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ゆき兄ハーレム王国外伝4章【ノア】



月の丘に、1人たたずむノア
「やはり…出すしかないか…」
1人でブツブツと呟きながらうろうろとするノア
「この星を…!」
地面に手をつき、言葉を紡ぎだす
「目覚めろ、箱舟
 主の呼び声によって数千年の眠りから目覚めよ」
バキィン!と地面に亀裂が入る
亀裂より漏れる眩い光が辺りを照らし出す
「今一度、現世に蘇れ…!
 箱舟クリムゾンフルムーン!!」
岩盤が砕かれ、辺りに岩が浮き出し
光で溢れた月の丘は崩壊を始める…



そのころビーチでは戒名組が会議のようなものをしていた
「この島は強力な結界で閉じられてる」
「俺たちはスイカのボートでここまで来たんだけどね」
「そのボートも結界を通り抜ける時に大破…」
スイカがため息をつく
「結界の中は空に真っ赤な月がある夜のまま時間が止まってる」
「出るには結界を構成してる魔力の根源を砕くしかないな」
「それは何?もしくは誰?」
「そりゃあ…ゆき兄が知ってんじゃね?」
「しかし…よく寝てるな」
全員が視線を倒れてるゆき兄に移す
幸せそうに半開きの口で寝言を言い出す
「きのこしゃーん…えっへっへ…」
すっとスイカが立ち上がって
地面においていたカバンから何かを取り出した
グロテスクな棘付き鉄球がついたモーニングスターと言えばいいのか
形容し難い何か変な物が出てきた
「スイカ…何それ…」
「グッモーニンマイマザーラブラブゲッチュウ1番星君ハイパァグレイトゥッ!」
全員が顔を引きつらせる
恐る恐る桃が質問する
「で…それは…どういう使い方をするのかな?」
スイカはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに得意気に語りだした
「こいつで頭を1発ブン殴れば!
 絶対!間違いなく!確実に!100%!
 どんな深い眠りだろうと目覚めるんだ!」
ゆき兄のニヤケ顔がピクリと引きつった
ブンブンと鉄球を振り回しながらスイカがゆき兄に近づく
「…ああ、そうそう
 もし対象が寝てなかったら…」
ゆき兄の前でスイカが止まる
そして鉄球を思いっきり振り回しだす
「即死しちゃうんだ☆」
全力で振り下ろされた鉄球
狙いはゆき兄の頭
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
鉄球はドスーン!!と砂に命中した
引きつった顔でゆき兄はスイカに文句を言い出した
「こっ、殺す気か馬鹿野郎!!」
全員がため息をつく
「寝たふりだったのか…」
「どうせ起きたらボコボコにされると思ってたんだろうな」
グイッとゆき兄が襟首を掴まれ吊るされる
桃だった
「さて、説明してもらおうかな」
引きつった笑顔をしながらゆき兄は地面に落とされる
「あの…だから…そのね…」
しどろもどろになりながらも状況を説明しようとするゆき兄
するとゆき兄の顔に砂が飛んでくる
「ぶべっ!」
砂が飛んできた方向を見るとシュウがいた
「何やってんだよ!皆を助けに行ったんじゃなかったのかよ!!
 何で誰もいないんだよ!あんなバケモノになって何やってんだよ!!馬鹿野郎!!」
シュウの目には涙が溜まっていた
そして思いつく限りの罵声をゆき兄に浴びせかけた
全員が俯き、その様子を見ていた
顔から零れ落ちる砂を払って
ゆき兄はシュウの前へと歩き出す
「はぁ…はぁ…」
シュウは言いたい事を全て吐き出して肩で息をしていた
ゆき兄はそっと呟き始めた
「シュウ…俺は…」

その時、轟音が辺りに響き渡った
「何だ!?」
「見ろ!島の中心だ!」
島の中心、月の丘。
そこから、巨大な物が地面を突き破り、現れる
「船…いや、あれは…」
それは、船のようでもあり
生物のようでもあった
それは、その巨大な船は、宙へと浮き上がり、島の上空で停止する
船首にも見てとれる竜の口のような部分から赤く煮えたぎるブレスが放射される
それは、島を焼き尽くしていく
森を焼き払い、建築物を破壊していく
ゆき兄が思わず叫ぶ
「ノアァァァァ!!テメェはどこまでやれば気が済むんだ!!」
その言葉に食いついたのはシュウだった
「ノア!?今ノアって言った!?」
「あっ…」
「ノアなのか!?あいつがやってるのか!?全部あいつのせいなのか!?」
ゆき兄に食って掛かるシュウ
それを止めたのはたまゆらだった
「…待て、何かいるぞ」
するとどこに隠れていたのか
木々の影や、海や、地面から大量の木偶人形が現れる
数え切れないほどの木偶人形が一斉にこちらに迫ってくる
たまゆらは引きつりながらゆき兄に聞いた
「こいつら…何?」
「…敵」
木偶人形は一斉に飛び掛ってくる
白やんが叫ぶ
「来るぞ!!1匹残らずブチのめせ!!」
一気にビーチは戦場と化す
大混乱の中、ゆき兄とシュウは話していた
「ノアなのか…?本当に…あのノアが…!?」
しばらくの沈黙の後にゆき兄は小さく答えた
「…ああ…ノアだ…この事件を巻き起こしたのは…」
シュウは力なくうなだれる
「…ゆき兄…ノアを止めてくれよ…
 もう…頼れるの…ゆき兄しかいないんだよ…
 母さんも…父さんも…仲のいい友達も…皆いなくなっちゃったよ…」
ゆき兄は唇を噛み締めていた
だけど、迷っていた
ノアを止めたい、シュウを助けたい
だが、ノアに対抗するには力を使うしかない
もしまた暴走したらどうする?
今度は完全に邪神に飲まれ、皆を殺してしまうかもしれない
それを考えると軽々しく力を使えなかった
「あっ…」
シュウの声で我に返るゆき兄
すぐ後ろに、木偶人形がいた
回避…駄目だ、間に合わない
全身を貫く殺気、木偶人形の拳が振り下ろされる
咄嗟にゆき兄はシュウを守るために覆いかぶさる
バシュン!と音がして、木偶人形の身体が分断される
斬ったのはピュアハートだった
「ゆき兄、力は壊すためだけのものか?
 違うというなら使う時は今じゃないのか?」
それだけ言い残し、ピュアハートはまた木偶人形の群れへと向かう
他の戒名組も、木偶人形と戦いながらすれ違い様にゆき兄へと話しかける
「また暴走しても俺たちが助けてやるよ」
「その子、助けてやりな」
「かっこよく決めれば、きのこさんが惚れ直すかもね!」
「こっちは大丈夫だから、さっさと行ってきな」
「迷う暇があれば進め、だろ?」
「ゆき兄が立ち止まるのは何かキャラに合わないぜ?」
ゆき兄の拳が、硬く握り締められる
シュウがゆき兄にもう一度頼み込む
「お願い…ゆき兄…!僕たちを助けて…!」
ゆき兄が、顔を上げる
その時、シュウの身体が木偶人形に掴まれ宙に浮く
「うわっ!」
「しまった!」
戒名組の誰もが間に合わない
木偶人形は手に力を込める、シュウは苦しみながらもゆき兄に言った
「ごめん…酷いこと言って…ゆき兄も…何もしてないわけじゃ…なかったんだよね…
 僕は…死んでもいい…だけど…お願いだよ…!皆を…助けて…!」
ゆき兄の目が見開かれる
自分は何を考えているんだ
こんな小さな子供に自分は死んでもいいからなんて言わせていいのか?
こんな小さな子供が自分の事より他人の事を考えているのに
俺は何をしてる?
皆を殺してしまう?
だから、力を使わない?
違う…本当は怖いんだ…!
自分が戻って来れなくなるのが怖いだけだ…!!
ゆき兄は、小さく、言葉を発する
「…アブソリュート・アクセプト」

次の瞬間だった
シュウを掴んでいた木偶人形の上半身が粉々に吹き飛んだ
力を無くした手からシュウは地面に落ちる
それを下で受け止めるゆき兄
「あ…」
シュウが見た、ゆき兄の姿は
全身は真っ黒で、目が赤いのはさっきと変わらないが
禍々しい全身の突起は無く、裂けたような口もなかった
人の姿を有したまま、ゆき兄は変化していた
「もう…誰も犠牲にしてたまるものか…!」
ゆき兄の手から黒い触手のようなものが現れる
「な、何それ?」
シュウが驚き、ゆき兄に聞く
ゆき兄はそのうねる触手を見つめた
そして、力強く言った
「…俺に…従え…!2度と貴様に飲まれてたまるか…!!」
触手は苦しみもがくようにうねり、その姿を消していった
そして、シュウを地面に下ろした
「…ノアを、止める」
ゆき兄は空に浮かぶ箱舟を見つめる
シュウが問う
「どうやって…あそこまで行くの?」
クスリと笑って、ゆき兄が答える
「俺には、翼がある」
バサッ!とゆき兄の背中から翼が生える
黒い翼だが、どこか神々しい翼が
「皆、シュウを頼むぞ」
任せろよ、と言わんばかりに全員が手でガッツポーズをする
「行くぞ、ノア!」
ゆき兄は、黒い羽を辺りに散らばせると空へと飛び去った
それを見て、スイカが叫ぶ
「さぁ行くぞ!ゆき兄がボスをぶっ潰すまでこの子を全力で守り抜くぞ!!」
木偶人形の群れへと、全員が突っ込んでいった

高速で箱舟へと突っ込んでいくゆき兄
すると箱舟から何かが飛び出してきた
遥か遠くだが、ゆき兄の赤い眼はそれを捉えた
「…ドラゴン…ガードドラゴンか…まるで戦艦だな」
3体のドラゴンが箱舟より射出され、こちらへ向かってきていた
通常、人間がドラゴンに挑むなど自殺行為に等しい
しかもドラゴンは3体、どうあがいても勝ち目は無い
しかし、ゆき兄は止まらない
いや、止まれないのだ
シュウの覚悟や決意を目の当たりにして、今さら止まることなど出来なかった
それに、今のゆき兄は人では無い
ドラゴン如きに遅れを取るはずが無かった
3体のドラゴンはそれぞれが不規則に動きながらゆき兄へと突っ込んでいく
同時にゆき兄も速度をさらに加速させ、ドラゴンへと突っ込んでいく
1番前に出たドラゴンがブレスを放とうと口を大きく開く
その瞬間にゆき兄はドラゴンの鼻先へと向かう
ドラゴンの全てを溶かす灼熱のブレスが放たれる直前
ゆき兄は両手でドラゴンの口を思いっきり閉じた
ブレスは放射されることなく、ドラゴンの体内を逆流する
そのままゆき兄はドラゴンの頭をもう1体のドラゴンの方向へ無理矢理向ける
そして、口を一気に開かせた
行き場を失っていたブレスはそこから爆発的な勢いで放射される
放射されたブレスはもう1体のドラゴンを直撃する
同族のブレスを受けたドラゴンは叫び声を上げ、暴れまわる
「あああああああああああ!!!」
ゆき兄が腕に力を込める
肉を裂く音が辺りに響き渡り、ドラゴンの首が引き千切れる
脳からの指令を失ったドラゴンの巨体は、地へと落下していく
ゆき兄は引き千切ったドラゴンの首を投げ捨て
ブレスを受けて暴れまわるドラゴンへと高速接近する
その時、左側から3体目がゆき兄を噛み砕こうと大きな口を開き飛び掛ってきた
身体を捻り、回転するように上昇し、その牙を避けるゆき兄
3体目はそのまま速度を緩めることなくターンしてゆき兄に突っ込んでくる
ゆき兄はその場に制止して、迎え撃つ体勢を取る
腰を低く落とし、居合いのような構えで高速で接近するドラゴンを待つ
ドラゴンが口を大きく開け、牙が露出する
ゆき兄は動かない、ただ一点を見つめて
そして、ドラゴンの全てを噛み砕く顎がゆき兄を飲み込む
その刹那、ゆき兄の右手が光を放つ
光は、ドラゴンの巨躯を抜ける
そして、その巨躯は真っ二つに分断され地へと落ちる
同時に2体目のドラゴンがブレスの苦しみから逃れ、ゆき兄へと突っ込んでくる
1体となったドラゴンは、もはやゆき兄の敵では無かった
高速で飛来するドラゴンを避け、そのまま背中の翼を引き千切った
ドラゴンは、悲鳴を上げながら翼を失い、地上へと落ちていった
竜ですら、ゆき兄を止めることはできなかった

箱舟から、強烈な視線を感じた
ゆき兄が箱舟の船首を見つめる
人の目で目視できる距離では無い
だが、ゆき兄の目はその姿を捉えた
上空の吹きすさぶ風に赤い髪をなびかせ
こちらを見つめるノアの姿を
赤い目と赤い目が交錯する
怒りと悲しみと、絶望と憎しみと、狂気や喜び
あらゆる物が交じり合った感情が交錯する
ノアが、小さく呟く
「人の身で箱舟を落とすか…
 いいだろう、その勝負受けて立ってやる…!」
「行くぞ、ノア」

大気が振動し、箱舟の船首部分"竜の口"が開く
そこに恐ろしいほどのエネルギーが収束する
発光するエネルギーが徐々に巨大化する
ゆき兄の手から長い物体が現れる
己の身長よりも遥かに長い刃を持った、黒い剣
あまりにも不釣合いな巨大な剣を両手で構える
剣の名は【邪神刀・悪食】
「今日は…今日だけは腹いっぱい食わしてやる…!」
ゆき兄が呟くと剣はガタガタと震えだす
まるで束縛から放たれようともがいているように
「燦然と輝く星々を焼き尽くし、光輝満ちる銀河を引き裂いた
 サタンの叫び声をその身に受けろ」
竜の口より、直径数十メートルに及ぶと思われるほど巨大なレーザーが発射された
逃げることなく、剣でそれを受け止めるゆき兄
レーザーは、剣に吸い込まれるように消えていく
常人なら一瞬で蒸発するほど灼熱をその身に浴びながら
ゆき兄は少しも後ろに退くことはなかった
不意に、レーザーの出力が上がる
押されるように、後ろにジリジリと下がりだすゆき兄
「食え…!もっと食え…!」
悪食の刀身が、陽炎のようにゆらめく
同時にレーザーを押し返して行く
だが、ノアも負けてはいなかった
レーザーはさらに大きく、全てを飲み込むように巨大化していく
それでも悪食は、それを飲み込んで行く
ビキビキという異音を出しながらも
悪食は貪欲にレーザーをその身へと吸収していく
やがて、竜の口が閉じられレーザーの放出は終了する
「はぁ…ノア、今度は俺の番だな…!」
悪食を、構えなおし
切っ先を竜の口へと向ける
赤い目は鋭い眼光を宿し
ゆき兄は大きく叫ぶ
「契約によりて封せられし、我が刀身に宿る邪神よ!
 その苦痛と憎悪を今吐き出しやがれぇーーーーーー!!」
同時に、悪食の刀身より
さきほどのレーザーが放出される
ひとつ、違うとすれば
さきほどの巨大なレーザーとは違い、1本の線のように収束されたレーザーだったということ
それは、箱舟を貫き船首から船尾へと抜ける
この状況に焦っていたのはノアだった
「吸収反射の能力を持つ剣…!だが箱舟の最大攻撃を全て吸収するとは…!
 ゆき兄…!貴様は一体…!」
箱舟を貫いた悪食より放たれるレーザーはゆき兄が切っ先を動かす事によって縦横無尽に駆け回る
レーザーは箱舟のあらゆる機関を破壊し、その力を奪っていく
「ハハハハハハハハハハハ!!!!
 どうしたぁ!ざまぁねぇなノア!!」
「…調子に乗るなぁああ!!!!!」
箱舟の表面が蠢き、人の顔のような物体が多数現れる
その顔はどれも苦痛や恐怖や絶望にまみれていた
そしてその口から、天を埋め尽くすほどの光弾が発射された
悪食の制御に集中していたゆき兄は予想外の攻撃に対応しきれず光弾をその身に浴びた

その頃、地上では
「全部片付いたようだな」
白やんが疲れ気味で浜辺に座り込む
「…あとは…」
全員が空を見上げる
巨大な箱舟と、邪神の戦いは生と死を彩る壮大なタペストリーを作り上げている
スイカが呟いた
「…何という凄まじい戦いだ」
その戦いを、誰もが見つめていた
戒名組は勿論、赤月島の生き残りも、赤月島に生きる全ての命が
「スイカ」
「何だ?」
ピュア様がスイカに話しかけた
「この戦い、どちらが勝つと思う?」
スイカはしばらく考えたあとに呟きだした
「…箱舟が落ちて勝負がつくならゆき兄が勝つだろう…
 だが、もし…ノア自体が…」
それ以上は聞かなくてもピュア様もわかっていた
空は、乱舞する光によって、真昼のように明るくなっていた
それでも、全員の心には絶望的に暗い不安で埋め尽くされていた

空では、箱舟が黒い煙をあげていた
同時に、肩で息をして、血を零しながらゆき兄が飛んでいた
「終わりだ…!」
大きく、舞うように、ゆき兄は悪食を横に振った
右から、左に滑るように抜けた刃
その軌跡が赤く染まる
箱舟は爆炎を撒き散らし、轟音と共に浮力を失い海へと落ちていく
黒い煙が空を埋め尽くし、箱舟の壁に浮かぶ人の顔は皆苦悶の表情をあげ
断末魔の叫び声はまるで音楽を奏でるように
…鎮魂歌を

箱舟が、海へと落ちる様を見つめていたゆき兄が冷たい声で呟く
「…お前の切り札は、落ちたぞ」
後ろから声がもう1つ
「哀れだな…」
宙に浮かぶノア、発せられた声には憎しみも怒りも無かった
ただ、哀れみがあった
「…何だと?」
「…君の力は確かに人を遥かに越えている…
 だけど、所詮は邪神の力…闇の力だ…
 闇の力じゃ、僕には勝てない…!」
「…」
ノアは、表情を変える事なく続ける
「お前がいくら死力を尽くしたところで、闇の力を行使する以上…僕は勝てない…
 誰よりも深い闇に身を包んだ僕には勝てるはずないんだ」
「…やってみないと…わからないだろ?」
ゆき兄が、悪食を構えなおす
「昔のお前なら、僕を倒せただろう
 でも今のお前には友達がいて、仲間がいて、大事な人もいる
 その力は光だ、邪神の力を行使しているくせにアンタは光の属性へと転じているんだ」
「何がいいたい…?」
「…僕はお前が羨ましい…」
予想外の発言にゆき兄は少し動揺した
「…ノア?」
ノアの赤い目がさらに燃え上がる
その目には憎しみしか無かった
「だから、お前を殺す…!!それが僕の存在意義だ…!!」
ノアの身体から炎が噴出する
炎はノアの手で固まり、赤く巨大な剣と化した
「殺してやるッ!殺してやるッ!!死ねッ!!死ねぇぇぇぇぇ!!」
炎の剣を手に、ノアはゆき兄へと斬りかかる
ゆき兄は、それを迎えうつ
「ノア!お前はどうしてこんな…!」
鍔迫り合いになりながらも、ゆき兄はノアへと話しかける
「黙れ!」
恐ろしい力で押してくるノア
押し返そうとするが、それを越える力でノアは剣を押し付ける
「邪神を完全制御してる俺より…力が…!?」
「お前は…!僕には…!勝てない…!!」
ノアの剣から爆炎が噴出した
灼熱の炎はゆき兄を直撃する
「うあッ!!」
思わず炎を手で振り払う
だが、炎は生き物のように身体に纏わりつき離れない
「いいかゆき兄、お前は必要とされた。
 僕は必要とされていない、これがお前と僕の違いだ。
 安息という光を得たお前が、暗い闇の底でもがき続ける僕に闇の力で勝てると思っているのか」
「違う…!俺は…!」
「もういいよ、お前を見てると心底イラつくんだ
 天使とかそんなのもうどうでもいいや、死ねよ、消し炭にしてやるよ」
ノアが手を宙にかざすとそこに炎が沸きあがる
呪文を詠唱すると、手の炎は形を作り出す
「ワート・ヘルクレイム・ディルガニア・バル・エガル
 汝、灼熱の掟によりて我を清めたもう
 偉大なる覇者の集いに我が名を知らしめたらん
 おお、空へと集まりし王陣は今こそ黄金龍の力を得ん」
炎は巨大な龍の姿へと変化する
ゆき兄は、その呪文を知っていた
「…あの呪文形体は…まさか禁呪か!?」
「お前の人生の幕を引く、灼熱の龍を見ろ…!
 ゲヘナード・ドラゴニティック!!!」

全てを焼き尽くす爆炎の龍がゆき兄へと突き進んでくる
纏わりつく炎など最早気にはしていられなかった
「アルティ・ヘブラード・クロウ・ディパル!
 ホワイトシェーディング!!!」
咄嗟に正面に魔法障壁を展開させる
爆炎の龍は魔法障壁に激突する
だが、ノアは笑う
「そんな高密度の呪文詠唱を必要としない低級魔法障壁でこの術を防げると思ったか!!」
爆炎龍が大きく叫び声をあげる
同時に、ゆき兄を守っていた障壁は、ガラスのように砕け散った
「燃え尽きろ」
爆炎龍は、ゆき兄を飲み込み、その身を収束させる
そして辺り一帯を吹き飛ばすほどの大爆発を巻き起こした
巻き起こる灼熱は常人ならば一瞬で骨も残さず蒸発させるほど
だが、ゆき兄は生きていた
かなりの量の出血と火傷を負ってはいたが死んではいなかった
「どうした…ノア…この…程度か…」
息も絶え絶えだが、いつものように憎まれ口を聞くゆき兄
ノアは何も言わなかった
ただ、無言で剣を振り上げ、ゆき兄へと振り下ろした

僕は、呪われた子だった
どこから来て、どこに行くのだろう
僕は、暗い洞窟へと
何も無い、光すらも届かない
ただあるのは闇
闇の底で、人は絶え間なく罪を責め続ける
助けてくれる人が存在しなかった
闇が恐ろしかった、怖かった
だから、僕は闇になった
もしかするとそれはあらかじめ決められていたのかもしれない
閉塞された闇の世界だけが僕の世界
脳の中で膨れ上がる世界だけが、僕の世界
僕の世界は世界には無い、僕の世界は僕にある
だけどある日、洞窟の扉が開きました
断罪の時が来て、首を落とされる
受け入れればよかった
僕は抗った
必死に抗い続けた
そして、罪が生まれました
気がつけば、血と焼け焦げた肉の匂い、そこに立つのは、僕1人
こんな僕を誰が許してくれるでしょうか
誰も許してくれるはずがない
僕は、ずっと1人なんです
導かれるように、赤月島に来ても、1人でした
僕は、人に関わってはいけない
関われば必ずその人を不幸にしてしまう
だから関わってはいけない
生きていけばいい、ただ意味も無く生きていけばそれでいい
そして、赤い悪魔は言いました
「お前が憎んだ世界を滅ぼそう、それがお前が今日まで生きた意味」
僕は、赤い悪魔になりました
この世界の全てが滅べば
この世界から僕以外の人間がいなくなれば
僕は永久に1人なれるのです
もう、この力に苦しむことはないのです
だから、僕は赤い悪魔になりました

鈍い音がした
ゆき兄の身体を覆っていた黒い邪神の力がパラパラと零れ落ちて行く
赤い目は、ゆっくりと色を黒へと戻していく
邪神の力が全て抜け落ち、人の身へと戻ったゆき兄
その胸に突き立てられていたノアの剣
ノアが言った
「さよなら…2度と会うことも無いだろうね…」
邪神の力を失ったゆき兄は浮力を失い
地へと落ちていった
ノアは、勝利に喜ぶことも無く
ただ悲しそうな赤い目で地へと落ちるゆき兄を見つめていた





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最終更新:2009年10月31日 18:57