邪眼学園黄龍譚5限目【その名は死】後編
10/5(土)朝
朝目が覚めたら連絡しろとゆき兄が言っていたので
さっさと連絡すると呼び出される
またもや連いてこいと言われ素直についていくと体育館だった
床には紙が一杯に敷き詰められ、数人がその紙に何かを書いていた
「全く…神楽君も人が悪いわ…
こんな超大型魔方陣とは聞いてなかったぞ」
「魔方陣…?」
「言ってたろ?
結界魔方陣を周囲に緻密に張り巡らせるって」
「ああ…」
確かにそんなことを言ってたような気もする
「しかしいかんせん魔方陣がデカすぎたからな…
何人か応援を呼んだんだ、今魔方陣を書いてるあいつらな」
「え…あれって…!?」
よく見ると魔方陣を書いてる人たちは
全員見覚えがあった
「ふぅ…あ!たまゆら君!」
「リカちゃん…」
「来ましたか、待っててください
今日の夜までには間に合わせます」
「しげる…」
「たまゆら君…この前のことは無かったことにしてあげるから…」
「えび助…」
「腰がいた~…でもちゃんと書き上げるから!」
「桃ちゃん…」
「全部事情を知ってるのはこの4人だけだからな…
本当はもっと人手が欲しかったが…」
ゆき兄がそう呟くとリカが割って入った
「ゆき兄~私たちで大丈夫だよ
絶対に書き上げるから!!」
「そうだな…俺も参加するか…」
「あ、じゃあ俺も…」
「ダメ!!!!!!」
「ダメです!!」
「ダメだ!!!」
「ダメだよ!!!」
「ダメでしょ!!」
5人から一斉にダメだしされた
驚いて鳩が豆鉄砲くらったような顔になったと表現するのがぴったりだった
「え…なんで…?」
「…お前は体力を温存しとくべきだ
それに…」
「それに?」
「夜中にここで儀式を行う、ということがどれほど危険かってことだ」
「…執行部…!」
「いくらあらゆる外的刺激を遠ざけるといっても直接接触されればアウトだ
それが内面世界にどういう刺激を与えるのかはわからんが間違いなくいい方向には転がらないだろ」
「…」
「最悪そのままやられ…
もし成功したとしても執行部を完全に倒せるのはお前だけだ
だからたまゆらはとにかく体力を温存してくれ」
「でも…」
「大丈夫、絶対間に合わせるから!」
「任せておいてください」
「ここの紋章違うんじゃね?見本は…」
「この部分が…」
皆はせかせかと床に敷き詰められた紙に筆で魔方陣を書いていく
純粋な感謝の気持ちを胸に秘めて俺はそれをずっと見守っていた
10/5(土)午後
リカが作ってきてくれたお弁当を突付いてから皆はまた魔方陣を描く作業に戻っていった
ここまででだいたい3分の1ほどが完成していた。
「ふぃー」
隣にゆき兄がトスンと座り込んだ
「休憩?」
「ちょっとな」
いつものようにいつの間にか手にコーラを持っている
それをうまそうに飲みながらゆき兄は話し出した
「皆歯痒いんだろうな
全部任せなきゃいけないことと、何もしてやれないことが」
「…充分だよ」
「…そうか」
「みんなの気持ちは充分に伝わってる
必ず…俺の中に巣食う"死"を撃ち祓うよ」
「ほらよ」
ゆき兄はコーラを差し出してきた
俺はそれを受け取る
「たまゆら」
「何?」
「勝てよ」
「…ああ!」
ゆき兄はコーラを一気に飲み干してまた魔方陣を描く作業に戻っていった
他の皆も必死に図面とにらめっこしながらひたすらに巨大魔方陣を形作っていった
皆の期待に答えるためにも俺は飛び出していきたい気持ちを必死に抑え込んでいた
10/5(土)夜
「完成したな…」
ゆき兄が呟いて皆でガッツポーズをした
「よっしゃぁ!」
「やったね!!」
「これであとは…!」
「たまゆら、準備はいいか?」
俺は立ち上がった
「万全だ!」
俺は小瓶を握り締めて促されるままに魔方陣の中央に仰向けに寝転がった
「…その小瓶の中の液体を飲めば
神楽君の話では自らの内面世界に飛び込めるはずだ
そこからはたまゆら、お前次第だ」
「…わかってるさ」
「…必ず、目覚めろよ」
「ああ!!」
一呼吸置いて、俺は一気に小瓶の液体を飲んだ
ガッツーン!!!とハンマーで頭を殴られたような衝撃的な味を感じたのも束の間
一気に俺の意識は闇へと落下していった
正確には細いトンネルのようなものをピンボールのように弾け跳びながら進んでいく感覚だった
「…よし、どうやら行ったようだ」
「たまゆらさん…」
「どうか…」
「…じゃあ俺らも俺らの戦いをするとしようか」
「…ええ」
「リカはここでたまゆらを見守ってやってくれ
…最も突破されたら…できれば逃げてほしい」
「…」
「置いてけない、か
わかったからそう睨むな」
「それじゃ行きましょうか、えび助さん桃花さんゆき兄さん」
「ああ」
「ちょっと待て、俺は他にやることがある」
「え?」
「…大事なことだ、行ってくる」
「あ!ちょ…行っちゃった…」
「仕方ない、ここは俺たち3人でやるしかない」
「そうだね」
10/5(土)時刻不明
ここはどこだろう
真っ暗で何も見えない
ここが俺の内面世界とかいうところなのか?
しかし灯りが無いことには…
と、思っていると辺りが明るくなった
…意思が反映されるのだろうか?便利だ…!?!?
俺は目を見開いた
明るくなった視界に飛び込んできた景色に絶句した
赤い空に混じり気の無い純粋な黒い大地
無数に突き立てられた黒い十字架、その根元から黒を鮮やかな赤に染める血が流れていた
指先が震えだす、恐ろしく不気味、でもそれだけではない
見ているだけで気が狂いそうになるほどの不快感
クラリと倒れそうになるのを頭を抑え必死に耐える
霞みそうな視界の先で十字架の隙間を縫って誰かが歩いてくるのが見えた
「…転校生」
「白やん…!?」
それは間違いなく、生徒会長の白やん
白やんは黒い十字架に触れながらゆっくりとこちらに歩いてくる
全ての十字架に血が滲みだし、ポタポタと雫が垂れてくる
まるで血の雨を降らすように
「う…!!」
全身が震えだす、強烈な恐怖が俺の身体に絡みつく
奥歯がカチカチと音を立てる
頭に浮かぶのは殺され、十字架に磔にされる俺の姿
嫌だ、嫌だ、嫌だ…
自分の身体を抱きしめその場に膝をつく
視界が涙で滲んでいく
ゆっくりとこちらに向かってくる白やんの姿がユラユラと陽炎のように揺れている
「ああ…あ…!」
目の前に辿り着いた白やんは動きを止めた
表情を崩さぬまま、静かに片手を振り上げる
その振り上げられた右手が、俺にはまるでギロチンの刃のように見えた
無慈悲に、ただ受刑者の命を消し去る、止まることの無い断罪の刃
そして、刃は放たれた
10/5(土)深夜
「くそぉ…!!」
「執行部から外された雑魚どもが揃いも揃って…」
「黙れ!!」
「無理だ、お前らじゃ俺は倒せないよ
…いいから、そこをどけ」
「行かせない!!絶対に!!」
「…ああ、うざったい…」
「ぐっ…!!」
「正義の意味すら失った馬鹿どもが俺に勝てるわけないというのに…」
「はは…お前の正義なんて…ちっぽけだぜ…」
「…そうさ、だけど俺たちは気づけた…」
「大衆を操作するために作られた正義なんて…」
「気づけたから…気づかせてもらったから…」
「俺たちは本当に自分の信じた正義に従ってここにいるんだ!!」
「だから絶対にたまゆら君の所には行かせねぇ!!」
「…よーくわかったよ…お前らそこまで腐り果てたんだな…
堕ちたとはいえ元執行部…穏便に済ましてやろうと思ったがその必要もないようだ…
…しょうがないか…全員蜂の巣にしてやるよ…」
「来るぞ!!」
「えっ…?」
「馬鹿なっ…!?」
「安心しろ、弾切れなど無い…
それが俺の"力"だ」
10/5(土)時刻不明
白やんの刃が頬を掠めた
俺は必死に、振り下ろされた白やんの刃を避けた
這いつくばったままで距離を取り、俺は立ち上がった
膝が震えて上手く立てなかったけど、なんとか立ち上がった
「はぁ…はぁ…!」
白やんは動かない、虚ろな目でただこちらを見ていた
ゴクリと唾を飲み込む、奥歯を噛み締めると同時に恐怖を噛み潰す
震えるな、死にたくないなら、全力で切り抜けることを考えろ
怖い、怖いけど、死ぬのはもっと怖い
「…う…ぐっ…!!!」
拳を握り締める、強く強く
握り締めた拳の痛みが、俺に冷静さを取り戻させてくれた
逃げてどうする、俺はこいつを乗り越えるためにここにきたんじゃないか
怖いのは当たり前だ、それでもこれを乗り越えなければ何も変わらないじゃないか
もう俺1人の問題じゃない、皆の想いを無駄になんか出来ない
1人で戦ってると思ってた、全部押し付けられてるんだと心の底では思ってたのかもしれない
でもそれは違うとわかった、だから俺はこいつを乗り越える
そして戦う、これからも…俺は皆を救ってやる、そしてそれが俺自身も救われることに繋がることを祈って…!
「転校生…たまゆら…
断罪する…」
白やんの目が見開かれた
右手を突き出し、高速でこちらに向かってくる
恐れるな、目を背けるな
今までずっと目を背けてきた"死"に今度は自ら立ち向かうんだ
寸前まで迫るその右手
それが触れる寸前に、上半身をズラし、ギリギリでそれを避ける
避けられる、大丈夫だ
例え"死"を目前にしたとしても、恐怖に囚われず冷静になればいい
そうすれば必ず避けられる…!!
また距離を取る
しかしどうすればいい、避けることはできてもどうやってこいつを倒せばいい
避けることが出来たとしても倒せなければ意味がないじゃないか
考えているうちにまた白やんがこちらに向かってきた
「くッ…!!」
その手をまたなんとか避ける
考えていても仕方ない、武器はないけどやるしかない!!
攻撃後の隙を突いて、俺は白やんの身体に拳を叩きこんだ
「…」
肉にめり込む感触
だけど白やんの表情は変わらない
効いてないのか!?
「断罪…」
まずい!!!
咄嗟に白やんの身体を蹴り飛ばし、その反動で距離を取った
不思議だ、思った通りに身体が動く
それになんだかあれほど怖かった白やんが今はそれほど怖くない
「断罪…する…断罪す…る…!」
そうか…
そういうことか…
俺は白やんに近づいた
もう恐れはなかった
「断罪する…断罪する…」
「もうやめろ」
すっと、優しく触れるように
白やんの身体に手を当てた
「本物は、もっと恐かった」
同時に手のひらに何かが集まるような感覚
そしてそれが爆ぜた
白やんの形をした"死"は後ろに跳ね飛ばされた
そして、倒れかけていた十字架に、胸から突き刺さった
「グゥオォォ…!オッ…アッ…!」
胸からビチャビチャと血を流しながら
"死"はもがいていた
それでも十字架から抜けることは出来ずに暴れていた
「…お前は俺のイメージする死の形」
「ウオォオ…!」
「だから、俺がお前の攻撃を避けた時にもうお前の力はほとんど無くなった…」
「…ガァギャッ…」
「…2度と惑わされない、形の無い"死"なんかに…!
死ぬことを恐れるのは当たり前だし、誰だって恐いけど…
恐いからって何も出来なければ何も変えられはしない!!」
俺は"死"の頭に手を置いた
「消えろ!!」
「グッギイ…ガッ…ゲゲゲゲゲゲゲゲゲ!!!!」
何かが収束し、限界まで圧縮される感覚
そしてそれが一気に爆ぜ、光が溢れ出した
目を開けないほどの眩い光が辺りに立ち込め、全てを包んでいく
同時に身体がグイッと何かに引き戻されるような気になった
いや、気のせいじゃなくて確かに何かに引っ張られていく
最後に、うっすらと目を開けたとき
視界いっぱいに広がる…草原が見えた気がした
10/5(土)深夜
「…何だこれは…ここで何をしていた?」
「…来ないで!」
「ここにもいたか…いや?でもお前は…」
「いかせねぇぞ!!」
「…まだ立ち上がってこれたか」
「…絶対に…いかせ…」
パァンという音が体育館に響き渡った
その音が俺の意識を覚醒させた
最も意識は戻ったがおぼろげで身体が動かせなかった
何が起こっているのか、よくわからない
「…さてと、邪魔するなら君も死んでもらおうか」
「…恐いけど…!ここで逃げたら私は一生後悔する!!
だから逃げるもんか!!例え死んだってここから逃げ出すもんか!!
皆だって逃げずに戦った!私だけ逃げ出すものか!!」
リカの叫び声
ハハ、何だ俺よりよっぽど勇気あるじゃないか
皆も儀式の最中にずっと俺を守ってくれてたんだね…
ありがとう…ごめん…
動け、俺の身体、助けるんだ、皆を
その勇気に、応えろ!!!!
「…そうか、なら死ぬといい
正義の名の下に…」
その瞬間、俺は一気に跳ね起きた
パァンという音が響くとほぼ同時に跳び、リカを抱え込みそのまま床に着地した
「…たまゆら君」
「ごめんね、遅くなった…」
リカを降ろし入り口を見る
倒れている、しげる、えび助、桃花…
少し離れた場所に銃を持った男が立っていた
「…お前が…やったのか…?」
「初めまして、執行部の透過っていいます
お察しの通りこいつらは俺がやりましたよ
…こちらからも質問よろしいですか?ここで何をしていたんです?」
「…さぁね」
「…ま、いいか
どうせ恐怖に囚われてるあんたは何も出来ずに僕に撃たれるんだろうしね」
透過は銃口をこちらに向けてくる
震えるな、恐いのは仕方ない
だけどそれに囚われてしまえば何もできない
例え恐くても目を背けるな…!!
「…お前本当に会長にあったのか?」
「…ああ」
「まぁいい、これではっきりする」
指先が微かに動くのが見えた
その瞬間、思いっきりかがむように動いた
パァンという音が響いた
身体は何とも無い
「…馬鹿な…死の恐怖に囚われた奴が…
いとも簡単に死を連想させる銃を前にして平静を保ち
あまつさえ銃撃を避けるだと…?」
「…恐怖なら、乗り越えた」
「そんな馬鹿な…ありえない…!!」
「おぼろげなイメージに囚われてるお前らとは格が違うってことさ」
「誰だ!?」
入り口にはゆき兄が立っていた
その手に何かを携えて
「受け取れたまゆら!!!」
思いっきりゆき兄がそれを投げてきた
透過の横を抜け、流星のように体育館を貫き俺の手がそれをキャッチする
物凄い衝撃で手が痺れる、投げられた物の正体は…
「黄龍鉄甲!!!」
「なんとか見つけてきてやったぜ」
「…サンキュー!」
慌てて黄龍鉄甲を右手に装着する
よし、これで戦える
「…ククク…クハハハハ…!!」
突然透過が笑い出した
「…怯えているだけの奴を倒しても仕方がないということだな…
だがどちらにせよ僕の勝利には変わりはない!!
接近戦しか出来ないお前は僕には勝てない!!」
透過が銃をこちらに向ける
まずいな、次は本気で来るはずだ
「僕の能力は無限弾丸…
その名の通り無限に弾丸を作り出す能力
無限に続く連射を耐え切れるものなどいない!!」
俺はリカを軽く突き飛ばした
どこかに隠れておけという意味でだ
それを察したのかリカは倉庫に隠れていった
「見逃してくれるとは優しいな」
「お前らを倒した後にゆっくりと断罪してやるさ」
「なら…絶対に倒れるわけにはいかないな」
「同感だな」
確かに銃というのはとにかく分が悪いが
透過は俺とゆき兄に挟み撃ちにされてる状態だ
どちらか片方でも接近して銃を押さえれば充分に勝機はある
「お前ら…挟み撃ちだからどうにかなると考えてないか?」
「え?」
「甘いんだよ…!!
それで不利になるってんならとっくに逃げてんだよ!!」
透過は懐からもう1丁ほど銃を取り出した
片手に1丁づつ、二丁拳銃となり両手を広げ
俺とゆき兄に同時に銃を乱射し始めた!!
「くっそ!」
俺たちは走り回る、そう簡単に当たるわけはないと分かっていても
やはり1発でも当たればアウトという緊張感は容易に飛び込むことを阻害する
かといって飛び込んで1発当てなければそのうち俺たちが負ける
「どうすりゃいいんだよ!」
「ほらほらほらぁ!もっと逃げ惑え!!」
「あんまり調子乗ってんじゃねぇぞ!!
たまゆらぁ!!耳塞げよ!!!」
「え?」
ゆき兄が空中に何かを投げた
いや、これは前も似たようなことが…!!
俺は慌てて耳を塞いだ
次の瞬間、あの時、ほろにがを追い詰めた時と同じように身体に物凄い衝撃が走った
これは…スタングレネード…
あのときと多少違うことは耳を塞いだおかげか多少クラリときたが
そこまで意識が吹っ飛ばされそうにはならなかったことだった
「ぐっ…」
「たま…ゆらぁ!」
ゆき兄の声でなんとか意識を繋ぎとめ正面を見ると
透過は銃を落とし、頭を抑えて背中を丸めていた
俺は走り出した、今しかない!!
一気に接近し、黄龍鉄甲の1撃を叩き込む!!
しかしもう数メートルというところで透過の目が見開かれた
「なっ…めるなぁぁ…!!!」
あと少しというところだったのに
身体を丸めた状態で脇の下から銃口が覗いているのが見えた
まずい!全速力だから避け切れない!!
なんとか避けようとするとスタングレネードが軽く効いていたせいでバランスを崩す
そのまま俺は横に転倒してしまう
「たまゆらッ…!!くそっ…!!」
「近づくなぁ!!」
乱射するような音してゆき兄の慌てる声が聞こえる
俺も慌てて立ち上がろうとする
「おっと」
「!」
頭にゴリッとした感触
万事休すだろうか
「舐めやがってぇ…!」
「…」
「はぁ…はぁ…だけどここまでだな…?
どうだ…さすがに恐怖したか?」
「恐怖なんて…いつだって恐いさ…」
「何だと…?」
「恐くて当たり前だ…俺は命を賭けて戦ってるし…
戦いの先にあるのはお前らの救い…
人の進むべき道を背負って戦ってるんだ…恐いにきまってるだろ?」
「…それなら、死ねばいい」
「…恐いのは当たり前だけど…恐いからって動かないと何もできないしな
それに俺は1人じゃないって知ったから」
「終わりだ!!」
パァンという音が体育館にこだました
俺のすぐ横の床がビシッと音を立てた
だけど俺はまだ生きていた
野球ボールが、足元にコロコロと転がっていた
「助けてくれる奴らがいるんだ
だから俺は最後まで戦える」
「馬鹿なッ…!」
「けっこうお前も役たつんだな…」
ゆき兄の視線の先には倉庫があった
正確には倉庫から顔を覗かせてるリカの姿が
「ゆき兄よりかは役に立ったかもね!」
「俺は誰かさんが捨てた唯一の武器を取りにいくので疲れてたんだ…
ま、これで今回は締めだな」
しゃがんだ状態で足を踏ん張る
顎までのラインが完全に無防備だった
「クッ…!!!!」
銃をこちらに向け直そうとする
だけど俺のほうが早い!!
俺は思いっきり腕を上に振りぬいた
「昇龍…けぇぇーーーーーん!!!!!」
いつもとは違いゴガッという堅い感触
そのまま一気に上に振りぬく
同時にまたパァンという音が響いた
頬の、絆創膏を掠めた銃弾は絆創膏を引き剥がし、床に穴を開けた
そして透過は、そのまま宙に打ち上がった
「ごぁっ…がぁああああああああああああああああ!!」
宙に打ち上がった透過はそのままドスンと体育館の床に打ち付けられた
ピクピクと小さく動いてはいたがもう戦えないだろう
「…昇龍拳ときたか」
「いや、思いついてな」
「ちなみにリュウ派か?」
「ケン派」
「相容れないな」
「そうだな」
ニヤニヤと笑いあう俺たち2人を見てリカがいった
「男ってどいつもこいつもゲーム好きなんだなぁ
…まぁそれよりもこっちの3人を…」
「待て、まだアレが起こらない」
「そうだね」
「…アレ?」
倒れている透過に視線を移す
ジワジワと身体から黒い煙が上がっていた
「コレ」
「ああ、あるほど…」
いつもの通り
透過は暴れながら溢れ出ていく黒い煙を留めようと必死だった
「うっぐ…だめ…だ…!!行くな…!!
行かないで…くれ…!!
正義を…正義を執行するには…力が…
力なき正義に…意味なんかないのに…駄目…だ…
あっ…がっ…ギィアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
リカが耳を塞いでる
毎回聞く断末魔、今まで深くは考えていなかったが
一体これは何なんだろうか
しばらくするといつもどおり黒い煙の流出は収まった
ゆき兄がリカに向かっていった
「こっちはもういい、倒れてる3人の介抱をしてやってくれ」
「うん、わかった」
リカは入り口に走っていった
俺とゆき兄は透過に近づいた
「…」
「何も言わないんだな」
「…くそっ!!」
透過は突然銃を俺に向けた
驚いたが銃からはカチンカチンという音しかしなかった
「…はは…もう無理か…
弾を作れないんじゃ…意味がないか…
俺の負けだ…」
「…お前はどうしてこうなったんだ?」
「…力…守るための…
この銃は…」
黄龍鉄甲から光が溢れ出す
光は透過のポケットに集まった
どうやら今回もうまいぐあいに行きそうだ
辺りが光に包まれていく、暖かい光に…
――何が正義で何が悪なのか
少なくとも僕は小さな頃はそれがはっきりしていた
だから僕は悪が許せなかった
「…また喧嘩したのか」
「僕は悪くない」
「…相手に怪我をさせたろ?」
「僕は悪くない、あいつらからやってきたんだ」
「やれやれ…
お前は本当に正義感が強いな…
だけど怪我をさせちゃいけない、どんな理由があれ言うことを聞かないからと相手を傷つければ悪だ」
「…でも僕が怪我をさせられそうだった」
「…ああ、そうだな…
自らが傷つけられるのを防ぐために相手を傷つけるのは罪ではないとされる…
だけどその線引きってのが曖昧でな…難しいな、正義って」
正義とはあまりにも不確かだった
見方を変えればすぐに正義が悪となり、悪が正義となってしまう
…さらに、いつしか正義を貫くには力が必要だと小さな僕は知った
「がっは…」
「だっせ…喧嘩売ってきたわりに弱いなこいつ」
「喧嘩を売ったわけじゃない…ただ注意…ガハッ!」
「うぜぇんだよ!」
「俺らがお前に迷惑かけてんのかよコラ!!」
「がっ…げほっ…」
「ケッ、めんどくせぇ…おい、もういこうぜ?」
「ぐぅ…」
力、力が欲しい、純粋な、力
その力を、俺が正義として振るう
誰もが認める強い力…!!!
「…坊主、何やってるんだ?」
「これが欲しいんだ…」
「馬鹿いうなよ、やれるわけないだろ?」
「あんたらは力を持ってるのに…そんなに強い力を持ってるのに…
どうして見逃すんだよ…!!!」
「え…!?」
「僕なら…僕は許さない…絶対に悪を許さない…!!!」
「…坊主、手を出しな」
「え?」
「ほら、これをやる」
「何…これ?弾?」
「薬莢っていうんだけどな撃ったあとのカスみたいなもんさ」
「これだけあっても意味がない…」
「確かに…力無き正義ってのは無意味かもしれない
だけど力を全てを抑え付けるのも正義と言えるか?」
「…」
「どんな人間も1色なわけじゃない、正義があれば悪もある
俺も坊主もな」
「…」
「それでも力で抑え込むことが必要な時もある
でも間違えるな…悪を倒すために力を振るうんじゃない
誰かを守るために力を振るうんだ
よく言われてることだけどな、だけど俺にはこれが真理だと思うぜ」
「…守るために…」
「ああ、それが正義だ」
…強い力を振るったとしても…
正義と称してそれを振るうことは正義ではない…
誰かを守るために振るい、自らを正義と称さない力こそ純粋な正義
「…よぉ坊主、でかくなったな」
「え…」
「思い出してくれたか?力の意味を」
「…はい」
「…なら、立ち上がれ」
「え?」
「誰だって間違えてしまう
間違え続けてそれを正していき人は自らの理想に近づいていける」
「…」
「お前は、ここで諦めないだろ?」
「ええ…」
「なら行きな」
「…ありがとう、ございました…」
「礼なら、お前の目の前にいる奴に言ってやれ」
「…はい!」
「忘れるなよ、正義とか悪とか口で並べ立てるもんじゃない
何かを成して、結果的にそれが正義か悪になるか、だ」
――光が消えた
透過がポケットから取り出し、握り締めていたのは薬莢だった
「…終わったか」
「みたいだね」
透過は泣いてはいなかった
だけど何かに耐えるように唇を噛み締めていた
「くっ…そぉぉぉお…!!」
透過はガン!と体育館の床を思いっきり殴りつける
何度も何度も殴りつける
「よせ!」
慌てて止める
その拳には血が滲んでいた
「…結局僕が信じてたのは…偽りの正義だった…
僕は僕が最も軽蔑していた行為にどっぷりと浸かってしまっていた…!
幻想の正義の名のもとに…何人も力で抑え込んでしまった…!!
クソォッ…!!クソ…!!」
「…自分が信じた道が間違ってることに気づいたなら…
また新たに信じた道を進んでいけばいいだろ?」
「…」
「他の3人もそうだった
ここにいた皆は強制されてきたわけじゃなかった…
皆自ら来てくれたんだ
それはこれがきっと正義と思ったから…」
「…君は自分がしていることが正義と思っているのかい?」
「…いいや、思ってないさ
俺がこうして執行部を倒していくことで犠牲者が増えてることも知ってる
だけど俺は死にたくない、だからこうして戦い続ける
もし悪なら…いつか報いを受けるかもしれない…
それでも生きたいという本能が悪だとは思わない」
「生きるため…か…そうか…
君は…強いな…
正義という旗を掲げ自分の成すことが全て正義だと思っていた俺よりよっぽど…」
「…」
「目が覚めたら…俺も…あいつらのように…」
その言葉を最後に、透過は目を瞑った
寝顔は安らかだった
「たまゆら」
「うん?」
「どうやらあっちの3人も大丈夫そうだぜ
幸いだったな、どうやら動きを止めて裏切り者として後でゆっくり処刑するつもりだったらしい」
「そっか…」
「ま…皆けっこう負傷したから両手を挙げて万歳ってわけにはいかないな」
「ところでスタングレネードなんてどこから持って来たの?」
「……黄龍鉄甲を探してたらな、ゴミ捨て場に落ちてた
たぶんあのほろにがって奴が落としたんだろ」
「そっか…なんにせよ助かったよ」
「ああ…」
「ゆき兄」
「あん?」
「死ぬことは恐いけど、もう俺は立ち止まらない」
「…期待してるぜ」
「帰ろう、皆で」
「そうだな、帰るか
後始末は明日でいいだろ」
「ちゃんと来いよ」
「気が向いたら、な」
いつもそれだな、と思い
俺たちは動けない皆に肩を貸して寮に戻った
この暖かさがある限り
もう俺は死に囚われたりはしない
いつか忘れてしまえば思い出せばいい
この夜に見た、綺麗な満月を
「死のイメージを乗り越えるなんてなぁ…
さすが黄龍の器といったところかぁ…」
「…今回は終わったかと思ったけどこいつぁ幸運だぁ…」
「全部俺の計画通りだぁ…
その調子でどんどん奴らを倒してくれよぉ…」
「全部終わった時…その時こそ俺がぁ…
殺し合え…道化どもぉ…!」
「ククククク!アーハハハハハハ!!」
5時限目 - その名は死 -
終
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最終更新:2009年11月01日 02:36