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邪眼学園黄龍譚1限目【煌きの星】後編

9/20 深夜
こっそり寮を抜け出した俺は校舎に入れる場所を探していた
すると1Fの男子トイレの窓が開いた
少し狭いけどなんとか入れそうだ

「おい」
「うおっ!?」

思わず声をあげた

「ば、馬鹿、声がでかい」

ゆき兄が慌てて静かにしろとジェスチャーしてきた

「びっくりした…でもどうしてここに…」
「コーラを買いにいったらお前がこそこそ歩いてたからな
 つけてきた」
「全然気づかなかった」
「それより何を考えてる、深夜の校舎に忍び込むだなんて校則違反も甚だしいぞ
 俺は忠告したはずだ、校則を守れと」
「…」
「…ふん、何が目的かはだいたいわかってるがな
 お人好しも度を越すとただの馬鹿だぜ」
「…違うよ」
「あ?」
「勿論、影男に目を奪われた人たちが心配で助けたいって想いもそりゃあるけど…
 俺は、真実が知りたい…」
「…人は誰しも真実を見たがるが…
 それが元を破滅の扉を開いてしまうことだってあるんだぞ」
「…」
「悪いことは言わん、今からでも遅くない、戻れ」
「…俺は」
「ん?」
「俺は心に余裕がある、ありすぎて困ってる
 だから、こうして誰かのために動けるんだ」
「…!」
「…勿論、怖いさ…でも…ここまで来た以上…」
「…ああ、クソ
 調子狂うわ」

ゆき兄は頭をボリボリ掻きながら悪態をついた

「わかったよ、早く行け」
「うん…心配してくれてありがとう…じゃ俺行くよ」

トイレの窓枠に手をかけ、俺は中に入った



「真っ暗だけど、懐中電灯を持ってきていてよかったな…」

懐中電灯の明りに照らされたトイレは強烈に不気味だった

「こっぇえ…」
「おい、ちょっと待て」
「え?」
「よっこらせっと…」

窓からゆき兄が入ってきた

「…え?」
「何ボサッとしてんだよ、さっさと行くぞ」
「…ゆき兄」
「…全くどうかしてんぜ俺…」

トイレから出る、廊下に出ると窓から差し込む月灯りでだいぶ明るかった

「で、どこ行くんだ?」
「4F、廊下の右端の部屋」
「よしさっさと行こう」

階段まで歩く途中にぼーっと月を見ていた
にしても明るいな、そういえば夕方も夕暮れで明る…
そこまで考えた時、あの時のことが思い出された

あの時、俺は薄暗くなった廊下で…プレートがよく見えなかった…
そうだ、校舎の廊下の窓は基本的に東向きだ
なら…あの時…あの男子生徒は俺の後ろにたっていて…
逆光で顔が見えないはずが…無い
じゃあなぜ顔が見えなかった?
いや、それだけじゃない…下駄箱の所でも…顔が見えたか…?
見えなかったんだ…どうして?

「ん…どうしたんだたまゆら?」
「あ…いや…ゆき兄」
「何だよ」
「下駄箱のところで俺たちに話しかけてきた奴…
 顔…見た?」
「…見たはずだが…いや…見えなかった?」
「…影男…」
「…まさか…」

背筋が寒くなった、100歩譲って下駄箱の所は何かの間違いだとしても
生徒会室の前でのあれは明らかにおかしい
あいつが…影男なのか…?
そのまま言葉を発しないまま、気がつくと俺たちは4Fの廊下の右端の部屋
【天文部】と書かれたドアの前にいた
時刻は、深夜1時58分
ドアに手をかける、心臓が早鐘のように脈打つ
ゆき兄は静かに窓の外を見ている
震える手を抑え込んで、意を決して俺はドアを開けた

「…普通だな」

ゆき兄が言った
本当に普通だった、物が沢山置かれていて少し狭い感じの部室には特におかしい所はなかった
時計を見る…2時丁度…

「…深夜の校舎への侵入…
 盛大に校則違反ですね」
「!!!」

振り向くと、あの男子生徒がいた
顔は、見えない
ガチャリと、鍵の閉まる音がした

「…見逃してあげたと言うのに
 折角助かった命を無駄にするとはね…」
「…お前、執行部だな?」

ゆき兄が言った
執行部…?

「…僕は、1-Aの空天しげる
 察しの通り執行部の1人だ」
「影男として学園の風紀を乱す輩を取り締まってたんだな」
「奴らは…夜が好きでね
 深夜に寮を抜け出し遊んだり…だから夜に落としてあげたんだ」
「…俺も夜は大人しく寝ておきたいんだがな
 そういうわけで見逃してくれないか?」
「ク、ククッ…馬鹿だな、知ってるだろ…
 この学園の法を作るのは生徒会…その法は絶対…
 如何なる例外も許されない」
「…チ」
「そして法を犯す者たちを断罪するのが…
 我ら執行部!!この空天しげるがお前達を断罪する!!」
「たまゆら!逃げろ!!」
「無駄だ!!!」

その瞬間、まるで電気が消されたように
全ての光が消え、視界が暗闇に包まれた

「な、なんだこれ!?」
「落ち着けたまゆら!!」
「お前らのような…オマエラのヨウナ…
 ソンナニ夜ガ好キナラ…!ズット夜ニイレバイイ!!」
「たまゆら!逃げろ!!ぐっ…!」
「オチロ!!ヨルニ!!」

何かが倒れる音がする
視界は真っ暗なのに周りがドタンガタンバタンと誰かが暴れる音がする

「たまゆらぁぁぁ!!ぼさっとしてないで逃げやがれぇぇ!!」
「コイツッ…!!」

逃げれるわけがない、何も見えない
それに、ゆき兄を置いていくなんて…
俺のせいなんだ…俺が変な意地を張ったから…
ゆき兄はただついてきてくれただけなのに

「やめてくれ!ゆき兄は関係ないんだ!!
 頼む!やるなら俺だけにしてくれ!」
「何を言ってる!いいから早く逃げろ!!」
「逃げれるわけないだろ!
 頼むよ!ゆき兄だけは!!」
「理由ガドウアロウト、罪ハ裁カレル」
「こいつらに説得は通用しない!!
 早く逃げるんだ!!」
「…なんだよ…なんだよ…生徒会って…
 執行部って…こんなの…!こんなの認めない!!」
「オマエガ認メズトモ、我ラハ存在シ
 コノ学園ノ平穏ヲ守ッテイルコトハ事実ダ
 …サッキカラウルサイ奴ダナ、オマエカラ目ヲ奪ッテヤロウ」
「まっ…たまゆらぁあああああ!!」

目は見えない、けれど何かが迫ってくるのを感じた
平穏を守っているだと…?たかが校則違反で視力を奪う?
そんなものが…平穏なわけない!!

「ガッ!?」
「お前らみたいな存在…認めてたまるかぁああああああ!!」
「たまゆらッ!?これは…!」




あれ?
俺どうなったんだ?
真っ暗だけどさっきの暗闇とは…何か違う…

「うっ…!」

頭にピシッと電気が走るような、刺激を感じる
何だ…何か聞こえる

『力、目覚めし今
 陰を滅する陽の力をお前は得るだろう』

誰だ!

『今こそお前はその手に得るだろう
 天地を統べる黄龍の力…比類なき破邪の光を…』

何を言って…

『だが忘るるなかれ…
 陰を滅ぼす陽の力、逆もまた摂理…』

待っ…




「ナンダ…コノ光ハ…!?」
「たまゆらお前…!」

あれ…俺は何を…?

「…目が見える!」

真っ暗闇だった視界が元に戻っていた
目の前に影男…いや、空天しげるが顔を抑えてよろめいていた
同時に右腕に何か重みを感じた

「な、何だこれ!?」

右腕を見ると、グローブ…いや手甲と言えばいいのか
何かの紋様が書かれた手甲が右腕についていた
手甲は淡い金色の光で薄っすらと光っていた

「クッ…光…!ヤメロ…!!
 ソノ光…ヤメロォォォォォオオ!!!」

左手で顔を抑えたまま、右手を突き出し空天しげるは俺に突っ込んできた
しげるの右掌に、赤い目が光っていた
なんなんだよコイツは!

「たまゆら!!!!」
「うっ…!!」

頭にまた何かが…!!

『黄龍鉄甲は陰を撃ち滅ぼす究極の破邪の拳
 如何なる陰も、その拳撃に耐え切る事は不可能』

黄龍鉄甲…!?
この右腕のがそうなのか…!?

「何ボサッとしてんだたまゆらぁぁぁぁ!!」
「ヨルニオチロォォォォォォォ!!!!」
「…究極の破邪の力…!!!
 うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

俺は前に踏み出した
しげるの右掌が、頬を掠った

「ナッ…!?」

そのまま、クロスカウンターのように俺の右腕がしげるの顔面に入った
お互いの加速がぶつかりあい、しげるは一瞬の静止の後、後方へと吹き飛んだ

「グガァァァアアアアアアアアア!!?」

吹っ飛んでいろんな物を巻き込みながら
しげるは床に仰向けに倒れた

「…破邪の…力…
 黄龍鉄甲…」
「たまゆら…お前…」
「あ!ゆき兄大丈夫!?」
「ああ…俺は大丈夫だが…
 その手甲は…」
「グ、ガグッ…ゲッ…ガッ…!」
「!?」

倒れたしげるが頭を掻き毟り暴れだした

「くそっ…!こいつまだ!!」
「待て、様子がおかしい」

腕を構えると、ゆき兄がそれを止めた
よく見るとしげるは暴れてるというより苦しみもがいてるようだった

「…ああ…!力が…!力が抜ける…!
 どうして…!?いやだ…力が…嫌だ…!
 誓ったじゃないか…!この力で…!
 …夜に隠れる穢れを…!うっ…あぁあぁぁぁ…!!
 ウォアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

しげるの体から、黒い煙のような物が上がっている
同時にあたりに響く不気味は叫び声
まるで断末魔の叫びのような…
その叫び声は消え、黒い煙のようなものも薄れて消えていった
後に残ったのは倒れているしげると、静寂だけだった

「…助かったようだな」

ゆき兄が静かにそういって
倒れているしげるに近づいた
俺も続いた
しげるは呆然とした顔で天井を見つめていた
その顔は、もう影ではなかった

「…僕の彼女は…
 …深夜の道でたむろっていた不良達に絡まれて…
 酷い目に合わされて…結局その怪我が元で帰らぬ人となった…
 それから…僕は夜を憎んで…人の心を…掻き乱す夜の闇を…憎んで…
 だから僕が影となって…闇となって…夜に蠢く奴らを…皆滅ぼしてやりたかった…
 そのためなら…僕はなにを差し出しても…!!なのに…僕はもう…!!」

その時、黄龍鉄甲から金色の光が溢れ出した

「なっ!?」
「!?」

溢れ出した光は、部屋の隅に置かれていた天体望遠鏡に集まった
そして光は更に膨れ上がり、辺りは光に包まれた







「しげるん、あのね、夜は人の心と似てるんだよ」
「どういうこと?」
「深い闇に落ちる夜もあれば、満天の星の輝きに満たされる時もある
 不安を駆り立てるような月の夜もあれば、心満たされるような綺麗な月の夜だってある」
「…うん」
「ねぇ、しげるん…闇を、夜を恐れてはいけない
 夜を恐れるということは人の心を恐れること…
 …それでもいつか、深い闇に囚われて自らが星の光を閉ざしてしまう時がもし来たなら」
「これは?」
「天体望遠鏡、私のお古だけどね
 それで星を見て思い出せばいいよ、人の心にある、星の煌きにも似た小さな、それでも無数にある光を」
「…わかったよ、ツチノコ」






「ツチノコ…ツチノコ…!何で…!!」
「…しげるん…」
「ツチノコ!」
「…私がしげるんに残す言葉…人を信じて…夜の闇の中の光を信じて…」
「…」
「…ごめんね…一緒にいられなくて」
「ツチノコ…」
「人の煌きを…信じて…しげるんもいつか…
 心に…満天の星を…」
「あぁああああああああああ!!!!」






「…彼女についてですが
 道で突然倒れ、たまたま通りすがった少年たちが救急車を呼び…」

違う

「あの子たちが通りすがらなかったら…
 そのまま死亡していたものと…」

違う!!!

ツチノコは夜に殺されたんだ
夜に蠢く奴らに殺された
…許さない…決して許さない…!!
夜が…憎い…!夜に蠢く奴らが…!!!!
いつか…必ず…僕が奴らを裁く…!!





「しげるん…」
「ツチノコ…?」
「私の言葉は…伝わらなかったの…」
「違う…違うんだ…」
「…」
「やめてくれ…そんな顔しないで…
 僕は…僕は…!!」
「しげるん、手を出して」
「え……これは」
「もう1度、光を信じて見て」
「信じる…信じるよ…だから…だから…」
「それで…いいの…」
「待って…待ってよ…!!
 嫌だ!行っちゃ嫌だよ!!」
「私も…空に輝く星となって…
 しげるんが光を見つめられるなら…いつも…傍に…」
「つちのこぉぉぉぉぉ!!!!」







光が消えた
月と、星の明かりに照らされた部屋で
しげるは天体望遠鏡を抱きかかえて、泣いていた

「わかって…たんだ…ツチノコが死んだのは…誰の責任でもないことを…
 でも…僕は…!それを受け止めれなくて…誰かのせいにして…!
 そうしないと僕は耐え切れなくて…怨みを抱いていないと…生きれなかったんだ…!!」

ゆき兄は何も喋らなかった
ただ、目を伏せて、そこに立っていた
俺は、ゆっくりしげるに歩み寄った

「…もう1度、信じてみればいい」
「う…くっ…」
「永遠の闇が続く夜なんて、無いんだから」
「…ツチノコ…僕は…やっとわかったよ…
 どんな夜でも見えないだけで…星はずっと輝いている…
 見えなくしていたのは…僕だったんだ…」
「…」
「…そっか…これが…今まで目を背けてた…夜に輝く…
 …綺麗…だな…」

しげるは目を瞑って動かなくなった

「お、おい!?」
「心配ない…過度の疲労で意識を失ったんだろう」
「本当に?」
「ああ…しかし驚いた…その右腕のそれは…」
「俺にもよくわからない…けど
 きっとこれは…悪い力じゃないはずだ…
 その証拠にしげるの闇が祓われた…」
「…そうだな」

静かに、ゆき兄は呟いて
僕らはしばらくそこで空を見ていた
星は、綺麗に、輝いていた
まるでしげるの心を映しているかのように…

「寮に戻ろう…今日はもう休んだほうがいいだろう
 そいつもな」

ゆき兄がしげるを指差して言った
俺たちはしげるを担いで、寮へと戻った






「…闇の気配が消えただと…?」
「まさか…やられたとでもいうのか?」
「…馬鹿な」
「…我ら力を持つ者を…誰がどうやって…?」

「1人消されたそうだな」

「会長…」

「情報は入っている、奴を倒したのは…
 転校生のたまゆら…」

「…転校生」
「心配しないでください
 所詮あいつの力は視力を奪うだけの…いわば守りの力」
「攻めの力を持つ我らで、必ず転校生を断罪します」

「…期待しているよ」

「…兎に角、奴が何を考えてるかは知らんが
 しげるを倒したというなら…」
「…だが敬意を表し、しばらくは学園生活を謳歌させてやろう」
「だが次は…無い…」







男子寮 -ゆき兄の部屋-

「…やっぱり運命なのか…これは?
 陰が集まれば…バランスを取るために陽が集うと…?」

ゆき兄はコーラの缶を机に置いた

「…黄龍の器…か」





第1章 -煌きの星-





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最終更新:2009年11月01日 02:22