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邪眼探偵ゆき兄捜査4【過去と贖罪】


数年前、某所
「…」
「何をしてる?」
「俺の…せいだ…
 俺はわかってたのに…わかってたのに…!!」
「…」
「…契約は…解消する…」
「かまわないけど、いいのか?」
「知ってしまえば…同じ過ちを繰り返すかもしれないから…
 それに…ケジメだよ…」
「そうか…だけど俺はこれからもこの仕事を続けるけどね、じゃあね
 出切ればもう2度と会えないことを祈るよ」



そして時間は現在に戻る。


蝶の事件から3日後。
そうだ、確かに謎は残ってた。
だがそれも些細なこと、犯人がわかった時点でそんな些細なものは捨て置いてしまった。
故に、俺は見逃してはいけないものを見逃した。
だから、依頼人であり、怪人ディスメンバーであった蝶は死んだ。
ならば蝶を殺した犯人は誰か。

「…噂の出所は蝶だと仮定して当たってみたよ…
 恐らく間違いない。噂を流したのは蝶自身だ…」
「…」
「確定ではないが…噂が広まったのは1件目の事件の後だ」
「つまり蝶はコピーキャットだったわけか…
 恐らく1件目の事件、外道が殺された事件が狂気のトリガーを引いたんだろう
 近辺で起こった、自身に眠る願望を直接揺さぶるような異常性を帯びた事件に惹かれたんだろう」
「となると、蝶を殺した犯人は外道を殺した犯人と同一か?」
「だろうな、しかしあまりにもタイミングがよすぎる…」

しばらく無言の時が流れる。

「…ゆき兄、依頼人は死んだ、もうこの事件を追う必要は無いんだぞ」
「…確かにもう会わせてやるっていう依頼は達成できそうにないな」
「じゃあ…」
「だけどな、なんていうかもう意地になってるぜ俺は?」
「やれやれ…」
「犯人を見つけ出してやる、協力してくれるよな?」
「嫌だって言っても無理矢理協力させられるんだろ?」
「ご名答」
「じゃあ…行くか」
「おう!」
「…」
「…」

またしばらく無言の時が流れた。

「どこに行くんだ…?」

高橋のその言葉を聞いて俺は椅子に座りなおした
目をつぶって考えを巡らせていく。

まず1件目、外道の事件。
これは恐らく蝶を殺した真犯人が起こした殺人。
そして切断箇所は右足。切り取られた右足はまだ見つかっては無い。

そして2件目、ショックの事件
これは1件目の事件のコピーキャットとして蝶が起こした…はず
切断箇所は右腕。

続いて3件目、透過の事件。
これは間違いなく蝶の仕業だ。
切断箇所は左足。

そして4件目の蝶が殺された事件。
とりあえず切断されていたのは左足。




「…左足が2本か…」
「俺もそこが気になってた」
「…まぁそれもだが…真犯人は何で蝶を殺したか、だ」
「何でとは?」
「蝶がコピーキャットだと気づいていなかったとしたら簡単に理由がつく
 ただ歩いていたから殺した。それだけだ。
 でももし蝶がコピーキャットだと気づいていたなら放っておけばいい。
 どちらにせよ蝶はいつかは捕まっていた。
 それなら1件目の事件も運がよければ蝶のせいに出来たかもしれないんだぜ?」
「…知らなかっただけだと俺は思うがな」
「まー1番確立が高いのはそれなんだがなぁ…」

同日、警察署内
「…被害者の鞄から出てきた鉈に付着していた血液を分析した結果
 2件目、3件目の被害者の血液と一致しました」
「となると犯人はあの学生だったと」
「ならなんで殺されてるんだよ」
「複数犯だったということは?」
「内輪揉めが起こった?」
「切断されていた左腕は…」

ガヤガヤとうるさい会議室の端でほろにが刑事は考えていた。
サイコパスは群れない。
複数犯というわけではないだろう、仮に接触があったとしても
それは利害の一致であり、恐らく協力などはどちらもしなかったはずだ
接触がなかったとすれば…

「ほろにが君」
「…白やん警視…いつも突然現れますね」
「君が考え事をすると周りに注意がいかなくなるだけさ
 さて、ここにきて事件は急展開だな」
「…ええ」
「だが世間がどう騒ごうとも…私たちの仕事は犯人を捕まえることだけさ」

白やん警視は胸ポケットから煙草を取り出し火を点けた

「そう、周りが騒いで何を言おうとも、行動を決めるのは自分自身
 煙草は身体に悪い、だが煙草を吸うという行動を決めるのは私だ」
「今日はいつになく饒舌ですね」

ほろにが刑事が一言、そう言った。

「そんな日もあるさ」
白やん警視は少し笑って、窓の外を見ながらそう呟いた。


翌日。(高橋視点)
さて、朝起きるとゆき兄がいなかった。
調べ物があるから先に寝てていいよと言われてソファで仮眠を取らせてもらったわけだが
目が覚めると事務所内はもぬけの空だった。
何も言わずにフラッと出て行ってフラッと返ってくる。
前からこういうことはたまにある。
俺は確かに助手だがゆき兄自身は特に俺に命令することはなく
基本的に1人でやろうとするから俺がそれとなく手を貸してやるというスタイルだ。
だからあいつは何か閃いた時など誰にも言わずにとりあえず行動に移す、悪い癖だ。
まぁ、それがいいところであるのかもしれないが…

「…ま、お前は普通のことができないで、普通じゃないことができるんだけどな」

だからこそ普通のことは俺がやってやる
そうしてずっとこの仕事をやってきた

「さ、てと…そんじゃ蝶の事件について詳しく調べてみるかな」


同日(ゆき兄視点)

「で?どうなんだ?」

薄暗くて怪しい物が立ち並ぶ昼でも暗い不気味な店の奥
目の前に並ぶタロットカード。

「愚者の逆位置」
「意味は?」
「軽率、愚考」
「…確かにそうだったんだがよ、言われると意外と凹むなコレ」
「あんまり信じてないくせに」
「いんや、お前の占いだけはなるべく信じるようにしてるよ、桃式占いはよく当たる」
「単なるタロットだけど…」
「気持ちの問題だからな、ついでだこれからの運命を占ってくれよ」
「はいよっと」

机の上にバラバラに散らばるタロットカード。
怪しく揺らめく蝋燭の炎に照らされたそれは運命の扉。

「そのカードだ」

桃花が俺が選んだカードをめくる。

「戦車の正位置」
「意味は?」
「勝利、前進、独立、解放…」
「いいね」
「気持ちの問題でしょ?」
「いい結果だけは無条件で受け入れることにしてるからな」
「…それが1番いいんだけどね」
「じゃあな」
「金払えよ!!」
「その占いが当たったら奮発してやるよ」

俺はさっさとドアを開けて走って逃げた。
後ろから怒号みたいなのが聞こえたが気にしないことにした。

「さ~て…っと、やる気出たしいっちょ頑張るかねぇ…ん?」

パトカーが見えた。
助手席に乗ってる奴に俺は確かに見覚えがあった。

「…あいつもこの事件の担当なのかねぇ…ま、占いを信じると勝つのは俺だ」

同日同時刻同所
「ほろにがさ~ん、いい加減腹減りましたよー何か食いましょうよー」
「…」
「ああ駄目だ…この人こうやって考え出すと何も聞かなくなっちゃうからな…」

考えるには情報が足りない、情報を得るには新しい事件が起こるのを待つしかない
しかし、それではまた新たな犠牲者が出てしまう
刑事、いや、警察の仕事は事件を未然に防ぐことだ…
今はどうにかして情報を稼ぐしかない

そこまで考えた所で不意に窓に写った1人の男
「止めろ!!!」
「え?おぅわぁ!!?」

急ブレーキ、まだ止まりきってもいないのにほろにが刑事はドアを開けた
「おい!待て!!」

男に向かってそう叫ぶと、男は振り返りもせずに走り出した
「待て!!」
ほろにが刑事も走って追いかける
男は路地に入る、ほろにが刑事もすぐに続くが複雑に曲がった路地により見失ってしまう
「はぁ…はぁ…くそ…見失った…か」
「久しぶりじゃーん」

後ろを振り向く
男は民家の塀の上に座っていた

「…何でも屋…また会うとはな…」
「…僕もあんたにまた会うとは思わなかったよ」

少しの沈黙、その後にほろにが刑事が喋りだした

「この事件を捜査するようになってから…
 お前の姿をちらほら見るようになった、お前もこの事件に関わっているのか?」
「答えはイエスだが、俺は犯人じゃないぜ」
「信じると思うか?」
「…」

睨み合う、お互い言葉は発さずにただ睨み合う
しばらくして、ほろにが刑事が呟いた

「…信じよう…だが情報は提供してもらうぞ」
「情報ねぇ」
「知ってることを全部話せ」
「い・や・だ・ね」
「言え!お前が知ってることを全部話せば次の犠牲者が出る前に犯人を挙げられる可能性があるんだよ!!」
「ハッ…随分と綺麗なこと言えるようになったじゃねぇか、あの生贄刑事がねぇ」

その瞬間、ほろにが刑事はゆき兄に掴みかかり地面に叩き伏せた
馬乗りになった状態で睨みながらほろにが刑事は叫んだ

「その名前で俺を呼ぶな!!!!」
「痛ってぇなぁ…でも俺はいいと思うんだがな…」
「何がだ…!!」
「大人は皆武器を持つことを恐れる、でもアンタは武器を持ったんだ…
 それが卑怯くさくて褒められたもんじゃないにせよ…
 人間そうでなくっちゃ」
「…バカにしてるのかお前?」
「褒めてるつもりなんだけどね
 ついでに言っておくと多分今の状況じゃあ俺たちの情報を合わせても新しいことは出てこないよ」
「…」
「本当に始まるのはここからだ
 犯人の狙いも、俺たちの捜査もな
 1つ言えるのは俺は戦車の正位置だから勝つのは多分俺だってことだけど」
「これはゲームじゃない、勝ち負けなんて…」
「…そうだねぇ…でも世の中には全ての事柄をゲームと考えたほうが上手くいく人間もいるんだよ」
「…お前もそうなのか?」
「ははは…」

いつしか、日は暮れかけていた
無言でほろにが刑事は押さえつけていたゆき兄を離した

「…犯人は警察が捕まえる、あんまりうろちょろするならお前も捕まえるぞ」
「肝に銘じておきます」
「じゃあな」
「リアルで起こる全ては自身はゲームと思っても他者から見れば起こること全てはリアルだ
 所詮人は言葉に出さないと相手の脳の中身なんてわからない
 だったらゲームだろうがリアルだろうがどっちでもね…」
「…」
「じゃあな刑事さん、精々頑張ってね…
 それと、大人が武器を持たない理由はな、大人は武器を持ったら戦わなくちゃいけないことを知ってるから…知った上で武器を手に取ったアンタは最後までそれを貫ければ英雄、挫ければ…
 本当にじゃあね、できればもう会いたくないな」

街灯が点き始めていた
そして夜が来る。

同日、夜、何でも屋
「たっだいま~」
「おかえり…」

生気が無いというか覇気の無い高橋が机に突っ伏してた

「何かげっそりしてるな」
「…ほらよ…」

紙の束を手渡しされた

「何これ?」
「蝶の事件のあらましだよ」

俺は紙の束を高橋につき帰して
イスに座った

「めんどくさいから読んでくれ」
「…俺たちが蝶を捕らえてから別れたあの日
 ああ、あれから二時間後ぐらいだな
 場所は町外れの空き地。
 さて、ここからが重要なんだけどな
 蝶の身体は左足が切断されていた以外に外傷は無かったってことだ」
「…ふぅん…」
「暴れた形跡もまるでなかったようだ」
「…望んで斬られたか…?切断に使われたのは?」
「わからんな、ただ表面は綺麗にスッパリだ、骨辺りは力任せに引きちぎったような感じらしい」
「相当血まみれになったはずだよな、犯人」
「…まぁあの辺りは昼でも全く人通りもないしな」
「なんで蝶はそこにいたんだろうね」
「…呼び出された?」
「…ふーむ…」
「行ってみるか?」
「さすがにまだ入れないだろう」

その時、コンコンとドアがノックされた
「宗教とかの勧誘だったら断ってくれ」
「はいはい…」

高橋が立ち上がってドアを開けた
「勧誘ならおことわ…」
「久しぶり」

聞いたことがある声がした
俺は振り向かずに思い出そうと頑張った
「あ~…確か~…え~と~…
 確か…そう…エロい…」
「白やんだ」

高橋がボソッと耳打ちした

「あ~、そー、白やんだ
 久しぶりだねー元気?」

イスでクルクル回りながら白やんを見てみる
少しやつれた感があるな

「久しぶりだね、ゆき兄」
「警視になったんだってね、おめでと
 いや~あの試験の時は面白かったな…
 深夜に忍び込んで機械に…おっと、こんなこと言ったら逮捕されちゃうかな?」
「いいさ、君らのおかげで俺は警視になれたんだけだからね
 最も、肩書きだけで出す指示はマニュアル通り、不遜な態度でごまかしてるけどたまに辛くなる」
「ほんで?どうしてここにきたの?」

白やんはしばらく黙るとポツポツ喋りだした

「ほろにが刑事と…会ったのか?」

なるほど、情報が行ったか

「あー、うん、今日会った」
「何を話した?というか知り合いなのか?」
「…まー知り合いっちゃ知り合いなわけだが…」
「捜査の邪魔をする奴らがいるから気をつけたほうがいいと言われたよ」
「…そーきたか…」
「彼には気をつけたほうがいい、他とは違う何かを感じる」
「ああ、わかってるよ、てか白やんは知らないのか、まぁ県警にいたんだし当たり前か」
「何をだ?」
「ほろにが刑事の、過去」
「過去?」
「昔ね、あの刑事は…こう言われていたんだ…生贄刑事と」
「…どういうことだ?」
「…簡単に言えば事件を未然に防ぐことも出来たんだが…
 あえて事件を起こさせて規模を大きくしてそれをスピード解決的な…
 面白かったよ、闇に惹かれる人間が多いこの街の中でもかなりの上物だった」
「しかし今は…」
「ああ、なるべくなら犠牲者を出そうとはしない…ね
 ま、理由があるんだけどな…」
「理由?」
「本人から聞いてよ、ちなみに俺とあの刑事の因縁っつーのもそっからだよ」

それだけ言うと俺は毛布を取り出して頭からかぶった
白やんはそれを見て帰ろうとしていた

「1つだけ聞いていいか?」
「何ー?」
「お前は今のほろにが刑事と昔のほろにが刑事、どっちがいいと思うんだ?」
「…そうだなぁ…
 昔の他人の生死など厭わず自分の利のためにだけに…楽で賢い生き方だと思うよ
 で、今の犠牲など出さぬように自分の点数が減ってでも止めようとするのはめんどくさいし辛い生き方だ
 失敗することのほうが多いんだからね」
「昔のほうがいいと?」
「いんや、あえてめんどくさくて辛いほうに飛び込むのってのもかっこいいと思うぜ?」
「…そう…だな」
「どっちにしろ、芯が通った考えを持つ人ってのは面白いもんだよ、おやすみ」

白やんは静かに外に出た
高橋も寝るようで電気が消えた

外に出た白やんは冷たい空気を感じながら煙草を取り出した
それを一吸い、煙を吐き出して呟いた

「…僕には…芯はあるのかなぁ…」

同日、深夜
「左と、右、どっちが、いい?」
「…」
「じゃあ、右」
「うぅぅぅぅ!!」
「痛み、と、絶望、と、恐怖、がね、供物になる、よ」
「うっ…うぅぅぅ…」
「大丈夫、必ず、成功させる、ね?」
「うっ…ぐ…」

メリメリメリメリ…ブツッ…ゴキン…ブチッ…ズリュッ…

「おつかれさまでした」




翌日、早朝
「なんでですか…」

ほろにが刑事が呟く

「なんで…あなたが死んでるんですか…」

新たな犠牲者は、誰もが想像出来なかった人物

「白やん警視ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」





白やん、右腕を切断され、死亡
なお、口には本人の靴下が詰め込まれていた
縄でがんじがらめにされ、動くことが出来ぬまま生きたまま切断されたことが予想できる

「くそっ!!!!」
「ほろにがさん落ち着いてくださいよ…」
「…すまん、だけど…」
「わかってます…まさか警視がやられるなんて…
 マスコミの格好の餌食…というか警察の威信というか…」
「…」
「あれ?どこいくんですか?」
「聞き込みだッ!!!!!」
「うひゃぁ!!!い…いってらっしゃい…です…」


同日、何でも屋
「…連続四肢殺傷事件…今回の犠牲者は特別捜査本部の白やん警視で…」
「これは非常に忌々しき自体ですね、市民を守るべき立場にあり
 それも高い位置にいる警視ともあろう人物が犠牲になる
 つまりこれは…」

バガァン!!と大きな音がしてテレビが吹っ飛んだ
そのまま地面に落ちたテレビはザザーと不快な音を出している

「…ゆき兄…危ないからそれは使うなと…」
「クソッ!!」

手がビリビリしてる
硝煙が視界を揺らす

「とりあえず置け、な?」
「…ああ…」
「テレビ…壊すなよ…」

少し落ち着いたら衝動的にブッ放した事を後悔した
本体より弾のほうが高いというのに…

「…ブッ放したく気持ちもわかるがな…」
「…少し…出かけてくる」
「おい、どこ行くんだ?」
「…役に立たねぇ意地なんてドブに捨ててやるよ」
「…そうか」
「悪いな、思いつきで行動するタチで」
「今更だろ?行ってこい」
「ああ…」

俺はドアを蹴り開けた
次は無い、必ず捕まえてやる


1人なった高橋は不快な音を出し続けるテレビのコンセントを抜いた
机に座ると電話をかけ始めた

「もしもし…はい…そうです…
 ええ…お願いします…では」

電話を切るとため息をついた
そして言った

「安心しろよ、ゆき兄…お前がブッ放さなかったら俺がブッ放してた…」


同日、某所
「…」

何の変哲も無い街角
そこにほろにが刑事は立っていた
無言で佇むほろにが刑事に俺は言った

「因縁の地だよなここは…」
「何しにきた」
「白やん警視のこと…」
「…また俺は…近しい人を失ってしまった…」
「今回はあんたのせいじゃないだろ」
「…それでも…」
「…ま、俺も白やんが殺されたのにはかなりムカついててな」
「…知り合いだったのか?」
「まぁな」
「ふん、誰が死のうと関係なかった奴が知り合いが殺されると随分怒るんだな」
「その言葉そのまま返すぜ、昔のあんたにな」
「…」
「だけどそれはしょうがないことだと思うぜ、俺は
 個人が人類全てを平等に愛するなんて出来ないんだからな」
「まぁいい…用件は何だ?」
「協力しよう、昔みたいに」
「…」
「警察の情報網に合わせて何に縛られることもない俺の機動力があれば絶対に白やんを殺したクソ野郎は捕まえられる」
「昔のあれは…協力なんてもんじゃなかったがな」

昔か…
まだ俺が…何でも屋を始めてすぐの時…



2年前
「事件を起こしそうな奴がわかると?」
「俺ならわかる、そういう奴らは…何ていったらいいのか…
 そう!匂いがするんだよ!!」
「…ということはそいつらを徹底的にマークしておけば?」
「えーと…理論上は…まぁだいたいの事件は起こる前に防げると思う
 何ていうか犯罪を犯す覚悟した奴らは何か特有のものがあるっていうか…
 その特有の物を持つ奴らを重点的にマークしつつ匂いがする奴らを見回れば
 隙を突かれて防げないこともあるだろうけど殆どは…
 とは言っても普段は意識して、何だ、その匂いを感じることは無いからな
 とりあえず前科持ちの奴らの情報を渡してくれればいいよ」
「…信じていいのか?」
「信じてくれるのならそれにこしたことはない」
「…」
「…」
「その覚悟をしたやつが持つという特有のものを感じる奴らを徹底的にマークして…
 ほかの奴らを定期的にチェックしろ」
「俺の目の前で事件を起こしたら捕まえちゃっていいの?
 あ、それとも事件を防ぐ?」
「いや、事件は起こさせろ、そして事件が起きたらすぐ俺に連絡して起こした奴の情報を全てよこせ」
「…けっこ~料金かさむよ~?
 ほら、この仕事始めたばっかでけっこう金欠で…」
「かまわないさ」

そう、それで俺は言われた通りにしていた
事件が起こるのを知りつつ起こさせ捕まえて自分の手柄にする
それがほろにが刑事のスタイル

現在
「上手くいってたよな、かなり
 あんたはどんどん手柄を立てて、おかげでこっちも潤って…
 あの日までな」
「やめろ」
「あの日、ここで…」
「黙れ!!!!」

俺は思いっきり殴られて吹っ飛んで道路に大の字に転がった
空が、青かった

「…まだそうやって熱くなれるだけマシじゃんよ」

俺は立ち上がった

「贖罪のつもりで戦ってんだろ?
 でも1人で背負ってまた大事な人が死ぬってんならそんなの贖罪にはなんねーんだよッ!!!」
「なっ…がぁ!?」

さっきとは逆、今度は俺がほろにが刑事をブン殴った
しかしまぁ、致命的に筋力も無い俺じゃあ不意打ちで尻餅をつかせるぐらいが精一杯だった

「勘違いしてんなよ!!あんたの贖罪は1人で全部背負うことじゃない!!
 なりふりかまわずプライドもかなぐり捨てて頭下げて誰も犠牲にしないことだろうが!!」
「お前に何がわかる!!
 刑事でありながら野心の為に何人も犠牲にした俺が誰に許される!!」

勢いよく立ちあがったほろにが刑事にまたブン殴られる
今度は吹っ飛ばずにその場で耐えた
口の中が切れた、血の味がする

「それなら何でさっさとディスメンバーを捕まえねぇんだよ!!
 理由は簡単だ!!あんたが罪と思ってるのは俺が協力して作った罪!!
 だから俺がいねぇと贖えないんだよぉ!!!」

頭に血が昇った、俺はほろにが刑事の顔面を蹴り飛ばしてした
さすがに効いたのか地面に倒れるほろにが刑事

「ぐっ…」
「…頼む…手を貸してくれよ…」
「…どうしてそこまで…そんなにあの警視が大事だったのか?」
「…あんたと同じだよ!!!」
「!!」
「慢心や油断していなければ身近な人が死ぬことが無かったかもしれないんだ!
 俺もあんたも同じなんだよ!!だから手を貸せってんだよ!!!
 まだグチグチ言うようならまだまだブッ飛ばすぞ!!」

ほろにが刑事は喋らず、沈黙した
目を硬く閉じているのは自分と戦っているのか、逃げているのか
しばらくすると彼はゆっくりと立ち上がり歩き出した

「どこに行く?」
「…」
「…クソッ…所詮その程度なのかよ…!!!」

街は暗く沈んでいく
ポツリポツリと点き始めた街灯に虫が集まっていた

「…ならもう放っておいてやる、俺の罪なら俺が決めてやる…」

暗くなってきた街角ににバガァン!!と大きな音が響いた
ガシャンと言う音がして街灯が一つ砕けた
俺の頭上から、パラパラと砕け散ったガラスの破片が落ちてくる

「ブッ殺してやる!!クソサイコ野郎が!!
 絶対に!!絶対にブッ殺してやるからなぁぁぁぁあああ!!」

獣の咆哮、獣の狩りに慈悲は無い
この本能を向ける相手はただ1人
必ず、貴様を


同時刻、屋茶丸茶屋(高橋視点)

「…酷いネーミングセンスだな…ああ、ゆき兄が名付け親か…
 逆から読んでも同じということか…」

俺は中に入った

「らっしゃーせー!らっしゃーせー!らっしゃぁせー!
 おひとりさまっすねー!こっちゃどーぞー!!!!」

なんというか、非常に、煩い
イライラしてる時にさらにイライラした

「さっき連絡した、ゆき兄の使いだ」
「あっ、じゃあアッチ、アッチね、あの通路左ね」
「…ああ」

言われた通路を左に曲がる
突き当たりの壁の扉に張り紙があった

『勝手に入ったら捻り殺す
 特にたまゆら、次やったら捻るどころじゃ済まない』

…少し入るのが怖いが…
とりあえずノックしてみようとした瞬間

「フッフッフ」

後ろから不適な笑みが聞こえた
振り向くとさっきの店員がいた

「使いとか言っちゃって、本当はお前も俺と同じ穴の狢だろ?」
「…いや、本当に使いなんだがな」
「まぁ、待つんだ、正攻法では無理だ
 どんなに策を弄してもこの扉からの侵入では過去の経験から照らし合わせて確実に失敗する
 つまり別の侵入口を探さないといけない」
「…」
「よし、こっちだ着いて来い、仲間が増えたのは俺も心強い」
「ちょっと…おい…」

俺の手を掴んでどうみても使ってない空き部屋に連れて行かれた

「残業を利用してコツコツと何ヶ月もかけて
 地下通路を掘ったんだ…苦労に見合う報酬があればいいが…」
「…」
「さぁ!来い!!」

そういうと床板をひっぺがして穴に飛び込んだ
俺もなんだか行かなきゃならない気がして続いてみた
コンクリを砕いた先は土だったがベニヤ板で覆われていて狭いながらも見事な通路だった
一体こいつは何ヶ月かけて作ったんだろう

「ここが真下だ、大きな声を出すなよ…」
「…」
「この上のコンクリは切ってあるからちょっと重いが大丈夫だ
 そしてコンクリの上には机がある、その机が丁度よく俺たちと浮いたコンクリを死角にしてくれる」
「周到だな」
「じゃあとりあえず俺からな」

たまゆらはゆっくりとコンクリを押し上げていく
隙間から光が漏れる

「ヤチャの…ハァハァ…プライベートルーム…」
「…」
「こういう…極秘にこっそり見るのが…ハァハァ…たまらねぇ…」
「…」

別に興味もないんだが
なんかこう横でこれほど興奮されると
ちょっと、見て見たいというか

「ちょっと、代わってくれ」
「いやいや、掘ったのは俺なんだからもうちょっと」
「いや、ほんの少しでいいから、ちょっと見たら満足するから」
「苦労してないのにおいしいとこだけ持っていこうとするなんて!」
「静かにしろよ…バレんだろ…
 だいたい連れてきたのはお前じゃないか…」
「見せびらかしたいだけに決まってんだろ」
「ッ…!ええいどけ!俺も見る!!」
「こら!!やめろ!!まだ俺が見るんだ!!!!」
「俺が見る…んだから…どけ…こぉの…鳥野郎…!!!」
「てめぇ…!イケメンなのに…腹黒い…ぞ…!!!」

狭い通路で小さな光を求めて争いを続ける
相手の顔面を押さえつけ貪欲に光を求める愚かで低俗な争い


その時、頭上からバガァァァン!と音がした
間髪いれずにズゴッ!と音がして上から眩しい光が降り注いだ

その光の中…絶対強者は降臨していた。

争いとはいつも絶対的な強者の力によって終結する。


数分後、何でも屋。
「高橋がおらん…
 こんなときにどこに…」

帰ってきたら高橋がいなかった
連絡無しでこの時間までウロついてるのは高橋にしては珍しい

座ってると電話が鳴った
ヤチャマルからか…

「もしもし?」
「あーゆき兄か?今ニワトリを1匹絞めたんだけどね
 高橋が一緒にいたから勢い余って締めちゃったんだけどさ
 どうすればいい?」

あいつは何をやってるんだ
ニワトリ…もといたまゆらと一緒にあそこで行動するなんて
サファリパークに裸で生肉巻きつけて徒歩で入るようなものだろ

「…加工するとか」
「渡す物あるしさー、取りにきてよ」
「めんどくせぇ」
「コーラ用意してるから」
「何本よ?」
「2リットルを5本」
「10分で行く」

すぐに俺は飛び出た


屋茶丸茶屋。

店内には誰もいなかった
通路の奥に変な張り紙がついた扉があった。

『勝手に入ったら捻り殺す
 特にたまゆら、次やったら捻るどころじゃ済まない』

ふむ

俺には関係ないね!!!

足でドアを蹴り開けた

「勝手に入るなって書いてるのに…」

夜叉丸がいた
七輪で炙ったスルメをツマミに日本酒で一杯やってた
足元にはなんと形容すればいいのか
一言で表すならミンチみたいになった塊が2つあった

「ふむ、どうやら足で蹴り開けるのが正解か
 ドアノブには電流が流れてる、と
 どんな防犯だコレ?」
「性犯罪防止用」

夜叉丸が片方の塊をチラリと見た

「納得した、で、コーラは?」
「いや、それよりもコレね」

布に包まれた物を渡された
軽いことは軽いが重みを感じる
矛盾しているがそういうものだ

「気をつけて扱ってね、絶対落とすなよ」
「こんな物持ったままで七輪でスルメ焼いてる奴に言われたくないな
 さて、帰るぞ高橋」

ミンチを担ぎ上げた

「そっちはたまゆらだぞー」
「うーん、全く区別がつかないね…」

たまゆらミンチを壁に投げつけた
ベチャッってなった

改めて高橋ミンチを担ぎ上げて出ようとすると夜叉丸が言った
「寝不足か知らないけど目が赤いぞー、ちゃんと寝ろよー」
「ご心配痛みいります」



外に出た
しまった、コーラ忘れた…
今更戻るのもめんどくさい、今度また受け取りにこよう


同日、深夜、何でも屋
床に高橋を投げた
ビチャッと音がして、何かが散った

「さて…覚悟はしたもののそもそも奴に到達しないことには話にならないな」

携帯が震えた、メール差出人は…ピュアハート
『手足信仰について新しいことがわかった
 暇があったら来てくれ』

携帯を閉めながら俺は呟いた
「ジャストタイミング」


翌日、朝、某大学
「今日は高橋と一緒じゃないのか?」
「ああ、ちょっと無理をしすぎて動けないようだ」
「そうか、まぁいい、それじゃこれな」

目の前にボロボロの本が置かれた

「俺と同じでこの地方の手足信仰を調べてた人がいてな
 情報を出し合って補完していってある程度までは核心に近づけた」
「ふむ、で、その核心って?」
「手足信仰は、村の者にとっては唯一無二の信仰だったが
 一部の者にはそうでなかったということさ」
「…そういうことか」
「物分りがいいじゃないか」
「つまり、だ
 手足信仰というのは村の者には絶対的な信仰
 どんな不条理な事も儀式と称せば受け入れた
 それは一部の者にとっては隔絶された村という一つの世界を思い通りにする便利な道具だったんだろ?」

ピュアはうなずいた

「愚かだな…いや、当時としては当然のことだったのかもしれないが…」
「ああ…そんで近代化が進んで誰かがそれに気づく
 そしてこれはもう信仰などでは無いことが知れ渡り、外法とされ封印された
 信仰ってのは面白いだろ?
 どういった信仰でも極論して突き詰めていけば核にあるのは個人的な欲望なのさ
 ま、最もこれは外法以下だがな」
「その外法以下の信仰で最も得をしたのは誰だと思う?」
「…恐らく、【手足ノ長】だな
 儀式の対象を選べる唯一の者だ
 最も長に指示を出すさらに上がいた可能性もあるがな」
「子孫は?」
「さぁな?長は全てが露見した数日後に神刀の手入れ途中に事故死したらしいがな」
「事故死ねぇ?」
「十中八九報復だろうがな」
「それか全てを悟っての自害だな、ま、事故死と記録されてんなら報復の線が高いだろうな」

しばらく無言の時が流れる
俺はポツリと言った

「死んでくれと言われていとも簡単に死ねる程の信仰心ってどんなものかな」
「手足信仰では儀式に選ばれた者は死後に手足の神と同一の存在になれるらしいからな
 苦しい農民という生活に辟易した昔の奴らには藁にもすがる思いだったとかな
 最も生贄に選択肢なんか無かったのかもしれないが」
「人は神にゃなれねぇよ」
「意外だな、ゆき兄がそういうことを言うなんて」

ピュアは少し苦笑した

「どんな奴でも、死んだら死んだで無になって終わる」
「幽霊なども信じない?」
「真実に辿り着くには深く暗い懐疑の森を抜ける必要がある
 幽霊とかUFOは信じてるが全ての事柄を結びつけるほど俺は盲目じゃないからな」
「…やはり面白いな、ゆき兄は」
「それじゃ今日は帰らせてもらう」
「おつかれさま」

同日、昼過ぎ、何でも屋
「ただいまー」

ドアを蹴り開ける
だいたい毎回蹴り開けてるからドアが凹んできた

「おかえり…」

高橋が人の形を取り戻していた

「おお、回復したか、意外と早かったな」
「さすがにまいった…」
「下心で動くからだバーカ」
「そうだ、これ…白やんの」

言い終わる前に高橋の手から書類の束をひったくった
白やんの事件についての書類だった

「…右腕…ショックとかぶるな…」
「…なぁゆき兄」
「うん?」
「…辿り着けるのか?」

答えに窮した
誰よりも知っている
このままでは奴に辿り着けないことに

「ゆき兄、聞いていいか?」
「何をだ?」
「放っておけば罪の無い人を100人殺す殺人鬼がいたとして
 だが罪の無い人10人の犠牲でその殺人鬼は止められる
 そして10人の命を奪ったとしてそこに正義はあると思うか?」
「ずいぶん唐突に脈絡の無い話だな」
「…答えてくれ、真の正義ってのは何だ?」
「少なくとも真の正義なら何もしない」
「え?」
「罪無き人間が絶対的な正義と言い切れぬ以上
 例えば他の動物から見れば殺人鬼こそが正義とも取れる
 正義の味方は人間の味方じゃない」
「…そうか」
「だから俺は正義を掲げないのさ
 てなわけで、変な正義感で躊躇わない」
「そうだな…」

高橋は黙ってしまった

「…高橋、善悪がどうとかそんな物いまは問わなくていい
 そんなのは後世の暇人に任せておけ
 生きてる限りは走り続けて倒れる時は前のめり、そうじゃないと生まれた甲斐が無い」
「…そうだな、ははは、ありがとな」
「さて、気が紛れたところで本題だ」

机の上の物を叩き落して、資料などを置いた
高橋が嫌そうな顔をした

「今更地図を出してどうする気だ?」
「何か発見があるかと思ってな…」
「しかし…」

…犯行現場が決められているわけでもなしに法則があるわけでもない
この街に点在する人目につかない場所ならどこでもだ

「ん…?」
「どうした?」

高橋が地図を見つめだした

「なぁゆき兄…少し気づいたんだ
 物差し取ってくれ」
「ほれ」

物差しを手に取ると高橋は地図にあてがった

「最初の外道の事件現場から蝶の事件現場まで…
 地図上では…約9センチメートル…
 さらにそこから白やんの事件現場…まで約9センチ…」
「おお…」
「…これは…偶然か?」
「…方向は無茶苦茶だからわからなかったな
 ついでに蝶の起こした事件がカモフラージュしてたからな」
「次の事件が起こるとすると…ここから半径9センチに円を書いた線の上のどこか…?」
「…くそ、あのクソ刑事が協力してくれりゃあな…」
「あれ?」
「まだ何か気づいたのか?」
「最初の外道の事件現場から…9センチ…北に…」
「…神社?」
「神社だな」
「…手足信仰?」
「可能性は…あるかもな…」

しばらく考えた
そして結論を下した

「一応、白やんの事件から地図上で半径9センチの場所で人通りが少ない所を調べてみてくれ
 俺は明日この神社に行ってみる」
「ん、わかった
 関係が無いとも言えないしな、気をつけろよ」

そして夜が更ける
少し、光が射した気がした



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最終更新:2009年11月01日 00:59