シラヌスの手記、悲しみの無い街
陽気な街、人々は絶えず笑いあっていた。
争いは無く、歌と踊りに彩られた街の広場。
喜びの声、語り合う声、驚きの声、誰もが笑顔で乾杯の声をあげる。
たくさんの男女が踊り、笑顔のギター奏者は音を響かせる。
ああ、なんて楽しい街なのか、この街には悲しみは存在しない。
今日はお祭り、明日もお祭り、その次も次もずっと。
しばらく滞在し私は名残惜しみながらも街を出た。
歩みを進め、街を一望できる丘に辿り着くと
そこには1人の少年が寂しそうな目で街を眺めていた。
街から立ち上る白煙が空に消えていくのをじっと見つめている。
私は少年に話しかけた。
「どうしてこんなところにいるんだい?」
「入れないから」
「悲しみの無い街にかい?」
「少し違うよ、あの街は正確には悲しみを忘れた街さ」
「どういうことだい?」
「遥か昔、とても哀しい出来事が街を襲った
街の人は悲しくて、哀しくて、何日も泣いて、泣きぬいた
そして、彼らは悲しみを忘れてしまうことにした
…だから僕は街から追い出された」
「君は今でも戻ろうとしているのかい?」
「僕は望まれた忘れ物
幾千の涙の海を渡り、幾万もの嘆きの丘を歩いた存在
でも彼らは見ようとしないだけで僕はいつでもここにいる
だから彼らは街から出ない
見たくないから、見れば知ってしまうから」
「君の名は?」
「悲しみ、望まれた忘れ物」
「そうか」
私は口を閉ざし歩を進めた
街人は決して街の外に出ることは無いのだろう。
皮肉なものだ
悲しみを忘れたが故に悲しみに縛られ続けているのと同じ事だ。
願わくば、いつか彼らが捨ててしまった物の大切さに気づくことを。
Cyranuce
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最終更新:2009年11月01日 01:20