アットウィキロゴ
 

邪眼学園黄龍譚3限目【地獄の旋律】前編


9/26(水) 朝

えび助を倒してから3日が経過した
月曜日、登校するのが半端なくダルかったとかそういうこと以外は別に何も起こっていない
あるとすればあの夜以降、ゆき兄の姿を見ていないということだろうか
ちなみに化学室の惨状は夜中に忍び込んでこっそりと実験をした生徒が薬剤を爆発させたことになっているらしい

「たまゆら君おっはよぉー」
「ああ、おはよう…」

リカがいつもどおり元気よく話しかけてきた

「…今日もゆき兄きてないねー
 全く最近は来るようになったと油断してたら休みを挟んでまたコレか…
 本当に3歩進んで3歩下がるだなアイツは
 メールしても電話しても無視しやがるしなー」

ああいうことがあったのにちゃんと登校してる俺が異常で
どちらかといえばゆき兄のほうが正常だと思えてきた
…だが3日は休み過ぎだろう!

「寮でも見かけないの?」
「…そういえば…見かけない…」

言われて見れば寮でも見かけてない
部屋にいることが多いとはいえ同じ建物で生活しているのに

「…まさか…死んでたりしないよね…?」
「…」

さすがにそれは無いと思う…が
ゆき兄ならなんだか動くのをめんどくさがってるうちにそのまま餓死してしまいそうな気もする
…1度そう思ってしまうと本当にそんな気がしてきて困る

「…今日出てこなかったら…様子見ておいてね?」
「わ、わかった…」

ドアを開けると異臭が漂ってきてベッドの上に死体があったらどうしよう…
いや、しかしまさかそんなことあるわけないと思うが

「…まさか…いやでもアイツなら…」

どうやらリカも概ね俺と同じような考えらしい
…少し恐ろしいな


9/26(水) 昼休み

昼ご飯をどうしようかと考えた
とりあえず今日もシャインでがっつり食べるような気分でもない
なので売店のパンで済ますことにした。

売店で適当なパンを2個ほど購入
ちょっと少ないがどうせ寮に戻れば何かあるだろう。
さて、どこで食べるか…教室でいいか
そう思って戻ろうとした時、廊下の先で誰かが手招きしていた
…あれは…そうだ、図書室で黄龍について説明してくれたピュアって人だ
誘われるままに近寄ってみるとピュアはあんパンと牛乳を持っていた

「こんにちは、たまゆら君」
「あれ…?名前教えましたっけ?」
「調べた」
「…そうすか」
「今からお昼ご飯かい?」
「ええ」
「一緒にどうだい?」

…このピュアって人はもしかしたら執行部だったりして…
えび助を倒してから廊下ですれ違う人誰も彼もが執行部に思えてしょうがない
かなりの疑心暗鬼状態だ
しかし疑ってばかりいてもしょうがないし白昼堂々何か仕掛けてくるとも思えない

「ああ…それじゃ一緒に…」
「…本に囲まれて食べるのが1番落ち着くんだけどね
 あいにく図書室は飲食禁止だからね…たまゆら君どこで食べたい?」
「…じゃあ、屋上で」
「…友情は瞬間が咲かせる花であり、そして時間が実らせる果実である…」
「え?」
「ドイツの劇作家コッツェブーの言った言葉さ
 さ、行こうか」


ピュアと一緒に屋上に向かった
屋上では他に数人の生徒が昼食を取っていた
適当な場所に座り込み、パンを食らう
ふと思ったが、コレと言って話すことがない
食べてる今はいいのだが食べ終わった時にどんな話題を振ればいいのだろう
チラとピュアのほうを見た
瞬間、食べていたパンを噴きそうになった

すでに食べ終わっていたピュアは何をするでもなく俺のほうを見つめていた
しかもにやーっと笑いながら
なんなのこの人、危ない人なの?
硬直して飲み込むことすら忘れた俺は微動だに出来なかった

「どうしたの?」
「あ…いや…見つめられると…食べにくいん…です」
「ああ、なるほど、ごめんごめん」

そう言うとピュアは懐から分厚い本を取り出し
パラパラとページをめくりだした

「ゆっくり食べるといい」
「…はぁ…どうも…」

ちょっとおかしい…けど悪い人ではなさそうだ
ほどなくして俺はパンを食べ終えた
それを見たピュアは分厚い本をパタンと閉じた

「君は本が好きか?」
「え…ああ…嫌いじゃないです、てかけっこう読みます」
「そう、好きになるといい」
「…はぁ」
「これをあげよう」

ピュアはまた懐から一冊の本を取り出しこちらに手渡してきた

「気が向いたら読んでおいてくれると嬉しい」
「うん…ありがとう」
「気にするな、読み終わったら感想を聞かせてくれれば何よりだ」
「わかりました」
「さて…」

ピュアは立ち上がった

「どうしたの?」
「図書室で本の整理をしてくる」
「あ、じゃあ俺も本のお礼に手伝…」
「駄目だ!!」
「うおっ!?」
「…すまん、声を荒げてしまって
 だが君はあの図書室をまだ良く知らない
 場を知らぬ物がそこに在るべき物を整理したとして聖域のバランスが崩れるだけだろう」
「は、はぁ?」
「すまないね、あの仕事は僕にしかできない
 僕だからこそできることと思っている…
 それじゃあ僕は行くよ」
「はぁ…いってらっしゃい」

ピュアはさっさと行ってしまった
本当に本が好きなんだな
俺も教室に戻るか
勢いよく立ち上がって屋上を後にする
カチャンと何か後ろから音が聞こえた気もしたが気にせず教室へと戻った


9/27(水) 放課後

携帯が――無い。
おかしい、どこにやったのだろうか。
確かにポケットに入れておいたはずなのだが…
机の中やカバンを必死に探しているとリカが話しかけてきた。

「たまゆら君どしたの?探し物?」
「携帯を無くしたみたいで…」
「鳴らしてあげよっか?」

リカが自分の携帯をいじくる。

「…鳴ってるけど?」
「…どっかで落としたのかな?
 昼は確かにあったんだけど」
「じゃあ昼以降に行った場所に落としたとか」
「…移動教室は無かったし…あ、もしかして」

屋上を去る時にカチャンと音がした
もしかしてあれは勢いよく立ち上がった時に携帯が落ちた音だったのでは

「心当たりあるの?」
「うん、多分間違いない、ありがとね!」

俺は席を立って屋上に向かった

「さて…この辺だったよな…」

座っていた辺りを探す
おかしいな、無い
地面を見ながらウロウロと辺りを探す
携帯は無いが誰かの足があった
…足?

顔を上げると、目が合った
男子生徒が柵にもたれかかって、座っていた

長めの髪にくだけた制服の着こなし
指輪に、ピアス、大量のアクセサリー
威圧感を感じ動けなくなる

「…何だ?」
「あ…いや…携帯を…落とし…て…」
「…ふん、コレか」

男子生徒はポケットから携帯を取り出した
確かにそれは俺のだった

「あ、それです…」
「ほらよ」

男子生徒は携帯を投げてきた
慌てて何とかキャッチする

「あの辺に落ちてた」
「あ…そうですか、どうもすみません」

初めてこの学園で不良っぽい奴を見た気がする
執行部に狙われたりはしないんだろうか?

「まだ何か用か?」
「あ…いや…別に!」

慌ててその場から離れる
すっげぇ威圧感だな、怖いわー
屋上のドアを閉める時、一瞬だけもう1度男子生徒を見てみた
なぜかこっちを見ている
…早くここから去ろう
俺は一目散に階段を駆け下りた




「…あれが転校生か」



9/27(水) 夜

「さて…」

今俺はゆき兄の部屋の前にいる
とりあえずノックしてみる

しばらくまったが反応は無かった
もう1度今度は多めにノックしてみる
やっぱり反応は無い

「おーい、ゆき兄ー?
 おーい、寝てんのかー?」

ドアを叩きながら声をかけてみる
しかし部屋からは全く反応が無い
…最悪の予感が頭をよぎった
まさか本当に死んでるんじゃなかろうか…

「おーい…ゆき兄ー…
 生きてるかー…おーい…」

ガンガンとドアを叩いて声をかけ続けるが完璧に反応は無い
…どうしよう
ドアをブチ破ってでも中の様子を確かめるべきだろうか
…よし、緊急事態なわけだししょうがない
こういう場合漫画とかなら…蹴り破るか、よしやってみよう

少し後ろに下がって構える
そして加速をつけて一気にドアに渾身の蹴りを!!!
いける!俺ならきっとできる!!

「おりゃああああああああ!!」
「何やってんだお前」
「え?」

突然横から話しかけられ気が逸れた
次の瞬間物凄い衝撃が走った
同時にバゴォォォォォォン!という物凄い音が響いた

「ふげ…」
「…本当に何やってんだお前」

気が逸れてしまい足を出すことを忘れ身体全体で扉に体当たりしてしまった
頭の中身がクァンクァンする

「…あれか?ネズミが柱をかじるみたいに
 定期的に何かに体当たりしないと落ち着かないとかそういう奴か?」

クラクラする頭を抑えながら声の主を探す
目の前に呆れ顔のゆき兄がいた

「ちなみに中に入っても盗るようなもんはないぜ」
「そうじゃなくて…あれからずっと姿を見せないから心配してたんだよ…」
「そうか、まぁずっと寝てたからな」
「3日も?」
「ああ」
「どういう体質なんだよ…」
「知るか、身体が休息を欲してたから俺はそれに従ったまでだ」
「…とりあえず生きてるようで安心した」
「そう簡単に死ぬわけねぇだろ」
「…あ、そうだゆき兄」
「そうだ、ちょっと来い」
「え?うおっ…!」

俺はゆき兄に引っ張られた
無理やり連れてこられたのは寮の裏手だった

「…こんなとこ連れてきて何?」
「お前な、どうしてあの日えび助のとこに行ったんだ?」
「え?」
「結果的に助かったものの俺がいなけりゃ今頃お前死んでるぞ
 少し考えればわかることだと思うがな」
「…だけど…黄龍鉄甲があればあいつらを救える…
 それが俺に出来る精一杯の…」
「命を賭けてまでか?」
「…それは」
「考えてみろ、命を賭けてまであいつらを救ってやる義理がどこにある」
「それは…無い…けど」
「黄龍鉄甲が自分のもとに現われたから奴らを救ってやるのは自分の使命だと?
 救えるのは自分だけなんだと思ってるのか?」
「…いや…それは」
「例えそうだとしてもお前が命を賭ける必要なんてどこにもない
 逃げても誰も責めやしないんだ」
「…」
「…それでもやり続けるというなら…好きにすればいい」
「…ははは」
「何だ?」
「気遣ってくれてんだろ?」
「なッ…!?」

ボフッという擬音が聞こえてくるかのように
一瞬でゆき兄の顔が真っ赤になった

「えび助との戦いに時にだいたいわかったよ
 何でかしらないけどゆき兄は俺を気遣ってくれてるんだろ?」
「ち、違う!俺ただ単にお前があまりにもお人好しだから…」
「心配してるんでしょ?」
「ちげーよ!ええい!
 もういい!勝手にしろ!!」

ゆき兄は走って寮に戻っていってしまった
なるほど、こういうのに馴れてないみたいだな
意外な一面を見れて少し面白かった、さて俺も戻るか

寮の廊下で見知った顔に出会った
…またこの人か

「…やぁ…元気かい?」
「こんばんわ、小川さん」
「…感じるかい?」
「何をです?」
「…闇の奥に揺らめく…魔だ…」
「…」
「気をつけるといい…2番目の魔物が動き出す…」
「え…?」
「奏でられる旋律は…魔の誘い…
 …僕には…まるで君が…」
「…」
「…じゃあね…また会おうか…近いうちに」
「あ…」

小川は行ってしまった
…本当に不気味な人だな
…2番目の魔物…か…
前も感じた背筋を何かが這い回るような不快感
それをごまかすように俺は部屋に戻った

9/28(木) 朝

今日もゆき兄は来ていない
まさか1週間まるまるサボる気なんだろうか…
とりあえず生きていたことをリカに伝えると
顔には出さないが安心したようだった






「授業に出なくていいのか?」
「…ああ」
「…まぁ今更だしな、して俺に話しておきたいことって何だ?」
「…偶然か必然か…黄龍の器が現われた」
「なんだと…!?」
「…そして本人は気づいてないが運命のシナリオ通りにこの学園の陰を打ち破っている」
「ヤバいのか?」
「…今はまだわからん」
「…そうか、で問題の黄龍の器ってのは誰なんだ?」
「2-Cの転校生、たまゆら」
「…アイツか」
「面識が?」
「昨日会ったよ、ここでな」
「…そうか」
「なるほどねぇ、確かに他の間抜けな羊どもよりかは違う感じがしたが…
 あいつが器だったとはな、納得した」
「とにかく今はまだどうなるかわからん…が一応伝えておいたほうがいいと思ってな」
「…大丈夫だ、下手に動いたりはしない」
「…じゃ俺はいくわ」
「どうせ授業に出ないんならここにいても同じじゃないか?」
「太陽は嫌いだからな」
「あっそ…」



9/28(木) 昼休み

やっぱりというか何というかゆき兄は来なかった

「あ~い~つめぇ~…!!」

…来ないのは来ないでいいがリカに延々文句を聞かされる俺の身にもなって欲しい
なんというか働かない彼氏の愚痴を聞かされる彼女の男友達の気分だ
最もそう言うと恐らくリカは烈火の如く怒るだろうでとても言えるわけないが…

「何をプリプリ怒ってんだ」

後ろからやる気の無い声

「あ!!ゆき兄!!!
 コラ!!3日と半日もサボって何してたんだ!!」
「…昨日も同じことをたまゆらに聞かれたが…
 寝てたんだ」
「3日も?」
「それも聞かれた、3日寝続けた」
「どういう体質してるの!!」
「…それも言われたな…」
「そりゃ誰でも言うに決まってるでしょ!!」
「…まぁそう怒るなシワが増えごッ!?」
「誰が怒らせてるのよッ!?」
「…顔面パンチときたか…あ、鼻血…」
「あ…ゴメン…」
「ティッシュ…うおっ!?」
「あッ!?馬鹿!足元に気をつけッ!?
 うわっ!?ちょっ掴むな!!やめッ…!」

バガシャーンと盛大な音を立ててゆき兄とリカがもつれるように机と椅子に突っ込んだ
やる気が無いのになぜかゆき兄が来ると賑やかになるというか騒々しいというか…
バカップルというか…勿論本人たちは否定するだろうが

「…いっ…たぁ~い…」
「…重い」
「はぁ!?重いって何よ!?」
「いいからどけ…」
「だいたいゆき兄が軽すぎなだけで私は標準体重…ぐらい」
「わかったからどけ、たまゆらに体重バラすぞ」

けっこう興味がある
しかし俺の思いとは裏腹にリカはすんなりとどいていた


俺たちは今シャインにいる

「…なぜ俺がお前らの昼飯をオゴることになっているんだ」
「あったりまえだバカ!」
「…百歩譲って…転倒に巻き込んだお前はいいとして
 なぜたまゆらまで」
「うーん…成り行きというか」
「当たり前でしょ、たまゆら君だってゆき兄がサボってぐーぐー寝てる間
 ずっと心配して食事もロクに喉を通らないくらい…」
「…とてもそうは思えないが」
「とにかく!このぐらいして当然!
 というわけでたまゆら君好きに頼んでいいよ」
「そんじゃお言葉に甘えて…えーと何にするかな」
「甘える相手を間違ってないか…」
「えーと、私はスペシャルハンバーグ定食にチョコレートパフェに…
 うーん、ティラミスもいいな、あと季節限定秋色カスタードパイ…」
「おい、ちょっと待て」
「ん?」
「…お前は何を言ってるんだ?」
「何って食べるもの選んでる」
「じゃあ俺は海の幸スパゲティにコーンポタージュに…ええと海老ドリア
 それと皆で食べれるようにピザとポテト盛り…
 あと同じくティラミスにダブルアイスクリームをチョコとストロベリーで…
 まぁ可哀想だからこのぐらいでいいや」
「おー、たまゆら君やっさしー」
「…鬼かお前らは」

ほどなくしてテーブルには所狭しと大量の料理が並べられた
ゆき兄は遠い目をしながらコーラを飲んでいた
とりあえず俺はひたすら食うことに集中した



「いやー、食べたねー、ゆき兄ご馳走様ー」
「ご馳走様ー」
「…満足か?」
「うんうん、満足したよ
 仕方ないから許してやろう!」
「…そりゃどーも…」
「ゆき兄意外と潔いね」
「…まぁシャインは俺も認めるぐらい安いからな
 シャインじゃなかったら今頃逃げてたろうよ」

なるほどな、確かにシャインは安いしうまい
しかし安すぎる…とも言える、採算取れてんのかな
あれだけ食べて2000円丁度程度とは…

「こちらお下げしてもよろしいですか~?」
「カナ~、あのねゆき兄が何でもおごってくれるんだよ~」
「ううっ…従業員じゃなかったらご一緒したい…」
「…やめろ」
「ねぇカナさん、何でシャインってこんなに安いの?」

その瞬間、笑顔だったカナの表情が一瞬で無表情になった

「…知りたいですか?」
「え…?」
「…本当に…知りたいんですか?
 知った後で後悔しても遅いんですよ…?」
「…いえ…いいです」

…一体何だというんだ
しかし俺にそれ以上聞き出す勇気はなかった

その後しばらくダラダラしているとリカが最近のことについて聞いてきた
最近のことについて考えるといろいろインパクトがありすぎたせいか執行部関連のことしか思い浮かばない
結局特に無いと答えるしかなかった

「うーん…意外とドライだね…
 ゆき兄と一緒にいたせいでノリが移っちゃった?」
「いや、そういうわけじゃ…」
「あ、そういえば最近面白い噂聞いたんだよ」
「お前は話をコロコロ変えるな」
「今ぱっと思い出したの!
 えっとね…放課後の音楽室に…出るんだって」
「何が?」
「たまゆらく~ん…!出るっていったら1個しかないでしょ!
 …オ・バ・ケ」
「オバケ?」
「…」
「そうそう、放課後の薄暗い音楽室…
 誰もいないはずなのに…誰かいる気配がする…
 …そして鳴り出すピアノ…振り向くとそこには…!!」
「そこには?」
「…何がいるんだろうね」
「はぁ?」
「…噂では志し半ばで夢破れたピアノ少女の幽霊だとか…」
「なんだそりゃ」
「で、振り向いたらどうなるの?」
「魂を持っていかれちゃうんだって」
「…くだらん」
「くだらんって何よ…あ、ゆき兄怖いんだー」
「…そう思うのならそう思ってもらってもかまわないが」
「…そうだ!ねぇねぇ今日の放課後いってみない?」
「どこへ?」
「音楽室だよ!どう?どう?」
「…リカ」

ゆき兄の声のトーンが若干変わった

「何?」
「やめとけ」
「え?」
「そういう噂に興味本位で首を突っ込む奴には
 古今東西ロクなことがないと相場が決まってる」
「…怖いの?」
「…とにかくやめておけ」
「ぶーぶーじゃあゆき兄はいいよー
 たまゆら君どう?どう?」
「え…っと」
「…たまゆら…ちょっと来い」

ゆき兄に言われて席から少し離れた場所に移動した
小声でゆき兄が言ってきた

「…七不思議に近づくことがどういうことかわかってるのか?」
「…え?」
「影男はしげるだった…
 なら音楽室の噂も執行部が関わってる可能性がある」
「あ…」
「…リカを止めろ」
「でもちょっと待ってよ…
 えび助のときのように執行部は身を隠すようなことをしていないじゃないか…
 だったら七不思議と執行部の関係は…」
「…確かに奴らは隠れて校則違反を罰するような真似はしないが
 だが処罰のためではなく、別の目的のために噂を流していたとしたら?
「別の…?」
「とにかく、リカを止めろ
 あいつが素直に俺の言うことを聞くとは思えない」
「…わかった」

席に戻る

「ちょっと~、何2人でコソコソと~」
「…えーと、その音楽室いくのね…やめとこうよ」
「え?何で?」
「…えっと…多分いっても何もないと思うし」
「何かあるかもしれないほうに賭けるんじゃないの!
 人生刺激を失ったらおしまいだぞ!」

駄目だ、完全に行く気になってる
しかしなんとか止めないと

「いや、そーいうんじゃなくてね…
 なんというか藪を突付いて蛇を出すというか
 つまりそのー…」
「…もういいよ!」

そう言い捨ててリカはすたすたとシャインから出て行ってしまった
残った俺とゆき兄は互いに顔を見合わせた

「…諦めたと思う?」
「…少なくとも諦めてはないはずだ」

お互いに深いため息をついた
その後、教室に戻ったがリカは口を聞いてくれなかった

9/28(木) 放課後

HRが終わるとすぐゆき兄に音楽室の前に連れていかれた

「…なんでここに?」
「あいつが来ないように見張っておく」
「あー…なるほど、でもそれだったら俺ら大丈夫?」
「…下校の鐘が鳴る前なら大丈夫だ
 それにこの時間なら吹奏楽部が音楽室使ってるしな」
「そうだな…」

しばらく音楽室の前にぼーっとゆき兄と2人で廊下を眺めていた
…あれ?これって別に俺がいる必要なくない?

「なぁゆき兄」
「何だ」
「これって俺がいる必要はどこにあるの?」
「…」
「…」

無言
数分間の無言の時が流れた後にゆき兄がポツリと言った

「…1人で来る"かもしれない"ものを長時間何をするでもなく待つのは苦痛だろ?」
「…帰っていい?」
「駄目」
「…」

どうやら帰してくれる気はないようだ
しかしずっと無言ではとてもじゃないが耐え切れない
かといって話すようなことはないが…
チラッとゆき兄のほうを見るとコーラを飲んでいた
おかしいぞ、さっきまで持ってなかったはずだが…

「あ、そだ」
「今度は何だ」
「ゆき兄好きな人とかいないの?」
「…唐突に何を」
「いないの?」
「…ああ」
「ふーん…
 まぁゆき兄が彼女作ったらリカちゃんショックだろうね」

ブボォォォォッと盛大な音を立ててゆき兄がコーラを廊下に噴出した
噴水みたいだった

「ゴホッガハッ…ゲヘッ…
 な、なんでそこでリカが出てくるんだよ!?」

…明らかに動揺している

「いや、だってー
 リカちゃんってゆき兄に対しては他と違って接し方違うしー」
「それは幼馴染だからだろ…!?
 だいたいあいつ俺にはけっこう酷いぞ!?」
「そりゃー素が出てるんすよ、素が
 いいねー横に安心できる人がいるって」
「喧嘩売ってるか…?」
「いやいや」
「…俺とリカはそんなんじゃない」
「ふーん」
「…絶対信じてないだろ」
「うん」
「…」
「まー、向こうもそう思ってるだろうね、表面上は
 しかし自分でも気づいてはいないが心の底ではゆき兄のことが」
「…」
「そしてゆき兄も心の底では…
 孤独な自分を唯一わかってくれる友達、いや女の子としてリカちゃんのことオブゥッ!?」

頭に強烈な衝撃を受けた
何か硬いものが…

「…よーし、黙ったな、そのまま永遠に黙るっとくか?」
「…な…なにを…なげた…!?」
「古来からうるさい奴を止めるにはコーラを与えろと言うからな」
「与えたっていうか当てたんじゃねーかよ!中身ありコーラとかヤベェだろ!?」
「変なこと言うからだろ!?」
「変なことは言ってないだろ!?」
「あのさー」
「!?」

ゆき兄では無い声が聞こえて振り向くと
女子生徒が立っていた

「そこで騒がれると練習の邪魔なの」

俺とゆき兄は目を見合わせた
女子生徒からは何か物凄い怒りオーラを感じる
ペコペコと謝りその場を離れた

「どうする…?」
「しょうがない、ちょっと離れた場所から様子見しとくぞ」

少し離れた場所で様子見を続けた
しかしリカは現われず吹奏楽部も練習を終えて帰り出した
そろそろ下校の鐘が鳴る時間だ

「…こないね」
「そうすんなり諦める奴じゃあないが…」
「今日はやめたんじゃない?」
「…かもな、まぁもう下校の鐘も鳴るし大丈夫だとは思うが」
「それじゃ俺らも帰ろうよ」
「そうだな」

俺とゆき兄は寮に帰ることにした
しかし、明日も張り込まないといけないのかなコレ




「…ふぅ、やっと行った…」
「…さすがにマズいかなぁ鐘鳴っちゃうし…」
「見つかったら…噂の生徒会に何かやられちゃうのかなぁ…」
「むー…帰ろっかな…」
「いや、ここまで来たら絶対に何か見つけてあの2人の鼻をあかしてやる!」
「…あ、鍵開いてる、ラッキー」
「お邪魔しま~す…」





9/28(木) 夜

「ありゃ~…タンコブできてるや…」

鏡でゆき兄にコーラをぶつけられた場所を見る
普通にタンコブができてて痛い
しかしタンコブのタンって何だろう

「うーん、何か冷やすものが欲しいな…」

…仕方ない飲み物でも買ってそれで冷やそう
しかしドアに手をかけた瞬間に思いとどまる
この時間に寮内をうろつくとまたアレに遭遇するかもしれない
正直アレは苦手だ、出来れば関わり合いたくない
…ただ冷静に考えればアレも意味もなくフラフラしていることはないだろうし…
よし、大丈夫、行こう
そろりとドアを開け廊下を見渡す
よし、誰もいない
そのままこそこそとロビーに降りた

「…やぁ」
「…ははは」

アレがいた、アレっていうかつまり小川が

「…それじゃ…」

早々に退散することにした
タンコブとか放っておけば治る

「待って!」

ガシッと腕を掴まれた
今までにないパターンに焦る
変な汗が出てくるのを感じた

「な、何です…か?」
「2番目は…奏でられる呪いの音…
 聞き入る者は魂を奪われる…」
「え?」
「気をつけて…」

小川は腕を離すとそのまま走ってどこかに行ってしまった
たったあれだけのことを話すために腕を掴んでまで俺を引き止めたのか…?
それとも別の理由があった…?
背中に伝う嫌な汗はさらに不快感を増したようだった

9/28(金) 朝

金曜日は次の日が休みということもあり気は休まるが
やはりめんどくさいことに変わりはない
だがゆき兄が朝から登校してる時点で金曜日効果はあるとはいえる
問題はゆき兄がなぜか険しい顔をしていることだった

「…どうしたの?」
「…」

心ここにあらずって感じだな
何を話しかけても反応が無かったのでそっとしておくことにした
しばらくすると今度はゆき兄のほうから話しかけてきた

「たまゆら」
「うん?」
「今日、リカを見たか?」
「…あーそういえば…休みかな?」
「メールも電話も無反応だ」
「寝てるんじゃない?」
「ならいいんだが…」

そう言うとゆき兄は教室を出て行った
…おいおい、朝からちゃんと来たのにサボる気か?
そのまま授業が始まってもゆき兄は戻ってこなかった
金曜日なのに…

9/28(金) 昼休み

昼休みになった瞬間、どこかへ行っていたゆき兄が飛び込むように教室に入ってきた
そして俺の腕を掴むとかなり強く引っ張ってきた

「な、なに!?」
「来い!!」

有無を言わせぬ迫力に俺はそのままついていくことにした

「一体どうしたのさ…!」
「…クソッ!あの馬鹿野郎…!!!」
「何があったんだよ!」
「リカの奴は…多分掴まった…」
「誰に?」
「執行部だ」
「なっ!?」

ついたのは音楽室の前だった
ゆき兄はドアを破るような勢いで開けた
中は電気がついてないが窓から差し込む太陽の光で暗いわけではなかった
ゆき兄はキョロキョロと辺りを注意深く観察していた

「…」
「…どうして掴まったとわかったんだ?」
「あ?ああ…
 女子に聞いたが昨日の夜から姿を見せないらしい…
 寮にも戻らなかったそうだ、となると…あの後ここに来て掴まった可能性がある…」
「しげるの時は視力を奪われる…今回は消えてしまうのか?」
「たまゆら、2番目の七不思議の概要は?」
「ええと…誰もいないはずの音楽室で鳴り響くピアノを聞いてしまうと…
 魂を奪われる…だったはず」
「…魂か」

ゆき兄は口に手を当ててなにやら考えているようだった
俺はといえば考えを邪魔しないように静かにしているしかできなかった

「…音と魂…か
 たまゆら、人魚の歌声の話を知ってるか?」
「ああ、何か聞いたことある
 船乗りが歌声に魅了されて船が沈んでしまうんだっけ?」
「そう、ギリシャ神話におけるセイレーンやライン川のローレライ伝説などだな」
「それがどうしたの?」
「音、引いては歌声、音楽は人間の脳や身体に確実に影響を及ぼす
 直接的に音自体で人を殺せるかというと無理ではないが現実的じゃない…
 ただし特定の状況下で特定の音楽を聞かせることである程度行動を制限することは可能なんだ」
「…だからどう関係あるの?」
「…分かれよ、つまり魂を抜かれるってのは殺されることじゃなくて術者の意のままに操られるということなら
 現実的考えれば不可能だが、力を持つ執行部が関わってるとすればありえる話だ」
「ということはリカちゃんは…」
「ヴードゥー教で語られるゾンビとは魂を持たぬ生ける屍…
 自発的意志を持たぬ人間として永劫奴隷として術者に使役される…
 …嫌な予感がするな」

話しているうちに思ったが
ゆき兄はピュアに負けず劣らず色々と知っている気がする
なんだか偏ってる気がしないでもないが

「…どちらにせよこちら側からは無理か」
「…早く助けないと」
「わかってる…だけど…」
「だけど…?だけど何だよ!」
「…クソ!!あの馬鹿…!心配かけんなつってお前が心配かけてりゃ世話ねぇよ!!」
「…」
「…悪い…どちらにせよ…今は無理だ…
 術者を見つけて倒すしか方法はないはずだ…」
「…わかった」

俺は音楽室から出ようとした

「…今日は…いつもみたいになんだかんだと言わないんだな」
「ゆき兄がそんなに取り乱すのは初めてだからな
 …学校、終わるまでに落ち着いておいてな」
「…」

俺は音楽室から出た
必ず、助け出す




9/28(金) 放課後

午後の授業が身に入るわけがなかった
ゆき兄は大丈夫なんだろうか…

廊下に飛び出てゆき兄を探しにいこうとすると誰かに首根っこを掴まれた
驚いて振り向くとおととい屋上で出会った不良がいた
こんなときに絡んでくるなよ!

「なんですか…?」
「あの女は諦めろ」
「…お前!!」
「待て、俺は執行部じゃない」
「信じられるかよ…!!!」
「…信じてもらおうとは思ってはいないが」
「…離せ」

パッと手が離された
こけそうになったが踏ん張ってこらえて慌てて距離を取った

「…たまゆらだったな、1つ聞くが
 自分の大事な物を一つ失えば、世界中の人の大事な物が消えないとするなら…
 お前は差し出すか?」
「何言ってんだよ!?」
「…」
「なっ…がっ!?」

不良男は目の前に飛び込んできて俺の首を掴んで壁に叩きつけた
クラリときた、しかも手を離さない
さらに手が俺の首をゆっくり締め上げてきた

「お前のやってることはただの自己満足だ…!!救いなんかじゃない…!
 お前が救いと信じている行動が破滅を呼ぶんだ…!」
「は…なせっ…!かはっ…!」
「…ふん」

手がするりと俺の首から離れた
圧迫されていた気道に空気が流れ込んでくるのがわかる

「げほっ…げほっ…!」
「…覚えておけ…いつかお前は自らの行動を悔い…
 過去の自分を呪うだろう…よっ!」
「がはぁっ!?」

不良男のパンチが、みぞおちに深く突き刺さった
胃袋から逆流しそうになる何かを押さえ込み俺はそこにへたり込んだ

「…じゃあな」
「待っ…ぐぅ…」

不良男はどこかにいってしまった
動けなかった俺はへたりこんだま回復するのを待つしかなかった
しばらくへたりこんでいるとスッと目の前で誰かが立ち止まった

「…大丈夫?たまゆら君」
「…えび助」
「…立てる?」
「ああ…」

壁に手をついてなんとか立ち上がる

「…はぁ…くそ…あいつ何なんだよ…!」
「あいつは高橋っていう奴だよ」
「高橋…?」
「学校に出てこず寮にも帰ることはほとんどなく
 さらに生徒会の仕掛ける罠すらもことごとくすり抜ける
 たまゆら君が現われるまでの生徒会執行部最大のターゲットだった」
「くそ…なんで俺がそんな奴にいきなり絡まれなきゃいけねぇんだ…」
「わからない…奴だけは僕らでも予測不能な奴だった」
「…そうだえび助…それよりも聞きたいことがあった」
「え?」
「…2番目の噂…音楽室のピアノ…あれについて知ってることを教えろ」
「たまゆら君、まさか!?」

俺はえび助にすがるように肩に手を置いていった

「大事な…友達が捕まったかもしれないんだ…!
 どうしても助けたいんだ…!!頼む…!!」
「たまゆら君…ごめん…僕は何も知らないんだ…」
「嘘だろ!?なぁ頼む!」
「…執行部員は…他の執行部員のことを何一つ知らない」
「集まりとか…あるんじゃないのか…?
 だってしげるは説得するっていって…!」
「あの部屋は人を認識できても個人を認識することが出来ないという不可思議な空間なんだ…」
「え…?」

えび助の肩に置いていた手が滑り落ちる

「…誰が誰なのかわかる、けれども個人と認識は出来ない
 それが誰かの力によるものなのかはわからないけど…」
「そんな…」
「…ごめん、たまゆら君…僕も出来る限り協力はしたいけど…
 何一つ役に立てそうにない…爆破の力も失い、もう僕は執行部員からも外されている…」
「…」
「でもきっと君なら…」
「俺なら…?」
「歪んだ正義や力は信じてる者にとっては救いになる、心のね
 でもきっと手を差し伸べて何もかもを救えるのは人だけなんだ
 …僕を救ってくれた君ならきっと、この学園の歪んだ秩序を正せるはずだ
 きっと大丈夫、自分を信じて」
「…ああ、わかった」
「応援することしかできない自分が悔しいよ…」
「充分だよ、えび助
 おかげで、不安が消えた」
「そ…っか、さすがだな」
「ありがとう」

それだけ言うと俺は走り去った
とにかくゆき兄と一緒に一刻も早く助け出さないと

「…信じてる、君がこの学園の闇を祓う希望だということを」



とりあえず走り出してしまったんだが
ゆき兄はどこにいるんだろう
…やっぱり屋上なのかな

屋上のドアを突き破る勢いで開けるとゆき兄が柵に持たれかかっていた

「はぁ…はぁ…ゆき兄」
「…たまゆら」
「用意は出来たのか?」
「…俺はお前と違って用意する武器とかはない
 それよりお前こそ用意してんのか?」
「用意ってもな…俺も用意するもんっつったら
 黄龍鉄甲しかないしな」
「…どちらにせよまだ早いさ…
 まだ校内に一般生徒もいるしな」
「…」

ゆき兄は遠い目をして空を眺めていた

「…いい天気だな」
「ああ」
「…少し昔話をしていいか」
「言ってみ?」
「俺とリカは小さい頃から一緒でな
 彼女とかそういうんじゃなくてどちらかといえば家族みたいな感じでな…
 …昔からああなんだよアイツは…普段は俺の世話を焼くくせに肝心なところでは
 逆に俺に世話を焼かせるんだ」
「…」
「…あいつだけだったな、ずっと俺を気にかけてくれてたのは
 こんな馬鹿な俺を…」
「…」
「…助けたい…あいつを…
 俺を助けてくれていたように…」
「うん」
「…いつも通りだ、深夜0時、音楽室へ侵入する」
「…早いほうがいいんじゃないのか?」
「変わらないだろう…言いたくないが殺されてるならとっくに殺されてるだろうし
 生かされているってのは何かしらの利用価値があるってことだしな」
「そうか…」
「深夜までゆっくり身体を休めておけよ」
「ああ」

俺たちは寮に戻り
深夜までに身体をゆっくり休めることにした



.

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年11月01日 02:28