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コモリウタ


ルーカスという青年がいた。
彼は、不慮の事故で母の両目に傷を付けてしまった。


母さんは、永遠に光を失った。
僕は、自分のせいだと、随分と長い間、自分を責めた…

「ルーカス、あなたのせいではないわ…」
「母さん…僕を…許して…」

空に飛ぶは鋼鉄の大鷲。
黒煙を撒き散らす。

ルーカスは今日も、工場で仕事をして家へと帰る。
母が両目を失ってから、幾度と無く繰り返されたのこ生活。
変化を求めなどはしない、母がいればそれでよかった。

母の想いはルーカスに届かず。

~発見された母の手記~
「あの子は、悪いのは全て自分だと思い、
 私が死ぬまで傍にいるつもりです
 結婚もせずに、子供も作らず、ただ、私の傍に寄り添うつもりです。
 私はそんな事を望んではいません。
 いえ、そんな事を望む親がどこにいるでしょうか。
 私はあの子に人並みの幸せを掴んで欲しいのです。
 …いいえ、私は本当は恐れているのです。
 私があの子の人生を奪ってしまうのでは無いかと…」

ルーカスが母を想う気持ち。
母がルーカスを想う気持ち。
どちらも相手を心配する気持ちに変わりは無いのに…
どうしてここまで狂った歯車のように噛み合わないのか…

旅のヴァイオリン引きが夕刻の街中で歌い続ける。
「狂った歯車を無理に動かせば♪
 いずれ周り全てを巻き込み♪
 全てを狂わせて行く♪
 最後に辿りつくのは崩壊♪
 ラララ♪ラララ♪」

夕食時に、母は告げる。
貴方はもう、自分の人生を歩んでくれと。
貴方が私に尽くしてくれるのは嬉しいの。
でも、私は貴方の人生を奪う資格は無いの…

ガチリ…と嫌な音がする。
歯車は今こそ、全てを巻き込み崩壊する。

パンッ!!と乾いた音がする。
血を流して倒れる母。
涙を流してその場に崩れ落ちるルーカス。
その手には…拳銃。

「どうして…どうして…
 母さんは…僕が…邪魔なの…」

ルーカスの想いは最後まで母に届かず。
行き場を失った愛情は憎悪と変貌を遂げる。
憎悪は銃弾に代わり、母を撃ち抜く。

母の想いはルーカスに最後まで届かず…

薄暗い町の片隅、旅のヴァイオリン引きは狂ったように歌い続ける。
「あっはっはっはっは♪
 酷い結末だね?♪
 でも、まだ終わりじゃないんだ♪
 言っただろう、狂った歯車は全てを巻き込むってね♪」


ルーカスは家を飛び出した。
当ても無く、夜の町を彷徨い…
ふと、目についた窓の向こうの景色。
楽しそうな家族の夕食。弾む会話。絶えない笑顔。

ガチリ、ガチリ、ガチリ、ガチリ…

ルーカスの心は狂気に満たされ、その手に持つ凶器は
彼の望む世界を破壊する、そして彼は狂喜に浸る。

彼は、平和な生活を望んだだけだった。
母と一緒にいれればそれでよかった…それだけだった。
母は自分といる事を望んではいなかった。
その事を理解した瞬間に、彼の心は砕け散った。

この世で最も愛する者、そして最も憎む者。
彼はその手で母の命を奪い。
そして彼の望んでいた家族の命すらも奪い去る。
彼の凶行は止まらない、止められる者はもうこの世にいないのだ…

警官がルーカスを取り囲む。
ルーカスにとってそれらはもはや障害でしかなかった。

ガチリ…

「…か…いい…あな…そ…がお…」
「!?」
ルーカスの手を止めたのは、どこからか届いた歌声。
「あなたの可愛いその寝顔…♪
 私に朝まで見守らせて…♪
 おやすみなさい…すやすやと…♪」

「あ…あ…?」
それは、遠い昔、母が歌ってくれた子守唄。
何処からか届く、その歌声。
彼の狂気は、いつしか消えうせていた。

目を瞑ると、母親の姿が見えた。
「ああ…母さん…そこに…いるんだね…ごめんね…ごめんなさ…い…」

ガチリ…パンッ…びしゃっ…

狂った歯車は、砕け散る。



ルーカスの命が散った通りに面した家の2階。
窓が開いていたその部屋は子供部屋だった。
眠る少女とその寝顔を穏やかに見守る母親がいた。

結局ルーカスは
彼が1番欲した、そして憎んだ。
母親の面影によって死んだのだ…

ヴァイオリン引きは町から少し離れた小高い丘で歌っていた。
「愛情と憎悪は表裏一体♪
 憎悪があるから愛情があり愛情があるから憎悪が生まれる♪
 ああ、彼らの歯車は一体どこで欠けたのか♪
 さぁ、次の街へと歩き出そう♪」




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最終更新:2009年11月01日 01:09