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ゆき兄ハーレム王国外伝5章【天使ゼクエル】



瓦礫があちこちに散乱する狭い通路
そこは箱舟の中だった。
ゆき兄が落とした箱舟の内部へ潜入した奴らがいた。
スイカ・夜叉丸・たまゆら・桃花・雷雲の5人。
箱舟の中では警備兵と思われる木偶人形がうろつき
侵入者である5人を排除しようとしていた。
「ホァアアアアアアア!」
寄声を張り上げながら木偶人形を吹き飛ばしているのはたまゆらだった
1人で奮闘するたまゆらをよそに残り4人は話し合っていた
「箱舟に今回の事件の鍵があるって本当?」
夜叉丸の問いにスイカが自信たっぷり答える
「ああ、少なくとも重要な情報があるのは間違いないと思う」
「で、さっきからうろついてるけど重要な情報ってのはどこにあるの?」
桃花が的確なツッコミを入れる
「通路を見るに…とても遺物とは思えないほどの近代的な構造だ
 だったらどこかにコントロールルームかそれに類ずる物があるはずだ
 そこを見つけ出す」
「わかった、それじゃとりあえず手当たり次第に探っていこう」
4人は通路を走り出した
「アチャアアアア!」
たまゆらは置いていかれた

警備兵をたまゆらが引き付けてくれているので
4人は特に戦闘をすることもなく箱舟内を探索する事ができた
「いや~、たまゆらのおかげで楽だったね~」
「んだね~」
「まだやってんのかな~」
「やってんじゃね?何か奇声聞こえるし」
雑談をしながら箱舟内を探索する4人には緊張感の欠片も無かった
「ん…皆止まれ」
スイカの一言で皆が止まる
「どうした?」
「この扉…怪しいな…」
スイカが扉を開けようと力を入れる
だが扉は開かない
「ロックか…仕方ない、ブチ破るぞ」
全員で扉に強烈な衝撃を与える
すると扉はいとも簡単に崩れ落ちた
同時に、辺りにアラーム音が響いた
『L-1通路にて異常事態確認、対侵入者迎撃プログラムを起動します』
「まずい!!警備システムが生きてやがった!!」
「げ!シャッターが!」
今まで歩いてきた通路にシャッターが降り、退路が閉ざされる
同時に天井に穴が開いてそこから何かが落下してくる
それは木偶人形、だがその威圧感は今まで倒してきた奴らとは格が違った
「…スイカ、行け」
雷雲が剣を構えて木偶人形に立ちはだかった
「雷雲…だけど…」
「いいから行けよ、ここは俺に任せろ」
そう言うと雷雲は木偶人形へと向かっていった
「悪い…雷雲…」
スイカ達は後ろを何度か振り返り、そこから先に走っていった
ドアを開けて行き、スイカ達が辿り着いたのは機械が大量に置いてある小さな部屋だった
「これは…」

森の中のある場所
そこには小さなクレーターが出来ていて
周囲の木々は倒れていた
クレーターの中心から這い出た者
「く…そ…がっ…」
ゆき兄だった
身体に残った僅かな邪神の力が、ゆき兄を死から救った
だが、もはやマトモに動くことができなほどの重症だった
その時、目の前に何者かが現れた
「…やはり、君じゃあ彼を倒せないか」
「誰だ…」
顔をあげることができない
ゆき兄は今自分の前に誰がいるかもわからなかった
「君が彼を討てるのならば…それでもよかったが…
 やはり、私が出るしかないか」
透き通るような声の主は空を見上げた
「殺害の王子よ、地獄の門の閂がいささか緩すぎたようだな」
全てを見透かすようなその声の主に
ゆき兄は畏怖にも近いものを感じていた
「お前は…!誰だ!」
「白い月よ、天命を受けし者の名を我に」
「お前は…!」
声の主は、その場から去っていく
「待てッ…!てめぇは…!」
「君は関わりすぎた、だからひとつ教えるよ」
「何だと…!」
「白い月に選ばれたのは…」

箱舟に乗り込んだ戒名組以外はビーチで待っていた
いや、数人は生き残りを探しにと島内を駆け回り
他の数人は、落下したゆき兄を助けに落下地点近くへと向かっていた
ビーチに残っているのは神楽と天下とピュア様とシュウの4人だった
4人は一言も喋らなかった
ゆき兄が爆炎龍に飲まれ、落ちて行く光景を見てしまったから
負けたとは思いたくはないが、現実は非情だ
俯き、一言も喋らない4人
その時、シュウの身体が宙に浮く
「うわっ!?」
同時に神楽と天下とピュア様の身体は吹き飛ばされる
全員何が起こったかわからない
「何だ何だ!」
神楽は起き上がり、シュウを見ると
銀髪で、長身の男がシュウを抱きかかえていた
「…だ、誰…?」
シュウが恐る恐る話しかける
銀髪の男はニコリと笑ってシュウに小さく囁いた
その囁きは、シュウ以外には聞こえなかった
シュウの顔が不安から驚きへと変化する
神楽が剣を構えて言った
「その子を離せ」
銀髪の男はクスリと笑って言った
「そんな物騒な物、向けないでくれるかな?」
すると神楽の剣が砂になって崩れ落ちた
「なッ…!?」
ありえない状況に神楽の目は点になる
「もらったっ!」
天下とピュア様が飛び出し、銀髪の男の背後を取った
その剣は間違いなく頭に命中するはずだった
だけど突然ピュア様と天下の身体にもの凄い衝撃が走る
5体が千切れ、指の先まで痺れるような衝撃を受け
天下はブッ飛ばされて砂浜に転がる
「が…はっ…!!!」
「邪魔するな」
「なっ…!!」
「ぐぁっ…!」
3人が動けなくなる
まるで金縛りのように身動きが取れなくなる
「…さぁ、シュウ…」
銀髪の男はシュウをゆっくりと地面におろす
「待てッ…!その子に何をする…気だ…!」
ピュア様がうごけないながらも必死に問う
「この子は選ばれた」
それだけ言い残すと銀髪の男は煙のように掻き消えた
同時に3人の身体が自由になる
「あっ…!」
「シュウ!大丈夫か!?」
シュウは答えない
「おい…シュウ?」
ピュア様がシュウに触れようとしたその時だった
「シュウーーーーーーーーー!!!」
皆が声の方向を見る、シュウもだ
風太と蝶君に支えられたゆき兄がいた
「ゆき兄…」
シュウが悲しそうな目で呟く
ゆき兄は叫ぶようにシュウに話しかける
「待て!やめろ…!シュウを…!連れていくなッ!
 俺がやる!絶対に俺がノアを止めるから!
 だから止めろ!!止めてくれッ!!!」
シュウとゆき兄以外、この状況を誰も理解していなかった
だが、口を挟める状況じゃないのは誰もが理解していた
長い長い沈黙の後、シュウが小さく言った
「…さよなら、ゆき兄」
辺りに光が満ちる
「シュウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
響き渡る、ゆき兄の絶叫も、光に掻き消されていった

そして、光が消え、全員が目を開けた時
空には、白い月が浮かんでいた
そして、目の前には光り輝く白い翼を持ったシュウの姿が
誰も動けなかった
目の前で起こったあまりにも常識を超越した現象に微動だにできなかった
「これが…白い月の天使…」
ピュア様が小さく呟いた

空では、ノアが狂ったように叫んでいた
「馬鹿なッ!?なぜ白い月がッ!?
 ありえない!なぜだ!?
 白い月に選ばれたアイツは死んだはずだ!!
 どうしてだッ!?なぜ白い月が現れる!!!?」

地上ではシュウが辺りを見回していた
「…」
全員、動けない
射るような眼光は全ての者を凍てつかせた
だけどゆき兄だけは怯まなかった
「シュウから放れろ…!!!」
皆はゆき兄が何を言っているのかわかってはいない
白い天使が悪魔を倒すのなら、このままでいいじゃないか
だが、ゆき兄は全てを知っているようだった
だから誰も口を挟まなかった
「君は世界が滅んでもいいと言うのか?」
シュウの口から出た言葉
その声はシュウだが明らかにシュウではなかった
「ざけんなッ!!誰かの犠牲の上に立つ平和に意味があるのかッ!」
「犠牲無しには、平和は守れない」
「お前天使だろ!!それが正義と言う気かッ!」
「無論だ、これは絶対的な正義」
「正義のために罪を犯すことは間違いではないと言う気か!!」
「…これ以上、君と議論を交わす暇は無い」
シュウは、空へと飛び立っていく
「待てよ!返せ!返せよ!!シュウを返せぇぇぇ!!!」
その声は、シュウに届かない

そこから遥か上空
白い月を睨みながら一人佇むは赤い悪魔
「…大きな過ち…」
小さく呟いた声は誰に言ったものでもない
「白い月に選ばれたのは…ゆき兄では無かったというわけか…」
首だけを後ろに向け
ニタリと笑いながらノアは話し出す
「お前だったんだな…シュウ…!」
その視線の先には
白い月をバックに光り輝く羽根を佇ませ
殺気に満ちた眼でノアを睨むシュウの姿
だがノアは臆すこと無く話し続ける
「いや、もうシュウじゃないか…そうなんだろ…ゼクエル?」
その言葉にシュウが反応する
「地獄の門の閂がいささか緩すぎたようだな、バルゼキア」
ノアは笑い出す
「何千年ぶりかなぁ…!地獄は苦しかったぜぇ…?」
シュウの手から白い剣が現れる
淡く発光するその剣は見るもの全ての畏怖を与えるような神々しさだった
「傲岸不遜な悪魔よ、今一度地獄へと還るがいい」
ノアの手から炎が吹き出して
そこから剣が取り出される
「古い友達に再会したというのに随分と血の気が多いな
 いや、お前は昔からそうだったな…
 これと決めた事はどんな犠牲を払ってでも必ず実行するんだったな」
キヒヒヒヒと気味の悪い笑い声をあげるノア
「それで?今回の犠牲はシュウか?
 それとも前のように下の奴らもお構いなしか?
 それがお前の正義かい?天使のくせに何かを犠牲にしないと悪魔1匹殺せないのか?ギャッヒッヒ!」
「黙れ、私の目的は大いなる神の名において
 地上へと這い出る不浄なる貴様ら悪魔を滅殺する事
 そのためにならどんな犠牲でも小さい物だ…!」
「そうか…それがお前の正義か
 なら来いよ、シュウ…いや、ゼクエル!」

その頃、箱舟の中ではスイカ達は信じられない光景を見ていた
それは、過去の記憶
「プロテクトは解除した」
3人の前には大型のモニター
「見ていろ、夜叉丸、桃ちゃん、これが三千年前に起こった白い月の天使と、赤い月の悪魔の真実だ」

モニターに映し出されるのは三千年前の赤月島
そして空の上で戦う、天使と悪魔
「去れ!貴様が住むにふさわしい世界!奈落の底の地獄へと!
 我が剣の一閃が断罪の裁きを以って汝を葬り去る!
 汝は地獄の底で犯した罪を悔い続けるがいい!」
「馬鹿めが、地獄へ還れと言うならばこの世界全てを
 貴様の言う地獄へと変えてやろう!!」
悪魔の放つ火球を天使は剣で弾き飛ばす
飛ばされた火球は地へと落ち大地をえぐる
天使の剣が振られると大地に亀裂が走り、地が隆起する
海は津波を起こし、大地は溶岩を噴出させる
悪魔と天使の戦いの足元では、人間がゴミのように倒れていく
大地の裂け目に落ち、津波に飲まれ
煮えたぎる溶岩の流れにその身を蝕まれていく
ところどころで場面は移り変わり
その都度、悪魔と天使の攻防は激化していく
だが、天使の剣が悪魔の胸を貫く
赤い血が溢れ出し、悪魔から何かが消えていく
同時に天使の体から光が抜け落ちていき、何かが、抜けた
少年の姿へと変化する天使と悪魔、その姿はもはや天使でも悪魔でもない
普通の、人間の、少年の姿
2人はそのまま地へと力無く落ちていく
後にあるのは累々たる屍
そこで画面は暗転し、何も写らなくなった

長い沈黙の後、桃花が呟きだす
「天使は…人間の味方なんじゃなかったの…?」
「…まずいぞ、ゆき兄…
 もしこの戦いが赤月島を舞台にまた行われようとしているなら…
 俺たち、人間が生き延びる可能性は無いに等しいぞ…!」
「しかし、伝説は捏造だったと言うのか?」
「いや…かろうじて生き残った人間にしてみれば
 天使は本当に自分達を救いにきた者に見えたのだろう…」
「…でも、天使の目的は」
「ああ、人間なんか生きるも死ぬも関係ない
 天使の目的はたった1つ、悪魔の討伐」

その時、箱舟全体が大きく揺れた
「何!?」
「まずい…!海に沈み始めてる…!早く脱出しないと!」
「あんまり役に立つ情報は無かったけどしょうがないね!」

通路では雷雲が床に膝をつき、全身を襲う激痛に耐えていた
目の前には、血まみれで横たわる木偶人形
「くそ…強かった…な…」
肩で息をする雷雲
壮絶な戦いであった事を物語るように辺りの壁や、床はボロボロになっている
穴が開いた床からは海水が流れ込んでいる
バタバタと足音が聞こえ、スイカ達3人が戻ってくる
「お前のせいかよ!!」
海水が流れ込んでいる床を見てスイカが雷雲を思いっきり殴った
「ちょwwおまwwww」
痛みも忘れて思わずツッコミを入れる雷雲
「まぁ…いいか、壁に大穴開けてくれたおかげで脱出も容易そうだ」
「だったら殴ってんじゃねーよ!!」
「悪い悪い、それじゃさっさと逃げるぞ」
スイカが雷雲を担ぎ上げる
「…悪いな…思ったより強かったんだ」
「気にするな、おかげで助かった」
4人は壁に開いた穴に飛び込んで出口を目指して突っ切った
スイカが方向を示して、夜叉丸と桃花が壁をブチ壊していく
4人はそのまま箱舟から飛び出して海に飛び込んだ
しばらくすると箱舟は海に完全に沈んだ

「セーフだったな」
「ん…何か忘れてない?」
「何を?」
「いや、何か…」
「別に何も忘れてないよな…」
「だよなぁ」
「うん」
「気のせいか」

空の上では、ノアとシュウが攻防を繰り広げていた
「どうした、ゼクエル!?押されてるな!」
ノアの剣は不規則に動き、徐々にシュウを追い詰めていく
シュウは防戦一方で攻撃に転じない
「天使が剣に頼ると思ったか?」
シュウの左手がノアに向けられる
「神の怒り、天より堕つる雷鳴は我の掌にて光とならん!
 悉く砕き尽くせ、狂乱なる破壊の刃よ!
 クレッシェンド・フルムーン!!」
「冥き地の底より来る贖罪の亡者よ!
 その身に宿す痛みを今この者に分け与えん!
 フォビドゥン・ルール!」
シュウの左手の掌より光の刃が放たれる
同時にノアの正面の空間が歪み、そこから黒いエネルギーが放出される
2つのは魔法は激突し、あたりに爆散する
だが間をあけることもなくそのまま2人は剣でぶつかり合う
肉眼では不規則に光が現れたり消えたりしているようにしか見えない戦い
だが、それは核をも凌駕する1撃を秒間数百発ほど撃ち合っている
想像を絶する破壊能力と破壊能力の極限のぶつかり合いだった
その中でシュウが静かに呟く
「いつまで小競り合いを続ける?」
「お前が飽きるまでだな」
「何を企んでいる…バルゼキア…」
「お前、その子供を何と思っている…?」
「…我を宿す器として悪魔を討つ宿命を背負いし選ばれし者だ…!」
「だからお前は、愚かなんだ…!」
「私の質問に答えろ!何を企んでいる!!!!」
シュウの剣が大きく伸びる
それが振り下ろされると海が大きく割れた
ノアはするりと斬撃を避けてなおも会話を続ける
「自分とは違う意識を持つ者を自分が完全に操れるわけはないだろう…」
「戯言をッ!!!」
シュウの手から7発の光弾が発射される
だが、それはノアには当たらない
全ての弾をノアは弾き落とす
「お前は愚かだ
 自分で考えない、全ては神の御心か…
 愚者に仕えるもまた愚者か…」
その一言に、シュウがキレた
「舐めるなぁあああああああああああああああああああああああ!!!」
シュウの体が変化していく
翼はさらに大きくなり
全身に鎧のような物が現れる
体からは凄まじいまでの神気が溢れ出す
まるで神の怒りを現すかのようなその姿は
この宇宙で最強の力を持つ、天使の武装形態
「はぁぁぁ…!」
大気が震え、大地が揺れ動く
並の人間なら近づく事すらも不可能なほどの桁外れの神気
見る者全てが畏怖の念を抱く、神の怒りの姿
それは地上からも見ることが出来た

「馬鹿な…何だよコレ…」
「この恐怖は…違う…本能が…身体の全てが恐れてる…」
「あれは…一体何なんだ…」
ゆき兄が辛そうに痛む体を抑えながらゆっくりと喋り出す
「…あれが…シュウの身体を媒介とした…天使の武装形態…」
紡ぐ言葉は、絶望に彩られていた
「…高次元の霊的存在である天使や悪魔がこの世界で安定して活動するには
 人間の肉体という器を依代にして肉体を得る必要がある…
 そして100%の力を発揮するには完全同期という状態…つまり人間側が完全に天使を受け入れないといけない…」
「じゃあ、シュウは天使を自ら受け入れたのか?」
「違う…!あいつはシュウという魂を掌握して意識を奥底に押し込んで
 ほぼ強引に完全同期状態にしやがった…!」
「つまり、このままではシュウの魂は押しつぶされ、完全に消え去ってしまう」
気がつくと、後ろにはスイカがいた
「箱舟にあったデータによれば…
 三千年前の戦いも…天使の器に選ばれた少年は戦いの後
 魂を消失した肉体は粉々に砕け散り、砂と化した」
「…俺が…ノアに負けなかったら…
 シュウにそんな運命を背負わす事もなかった…のに…!」
「それは違うよ、ゆき兄
 箱舟の中で見た悪魔の力は、とても人間が敵うものじゃない
 …いくらゆき兄でも、あれを倒す事は不可能だ」
「だからってシュウに全部押し付けて、それでいいのかよ!!」
「…」
「英雄なんていう生贄を差し出して得た平和に価値なんてあるのかよ…
 それが、天使の正義なのかよ…」


天使ゼクエルと化したシュウは、ノアを追い詰めていた
武装形態に変化した事により、神の剣レーヴァンテインが真の力を発揮する
空を裂き、海を割り、大地を砕く、絶対的な神の力
「遊びは終わりにさせてもらう
 パラダイス・ロスト!!」
ゼクエルの翼が大きく広がると無数の羽根がノアに向かって放たれた
羽根の1本1本が神の神霊力を宿し、光の矢となってノアへと向かう
悪魔を消し飛ばす神の怒り、その全てがノアへと直撃する
「がっ、ごっ…あっ…」
肉が裂かれ、骨が砕け、身体を焼き尽くされるよな痛みがノアを襲う
絶え間なく続く、苦痛
「消えろ!不浄なる者よ!己の罪を地獄で永久に後悔し続けるがいい!!
 マニュフェスト・ディステニー!!」
ゼクエルの腕が光に包まれる
そして、ノアに向かって突き出される腕
大陸ですら消し飛ばす、天使ゼクエルの持つ神霊力の最大攻撃
その直撃を受ければ生きていられる者は例え悪魔としても皆無

だが…
「…僕を…殺すのかい…シュウ…」
「!?」

ゼクエルの腕は、ノアの目の前で止まった
「なっ…」
何が起こったのかわからないゼクエルは咄嗟にノアから離れる
ノアの身体から黒い煙が立ち昇る
黒は、辺りを包み込んでいく
同時にノアの身体の傷が塞がっていき、治癒する
「馬鹿なッ…何だ…これは…」
辺りは完全な闇に包まれ、光が失われる
ノアがゲラゲラと狂ったように笑い出す
「天使のくせに…闇が怖いのかい…」
波が引くように、闇が消えていく
空には白い月、別に何も変わったことは無い
「…何をした、バルゼキア」
ノアは答えない
ゆっくりと舌で口元の血を拭い、話し出す
「語りかけただけだ、器として」
「ほざくな悪魔がぁああああああああああああああ!!!」
ゼクエルの力が急激に膨張する
神剣レーヴァンテインを構える
周囲に巨大な魔方陣が一瞬で張り巡らされる
「アルティメット・ジャッジメント!!!」
魔方陣に急激に力が流れ込む
天使ゼクエルの最強攻撃アルティメット・ジャッジメント
神剣レーヴァンテインを媒介とし、空間に一瞬で巨大な隕石を物質化させる
それでもノアは笑っている
「直情径行なのは相変わらずだな、ゼクエル…
 その技を使えば、地上にいる者も全員が消し飛ぶ事になるぞ…?」
「私の目的は貴様の封滅…そのための人の犠牲など小さき者…!」
ノアは、逃げるそぶりも見せない
ただ、笑いながらゼクエルを見続けている
「我が1撃、無敵なり!!!!
 ヘブンズ・レイン!!!!!」
レーヴァンテインを前に構え、ゼクエルは最大の力を振るいながらノアへと向かっていく
同時、物質化した巨大な隕石がゼクエルに押されるようにノアに迫る
「ダークネス・ストラトヴァリウス!!!」
ノアの手が、隕石弾へと突き出される
そして、轟音と閃光が巻き起こり、世界は真っ白に染まる


ボタボタと血が流れ落ちる
2つの影が、天にある
片方の影の手が、もう片方の影の胸を貫いていた
「…僕の勝ちだ、ゼクエル」
ニヤリと、笑うノア
その右腕はゼクエルの胸を貫いていた
白い月に照らされ、ゼクエルの身体から突き出た右腕は真っ赤に染まっていた
「な…ぜ…」

あの瞬間
ノアが隕石弾へと手を突き出した瞬間
闇が、隕石弾を包み込み、全てを消し去った
そして一瞬のスキが出来たゼクエルの胸をノアの腕が貫いた

「あの闇は、僕自身の闇
 この世界、全てを呪い、己すら呪って生きたきた僕の闇
 天使の力すらも飲み込む、深淵なる闇」
「馬鹿な…天使である私が…闇に飲まれるなぞ…」
「これが器の差だ」
「な…に」
「気がついていただろう?ヘヴンズ・レインのエネルギー量が少ないと。
 シュウは皆を守るためにお前に自らの肉体を器として預けた
 だが、あの攻撃は地上の人間すらもまとめて消し飛ばすほどの威力だった
 だから、私はシュウにそれを教えてやった。
 地上にいる者も全員が消し飛ぶ事になるぞ?とな
 だからシュウはお前の心中でそれに抗った…そしてヘヴンズ・レインの威力を大幅に低下させた」
「…そんな…人が天使を越えるなど…」
「そして私の器は…何よりも深い闇を持っている…
 悪魔の器としては最高だ…」
ズルリと、ノアの腕がゼクエルから引き抜かれる
そのまま、ゼクエルは地上へと落ちていく
最後に見たのは、ノア…いや、悪魔バルゼキアの笑い顔

そして、月がゆっくりと赤に戻っていく
「…これで…世界は僕の望んだ…」





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最終更新:2009年10月31日 18:59