約束ノ刻1章【異界と守人】
─20年前─
湿った大気が鳴動を始め、空を覆った黒雲が裂け始める
裂け目から零れ落ちる光は人間という存在を畏怖させるには充分だった
誰もが地に伏し、神の降臨を待ち望んだ
悪疫が蔓延る世界、アポトーシスを巻き起こす人々の身体
溺れる者は藁をも掴む…だがもはや藁すら世界には存在しない
彼らが掴むのはもはや、神の偶像のみ
降臨を待ち続ける人々はただひたすらに祈りを捧げ続けた
ただ1人を除いて
白「空が…空が落ちてくるよ…」
白「人の歴史が…終わる…終わるんだ…」
白「祈るべき存在なんて…もうこの世界には…」
─かくして神は、降臨した
破壊を撒き散らしながら─
─現代
風「しくじるなよ剣三郎」
剣「わかってる」
嵐吹き荒れる海に浮かぶ船
甲板にて吹き荒れる風と雨粒を身に受けながらただ一点だけを見つめる2人
嵐は激しさを増す
ピ「これ以上は持たないぞ」
風「わかった」
剣「セレブ作戦、発動」
風太と剣三郎は荒れ狂う海へと身を投げ出した
海上とは違い、海中は穏やかだった
小型の酸素ボンベを銜えた2人はただ先へと泳いでいく
そしてソレは姿を現した
海底に開いた、巨大な穴
剣(異界の口だ)
風(この奥に…)
2人は穴へと誘い込まれるように入って行った
入り口の大きさとは対照的に狭く複雑な洞窟内部を泳ぎ
2人は水から身をあげた
剣「ぶはぁっ」
風「ここが、いわゆる異界…か?」
剣「…先へ、目的の物はきっとこの先に」
光さえ届かぬ闇を奥へ奥へと歩きだす
湿った空気は2人の身体にまとわりつき不快感を増徴させる
剣「…20年前」
風「…神が地に降りた日か」
剣「治療不可能、致死率100%、尋常ならざる感染力を持つ
正体不明の病【牙死病】が世界に蔓延し、そして全ての人々が死に怯えていた時
神が降り立ち、人々を救った」
風「そのとき、神が残したもの」
剣「…これか」
2人の前に現れたのは大きな扉
光貴燦爛なる装飾がなされた、闇が支配する空間には不釣合いな扉
剣三郎は、その扉にそっと手をかけ、開いた
巨大な空間
中央にポツリとある祭壇
その上に静かに佇む、人の頭ほどの大きさの球体
風「宝玉だ」
剣「あれが、神の置き土産…」
白「誰だッ!?」
突然響き渡る怒声
その声に驚いたのはセレブ同盟の2人だった
風「人!?」
剣「こんな場所に人…?
いや、化生か…?」
続けざまに暗闇から声が響く
白「ここから去れ!ここは人が来るような場所じゃない!」
だが、剣三郎は走り出した
風「剣!待てッ!」
剣「俺達にはこの宝玉が必要なんだよッ!」
白「やめろッ!それに近づくなぁああああああ!!」
闇から飛び出す光の軌跡
風太の持つライトに照らされた刃の軌跡
剣「チッ!我が剣、魔障調伏なり!」
闇に響く金属音
剣「…闇討ちとは…卑怯だな…」
白「宝玉に触れるな…!」
剣「俺達セレブ同盟には…宝玉が必要なんだ!風太いけッ!」
風「お、おう!」
白「待て!」
剣「行かせるか!」
白「クソッ!やめろ!やめろやめろやめろォォォォォォォォォ!!」
風太の手が、宝玉に触れた
その瞬間、宝玉は、割れた
白「檻が…砕け散っ…」
剣「檻だと?」
次の瞬間、風太の身体が、分断された
上半身と下半身は分かたれ
そこに生は存在しない
在るのは死のみ…
剣「風太ァアアアアアアアア!!」
白「…また…繰り返されるのか…!?」
小さな光の粒子が降り注ぐ
それは形を成し、人形を形成する
空「我は…空天…
畏れる者に…天寵を…
畏れぬ者に…天罰を…」
白「………」
剣「何だ…こいつは…」
白「逃げるぞ…この場所の意味は失った…」
剣「まて!風太が!あいつはセレブ同盟の仲間なんだ!」
白「もう、風太ってやつはいない…あそこにあるのは風太という存在の抜け殻だ
こっちだ、来い」
剣「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
意味を無くした場所
そこに、存在するのは
湛える物を無くした器と…
空「我…元に…
人に…終わりがあるように…
私に…終わりは…無いのだから…」
白「早くこっちだ!崩れ始めてる!」
剣「くそっ!」
白「…この場所は意味を失った…だから崩れ始めてる…」
剣「はぁ!?」
白「…奴の影響だ…」
剣「この道はどこに続いてるんだよ!」
白「地上に出る!!」
剣「待てッ!海上にもう1人…」
白「海上…?まずいぞ…それは」
剣「何だって」
同刻-海上-
ピ「うわっ、うわっ」
船が大きく揺れ動く
波のせいだが、自然に引き起こされる波とは何かが違う
ピ「何だこれ…!これは…海中から…!?」
剣「ピュア様!ピュア様!」
白「諦めろ!もう無理だ!戻れば死ぬ!!」
戻ろうとする剣三郎を必死に引き止める白やん
剣「見捨てられねぇだろ!!」
白「わかってる!!だけどここは逃げろ!」
剣「くそぉ…!」
白「それにもう…」
─海上─
ピ「…何だよこれ…何だ…」
口から大量の血を吐きながら船室の壁に座り込むピュア様
八重歯が、伸びている
牙のように
それは、牙死病の症状
ピ「牙死病…が…なん…で…」
ずるりと、倒れこむ
そして動かなくなるピュア様
同時に船は海中へと没した
そして海上に立つ、存在
空「汝…讃えよ…
我が炎が…汝の罪を赦し…
焼き払う…」
白「ッ…」
突然顔を歪めて頭を抑える白やん
剣「何だ!?」
白「…仲間は死んだ…」
剣「嘘だ…なんで…わかるんだよ…」
白「俺にはわかるんだ…」
剣「じゃあセレブ同盟…俺だけじゃねぇか…
俺だけじゃ…意味がないじゃないか…」
白「馬鹿ッ!?自分の意味を見失うなッ!!!!」
剣「ごぶっ!?」
びちゃびちゃと血を吐く剣三郎
白「口を開けろ!!」
白やんが強引に剣三郎の口を開けると
牙が、伸び始めていた
白「…牙死病」
剣「がし…びょう…ごぶっ…ぐぇっ…げ…ぇっ…」
白「…」
白やんは剣三郎を置いて走り出した
剣「まって…ぐぅ…ぇぇぇ…げぼっ…」
剣三郎の足元が血で染まっていく
それでもびちゃびちゃと不快な音を出しながら
血は、止まらない
剣「終わ…り…か…」
嵐が吹き続ける
なぎ倒される木々
その中に白やんがいた
白「…そんなに、人が憎いのか」
誰に言ったわけでもない
ただその言葉は、風に飲み込まれていく
白「力で滅ぼすことが救いなのか!?
それが神の正義なのか!?」
白「また…始まるのか…滅びの刻…」
白「いや…今度は…広がる前に止めれるじゃないか…」
白「やってやる…今度は俺が…止めてやる!!」
白「絶対に!!!あいつを止めてやる…!!!それが俺の意味だ!!」
叫び声は、風に飲まれ、消えた
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最終更新:2009年11月01日 01:35