ヴァンパイアとワーウルフ
満月の夜。
今日も、廃墟となった古城の窓から飛び出していく1つの影があった。
影の名はニクス。ヴァンパイア・ニクス。
彼は、ヴァンパイアとしては少しおかしかった。
彼は血が嫌いだった。
だから、別に飲みたいわけでもなかった。
ヴァンパイアは不死の一族。別に血を飲まずとも死ぬ事は無い。
現に彼はここ数百年、血を吸う事はなかった。
彼は街中の小さなバーにやってきた。
「やぁ、マスター」
「ニクスか、久しぶりだな」
「ああ、でも仕事は片付いたからまたこっちでゆっくりできるよ」
「ははは、そりゃあよかった。ほら、こいつはおごりだ」
彼はヴァンパイアという事を隠していつもこのバーに来る。
たまに怪しまれないように「仕事」と偽り、しばらく街から姿を消す。
いつから繰り返してきたか…いずれマスターは外見の変わらない私を怪しく思うだろう。
そんな事を思いながらいつものように彼が飲むのはブラディマリー。
数時間後。夜の街を歩くニクス。
彼は昼間は光の届かない、古城の地下室で眠り落ちている。
彼はこの街が好きだった、例え夜の顔しか見れなくても。
ふっ…とニクスの鼻が匂いを捕らえた。
「…血の匂いだ…う…」
ニクスは吐き気をこらえる。
「全く…俺は本当にヴァンパイアなのかよ…
だけど…この匂いは…人間じゃあ無い…
かといって同族でもなさそうだ…これは…獣の血…?」
本能に組み込まれた、血を匂いで嗅ぎ分ける力。
それはしっかりとニクスは持ち合わせていた。
暗い路地裏の先。
そこに獣はいた。
「…グゥゥゥゥゥ…」
腹部から血を流し、息をするのも辛そうなのに
獣はニクスを睨んでいた。
「…ワーウルフか…驚いたな…」
「…貴様…ヴァンパイアか…」
古来より、ヴァンパイアとワーウルフは犬猿の仲だった。
ヴァンパイアはワーウルフを半人半獣の半端者として、忌み嫌い。
数千年ほど前に、ヴァンパイアはワーウルフを駆逐しようとした。
最初はヴァンパイアの圧倒的有利に事が進んだ。
だが、追い詰められた獣は強かった。
ワーウルフの激しい抵抗により、ヴァンパイア達も疲弊する。
結果的にこれ以上の損害は両者にとって有益では無いと判断され。
両者の一族のトップ同士で和平が結ばれた。形だけの。
「…ふん…弱った俺にトドメを刺すか…さすがずる賢いヴァンパイアだ…」
「…銀の銃弾で撃たれたか…」
「クックック…笑えよ…さぁトドメを刺しな…」
「じゃあそうしてやるよ」
ニクスは彼の傷口に手を突きこんだ。
「ガァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
獣の雄たけびが夜の街に響く。
「騒ぐなよ…ほら」
「ガァァ…ァ…?」
「あーあ…手が血まみれだ…」
ピン!とニクスは指で何かを弾く。
コンッと地面に落ちたソレは「銀の銃弾」
「銀さえ体内から抜いちまえば後はワーウルフの生命力で何とかなるだろ?」
「…どういうつもりだ…」
「気まぐれだよ」
ニクスはワーウルフに背を向けて歩き出した。
「おい!こっちから聞こえたぞ!」
「殺せ!化け物を殺せ!」
「…お前が騒ぐから人が来ちまったじゃねぇか…」
「…ヴァンパイアに助けられるなら…人の手によって死んだほうがマシだ…」
「人の好意は素直に受け取るもんだぜ、それが気まぐれでもな
ほら、俺が引き止めといてやるから早く逃げな。手負いの狼さん。」
「…何を企んでるか知らないが…怪我が治ったら…貴様を締め上げて吐かせてやる…」
「はいはい、待ってるよ
あ、名前は?」
「…ヴァンパイアに教える名前は無い…」
「はぁ…じゃあこうしよう
次に会ったらお互いの質問に答える事にしよう」
「会えると思ってるのか…?」
「会えるさ、夜の街は狭い。」
ニクスは路地裏から表通りに出た。
3人の男が、手に銀製の武器を持って立っていた。
「お前こんなところで何をしてるんだ!?」
ニクスはやれやれと言った様子で喋りだす。
「寝ようと思ったら犬が吠えててね。
どうにも眠れないから少しお仕置きしたら凄い声出して逃げてったんだ」
男達はヒソヒソと相談を始める。
「おい…信じられるか?」
「しかし…どう見ても人間だぞ…」
「魔物なら銀に触れれば煙が出るはずだ…」
「話はまとまったかい?」
「あんた、少しコレを触ってみてくれないか」
男は銀のナイフを突き出した。
「はいよ」
ニクスは何でも無いようにナイフに指を這わして、掴む。
「満足かい?」
男達は顔を見合わせる。
そしてバツが悪そうにニクスに謝り、それぞれの家へと戻っていった。
ヴァンパイアに銀は効かない。
嫌うものは十字架とニンニクぐらいのものだ。
「そろそろ朝か…早く戻らないとな」
腐ってもニクスはヴァンパイアである。
太陽の光をまともに浴びれば、彼の体はたちまち塵と化すだろう。
翌日、の夜。
部屋のドアを開けて目をぱちぱちさせて絶句する男がいた。
「言ったろ?夜の街は狭いって?」
「お…お前…」
「ま、特徴的な獣の血だ、匂いを辿ればすぐにわかったよ」
「…死に損ないを馬鹿にしに来たか…」
「んなつもりは無いよ、中に入れてくれよ、紅茶でも飲ましてくれ」
ニクスは男をスルリと抜けて部屋の中に入る。
「汚い部屋だな…まー、男の1人暮らしってこんなもんか
こりゃあ紅茶は期待できないな、せいぜい水道水か?」
ニヤニヤしながらニクスはイスに座る。
「さって、約束だ…お名前は?」
「………エレボス」
「わかった、エレボス」
「…俺の質問の答えは…?」
「死にそうだったから助けてあげた。はい、終了。」
「ふざけるなッ!!!」
ドガン!と机を叩きつけるエレボス。
ワーウルフの怪力により、机が砕け散る。
「危ないな…おい…」
「ヴァンパイアがワーウルフを助ける!?
俺の両親を殺したヴァンパイアが俺を助けるだと!?」
「なっ…」
「父さんは俺と母さんを逃がすために死んだ…
母さんは俺を抱きかかえて守りながら死んだ…」
「…」
「俺は…貴様等を絶対に許さない…今ここで貴様の命を絶ってやる!」
「ちょ!落ち着け!こら!待て!」
エレボスの腕はニクスにひねりあげられる。
「…獣人化もしてないワーウルフがヴァンパイアに勝てるわけないだろ…」
「また…またそうやって…貴様は俺を馬鹿にする…!」
「…してねぇよ…いいか?放すぞ?暴れるなよ?」
「…」
エレボスの腕は束縛から解放される。
腕には赤いアザが残っていた。
「…すまなかったな…同族が迷惑かけて」
「何?」
「俺はお前の両親を殺したヴァンパイアを心底軽蔑するね
冷酷、非情はヴァンパイアにとって重要な要素だけどな
でも、俺はその馬鹿野郎を心から軽蔑する。」
「お前…」
「…また来るよ、次はせめて水でもいいから出してくれよ」
「あ、おい…ちょっと待…」
ニクスはエレボスの言葉を待たずに乱暴にドアを開けて部屋から出ていった。
夜風は冷たかった。
「先祖の怨念を…俺達はいつまで引きずって生きればいいんだろうな…」
誰に言ったわけでも無いニクスのつぶやきは、夜の街へ消えていった
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最終更新:2009年11月01日 01:12