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コワレユクセカイノカミ2章【修羅】




半ば崩壊したデパートの屋上。
剥き出しになった鉄骨の上にその男はいた。
黒いローブを風になびかせ、空に浮かぶ巨大な鉄の要塞を睨み付ける。
空中要塞フィラディルフィア。教会の移動する本拠地。
その時、階段を駆け上がる足音が男の背後から響いた。
男は銃を取り出し、鉄骨を蹴り、宙に舞った。
頭から地面に垂直落下する男の視界に階段を上がる兵士の姿が見えた。
落下しながら放たれた銃弾は狙いを外すことなく、その1発が1発が兵士を命の終点へと誘った。
同時に下から、壁を駆け上ってくる者がいた。
赤い髪の女。
それが垂直な壁を重力に逆らい駆け上がってきていた。
手に、赤い剣を持って。
視線が交錯する。
刹那、赤い剣は男に向かって振りぬかれた。
銃で弾き返すもその衝撃で男は壁に叩きつけられる。
壁に穴が開いた、そして男はまた宙へと投げ出される。
男は背中から剣を取り出し、それを壁に突きたて落下を食い止める。
それを足場にして、男は上を見上げた。
穴から身を乗り出して覗いていた赤い髪の女の顔が見えた。
1発の銃撃。
男は真上に銃弾を放った。
赤い髪の女は僅かに動く、銃弾が頬を掠め、一筋の血が流れ出す。
その瞬間、男は壁を叩き壊し、その姿をくらませた。

女は特に追う素振りも見せずに頬から流れる血を指で拭った。
「ユダ…アンタは愚かだね…」


――この地球自体も神にとっての玩具だとしたら?――

空に浮かぶ要塞。
その頂点に彼はいた。
椅子に深く座り、強化ガラス越しに超高度の空を眺めていた。

ジジッというノイズが聞こえて、声が部屋に響いた。
「アルファイの子がユダに接触したようです」

それを聞いて彼は言った。
「望むままにすればいい」

そして彼は目を瞑った。

「…誰か私に教えてはくれないだろうか…
 神のいない世界に真の秩序をもたらすのは何なのかを…」



――13の階段を歩む人は14段目を信じるのか?――

暖かい…
凍てついた心を溶かすような暖かさが身体を巡る。
瞑っていた目を開くと、信じられない光景が目に飛び込んだ。
俺の手を握った少女の顔…顔しか見えない。
状況が理解できずに混乱する頭にさらに追加で理解できない状況が舞い込んだ。

唇が、触れた。

「――!?」

そこで俺の頭は完全に思考を止めた。
同時に何かが口の中に入ってくるのを感じる。
血の味がした。
咄嗟に俺は少女を突き飛ばした。

「きゃっ」
「何を…」
「分けてあげたの、私の血を」
「…血?」

口の中には確かに血の味が残っていた。

「なんのために…そんな…」

1から10まで完全に理解ができない。
血を分ける?キス?この状況で?

「いや…なんでそんなことをしたのか…」
「動くな!!!」

突然響いた大声に慌てて後ろを振り向く。
そこには銃を構えた教会の兵士がいた。
状況を把握する間もなく次から次へと災難が舞い込んでくる。
すると次に後ろから小声で少女の声が聞こえた。

「大丈夫よ」

何が大丈夫なのか、この絶体絶命の状況で。
少女は続けた

「殺すだけなら私達に自分の存在を気づかせる必要は無い。
 あの人は私達を殺せない理由があるか、殺すのを躊躇っているの。」

なるほど、だがどちらにせよ絶体絶命の状況には変わりが無い。

「だから今なら貴方の勝ち。
 その懐にある道具を相手に向けて引き金を引くだけで終わるわ。」

そうだ、俺は武器を持っている。
ローブの男から渡された、武器を。
だが…俺に…撃てるのか?
そうしてるうちに兵士は言った。

「すまねぇ…だけど見つけちまった以上
 ここでお前らを殺さないと俺が裏切り者と処刑されちまう…」

…ああ、そうか。
怖いんだ、だから従うんだ。
みんな…怖いから…
俺も…怖いから…

「足掻きなさい」


――人の命を奪う罪を、壊れた世界で誰が裁く?――

自分の命を守り抜くために他者を殺すことを許される世界。
自分が助かるためなら何を蹴落としてもかまわない。
ならば、その世界こそ紛れも無い


――地獄だろう――

心臓が、跳ねた

吐き気がするほどに全身が熱い

全身の皮膚を突き破り自分の中で何かが蠢く感覚を感じた

俺は、何だ?

世界が、フェードアウトする。

闇が、赤い闇が来る。

ここは地獄。

俺達は生きながら地獄に落ちた。

ならば、俺は。俺は。俺は。俺は。俺は。俺はぁああああああああ!!!

頭蓋骨の中で響くかのような絶叫の端に小さな声が聞こえた。

「覚醒めた…」

ここが地獄なら。人はいずれ死ぬ。
地獄で生き残れるのは、地獄の住人だけ。


――ならば、俺は修羅になろう――





男は瓦礫に倒れていた。
その身体から血を流して。

「手間をかけさせてくれたわね、ユダ。」

赤い髪の女は倒れた男――ユダに話しかけた。
その手に携えた剣は血に染まっていた。

「ねぇ今ならまだ間に合う
 戻っておいで、アンタはイイ男だ。
 死ぬのは惜しい。」

ユダは表情を変えない。
赤い髪の女は続けた。

「…そうかい…それじゃあさよならだ」

剣が振り上げられた。

「裏切りの罪を、私が断罪してあげる」

剣が振り下ろされる。
それは首を斬り落とすためだけに振り下ろされた処刑の刃。

「断罪されるのはお前だよ」

乾いた音と同時に血が飛び散った。
赤い髪の女の服に血が滲む。

「な…!?」

僅かに、剣の軌道が逸れた
剣は地面に突き刺さる。

「…これでいいのか?ミカ」
「上等よ」

赤い髪の女が唸る。

「きさ、ま…」

その声は"憎悪"の塊。
だがすぐに声は消え、女は地に伏した。

「これで貴方は力を得た借りを返したわ、もう何にも縛られない」



――優しい思い出なんかいらない、必要なのは戦う力――

「…慣れないうちは撃つなら頭じゃなくて心臓を狙え…
 ちゃんと守れたじゃない」

後ろをついて歩くミカが言った。

「頭を狙った場合外せば終わり。
 心臓なら外しても他の部位に当たって次の可能性を繋げる…だろ」

そう、最初の兵士を撃った後、教えられた。
そして少女は自分をミカと名乗った。

「それでこれからどうするの?」

「さぁな、だけどもう俺は躊躇わない。」

言うが早いか、俺は正面に見えた兵士を撃った。
兵士はあっけなく倒れた。

「…手が痛いな」

「当たり前よ、銃の反動を甘くみないで
 だいたい構え方がおかしいわ」

「お、おい…」

ミカは俺の手を取って構え方を教える。
顔が…近い。

「どうしたの?」

「いや…こういうの…慣れてないから…」

心臓の鼓動が早い。
必死に平静を取り繕っていると後ろから声が聞こえた。

「お前ら誰――がぁっ!!

反射的に撃ってしまった。
教会の兵士だった。

「人を殺すのには慣れたみたいね、大した適応力だわ」

一人殺せば何人殺そうと一緒。
その言葉の意味がなんとなく理解できた。

「…そういえば弾は大丈夫かしら」

言われてみればそうだ、銃は弾があって初めてちゃんとした武器として機能する。
だがここは元々日本だ、都合よくその辺に弾が落ちているはずはない。

「ちょうどいいわ、この兵士の持ってる武器を全部もらいましょう」
「容赦ねぇな」
「地獄で"容赦"という概念が通せると思う?」
「…無理だな」

結局、俺達は死体から武器だけじゃなく食料なども奪える物はすべて奪った。

「しかし思った以上に兵士がうろついてるな。」
「…どうやら、手負いの獣もいるみたいね…」
「何?」

後ろから瓦礫が崩れる音がした。

「よくも…この私を…」

そこには、赤い髪の女がいた。
服すらも流れた血に染まり、それは真紅の鬼女。

「…かなり驚いたが…その傷でやれば死ぬだけだぞ」
「ふっ…ざけるなぁ!!私は…私は…アルファイの子…12使徒の1人!!
 この私が…貴様のような下衆に…!!!」

「12使徒…」

後ろでミカが呟いた。
なんのことかは知らなかったが、目の前の殺気から目が離せない。

「下衆が下衆が下衆が下衆が下衆がッ!!!!
 ギリギリまで殺さずに肉片を抉り取ってやる!!!
 見るがいい!!これが使徒の!!神に選ばれた者の力だ!!」

「撃ちなさい!早く!」

ミカが叫んだ
状況が把握できずにいるがその剣幕に圧された俺は赤い髪の女へと銃弾を放った。
弾丸は、頭を捕らえていた。



――風は止まない――

黒いローブの男が痛む体を引きずって歩いていた。
赤い髪の女は自分など見えていないかのように怨言を呟きながら去っていった。
それだけならよかったが、男は感じていた
大気を震わす、何かの力を。

「…イライラするぜ、クソ」

「動くな!」

男の前に現れた6人の教会の兵士。

「…貴様、ユダだな?
 話は聞いている、我々と来――」

喋り終わる前に、その眉間を1発の銃弾が撃ち抜いた。

「…俺は今機嫌が悪い、そこをどけ」

「貴様!!撃て!!」

男の目に怒りが宿った。

「後悔するぞ、雑兵が…」


――人の命は本当に尊い物なのだろうか――

信じられない現象とでも言えばいいのか。
赤い髪の女を中心に兵士たちが宙を舞う。
まるで洗濯機の中で回る洗濯物のようにグルグルと。

「どいつもこいつも下衆野郎だッ!!!
 だから私が使ってやる!!絞りカスのようなクソみたいな奴らでも私の役に立つ事を証明しろ!!」

俺の放った銃弾は確かに赤い髪の女の頭をとらえていた。
だがその銃弾はまるで何かに引きずられるように飛び出してきた兵士の身体に命中した。

「さぁ行くよ、下衆野郎…!!!」

刹那、女の周りを回転する兵士の死体が一つ、俺の方向へ飛んできた。
避ける暇も与えてくれないほど、速く。

「がぁっ!?」

馬鹿げてる。
こいつは人間じゃない。

「撃ちなさい!少しでもいいから気を逸らすのよ!」

ミカが叫ぶ。

「くそったれぇ!!」

手当たり次第に乱射する。
当たってるか当たってないかなんてどうでもいい。

「甘いッ!!!」

だが俺の放った弾丸は全て死体に阻まれる。
死体の防壁。打ち破ることが出来なかった。
俺には理解できた、勝てない。
絶望からくる諦め、それが銃を俺の手から落とした。

「そうだ!!私を傷つけたことを後悔して後悔して後悔して絶望に飲まれて悔いて死ね!!」

俺の目に映ったのは、一斉に空を飛んでくる死の大群。
まるで自分たちの仲間を増やそうとしているかのような、亡者の大群。
きっと俺は死体に押し潰されて潰れちまう。
人を捨てたのに…あっけないもんだな…

「この瞬間を待っていた。」

ローブの男の声が聞こえた。
黒い風が、吹いた。

「啼け、ルインズインファント」

突き出された剣は、赤い髪の女を斬り抜いた。

「あっ…ああああっ…」

空を舞う死は、慣性の法則を無視したように、垂直に地面に落ちた。
つまり、俺は助かった。
ローブの男に助けられたのだ。
男は言った。

「お前の怒りが、俺を生かし、このチャンスを作った」
「ユゥダァアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「無駄だよ、知ってるだろ
 俺のこの剣は…ルインズインファントは滅殺の剣…」

風が、吹いてる。
大きな音を立てて、風が吹く。

「フッ…ハハハ…アッハハハハハ…」

赤い髪の女が堰を切ったように笑い出した。
その声は確かな狂気を浮かべていた。



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最終更新:2009年10月31日 19:17