暗い
ここはどこだろう
「君が僕を受け入れれば、全ては助かるはずだ」
そう言われて
僕は自分の命を賭けたんだ
でも、僕は結局ノアを殺せなかった
それどころか、天使が皆を巻き添えにすると言うのを聞いて
必死に抵抗した、そのせいで負けた
馬鹿だね
ノアを倒せないと世界が滅ぶのに
皆が死ぬのは嫌だったんだ…
ごめん、ゆき兄…
結局、僕は、何一つ、守れなかった…
「守ったさ」
「あ…」
地面に落ちたと思った
でも、ゆき兄がしっかりと僕をしっかりとキャッチしてくれた
「…お前は、俺たちを守った、それだけで充分だ」
「だけど…」
「…安心しろ、俺が絶対にノアを止める」
ゆき兄が笑った
ただ、笑っただけなのに何故か不安が消えていくのを感じた
ありがとう…ゆき兄を信じるよ…
ゆき兄の腕の中でシュウは動かなくなった
一瞬、ゆき兄の表情が焦るがすぐに安堵の表情に変わる
「…極度の疲労から寝ただけだ…」
そっとシュウを地面に下ろす
スイカがゆき兄に話しかける
「どうする気だ?」
「…やるさ」
「その傷で勝てると思っているのか?」
「やってみないとわからないだろ?
それに天使も消えた、もうこの世界の運命は滅びるしか無いのかもしれない
でも、むざむざ滅びの運命を黙って見てるだけなんて俺にはできない
最後の最後まで抗ってやる、諦める事だけは絶対にしてやらない」
「…止めても無駄か」
「悪いな、皆」
「ゆき兄らしいっちゃらしいな」
「行って来い」
「…アブソリュート・アプセクト」
ペキペキとゆき兄の身体が黒く染まっていく
真っ黒に、目は赤く
その時、シュウがゆき兄の身体に掌を当てた
「シュウ!?」
「天使の力…僕に少しだけ残った天使の力を…!」
「やめろ!!そんなことをしたら傷が…!」
シュウは何も答えない
ただ、笑った
「これは…天使の…いや、シュウの…想いの力…」
「ノアの憎しみの想いを止めるのは…それすらも越える…人の想い…
僕の想いを、ゆき兄に…」
「シャイニング・アプセクト…!」
辺りが光に包まれていく
「これはッ…!?」
「邪神の力じゃない…!?」
「光と闇が混ざり合っていく…!」
眩いほどの光が消えて
そこに立っているゆき兄の姿
大きく、開かれた12枚の翼
黒い体には、神の紋章を形容した白いエネルギーラインが全身に走る
流れるようなの美しい流線型の身体のライン
長く伸びた髪は銀色に光り輝き
周囲には淡い光が浮かんでは消えていく
天使、悪魔、神、人
そのどれでも無い
限りなく魔神に近く、同時に限りなく神に近い者
人の身で神の力を有し、その力、混沌
「…受け取ったよ、シュウ…
お前と俺で、ノアを止めよう」
ゆき兄は空へと飛び去っていく
戒名組は、その姿を見送った
「…来るとは思ってたけど…その姿は予想外だったな…」
ノアの赤い目が強く鳴動する
「天使でも、悪魔でもない、光でも闇でも無い…混沌の力か」
ゆき兄が静かに呟く
「ノアだけど、ノアじゃない」
「何?」
「いい加減に正体を現したらどうだ、赤い悪魔」
キョトンとした顔をゆっくりと笑みに移行させるノア
静かに、低く、くぐもった声が発せられる
「ククッ、この子供は、悪魔の器としては最高だったよ
全てを恨み、呪い、その闇は天使ですらも打ち倒した」
「…」
「この器の闇は我が力によって増幅され、もはや止まる事は無い」
「…悪魔が…!」
「例え混沌の力を得た所でこの闇を消し去る事はできぬだろうな
そして、世界は滅び、悪魔の時代が到来する」
「そうなったらノアは用済みか?」
「この器の役目は地獄をこの世界に召還する事だ
そして全てが人が滅び去り、己すらも滅ぶ事が器の望み
わかるか、私たちのお互いの目的のために手を結んでいるんだよ」
「…ノア、俺にはお前の闇はわからない…
でも、たった1つわかる事は」
ゆき兄がノアの目を見つめる
深い悲しみと憎悪に染まった赤い目
その目を臆する事無く見つめて、ゆき兄は言った
「お前を止めなくちゃいけない、そしてお前を闇から救う
例え、俺が死んでも、絶対に止めてやる」
覚悟
何者にも折れぬ強い意志の力
「ならば、救ってみせろよ!!僕を救ってみせろ!!!!」
憎悪に駆られたノアがゆき兄を殺そうと攻撃をしかける
「ジェノサイド・フィアー!!」
「ケイオス・パニッシュメント!!」
ノアの右腕が黒く染まり、命を刈り取る死神の1撃と化す
同時にゆき兄の周囲に現れた無数の剣がノアへと向かう
ノアの右腕に触れたゆき兄の左腕が粉々に吹き飛ぶ
そして、ノアは右足を切り刻まれ、切断される
「うおああああああああああ!!」
「がああああああああああ!!!!」
だが、ゆき兄の左腕は一瞬で元に戻る
ノアの右足も元々どうにもなっていなかったように元に戻っていた
「…あの傷を一瞬で…」
「…ありえない…」
「あれはもう、回復などという代物じゃない…」
「復元能力…」
「それよりも、あの2人は呪文など詠唱していない…」
「…この戦い…どちらが勝つか全く予想ができない…」
戦いはさらに激しく
ぶつかり合う力と力は空間を捻じ曲げ
攻撃の軌跡は壮大で複雑なタペストリーを描いていく
「ルミナスランス!!」
ゆき兄が背中の羽根を1枚引きちぎるとそれは巨大な槍と化した
それがノアに向かって放たれる
「アビス・ディメンション」
空間が歪み、極小のブラックホールが形成される
放たれたルミナスランスはその中へと引き込まれていった
「爆ぜろ!!ルミナスランス!!」
作り出されたブラックホールは一瞬光ったかと思うと大爆発を巻き起こした
ノアは右手の先に作り出した闇から剣を引きずり出す
「ゆき兄ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
ゆき兄は右腕で左肩の羽根を1枚
左腕で右肩の羽根を1枚引きちぎった
2枚の羽根はそれぞれが硬質化し、巨大な双剣へと変化する
「ノアァアアアアアアアア!!」
ぶつかり合う、剣と剣
2人の悲しみや怒りは真っ向からぶつかり合い、赤い月が浮かぶ空を彩っていく
舞い踊るように、2つの剣を乱舞させるゆき兄
そしてそれを全て受け流していくノア
「どうしてなんだ…!お前と僕の何が違うんだ…!
なぜ、お前は闇から抜け出せたんだ…!
僕だって誰かが助けてくれればこうはならなかったんだ…!」
「お前、それを誰かに言ったことがあるのか」
殺し合いの最中に会話をすること
通常ありえない、だが2人は話し出した
「苦しんで、辛くて、誰かに助けてもらいたいなら
まず自分が手を伸ばさないといけないんだ、そうすれば必ず誰かが引き上げてくれるんだ!」
「黙れッ!黙れッ!黙れよぉッ!お前に何がわかるんだ!!
僕は生きるために全てを殺した感情も!!僕を封印した人間も!!全て!!」
「お前の闇は俺には想像もつかないのかもしれない…
それでも…分かち合うことは出来たはずだ…!!」
「嘘だ!!!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!
!!僕を助ける人間なんかいない!いるはずがない!!」
「シュウは天使の1撃からお前を助けたろうが!!
お前は過去に縛られて大事な物を見失っちってんだよ!!!」
「あっ…」
「だから、俺はお前を助けるために、ここにいるんだ!!!!!!」
「…う、うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
ゆき兄の身体のエネルギーラインが発光していく
「いい加減に目を覚ましやがれぇえええええええええええええええええええええええ!!!
ケイオス・シャイニング・ヘルハザード!!!!!」
双剣が束ねられ、1本の巨大な剣となる
その剣はあらゆる方向からノアへと振りかかる
「がっ!ごはっ!げはっ!!」
ノアの復元は間に合わない
剣が大きく振り上げられる
この1撃、避けられない
命中すれば死が待っている、だがノアは避けれない、避けることができない
ノアは、死を覚悟する
だが、剣は落ちてこなかった
ゆき兄は振り上げた剣をゆっくりと降ろしていた
「…なぜトドメを刺さない?」
「殺すのが目的じゃない」
「…なんだよ、なんだよ、何なんだよ…!」
「目を覚ませノア!過去に何か縛られてるんじゃねぇよ!!
お前が気づいてないだけでお前を救おうとしてくれている人間はいっぱいいるんだよ!!」
「…」
「…ノア」
「いまさら、どうなる」
「…何?」
「僕はもう、戻れない。沢山殺した、沢山僕のせいで死んだ」
「…」
「なら、僕は、もう、悪魔になるしかない」
「違う!!それだけは絶対に違う!!」
「…ダークネス・ストラトヴァリウス」
ノアの右腕から闇が噴出する
「…ノア…」
「受けて見ろ…天使すらも飲み込んだ、闇の1撃
この1撃に、僕の闇の全てを乗せる
この闇、誰にも、消し去ることはできない」
「消してやる…!俺が、お前を救ってやる…」
「ならば、闇に飲まれて消えるがいい!!」
闇が辺りを包み込む
だけど、ゆき兄は逃げ出さない
「光すらも飲み込む深淵の闇を見ろ…!
タナトス・スクリーム!!!!」
闇が、収束する
収束された闇は、一瞬の間を置き炸裂する
断末魔の叫び声にも似た音が響き渡り
闇はゆき兄へと向かっていく
「神様なんてあんまり信じてないけどな…
それでもさ、いるんだったらこの子を助けてやってくれよ…」
誰に言ったのかもわからない
ただ、独り言のようにそう呟きゆき兄は剣を投げ捨てた
「…ハッ、神頼みなんて俺らしくねぇな、俺がやらなきゃいけねぇんだよ…」
剣を捨てる、その行動に誰よりも目を疑ったのはノアだった
「馬鹿なッ!?」
闇の1撃が、無防備な状態のゆき兄へ直撃する
5体を引き裂き、魂すらも崩壊させる強大な闇のエネルギーの奔流
「ごああああああああッ!!!」
「なぜだ!?死ぬ気か貴様ッ!?」
「お前の闇は…俺が全て背負ってやる…!!
だからお前は見つけろ…あまりにも深い闇に埋もれてしまって…見えなくなっちまった小さな光を…!」
「僕の闇を、背負う…?
そのために剣を捨て、あえて直撃させたと言うのか…!?」
「なぁノア…人は弱い…その魂は容易くお前のように闇に囚われてしまう…
だけど、決して人間は完全な闇に落ちることは無い…どれだけ深い闇が心を覆っても…人は必ず光を持っている…
弱い者をいたわる温かさや思いやり…如何なる者にも立ち向かっていく勇気…他の者のために自らを犠牲にできる潔さ…
そして何より、無条件で全てを許せる無償の愛がある…」
「…違う」
「見えなくなってるだけだ…お前は闇に埋もれすぎて光が見えなくなっただけ…」
「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」
闇が勢いをさらに加速させる
全てを飲み込み、渦を巻く闇は空間すらも捻じ曲げていく
闇の中に落ちていく、混沌
「僕の闇は…誰にも背負えない…!」
ゆき兄の耳に聞こえるのは、ノアの悲しみの叫び声
ここは、どこだ
ノアの闇の1撃を受けて…それからどうなったんだっけな
真っ暗だ
どこまでも永遠の闇
空間が閉じているのか?
「…?」
闇の中に、誰かがいる
ノアだった、暗い闇の中にたった1人でノアが立っていた
「暗い闇の底で、人は絶え間なく己の罪を責め続ける
生きている限り続く苦しみ
僕の苦しみに満ちた生こそが、罰…」
「…」
「その罪を…誰が許せる!
誰も許せない…許せるはずが無い…!
何もかもを犠牲にしてまで生きようとした者に…生きる資格があるわけがない…!
それでも僕は生きて行く…永遠に許される事の無い罪を背負って…!
それが僕の罰…幾多の命を殺した僕の罰…罪…!
誰も僕を許さない…僕は、永遠に許されない!!許されるわけが無い!!!!」
「俺が、許してやる」
「!?」
ゆき兄がそっとノアに手を差し伸べる
「お前に裁く者は必要じゃない、許す者が必要なんだ
さぁ、手を伸ばせお前の罪、俺が許そう」
闇が、晴れていく
広がるのは、草原
赤い月に亀裂が入る
空が割れて行く
赤月島の上空を覆っていた闇が激しく何かに吸い込まれていく
「…あっあああああ…あああああああああああああ!!!!!」
ノアが、叫ぶ
頭を掻き毟り、涙を流しながら絶叫を繰り返す
闇は、ゆき兄へと吸い込まれて行く
全ての闇が消え去った時、月は、白く、大地を光で照らしていた
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」
ノアが剣を振りかざす
ゆき兄へと剣を振り下ろそうとする
「…ノア」
ゆき兄が、静かに目をつぶった
ノアの最後の闇、この闇でノアはきっと光を取り戻せる
微笑みを浮かべ、静かにノアの1撃を受け入れる
「…ゆき兄…!うあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
剣は、振り下ろされる
「どうして…どうしてなんだ…?」
ゆき兄の目から、大粒の涙が落ちる
最後の1撃
振り下ろされる剣は、途中で止まった
そしてノアは、自らを突き刺した
「…ゆき兄…君は…友達…」
血が流れ落ちる
「…喋るな…!こんな傷…すぐ治るから…!」
だが、ノアの傷は回復しない
「復元能力が…発動していない…!?」
「いいんだ…きっと僕は…洞窟に封印された時…もう死んでいたんだ…
僕は…許せなかった…ずっと自分を呪って生き続けてきた…
いっそこの世界ごと、滅べればどんなにいいだろうか…
赤い悪魔は…そんな僕の闇を増幅させた…
そして…今回の事件を起こしてしまった…
僕が…馬鹿だった…欲しかった物は手元にあったのに…!僕が気づいていないだけだった…!
いや、気づこうともしなかったんだ…得てしまえば失う事の恐怖に押し潰されるから…!
謝って許される事じゃないのはわかってる…僕は取り返しのつかない事をした…
ゆき兄は…こんな僕を許せるかい…?」
「…取り返しのつかない事なんかこの世に無い…
必ず贖罪のチャンスは与えられるんだ…!だから死ぬな…!
お前が生きて、罪を償う気があるならば…俺はお前を許してやる…!」
「ゆきに…ガハッ…!」
口から、血を吐き出すノア
飛沫は、ゆき兄の頬に散る
「もういい!喋るな!!」
「母さん…僕を…許し…」
ノアの身体から、力が抜けて行く
「ふざけんなぁああああああ!!
お前はまだ死なねぇ!!!死なせねぇぇええええええええええ!!!」
「…」
「ノアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
空から、白い光が落ちてくる
雪のように、パラパラと
「…ノアは、どうなったんだ?」
「…ゆき兄は、混沌の力で増幅されたノアの闇を全て受け止めた…
その瞬間、ノアは赤い悪魔の呪縛から抜けた…」
「…ゆき兄が…勝ったのか…」
「ただ…終わったんだよ…」
「何で…世界は救われたっていうのに…残るのはこんな苦い想いだけなんだよ…」
ゆき兄の腕に抱きかかえられたノア
その顔は安らかに眠っているようだった
全てが終わった、誰もがそう思った
だが
突然ノアの体がビクンと飛び跳ねた
「ノア!?」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
カッと目を見開き、ノアが叫び声をあげる
ノアの身体からはバキバキと音がする
「ゆき兄…!僕を殺せ!!早く殺すんだぁあ嗚呼ああがあああああああああ!!!」
グジャア!!と肉を裂く音がした
ノアの腹部から、尖った岩のような物体が突き出た
それは、ゆき兄を貫いた
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最終更新:2009年10月31日 19:01