかしその時
天より巨大な光の柱が現れる。
人々が空を見上げれば、赤い月を消し去るかのように
白い、純白の月が空を覆っていた。
そして、白き月の中心より光輝燦爛たる白き翼を持つ者が現れた。
人々は誰もが祈りを捧げていた。
誰もが、彼を救いの天使と信じた。
その想いに答えるかのように天使は悪魔へと向かっていった
あたかも両者は互いが戦う宿命である事を知っていたかのように
天使と悪魔の激闘は熾烈を極め
海を裂き、大地を割るほどだった
そして3日3晩に及ぶ戦いが遂に決着の時を迎えた
天使の渾身の1撃が悪魔を貫いた。
人々の終わり無き歓呼の声が響き渡り
太陽が昇り、白い月が消えていくと同時に
天使は何処かへと消え去った…
「っていう話なんだけどね」
ショウは話し終えてゆき兄を見て驚いた
うつむいてプルプルと小刻みに震えているのだ
「ど、どうしたゆき兄!?」
小刻みに震えるゆき兄をとんとんと叩くとゆき兄は突然立ち上がった
「感動した!感動したよ!」
「あ、え…?」
「いいねーそういうの大好きだぜ俺!」
立ち上がり手をバタバタ振り回し熱く語るゆき兄
ギャアギャア騒ぎながら身悶えしながらそこらを転げまわる
「あ…はははは…」
微妙にどう対応していいのかわからずシュウはとりあえず笑った
「あー、くそ今日は調子わるかったな」
「あれだけリッピングしといて文句言うなよ」
「ちなみに今日、ゆき兄がワイプアウトした回数は23回だ」
「それ別に言わなくてもいいじゃねーかよ!」
今日の事について騒ぎながら帰路につく子供3人青年1人
普通、こんな青年はいないと一般的には言われるが例外もいるのである
「でさー…ん?」
「…」
シュウの視線の先には少年がいた
「よぉ、ノア」
「…」
ノアと呼ばれた少年はチラリとシュウを見て
何も言わずにまた歩き出した
「何だあいつ」
「本当、無愛想だよなー」
ぶつぶつ文句を言う子供にゆき兄が聞いた
「あいつ誰だ?」
そんな素朴な疑問にシュウが答えた
「あいつさ、ノアって言うんだけどさ…なんつーか暗くていつも1人でいんだよな」
「最初は俺らもかまってやってたんだけど、全然反応しねーからもう疲れてね」
「でも俺たちが構ってやらないと本当に1人になっちまうからな、だからなるべく話してやったりしてるんだけど…」
「いっつもあんな感じなんだよな、ノアって」
「ま、しょうがないよな。この島子供少ないしな」
「子供の世界も人間関係大変だよ~、ゆき兄わかる?」
唐突に質問を投げかけられて一瞬、挙動が止まるゆき兄
「ああ、うん…わかるわかる」
「本当かよ」
「マジだってばー」
そんな会話を続け
それぞれは自分の家に、ゆき兄はホテルへと戻った
すっかり日も落ちた、夜中
ゆき兄はホテルの自室で眠れずウロウロしてた
電気もつけずに。
しかし島特有のでかい月によって月明かりがとても明るく問題無いのだ。
「しかし、全くやる事が無いってのもな…高橋に電話も通じない」
携帯電話を投げ捨てベッドに転がるゆき兄
「あー…たりぃ…」
赤月島の中心に位置する月の丘
そこに、1人の少年の姿があった
少年は1人で叫び続ける
「…なんでだよ!?」
「僕なのか!僕じゃないと駄目なのか!?」
「違う…!違う違う!!」
「あ…か…い…!」
「そうだ…僕は呪われた子…」
「選ばれた子?」
「そうなんだ…そう…なんだ!」
「クッ…ハハハッ…!アハッアハハハハハ!キャハハハハハハ!」
月の丘で、少年は笑い続けた
壊れた人形のようにずっとずっと笑い続けた
そして、変化が起こる
瞳の色が赤く染まり、長い黒髪は燃えるような赤髪になる
そして、全てが、赤く染まっていく
ベッドで寝ていたゆき兄がピクリと動いた
何だか、嫌な予感というか野生の勘が働き目が覚める
「あれ…って何だ!?」
驚いてベッドから転がり落ちるゆき兄
原因は赤くなった部屋だった
「何だ何だ何だ!?火事か!?」
慌てて辺りをバタバタ走るが特に熱いという事も無い
「…外?」
どうもこの赤い光は外から来ているようだった
そして、ベランダに目を向ける
「…何だ…こりゃ…」
ゆき兄は目をゴシゴシこすってもう1度外を見る
何度見ても同じだった
ゆき兄の眼に映る光景
それはまるで
「赤い月?…まるで血をブチまけたような…」
今日、聞かされたばかりの赤月伝説を思い出す
我らを抱く、大いなる月は血で染まる-
「大いなる月が血で染まる…?」
眼前に浮かぶ、巨大な赤い月はまさにそれだった
「伝説はマジだったとかそういうネタ?」
自問して腕を組んで考え出すゆき兄
そして色々考えてるうちに「あ」と間の抜けた声を出した
「待てよ、待てよ、落ち着いて考えようぜ
伝説がマジだったら次は…?」
その瞬間ゆき兄は後ろに飛びのいた
一瞬異常な殺気を感じたのだ
着地して辺りを見回す
自分の呼吸音しか聞こえない
それでも刺すような強烈な殺気を感じる
「…この緊迫感…トンカツと戦った時以来だな…」
武器は無い
妹のゆきのように格闘技に自信があるわけでもない
背筋に冷たい汗が走る
「…気配は無いものの突き刺すような殺気が…」
「…この程度なのか」
真後ろから声が響く
通常なら飛び退くところだが、飛び退けなかった
下手に動けば殺られると本能が告げた
ゆっくりと後ろを振り向くゆき兄
「…」
後ろには、赤い髪の少年が悠々と立っていた
「…誰だ」
少年がニヤッと笑う
「僕は赤い月を宿す者、ノアだよ、ノア・クライシス」
「ノア…?」
ゆき兄は今日の帰り道に出会った少年のことを思い出した
「あの…ノア?」
「ああ…ノアだよ…この世界に絶望して全てを壊したいと願うノアだよ」
確かに顔は今日であった少年ノアだった
だが、その眼は真っ赤で、髪は伸び、灼熱の色になっていた
ゆき兄は飛び退く隙をうかがっていた
だが、動けない
ノアには一瞬たりとも隙がなかった
下手に動けば、殺される
微動だに出来ない状態で精神力だけが削られていく
「…何で俺に会いにきた?」
「…白い月の天使となりえる」
「何だと?」
ノアは淡々と続ける
「僕は、この島を足がかりに世界を壊す…」
「何言ってやがる…!」
「…でも君は邪魔をする」
ゆき兄はケラケラと笑い出した
ノアの赤い目に怒りがこもる
「何がおかしい!」
「そんなの誰だって邪魔するに決まってんだろ、俺だけじゃねぇ」
「…違うね…そうじゃない…」
「何だと?」
「人間には僕は止めれない…止めれるのは…」
「…」
「…まだ殺さない…僕は君がどこまでやれるのか見なくちゃいけない…」
「な…」
「目覚めろよ…待ってるよ…」
その言葉を最後に、部屋から殺気が消えた
ゆき兄は息を切らしてその場に倒れこむ
緊張の糸が切れて一気に疲労が襲ってきたのだ
しばらくそこで倒れていたがノアの言っていた事を思い出す
ゆき兄はホテルから外に出た
最終更新:2009年10月31日 18:54