Act.1【記憶屋24時間営業!?】
─思い出せない記憶─
─忘れたい記憶─
─手に入れたい記憶─
─そんな記憶はありませんか?─
Act.1【記憶屋24時間営業!?】
記憶…
どんなに留めようとしても、こぼれ落ちる砂のように
指の間からすり抜けるように
おぼろげになっていく物…
俺達の仕事はそんなものを扱う記憶屋
加奈「零冶君?」
零冶「ん?」
加奈「ん?じゃないよ、何ぼーっとしてんの、はいお茶」
零冶「いや…考え事してた」
加奈「熱いから早く取ってってば…」
零冶「…悪い」
加奈から湯のみを受け取る
すっかりこいつもここに居ついたな…
"衛藤加奈"
元々、こいつは依頼者だった
記念すべき最初の依頼者
初仕事だけあって色々と困難だったが…まぁ何とかなった
そしたら何だかここで働きたいと言い出す
結局、社長の和樹はこいつを雇った
まぁ別にいて困るわけでは無いが…
和樹「おい、零冶。ぼーっとしてんなら仕事しろ」
零冶「…依頼者がいないなら俺の仕事はねーよ…書類整理なら加奈がやってくれてんだろ」
和樹「馬鹿、仕事を探してくるのも立派な仕事だよ」
零冶「そりゃ、桜月がやってんだろ」
和樹「お前も行け、1人が2人になりゃ倍だ」
零冶「…和樹、あのな、1が2になったところで…」
和樹「社長って呼べ!それかせめて"高野さん"って言え!!」
零冶「いいじゃねーかよ、別に…」
和樹「社長命令、仕事探して来い」
零冶「…わかったよ」
ソファから立ち上がる
動くのがめんどくさいが、このままここにいたら給料減らされそうだ
加奈「いってらっしゃいー」
和樹「見つけるまで帰ってくるなよー」
零冶「夕飯には帰ってくる」
外は、寒かった
"高野和樹"
俺達、記憶屋の社長
色々あって俺はこいつのところに居候してる
いつもスーツだ。ついでに超ド級のヘビースモーカーだ。
アテも無くブラブラ街中を彷徨っている
っていうか、記憶屋の仕事をどう宣伝すればいいんだよ…
しかし、金も無いから遊ぶこともできん…
一体どうするべきか…
道端に座り込んで行き交う人たちをただずぅっと見ていた
そしたらよく知った顔がこちらに向かってきた
桜月「零冶じゃないか」
零冶「…桜月」
桜月「こんなところで何をやっている?」
零冶「…宣伝」
桜月「それが宣伝になるとは思えんがな」
零冶「俺も思えない」
桜月「全く、また高野が怒るぞ」
零冶「はは、お前さえ裏切らなければ適当にごまかすさ」
桜月「高野にごまかしが効くと思うか?」
零冶「…ああ、ちょっと無理かもな」
"桜月"
本名は知らん、女だが長身だわ冷静だわ格闘技の腕も半端じゃない
本職は…泥棒だとか
ちなみに記憶屋の客はほとんどこいつが連れてくる
一体どうやってんだ
あ、こいつに客引きの方法聞けばいいじゃんか
零冶「おい、桜月」
桜月「悪い、時間が押している」
零冶「おい!待て!おいってば!!!」
桜月「悪いな、後でゆっくり聞いてやる」
ものすごい速さで人ごみに消えていった桜月
あの速度は一体どこから…
零冶「はぁ…」
結局俺は、日が暮れるまでそこに座り込んだ
そして、すっかり暗くなった辺りで会社に戻った
零冶「ただいま」
返事は無い
…皆帰ったのか?
奥の部屋に踏み入れると、静かだった理由がわかった
依頼者であろうおっさんがソファに寝かされていた
枕元には和樹が、ちょっと離れたところに加奈がいた
和樹「何が見えますか?」
おっさん「…金庫が」
和樹「貴方は金庫の番号を設定していますね?」
おっさん「…ああ」
和樹「その番号は?」
おっさん「11718264830183746…」
和樹はその番号をメモりだした
っていうか偉く複雑な番号だな、語呂合わせも何も無しかよ
和樹「では、今から指を鳴らします…音が聞こえたらゆっくりと今の時間に戻ってきてください…」
パチン!といい音が響いた
おっさん「ん…」
和樹「おはようございます」
おっさん「わかったかね!?」
和樹「どうぞ、金庫の番号です」
おっさん「ほ、本当にこれで合ってるのか!?」
和樹「ええ、貴方の記憶で確かめました疑うならご自分で確認をお願いします」
おっさん「うむ…では、支払いは確認が取れてからでいいかね?」
和樹「はい、それで結構です」
おっさんは慌しく帰って行った
加奈「お疲れ様で~す」
零冶「相変わらず見事だな」
和樹の特技は逆行催眠
記憶を遡り埋もれた記憶を引きずり出す
和樹「零冶、仕事は?」
零冶「…悪い、見つからなかった」
和樹「どうせどっか座ってぼーっとしてただけだろ」
零冶「いや…そうじゃ…なく…て」
和樹「ま、今日はあのオッサンが来たから許してやるよ」
零冶「あのおっさんから幾ら報酬もらうんだ?」
和樹「そりゃ、秘密だ」
零冶「…ああ、そうかい」
それからしばらく時間が経って
加奈「それじゃお疲れ様ですー」
和樹「お疲れ様」
零冶「…お疲れ」
加奈が帰り
和樹「じゃ、俺も帰るからな」
零冶「あいよ、お疲れ」
和樹「あ、そうだ。便所掃除しといてくれ」
そう言って、和樹も帰った
誰が便所掃除なんてするか
零冶「…あー…」
正直、なんもすることがない
便所掃除するぐらいならさっさと寝てしまおう
毛布を取り出して俺はソファに横になった
桜月「全く無用心にも程があるな」
零冶「んん…」
桜月「起きろ」
パシン!と頭をはたかれて俺は目を覚ました
目の前には桜月
零冶「あ…?」
時刻は深夜2:00
桜月「私が泥棒だったらどうするつもりだったんだ…全く…」
零冶「盗むようなものは無いけどな、でこんな時間に何なんだ」
桜月「仕事」
零冶「ああ…?」
桜月「これな」
桜月は俺の前にでっかい袋を置いた
ズタ袋と言う奴か?
中には…
零冶「おい!!人入ってるぞ!?」
桜月「ああ」
零冶「いや、ああってお前…人殺してそんな簡単に…」
桜月「私は泥棒だが人殺しじゃない、気を失ってるだけだ」
零冶「…で、この人をここに持ってきたってことは…」
桜月「全く信じられないミスだったよ…この私が姿を見られるとは」
零冶「で、しょうがないから気絶させてここまで持ってきたと」
桜月「ああ、正直持ってくるほうが大変だった。結局目的も果たせずだしな」
零冶「…それで、仕事ってのはやっぱり…」
桜月「今なら高野がいないからな」
零冶「タダ働きさせるつもりか?」
桜月「個人的に報酬は払う、会社に頼むと相当ボラれるからな」
零冶「…和樹の奴…そうとうボッてんだな…」
桜月「なるべく早く頼む、起きるとめんどうだ」
零冶「報酬、忘れんなよ」
桜月「約束する」
準備に取り掛かる
引き出しを開けると大量の小瓶が入ってる
零冶「ついさっきの記憶なら…1番軽いので大丈夫か…」
"realize-01"とラベルに書かれた小瓶を取り出す
零冶「…じゃあコレ頼むわ」
俺は桜月に小瓶を渡す
桜月「どこが合図だ?」
零冶「左手の小指だ」
桜月「小刻みに揺れだしたら?」
零冶「ああ」
桜月「やって欲しい事は、私を見たという記憶の抹消だ」
零冶「わかった、帰還は頼むぞ」
桜月「任せてくれ」
俺は右手に意識を集中させて気絶してる警備員の顔に当てた
零冶「…ダイブ開始」
俺の能力。
和樹と一緒に記憶屋を始めるきっかけになった、能力
それは、人の記憶の中に入り込み、改ざんする能力。
メモリー・ダイブ
名づけたのは和樹だ。
一瞬、視界が暗くなって
周りに無数の扉が現れる
ここは、警備員の記憶の中
そして比較的最近の記憶、すぐに思い出せるような記憶の場所
わかりやすいように俺は第1層と呼んでいる
零冶「さて…」
俺は1番目立つ色の扉を開けた
扉の中にはどこかのビルの通路で桜月と鉢合わせる記憶だった
ガードマン「お前!!何してる!?」
桜月「チッ!」
桜月のパンチが、ガードマンのみぞおちに深く叩き込まれる
そこで記憶は途絶えていた
零冶「さてと…」
要するに、この記憶から桜月という存在を消せばいい
俺は桜月とガードマンが鉢合わせしたところまで記憶を戻す
記憶の桜月に手を当てる
零冶「悪いな、桜月。消させてもらうぞ」
パシュン!と記憶の桜月が消える
念のために記憶を確認してみる
桜月と鉢合わせ、みぞおちを殴られ気を失うという記憶は
普通に廊下を歩き、いきなり気を失うという記憶へと変換された
零冶「戻るか」
メモリー・ダイブの弱点
それは自分だけじゃ現実に戻れない事
俺は左手を見る、小指が無い
体の一部分だけを現実に置いて行く、戻りたい時はその部分で合図する
無い左手の小指を小刻みに動かす、動かすと言っても俺の目には何も映らないが
んで、メモリー・ダイブの最もキツいのがこの先だ
次の瞬間、強烈な臭いが俺の鼻を突いた
視界が炸裂して真っ白になる
零冶「ぐ、げほっ!げほっ…!うぇっ…!!」
桜月「大丈夫か?」
零冶「ぐぅ…ああ、大丈夫だ…!」
メモリー・ダイブとはつまり、"精神"を他者の記憶の中に飛ばす能力
だけど、精神を現実に戻すには
現実に置いてある俺の"肉体"に強烈な衝撃を与えて強引に引き戻す必要がある
今回は第1層だったので強烈な臭いだけで戻ってこれたが…
やはり、これでもキツい…
桜月「凄い臭いだな…この小瓶の液体は一体何なんだ…」
零冶「腐らせたガマガエルと、カメムシと…」
桜月「いや、もういい、私が悪かった」
零冶「ぐぅ…報酬はちゃんともらうぞ…」
桜月「明日ちゃんと渡す、私はこいつを元の場所へ戻してくる」
零冶「約束だぞ…!!」
桜月はそいつをまた袋に押し込んで担いで出て行った
あの細い体のどこにそんな力が…!
そんな事を考えつつも頭がクラクラして俺は倒れるようにそこで眠ってしまった…
加奈「何変なとこで寝てるんですかー、踏むとこだったじゃないですか」
加奈「…何か臭い」
加奈「起きてくださいよー!えいっ!!」
ドスン!と腹部に重い物が乗せられた
零冶「ごふっ!!!」
加奈「おはようございまーす」
零冶「何を乗せた…」
俺の腹にはダルマが乗っていた
金属製の強烈に重い上に
何だかよくわからないぐらいデフォルメされたダルマと言われなければわからないようなダルマが…
加奈「全く、何で床で寝てるんですか風邪引きますよ」
俺はダルマをどけて、ケラケラ笑う加奈を尻目に寝なおそうとした
加奈「寝ないで下さいって!!」
零冶「9時まで~…」
加奈「今は9時10分です!!」
メモリー・ダイブの欠点
異常なほど体力を消耗する、おかげで俺の体調は最悪に近い
和樹「おはよー」
加奈「高野さ~ん…零冶君が起きません…!」
和樹「んん…?」
やばい、もし俺がメモリー・ダイブをこっそり使った事がバレたらヤバい
起きないとヤバい、こいつにはすぐバレるはずだ
無理矢理体を起こす
零冶「わかった…起きるよ…」
和樹「…ん~?」
零冶「…何だよ」
和樹「…いや」
よかった、バレてねーや
桜月「おはよう」
和樹「よぅ、桜月、珍しいなお前が朝から来るなんて」
加奈「おはようございまーす」
桜月「零冶は?」
和樹「そこに幽霊みたいな顔で座ってるだろ、あ、加奈ちゃんコーヒー頼むよ」
加奈「はーい」
零冶「…俺も」
加奈「桜月さんもいりますか?」
桜月「もらおうか」
加奈のコーヒーはまずくはない
が、どうにも甘すぎる
和樹は「甘いほうが疲れが取れる」とお気に入りのようだが…
桜月「零冶、行くぞ」
零冶「は?」
コーヒーを飲みながら、桜月がそう言った
桜月「昨日、私に客引きのやり方を教えろと言っただろう?」
あ、そういう事か
零冶「ああ…言ったな」
和樹「…何だ?ずいぶん熱心だな零冶」
加奈「やっとやる気になったんですねー」
桜月「というわけでちょっと言ってくるぞ、高野」
零冶「行ってくるわ」
和樹「…ああ…行ってらっしゃい…」
加奈「頑張ってくださいね~!」
よし、上手い具合に抜け出せた
後は報酬をもらえば万事うまくいく
零冶「で、報酬は?」
桜月「ほら」
桜月は俺に1枚の紙を渡してきた
何か色々と書いてある
1、顔で見極める
2、人生相談
3、誘導尋問...etc...etc...
何だ、これ
零冶「いや、何これ?」
桜月「客引きの方法だよ」
零冶「いや…報酬」
桜月「それだよ」
零冶「ああ、これが報酬…っておい!!」
桜月「客を大量に呼び込めれば給料が増える、お前も嬉しい、私も嬉しい、お互い損は無い」
零冶「いや、それは何か違うだろ!個人的な報酬だって言っただろ!!」
桜月「だから個人的に教えてやったじゃないか、それじゃ私は行くから客引き頑張れよ」
零冶「ちょ、ちょ、ちょっと待て!!ってもういねぇ!!」
俺に残されたのは
1枚の紙切れと全身にのしかかる疲労感だけだった
零冶「また…ここで座って…1日を終えるのか…やって…らんねぇ…」
Act.1
記憶屋仕事ファイル
01.依頼者:野中正俊(会社社長)
依頼内容:重要書類を入れた金庫の番号を思い出させて欲しい
結果:高野の逆行催眠により解決
02.依頼者:桜月
依頼内容:盗みに入った自分の記憶をガードマンより消去して欲しい
結果:零冶のメモリー・ダイブにより解決
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最終更新:2009年10月31日 19:08