邪眼探偵ゆき兄捜査6【キラーインスティンクト】
同日、深夜、某所
キィ…と、音を立てて古いドアが開いた
…暗い部屋…座っていた…
「…やぁ」
「…」
「座ったらどうだい?」
「いや、ここでいいんだ」
俺は、銃を取り出した
「…どういうつもりだい」
「その落ち着きようが全てを物語ってるな」
「…覚悟はしていた
そのために意図的にヒントは与えていたしね」
「…目的は何だったんだ?」
「…」
「…できれば撃ちたくはない」
「なら銃をおろせ」
「それはできないさ」
だって、俺は覚悟してしまったから
「何を失っても、ディスメンバーを殺してやると」
「…」
涙が、一粒、零れ落ちた
「…それじゃお別れだ…
さよなら、ピュア様」
顔に叩きつけられる硬い本
ブレた銃口から発射された弾丸は床を撃ち抜いた
ピュア様は部屋の奥、本の森へと隠れた
「…なぁゆき兄、どこで気づいたんだ?」
声だけが聞こえるがその姿はない
「刀野郎、いや、空天しげるが言っていた
手足信仰は明らかに先日聞いた事とは違っていた
情報を出し合って一緒に研究した奴がいるって言ってたな
そいつがしげるだったんだろ」
「ああ…正解だ」
「どちらが真実だ
手足信仰はしげるが言ったように犠牲の上になりたつ狂気の信仰だったのか
それとも信仰の皮をかぶった欲望の塊だったのか」
「…僕は後者として使った
興味があったから、しげるには前者を全てとして教えた」
「目的は探求心か?」
「そうなるね、でもゆき兄も同じだろ?
僕は知りたいから罪を犯す、ゆき兄は楽しみたいから罪を犯す」
「…」
「知りたかった、滅びを待つだけの信仰心が人を殺めるのか
結末はどうなるのか…」
「じゃあなぜ俺にヒントを与えた」
「良心の呵責…些細な留め金じゃないかな」
「…良心の呵責…か」
「…ああ」
俺は1発、本の海に向かって弾丸を撃ち込んだ
そして言った
「キラーインスティンクトってどういう意味って知ってるか?」
「…殺戮本能」
「ピュア様…もう駄目なんだよ
もう、俺は、解き放ってんだ」
「何?」
「…止めることは出来ない
おしゃべりはここまでにしよう」
ポケットの中で手榴弾のピンを抜いた
そのまま、本の海の中へと放り投げた
衝撃、吹き飛んだ本が知識の欠片を宙に舞わす
「うっ…く…」
「元々…俺は…強い殺戮本能を持っていて…
だから、好きなことをしておかなきゃいけなかった…」
「…」
積み上げられた本を蹴り倒す
窓から射し込んだ月光に埃が舞う
「ずっと抑え込んできてたけど…
駄目だな…良心の呵責とかくだらねぇにもほどがある…
せめてもっと楽しみたいとかいう理由なら一考したのに」
「はぁ…はぁ…」
ピュア様の呼吸が聞こえる
そこから読み取れるのは恐怖
俺は、背中に隠しておいた最後の武器を取り出した
「…5.56mm×45口径
最大初速1000M/SEC
総弾数120発の鉛の土砂降りだ、よーく味わえよ」
「待っ…」
言い終わりを待たずに、あたりは爆音に包まれた
本が飛び散り、棚がヘシ折れていく
あらゆる物をブチ壊し、砕いていく
全てを撃ちきった後、最早原型を留めているものは存在しなかった
「った~…手が痺れる…
やっぱり銃は苦手だ…それに…傷が開いた…」
左肩から血が腕を伝って指先へ
ポタポタと床に赤い点を広げていく
そして煙がうっすらとはれてくると壁際にうずくまってるピュア様がいた
「うう…」
「へぇ、避けきったんだ、凄いね…でも」
ピュア様は右肩から血を流していた
「終わりだね…」
「…うっ…」
その瞳には、絶対的な恐怖があった
天敵に捕らわれた動物のような恐怖に染まった瞳
取り出したナイフを振り上げる
「やめろ!」
後ろから怒号
振り向くと、またアイツがいた
「…やっぱり邪魔ばっかりするんだな…
…ほろにが刑事…」
「…もう生贄なんか必要ない
そいつを殺すな」
「嫌だ」
ナイフを振り上げた
「よせぇぇぇぇ!」
数時間前、高橋の病室
「帰って来ないな」
随分と帰ってこないゆき兄が心配になってきた
一体あの傷でどこにいったのだろうか
「…そこまで心配することか?
いくらあいつでも子供じゃ…いや、子供がそのまま大人になったような奴だが
それでも死ぬまで何かやってるほど馬鹿じゃないだろ」
ほろにが刑事が俺に言って来た
「…もし死を覚悟して動いているというなら…」
「どういう意味だ?」
「ゆき兄は一般人とは違う、その中でも最早人間のレベルを超越している物があるんだ
…それがキラーインスティンクト…人間を遥かに越えた殺戮本能…」
「いきなりそんな話をされても…」
「だからあいつは普段はその本能を抑え込んでいる
だがたまに片鱗を見せる
極端に冷血だったり死や殺人に躊躇いがないゆき兄を見たことはないか?」
「…」
「あいつが…あのゆき兄が…あの重症の身体でプラプラ出歩くわけがないんだ…
普段ならここぞとばかりに好き勝手寝まくって好き勝手ゲームして思うがままに行動してるはずなんだ」
「と、いうことは…?」
「…命を賭けて…何かをしようとしている…と…思うんだ」
俺はほろにが刑事に頭を下げた
「あいつを止めてくれ!!
1度殺戮本能を開放しちまったら抑えていた分が一気に爆発する!
…あいつも多分それをわかってる…なのに行ったってことは…
…死ぬ気なんだ…」
「…」
「もう…手足信仰も吹っ飛んで…アンタも過去を吹っ切った!
生贄なんかいらないんだ!もう誰も犠牲にしちゃいけないんだ!!」
その言葉を聞いてほろにが刑事は立ち上がり勢いよく病室から飛び出した
「この事件でかかわった全ての場所をこの病院から近い順に伝える!!
頼むぞほろにが刑事!!!」
現在、ピュアの研究室(ほろにが刑事視点)
ナイフは、俺の撃った銃弾で宙を舞った
ゆき兄は手を抑えて獣のような唸り声を上げている
「…あんた…まだ僕の邪魔をするのかぁぁぁ…!」
肩からボタボタと血を流しながらもまるで感じてないように
純粋な殺意が俺に突き刺さる
それは恐怖なんて言葉では言い表せないほどの…
これが、ゆき兄のみが持つ、人間を超越した、殺戮本能
「ならお前も逝け!!」
姿勢を低くして突っ込んでくる
落ち着け、いくら殺意が強かろうとそれだけで人は殺せない
ゆき兄に武器はない、なんとか組み伏せればそれでいい
傷口が開いてる以上早くなんとかしなければ
「考えてる暇があるのか!!」
「!?」
咄嗟に頭を捻る目頭を爪が掠めた
躊躇せずに目を潰そうとしてきやがった
「後手に回った時点で待つのは死なんだよ」
「何ッぐっ!?」
後頭部の髪を掴まれ、後ろに引き戻された
目の前に、膝
ゴガッと、鈍い音がした
「がはっ」
「人は殺し合いに置いても心の何処かで殺されるわけがないって思うんだ!!
だからこうやって死ぬんだ!誰もがな!!」
何度も何度も、顔に、膝が叩き込まれる
感覚が、無くなって、いく
「わかったら俺の邪魔をするなァァァァァ!!!」
床が、視界いっぱいに広がっていく
バキバキバキと木造の床が割れる音がする
視界には、闇しか見えず
吹き飛びそうな意識を奮い立たせ
顔をあげる、呼吸がうまくできない、視界もぼやける
目の前に、静かに立っている、殺意の塊、いや、殺意そのもの
その眼は、蚊を潰すような何も感じていない、虚無の眼
「そっか、なら死んどけ」
殺意が、その足を振り上げた
おぼろげに見える、靴の先が破れてそこから覗く鋼鉄
あれが頭に当たれば終わるだろう
けれども、動けない
その時
「動くなお前ら…!」
部屋の奥から、ピュアの声が聞こえた
導火線のようなものにライターの火を近づけていた
「元々…捕まる覚悟はできていたが…死ぬのは本意じゃない…
取引だ…全員吹き飛びたくなかったら…」
言い終わる前にゆき兄が言った
「いいよ、さっさと火をつけろよ
派手に心中しようぜ?」
もう俺には思考力が無い
ただ今は目の前で起こる現実をただ見続けることしかできない
「死ぬのが…怖くないのか?」
「元々死ぬつもりだったしなー、ああ、お前殺して死ぬつもりってことな
それでお前が死ぬなら俺も死んだってかまわねぇ…
それともハッタリか?そうじゃなけりゃさっさと火をつけろよ」
「う…く…」
ピュアのライターを持つ手が震えてる
死ぬのが本意じゃないとピュアは言った
死を覚悟していないピュアがすでに覚悟しているゆき兄相手に優位に立てるわけがない
「…くっ…」
一瞬、ピュアの顔が、下を向いた
獣の戦いでは、目を逸らしたほうが負け
それはこの戦いにも適用される
「砕けろ」
その一瞬の隙、ゆき兄が飛び込んだ
ライターの炎が導火線に触れるより早く鋼鉄の足がピュアを吹き飛ばした
側面から、顎を蹴り飛ばされた
「あ…ががぁ…」
口からボタボタを大量の血を流す
恐らく、顎が砕けた…
だが血を流してるのはピュアだけじゃなかった
傷自体は服に隠れているが、ゆき兄の通った場所も左手から零れ落ちる血液で真っ赤に染まっていた
どうすればいい、この殺意を止めるには…どうすれば…
【大人が武器を持たない理由はね、大人は武器を持ったら戦わなくちゃいけないことを知ってるからだよ
知った上で武器を手に取ったアンタは最後までそれを貫ければ英雄、挫ければ…】
…俺は…
「トドメだ!その頭蓋骨木っ端微塵にしてやるよ!!!」
ゆき兄が、足を振り上げてる
ベルトに挟んでた、銃を取る
足が振りぬかれる
同時に、俺は、ゆき兄を、撃った
「がっ…!!?」
バランスを崩し、ゆき兄はその場に倒れこんだ
銃弾は、左わき腹に命中していた
「…どうあっても…邪魔する気か…!!」
ゆき兄は床に倒れて傷を抑えながらも
薄っすらをした笑いを浮かべていた
「約束…した…!高橋と…!!」
「アイツとなぁ…!どうせ俺が死ぬのを止めてくれとかだろ…!!
そうかよそうかよ!!じゃあいいことを教えてやるよ…!!
…あの日、2年前のあの日…!お前の最も守りたかった人を殺したのが俺だと言ってもか!」
「…え?」
「尾行がバレて!俺は殺されそうになった!応戦した!そしてあの時も俺はこうなった!
そこに通りがかったのが…!そうさ…俺が殺した…俺がっ…殺し…」
ゆき兄の眼から、殺意が消えていく
「…そう…俺が殺した…そうだった…
忘れて…いた……でも…俺の殺意は覚えていた…
思い出した…」
俺は立ち上がった
銃を、ゆき兄に突きつけた
「…本当…なのか…?」
「…」
「…答えろ」
銃を額に押し当てる、強く、強く
「…本当、だ…
思い出した…確かに俺が…殺したんだ…」
「ぐ…!」
「…撃ちたきゃ撃て…今撃たないと勝手に死ぬぞ…」
「…素直に…捕まる気は…?」
「あるわけねぇ…しげるにも言ったがよ…
贖罪がどうとかもういちいちめんどくせぇんだ…」
「貴様…!」
「…」
引き金を引く指に力が入る
俺が現場に行ったとき、犯人はすでに死んでいた
自らの手で仇を討てなかったことを悔やんだ
だが、真の仇が今…!
「…撃ちな、それが人だ」
「ふっざけるなァァァァァァ!!」
引き金を引こうとした
その瞬間の一言が、耳に焼きついた
「贖罪をするつもりはないが、俺の死が結果的に贖罪になるなら
それはしょうがない…よな」
「!」
――乾いた音が、また響いた
同時刻(ゆき兄視点)
弾は、俺の後ろ
後ろにいたのは、知識欲に取り憑かれた哀れな道化
「うぁ…」
ピュア様は、ナイフを振り上げたまま、その場に崩れ落ちた
「…どうして…俺を撃たずに、あまつさえ助けたんだ」
「結果的な贖罪なんて…意味がない
自ら望んで罪を償うことこそが…」
「…そうか」
「前に言ったよな」
「ああ…?」
「俺の罪は…お前と共に生み出した罪…だから贖罪は…2人でないと出来ないと」
「…言ったなぁ」
「…きっと永遠にこの罪が晴れることはないんだろう…
どれだけの善行をしても…染み付いてしまった黒い点は消すことはできない…」
「…ああ、だから俺は…その染みを気にしないことにした…
気づいたら俺は…真っ黒になっていた…」
「…俺は共にずっと…この罪に怯え後悔し生きていく…
それが俺が俺に負わせる…贖罪」
「…」
「お前も…生きろ…
…罪を背負い…ただ生き続けろ…勝手に死ぬことなく…寿命を…」
「そりゃまた…重いなぁ…ハハハ」
なんか、笑いが出た
何がおかしいのかわかんなかったけど、笑えた
「ああ、生きろっていうんならさっさと救急車呼んでよ…
このままじゃここにいる全員そのままお陀仏だぜ?」
「…この惨状、後々なんて説明すればいいか?」
「なんとかなるさ」
――生きてて、笑ってりゃ、大概のことはなんとかなるさ、俺らが罪人だとしてもそれぐらいは許されるさ
――そうだ、な
数ヶ月後、警察署
「ほろにがさん、向こうにいっても…元気で」
「ああ、次に会う時は出世しておけよ」
「なっでばすども!」
「…顔から出る物全部出てるぞ…
それじゃあな…元気でな」
ほろにが刑事の乗った車はゆっくり発進し
そのうち見えなくなった
「しかしなんだって…わざわざ犯罪多発地帯に出向くかねぇ
命が惜しくないのか…」
「ほろにがさんは命が惜しくないわけじゃないよ
でも、あの人は戦うことを選んだんだ
決して武器を手離さず、挫けずに…」
ふらりと現れた腹筋が呟いた
「うーん、俺もああいう生き様したいねぇ…
ま、この状況でもあいつらのお陰で退屈はしてないがな」
同時期、屋茶丸茶屋
(たまゆらでーす、今ヤチャマルはお風呂でーす
ここは脱衣所でーす、ついにこの未開拓エリアまで侵入できました
このドアの向こうにエルドラドがあります
しかし開けたら今度こそ死は避けられないと思います
それでも行かないといけない、これは持って生まれた宿命、誰よりも強い本能!
それではいよいよオープン…)
「懲りないなー…tk今から入るんだよwwwwwwww」
「しまった侵入タイミングのズレが!!」
「風呂入りたいんだろ?
入れてやるよ」
「おおぅ!!まさかのミラクル!?」
ピィィィィィィィィ!!ガタガタガタガタ!!ボコボコボコボコ!!!
160℃
「さ、ゆっくり漬かってきな!!」
「字がちがぁああああああぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
同時期、アニキのラーメン屋
「だいたいさー、出番少なすぎてー、本当に最悪ー」
「食べすぎだと思います桃花さん」
「食わなきゃやってらんないんだよ!神楽君替え玉!!!」
「出されることなく消えていった人たちのことを時々でいいから思い出してください…と
はい、替え玉」
「アニキ、チャーハンちょうだい」
「あー、黒やんだー匂い甘ッ!!!」
「そう?」
「やめろ!!今の私に甘い匂いをかがすな!!離れろ!!」
「匂ってきてるのは桃ちゃんじゃない…」
同時期、何でも屋
「…というわけで…おい聞いてるのか?」
「…」
「おい、起きろ!!おい!!書類にヨダレを垂らすな!!」
「…ぁぅ?」
「…あーあ…ビッシャビシャ…
しっかりしろよ、もう怪我は完治してんだぞ」
「…んなこというても眠いもんは眠いんだからな」
「…全く…そんなんじゃ…こいつは捕まえられないぜ?」
「潜伏中の香港マフィアの幹部ねぇ…
全く最近は物騒だね、ブラックな奴らには同じくブラックをぶつける…か
…んじゃま行きますか、さっさと捕まえちまおうぜ」
「死ぬなよ」
「ハッ、死ぬわけねぇだろ?」
――こんな腐った世界で生きていくことが、腐った俺の唯一の贖罪なんだからな
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最終更新:2009年11月01日 01:01