アットウィキロゴ
 

運命に翻弄された少年と少女


少女は神を信じていた。
少年は神を信じていなかった。

少女は暖かい部屋と暖かい愛情を与えられ育つ。
少年は冷たい風に身を晒し、奇異の目で見られ育つ。

人は生まれながらに平等か…?
運命は交錯、少女と少年は出会った。

街の片隅、ゴミ捨て場。
少女は人形を抱いて。
少年はナイフを抱いて。

少女の泣き叫ぶ声が…少年の耳に届く。
少年の手が、止まる。
カランとナイフが零れ落ちる。
少年は、まだ、人を殺すような度胸は持ち合わせていなかった。
簡単に殺せるだろうと、人気の少ないゴミ捨て場に来た少女を狙った。
だけど、泣きながら懇願する声に、少年の心は耐え切れなかった。
少年は少女を助けた。
気まぐれでも、何でもなく。
少年は少女の命を助けた…

時は流れる。
少女は成長して、美しく育つ。
少年は成長して、強く育つ。

少女…いや、彼女の心にはいつかの少年の姿が常に在った。
少年…いや、彼の心にもいつかの少女の姿が常に在った。

運命は、2度目の交錯を迎える。

雨が降る、夜の街。
彼は逃げていた。
その日の食料を盗み、追われていた。
彼は、とある家の倉庫に忍び込み追手をやり過ごす。
追手は彼を見失う。
彼は安心と極度の疲労から、そのまま眠りに落ちてしまった。

彼女は父親に倉庫からイスを修理する工具を持って来てくれと頼まれた。
軽く答えて、彼女は倉庫へと歩き出す。
倉庫に入った、彼女は小さな悲鳴をあげた。
その音で、彼の目が覚める。
彼女は、ゆっくりと彼に近づいた。

彼は咄嗟に持っていたナイフを彼女の首に当てた。
「騒ぐな…」
「あ…」

彼女が思い出したのは、少年の思い出。
彼が思い出したのは、少女の思い出。

彼は、彼女の顔に少女の面影を見た。
彼女は、彼の顔に少年の面影を見た。

「君は…」
「あなたは…」

ナイフが床に落ちる。カランと…あの時と同じ音を立てて。
しばらくの沈黙の後、彼女は言った。
「少し待ってて、お腹が空いているんでしょう?」

彼女が戻ってきて、差し出された食事。
それは温かく、優しく…
彼は生まれて初めての優しさを受け、生まれて初めての喜びの涙を流した。
そして、彼は彼女に恋をした。

「いつか、迎えに来ます」
「待ってるわ」

彼は底辺からの脱出を試みる。
身分を隠し、少しずつ、少しずつ、上へと。
誰に嘲笑されようと、全ては彼女との約束を守るために。

気がつけば、彼は決して一般的では無いが小さな住まいと毎日の食事にありつけるようになった。
彼は、彼女を迎えにと走る。
少しずつ貯めたお金で買った花束を持って、彼女の家へと…

しかし、家主の言葉は信じられない物だった。
「あの娘は結婚して遠くに嫁に行きました。」
彼は信じられずに…その真意を問いただす…
だけど、冷たくあしらわれ。夜が舞い降りた街に1人佇んだ。

彼は、彼女の事を調べた。
調べ始めて、すぐに全ての真相がわかった。
【政略結婚】
彼女の運命は生まれた時に全て決まっていた。
年頃になれば、決められた有権者へと送り出される。
彼女はそれを知ってか知らずか…彼に恋をした。
そして、待ち受けていたのはこの残酷な結末。

彼は絶望する。その目に…悲しみの涙。
なぜ、彼女は親の利権のために使われなければいけなかった…
なぜ、彼女はその運命をすんなりと受け入れたんだ…
なぜ、僕を置いていってしまったんだ…

両親に愛されず、1人で生きて、1人で幸せを掴もうとした男
両親に愛されて、愛情を受けて育ち、最後は親に自らの運命を託した女

出会うべきでは無かった2人。
それでも出会ってしまった。

彼は、あの倉庫にもう1度入り込んだ。
そうすれば、また彼女に会えると…儚い幻想を抱いたから
倉庫には、彼女はいない、だけど代わりに手紙が置かれていた。

「貴方がこれを見ている時に私はそこにいないでしょう
 許してとは言いません、恨まないでとも言えません…
 お父様から、婚姻の話を聞かされた時
 私は薄々感づいていたとは言え、驚きを隠せませんでした。
 断ろうかと思いました。だけど…
 泣きながら許してくれ…
 と私の手を取る小さな父の背中があまりにも痛ましくて
 私は、父を裏切る事はできませんでした。
 私と貴方はもう会う事は無いでしょう。
 だけど、心は此処に置いて行きます。
 ごめんなさい、貴方を愛しています。」


彼はたまにあのゴミ捨て場へと足を運ぶ。
2回だけの運命の交錯、あれは神が与えたチャンスだったのではなかったのか…
僕は、どうすれば君を助けてあげる事が出来たんだろう。
彼はこれからも永遠に、終わりの無い問いかけを続けるだろう…


.

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年11月01日 01:08