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邪眼学園黄龍譚2限目【壊せぬ決意】前編


9/21(金) 朝

目覚ましが鳴り響いた
非常に眠い…あと軽く右腕が筋肉痛
なんとかベッドから這い出して顔を洗う。

昨日のあれはもしかしたら夢だったんじゃないだろうか
そう思って机の上を見ると…夢じゃない証拠があった
しげるとの争いの中、突然謎の声と共に俺の右腕に現われた破邪の武器『黄龍鉄甲』
あの声がなんなのか、そしてこれが何なのか、全部謎だらけだ
だけどこれがなければ今頃俺とゆき兄は視力を失っていただろう
それに、これから溢れ出た光がしげるの心の闇を祓ったのも事実だ
…溢れ出たと言えば…しげるから出ていたあの黒い煙は何だったんだろう
黒い煙から断末魔の叫び声が上がっていたような気もしたが

「あ…遅刻する」

慌てて用意を済ませて部屋を出ようとする

「さすがに…学校には持っていけないか」

俺は黄龍鉄甲を机の上に戻して部屋を出た。


─2-C教室─

「たまゆら君おはよ~ぅ、遅刻寸前じゃん」

教室に入るなりリカが話しかけてきた
ん、そういえば…

「ゆき兄…きてる?」
「ううん、元に戻ったというか何というか…
 多分昼まで来ない…いや昼になっても来るかどうか
 全く人が心配してあげてるのに…だいたいあいつは昔から-」

リカはゆき兄の文句を言い始めた
しかし正直今日はしょうがないかもしれないという気もする
俺だって転校したてという看板が無ければサボってたかもしれない
…ちょっとゆき兄がうらやましい

「…あ、ごめん、ついつい1人で喋っちゃった」
「ああ、いや…」
「どしたの?…ていうか目の下のクマが…
 夜更かしでもしたの?」

夜中にゆき兄と学校に忍び込んで
影男というか執行部の1人と戦って謎の武器を手に入れて
それで執行部を倒したなんて言えるはずもない

「なんか眠れなくてさ…
 ズルズル起きてるうちにちょっとね…」
「また悩みごとでもあるの?」
「いやいや、本当普通に眠れなかっただけだって」
「そっか、よかった、うんうん、そういう時もあるよね
 おっとそろそろ授業始まるね、頑張ってね」
「ははは…居眠りしそ…」

9/21 昼休み

居眠りはしなかったものの内容は全く頭に入ってこなかった
昨日のことをどうしても考えてしまう

「…よぉ」
「あ」

ゆき兄が横に立っていた

「疲れてるみたいだな
 俺に気づくまで随分かかった」
「…今来たの?」
「ああ、さっきまでグッスリ寝させてもらったぜ
 誰かさんみたいにタフじゃないんでな」
「ぬぅぅ…」
「まぁそう睨むなって
 いい話を持ってきてやったから」
「いい話?」
「ここに来る前に保健室によってヤチャに話を聞いてきたんだが
 影男に視力を奪われた奴の視力が軒並み回復したらしいぜ」
「…」
「今全員回復したが確認してる所だ
 最も確認の必要すら無いかもしれないがな」
「そっか…よかった…」
「…お前は本当にお人好しだな
 あいつらだけじゃなくてしげるの奴まで救っちまうんだからな」
「しげるを救ったのは俺じゃなくてあの黄龍鉄甲の…」
「お前だよ、間違いない」
「…」
「まぁいいや…あ~あ…飯食うのすらダルいわ
 …あー、そうそう、どうせロクに授業の内容が頭に入ってこないんだったら
 素直に体力の回復に努めたほうがよっぽど生産的だぜ?」
「…む」
「気が向いたら屋上に来い
 多分俺は午後はそこで時間潰してからな」
「…丸一日サボる気か?」
「言ったろ、どうせ内容が入ってこないんだったら
 休んでるほうがよっぽど生産的だってな…じゃあな」

ゆき兄はふら~っと教室を出て行った
確かに一理あるが…いや、いかんいかん
転校してきてまだ1週間なのにサボったりしてたら色々とマズい気がする
とりあえず授業には出ておいたほうがいい
よし、多少目も覚めたしお昼ご飯でも食べよう
シャインでゆっくり食うって気分でもないし売店で済ますか


売店で3個ほどパンを購入した
さてどこで食べるか、と考えて歩いていると曲がり角で衝撃を受けた

「うわっ!?」
「わっ!?」

俺はバランスを崩してそのまま尻餅をついてしまった

「ごめん、急いでたから…!」

ぶつかってきた男子生徒は飛び散ったパンを拾い集めて渡してくれた

「怪我はない?」
「大丈夫だよ」
「これ、お詫びにあげるよ…!」
「あ…うん、ありがとう」

手渡されたのは…うまい棒…なんで?

「それじゃ本当にごめんね!じゃ!」
「ああ…どうも」

なぜうまい棒なのかよくわからない…
まぁいいか後で食べよう
そう思ってポケットにうまい棒を突っ込んだ




「ん、なんだ、たまゆら、結局来たのか」

ゆき兄がニヤニヤしながら話しかけてくる

「授業はちゃんと出る、昼飯を食いにきただけだよ」

教室に戻って食べようかとも思ったが
もうだいたい皆食べ終わっている中で1人で食う気にはなれなかったから結局屋上で食べることにした
食べてる間ゆき兄はずっとどこかを眺めていた
最後のパンを食べ終わった辺りでゆき兄が話しかけてきた

「たまゆら、黄龍って何か知ってるか?」
「聞いたことはあるけどよくはわからない…」
「あの武器について気になるなら調べておけばいい
 放課後にでも図書室に行って見ろ」
「わかった…けど、ゆき兄知ってるんじゃないのか?」
「…説明がめんどくさいから自分で調べろと言ってるんだ」
「…」
「ま…はっきりいって突然現われた黄龍の名を冠する武器なんて
 どんな文献を調べても無いとは思うがな
 それでも気になるならとりあえず黄龍についておおまかには知っておくのがいいだろう」
「…ああ」
「図書室にいったらピュアって奴に聞いてみな」
「ピュア?」
「ああ、ピュアだ」
「…わかった」
「さて…もうすぐ昼休みが終わるが
 どうすんだたまゆら?」
「授業には出るよ」
「…真面目だねぇ」

ゆき兄はそれだけ言うと影のほうに移動して寝転がった
そしていってらっしゃいと言わんばかりに手を振った
イラっとしたことを伝えるためにドアを乱暴に開けて俺は教室に戻った

9/21 放課後
HRが終わった
朝よりかはだいぶ目が覚めていた
ゆき兄言われたとおり、図書室で黄龍について調べてみよう
そうえいば図書室にはまだ行ったことがなかったな


図書室では数人の生徒が本を読んでいた
意外と広く、1人で黄龍について調べるのは骨が折れそうだった
そういえば、確かピュアって人に聞いてみろってゆき兄がいってたな
とりあえず受付にいたメガネの男子生徒に聞いてみることにした

「すいません、ここにピュアって人は…」
「…僕がそうです、何か用ですか?」
「あ、その、黄龍について…教えてもらいたくて…
 貴方に聞けばいいって…言われて」
「黄龍?」
「ええ、黄龍」
「――黄龍、コウリュウやオウリュウ、ウォンロン、ファンロンと発音されるが
 日本では主にオウリュウと読む。
 中国の伝承や五行思想に現われる、黄色、もしくは金色の龍であり。
 朱雀、青龍、白虎、玄武等の四神の長とも呼ばれ中心的存在であり
 四神が東西南北の守護獣なのに対し黄龍は中央を守るとされる。」

いきなりペラペラとピュアと言う人は喋りだした
凄い、何も見ずにいきなりこんな…

「黄龍は皇帝の権威を象徴する龍とされ、後に麒麟に置き換えられたり同一視されるようになった。
 さらに中国の伝承では泥水の中で500年を過ごした蛇が龍になるといわれている。
 この龍は雨を降らせる蛟龍(こうりゅう)と呼ばれ、さらに1000年経つと龍
 500年経つと角龍、1000年経つと応龍にになると言われている。
 応龍の中でもとくに老練なものが黄龍と呼ばれ,世界の中央を守護する神獣とされている」

そこまで喋った後にピュアという生徒はチラリとこちらを見た

「それで、他に聞きたいことは?」
「あ、いえ…」
「そう、それじゃごゆっくり」

なるほど、要するに黄龍ってのは世界を守る神獣と考えればいいのか
それじゃああの時、頭に響いた声は黄龍?

「しかし…」
「え?」
「突然黄龍について聞かれたのは初めてだ
 最も僕は誰に何を聞かれても淀みなく答えるためにあらゆる知識を探求しているがね」
「そうなんですか?」
「知識はどれだけあろうと困ることは無い、むしろ様々な局面で知識があればあるほどより正確で適切な判断を下せる
 なにより、知識を得るということ自体が楽しいだろう?」
「そ…そうですね」
「…書物には書物の運命がある。 運命を決めるのは、 読者の心である」
「え?」
「テレンティウス・マリウスの英雄歌より…
 本は丁寧に扱ってね…」

それだけ言うとピュアは何かの作業を始めた
なんだか圧倒された俺はしばらく自分で黄龍について調べてみることにした
…だがだいたいさっきピュアが話してくれたことばかりで時間の無駄だった
それでも五行思想や風水など色々と本を漁ってみた

「…西に黄色の物を置くと金運アップか…」
「ねぇ」
「え?」

顔を上げるとピュアがいた

「閉館、早く帰ったほうがいい
 もうすぐ下校の鐘が鳴る」

そうか、時間を見てなかったけどもうそんな時間だったのか
本を棚に戻して、図書室を出ようとした

「また来るといい」
「はは…それじゃ…」

気に入られたんだろうか…



9/21 夜
部屋で黄龍鉄甲を調べてみる
別に何の変哲もない、手甲。
ただし表面に書かれているというか彫られているのは先ほど図書室の本で見た黄龍の図にそっくりだ。
特に光るような部分も見つからないし、本当に何の変哲も無いただの手甲だ。

見つめながらぼーっとしているとドアがノックされた。

「はい?」
「あの…空です…」
「!?」

空?しげる?
まさか…報復に来たってのか!?

「あ…う…」
「あ、その…安心してください、もう敵意は無いです
 ただ少し話しを…」

恐る恐るドアに手をかける
このドアを開けた瞬間にまた真っ暗闇とかになったらどうしよう
念のために黄龍鉄甲をつけておくか…?
いや、敵意は無いと言ってるんだし…信じよう
思い切ってドアを開ける
ドアの前には申し訳なさそうな顔をしたしげるがいた

「すみません…ただどうしても話が…」
「ああ…うん…」
「何から話せばいいのか…そもそも話して…いいのか…」

しげるは目を伏せて落ち着かなさそうにしている
言いたいことがあるのに言い出せない、そういう雰囲気だ
しばらく考え込んだ後にしげるは言い出した

「…多分…もう貴方は執行部に目をつけられています」
「え?」
「僕がやられたことは恐らくもう執行部員や生徒会全員に知れ渡ったと思います
 そうなると間違いなく彼らの興味は僕を倒したたまゆらさんに向くはずです」
「俺に…?」
「恐らくすぐには動いてこないでしょうけど…そのうち必ず彼らは動いてくると思います…」
「…そんな」
「執行部員は全員が僕と同じように常識を超越した力を持っています
 僕は執行部員の中では最も新しくて力は弱いほうでしたけど…」
「…」

開いた口が塞がらない
要するに悪の組織に狙われてていつ襲われてもおかしくない状況ってことだ
さらにあの視力を奪ったりする能力が弱いほうだって?
それじゃあ他の執行部員は一体どんな力を持ってるっていうんだ

「執行部員は普段は一般生徒に紛れて、普通の部活動にも所属しています
 これは生徒全員が知っていて常に見張られているというプレッシャーを与えて
 校則を犯そうとする生徒を牽制しているんです
 最もたまゆらさんは転校したてでよく知らないと思いますけど…」
「…そうなんだ…」
「…それと…その…力についてですけど…」

そうだ、それが気になっていた
どうしてあんな能力を身につけたのか

「…僕の力は生徒会長に与えられました
 他の皆も、あの人に力を与えられました」
「生徒会長に…?」
「…力を与えられた時、僕は思いました
 この力で夜に隠れる穢れ全てを浄化してやる、ツチノコを奪ったこの夜に永遠の沈黙を…って」
「…」
「今ならわかります…
 …この力はただ得たわけじゃない
 代償として、大事な何かが歪み、重要なことを忘れてしまう…」

しげるは辛そうに語っている
ツチノコへの強い想い、それが力を得たことによって歪んでしまい
あのような凶行に出たということなのだろうか

「…僕は貴方に死んで欲しくはない
 だから僕は執行部員全員に話をつけます」
「え?」
「新参の僕の言うことをどこまで聞いてくれるかわかりませんが…
 それでも何とか説得してみます」
「でも、他の奴らも力を持ってるんだろ…?大丈夫なのか?」
「正直わかりません…
 ただ僕も執行部員ですからね、そこまで手荒な真似はされないと思います」
「…どうしてそこまで?」
「暗い夜の闇を貴方は照らしてくれた
 おかげで僕はツチノコの残した言葉をやっと理解できたんです
 …心配しないでください、たまゆらさん
 必ず他の執行部員を説得してみます」
「…ありがとう」
「いえ…それじゃ…おやすみなさい」

しげるはお辞儀をして去っていった
しかし学生の身で生き死にがどうこうという話になるとは思わなかった
とにかく今はしげるを信じるしかない
俺は不安な心をごまかすように部屋に戻ってベッドに潜り込んだ

9/22(土) 午前

目覚めると時計は11時を回っていた
随分と寝てしまっていたようだ、休日は素晴らしい。
ベッドから這い出して着替える。
それから昼飯…俺にとっては遅めの朝食を取るために部屋を出た

寮の廊下でゆき兄と出会った

「よぉ、今から飯か?」
「ああ」
「俺は今からシャインに行くんだが一緒に来るか?」
「え?シャインって休みの日も開いてるのか?」
「ああ、シャインはたまに休みはあるが基本年中無休だ」
「便利だな」
「24時間営業だしな、それでどうする?」
「じゃあ俺も行くよ」

ゆき兄と一緒にシャインで昼食を取ることにする


シャインに入るとカナが近づいてきた

「いらっしゃいませ~
 …む、珍しい、ゆき兄君が誰かと一緒だなんて」

そうか、リカと友達ってことはゆき兄とも面識があってもおかしくはないか

「俺だってたまには誰かと飯を食うことぐらいある」
「おー、しかも相手は誰かと思ったらたまゆら君だー」
「人の話を聞け」
「うんうん、やっとゆき兄も人並みにコミュニケーションが取れるようになったのか」
「現時点で1番コミュニケーションが取れてないのはお前だ
 いいからさっさと席に案内してくれ」
「はーい、こちらにどうぞー」

席に案内され
ゆき兄はさっさと椅子に腰掛けた
続いて俺も座る

「ご注文は?」
「普通決まったら呼んでくださいって言うもんじゃないのか」
「だってゆき兄いつも決めてからくるからすぐに言うじゃん」
「…鳥唐揚定食とコーラな」
「はい、鳥唐揚定食とコーラっと…たまゆら君は?」
「ええと…カレーライス…」
「はい、カレーライスですね、少々お待ちを~」

カナは奥に引っ込んでいった
どちらかといえばもっとあっさりした物が食べたかったんだが
急かされているような気がして、無難に選んでしまった

「…そういえば、黄龍について調べたのか?」

注文したのになぜか今更メニューを見ながら
ゆき兄が尋ねてきた

「ああ、一応調べてみた」
「そうか、まぁどうせ大した発見はなかったんだろ」
「まぁ…ね」
「何から何まで常識では計り知れないことばかりだからな」
「…そういえば昨日の夜にしげるが尋ねてきたよ」
「しげるが?」

メニューから目を離してゆき兄はこちらを向いた

「執行部と、力について聞いた」
「…ふむ」
「…あの力は生徒会長に与えられたと言っていた
 そんな力を持つ生徒会長って…どういう奴なんだ?」
「…」
「教えてくれないのか?」
「知らなくてもいいことだってある」
「…そうかよ」
「おまたせしました~カレーライスと鳥唐揚定食とコーラになります!
 ご注文の品は以上でよろしいですかー?」

丁度よくカナが料理を運んできた

「…まぁとりあえず食え、冷めないうちにな」
「ああ」

急かされて頼んだカレーライスだが割とおいしい
無言で食べていてふとゆき兄のほうを見た

「…よく、コーラでご飯が食えるな」
「関西人がお好み焼きをおかずにご飯食ったりするのは俺らから見ればおかしいが
 本人達にとってはごく普通のことらしい」
「そうらしいね」
「同じことだ」
「…あ、そう」
「どちらかといえば俺はうどんとご飯を一緒に食う奴のほうがおかしいと思う」
「何のことだ?」
「いや、別に…」

その後は食べ終わるまで無言だった
聞いちゃいけないことだったのかな…
程なくしてカレーライスを食べ終わった
ゆき兄もあらかた食べ終わったようだった

「…休日だが、街に出てみようとは思わないのか?」

唐突にゆき兄が聞いてきた

「特に欲しいものも行きたい場所もないし…
 何よりこの辺りの地理がまだよくわからないしな
 そういうゆき兄こそ出ないのか?」
「出るのはいいが帰るのがめんどくさくなるからな
 行きはよいよい、帰りは怖いってやつだ」
「…本当にめんどくさがりなんだな」
「無駄なことはしない主義でね」

ゆき兄は少し余ったコーラを飲みだした
会話が途切れて後ろの席の男子生徒同士の会話が聞こえてきた

「なぁなぁ、今度夜にこっそり駅裏のクラブいってみないか?」
「いまどきクラブってどーよ」
「けっこう可愛い子いるらしいぜ」
「でも校則違反じゃね?」
「バレなきゃかまわねーよ」
「まぁ…そうなんだけど…俺があいつらだったらお前ヤバかったぞ」
「いくらあいつらでもこんな他愛も無い会話をいちいち聞いてるわけないだろ
 そんでどうするよ?」


そこまで聞いてふとしげるの言ってたことが思い浮かんだ

【執行部員は普段は一般生徒に紛れて、普通の部活動にも所属しています
 これは生徒全員が知っていて常に見張られているというプレッシャーを与えて
 校則を犯そうとする生徒を牽制しているんです】

…でも確かにこんな他愛も無い会話をいちいち聞いてるはずも無いだろう
執行部の人数が極端に多いならともかく、恐らく全校生徒の1割にも満たないはずだ
それで学園全部の生徒同士の会話に耳を傾けるなんて不可能だ

「…そろそろ出るか?」

ゆき兄が言ってきた
見るとコーラのグラスも完全に空になっていた

「あ、待って、その前にトイレいってくる」

席を立ってトイレに行こうとする
すると軽く肩が通りすがりの人にぶつかった
よく見ずに立ったせいだ

「あっ…と、すみません」
「あ、こちらこそすいません…あれ、確か君…?」
「ん…あ、昨日昼にうまい棒をくれた」
「ああ、やっぱり、偶然だね、2-Dのえび助です」
「あ、俺はこの前転校してきた2-Cのたまゆら」
「転校してきた…?」
「うん、一週間前にね」
「そう…君が…
 色々と話は聞いてるよ、でもまさか君とは思わなかった」
「ははは…あんまり目立ってないからね」
「…いや、目立ってるよ…充分ね」
「え?」
「なんでもない、それじゃあね」

えび助は手を振って行ってしまった
俺もさっさとトイレを済ますことにした
用を足しながら考えて見た
やっぱり転校生ってだけで充分目立つのかなぁ
でも顔は知られてないみたいだな…
あまり他のクラスと関わりもないしそんなもんか
トイレから戻って席に戻るとゆき兄が立っていた

「おかえり、そんじゃ出るか」
「おう」

レジに向かおうとした

「あれ?何だこの箱?」
「…そういえば…さっきまで無かったよな?」

ちらりと見てみると男子生徒は直径5cmぐらいの小さな正方形の箱のような物を持っていた

「開けてみるか?」
「大丈夫か?」
「開けてみたら誰のかわかるかもしれないだろ?
 …あれ、でもこれどっから開けるんだ?」

男子生徒は箱を開けようと四苦八苦している
なんとなく気になってその光景を見続けたが箱はどうやっても空かないらしい

「たまゆら何やってんだ、さっさと行くぞ」
「あ、うん、ごめん、今行くよ」

気になるが、まぁいいや

「ごめんごめん、今――」

振り向いてレジに向かおうとしたその時






ドゴォン!!と真後ろから大きな音と衝撃を感じた

「うわぁぁ…あっ…あぁぁぁぁああああ!」

慌てて振り向くとさっきの男子生徒が右腕を抑えて顔を歪ませていた
右手から血が流れていた
辺りには物を焼いたような匂いが立ち込めていた

「だ、大丈夫か!?」

慌てて駆け寄る

「いてぇ…!なんだよコレ…!うっぐ…!!」

ど、どうしよう、とりあえずこういう時はどうすればいいんだ

「心配なら保健室に連れてってやれ」
「ゆき兄!?」
「大したことはない、右手が吹っ飛んでるわけでもないし指もついてる
 骨が見えてるわけでもないしな」
「…」
「だ、大丈夫ですかー!?一体どうしたんですか!?」

驚いた顔でカナが近づいてきた

「わからない…!箱が突然…!」
「ば、爆弾ですか!?」
「おい、カナ」
「ゆき兄、あんたの仕業!?」
「んなわけあるか、それより保健室に連れていってやれよ」
「りょ、りょうかい!」

カナさんは男子生徒の左手を引っ張ってドアから出て行った
ゆき兄がこっちを見て言った

「お前はどうすんだ?」
「俺も…ついていってくる」
「そうか、ほら」

ゆき兄は手を出した
しかし何も無い

「え?」
「カレーライスの代金」
「…」

ゆき兄に500円玉を渡し、俺はシャインを飛び出た
小走りで追いかけると校舎の前辺りでカナに追いついた

「待って!俺もついてく!」
「あ~!たまゆらさ~ん!よかったー!心細くてー!」

カナと、怪我した男子生徒を保健室まで連れて行く
ドアを開けるとぼけーっとした顔でヤチャマルがPSPで遊んでいた

「ん…?」

こちらに気がついた

「…おととい、ゆき兄と来た…ええと、たまゆらか
 どうした?」
「そのー…怪我人を運んできました」
「めんどくさいな…折角グラビモス2体がいい調子だったのに…」
「めんどくさいって…」
「ま、仕方ないか、怪我人は誰だ?」

俺とカナは右手を抑える男子生徒を椅子に座らせた
男子生徒はだいぶ落ち着いているようだった

「ふーむ、そこまで酷い怪我じゃないな
 軽度の火傷と軽く皮が破れてるだけだ、すぐに治る
 消毒と包帯ぐらいは巻いておいてやる」

それだけ言うと乱暴に何かの液体を男子生徒の手にぶっかけ始めた
男子生徒は染みる!染みる!と悶えていた

「ああ、お前らもういいよ
 ご苦労さん、相手をしてやりたいところだがこいつの手当てをしたら迅速でグラビモスを討伐しなければいけない」
「…」
「そんな顔すんな、話がしたいなら…
 …うん、今日の夜にでもイビルアイにでも来るといい」
「イビルアイ?」
「今日は多分イビルアイで飲んでるからな
 はい、そんじゃ出てけ出てけ」

半ば強引に追い出された
随分と適当というかフリーダムな保健医だ

「いやー、本当びっくりしましたねー
 それじゃ私はシャインに戻ります、ありがとね、たまゆら君!」

カナはお礼を言って走って行ってしまった
とりあえず俺も校舎を出よう
外に出るとゆき兄がいた

「待っててくれたの?」
「いいや、釣りを渡しにきただけだ」

ゆき兄が小銭を渡してくる
それを受け取るとゆき兄は踵を返してどこかに行こうとした

「ちょっと待ってくれよ」
「なんだよ」

ゆき兄が足を止める

「…どうして、あの時あんなに冷静でいれたんだ?」
「俺はいつもこんなんだ、特別冷静ってわけじゃない」
「それがおかしいよ…
 目の前であんなことが起こってそんな冷静でいられるなんて」
「慌てふためいてたら満足したのか?」
「…そういうわけじゃないけど」
「別に大した怪我でもなかったしな
 あいつは突然持ってる箱が爆発してパニックになってただけだよ」
「…でも…突然店内で爆発があったんだよ…
 …今思えば冷静なのはゆき兄だけじゃなかった…他の客も騒いではいたけど皆逃げようともしてなかった」
「…皆わかってんだよ」
「え?」
「爆発が起こる前のあいつらの会話聞こえてたろ?」
「ええと…」
「クラブがどうとかだよ」
「ああ」
「あれは執行部からの警告だよ、警告だからあの程度の怪我で済んだのさ」
「…執行部」
「ああ、もし校則を破ってクラブに行くと言うならこの程度では済まないぞっていうな
 同時に他の生徒への牽制、要するにあいつは見せしめだったわけだ」
「酷すぎないか…!?
 まだ行こうかって話してただけだぞ!?」
「だから警告なんだよ」
「警告って…限度があるだろ!?」
「だが効果はある、あいつにも周りの奴にもな」
「…だけど…」
「最初は皆そういう、いつしか馴れてしまう
 出る杭は打たれるからな」
「…」
「…確かに執行部は限度を知らん
 だが俺たちが校則を破らなければ執行はされないんだ
 つまり素直に校則を守っておけばいい、それだけだ
 逆に言えばそれさえ守っていれば安全は保障されるんだ
 …いいか、たまゆら、前回は何とかなったからといって今回もうまくいく保障はどこにもない
 勇気と蛮勇は違うんだ、覚えておけ」

それだけ言い残してゆき兄はどこかへ言ってしまった
確かにルールは必要だ、ルールを犯す奴には勿論多少の罰だって必要だと思う
だけど…たかがあれだけで…
俺はしばらくその場に立ち尽くした


9/22(土) 午後

寮に戻って部屋で休んでも憂鬱な気分は晴れなかった
確かにゆき兄の言うことにも一理ある
校則を破らなければ罰を受けることはない
だがたかが行ってみるかと軽く話していただけであの仕打ちだ
何より恐ろしいのは執行部や生徒会に異を唱えることなく馴れてしまっている生徒だ
ただゆき兄は馴れているというのとはまた何か違う気がする…
…生徒会と執行部、行き過ぎではあるが確かに正義ではある
だからといって正しいわけではない、自分たちに異を唱える者を問答無用で処理し
言論の自由さえも弾圧していくのは俺が思うに悪に他ならない
何よりこのやり方は生徒同士が疑心暗鬼に囚われる…多分俺は転校生だから皆その心配もなく話しかけてきたんだろう
皆が別クラスの奴とあまり関わらない理由がわかったような気がする
よく知らない奴と話すのは皆怖いんだろう
何気なく話したことが校則違反に順ずるもので相手が執行部なら警告を受ける
だから皆なるべくあまり仲良くない生徒、全く知らない奴に関わることを避けるんだろうな

そこまで考えたところでドアがノックされた

「はい?」
「俺だ」
「ゆき兄?」

ドアを開ける
相変わらずだが眠そうな目をしたゆき兄が立っていた

「どしたの?」
「どうせ執行部のことを考えてると思ってな、ほら」
「え?」

ゆき兄は俺の手に無理やりコーラの缶を渡してきた

「考えてどうにかなるもんでもないぞ
 結局変えることができないなら自己満足だ
 無駄に考えて脳を使った分、糖分でも補給しとけ」
「…」

言い方は多少乱暴というかストレートだが…
優しさというか不器用な気遣いを感じた

「…ありがとう」
「…そんだけだ、じゃあな」
「あ、そだ、ちょっと聞きたいことがあんだけど」
「何だ?」
「イビルアイってどこ?」

ヤチャマルが今日の夜はイビルアイで飲んでいるから会いたきゃ来いと言っていたものの
俺はイビルアイが何なのかしらない

「シャインの裏手にちょっといったところにある…
 なんて言えばいいか…うーん、要するにバーだな」
「バー?」
「ああ、だけど俺らが行っても楽しいことは無いと思うぜ
 元々教員のために作られたようなもんらしいからな
 生徒が利用しちゃ駄目ってことはないが無論アルコールは出してはくれない」
「ほうほう」
「まー、ああいう雰囲気の場所で飲むコーラもうまいんだがな
 ほぼ毎日顔を会わせてる教師…しかも中には酔っ払った奴までいる
 そいつらに囲まれて飲んでると何言われるかわかったもんじゃないしな」

それは普段サボりすぎてるせいじゃないだろうか
しかし確かに生徒が1人でフラフラと言っても余り面白くはなさそうだ

「まぁ行きたいなら行ってみるといい
 1度ぐらいならとりあえず行ってみるのもいいかもしれないしな
 じゃあな、俺は今から昼寝する」

ゆき兄は行ってしまった
確かに話を聞く分には行っても余り面白くはなさそうではあるが…
頭にヤチャマルの顔が浮かんだ
…まぁ…行ったことないし…どんな所か見てみようかなー…
ゆき兄も1度ぐらいならとりあえず行ってみるのもいいかもしれないって言ってたしー…


9/22(土) 夜

結局来てしまった、ゆき兄の話によるとここのはずだが…
レンガ作りの建物に草が巻き付いていて何だか非常に不気味な雰囲気だ
看板を見ると「BAR - Evil Eye」と書かれている、どうやら間違いないはずだ
ドキドキというかガクガクというか期待と不安が入り混じった頭でゆっくりとドアを開けた

「いらっしゃいませ」

中はあまり広くなかった
店内にはテーブル席が2つ、カウンター席が5つ。
カウンター席にはヤチャマルが座っていた。

「おー、たまゆらじゃねぇかー、本当に来たのか
 座れ座れ、ほらこっちだ、早く座れよ!!」

隣の椅子をバンバンと叩いて手招きする
なんだか随分昼とキャラが違うような…
素直に少し高めの椅子に座る、フカフカだった
辺りを見回してみる、シャインと似たように木造だったが
ふんわりとしたライトが店全体を照らしている、流れている音楽もゆったりとしたいい感じのものだ
うん、中々いい雰囲気だ

「イビルアイにようこそ、ここのマスターの神楽です」

カウンターの奥に立っていた人が話しかけてきた

「あ、はじめまし」
「神楽く~ん、こいつねー、たまゆらでねー、転校生だってー
 それより1体目はいい感じに倒したのに2体目で3乙とかありえねー!」
「ほうほう、転校生
 1体目倒した時点で気を抜くのが悪い」
「ありえんやろー!40分無駄にしたんだぞー!」
「タイムアップよりマシと思うんだ」
「ぜぇったい3乙しなかったら倒せてたんだよー!」

話に入る隙がない
っていうか本当に昼とキャラが全く違うな
どちらかといえばクールな雰囲気だったのに今は完全に砕けきってる

「お…悪い悪い、つい無視をしてしまった
 まぁ何か飲め、ほら、適当に飲め」
「えーと…じゃあ」
「先に言っておきますがアルコールは駄目ね」
「…じゃあ…烏龍茶」
「はぁぁあ!?烏龍茶って馬鹿だろー、たまゆらばーかばーか!
 ここはなぁ~!バーだぞ!かぁぐら君!ミルク出してやれ!」
「…じゃあミルクで」
「うーん、今日のヤチャマルはだいぶキテるねぇ
 でもミルクは健康にいいよ…」
「…そうっすねぇ」
「はいミルク」
「ぐびぃーっと行けー」

促されるままぐびぃーっといった
なんだかやけにおいしい気がする

「おー、いいねいいねー
 もっと飲め、それ飲めやれ飲めどんどん飲め」
「…飲ませたがり体質?」

結局腹が爆発するのではないかというほどミルクを飲まされた
いや、途中から流し込まれた

「うっぷ…」
「よく飲んだなー…
 ゆき兄ならこれがコーラだったらまだ大蛇のように飲み続けてると思うが」
「…俺をあんな中毒者と一緒にしないでくださいよ」
「実際コーラ中毒ってのは本当にあるからな
 厳密にはカフェイン中毒だが、砂糖も大量に含まれているから
 ゆき兄のように大量に摂取することで向精神作用もある」

どうやら酔いが冷めてきたらしい
昼間のヤチャマルに大分近づいている

「ところでどこか身体の調子が悪いのか?」
「え…?」
「いや、それか悩み事でもあるのか?
 それなら随分と悩んでるみたいだが」

足を組んでこっちを見てくる
悩み事といえば目下執行部のことだが…
そういえばヤチャマルは生徒会や執行部について知ってるんだろうか
しかし、何でわかったんだ?

「…確かに少し悩んでることはありますが…」
「少しじゃないだろ、かなりだ」
「…どうしてわかるんですか?」
「身体全体の氣が若干乱れている、正確には頭の氣の流れが歪んでいて
 それのせいで身体全体の氣の流れにも歪みが現われてる
 相当大きな悩み事を抱えているせいで微弱ながら正常な身体能力が阻害されてる状態だ」
「氣…?」
「悩み事があるなら話してみろ
 保健医には怪我や病気の治療だけでなく、心のカウンセリング能力も求められるからな
 最も無理にとは言わないがな」

ヤチャマルはまた何か飲みだした
…話したほうがいいんだろうか
話してもどうにもならないかもしれないが…

「ヤチャマルは…生徒会や執行部について知ってる…?」
「…なるほど、悩みの種はそれか」

ヤチャマルはグラスを置いてこちらに向き直った

「確かにこの学校の生徒会と執行部は一言で表すなら異常とも言える
 怪我人や病人などが多いのは事実だ」
「…」
「だけど私はそれについてはとやかく言わん」
「え?」
「保健医の仕事は怪我や病気の生徒の治療
 あるいはカウンセリングだ、それ以上も以下もない
 私は与えられた仕事をこなすだけだ」
「…ドライですね」
「人は自分が出来ることを精一杯やるだけでいいんだ
 どれほど頑張っても絶対に変えることが出来ない事もある」

そういってヤチャマルはまた飲み始めた
自分に出来ることを精一杯やるだけでいい…
俺に出来ることは…

俺は席を立った

「帰るのか?」
「…ええ」
「そうか、おやすみ」
「…おやすみなさい」

俺は寮に戻ることにした
ミルクの代金を払おうとしたらヤチャマルに止められた

「飲ませた責任もあるし私が出しておいてやるよ」

俺はお言葉に甘えることにして礼を言って外に出た


「若いねぇ」
「で、ヤチャマルまだ飲む気なの?」
「あったりまえじゃーん」
「…程ほどに、ね」




9/22(土) 深夜

自分の部屋に戻った俺は机の上の黄龍鉄甲を見つめていた
…自分が出来ることを精一杯…

【考えてどうにかなるもんでもないぞ
 結局変えることができないなら自己満足だ】

【人は自分が出来ることを精一杯やるだけでいいんだ
 どれほど頑張っても絶対に変えることが出来ない事もある】

【暗い夜の闇を貴方は照らしてくれた
 おかげで僕はツチノコの残した言葉をやっと理解できたんです】

悩んでいても、何も変わらない…
…俺がどれだけ悩んでもこの学園は変わらない
執行部員は力と引き換えに大事な何かを歪められている
だがしげるのように黄龍鉄甲でそれを救うことが出来るのなら…
それが…俺に出来ること…?
俺じゃなきゃ駄目なのか…?

「…どうして…俺のところに現われたんだ…?」

黄龍鉄甲は静かにそこに在るだけで何も答えてはくれなかった。





「がはっ…」
「言うに事欠いてあの転校生を見逃せとはな」
「…ぐっ…うう…」
「無駄だ、信じるべき正義を失ったお前に前のような力はもう無い」
「それに…所詮視力を奪うだけの力…我らに敵うはずもない」
「そして転校生を見逃せとはな、力を奪われただけでなく魂まで腐ったか」
「同じ執行部員にすら…この仕打ちですか…」
「同じ…?」
「げはぁっ!!!」
「お前のような半端な奴と僕らが一緒だと?」
「笑わせる」
「お前はすでに執行部員じゃない、それすらも理解できていないとはな」
「ぐ…ぁぁ…」
「…ねぇどうする?」
「…ふん、命を奪う価値もない」
「じゃあ僕にやらせてよ」
「好きにしろ」
「…ぐっ…うう…」
「安心しろよ、命までは奪わないからな」
「…お前も…同じなんだろうな」
「え?」
「…きっと…救ってくれる…たまゆらさんが…」
「…ワケわからないことをほざくなぁあああああ!!」
「がぁあああああああああああああああ!!!!!!!!」




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最終更新:2009年11月01日 02:24