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邪眼学園黄龍譚1限目【煌きの星】前編


9/19 朝
転校初日から今日で一週間が過ぎた
さすがにここまで来ると学校にも馴染んで友達も出来た
相変わらずゆき兄と小川って奴の言ってることの意味はわからないが
もうそんなことは忘れかけていた

「よぉたまゆら、おはよう」
「おー、おはよー」
「1限から歴史かー、ダリィよなぁ」
「全くだ、過去を振り返ったところで今がどうなるわけでもないのにな」
「うわっ!」

いつの間にかゆき兄が横に立っていた

「そんなに驚くなよ、俺は幽霊じゃねぇぞ」
「へぇ、ゆき兄が朝から教室にいるなんて珍しいな」
「ああ、普段だったらまだぐっすり寝てる時間だ
 ただどっかのうるさい奴がHRには出ておけって言うんでな」
「当たり前でしょ!全くゆき兄は危機管理能力なさすぎなの!!」

反対側に目をやると女子が立っていた
ええと、確か…リカ…さん

「あのな、リカ、俺は危機管理能力がないわけじゃない
 この状況を危機を思ってないからこそこうして…」
「だーから!それが馬鹿って言ってんのよ!
 あんたもうすでにけっこうリーチかかってんのよ!」
「…ああ、わかったわかった…」

ゆき兄は頭を掻きながら自分の机に座った
…そのまま突っ伏した

「もう本当にあいつは…」
「リカちゃんよー、いくら幼馴染ってもゆき兄なんか放っておいてもいいんじゃね?」
「うーん、でも渋々ながら私の言うことなら聞くからさぁ
 やっぱあそこまで不健康優良児だと放っておけないっていうかね」
「お優しいこって…あー、あつあつ」

男子生徒は手で顔をパタパタやりながら自分の席へ戻っていく

「そっ…そんなんじゃないから!絶対違うから!!
 あっごめん、耳元でうるさくしちゃって」
「いや、いいよ
 幼馴染なんだ?ゆき兄と」
「単なる腐れ縁だよ」
「へぇ~」
「うっ…なんかムカつく
 あ、それより今日お昼ごはん一緒に食べない?
 話したいことがあるんだ」
「え…?」

唐突な展開にどう反応していいかわからなくなる
返答に困ってた俺を見透かしたのかリカが慌てて言った

「いやいや、別に愛の告白とかじゃなくて
 普通に相談事っていうか!とにかくお昼ね!」

まくし立てるように言ってリカは自分の席に戻っていった
告白とかじゃないのか…ちょっと凹んだ

「…おせっかいな女だ…」

小さなゆき兄の声が聞こえた


9/19 昼休み
昼休みになるとすぐにリカが駆け寄ってきた

「それじゃ行こうか
 そうそう、もうシャインには行った?」
「シャイン?」
「あ、行ってないんだ勿体無い…
 でも確かに最初はちょっと入るの勇気いるしなー
 丁度いいや、それじゃシャイン行こうか」
「いや、シャインって何?」
「んー…言うなれば学食なんだけど…
 他とは違うっていうかこの学園特有って言うか…
 ま、行けばわかるよ行こう行こう」

リカは俺の背中をグイグイ押して教室から出した
とりあえず俺はリカについていくことにした


「はい!ここが邪眼学園自慢の学食!シャインです!」

呆然、目の前には何ていうか…
木造式のシックなファミレスみたいな…
床や壁など見える場所はロッジみたいに木で出来ている
中に入ると薄っすらと暗くふんわりとした灯りが店内を包んでいる
非常にいい雰囲気だ
店内は多くの生徒で賑わっていた

「ね?凄いでしょ?
 出前もやってるんだよ!生徒の出前利用は駄目だけどね」
「これは…本当に凄いや」
「お勧めはハンバーグ定食かな
 シャインは全体的においしいけどここのハンバーグは本当に別格!」

ハンバーグについて意気揚々と熱弁するリカ
話を聞く限り本当においしいようだ

「あ、リカちゃんこんにちわー」
「あ、カナー!」

ハンバーグについて熱弁していたリカに
ウェイトレスが話しかけてきた

「こっち転校生のたまゆら君ね」
「初めましてカナっていいます、シャインにようこそ」
「友達なんだ、カナとは」
「それでご注文は?やっぱりハンバーグ定食?」
「うん、お願い、たまゆら君は?」
「あ、じゃあ俺もハンバーグ定食で…」
「はーい、ハンバーグ定食2つ、少々お待ちくださいー」

元気のいいウェイトレスだな
カナさんについてリカと話しているとほどなくしてハンバーグ定食が運ばれてきた
言われるがままにハンバーグを口に運ぶ
…本当においしい!
あっという間に俺もリカもハンバーグ定食をたいらげてしまった

「ふ~…シャインのせいでダイエット出来ないなぁ」
「…本当においしかった…ありがとう
 あ、そうだ、話って何?」
「ん?ああ…えっとね…
 ゆき兄のことなんだけど」
「ゆき兄の?」
「…うん、あいつね、今は本当に協調性なくて近づく人を拒絶してるような感じがするけどね
 昔はあんな奴じゃなかったんだ」
「…」
「この学園に入ってからかな…最初は普通だったんだけど段々サボるようになって
 それで気がつけばあんな風になってたんだ」
「…そうなんだ」
「でもね、この前あいつが言ってたの
 転校生のたまゆら、あいつは気に入ったって」
「俺を…気に入った?」
「うん、もうビックリしちゃったよ
 今になってあいつが誰かを気に入るなんて思わなかったから
 それも転校してきて数日のたまゆら君をだよ!」
「あ、はは…」
「だから…私じゃゆき兄を昔みたいに戻すことは出来ないけど
 同性で、気に入られてるたまゆら君なら何とか出来るんじゃないかなって…
 勝手なお願いだけどね…」

気に入られた…か
俺がゆき兄にしたことと言えば転校初日に10円をあげたことぐらいだ
しかしそんなことぐらいで…?

「別に何かしてやってくれとかそんなんじゃないんだ
 ただ、普通に友達として接してあげて…欲しいんだけど…」

それだけ言ってリカはうつむいてしまった
…どうしよう

「ごめん!やっぱり勝手すぎるよねこんなお願い!
 忘れて!本当にごめん!ここの代金おごるから!」

席を立ち上がってレシートを取るリカ
俺は思わず言った

「あ、待って!別にそのぐらい、いいよ!
 だって俺、気に入られてるんだろ?だったら何か出来るかもしれないし」
「…たまゆら君…」
「それに…ほら…関係ないけど…
 こう…女の子におごってもらうって何かプライドが…」
「…ありがと、頼りにしてます」

リカは少しはにかんで笑ってそのままレジに向かって歩き出した

「あ、自分の分は自分で」
「いいの、頼みを聞いてくれたお礼だから
 素直に受け取って」
「う…はい…」

結局奢られてしまった
変な約束をしてしまったが要するに普通にゆき兄に接すればいいだけだろう
特に難しく考えることでもない
その後リカと他愛も無いことを話していると昼休みが終わった

9/19 放課後

午後の授業が終わった
皆部活に言ったり早々と寮に帰ったりとしている
そういえば、午後はゆき兄の姿を見なかった
辺りを見回しているとリカが話しかけてきた

「ゆき兄探してるの?」
「ああ、うん」
「んー…多分…屋上だと思う…
 貯水タンクの影辺り」

やけにピンポイントな場所を言って来る

「あいつ日焼けするの嫌がるからね
 屋上でサボる場合は絶対影にいるから
 それじゃ私は部活いくね!」

それだけ言うとリカはさっさと教室を出て行った
…どうせ寮に帰ってもやることがないので屋上に行ってみることにした
そういえば屋上に行くのは始めてだな

屋上につくと確かにゆき兄がいた
ただし寝てはいない
柵に持たれかかって何かを見ていた

「ん…?」
「あ…」
「どうした、たまゆら?
 昼寝なら寮に戻ってしたほうがいいぞ、じき下校時刻だ」
「あ、いや…そういうわけじゃなくて」
「…俺に用か?」
「まぁ…用ってほどじゃないけど…」
「…どうせリカに頼まれたんだろ
 本当におせっかいな女だな」
「…でも」
「ん?」
「単におせっかいなだけじゃなくて…
 本当にゆき兄ことを心配してるんだと思う」
「…」
「俺も…ちょっとは…心配だし…」
「…お人好しだな、お前は」
「…」
「ま、礼は言っておく
 だけど、俺は自分のペースを変えるつもりはないぞ」
「…そうか」
「…ほら、これやるよ」
「え?おっと」

コーラの缶を投げ渡された
なんとかキャッチする

「飲んどけ、それじゃ俺はそろそろ寮に戻るぜ
 …下校の鐘もそろそろだしな、お前もさっさと出たほうがいい」
「ああ…コーラ…ありがとう」
「何、気にするな」

ゆき兄は階段を降りていった
これ以上ここにいても意味はないだろう…
俺も寮に戻ることにした

9/19 夜

寮の廊下で男子生徒同士の会話が聞こえた

「あいつら脱走したらしいな」
「ああ、もう一週間だもんな」
「でもよぉ…あいつらが脱走なんて…」
「俺も信じられねぇよ」
「やっぱり…生徒会…?」
「お、おい、滅多なこと言うなよ」
「わるい…」
「それより…影男…出たらしいな」
「あー…3年の奴が…」
「噂だと思ってたんだがな…」
「まぁ出たっつってもやっぱり聞いただけだからな」
「…んだな、ふぁ~あ…俺そろそろ寝るわ」

男子生徒2人はどこかに行ってしまった
脱走…?

「廊下でボケッと突っ立って何やってんだお前、通行の邪魔だぞ」

振り向くとゆき兄が手にコーラを持って立っていた
いつもコーラを持ってるな

「…ん?どした?」
「脱走ってどういうことか知ってる?」
「……そりゃ…脱走は脱走だろ…」
「学園から?」
「ああ、まぁ軽い軟禁状態だからな
 脱走するやつもたまにはいるってことだ」
「そこまで環境が悪いとは思えないんだけどな」
「そりゃ個人によるだろ
 極端な話、日本に住んでる奴の環境がいいと、サバンナ辺りに住んでる奴の環境がいいっていうのは全く別のことだからな」
「…極端すぎるけど…言いたいことはわかった」
「…ま、あまり気にするな…」

ゆき兄はそれだけ言うと脇を通り抜けて行った
俺も部屋に戻ろうと思ったその時

「…やぁ…また会ったね…」

前にも聞いた不気味な声が聞こえた
咄嗟に振り向くとやはりあいつ…小川だった

「…どうだい…学園生活…楽しんでいるかい?」
「ああ…」
「それはよかった…
 でも気をつけたほうがいい…」
「何を?」
「言の葉の上の存在が具現しようとしている…
 一番目の魔が動いている…」
「…どういう意味?」
「一番目の噂は…校舎を彷徨う影男…
 その闇に…掴まった者は…目を奪われる…」
「影男?」
「七不思議の一つさ…
 最も語る分には言の葉だけ…そこに真実は存在しない…
 前にも言ったが…言の葉を真実とし…白日の下に晒そうとした者が食われるのさ…
 だがすでに真実となってしまった言の葉は…」
「…」
「好奇心は諸刃の剣さ…
 せいぜい気をつけるんだね…」
「お、おい…」

小川は振り向かずにさっさと言ってしまった
あんな不気味なことばかり言って何だって言うんだ
正直あまり関わりたくないタイプだ
なぜかこれ以上起きててもいいことは無い気がする
さっさと寝よう

9/20 朝
「おはよーたまゆら君」

リカが元気に走り寄ってきた

「ねぇ、ゆき兄見た?」
「いや…」
「あいつめ…また寝てるのか…
 しかし何であんなに寝るんだろ…コーラの飲みすぎで脳がやられてるのか…
 それとも…」

確かにゆき兄は見る度にコーラを飲んでいる
あれだけ飲んでれば脳がやられてもおかしくないかもしれない

「全く好き勝手いってくれるな」
「あ!ゆき兄!ちゃんと来たんだ!」
「まぁな、どっかの誰かさんがうるさそうだったからな
 それよりもだ、酒は百薬の長って言うだろ?」
「うん…」
「俺にとってはコーラがそうだよ
 どんな物でもそれが好きならそれはそいつにとって百薬の長なんだ
 例え身体に悪くても心にはいいはずだ」
「屁理屈っぽいな」
「…言うようになったじゃないか、たまゆら
 さて…たまには授業に出て見るのも悪くはないかもしれないな」
「おお!!!」
「なんだよ、そんなに驚くことかよ」
「いや~、早速こんなに効果が出るなんて
 やっぱりたまゆら君に頼んで正解だったよ、ありがとう!!」
「あ、いや…別に何もしてないんだけど…」
「たまゆらの言う通りだ、俺がたまには出てみようって気になっただけだ」
「それが維持できればいいんだけどねぇ」
「それはわからん」
「まぁ何にせよ偉いえらい」
「別にお前に褒められるために出るわけじゃないんだがな」
「あはは、本当は褒められてうれしいくせにー」

そう言って笑いながらリカは自分の席に行ってしまった

「あの能天気さは見習うべきかもしれないな、たまゆらもそう思うだろ」
「…うーん、まぁね」
「ま、俺は授業には出るが…基本的に寝てるがな」

9/20 午前
「ふぅ…全く何で私が授業で使う薬品を化準まで取りにこないといけないのよ…
 あーあ、もっとゆっくり来ればよかったな」

ガラリ

「え?何で真っ暗なの?
 誰よカーテン閉めたのは…ええと…電気…」

ピシャン!

「えっ、ちょっとドアが…!!開かない!!
 何よこれ!!」
「…オマエ…」
「誰!?」
「…数日前、無断外泊…夜ノ町ヲ徘徊…
 間違イナイナ…」
「誰よ!!出てきなさいよ!!」
「ソンナニ夜ガ好キカ」
「何わけわかんないこと言ってんのよ!ここから出してよ!!」
「オマエノヨウナヤツガ…!
 オマエノヨウナヤツガイルカラ…!」
「ちょっと何よ!やめてよ!!いや!」
「ソンナニ夜ガ好キナラ、ズット夜ノ闇ニイレバイイ…」
「嫌…!いやぁあああああああああああああああああああああああ!!!」


  • 2F廊下-
「ん?」
「ゆき兄、どうした?」
「たまゆら、今叫び声が聞こえなかったか?」
「いや?」
「…確かに聞こえた…来い」
「お、おい!」

ゆき兄は俺の手を掴んで走り出した
そのまま化学準備室の前まで連れてこられた
中から微かな呻き声が聞こえた

「やだ…目が…目が痛いよ…何も見えないよぉ…」
「おい、大丈夫か」

ゆき兄がドアを開けて中に入った
部屋の真ん中で女子生徒が目を抑えて倒れていた

「少し手をどけろ」
「真っ暗だよ…何も見えないよぉ…痛い…
 目が痛いよぉ…何で…」
「…たまゆら、保健室に連れていくぞ」
「あ…うん…」

女子生徒を担いで保健室に連れていくことにした
何も見えないとはどういうことだろう…
化学準備室は窓から差し込む太陽の光でとても明るかった


  • 保健室-
「そういえば保健室って来たことなかったな」
「今そんなこと言ってる場合か」
「ああ…ごめん…」

ゆき兄がさっさと中に入った
俺もそのまま中に入った

「どうしたゆき兄、またサボりかー?」
「いや、今日はちゃんと授業を受けてた
 それより重要なのはこっちだ」

ゆき兄が俺のほうを見る
同時に白衣の女の人が俺を見た
ドキッとした…美人だ…

「女の子を背負うぐらいかなり健康そうだけどな」
「そっちじゃねぇよ、背負われてるほうだ」
「あー、おっけーおっけー
 とりあえずこっちに」

言われるがまま女子生徒をイスに座らした

「目が…痛いの…真っ暗で…何も見えない…」
「ふーむ…別段目に異常はない…
 …それよりこの症状は…」
「…何で何も…見えないの…やだよ…こんなの…」

女子生徒は泣きじゃくってる
そりゃ突然目が見えなくなったらショックだろうが…

「目の過度の負担を受けて一時的に見えなくなってるだけだろう
 ほら、ベッドで少し眠るといい」
「…はい…」

俺は女子生徒をベッドに寝かしてやった
戻るとゆき兄と美人の保健医が小声で話していた

「治ると思うか?」
「落ち着かせるために言ってみただけ
 起きて元に戻っている確立は低い、というかほぼゼロ」
「…」
「…実は数日前から同じような症状の奴が数人運び込まれててね
 全員同じように目に異常は無いのに視力を失い目の痛みを訴えている」
「…チッ」
「とりあえず目に傷がついてるから治るまでしばらくかかると言いくるめて療養させているけど…
 いつまで騙せるか…まるで誰かに視力だけを奪われたような不可解な現象だ」
「共通点は?」
「皆こうなる直前に…真っ暗闇で誰かに話しかけられたと言っている」

視力を奪われた…?真っ暗闇で誰かに…?
そうだ、昨日確か小川が…

【一番目の噂は校舎を彷徨う影男
 その闇に掴まった者は目を奪われる】

まさか…
いや…あれは噂だろ…?

【最も語る分には言の葉だけ、そこに真実は存在しない
 前にも言ったが言の葉を真実とし、白日の下に晒そうとした者が食われるのさ
 だがすでに真実となってしまった言の葉は…】

馬鹿な…本当に影男がいるって言うのか…?
…そんなことあるわけがない…あるわけがないけど…
現にこうやって不可解に、そう、目を奪われている生徒がいる…

「私たちがここで話してても恐らく解決しないよ
 これは人の常識を外れたことだ、奇跡でも起こるのを待つしかない
 とりあえずこの子は私がなんとかするからお前等戻れ」
「戻れと来たか、折角運んでやったのに」
「お前はサボりすぎだ、さ、出てった出たった」
「押すなよ…わかったよ…」

ゆき兄は保健室から押し出された
美人の保健医がこちらを振り向いた

「お前もな」

俺も放り出された
ゆき兄が待っていた

「あれは夜叉丸、通称ヤチャ
 保健医だが酒好きで…保健室を私物化してる
 まぁ話がわかる奴だからな、今度普通に来てみるといい
 軽くならサボらせてくれるさ」
「…ゆき兄、あの女子生徒は…」
「…どうしようも出来ないこともあるんだ
 忘れることだな」
「忘れるって…そんな」
「じゃあ聞くが、俺らが忘れずにずっと心配してて
 それで目が元通りになると思うか?」
「…いや…」
「そういうことだ、俺らは倒れていた女子を保健室に連れてった
 それだけだ、それ以上は考えるな
 どうにもならないことをいちいち抱えて生きてるとパンクしちまうぞ
 あ~…授業出る気も失せたな…屋上で昼寝してくっか」
「あ…おい…」

ゆき兄はさっさと行ってしまった
…少しゆき兄がわからなくなった、いや逆にわかったと言えばいいのか
悪い奴ではないが…なにか…違う…


9/20 昼休み
あれ以降の授業は全く頭に入ってこなかった
ゆき兄は結局戻ってこなかった
確かに…俺たちがどれだけ心配してもあの子の目が治ることはない…
だけど心配しても治らないからといって心配するのは本当に無意味なんだろうか

「たっまゆらくーん」

リカが話しかけてきた

「あ…」
「ん?どしたの?何か暗いよ?
 あー、ゆき兄に何か言われた?あいつめぇ…」
「あ、そういうわけじゃないんだ…ちょっと考え事しててね」
「ん、そうなの?
 心配しちゃったよ
 それよりご飯もう食べた?」
「いや、まだ…」
「それじゃ今日も一緒にシャイン行かない?」

少し話していたほうが気が紛れるかもしれない
俺は一緒にシャインに行くことにした
リカは今日もハンバーグ定食だった
俺はカツカレーを注文した

「そういえば今日、途中からゆき兄いなくなったね」
「うん…」
「…本当にどしたの?悩み事?」
「…悩み事っていうか…悩んでもどうにもならないことを悩んでるっていうか…」
「それ悩み事って言うんだよ?
 私でよかったら聞いてあげるけど」
「例えば…初対面で通りすがりに出会った人が自分の見ている前で事故にあって…
 視力を失ったとして病院に届けたとして…」
「お、重いね…」
「自分が心配してもその人の目が治るかどうかは医者任せ…
 だったら心配する必要なんて無くて無意味なものなのかな?」
「…無意味じゃ、無いと思うよ」
「え?」
「だって、初対面でも何でも普通心配するじゃん
 人間誰だってあらゆることが心配でしょ?」
「…」
「あのね、人が何を心配するのは人がそれだけ心に余裕を持ってるからなんだって
 心に余裕があるから、誰かの心配が出来る、誰かのことを想える、誰かを可哀想と想える
 それは本当に素晴らしいことなんだよ」
「…うん」
「へへ、実はこれね、昔ゆき兄が言ってたんだ」
「ゆき兄が?」
「うん、ゆき兄はこういってたの
 俺らが心配してもどうにもならないことは確かにある、結局そこからどうするかは自分自身なんだから
 それでも一緒に悩んで考えるてあげることで道を示してその人の心に希望を宿すことが出来る可能性はある
 心に余裕がある人間だからこそ為せる技だよ、本当に素晴らしいって」
「信じられないな…あのゆき兄がそんなこというなんて…」
「…うん、そうだね…今のゆき兄を見てると…
 信じられないけど…本当は…」

沈黙
ゆき兄は冷たいと思った
でも話の中のゆき兄はとても温かい
どちらが本当のゆき兄なのか、それともどちらもなのか…
少なくともわかったことがある、無意味じゃないってことだ

「ありがとう…うん、話してよかった」
「へへ、どういたしまして!」
「お待たせしましたー、カツカレーとハンバーグ定食でーす」
「お、来た来た、さーたまゆら君食べよ食べよ」
「うん、食べよか」

カツカレーは、ハンバーグ定食に引けを取らないほどおいしかった


9/20 放課後
結局午後もゆき兄は戻ってこなかった
放課後になってあちこち探したがどこにもいなかった
おかしい、すでに寮に戻ったんだろうか
とはいえ下校の鐘が鳴るまでもう少し時間はある
どうせ鐘が鳴るころにはゆき兄も寮には帰るだろう
ギリギリまで探して寮に帰ろう。
しかしめぼしい場所は全て探したので俺は普段足を踏み入れない場所も探してみることにした。

あちこちウロウロしていると段々日も暮れかけてきた
薄暗くなった廊下のプレートをよく見ていると【生徒会室】とプレートに書かれたドアを見つけた。
そういえば生徒会には気をつけろってゆき兄が言っていた…あれはどういう意味なのか
もしかしたらここにいる?
そう思ってドアに手をかけようとした

「何をしているんです?」

後ろから話しかけられビクッと手が止まった
振り向くと男子生徒が立っていた
男子生徒、とわかったものの逆光で顔がよく見えない

「あ…いや…」
「…一般生徒の生徒会室への立ち入りは校則で禁じられていますよ?」
「ああ…そうなんすか…
 ちょっと人を探してて…」
「…そうですか、ですがそれでしたらなおさらここにはいないと思いますよ
 他を探したほうがいいと思います」
「…はぁ」
「いや…そろそろ下校の鐘も鳴りますし…
 早く帰ったほうがいいでしょう、その人も鐘が鳴れば校舎からは出るでしょうからね」
「…あ…はい…それじゃ」
「…よかったですね…入らなくて…」
「え?」
「いえ…それじゃお気をつけて」

背筋に薄ら寒いものを感じた
俺は足早にその場を去った
階段を駆け下りると、1Fの踊り場にゆき兄がいた

「…何やってんだ?そんなに慌てて…」
「あ、いや…」

ゆき兄を探していた、と言おうとしたがなぜかさっきのことが頭から離れず
そればっかり気になって考えていた、あの違和感はなんだ?

「…まぁいい、帰ろう」
「…ああ」

下駄箱まで無言だった
沈黙が重かった、同時に背筋の寒気が取れない
靴を履き替えたところで沈黙に耐え切れなくなった俺はゆき兄に言った

「…ゆき兄は…影男の話を知ってるか?」
「!?」

ゆき兄の足が止まった
…何だ、何かまずいことを言ったんだろうか

「…どこで聞いた?」

振り向いて、ゆき兄はそういった
その目はいつものやる気の無い目じゃなく、真剣な眼差しだった
その迫力に少しうろたえた

「あ、いや…」
「どこでその話を聞いたんだ」
「…どこってわけじゃないただ誰かが話してたのが聞こえただけで」

咄嗟に嘘をついた

「…そうか」
「なぁ…影男って…」
「…この学園には…よくある学校の七不思議って奴がある
 彷徨う影男はその一つだ…」
「…それだけ?」
「ああ…単なる噂だ…
 気にすることはない」

単なる噂?
それだけでゆき兄があんな反応を?

「…何か…隠してるだろ…
 知ってるんだろ…?」
「…ただの噂だ」
「嘘つくなよ、今日保健室に運んだ女子
 彷徨う影男に掴まった奴は目を奪われる…
 物理的に奪われたわけじゃないがあれは目を奪われたってことじゃないか!?」
「あれは何かの事故だ」
「原因不明で何人も同じような状態になってんだろ!
 何か知ってるんだろ!」
「違う!!影男は単なる噂で…!」
「教えてくれよ!頼むから!」
「もうこの話はするな!!」

ゆき兄の怒声が響いた
その時だった

下校の鐘が、鳴った

「しまった…!おい!早く出ろ!」
「まだ話が終わってない!」
「いいから早く来い!校舎から出ろ!!」
「影男について知ってることを…」


「喧嘩ですか?下校時刻は過ぎましたよ?」

聞き覚えのある声がした
振り向くと、さっきの奴が立っていた
ゆき兄が言った

「ああ、すぐに帰る」
「でも…」
「帰るんだ、いいな、たまゆら」
「う…」

迫力に押されて、思わずうなづいてしまった
ゆき兄に押されるように校舎から出た

「…いいでしょう…今回は見逃してあげます」

後ろの奴が、そう呟くのが聞こえた
あれ、でもあいつは下校しなくていいのか…?

帰り道、ゆき兄は一言も喋らなかった
話しかけれる雰囲気でもなかった
そうこうしてるうちに寮についた

9/20 夜
喧嘩というほどでもないがあれ以降明らかにゆき兄のご機嫌はナナメだった
しかしゆき兄は絶対に何かを隠してる
少なくとも視力を失うという一連の事件と影男は関係があるはずだ
しかしどうすればいい…ゆき兄が何か話してくれるとは到底思えない…
…影男について詳しそうなのは…あの小川とかいう奴だろうか
ロビーにいれば、会えるかもしれない

部屋を出てロビーのイスに座って待つことにした
ロビーには誰もいなかった、自販機のブゥーンという音だけが響いている
1人で座っていると今日のことを思い出した
生徒会室の前で、あの男子生徒と会った時に感じた強烈な違和感は何だったのか…
単に逆光で顔が見えなかっただけなのに…あの違和感はそれだけじゃ…

「…私に…会いたがっているようですね…」
「うわっ!?」

横に小川がいた

「…言わずともわかりますよ…ただ…私の部屋は209号室ですから…
 会いたかったら…次からは尋ねてきてください…」
「あ、ああ…」
「それで…?何を聞きたいんです?」
「影男について」
「…ほう」
「…例えば…影男に奪われた目を取り戻す方法とか…」
「…そうですねぇ…聞いたことはないです…」
「…」
「ですが…最も危険な方法ではありますが…
 影男に直接頼んでみるというのは…どうですかね?」
「直接?」
「今日の深夜2時…4Fの廊下の右端の部屋…
 そこに…行けば…会えるかもしれませんよ…」
「…どうして知ってるんだ?」
「…さぁ?そんな気がするだけですよ…
 信じるも信じないも貴方次第、占いと一緒です…」
「…わかった」
「それでは…貴方が目を奪われないことを祈ってます…」

小川はふらふらと消えていった
深夜2時、4Fの廊下の右端の部屋…



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最終更新:2009年11月01日 02:21