※2件目より4日後、5日目
翌日、ゆき兄の何でも屋アパート。
相変わらず噂という実態の無い物の根源を探す作業にうんざりしてた。
そろそろ昼飯でも食おうかなと思っていた。
電話が鳴る、高橋からだった。
「もしもし?」
「いい話と悪い話、どっちから聞きたい?」
「いい話から」
「恐らく、捜査が一気に進む可能性がある」
「悪い話ってのは?」
「3人目の犠牲者だ」
「…」
「詳しいことはこっちで話すから急いでこい」
高橋から場所を聞き、俺はさっさと向かうことにした。
犠牲者が出たのは…まぁ残念だが、犯行が重なるほど犯人に近づく確立は上がる。
確かにチャンスではある。
現場は警察によって封鎖されていたので少し離れた場所で高橋と落ち合うことにした。
「どうだ?」
「犠牲者は警察官らしいな…名前は透過」
「警察官が襲われたってか、それで持ち去られたのはどこだ?」
「左足らしい」
「これで右手、右足、左足…か」
「襲われた時間はまだはっきりとはしてないが、恐らくこの近辺を深夜パトロール中に襲われたらしい」
「なるほどね」
「それとな、切断された左足だが…見つかったそうだ」
「…なんだと?」
「少し離れた場所の道端に無造作に置いて…
いや、捨ててあったそうだ、それを近所の住人が見つけて警察に連絡し付近を捜索した所、死体を発見したそうだ」
「…手足にここまで強烈な執着を持つ犯人がわざわざ切断した手足を捨てて逃走しただと…?」
「何らかのアクシデントがあったか…それならばきっと手掛かりが残っている可能性も高い」
「…もう少し詳しい情報が欲しいな…」
同時刻、事件現場
「…やはり後頭部に裂傷がありますね…」
「気を失わせて人目のつかない草むらに連れ込み左足を切断か…」
「警察にまで手をかけるとは…」
「しかし今回に限ってなぜ切断した足を犯人は捨て置いたんだ?」
ほろにが刑事は煙草を吸いながら今回の事件について考えていた。
今回はわざわざ切断した足を捨てていくという前の犯行からは考えられない行動を犯人はしている。
「ほろにが君」
「警視…」
いつの間にかほろにが刑事の後ろには白やん警視がいた。
「切断した足を捨て置いた、君はどう考える?」
「犯人になんらかのアクシデントが起こった…とでも言っておきましょう」
「ああ…まぁ普通に考えればそうだが…」
白やん警視は煙草に火をつけた。
「殺さずに生かした状態で手足を切り取る…どんなアクシデントが起きてもおかしくないというのに
それをあえて実行する犯人が多少のアクシデントで苦労して手に入れた足を捨てると思うかい?」
「…警視はどのようにお考えですか?」
「確かに犯人にてっと予想外のアクシデントが起きて足を捨て置いたという考えもある
だが…持ち去る途中で興味を失い、捨てたという考え方はどうかな?」
「それはどういうことで…?」
「仮説だが…我々は今まで犯人が手足を持ち去るのには何らかの意味があり、目的があると思っていた。
だが犯人の目的は手足を切断することだけ…手足を持ち帰るのはついでのような物ではないかとな…」
「ついで…?」
「自己顕示欲…己が犯行だと世間に知らしめるために…」
「…」
「…まぁそんなことは犯人を捕まえればわかることだ
それにこれはチャンスだからな、犯人は現場に重要な証拠とも言えるものを残したんだからな」
「…」
少し離れた場所でゆき兄・高橋・もう1人大柄な警察官が話していた。
「ふむふむ、いつも情報流してくれてサンキューな、腹筋」
「バレたらクビだぜw」
「まぁとりあえず今はこんなもんか…
もっと詳しいことがわかったらまた連絡してくれ」
「ああ、わかった」
「クビになったらうちで雇ってやるよ」
「遠慮しとくぜ」
腹筋は現場に戻っていった。
「よし、とりあえず一旦戻るぞ」
「了解した」
俺と高橋はアパートに戻ることにした。
その時、向こうから刑事っぽい人と若い男が歩いてきてすれ違った。
俺は白やん警視と足が捨て置かれた地点を見に行くことにした。
向こうから若い男が2人歩いている。事件現場近くってのに呑気なもんだ。
すれ違う瞬間、片方の男の顔を見て俺は思わず振り返った。
「…どうかしたのか?ほろにが君?」
「…いえ、気のせいです…何でもありません…」
気のせいだ、あいつなわけがない。
他人の空似だ、そうに違いない…
同日。蝶の家。
何よりも驚いたのは僕だった。
昨日の夜、僕と出会った警察官が殺されている。
3件目の事件が起きたのは噂で聞いていた。
だが家に帰ってニュースを見るまでそれがあの警察官だとは知らなかった。
ならばあの時、やはり近くにいたのではないだろうか怪人ディスメンバーが…
…もしかしたら3人目の犠牲者は僕だったのかもしれない…
そう思うと気分が悪くなった。
同日、何でも屋アパート。
「なぁゆき兄」
「どうした?」
唐突に高橋が俺に話を振って来た。
「俺たち、この事件は手足に異常な執着を持つ犯人が無差別に手足を切断していると思っていたけど
そうじゃないとしたら?」
「待て、それを考えると話が堂々巡りするんだよ」
「まぁ聞けよ、もしこれが…儀式殺人としたら?」
「儀式殺人?」
「これを見てくれ」
高橋は古そうな本を俺の目の前に置くとパラパラとめくり出した。
「これは…?」
「古くからこの辺り根付く土着信仰についてまとめられた本だ…ほらここだ」
「…古くから手や足は神聖視される事が多い…
中でもこの近辺ではそれこそ異常とも思えるほどの手足信仰が多い…
しかし今ではその手足への信仰が語られることはない。
理由はその信仰自体が外法として語られる程、筆舌に尽くしがたい非人道的行為の上に成り立っていた可能性があるからである…
まだ科学などが発達していない時代、儀式で神に生贄を捧げるという行為は世界中あらゆる場所で当然のように行われていた…
勿論この手足信仰も生贄を捧げていた、問題なのはその凄惨極まりない殺し方だった。
国外からあらゆる技術などが流れて来るとこの残酷な儀式の上に成り立っていた信仰は廃れていき。
外法とされ、誰にも語られることなくいつしか消えていった…か」
「…どう思う?」
「…うん…そうだな…どうせ腹筋から連絡が来るまでは特に動くこともない…
片手間程度にこちらも調べて見るか…」
俺は携帯に手をかけた。
「誰に連絡してるんだ?」
「こういうの好きな奴がいるんだよ」
幸い連絡はすぐについた。
俺と高橋は車である場所に向かった。
同日、某大学。
「変わり者だからな、わざわざボロいほうの建物の中に部屋を作ってる。
まぁ俺も木造は嫌いじゃないがな。」
「ふーん…」
古めかしいドアをノックする。
「どーぞー」
ドアを開けて中に入る。
「よぉ、ピュア様、久しぶり」
「ういーす」
「まぁ世間話でもしたいところだが、そうもいかなくてな
電話でも言ったけど、この辺りの封印された手足信仰って奴を教えてくれないか?」
「おい、ゆき兄、説明ぐらいしろよ、この人誰だよ」
「ん、ああ、この人はな、ピュアハート様っつってなオカルト好きが高じて民俗学とかの教授になった変り種だw」
「変り種は余計だ」
「はいはい、それで手足信仰について教えてくれよ」
「ちょっと待ってろ、確か本が…」
ピュア様は部屋の奥のほうの本のジャングルとでも言う場所に潜っていった。
俺たちは椅子に座ってぼーっと待っていた。
「何を考えている?事件のことか?」
また唐突に高橋が話しかけてきた。
「いや、何も考えてねぇよ、休める時に休むのは脳も一緒だ」
「そりゃそうだな」
その時、本の山が崩れた。
轟音と立てて雪崩のように崩れ落ちる本。
残骸と化した本の山の中からピュア様が1冊の本を抱えて現れた。
「あったあった」
「…ご苦労さん」
「よし、こっちきな」
言われた通り、ピュア様の近くに行く
「この本は、古くからある家の蔵から出てきた奴でな、封印されちまった手足信仰について書かれてあった。
昔の人は信心深いからな、手足信仰が外法とされた時点で関わる物は全て焼き捨てちまったんだろうが
この本は忘れられていたみたいだな」
「ふむ、それで肝心の内容は?」
「ああ…古くから手足には神が宿るとされていて日本各地に手足の神というのは沢山いる
民俗学図録にも手足の神ってのは記されている。様々な手や足を象った物が積み重ったその姿は多くの人が崇めていたと言われている。
だがこの付近の手足の神は特殊だ。この図を見ろ。」
「…なんだこれ、肉の塊か?」
「馬鹿、よく見ろ、これが頭だ
四肢がない人間の姿だ。」
すぐさま高橋がツッコミを入れた。
間髪いれずにピュア様が続ける
「そうだ、ここいらの手足の神には手足の神というのに手足が無いんだ
最も重要なものが無いんだ」
「何故?」
「理由は…ここからは仮説になるが、この手足信仰が奉った神というのは悪神だったのではないかってことだ」
「つまり神格と失った神が最も重要な物を奪われ悪神となった、昔の人はそれを奉ったってことか?」
「ああ…お前もわかるだろ?この街はなぜか闇に惹かれる人間が多いってことを?
土地的なものが関係していたのかどうかは知らないが…」
「…続きを」
「手足を失った神に手足を捧げることで町…いや、村を守ってもらう…
それがこの辺りの封印された信仰だ」
「…手足か」
「だがその程度で外法とされればこの世は外法で溢れかえる。
外法とされるには理由があったんだ。それがこの…」
ピュア様は凄い勢いで本をめくり出した。
「ここだ、裂手裂足(さきしゅさきそく)ノ儀…」
「どんな儀式だったんだ…?」
「贄は老若男女問わず、儀式を取り仕切る者は【手足ノ長(しゅそくのおさ)】とされ長が無作為に生贄を選ぶ
生贄に選ばれた者はすぐさま取り押さえられ、その場で長の神刀によって四肢のいずれかを切断される。
切断された後、生贄は治療を受けることは許されず失血死に至るまで押さえつけられられる。
切断された四肢は長に持ち帰られ、神酒で清められた保管され1年に1度の祭りの際に右手、右足、左手、左足を揃えて神に捧げられる」
「…なるほどな…」
「つまり1年に4人、確実に生贄になっていたらしい」
「ゆき兄…どうやらアタリかもしれないな…」
「そうだな…この線、当たりかもしれないな」
「役に立ったか?」
「ああ、ありがとよ、ピュア様」
俺と高橋はピュア様に礼を言った。
「実はまだこの手足信仰は俺も調べてる最中でな、また何かわかったら連絡いれる」
「ありがとな、ピュア様、ほんじゃ俺らは行くから」
「あいよ、またな」
「しかしわからんのはこれだけで外法とされるには…
確かに生贄の殺害は残虐だがこれだけで外法とするには…」
ピュア様はまだ何かをブツブツ言っていたが邪魔したら悪そうなので俺たちはさっさと帰ることにした。
帰り際、車の中で高橋が言った。
「今回の事件はやはり儀式殺人か?」
「恐らく…裂手裂足ノ儀を現代で実行した大馬鹿野郎の可能性がある」
「しかし3件目がわからない、裂手裂足ノ儀を模倣したなら切断した部分は確実に持ち帰る必要があったんじゃないのか?」
「ああ…そうだな…」
「しかし儀式殺人といってもなぜ封印された信仰を今さら…?」
「さぁな…犯人にとって何かの意味を持っている…それしかわからないな」
「…」
「しかし手掛かりがあったと思ったら大した手掛かりにもなってねぇなぁ
儀式を模倣したなら事件の起こる日とかに被害者に法則性があってもいいのに
裂手裂足ノ儀は全部手足ノ長の気分次第で被害者もアトランダムに決められるってんだもんな」
「ただ1つだけ確実なことがあるじゃないか、まぁもう誰もが予想はついてると思うけどな」
「ああ、わかってる」
「「左手の裂手裂足ノ儀はまだ行われていない」」
同日、警察署内。
「今回殺害された透過巡査は…深夜のパトロール中に後ろから後頭部を殴打され昏倒…
その後、草むらに引きずられそこで左足を切断されたようです…
ですが前回、前々回の事件と違って1つだけ違うところが…
透過巡査は後頭部への1撃の時点ですでに絶命していた可能性が高いと…」
「どういうことだ?」
ほろにが刑事が聞き返した。
「ええ、後頭部を殴打され地面に倒れた際に首の骨を損傷したらしく…
今までと違い足を切断される時点ですでに死亡していたと…」
「…」
ほろにが刑事は考えていた。
すでに絶命していた…ならばそれが足を捨て置いた理由ではないのか…
あくまでも生きた人間の四肢を切り落とすことに犯人は固執しているとでもいうのか?
切り落とす最中にすでに透過巡査が絶命してることに気が付いた…
とりあえず左足を切り落としたものの死体から切断した足にはやはり興味が沸かなく捨てた…そういうことか?
考えながら廊下を歩いていると前から白やん警視が疲れ顔で歩いてくるのが見えた。
「ご苦労様です」
「全く、警官が1人死んだぐらいでマスコミの奴らもギャアギャア騒いでいるよ」
「…警視…そんな言い方は…」
「…いや、すまないな、私も透過巡査については遺憾に思っているよ」
「…では失礼します」
ほろにが刑事が去った後
白やん警視は呟いた。
「残りは左手か…」
同日、夜、ラーメン屋。
腹が減ったので高橋とラーメンでも食うことにした。
ちなみに店主はアニキこと神楽君という俺の知り合いだ。
「あー、アニキのラーメンうまいよー…なぁ?高橋?うまいだろ?」
「…本当だ…うめぇ…」
「ダシが違うから…」
「何のダシ?」
「イャンクック…」
「なるほどね、そらうまいわなぁ」
「え?そこスルーするとこなの?」
こういうノリに慣れてない高橋が野暮な突っ込みを入れる。
こいつもまだまだだなぁ。
しかしメニューのフルフル餃子ってなんなんだろう、ちょっと食ってみたい気もする。
隅に置かれた小さいテレビからニュースが流れていた。
最近のニュースっていえば今俺たちが追ってる連続四肢切断殺傷事件ばっかりだ。
今回警察官が殺されてマスコミの報道もヒートアップしている。
「…ということで、被害者の透過さんは左足を切断される前にはすでに絶命していたと警察は発表…遺族は…」
パキリと力を込め過ぎて割り箸が折れた。
そっと高橋に耳打ちした。
「裂手裂足ノ儀は生者から手足を切り取る…死者から切り落とした物では駄目…そう考えられないか?」
「…確かに…ありうる、だから犯人は切断した左足を捨て置いた?」
「…と、なるとだ…これが儀式殺人なら犯人はまだ右手と右足しか手に入れてない…」
「あと2人殺される…?」
「レイアニラ炒めお待ちー」
突然アニキが目の前に何かを出してきた。
どうみてもレバニラ炒めだった。
「レイアニラ炒め…うーん…苦しいね…
っていうか頼んでないよ?」
「さーびす」
「そりゃありがとう…」
けっこう腹は膨れていたのだがサービスのレイアニラ炒めを食べた。
おいしかった。
アニキのラーメン屋を出る。
「…そろそろ連絡入れておくかな…」
「誰にだ?」
「依頼人」
「ああ…」
電話をかける。
携帯ってもんが普及して連絡を取るのが容易になったもんだなぁと実感する。
「…もしもし」
「こんばんわ、何でも屋です」
「見つかったんですか!?」
「いいや、まだです…でも安心して欲しい、着々と近づいてはいる」
「…そうですか」
「…全力を尽くしてますよ、ルール3…それがどんな依頼であろうと絶対に達成する、守るから」
「お願いします…あ、そうだ、ちょっと言っておきたいことが…」
「ん?」
「3件目の被害者…の警察官の…透過さんでしたっけ…
僕、あの人が殺される寸前に合ってるんです」
「…何だって?」
「あの日、あの辺りをウロついてて…出会って家に帰されただけですけど…」
「何でウロついてたんだ?」
「…怪人ディスメンバーに会おうと思って」
「…気持ちわかる、だけどな、向こうが話を聞いてくれるとは限らないんだ」
「ええ…わかってます…今後はそういう行動はしません…」
「ああ…それじゃ吉報を待っててくれよ」
「はい…」
俺は電話を切った。
「…そろそろ警察が囮捜査でも始めるかもしれないな…」
「…警察が先に捕まえちまうと依頼人に会わせることができないぞ」
「かと言って、昨日の今日で犯行を起こすとは考えられない」
「…最初の事件、外道の死体は発見されて死後5日が経過していた
次の事件のショックが殺されたのが外道の発見から1週間後、外道が殺されたのから12日後だ。
3件目が4日後。昨日から今日にかけてだ。」
「加速的に早まってるな…犯人は調子に乗ってるのかそれとも焦っているのか…?」
「どうする?」
「しょうがない、どうせやることも無いしな…とりあえず人気の無い場所でもうろついてみるか?
駄目で元々だ」
「そうだな、帰って寝るよりかは幾分か生産的だろう」
深夜、某ホストクラブ。
「それでね、あのスケベオヤジがねーちょっと聞いてるー?黒やん?」
「ああ、聞いてますよ、それで?」
本当は全く聞いてない、どうして女の愚痴ってやつはこう長いんだ。
「…でね、そのオヤジ、朝家を出たら血の匂いがするとか言って、娘に…っていって殴られたとか馬鹿だよねー!」
「本当に馬鹿だね、でもその血の匂いって何だったんだろうね?」
「えー?酔っ払いがこけて血でも流したんじゃないー?w」
「その話、もっと詳しく聞かせてくれない?」
「え、うん、いいよー…えーとね…」
※2件目より5日後、6日目
翌日、早朝。
「眠い、帰りたい、足疲れた、眠い…
こんなんだったら帰って寝て今日の鋭気を養ったほうがよっぽど生産的だよ!」
「…結局、何も無かったな…」
「…まぁ実際、2日連続で事件起こす奴なんていねーよな…」
携帯が鳴った。
誰からだ…腹筋?
「もしもし?」
「腕が見つかった」
「なんだと…?まさか4人目の犠牲者ってことか?」
2日連続で事件を起こす奴が本当にいたってことかよ
ありえねぇだろ。
「いや…それが…右腕なんだ…切断されておおかた5日ぐらいの…」
「ちょっと待て…それってまさか…」
「ああ…ショックの切断された右腕だ」
「高橋すぐに出ろ!!腹筋!場所はどこだ!!!」
場所を聞きすぐさま電話を切って右腕が発見された場所に向かう。
寝てる場合じゃない。
クソ、右腕だと?ショックは生きたまま切断されてたんだろ?
だったらなぜ右腕が捨てられるんだ?
儀式殺人でも手足の執着でも何でもなくただ殺してるだけなのか!?
わからねぇ、犯人の考えが全く読めねぇ…!
現場についたがいつも通り少し離れた場所に止めて腹筋からのコンタクトを待つことにした。
「…ゆき兄」
「わかってるよ…透過の時の犯行は切断前に絶命したから足を捨てたというので説明がつくが
ショックの場合はなぜ右腕が捨てられたのか全く説明がつかない」
「…こうなると外道の切断された右足もどこかに捨てられている可能性が…」
「…となると儀式殺人でも何でもない…犯人は手足に執着があるんじゃなく手足を切断することに異常な執着を持ってるってことか?」
「…お、腹筋だ」
向こうから腹筋がコソコソとしながらも自然にこちらに歩いてくるのが見えた。
「どうだ?」
「ああ、やっぱりショックの右腕だ」
「…ショックが殺害された場所から随分遠い場所だな…」
「だから今まで発見されなかったんだろうな…腕は茂みの中に無造作に転がってたらしい
犬の散歩中の人が犬が騒ぐからなんだろうと思って見たら偶然あったんだとよ」
「…わかった…ありがとう…腕から犯人特定の証拠となるようなものは出そうか?」
「今やってるが…恐らくでねぇだろうな…」
「だろうな…」
「じゃあ俺は戻るからな、頑張れよ」
「ああ…」
新たな手掛かりを見つけたと思えば潰されていく。
まるで犯人の掌で踊らされてるようだ。
それか俺たちが勝手に踊っているか…もっと単純に考えればいい話なのではなかろうか…
そう思っているのはゆき兄だけじゃなかった。
ほろにが刑事も同じだった。
「手足を切断して持ち去るという異常性に目を奪われていたが…
実際こうして切断された手足が見つかるということは犯人は手足などどうにも思っていないということなのではないだろうか…
1度思考をリセットして考えたほうがいいのかもしれない…」
「こうなると最初の犠牲者の右足もどこかに捨てられている可能性が高いな」
「警視…」
「人員を総動員してでも最初の犠牲者の右足を見つけ出せ、そこから何か手掛かりが得られる可能性がある
手掛かりが得られずとも遺族の慰めにはなるだろう」
「…わかりました」
同日、キリンメンタルクリニック。
「頼むよ~…眠気覚ましの薬とかくれよ~…適当な診断書書いてさぁ」
「だーめだって…」
「脳がマトモに動かないのに考えごとなんか出きるかよ…」
「ゆき兄に薬やったらオーバードーズするから駄目」
「飲み過ぎねぇから…」
「用はそれだけ?それだけなら早く帰ったほうがいいよ
時間の無駄」
「…手足の切断に異常な執念を燃やす奴が他人の手足を切断するということは?」
「…一種のアポテムノフィリアかな」
「アポテムノフィリア?」
「フェティシズムの一種。自分、もしくは他人の手足が欠損する事に興奮する嗜好を持った人をアポテムノフィリアって言うの」
「自分も入ってんのか」
「重要なのは"欠損する事"に興奮するってこと、つまり欠損した後じゃ駄目なの
欠損していく…そう、切断の過程から結果までがアポテムノフィリアにとって最も興奮する瞬間」
「…その、アポテノムフィリアにとって、切断したあとの手足はどういうものだ?」
「意味のない物でしょうね」
「わかった…じゃあな」
「まぁ、待て待て、ほらお茶だ」
「…お茶よりかは向精神薬とかがいいがな」
「お茶にはカフェインが含まれてるから眠気覚ましにはなるんだよ、ばーか」
お茶をグイグイと飲み干すと俺はさっさと高橋のところに戻ろうと思った。
「あ、もう1つ」
「ん?」
「行き過ぎたアポテムノフィリアは最後には自分の四肢を欠損させる。
それが彼らの終着点なの、他人の手足を欠損させるにはあくまでも過程であり、情報収集に過ぎない」
「…なるほどな…わかったよ、ありがとな」
「どういたしまして」
俺は高橋の所に戻った。
「どうだ?」
「ピースは揃ってる…多分犯人は…だけど決定的な核が無い」
「決定打か…」
「…ん?」
「どうした?」
「携帯が光っててな」
着信履歴があったどうやら朝、腹筋から連絡があったのとほぼ同時にかかってきていたらしい。気が付かなかった。
着信相手は…黒やんか…
かけ直してみる。しばらくコールするも出ない。
負けじと延々とかけ直しコールし続けてみる。
「もしもし?」
「寝てたのに…」
「ああ、悪い悪い…で、どうした?」
「実は…」
しばらく話を聞いた後高橋を叩いた。
「なんだよ」
「行くぞ、決定打があるかもしれない」
「了解っと」
しばらく車を走らせると住宅街に入った。
「ここでいい降りるぞ」
「ショックの右腕が捨てられていた場所と近いな」
「…ここの家の人がな、ある日の朝外に出たら血の匂いがしたって情報がな」
「その日って?」
「3件目、透過が死んだ日だ」
「…」
「犯人は切断に鉈のような物を使った。
力任せに何度も鉈を叩きつけて足を無理やり切断した。そうだろ?」
「ああ」
「足の付け根…太ももは意外と頑丈だからな、何度も何度もやる必要があったろうな
さて問題だ、お前が犯人としてお前の前に被害者が倒れている。
お前はどこからどういう感じで足を切り落とそうと鉈を振り下ろす?」
「そりゃ1番力が入るように…横からだろ」
「ああ、そうだな、何度も何度も叩きつければ血は飛び散る。
太ももには太い血管が通ってるしな。
頭側から切ろうとすれば血は浴びないが力の入り具合のせいでかなりの労力がいる。
つまり足を鉈で切るというなら横から何度も鉈を振り下ろさないといけない
当然、血を浴びることになるのさ。」
「じゃあこの家の人が感じた血の匂いってのは?」
「血まみれの誰か、か、血まみれの何かがここにいた、あるいはあった可能性があるってことだろ」
「屋外で血の匂いがそんなに残るものか?」
「お前、大量出血したことないだろ?」
「ないけど…」
「けっこうこびりつくらしいぜ?」
「そうか…」
「…ビンゴ」
「え?」
「この事件、狂気に駆られたアポテムノフィリアの情報収集ってとこかね」
高橋は俺の目線の先を見た。
一瞬、驚愕していたが、すぐにいつもの冷静な顔になった。
「まだ謎はあるが…まぁ充分だろう」
「…それでどうする?」
「虎を檻に入れるだけ」
同日、深夜。
机の下から重い鞄を取り出した。
中には血塗れの鉈が入ってる。
今日はどこを切り落とすか。
それだけを考え家を出る。
この街の夜は深い、誰もが夜に怯える。
だけどそろそろ警察も本気だろう、獲物は慎重に選ぶべきだ。
切れかけた街灯の下に、女が1人立っていた。
携帯を見ている、こちらには気づいていない。
周囲に人はいない、いいだろう、今日の獲物はお前だ。
前回は最初の段階で殺してしまった、全く最悪なミスだった。
今度はミスはしない、あくまでも生きた状態で切り落とす!
テープを巻いた鉈を持って持ち手で後頭部を思いっきり殴ればいい。
そして僕は鉈を振りかざす。
「…チェックメイト」
何!?
バァン!!という衝撃が走った。
僕はその場に崩れ落ちた。
「おいおい、この改造スタンガン電圧高すぎだろ…」
「ぐっ…」
「やっと会えたな、怪人ディスメンバー、いや、蝶君」
フードを外された。
何でも屋の顔がそこにあった。
「携帯型スタンガン。ちなみに液晶画面は鏡になっててな後ろがチェックできたわけだ。
まぁこんな役は高橋にやらせたかったんだがな…あいつだと女装しても背が高すぎるからな」
「くそっ!」
もう電撃の効果が切れたのか、蝶は飛び掛ってきそうになったがすぐさま高橋が押さえつけた。
「…ちくしょう…」
「全く無駄な遠回りだったぜ…
最初から執着しているのは手足の切断だけってわかってりゃこんな苦労はしなかったんだがな」
「…僕を警察に突き出すのか?」
「しねぇよ、俺の依頼はお前を怪人ディスメンバーに会わせてやるだろ、警察に突き出すまでは言ってねぇ」
「…」
「自分の手足を如何に命を失わずに切断するか、痛みはどれほどか、どれぐらいの出血で絶命するのか
最も被害の少ない切り落とし方は、それらを確かめるためにやってたんだな…」
「…」
「だがその異常性の裏で良心が咎めていたんだな
だから俺に依頼した、そうだろう?」
「ああ…」
「高橋離していいよ」
「いいのか?」
「心を閉ざした奴は暴かれた時は脆いからな、もう抵抗する気力はないよ」
高橋は蝶を離してやった
「…」
「多分これ以上の犯行を重ねることがなければ逃げおおせるぞ」
「…何でも屋…1つ頼みがある」
「なんだ?」
「僕の足を切り落としてくれ!!そうしたら僕は自首する!
足も自分で切り落としたことにする!!」
「駄目だ」
「何でだ!お金なら払うよ!」
「こっから先はもうお前自身の問題だ、お前自身がケリをつけるんだな
行くぜ、高橋」
「うっ…くそぉ…く…そぉ…」
翌日
「いやー、仕事なくてずっと寝てれるって素晴らしいね」
結局昼まで寝てたぜ。
携帯を開くと腹筋から何件か着信が入っていた。
「ああ、もうこっちは解決したって言っておかなくちゃな」
電話をかけながら俺はテレビをつけた。
ニュースが写った。
「続きまして…間岸町で発生している連続四肢切断殺傷事件ですが…」
恐らくもう事件は起こらない。
決定的証拠を握っている人物がいるってだけで蝶は動けないだろう。
心配しなくても恐らくこのまま時効になって人々の記憶からも忘れられるだろうな…
「…4人目の犠牲者は都内某学校に通う学生の蝶…
左足を切断され…」
携帯が落ちた。
ガチャンと音を立てて床を転がる。
「…なんだと…?
どういう…ことだ?」
.
最終更新:2009年11月01日 00:54