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邪眼学園黄龍譚2限目【壊せぬ決意】後編


9/23(日) 午前

気がついたら部屋は太陽の光で明るかった
どうやら考え事をしたまま眠ってしまったらしい
ベッドで寝なかったせいか身体が痛い
朝食と取ろうと寮の廊下に出るとなんだか慌しい様子だった

「おい、グラウンドに…」
「処罰された奴が?」
「かなりやばいらしいぜ」
「…見に行くのか?」
「行ってみよう…」

何の話だ?
グラウンドに何かあるっていうのか?
深く考えずに俺はグラウンドに行ってみることにした




グラウンドにつくと人だかりが出来ていた
人の輪の中心に何かあるらしい

「ごめん…ちょっと通して…」

人ごみを掻き分けて中心に向かう
スポッと抜けたように輪の中心に到達する

「…え?」

輪の中心

そこには、十字架のようなものに張り付けにされている生徒がいた
全身はボロボロで服はあちこちが破れ、焼け焦げ、身体もいたるところが傷だらけ
ポタポタと滴り落ちる血が十字架の根元に血だまりを作っている

「…し…げる?」

張り付けにされているのは
間違いなく、しげるだった

「うわぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

目の前の光景に現実感がなかった
おとといの夜に普通に話していた奴が今にも死にそうな状態で十字架に張り付けにされているのだ
思考能力の限界を超えた現実を許容できず俺はパニックに陥った
ただ十字架の根元を持ってなんとかしげるを下ろしてやろうと必死だった
そうしていると誰かに後ろに引っ張られた
振り向くとゆき兄が俺の肩を掴んでいた

「落ち着け」
「これが落ち着いていられるのかよ!?
 なんだよこれ!!なんなんだよ!?」

次の瞬間、顔に衝撃を感じた
ひっぱたかれた

「落ち着けと言ってんだよ」
「…あ…」

ほどなくして数人の教師とヤチャマルが現われ
協力してしげるを地面に下ろした
担架に乗せられて運ばれていくしげるに俺は駆け寄った

「しげる!おい!」
「…たまゆら…さん?」
「そうだ!俺だ!大丈夫か!?」
「ごめんなさい…止められなかった…」
「そんなんはいいんだ!それよりもお前…!」
「…たまゆらさん…あいつらを…助けてあげてください…!
 同じなんです…僕と…!」
「…助ける…?」
「お願い…します…」

それだけ言うとしげるは目を瞑った

「おい!しげる!おい!!」
「よせたまゆら!」
「…とりあえず保健室に運ぶ」

ゆき兄にまた後ろに引き戻された
しげるは担架で保健室に運ばれていった
呆然とそれを見つめることしか出来ない自分が悔しかった
ふと足元を見ると、何かが書かれた紙が落ちていた

『この者、度重なる校則違反に伴い
 執行部によりその罪を断罪する』

思わずその紙を破り捨てた
違う…やっぱりこんなの間違ってる!!

その時、後ろからサクッと乾いた何かを折るような音がした
振り向くと、売店とシャインで会った…えび助という奴が立っていた
うまい棒をかじりながら

「可哀想ですよね~…
 でもしょうがないんですよ、生徒会に逆らった奴はああなるのが運命なんです」
「…何だと?」
「むしろあの程度の怪我で幸運だったんじゃないですか?
 死んでも文句は言えないと思いますよ?」
「死んでも…だと?」
「ええ」
「たかが校則違反で死んでも文句は言えないだと!?」
「この学園で生徒会の決めた校則は絶対ですからねー
 しょうがないですよ」
「お前…くそ…ふざけんなよ…!こんな校則俺は絶対認め――」
「俺もそいつの言う通りだと思うぜ」
「ゆき兄!?」
「…へぇ…利口ですね…」
「あの程度の怪我で済んで幸運だったんだよあいつは
 それにそもそも校則を破ったあいつのほうが悪い」
「ゆき兄お前…!本気で言ってんのか!?
 あいつが何の校則を破ったっていうんだよ!」
「そんなん俺らが知ることじゃないだろ」
「お前ッ…!!」
「…寮に戻れ」
「言われなくても!!」

吐き捨てるようにそう言ってその場を後にしようとした
するとえび助が言った

「…他の奴らはしばらく放っておけって言ってましたが
 僕せっかちなんですよね、それに悪の芽は早いうちに摘んでおけって言いますし」
「え?」
「…今夜0時…化学室においで…
 鍵は開けておく…
 勿論逃げてもいいけど…同じことだね」

それだけ言うとえび助は横を通り過ぎようとした

「お前…まさか…」

ニヤリと笑ったえび助が小さな声で言った

「執行部員えび助が、君の罪を断罪しよう」

その言葉を残してえび助は行ってしまった
その後姿を呆然と見つめる俺にゆき兄が話しかけてきた

「行くつもりか?」
「…関係ないだろ」
「悪いことは言わん、やめておけ
 死ににいくようなもんだ」
「…逃げても同じと言った」
「もしかしたら何とかなる可能性もある」
「…冷血漢の意見は聞いてないよ」
「…そうかよ、好きにしろ」

ゆき兄も行ってしまった
俺もしばらく時間を置いてから寮に戻った


9/23(日) 深夜

俺は今校舎の中を化学室に向かって歩いている
右手に黄龍鉄甲をはめて
あれから部屋に戻りどうしようか考えた
しげるは言った「あいつらを助けてくれ」と
そして俺にはその力がある…やってやる
それが俺に出来る精一杯のことだから
悩んでも何一つ変えることが出来ないなら…自ら動くしかない

そして俺は化学室の前についた
深呼吸して気分を落ち着かせ、ゆっくりとドアに手をかけた
ドアを開け、中に入る、月灯りに照らされた化学室
奥の机の上に、えび助が座っていた

「逃げずに来るとは…度胸があるというか、何というか
 …面白い武器だね、どこで買ったの?」
「…」
「…まぁどんな武器を持ってこようと僕には勝てないと思うけどね
 逃げずにちゃんと来た勇気を称えて僕の力について教えてあげるよ」

えび助はポケットから何かを取り出した
…うまい棒?

「これがけっこう手頃なんだよね」

そのままうまい棒をこっちに向かって投げてきた
飛んでくるうまい棒が俺とえび助の丁度中間辺りまで来るとえび助が呟いた

「…散れ」

次の瞬間、バァン!!と大きな音を立て
うまい棒は空中で袋ごと弾け飛んだ

「な…?」
「…僕は触れたもの全てを爆弾にすることが出来るんだ
 爆発の規模は限度はあるが人間相手なら充分すぎるほどだ
 ちなみに今のは本当に軽くだからね」
「…」
「さて…それじゃやろうか…
 最も僕に触れることは出来ないだろうが」

俺は黄龍鉄甲を構えた
常識で考えれば完全に接近戦でしか戦えない俺が敵うわけはないのだけど
しげるの時のように1撃でも殴ることが出来ればきっとなんとかなるんではないだろうか
…そう、1撃、1撃でいいなら

「…ほらよ」
「…え?」

目の前に、広がるように迫ってくる大量のうまい棒
まるで俺に覆いかぶさるように
ちょっとまって…いきなりこんな…!!

「吹っ飛びな、木っ端微塵に」

視界の端のうまい棒の1つが光るのが見えた
いや…爆発の程度にもよる…
さっきのように軽い爆発なら…!!
その時、誰かに地面に叩きつけられ、何かをかぶせられた

「!?」

同時に、辺りに凄まじい衝撃と爆音
熱と、ガラスの割れる音
吹っ飛びそうになる俺を誰かが抑えていた

耳の奥がキィーンとなっている
目を開けると化学室のあらゆる物が木っ端微塵になっていた
まともに受けていたら俺も今頃…

「全く無茶をする」

バサッと音がして視界が広がる
かぶせられていたのは、カーテン
どうやらカーテンが熱と衝撃と飛び散ったガラス片から身を守ってくれたらしい
そしてカーテンを持っていたのは…

「ゆき兄…!?」
「…」
「どうして…?」
「…」

ゆき兄は何も答えなかった

「…君は利口だと思っていたけど…」

さっきと変わらず机の上に座っていたえび助が言葉を発した

「…そんな奴、放っておけばいいものを…
 今日の昼もそうだったね…いや、シャインの時もか…
 …ずっとそいつをかばっていたね」
「え?」
「君は気づいてないかもしれないけどね…
 シャインの時…僕が警告として男子生徒に手渡した箱…
 あの時、そいつは早く出ようと君を急かしていただろ?
 あれは君が巻き添えをくらわないように…もしくはあの惨状を見せないためにだろ?」
「偶然だ」
「そうかい、じゃあ今日の昼のも偶然かい?」
「…」
「あの時、たまゆら君はこう言おうとしていたね
 こんな校則俺は絶対に認めない、と」
「あ…」
「その発言は明らかに生徒会への全面的な敵対を意味する
 最後まで喋っていたら…今頃ここにいたのは僕だけじゃなかったろうね
 だが…最後までそれを言い切る前にゆき兄が話に口を挟んだ
 あえて君の怒りの矛先が自分に向くようにね」
「全部偶然さ、俺は思ったことをたまたまあのタイミングで言っただけさ」
「…ふん、まぁどうでもいいや
 どのみち君達はここで死ぬんだからね…
 君達の罪、僕が粉微塵に粉砕してあげるよ!断罪の時だ!!!」

えび助の指の間に大量のうまい棒が握られていた

「…マズイな、時間差で投げつけられたら打つ手がない」
「ゆき兄…その…」
「話は後だ、今はこいつをどうにかするんだ」
「…ああ!」

懐に飛び込めさえすれば勝機はあるんだ
問題はどうやってそこまでいくかだ

「たまゆら右だ!」
「うわっ!!」

ゆき兄が俺を抱え込むように右に飛んだ
さっきまでいた辺りで爆発が起きる
爆音でまた耳鳴りがする

「…!転がれ!!早く!!」
「おぉう!!?」

ゆき兄が俺を突き飛ばすようにして一緒にさらに右へと転がった
もうほとんど何が起こったかわからない
わかったのはさっきまで俺たちがいた所から爆発が起こったことぐらいだった

「…無様だなぁ」
「くそ…余裕こきやがって」
「…確かに僕が持ってるうまい棒は有限だが…
 触れる者全てを爆弾に出来るということは無限ではないが限りなく無限に近いってことだよ?
 わかってるだろう?」
「…くそ!」

どうすればいい、とてもじゃないがあの爆発を掻い潜ってえび助の懐に飛び込むことはできない…!
せめて一瞬でも気を逸らすことができれば…
その時、足に何かが当たる感触がした
ポケットに何か…?
そっとポケットに入っていた何かを見てみる
…これは…!

「…なぁゆき兄…」
「あん?」
「作戦会議かい?
 まぁいいや、どう足掻いてくるのか見物だよ…」

思いついたことをゆき兄に小声で話してみる

「…失敗したら間違いなく死ぬぞ」
「このままでも死ぬんだろ…?だったら…」
「…だけどその作戦…」
「…信じてる」
「…本当にお前は…お人好しっていうか…調子狂うな…」

やるしかない
えび助に黄龍鉄甲の1撃を叩き込むにはこれしか方法がない

「…そろそろいいかい?」
「ああ、かかってこい」
「その余裕、吹っ飛ばしてやるよ」
「…調子に乗るなよ、吹き飛びなッ!!!」

俺は走り出した
まずは出来る限り近づかないと…!
放たれたうまい棒が俺に向かってくる
恐れるな、信じろ、ゆき兄を信じるんだ

うまい棒との激突の直前
俺は右方向に上半身をずらした

「それで爆発を避け切れると思ってるのか?」
「俺だけじゃ無理だけどな」
「何…!?」

俺の左後方、ゆき兄がそこにいた

束ねたカーテンを使い、うまい棒を弾き飛ばした
飛ばされたうまい棒は別の場所で爆発を起こした

「たまゆら!突っ走れ!!」
「わかってるよ!!」

足は止めない、恐れるな
最低限の回避でいい、それだけすればゆき兄が後は何とかしてくれる

「ふん…」

えび助は不満げな顔でまたうまい棒を取り出した
まるでオモチャを散らばらすように大量のうまい棒を最初のようにバラバラに投げつけてくる

「机の影だ!!」

ゆき兄が叫ぶ
俺はすぐさま机の影に隠れる
ワンテンポ遅れてゆき兄がカーテンで俺たちを覆い隠す
爆音、衝撃、だけどもう恐れるものか
すぐに飛び出し、またえび助に向かって走る
煙を味方につけ、とにかくえび助に向かう

「…こいつら」

俺はただえび助に一直線に走るだけでいい
回避も最小限でいい
少し後ろを走るゆき兄が俺の目になって避ける場所を見つけてくれる
だけどえび助に1撃をくらわすには必ず接近戦に持ち込まないといけない
つまりどう足掻いても近づくまでの近距離から隣接距離まではルートは限られてしまう
そこが俺たちの最後の難関、だがそれさえ突破することが出来れば…!
そうこうしてるうちにもう近距離
左から回るか、右から回るか、正面突破か
足は止まらない、今更小細工なんていらない!!

「正面突破だぁぁぁ!!!」

叫ぶと同時に、ポケットに手を入れる

「惜しかったな…!そこに逃げ道は無いぞ!!」

えび助の手に大量のうまい棒が握られていた
やっぱりこいつもこの距離こそが最もやるかやられるかの距離だということは理解したんだろう
だけど、そんなのこっちだって百も承知だ!!!
えび助が大量のうまい棒を投げつけるより早く
俺が先にポケットにあった物をえび助に向かって投げつけた

「受け取れ、さっきの不発弾さ」
「なッ…!?」

えび助の動きが止まる
俺の投げたうまい棒に気を取られてえび助の手が一瞬静止する
一瞬の逡巡、それが大量のうまい棒の防衛ラインを突破する鍵
タイミングを僅かにズレて放たれた大量のうまい棒、俺はその下をくぐりぬけた

そして、俺はえび助の目の前に辿り着いた

「うっ…」
「お前がくれたうまい棒が、俺を助けてくれたよ」
「…食堂前でぶつかった時!」
「…すっかり忘れててポケットに入れっぱなしでな、だけどおかげで助かった」
「よ、よせ…!」
「吹っ飛ぶのは、お前のほうだぁぁぁあああああああああ!!!」

渾身の力を右腕に込めた
えび助の左頬に黄龍鉄甲の1撃がめり込んだ
一瞬の抵抗感を押さえ込み、そのまま一気に腕を振りぬいた

「ぐぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!」

えび助は吹っ飛び、後ろの戸棚に叩きつけられた
それでも勢いは収まることはなく戸棚を破壊し残骸もろとも崩れ落ちた

「やった…!」
「ボサッとすんな、伏せろ」
「え?おぶぅぁ!」

ゆき兄が頭から俺を地面に叩きつけた
パサッとカーテンが俺にかぶさる音がする
そして真後ろから今までとは比べ物にならないほどの衝撃と爆音が響いた



しばらくして…カーテンがパサリと落ちた
上を見ると辛そうな顔をして俺に覆いかぶさるような状態のゆき兄がいた

「間一髪だったな…」
「…だ、大丈夫?」
「ああ…油断しすぎだぞ、殴って終わりってわけでもないだろ」
「…ごめん、でもゆき兄もあの最後の爆弾くぐってきたのか」
「……真後ろにいたからな、そのお陰で助かったろ?」
「まぁね」
「さて、と」

ゆき兄が立ち上がった
続いて俺も立ち上がる

「う…ぐ…」

壊れた戸棚の残骸の中に囲まれてえび助が倒れていた

「まだ…だ…まだ…!!」

えび助は立ち上がろうとする
しかし、俺には見えていたしげるの時と同じように、えび助の身体から黒い煙が出ているのが

「な…なんで…!?なんでだよ!?
 力が…!?そんな…!?
 何だよコレ…そんなの…嫌だよ…!
 まだ僕は…!!やめろ…!まだまだ沢山木っ端微塵に…!!
 嫌だァァァァ!!!!ウォアアアアアアアアアアアアア!!!!」

あの時と同じだ
身体から立ち昇る黒い煙、同時に辺りに響く断末魔
一体これは…
そしてやはりしげるの時と同じように
黒い煙は段々と薄れて、やがて消えた





煙が消えてしばらくして、えび助はゆっくり立ち上がった

「…もう僕は…壊せないのか…?
 何も…壊すことはできないのか…?
 …全部消し飛ばしてしまえば…後に作られるのは…望む世界なのに…
 僕はもう…壊せないのか…!!」

俺は黄龍鉄甲をチラリと見た
…もしも、あの時と同じなら…
きっとえび助も…

「ちくしょう…どんなものでも…
 吹き飛ばしてしまえば…ゼロにしてしまえば…
 だからこそ…僕は…この力で…」

黄龍鉄甲が、薄っすらと光を放ち出した

「…来た!!」

溢れ出る暖かい光がえび助のポケットに集まった

「え…?」

えび助がポケットから取り出したのは
…首輪…?

首輪に集まった光が、辺りを優しく包み込んだ――







「また壊したのか?」
「うん、だから新しいのを買ってよ」
「…しょうがないやつだ」
「…だって、すぐ壊れるんだもん」
「乱暴に扱うからだぞ」
「…簡単に壊れるほうが悪いんだ」
「…いいか、えび助
 形ある物はいつか壊れる、それは仕方のないことだ
 人も動物も物も限りある時の中に存在しているんだ
 だから簡単に壊れるなんて言っちゃいけないし、乱暴に壊すように扱うなんてもっての他だ
 わかるか…?」
「…」
「…ま、今回は新しい奴を買ってやる、大事に扱えよ」



そうだ、壊れれば代わりに新しい物が手に入る



「…クゥーン」
「野良犬だ」
「この公園に住み着いてるんだってよ」
「汚い犬だな、おい、行こうぜ」

あの公園の、錆びが浮いてボロボロのジャングジム
そこにあいつは寂しそうな目で…いつもいた…

「…」
「…クゥン?」
「食べるか?」
「ワォーン」
「はは、犬もうまい棒食えるんだな」
「ワンッ!ワンッ!」
「ははは、そうか、おいしいか」



壊れれば、新しい物が手に入る
だけど――



「…何で…」
「もうボロボロだからね、近所の子供が落ちて危ないから撤去することになったんだ」
「嫌だよ…」
「ごめんな…決まったことなんだ」
「…」
「どちらにせよこの公園は近いうちにマンションが建つからね…」


1日中、そこで俺はジャングルジムを取り壊す大人たちを睨んでいた
それでも、大人たちは止まることはなく
いつしか、ジャングルジムは完全に無くなってしまって
あいつの姿も見えなかった、その帰り道、あいつがいたんだ
公園から、少し離れた道路の真ん中で、倒れてた


「どうして…どうして…」
「…起きろよ…いつも見たいに…
 尻尾振って元気に鳴いてみろよ…」
「ほら…こんなに沢山…もってきたんだぞ…お前の好きなうまい棒…
 俺だけじゃ…食えないだろ…」




――壊れてしまえば、2度とそれは僕の手には戻らない
あいつに…代わりはいなかった…


大人は気に入らない物は全部消してしまう、そして望む物を作り上げる
それなら全部消してしまえば…消し飛ばしてしまえば…
僕が気に入らないこの世界を全て消し飛ばせば…また会えるのか…
…ならば…消し飛ばす、全部消し飛ばしてやるから…





「クゥーン…」
「…え?」
「クゥン…」
「お前…」
「…クゥン…」
「うっ…ぐっ…ごめん…ごめんな…!
 俺…本当はわかってたんだ…だけど…俺は…!」
「ワォン!」
「え…お、おい…く、くすぐったい…やめろよ、ははは…」
「ワンッ!」
「…そっか…そうだな…うまい棒…食うか?
 きっと…これがお前にやれる最後の…」
「ワォーン!」
「…元気でな…」







光が消えた
えび助の持っている首輪に大粒の涙がポタポタと零れている

「…知ってた…さ…なのに…どうして忘れていたんだ…
 何もかもを消し飛ばしても…あいつは戻ってこないのに…
 それなのに…どうして…僕は…
 壊れてしまった命は…何を代償にしたって…もう取り戻せないのに…
 僕は…何が…したかったんだ…!
 ただ…ただ僕は…大事な物を…守る力が欲しかっただけだったのに…!!
 くそぉ…!ひっ…ぐっ…く…そぉっ…!!」

首輪を握り締めて、えび助は泣き続けていた
ぽんっとゆき兄が軽く背中を押してきた
振り向くとゆき兄は行ってやれという目をしていた


俺はゆっくりえび助に近づいた

「…俺たちは…限られた時間の中で生きている…
 消えてしまった命が戻ることはない…けれど…
 だからこそ…限られた時間の中で自分に出来ることを精一杯やるんだと思う
 そして…自分が生きた証を残そうとする」
「…っ!」
「…道を間違えてしまったなら…今度は道を正すことに…
 一生懸命になればいいんじゃないか…?
 時間は確かに限られてるけど、俺たちからしたらきっとそれはまだ随分と先なんだろうし…」
「…ああ…そうだね…
 あいつが生きた証は俺自身だ…俺は…あいつが生きたこの世界を…
 …そうか…肉体も…何もかもが消えたとしても…残るものも…あったんだな…」
「…」
「たまゆら君…」
「え?」
「…ありがとう…」

その一言を最後に、えび助は目を瞑り、そのまま床に倒れそうになった
倒れる前に、俺はしっかりとその身体をキャッチした
耳元に、寝息が聞こえてきた

「…終わったな」

後ろからゆき兄がそう言ってきた

「うん…終わった」
「…戻ろう」
「明日登校してきた奴らがこの教室見たらどう思うんだろうな」
「…テロでもあったと思うんじゃねぇか?」
「はは…そうだな」
「月曜日か…めんどくさいな」
「ちゃんと来いよ?」
「気が向いたらな」

俺とゆき兄はえび助を担いで寮に戻った
化学室を出る時に、どこからか、犬の鳴き声が聞こえた気がした
とても、嬉しそうな――








「…また反応が消えた」
「…しばらくは放っておけと言ったのに…
 勝手に動くからこうなる…」
「そんなこと言ってる場合か?
 2人もやられたということはもはや偶然じゃない」
「…我らに対抗しうる力を持っている…ということか」
「…どういう力かはしらないが…媒介はわかった…」
「どこにいっていた?」
「見物に…」
「…何がわかった?」
「転校生の右腕に装着された武器による1撃を受け
 あいつから水で満たしたコップに穴が開いたように力が流れ出た」
「…我らの力を消し去る…なるほどな」
「ふん、面白い…」
「だが…どこまで持つものか、楽しみだな」
「そうだね、久しぶりのお楽しみだねぇ」
「どちらにせよこの程度では脅威にもならん…」
「だが野放しには出来んな…次は…誰が行く?」






2時限目 - 壊せぬ決意 -




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最終更新:2009年11月01日 02:25