邪眼学園黄龍譚4限目【宵闇の徘徊者】後編
10/3(水)朝
登校するとなぜか皆がニヤニヤしていた
正確には男子がニヤニヤとこちらを見て女子はまるで軽蔑するような視線でこちらを見ていた
どうやらすでに噂になってしまったらしい
リカですら目を合わせてくれないのが正直心が痛んだ
どうしてこんな目に合わなきゃいけないんだ
くそ…あの男絶対に許さねぇ…!
「…たまゆら」
「ゆき兄…」
ゆき兄は悲しげな目で俺を見ていた
どうやらゆき兄も同じらしい
俺たちは固く握手をして
あのクソ野郎を絶対に捕まえることを誓った
10/3(水)昼休み
教室にいると皆の目線が痛いので屋上に逃げることにした
しばらくするとゆき兄が来た
「たまゆら、あいつの情報かどうかはわからんが色々聞き込みしてきたぞ」
「え?」
「カナから聞いたが…最近どうもシャインの食料が減っているらしい
野良猫かネズミかと思ってたらしいがそれにしては減りが早いってな」
「ほうほう…」
「…つまりあいつがもしこの学園に潜伏してるんだったら
夜中にこっそりシャインに忍び込んで食料を盗んでるわけだ」
「なるほど…」
「毎日盗ってるかどうかはわからないが食料品だからな
かなり頻繁には盗んでるだろう、だから今日の夜中にシャインで見張っておけば…」
「なるほどー…遭遇する可能性があるよね
でもシャインって24時間営業だろ?」
「どうせ夜中は客なんてほとんど来ないらしいからな
食料倉庫と裏口のドアはキッチンから死角にあるからな
そこでだ、シャインの店長に頼んで表向きは普通の営業状態だが臨時休業にしてもらってだ
それで俺たちが見張りをする、どうだ?」
「…いいけど、出来るのか?」
「まぁシャインも食料泥棒には困ってるらしいしな
それにあの店長はけっこう話がわかる人だからな」
「そっか…はぁ…それにしても皆の視線が痛い…」
「…ああ、俺もああいう冷たい視線は慣れてるが…
さすがに今回は別格だな…なんかもう蔑みまで入ってる気がする…」
「…信用されてないね俺らって…」
「最初に「やめろ、泥棒」と、叫んだ人物が
えてして宝を盗んだ本人である…E.コングリープの格言だ…」
後ろから突然聞こえた聞き覚えがある声に振り向く
そこにはピュアがいた
「やぁたまゆら君」
「ども…」
「それからゆき兄、久しぶりだね
最近図書室に来ないね、前はあんなに熱心に通ってきてくれてたのに」
「調べ物はすんだからな、それより今の格言…」
「ああ、色々と噂が立ってるようだけどね
僕は君らが覗き魔なんて信じてないよ」
「ピュア…」
「だいたい覗きなんてするより本の1冊でも読んでたほうがよっぽど楽しいだろうに」
「いやー、それもどうかと思うぞ」
「…ふむ、まぁ君らが覗きをしても何の得にもならないだろうしね
きっと何かの間違いだろうとは思っていたが…
その様子を見るとどうやらやはり濡れ衣らしいね」
「あったりまえだ」
「…まぁ、人の噂もなんとやら…しばらくすれば皆忘れてくれるさ」
「待ってられないからな、さっさと濡れ衣は晴らすさ」
「…苦しみは人間の偉大な教師である。苦しみの息吹のもとで魂は発育する…
エッシェンバッハの言葉だ、覚えておくといい」
それだけ言い残すとピュアは屋上を去っていった
何しに来たんだろう…
「…一応あいつなりに励ましてくれたんだろ」
「そっか…いい人だね、ピュアって」
「まぁ…変な奴だけどな」
「ゆき兄が言えた言葉じゃないと思うけどね…」
10/3(水)放課後
放課後になり俺とゆき兄はシャインに足を運んだ
昼休みに相談したことをカナさんに話した
「へ~…大変だねー2人とも…
うーん…ちょっと店長呼んでくるよ、奥の席で待っててね」
「うん、ありがとう」
奥の席の椅子に座って待つことにした
待ってる時にゆき兄に聞いてみた
「ねぇ、シャインの店長ってどんな人なの?」
「ああ、お前もこの前会ってるぞ」
「え?」
すると奥から見覚えのある顔の男の人が現れた
「やぁお待たせ、すまないね、ちょっとトイレで色々あってね」
…阿部さんだったな確か
そうか…この人が店長だったのか…
「それで食料泥棒を捕まえるのに協力してくれるんだって?」
「…ああ…はい」
「だから今日だけ夜は臨時休業にしろって?」
「…まぁ…そうなります…」
「…ふむ、確かにどうせ夜は客もほとんど入らないし食料泥棒を捕まえるためなら…
…うん、いいよ」
何だ意外とすんなり通ったな
ゆき兄の言った通り随分と話がわかる人だ
「…ああ、待った…その代わりと言っちゃなんだが」
「代わり?」
「この後夜まで少しケツ貸して…いや、付き合ってくれないか?」
何だって…?
チラリとゆき兄のほうを見ると口元を隠して必死に笑いを堪えてるようだった
「それはどういう…」
「俺はノンケでもかまわず食っちまうんだ」
「…」
いや、ちょっと待ってくれ
話が見えない、いや、見えるけど見たくない
阿部さんは真っ直ぐな視線で俺のほうを見つめてきた
その光景を見たゆき兄が堪え切れなくなったのか微かに押し殺した笑い声が聞こえてきた
こいつ…確信犯(誤用)か?
「…たまには趣向を変えてみたいな…
ゆき兄君、付き合ってくれないか?」
その一言を聞いた瞬間、ゆき兄の顔から笑いが一瞬で消えうせた
それどころか一気に血の気が引いていた
「な…え…?」
「たまにはガチムチじゃなくて華奢な子とも…ね?」
「いや…ね?って…」
ハハハ…ざまぁみろ…人を生贄にしようとした罰だな
精々阿部さんに掘られてヒィヒィよがってろ
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!
俺は…その…やっぱたまゆらがいいと思うんですけど…!
ほら、だってこいつの筋肉とかけっこう阿部さん好みっていうか…!」
「…ああ…それでもそうだな」
ウットリとした目で阿部さんが俺の身体を見つめてくる
背筋に冷たいものが走る、まるで視線で犯されてるような気分だ
「いやいやいやいや!男なら初志貫徹でしょう!!
ほ、ほら、俺と阿部さん…お、お互いをまだよく知らないし…
やっぱり知ってる分…ゆき兄のほうが…!」
「ばっ…馬鹿いうな…!
阿部さんは会ったばかりの予備校生とも公衆便所でかましちまうような人なんだぞ!」
「おいおい、そんな昔のことは忘れてくれよ
…さてどっちにしようかな…」
「ぜ、是非たまゆらで…!」
「い、いやゆき兄で…!」
こッ…この野郎…!俺に押し付ける気全開だ!
この最悪の役回りを俺に押し付けて1人で逃げる気だ!!
「…うーん…どちらも捨てがたい…」
「いやほら!やっぱり身体の相性ってもんがね!
俺みたいな折れそうな身体抱いても気持ちよくなんてないから!」
「大丈夫だ、優しく包み込んでやる」
「うっ…」
馬鹿め!軽率に動いて自爆しやがった!
このまま行けばこのオホモダチ的な役回りはゆき兄だ!!
「…それじゃゆき兄君あっちに…」
「い、いや…はぁー…あのー実は…
たまゆらも前からこういのに興味があったらしくて…」
は?
「ん?そうなのか?
…じゃあ3Pでもするか」
なんだと…!?
ゆ、ゆき兄の野郎…!全てを捨てる覚悟で俺を道連れにする気だ!!
くそ!悪魔のような顔で笑ってやがる…!でもどこか寂しげだ…
「それじゃたまゆら君も…」
「い、いや…その…俺…今日、腹の調子が…」
「男は度胸、なんでも試してみるもんさ
前と後ろ両方から出しまくるのも気持ちいいと思うぜ」
「いや…それは…ちょっと…」
「あ、じゃあ…俺はー…そういう汚物プレイは嫌いだから辞退しよっかなー…」
この野郎!逃げる気だ!絶対に逃がさない!!
俺だけなんて耐えられるか!こうなりゃ俺だって道連れにしてやる!!
「うーん…それじゃあ2人で話し合って決めてくれるかい?
なるべく早く頼むよ」
阿部さんがそう言ったので俺とゆき兄は少し離れた場所に移動した
「…たまゆら、行けよ」
「…嫌だ…」
「いや、ここはたまゆらが行くべきだろ…
今まで何度もピンチを救ってやったろ…?」
「最終的に敵を倒してきたのは俺だろ…?
だからここはゆき兄が行くべきだと思わない…?」
「…」
「…」
「…正直俺は物凄い嫌だ」
「そんなもん俺だって嫌だ…」
「でももう無理だろ…阿部さんその気になってるぞ…
見てみろよ…今にもズボンのチャック全開にしそうだぞ…」
「ていうかもうさ…ズボンの上からでもわかるぐらいエレクトしてるよね…」
「…どうする?」
「…どうするも何も…」
「…あー…ここ暑いな…ちょっとコーラを…」
「待て…逃げる気だろ」
「いや…コーラを買ってこようと…」
「…駄目だ」
「…クッ…!!」
「…絶対逃がさねぇ…!!」
「たまゆら…てめぇ…!
そんなに友達を肉食動物の餌にしたいか…」
「その言葉そっくりそのままお前に返すよ…」
睨み合いを続けていると阿部さんが話しかけてきた
「まだかい?そろそろ待ちきれないんだけど?」
俺とゆき兄はまた顔を見合わせた
「どーしろってんだよ…」
「しらねぇよ…」
神様、どうか僕達を助けてください
お願いします…
と、いよいよ神頼みをはじめたその時だった
「あれ?2人とも何やってるの?」
「…えび助?えび助!!」
「え…何?」
俺はえび助の両足をガッシリと掴んだ
さらに凄い速度でゆき兄がえび助を後ろから抱えあげた
「え?え?」
「ごめん…えび助!そしてありがとう!!」
「阿部さん!受け取れ!!!」
「えっ…ちょっ…!?」
俺とゆき兄は抜群の呼吸でえび助を阿部さんに向かって投げた
阿部さんは見事にえび助をキャッチした
「ウホッ…」
「え…?」
もう我慢の限界だったのか阿部さんは状況を把握しきれてないえび助を抱きかかえたまま
トイレへと駆けていった
「…助かったな…」
「…うん…でも尊い犠牲だったね…」
しばらくトイレからはバターンやガターンと騒々しい音が聞こえてきた
だがそれもやがて静かになった、しかし微妙にえび助の悲鳴のような声も聞こえる気がした
俺たちは耳を塞いで何も聞かないことにした
俺のせいじゃない俺のせいじゃない俺のせいじゃない
俺のせいじゃない俺のせいじゃない俺のせいじゃない
大事な物を失ったえび助の顔は見たくはなかったので
俺たちは罪悪感をお土産にシャインを出て一旦寮で休むことにした
さようなら、綺麗なえび助、そして本当にごめん
10/3(水)夜
「…けっこう寒いな…」
「空調切れてるからねぇ…」
夜になり、もう一度シャインに来た
えび助の犠牲により阿部さんはちゃんと約束を守ってくれたようだ
店内には誰1人としていなかった
「…ふむ、さて…どこでどう見張るかねぇ…」
「この冷蔵庫の隙間はどうかな?」
「狭くないか?」
「奥行きがあるから大丈夫だよ、ここなら裏口から入ってこられても見つからないし
倉庫の入り口をすぐ塞げるからいいんじゃない?」
「そうだな、じゃあここにするか…」
壁と冷蔵庫の狭い隙間に無理やり押し入る
やっぱり2人はちょっと狭い
「…狭いな…」
「我慢しろよ…細いんだから…」
「お前ももうちょっと痩せればいいんだよ」
「うるさい黙れ」
「…しかし来てくれるといいんだけどな…」
「…うーん…どうかなぁ…」
「ここまでやってこなかったら最悪だな…」
「ああ…えび助という犠牲も払ったのにな…」
えび助のことを思い出すと罪悪感で胸が一杯になる
だから俺は考えることをやめた
ぼーっと誰かが入ってくるのを期待して待ち続ける…
…暇でしょうがない…
「すー…すー…」
「っておい!何寝てんだよ!!」
「…あぁ…まぁ…つい眠くなった…」
「寝るなよ…」
「わかったよ…」
2時間後…
ゴソゴソと言う音が聞こえパチリと目を開けた
…しまった、寝るなよと言いつつ寝てしまったらしい
ちらっとゆき兄のほうを見ると狭い場所で器用に寝ていた
…あれ?じゃあこの音ってどこから?
そーっと覗いてみると明らかに怪しい奴が倉庫の中でゴソゴソやっていた
「!」
思わず声を出しそうになったが堪える
落ち着いたところでゆき兄を突付いて起こす
「んー…」
馬鹿!声を出すな!!!
慌てて両手でゆき兄の口を塞ぐ
「!?…?」
かなり驚いた顔をしていたがどうやら状況を察したらしい
指で倉庫のほうを指差すとゆき兄は頷いた
そして指を3本立てた
ジェスチャーから察するに3,2,1で飛び出せということらしい
俺は頷く
3,2,1!!
「そこまでだ!!こそ泥兼覗き魔ぁ!!」
「ぬぉっ!?」
「無駄だ!完全に入り口は固めたぞ!!」
「うっ…ぬぐぐ…」
「お前のせいで俺らは覗き魔と蔑まれ…!
絶対に許さねぇ…!」
俺とゆき兄は倉庫の奥に謎の男を追い詰めていく
そしてもう逃げ場が無くなった男はポケットに手を突っ込んだ
「凶器か!?」
しかし出てきたのは凶器ではなくタバコだった
男はタバコに火をつけるとぷはーっと一服しだした
「いや~…よくぞこの俺を捕まえた」
「まぁ…一目瞭然だが生徒じゃあないな…」
「ふふん、俺は銀河宇宙連邦から派遣された特殊工作探偵、名前はほろにが」
「はぁ?」
「地球に来た理由はα星ケンタルス座第3研究所から逃げ出した
生体宇宙兵器マンボラスがこの学園に逃げこんだらしく俺は捕獲のためにガッ!?」
ボゴォンと気持ちいい音がした
ゆき兄が落ちてた大根でほろにがの頭を叩いた
「…で?本当のところは?」
「いってぇ…!全く話は最後まで聞けガキ!」
「…話してみろよ」
「…学園に潜伏してた理由はマンボラスは擬態能力を持っていて地球人そっくりに変身できる
だけど地球人に俺の正体を知られるわけにはいかずどうしようか迷った末に
こっそりこの学園の生徒達を観察して擬態しているマンボラスを見つけようとしてなガッ!?」
ベチャッと音がした
今度はトマトを顔面に投げつけた
「おお…新鮮なトマト…
だからちゃんと話を聞けってこのガキ!」
「もういい…時間の無駄だ
たまゆら、誰か読んできてくれ」
「あ、うん」
「ちょっと待ってよ!坊ちゃん!!それはあかんて!ちゃんとしたこと話すからいかんといてーなー!
ふざけたのは謝るから本当ちょっとそれだけは堪忍してーやー!!」
「ちょ…離せ…!!」
「ふふふふふ…1度掴まえた女は離さないことから昔はスッポンのほろちゃんと言われててな…
精力もいつもスッポンドリンクとか飲んでたしかなり…」
「ええい!うっとおしい!!
スッポン関係ねぇだろ!!!」
思わず足元にあったゴボウで頭を叩いた
パシーンと音が響いてゴボウが折れた
「おお…細い割りに中々の高威力…
いやそうじゃなくてほんま頼むよー!人呼ばないでー!お願いだから話聞いてー!!」
「ゆき兄…これどうする…?」
「…どうせ逃げれもしないしな…うざったいから聞くだけ聞いてやろう」
「おお、なかなか話がわかるじゃないか…」
俺とゆき兄は入り口を固めて奥にほろにが置いて話を聞くことにした
「…えーと…まぁ探偵ってのは本当なんだよ」
「探偵がどうしてこの学園に?」
「守秘義務ってもんがあってな…」
「話せないなら警察に引き渡すだけだが」
「あーもーわかったわかった…話すよ、話せばいいんだろ
…はぁ…えーとだな…どこから話せばいいか…」
「この学園に忍び込んだのは何のためなんだ?」
「依頼人が言ったんだよ、この学園を調べて欲しいってな」
「依頼人って?」
「あー、めんどくせぇ、1から順に話してやるよ
…依頼人はこの学校に通ってた生徒の親御さんだよ」
「生徒の?」
「ああ、最も…その生徒は今行方不明だけどな
学園から脱走してそのまま行方不明になったらしい…
親御さん八方手を尽くして探したんだがどうしても見つからなくてな
この学園も協力を打ち切った、だけどどうしても納得いかないらしくてな
親御さんはこの学園自体に何かがあるんじゃないかと睨んで俺に調査を依頼してきたんだよ」
「それでなんで覗きとか食料泥棒とかしてるんだよ」
「いやー…ただ覗いてたわけじゃなくてな一応情報収集してたんだよ
まぁちょっとエロ心が働いたというか…男の本能だな
食料泥棒については…しょうがないだろ…食わないと死ぬし」
「そのエロ心とお前が逃げる際に叫んだ言葉のせいで俺たちが覗き魔にされてるんだが」
「あ、そーなん?まぁそれが狙いだったんだけどね」
「…この場で殺してやろうか…」
「まぁ待って待って…ていうかあん時は…
ほら、そっちの坊ちゃんが俺より先に覗いてたぜ?」
「は?」
ほろにがが俺を指差し、ゆき兄がこっちを見た
言い訳することも出来ず引きつった笑いで目線を逸らした
「たまゆら…お前…」
「まぁしょうがないって、あんなん男なら誰でも見ちゃうよ」
「…」
「さてと…ところで君らに聞きたいんだけどね」
「あ?」
「…この学園、普通じゃないだろ?」
「…言ってる意味がよくわからないな」
「ふっふーん、しらばっくれちゃってぇ~
…ちょっと調べただけで色々キナ臭い話がゴロゴロ出てくるんだぜ?
それもちょっと普通じゃ考えられないような…ね?
そんな普通じゃないようなことがゴロゴロ出てくる学校が普通なわけないだろ?」
「…」
「何か知ってるんじゃないのかい…?
教えてくれれば相応のお礼はするけどね…」
「…何も知らねぇよ」
「…ふーん、あっそ…
教える気はないってか…じゃあそっちの君は?」
ほろにががチラリと俺を見た
話せるわけがない、いや話してもどうせ信じないだろう
俺が首を振った
「…ふぅん…ま、何か隠してるのはよくわかったよ
やっぱり情報は自分の足で稼ぐしかないってか…」
「…もういい、お前は突き出せば俺らの汚名も晴れてそれで終わりだ」
「おいおい、約束が違うだろー?」
「話は聞いてやっただろ?」
「ああ、そうだった…
でもねー…そこで相手に猶予を与えちゃうところがまだまだ甘チャンだね」
「何だと?」
「ほらよ」
「え?」
ぽんっと目の前に何か黒い塊が投げられた
次の瞬間、ほろにが俺とゆき兄に体当たりして間を抜けていった
「待っ…」
「じゃあねー!もう会いたくないぜガキども!」
「てめっ…!」
その時、物凄い衝撃が身体に走った
正確には鉄の塊で頭をブン殴られたような衝撃
クラリと意識が飛びそうになる
頭の中で大きな鐘がガンガン鳴ってるような感覚
なのに頭が真っ白になり何も考えれなくなった
「あっ…かはっ…」
何も聞こえない
ゆき兄のほうを見ると頭を抑えて辛そうにしながらこちらを向いて口をパクパクさせていた
声は聞こえない
そのまま床にへたり込む
しばらくすると徐々にゆき兄の声が聞こえだす
「だ…じょ…か…」
「ス…グ…ド…ら…ば…る…」
ただ途切れ途切れで上手くは聞こえない
しかし指先の動きから少し待てと言うのは理解できた
じっとしていると完全ではないがちゃんと聞こえるようになった
「…大丈夫…か」
「…なんとか…今の…何?」
「…恐らくスタングレネードか…それに近いものだ…」
「スタングレネード…?」
「…爆発と同時に…大音響を起こし…敵に知覚衝撃を与える手榴弾だ…
…対象をショック状態にし…隙を作る武器さ…
あんなもん持ってるなんてな…全く…最初のおどけた態度といい…とんだ食わせ者だ…」
「…逃げられちゃったね…」
その時、入り口のドアが開いた
「おーい!お二人さん!大丈夫かー?」
阿部さんの声がした
「一応大丈夫です」
返事をすると阿部さんが心配そうな顔で近づいてきた
なぜかツナギ姿だった
「様子を見に来たら物凄い音が響いてな
何かと思ったよ」
「…追い詰めたんですけどね…」
「予想外の反撃で逃げられました」
「そうか、まぁ無事でよかった」
「…まぁこれで…濡れ衣は晴れるかな」
「ああ、俺がちゃんと言っておいてやるよ」
「阿部さん…かっこいいっすね」
「その言葉はベッドの上で聞きたいね」
「…はは、遠慮します」
10/3(水)深夜
しばらくシャインで休んでなんとか普通に動けるようになったので俺は寮に戻ることにした
ゆき兄は俺より至近距離でスタングレネードの直撃を受けたらしくもう少し休んでいくと言ったので
とりあえず阿部さんに任せて俺だけが寮に帰ることにした
…しかしスタングレネードって凄いな、多少服に焦げ目がついたが身体はなんともない
そんなことを考えながら寮へ戻っていると道の先に誰かが立っているのが見えた
誰だろう、こんな時間に
その時、さーっと、月を隠していた雲が流れ
道の先にいた男が月光に照らされた
「…あれは、制服?」
その男は学園の制服を着ていた、いや正確には制服の上に白いコートを纏っていた
そして、こちらを見ていた
「…執行部じゃ…ないよな…」
ふっ、と目を逸らした
その瞬間だった
「転校生、たまゆらだな」
「え…なッ!?」
至近距離から声が聞こえ驚いて逸らした目を戻すと白いコートの男は目の前にいた
なんでだ?一瞬前まではまだ数メートルは離れてたのに…?
こいつ…執行部なのか?
「…俺は邪眼学園生徒会会長…白やんだ」
「え…?」
「動くな、動けば命は無いぞ」
「うっ…」
何だ…この感覚…
目の前にいる男は何もしていない、ただ立っているだけだ
それなのにとてつもないほどの恐怖を感じる
見た目は細身で本気でやりあえば俺のほうが勝てる気がするのに
本能が、こいつには勝てないと拒絶している
「…お前は…なぜ執行部を倒す?」
「…お、お前が…執行部に力を与えてるのか…?」
首に、何か冷たいものが当たった
無機質な、何か、それは、刃のような…
「質問するのはこちらだ…答えろ…
なぜお前は執行部を倒している?」
「はぁ…はぁ…」
「この程度で恐怖に囚われたか…脆いな…
答えられないのなら選択肢を提示してやろう
…執行部を打ち倒し自らが学園の法となりたいが故か?」
「…違う」
「…ならば、己の力を誇示したいがためか?」
「…違う」
「…ならば何故?」
「俺は…皆を救いたいから…」
「救う…ふん…救う必要が無い者に救いだと?」
「必要がないって…あいつらは皆自分のやったことを後悔して…」
「お前が倒さなければ後悔なんてしない」
「それは…」
「お前は自分のやっていることがわかっているのか?」
「え…?」
「お前は…学園を平和にしたいと思って戦っているんだろう?
そのために執行部を倒している…違うか?」
「いや…違わない…」
「…それが正義と信じているのか?」
「…ああ」
「…もしも、犠牲を出すことが悪で…
犠牲を減らすことが正義ならば…現状ではお前が悪だ…」
「何だって…?」
「…お前が執行部を倒すことにより出所はわかんが…ある噂が流れ始めた…
執行部なんて恐れる存在ではないというな…
それ故に規律を破るものが増え始めた…」
「…」
「わかるな?畏れを忘れた彼らは揃って規律を破り始めた…
故に、断罪されるものの数はどんどん増えている…」
「あ…」
「貴様の中途半端な正義が犠牲を増やしているんだ…」
「そんな…」
「…羊が安全に暮らせるのは羊飼いの存在があってこそだ
柵を飛び越えた羊を狼から守ってくれる存在はどこにもいない」
「…」
「わかったら…これ以上は何もするな…本当ならこの場で貴様を処理してもいいんだが
三度執行部を退けた貴様に敬意を払い今回は警告で済ませておこう」
首に触れていた、冷たいものが離れる
「だが忘れるな、貴様如き、いつだって屠れることをな」
それだけ言い残し、白やんは夜の闇の中に消えていった
後には、俺だけが残った
「はぁ…はぁ…うっ…うぇぇぇえ…げっ…がはっ…はぁー…はぁー…」
急速に込み上げた嘔吐感に耐え切れず
俺は道端に胃の中の物を吐き出した
あれが…生徒会会長…白やん…
本当にあれは…人間なのか…?
勝てる気がしない…あんな奴に…
このまま執行部を戦い続けるということは…いつかはあいつとも戦うということか…?
そのとき…俺は…勝てるのか…?
あんなやつに…勝てるのか…?
身体が、寒かった
震えは止まらなく、どれだけ止めようと頑張っても止まらなかった
まるで悪魔に心臓を鷲掴みにされている気分だった
戦い続けるということは…いつかは…あいつと…
月が、怪しく、笑っていた
まるで俺の心を見透かすように…
4限目 -宵闇の徘徊者-
終
.
最終更新:2009年11月01日 02:32