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邪眼学園黄龍譚3限目【地獄の旋律】後編


9/28(金) 夜

深夜まで身体を休めておくと言っても気持ちばかりが焦って仕方が無い
じっとしていると不安でたまらない
ゆき兄が殺されてるならとっくに殺されてるとか言うから…

「あー…駄目だな…休むに休めない…」

しかしゆき兄は今まで執行部に関わることをなるべく避けてたのに
今回に限ってすんなり関わろうとしてるな、それだけリカのことが大事だってことか
しかし恋愛感情ではないようだな、面白くない
…無理矢理にでも休んでおいたほうがいいかもしれない






「今度は多分音楽室だね」
「…そうきたか」
「でもあいつに倒せるかなぁ…」
「確かにあいつの能力はさほど強いわけではないが場が重要だ」
「場?」
「…音楽室という場なら
 あいつに勝てる者がいるのかどうか」
「…へぇー…それじゃ転校生…
 終わりかねぇ…」



9/28(金) 深夜

ふと目が覚めた、しまった、いつの間にか眠ってしまったらしい
慌てて時計を見ると11時54分
ギリギリだがなんとか起きれたらしい
黄龍鉄甲を引っつかんで慌ててゆき兄の部屋にいく
ドアをノックする

「おーい、ゆき兄ー」

返事が無い
おかしいな

「寝てるのかー?
 …あれ、鍵かかってない」

そっとドアを開けると部屋の中は真っ暗だった
電気をつけてみると部屋には誰もいなかった

「…おいおい、どういうことだよ」

辺りを見回すと机の上に置かれたメモ用紙が目に入った
しっかり固定されていたその用紙を手にとってみた

「…!!!」

メモにはこう書かれていた

【今回お前は関係ない、俺がやる】

「ふざけんな!関係ないわけあるかってんだよ!!」

メモをクシャクシャに丸めて放り投げて俺は部屋を飛び出した
クソ!!ゆき兄がいつ出たか知らないけど急がないと!!!

校庭を突っ切り、いつも侵入しているトイレの窓から校舎に忍び込む
そのまま足音も気にせず音楽室の前に辿り着く
俺は躊躇わずドアを一気に開けた
いや、正確には開けようとしたがドアは開かなかった

「カギかかってんのか!?」

いや、カギはかかってない
何かに抑えられているようにドアが開かないだけだ
一体どういうことだ…?

「結界だぁ」
「誰だッ!?」

後ろから聞こえた突然の声に驚いて振り返る
そこには…何だこいつ…!?
声の主は白い仮面で顔を覆い赤いマントが全身を包んでいた
声自体もまるで合成音声のような男女の判別もつかないようなものだった

「…内から結界が張られてんだぁ、そのままじゃ何したって入れやしないぜぇ」
「お前誰だよ…!」
「俺はぁ…ノスフェラトゥ…この学園の闇に生きる者だぁ…」
「ノス…?」
「それより中入りたいんだろぉ?
 あのなぁこの結界は強烈な陰の気で出来てんだぁ
 だったら同程度かそれ以上の陽の気をぶつければいい」
「陽の気…?」
「その右手にあんだろぉ…
 それじゃぁ俺はいくぜぇ…精々頑張りなぁ…
 ヒャハハハハハ…!」

それだけ言うとノスフェラトゥと名乗った奴は高く飛び上がった

「なっ…?」

視線を上にあげるとそこには天井が広がっているだけだった
消えた…?
いや、そんなことより今は音楽室に入らないと
信じていいものかわからないがこれしか方法がない

「頼むぜ黄龍鉄甲!!!
 うおらぁぁぁぁあああああああああああ!!!」

扉に全力でパンチを叩き込む
視覚で捉えたわけではないが、ガラスが砕けた感覚を感じた
扉に手をかけ力を入れるとドアは難なく開いた
中に入ると静寂に包まれていた

「ゆき兄!リカちゃん!!どこだ!」

ポーンと、ピアノの音がした
ピアノのほうを見ると誰かがいた

「…よく来るなぁ」
「女…?女の執行部なのか…?」
「…うん、2-Bの桃花だよ」
「昨日、音楽室の前で俺とゆき兄に邪魔って言った…」
「…そういえばそんなこともあったね」
「ゆき兄と、リカちゃんをどうした」
「…何で皆校則を守らないんだろうね」
「質問に答えろ…!」

ゆっくり、ゆっくりと近づく
一体どんな攻撃を仕掛けてくるかわからない以上迂闊には飛び込めない

「…皆私が嫌いなんだろうね
 だから私に逆らうんだ…思い通りになってくれないんだ…」
「何言ってる…?」
「…嫌われたくないから…好きになってよ…
 ちゃんと私の思い通りになってよ…」

ピアノがポーンと音を立てた
グニャっと、目の前が歪んだ

「なっ…!?」

視界だけじゃなく、床までも歪んだようで
バランスを失った俺はその場に倒れた

「な、なんだ…?」
「動かないで」

ポーンと、またピアノが鳴った
同時に押し潰されそうなほどの重みが俺の身体に降りかかった

「がっ…!?」

動けない、くそ、何だコレ…
これが…こいつの…桃花の力か…!
あのピアノの音だ…ピアノの音が…!

「…そういえばこの子に会いたいんだっけ?」

ピアノがまた鳴り出した
するとピアノから黒い影のようなものが出てきた
それは人の形をしていて、段々と影が薄れてくる

「…リ…カちゃん?」

影は、リカだった
ただし、生気を失った目は虚空を見ていて
全身に力は入ってないようだった、まるでそう、人形のように

「この子はもう私のことが好きだから何でも言うこと聞いてくれるんだ
 君もそうなってよ、嫌われるのは嫌だから」
「ふっ…ざ…」
「大丈夫、この歌を聴けば必ず…好きになるから」

音楽が聞こえてくる
とても心地よい音楽、まるで暖かい水の中で寝ているような心地よさ
頭がぼうっとしてくる
聞くな、聞いちゃ駄目だ、そう思っても旋律はどんどん流れ込んでいく
何も考えられなくなっていく…

突然ガァンという音がして音楽が止まった
その瞬間、意識がハッキリして身体も自由に動くようになった

「…全く、毎回こういうパターンかよ…」
「ゆき兄…」

ドアの前にゆき兄がいた

「悪いな、お前より早く出たんだが少し野暮用で遅れちまった」
「いや…おかげで助かったよ」
「で、あいつはどういう能力なんだ、そんで何でぼけーっとリカが突っ立ってる?」
「操られてみたい、それとあの桃花って奴の能力だけど
 やっぱりピアノの音で人を操るかどうかだと思う」
「ふむ、とりあえず懐中電灯をぶん投げてみたのが正解か」

桃花のほうを見るとピアノを静かに触っていた

「…酷いことをするなぁ…」
「ゆき兄!耳を塞げ!!」
「無駄だよ…」
「がっ…!?」
「私の音は聴くものじゃなくてね
 感じるものだから耳を塞いでも駄目なんだよ」

また身体に強烈な重みがかかる
抵抗するもそれ以上の力で押し潰され床に倒れる

「がっ…くっ…」
「たまゆら、気をしっかり持て」
「えっ…?」

ゆき兄は平然とした顔で直立していた
どういうことだ?ゆき兄は大丈夫なのか?

「…確かに…気を抜いたら1発で取り込まれそうな音色だが…
 所詮音は音だ、同調しようとするな」
「なんでよ!なんで聞かないのよ!!」

狂ったようにかき鳴らされるピアノ
だがどんなに音が鳴り響こうとゆき兄は平然と立っている

「いくらやっても無駄だと思うぜ
 なんというか俺は同調できないっていうか旋律を理解できないっていうか…」
「?」
「…身も蓋も無い言い方をすると…これ以上無いぐらい音痴だからな」

桃花の顔が愕然としていた
音痴ってそこまでのレベルかよ!?
ということは自分は少なくとも音痴ではないということか
いや、しかしこの場合は音痴なほうが助かるというか

「…ちょっとまっとけよ、あのピアノどうにかしてくる」

ゆき兄が桃花に向かって歩き出した
桃花の顔付きが変わった

「…なら、これは?」

今までの旋律が途切れ新しい曲が流れ出す
だけど俺の束縛は解けない

「だから俺には効かないって…何!?」

ゆき兄に何かが飛びかかった
…何かじゃない、襲いかかったのはリカだった
その手にはカッターナイフが握られていた

「痛ぅっ…!」
「リ、リカちゃん何やってんだ!?」
「…操られてるな、完璧に」
「あったりー
 この子はね、もう私のことが好きだから私の言うことなら何でも聞いてくれるの」
「…チ」
「助けようとした人に殺されるなんてね…
 悲劇だね、あはは」
「笑えねぇよ」
「そう?
 んー、それじゃやられちゃいなよ」

曲が、激しさを増した
同時にカッターナイフをもったリカがゆき兄へと向かっていく

「あ、言っくけど殴って動きを止めるとか考えないほうがいいよ
 私のトモダチは死ぬまで動きを緩めないから、死ぬまで私の望みを本気で叶えてくれるの」
「…くそっ!!」

どうすればいい…俺は相変わらず動けないし
桃花の話が本当ならリカの動きを止めることもできないし…
いや、それ以前にゆき兄がリカを攻撃できるのかもわからない
俺の考え通りゆき兄は回避に集中してるようだった
しかしこのままじゃジリ貧だ…

「…リカ、お前本当に馬鹿だよな」
「…」
「昔っからすぐコレだもんな
 意地張って何かやらかして結局俺が後始末するハメになるんだからな」
「無駄だよ、今のその子には私の音以外届かない」
「…でもそんなところは嫌いじゃなかった
 意地の1つや2つも張れない奴に比べりゃよっぽどな」
「…」
「お節介で、意地っ張りで、迷惑なお前だからこそ
 俺はそばにいてやれたしいて欲しかったんだ」
「…」

気のせいか…リカの動きが鈍ったような気がした
この状況でなぜか俺は安心にも似た感覚を感じていた
冷静に考えれば絶体絶命で安心するような部分はどこにも無いのだが
自分でも不思議なくらいに俺は落ち着いていた
身体は動かないが、動こうとすらしていないような状態だった

「…そんなお前がこんな音なんかに支配されるなんてな
 確かに強力な音だが…結局音は音だ、どんな力を得ようが音で全てを支配することなんか出来ないんだ
 俺に効かないのも音痴だからってだけじゃねぇ
 聞こうともしてないからさ、こんな腐った音楽に傾ける耳なんかもってないからな」
「舐めるなッ!!」

ピアノの音がさらに激しくなった
もはや人が弾いてるのが疑わしくなるほどの激しい旋律

「そいつを殺れッ!!
 早く殺れッ!音に抗うなッ!!!従え!!
 私が好きなら従えッ!!」
「…」

リカの持っているカッターナイフからチキチキという音が聞こえてきた
ゆき兄は動きを止めていた

「…1つだけ言っておくことがあるんだがな」
「消えろ!!!」

ガァァァァン!!ともはや旋律ではない
激情が音と化したかのような音が響き渡った
同時に、リカがゆき兄へと走り出した、カッターナイフをふりかざしながら
駄目だゆき兄…!リカは止まらない!!!

「こいつは…リカは多分お前より俺のほうが好きだと思うぜ?」


バシュッと血が散った
俺の頬に、ゆき兄の血が当たった

「かっ…はッ…」

ゆき兄が首を抑えている、抑えている手の隙間からは、血が流れていた
ボタボタ、ボタボタ、溢れ出ていた

「ぐっ…」

どしゃっと、首を抑えたままうつぶせにゆき兄は倒れた
そんな…そんなことって…

「アハハハハハハ!!ほら!皆こうなんだ!
 私を嫌いなやつは皆この音で私を好きにさせる!
 それでも好きにならない奴はこうなる!!
 そして後は私を好きな人だけで嫌われることのない世界が出来るんだ!!」

この…!!!

「うっ…おぉぉぉぉおおおおおお!!!!」
「えっ…?」

数倍にもなった重力に逆らうように俺は立ち上がろうとする
腕の筋肉がプルプルと痙攣する
それでも抑え込んでくる以上の力で俺は無理矢理立ち上がる

「ぐぅあああ…負けて…たまるかぁぁ…!!!」

絶対に負けてたまるか
こんな音なんかに惑わされてたまるか!!!

「…思い通りにならないんだね…
 じゃあそこの男と同じようになればいいよ
 リカちゃん、次はあいつ…」

またピアノがポロンと音を立てた
くそ…今リカに来られたら…!
だけどリカは動かなかった
その場に呆然と立ち尽くしたまま動かない
なんだかわからないけどチャンス…!!
動け俺の身体…!元に戻れ…!!!

「どうして!どうして動かない!!
 早くあいつを倒してよ!なんで思い通りになってくれないの!!」

桃花はまた狂ったように鍵盤を叩き始めた
それでもリカは動かなかった
カチャンと、リカの手からカッターナイフが落ちた

「…ゆき…兄…」
「!!」

リカは、泣いていた
泣きながらその場に崩れるように座り込んで、倒れているゆき兄を呆然と見つめていた
驚いているのは桃花だった

「どうして…!?何で!?
 何で…」

どれだけ鍵盤を叩いても、どれほど旋律を響かせようと
リカはもう桃花の思い通りに動くことはなかった

「…ゆき兄…ゆうくん…やだよぉ…」

泣きじゃくるリカ
クソ…!絶対許さない!!!!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

思いっきり気合を入れるように叫ぶ
するとバシィンと何かが弾けたように身体が軽くなった

「お…!動く!!」
「…う、わああああああああああああああああ!!!!!!」

絶叫と共にこれ以上ないほどの旋律、いや、めちゃくちゃな不協和音が響き渡る
だけどもうこんな音に自由を奪われたりはしない
こいつだけは絶対に許さない…!!

「…上出来だぜ、たまゆら」
「…え?」

聞き間違いかと思ったがそうではない
今のは明らかにゆき兄の声だった
驚いてゆき兄のほうを見るとニヤニヤしながらゆき兄は立ち上がっていた
呆然とした、リカも呆然としている
ていうか首から血がポタポタと落ちてるんだが

「リカも上出来だ、桃花だっけ?言ったろ?
 こいつはお前より俺のほうが好きなんだってな」
「なぁっ…!?」

ボフンと音が聞こえたぐらいのレベルでリカの顔が真っ赤になった
いや、それよりも何でゆき兄生きてんの…?

「リカが切ったのは掌さ、咄嗟にそれで首を抑えて首を切られたかのように見せかけたんだ
 それでバレないようにそのままうつぶせに倒れてな
 まぁ…それだけやってもお前らが音に囚われたままならどうしようかとは思ったがな」
「…ゆき兄…お前」
「いいからケリつけろ
 半狂乱になった奴に勝機はないさ」

促され俺は黄龍鉄甲を構え
そして走り出した

「あああああああああ!!!」
「…女の子を殴るってのはちょっと抵抗あるんだが」
「じゃあやめてよ!!!」
「…やむなし!!」
「世の中なんでもかんでも思い通りにはいかないってことだな」
「闇を撃ち払え!!黄龍天光破邪爆裂拳!!!」
「待…」



ゴリッと、骨にあたる感触
そして恒例の少しの抵抗感
それを意に介さず…振りぬく…が今回は手加減してやる
下に向かって…振りぬく!!!


「ひぁああああああああああああああああ!!!!!!!!」



ドゴォン!!!と大きな音が響き
間髪いれずにバキバキバキと床が壊れた音がした
勢いよく頭から床に叩きつけられた桃花はそのまま木造の床を壊してしまったらしい


「…手加減にならなかったな…」
「…ところで、黄龍天光破邪爆裂拳ってなんだよ」
「いや…決めゼリフはいるかなって思って…」
「まぁいいや…さて今回も何か出てくるのかね?」

俺とゆき兄は桃花のほうを見た
桃花は動かない

「うぅっ…うっ…」

桃花は呻きながらゆっくりと床に手をつき頭を上げだす
頭からパラパラと床の破片やチリのようなものが落ちている
…同時に、やはりあの"黒い煙"が身体から溢れていた

「…う…ダメ…やだ…!行かないで…!!
 やだよ…!また嫌われる…!!
 いやだ…やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ…!!
 イヤァァァァアアアアアアアアアアアアアガァァァアアアアアアアアアアア!!!」

もうさすがに馴れてしまった
いくら不可解な現象でも3度目にもなると動じなくなってくるが…
この断末魔の悲鳴のようなものだけは相変わらず背筋が寒くなる
そして黒い煙は消えていった

だが次の瞬間、突然地震でも起こったかのように大きく地面が揺れた

「何だ!?」
「……これは!?」

さらに辺りにどこから聞こえてくるのかわからないが
いや、周り全てから聞こえてくるような不気味な唸り声のようなものが聞こえた

「…ォォォォォオオ…!!!」

その唸り声に、俺は戦慄した
恐怖なんて生半可なものじゃない、まるで崖っぷちに立たされて突き落とされるのを待ってるかのような
絶対的な死を目前にした人間の諦めの感情にも似た、恐怖をはるかに超越した先
そんな感覚を俺は感じた

だがそのうちにその声も聞こえなくなり
辺りは静寂に包まれた

「なんだ…今の…今まではなかったぞあんなもの…」
「……今更何が起ころうと驚きはしないが」
「…まぁな…あ、そうだ…」

俺は桃花を見た
宙を見つめ呆然と座っていた
…さて、今回も頼むぜ、黄龍鉄甲

「…嫌われるのが怖いから嫌われないように頑張ってた…
 それでも…どうしても私を嫌いな人がいる…
 でもこの力があれば…皆が私を好きになる…
 それは…乱されることの無い…永遠の平穏…
 でももう無理…もう…無いんだね…」

フラフラと立ち上がった桃花はピアノの前に移動した
そして

「…意味がないじゃん…
 もう…意味ないじゃんか…!」

ガァァァァン!!とピアノから音がする
何度も何度も拳を鍵盤に叩きつける
その時、ピアノからカタンと何かが落ちた
…工具?のような…
同時に、黄龍鉄甲から光が溢れ出した
きたきたきたぁ!

光はさっきの工具のようなものに集まった
そして、弾けた――






泣き声が、胸を痛くする
どんなに伝えようとしても届かずに
それが苛々を募らせる
激情に任せても何一つ解決せずに、ただ罪悪感に苛まされるだけ

「…何でちゃんと言うこと聞いてくれないの?」
「…そんなに私のことが嫌いなんだ…」
「嫌いだから…困らそうとしてるんだ…」

誰からも嫌われないように生きていきたい
嫌われているということを知ったまま生きるのは辛すぎるから
誰よりも嫌われるのを恐れてるくせに
誰よりも他人の目が気になって仕方ない


「…皆全部私に押し付けるんだ…」
「嫌い…だから」





綺麗な、とても綺麗なピアノの音が響く
空へと響く、優しい旋律


「いつもごめんね…」
「だからこれプレゼント」
「お姉ちゃんのピアノ、好きだから」

嫌われて…いる?
本当にそう…?
どっちなの、わからない
わからないから、苦しい
裏で嫌われていたらどうしようかと考える
もし全てが虚構で真実が自分に見たくないものだったら…
それがたまらなく怖い、だから私は私が見たいものを真実にしようとした
その真実は私が望む世界、思い通りに描かれる世界…


「お姉ちゃん」
「え…」
「…誰も嫌ってなんかないよ
 そりゃ世の中全ての人が好きだってことはないけど…」
「…」
「…自信もって…まず自分を好きになって
 自分を閉じ込めないで」
「うん…」
「簡単なんだよ
 ただ少し…少しだけ自分を好きになればいいだけだから
 それだけできっと自分を取り巻く世界が変わる
 これ、今度は忘れないで…大事に使ってね」
「うっ…ん…」




――光が消えた

静かな、音楽室
静寂を破るのは深い後悔の言葉

「…嫌われることが…怖くて…傷つきたくないから…最初から嫌われていると思い込んでいた…
 臆病なだけだったんだ…誰も信じずに…傷つけていたのは私のほうだったんだ…!
 どうして…忘れてたんだろう…!!どうして…!人の暖かさを…いつからか偽りと思ってしまったんだろう…!
 最低だ…私…!!」

3回目だが、いつも心が痛む
しげるも、えび助も、そして桃花も、歪められてしまい
黄龍鉄甲の力でその歪みが正された時に、深い自責の念に囚われている

…えび助が言っていた

【歪んだ正義や力は信じてる者にとっては救いになる、心のね
 でもきっと手を差し伸べて何もかもを救えるのは人だけなんだ】

…そうだ、心を闇から救い上げるのが黄龍鉄甲なら
手を差し伸べるのは…

「…汝の隣人を愛せ」
「え?」

俺が言葉を発するよりも早くゆき兄が口を開いた

「…よく聞く言葉だが、この言葉にはある前提がある」
「…」
「…正確には、汝自らを愛するが如く、汝の隣人を愛せ
 自分すら愛せない人間が人を愛せれるわけがない…とな
 …同じことさ、自分を信じれないせいで相手を信じれない奴は表面上は分かり合えたとしても
 深い場所で通じ合うことはできない、偽りの繋がりだ」
「…うん」
「だけど誰も彼もを無条件で信じる奴なんかいない
 俺たちは聖者じゃない、裏切られれば傷つくし、憎んでしまうし、心の底から誰かを信じるなんてのも容易いことじゃない
 …俺が思うに、だいたい皆考えすぎなんだよな
 偽りの繋がりだとしてもいいじゃないか、自分が真実と信じて救われるならそれでいい
 偽りだと気づいてしまっても、全てが0になるわけじゃない、過ごした時間が偽りの中の小さな真実を照らしてくれる
 そこに希望を見出せばいいだけの話だろ、その、調律器のようにな」
「…うん…そうだね…私は結局…自分に怯えてただけなんだね…
 ごめんなさい…ありがとう…」
「まぁここにはお節介が2人もいるからな
 本音をぶつければ役に立つかどうかはしらないが馬鹿みたいに必死になると思うぜ
 な?お二人さん?」

ゆき兄が俺とリカのほうを見た
俺は思わずうなづいていた、リカも同じようだった

「…ありがとう…」

ドサッ、と桃花が倒れた
…今回はいいところゆき兄に取られたな…

「ねぇ…ゆうく…あ、や、ゆき兄…」

おどおどと今までの状況を見守ってたリカが話しかけてきた
どうしよう、何て説明すればいいんだろう

「…リカ」
「…あの…ごめんね…あぅっ!?」

リカが死ぬほど驚いてる
いや、俺も死ぬほど驚いた
ゆき兄がリカを…抱きしめた…と、うぇぇぁ!?

「あっ…なっ…うぉっ…あぁはにゃぁ!?」
「…今度ゆっくり話してやるさ
 もう全部終わった、今は休め…」
「う…うん…
 あははは…懐かしいな…この匂い…昔はよく…」

…2人とも黙ってしまった
俺はどうすればいいんだろう

「…おーい…俺のこと忘れてない?」
「あうぁっ!?」
「おぁっとぉ!?」

リカがゆき兄を突き飛ばした
バランスを崩したゆき兄は尻餅をついた

「あややややや!違う違う!これは違くて!
 たまゆら君がいるってことは気づいてたんだけどそういうあれじゃなくて!?
 あれ、そういうって…ふにゃぁぁぁあ…!!」

騒ぎながら突然リカがドターンと倒れた
何なんだ一体…

「…疲労と過度の緊張から気を失ったみたいな
 本当にめんどくせぇやつだな」

ゆき兄がリカの頭をツンツン突付きながらブツブツ言ってた

「なんでいきなり抱きしめたんだよ」
「いやー…ああしとかなきゃなんやかんやと質問責めにされそうだったからな
 疲れたから帰って寝たいのにそんなめんどくさいことしたくないからな」
「…うわー」
「ま、帰ろうぜ?
 こいつは俺が担ぐから、お前あっちで倒れてる桃花でも担いでやれよ」
「はいはい…」

桃花を担ぎ上げて音楽室を出ようとする

「そういえば何でわざわざ死んだフリとかしてたの?」
「…さっさと音を止めようかとも思ったがあそこで止めたら音に囚われた状態のお前らにも何か影響があると思ってな」
「それでわざわざあんな手段を…」
「ま、結果オーライでいいだろ」

俺とゆき兄は2人を担いだまま音楽室を出た
廊下を歩いてる時にふっとゆき兄を見た
珍しく嬉しそうな顔をしていた、おぶられてるリカも安心しきった顔で寝息を立てていた
何だかこの2人のことがわかった気がした
少なくとも恋人という枠では括れないんだろうな、うん
ちょっとだけ、羨ましくもなった









9/28(金) 同時刻(深夜) 某所
「まずいねぇ…」
「次々に消されてるな」
「…だがまぁ…淘汰と考えるべきだな」
「淘汰か…」
「どちらにせよ我々執行部は協力などはしない、重要なのは個々の力だ」
「…だからこれは丁度いい淘汰というわけか」
「だけどさすがにそろそろ焦りを感じたほうがいいんじゃないか?
 ここまで来ると生徒会自体も動きだしちまうぜ?」
「そうだな…」
「…ま、僕なら間違いなくあんな奴倒せるけどね」
「えらく自信があるようだな」
「…ククク…何にせよ面白いじゃないか」
「そういえば…関係ないかもしれないが最近もう1つ不穏な気配を感じるな」
「何が起こってるんだろうな、とんだサプライズだ…」






9/28(金) 同時刻(深夜) 屋上

「あいつが勝ったかぁ、さすがだなぁ」
「この調子でどんどん倒してくれればいいんだけどなぁ」
「…最後に笑うのはこの俺だぁ…」
「この…ノスフェラトゥがなぁ…」
「ククク、クックックック…アーハッハッハッハッハ!!!」






3限目 - 地獄の旋律 -




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最終更新:2009年11月01日 02:29