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邪眼学園黄龍譚6限目【胎動】


10/5(日)午後

目を覚ますと時計は12時を回っていた
とても気持ちがいい
昨日の戦い終わり、死のイメージすら乗り越えた俺は何だか色々と安心していた
もう何が起きても決して立ち止まらない
そんなことを考えていると部屋のドアがノックされた

「はい?」
「小川です」
「んがっぐ…!?」

まっ昼間にそちらからお出ましというのは初めてだった
予想外の来訪にかなり驚いたが追い返すわけにもいかない

「ちょ…ちょっと待ってくださいね…」

深呼吸して気持ちを落ち着ける
普通の顔で対応しなくては…
しばらく気持ちを落ち着けて…といっても数秒ぐらいだが
ゆっくりとドアを開けた
昼間というのに陰気な顔をした小川がそこにいた
さっきまでの気持ちのいい気分は一転してブルーになった

「…」
「…あの…なんの用でしょう…」
「…伝えておかなければいけないと思った」
「…何を?」
「不安定な足場を支えてる柱が崩れていく…
 だから足場を支えるために残った柱はさらに強くなる…」
「…」
「僕は君が何をしているのかはわからない
 ただ君が関わった七不思議から魔が消えていくのを感じる…
 だがそのぶん、残りの魔が増大している…」
「…小川さん…前から聞きたかったんだけど…
 あなたは一体…」
「僕は何でもない…ただ少し…他の人よりそういうものに敏感なだけさ」
「…」
「小川」
「え?」

廊下の先にゆき兄がいた

「こりねぇ奴だな…
 また何も知らない奴を怪しげな宗教に勧誘してやがるのか?」
「別に…ただ忠告してあげてるだけさ…
 それにゆき兄は関係ないだろ?」
「ああ、そうだな…確かに俺には関係ない
 だけど、友達が怪しい奴に絡まれてるのを見過ごすわけにはいかないな」
「…ゆき兄、君は変わったね」
「あ?」
「…それとも元に戻っているのか…
 まぁいいや、僕はもう行くよ…」
「…」

小川は行ってしまった
後には俺とゆき兄だけが残った

「あのさ、ゆき兄」
「…まぁあいつのことは気にするな
 真面目に話を聞いたところで意味がない」
「うん…」

しかし小川の話は少なくとも出鱈目というわけではない
個人的には七不思議について最も知っているのは小川なのかもしれないという考えすらあった
とはいえなんだかゆき兄は小川がそれほど好きではないようだし
ここでそれを言うのも何だろう…

「ところで昼飯は食ったのか?」
「いや、さっき起きたからね」
「俺も今からシャイン行くんだが、どうだ?」
「行く行く」

俺とゆき兄はシャインに行くことにした
すでにお昼時は過ぎていたため店内に人はまばらだった
少しするといつも通りカナさんが近づいてきた

「いらっしゃいませ~
 お~、たまゆら君いらっしゃ~い!」
「こんちはー」
「…ほぇー」
「え…何…?」
「…うーん、本当にゆき兄君と仲いいなぁと思って…」
「…え?そう?」
「いやだってゆき兄って今までずっと1人ぼっちっていうか孤独で
 常に1人だったし、誰かと絡んでてもどこかそっけなかったりしてたのに
 たまゆら君といる時だけは素っていうかなんていうか…」
「おしゃべりはいいからさっさと席に案内してくれ」
「あ、ゆき兄恥ずかしがってるんだね~」
「…席に案内しろ」
「はいはい、そんな怖い声出さなくても案内しますよー
 こちらにどうぞー」

席に案内されて座る
ほとんど間を置かずにゆき兄が喋りだした

「この阿部スペシャルっていうメニューは何なんだ…?」
「店長がこの前考えた料理なんだけどねぇ
 私もどんなものか知らない
 店長に聞いたら『注文された人だけのお楽しみだ』って言われちゃった」
「…たまゆら、食ってみろ」
「え…ゆき兄が食えよ…」
「…じゃんけんで決めるというのはどうだ?」
「…いいよ」

手の骨を鳴らし気合を入れる

「じゃーんけーん…」
「ぽん!」

俺チョキ、ゆき兄はグー
ただしなんだか一瞬ゆき兄の手が遅かったような

「遅だしじゃない…?」
「いや、普通普通、僅かな誤差だ」
「…納得いかない!3回勝負だ!」
「素直に頼めよ!」
「はいはい、喧嘩しなーい、それじゃ2人とも阿部スペシャルね
 少々お待ちくださーい」
「ちょ…おいカナ!!!」
「ちょ、ま!カナさん!!」

俺たちの制止も聞かずにカナは奥に引っ込んでいってしまった

「…」
「…ゆき兄」
「…ああいう奴だったことを忘れていた…」
「…はぁ…」

2人して落ち込んでいると
気を紛らわせようとしたのかゆき兄が話しかけてきた

「そういやぁあの3人だが
 縫わなきゃいけない傷もなんぼかはあったが全員すぐに回復するとよ」
「しげる達?」
「ああ」
「そか…ゆき兄は?」
「ああ、まぁ何箇所か弾が掠ったりしてるが大丈夫だ
 ヤチャにも一応見せておいたしな」
「そっか、ならよかった」
「…しかし透過はあの銃とかどっから手に入れたのかねぇ」
「しかし皆人間離れしすぎてるから銃ぐらいじゃ全く動じなくなったねぇ」
「同感だ」
「お待たせしましたー阿部スペシャルでーす」

カナさんの両手には高級レストランとかで出てくるような…
料理が見えないような銀色の蓋みたいなもんが乗せられた皿が2つあった
その2つは手早く俺達の前に並べられた
その威圧感にゆき兄と俺は手を出せなかった

「…開けてみろよ」
「…ゆき兄こそ」
「…」

ゆき兄が皿に顔を近づけてそっと蓋を少し浮かした
素直に応じるとは珍しい

「匂いは…何だこの匂い?」
「どんな匂い?」
「よく…わからん…悪い匂いではないが…」

俺も同じように蓋を少しだけ浮かし
隙間から匂いを嗅いでみる
…確かに悪い匂いではないが…
なんだろう…特定が困難というか混ざってるというか…

「どうする…?」
「どうするも何も頼んだんだし食うべきだと思うんだけど」
「…わかった、開けるぞ…」
「いっせーので一緒に開けよう」
「…行くぞ、いっせーの…!!」
「せっ!!!!」



目の前には1枚の皿に盛り付けられた多数の料理があった
ご飯、トンカツ、キャベツの千切り、八宝菜、エビフライ、焼きそば、焼きシャケ
色々と混ざり合って見栄えは悪いもののまずくはなさそうであった
しかし一体この不思議な匂いはどこから匂っているのだろう

「…意外と、普通だな…」
「ああ…見た目は悪いが…料理としては…普通だ」
「…あれ?」

ゆき兄のほうの阿部スペシャルを見るとどうも何か違うような気がする
具体的には色合いが…?いや料理全てが…

「なぁ…ゆき兄…もしかしてこれ…」
「…」
「余った食材を適当にブチ込んだだけじゃ…」
「言うな…」
「…あ、味はいいかも…」

味は悪くはなかったが
なんだか釈然としないものを感じた
食事の後シャインを出るとゆき兄が渡したい物があるというので
ゆき兄の部屋に一緒に戻った

「どこにやったっけな?」

ゆき兄が探しているときに手持ち無沙汰な俺は部屋を見渡して見た
桃花の時に1度入ったことはあるがあの時は一瞬だったからなぁ
乱雑に置かれた本とゲームで足の踏み場は無く
いろんな物が積み重なって雪崩でも起きそうな壁際
ところかまわず散らばっているコーラの缶とペットボトル
…そしてベッド周辺だけ綺麗さを保っているか、なるほど、わかりやすい

「あった」

棚から取り出してこっちに持って来たのはPSP?
そのままPSPを俺に渡してきた

「え…」
「貸してやるよ」
「え…でも俺ゲームやんないし…」
「…男は皆ゲーム好きと思ってたんだがな
 そんなだからお前は遊び心というか…茶目っ気が足りねぇんだよ」
「…」
「ほら、やってみろ
 これならアクション初心者から達人まで幅広く遊べるから
 シナリオとシステムも悪くない」
「なんてソフト?」
「ファイナルクエストSaGaクロニクルプロファイルブレス女神水滸伝アームズハンタープラネットIIDX」
「…は?」
「まぁいいからやってみろ」
「…うん」

名前が何か適当に混ぜ合わせたような感じがするが
本当に面白いんだろうか…

10/5(日)夜

「くそっ!この野郎!!」
「ヒートアップしてるとこ悪いんだがもう夜だぞ」
「ぬぁぁぁあああ!!」
「聞いてないな…」

ボスを倒しふと見ると窓の外が暗くなっていた
時刻は夜8時を回っていた
ゆき兄がカップ麺をズルズル食べていた

「え?何でもうこの時間なの?」
「…そりゃハマりまくったからな」
「全然気づかなかった…」
「面白いゲームは時間を忘れる
 逆に言えば時間を忘れるような…色々と解き放ってくれる物こそ面白いんだろうな」
「…?」
「…とりあえずそれ貸してやるから
 でもちゃんと飯は食えよ、俺が言うのもなんだがな」
「うん、ありがとう」

PSPを貸してもらいゆき兄の部屋から出る
自分の部屋に戻って続きをやろうと思っているとピュアと偶然出会った

「やぁ」
「あ、こんばんわ」
「それは…」
「あ、これPSP、ゆき兄から借りたんだ」
「ゲームが好きなのかい?」
「いや、あんまり興味なかったんだけど…
 これは本当に面白くて…」
「ゲームというのもあるいは形を変えた書物なのかもしれないね…」

不意にすっかり忘れていたことを思い出した
なぜこのタイミングで思い出したのかわからないがとにかく思い出した
丁度いいのでピュアに聞いてみることにした

「あのさ…ノスフェラトゥって単語知ってる?」
「――ルーマニア語での吸血鬼を意味する単語だ
 吸血鬼ではなく、不死者という肩書きになる事もあり
 言葉の原義は「病気を含んだ」と言う意味だ」

さすがというかなんというか
一体ピュアの頭の中にはどれほどの知識があるのだろうか

「ノスフェラトゥは
 同じ吸血鬼でも、どこかスタイリッシュで耽美なイメージがあるヴァンパイアと違い
 醜悪な外見とされる事が多い
 最も吸血鬼に耽美なイメージが付与されたのは1897年にブラム・ストーカー著作のドラキュラが流行してからであり
 それまでは吸血鬼というのは単なる蘇った死者と見るのが一般的で醜悪な外見というのはある意味正しいとも取れる」
「へぇー…そうだったんだ」
「ふむ、だいたいそんな所か」
「ありがとう」
「何聞きたいことがあったら何でも聞いてくれればいいよ
 人に覚えた知識を語るのはとても楽しいからね」
「ははは、そっか
 じゃあまた気になることがあったら聞くよ」
「楽しみにしてる、それじゃあね」

礼を言ってピュアと別れる
ノスフェラトゥか…
意味はわかったが、奴の正体まではやっぱりわからないか…
まぁあれから見かけることもないし気にしすぎなんだろうか
とりあえず部屋に戻ってゲームの続きをやろう
ああ、でも明日は月曜か…


10/5(日)深夜

寝るかどうか迷ったがもう少し進めてみることにした
机に座りもたれかかるようにしてゲームを起動する
しばらくやり続け時計を見るとすでに午前1時を回っていた
さすがに寝たほうがいいだろうとPSPの電源を落とした

「さて、と」
「随分と熱中してたなぁ」
「うわぁおぉおおおおおおおお!?」

驚いて椅子から転げ落ちる
いつの間にか後ろに仮面…ノスフェラトゥがいた
俺の部屋だぞ、しかも一体いつの間に入ってきた!?

「な、なんのようだよ…」
「そうビビるなぁ…
 忠告に来てやっただけだぁ」
「忠告?」
「ヒヒッ」

ノスフェラトゥは飛び上がった
いや、飛び上がったといえばいいのか何と言うか…
重力を完全に無視したように天井に"立っていた"

「な…?」
「お前はこれまで4人の執行部を倒したぁ
 こりゃ本当にすげぇことだぁ
 ただなぁ…」
「ただ…?」

仮面の目の部分から除く瞳が大きく開かれる

「残った奴らは格が違うんだぁ」
「格…?」
「これからお前の前に立ちはだかるのは今までとは比べ物にならないほど強大な力だぁ
 馬鹿の一つ覚えみたいに鉄甲でブン殴ってるだけじゃこの先は生き残れないぜぇ…」
「…」
「俺の忠告を妄言と取るか真実と取るかはお前の自由だぁ」
「…お前は一体何者なんだ…
 なぜ執行部のことを知っている…」
「ククク…」

スルリと、音も立てずにノスフェラトゥは天井から地面に回転して着地した
重量などを全く感じさせないその動きに背筋に冷たいものを感じた

「前も言ったが…俺はノスフェラトゥ…学園の闇に生きる者…
 そしてこの学園の未来を憂う者だぁ…」
「未来を…」
「敵は同じということさぁ…」
「…信じていいのか?」
「そりゃぁ…お前の勝手だぁ」
「…」
「それじゃぁ…また会おうぜぇ…」
「ちょっと待っ…わぷっ!」

突然部屋の中なのに突風が吹いた
反射的に目を瞑ってしまう
すぐに目を開けたがもうノスフェラトゥの姿はどこにも無かった


10/6(月)朝

極限近く寝不足である
寝ようと思っていたところに突然のノスフェラトゥの来訪
奴を信じていいのか信じてはいけないのか
その疑問は俺を睡眠から遠ざけるには充分すぎたのだ
半分寝ているような状態で教室に辿り着く
俺より早く登校していたゆき兄がうなだれてる俺に話しかけてきた

「酷い顔だぞ、そんなにあのゲームやり続けたのか」
「…いや…それが…」

昨日の夜のことをゆき兄に話す
一緒に桃花の時に結界を破る方法を教えてくれたのもノスフェラトゥだったということも話しておいた
最初はやる気なさそうに頭を掻きながら聞いていたゆき兄だが段々と表情が険しくなってきた
話し終えてしばらくゆき兄は沈黙した

「…」
「ゆき兄…?」
「…あ、いや…」
「…何か知ってるの?」
「知らない」
「…嘘じゃ、ないよな?」
「本当だ」
「…そう」
「…だが…いや…なんでもない」
「いいよ、どうせ知ってても何も話してくれないんだろ」

ゆき兄は視線を少し逸らした
何て言おうか考えてるような顔をしていた

「…ごめん、困らすつもりじゃなかった」
「…俺が知ってることなんてほとんど意味を成さないさ…」
「…だから別に話さなくてもいいって…」

それだけ言って俺は机に突っ伏した
ゆき兄が周りをウロウロしてるのが気配でわかったが
しばらくすると離れていった
ゆき兄、君が何を知っているのかは知らない
それでもきっといつか話してくれると信じたい…


10/6(月)昼休み

今日は一人で屋上でパンをかじっている
ゆき兄は午前中にどこかに雲隠れしてしまい
リカは女子と一緒に食べていた
そして気づいたのだがゆき兄やリカと仲良くしまくっていたせいで俺は他の仲良しグループに入れていないのだ
物凄いショックを受け結局1人で屋上で食べている

「う~む…もっといろんな奴と仲良くしておけばよかった…」

若干後悔しながらパンを食べ終わる
ゴミを固めて捨てにいこうとすると柵に手をついて空を見ている子が目に入った
長い髪、透き通るような白い肌
前にゆき兄にコーラをぶっかけられた時にタオルを差し出してくれた子だ
話しかけようと思ったが一体なんと話しかければいいものか
とまどっていると振り向いたその子と目が合った

「あなたは…」
「あ、えとえと、この前…
 その…タオル…ありがとう」
「ああ…」

それだけ言うと女の子はまた視線を空に向けた
若干、というかかなり、滅茶苦茶きまずい
いたたまれなくなりその場を離れようとする

「…淀んだ闇に流れこむ光はより大きな流れを作り出し
 やがてそれは止められぬ流れとなり…全てを飲み込んでいく…」
「え?」
「…」

すっと、女の子は俺の横を通り過ぎ屋上から去ろうとする

「あ…」
「貴方に黄龍の加護がありますように」
「え!?ちょ、待っ…!?」

慌てて引きとめようとするものの女の子は足早に屋上から去ってしまった

「偶然…?いや、でも…」
「よいしょっ…っとぉ」
「え?」

スタンッ!と着地するような音が後ろから聞こえた
振り向くとゆき兄が立っていた

「え…え…?」
「ふぁ~…よく寝た…
 ん、おお、たまゆら」
「寝てた…って?どこで?」
「貯水タンクの上でな」
「…ずっと?」
「ああ」
「なんだ…そうだったのか…」
「…チ、一雨来そうだな…」

ゆき兄がそう呟くので空を見てみたが
別に雨が降りそうな雰囲気でもない

「そうかぁ?…あれ?」

すでにゆき兄はいなくなっていた
なんだってんだもう


10/6(月)放課後

昼休みを過ぎてから徐々に天気が崩れ始めて
放課後になると窓の外は雨がザァザァと降り注いでいた
ゆき兄は天気予報でも見たのだろうか
何にせよ濡れるとめんどくさい
今日は特に用事も無いしゆき兄もあれから見ないしリカも部活にいったしさっさと帰ることにする
カバンを掴んで廊下に出ると先のほうに人だかりが出来ていた

「…何だろう」

気になったので近づいてみる

「おい、早く連れてってやれ!」
「手伝えよ!!」
「血が止まらねぇんだ!!」
「くそ!ただちょっと話してただけだろうに!!」

人だかりの中心には腕から血を流して倒れている生徒が2人いた
この光景は、前にも見たことがある気がする
そう…しげるの…時に見た…

「う…」

強烈な不快感を感じ壁によりかかる
血を流していた生徒は他の生徒に保健室に運ばれていった
残った生徒同士のひそひそ話が聞こえる

「…最近酷くねぇ?」
「一切の容赦がなくなってる感じだよな…」
「こんなんで俺らの安全を守ってるとか言われても…」
「…教師も皆怯えてるんだぜ」
「グチグチいってると俺らも…」

明らかに、前より執行部に対する皆の不満が増えている
断罪が増えているからなのか、それとも今までは見逃されていた行為も容赦なく断罪されているからなのか
それにしても、何なんだこの不安は…
不意に屋上の少女の言葉が思い出された

『淀んだ闇に流れこむ光はより大きな流れを作り出し
 やがてそれは止められぬ流れとなり全てを飲み込んでいく』








10/6(月)同時刻

「…なぜ勝手に行動した」
「勝手?校則を破る者を断罪するのが僕らの役目だろう?」
「忠告すらせずに?」
「生ぬるいんだよ、忠告で済ますから愚かな大衆はつけあがる」
「…ヒヒッ」
「どうせカスどもが転校生に淘汰されたんだ
 人員不足だろ?だったら芽から摘むほうが手間がかからなくていい」
「…」
「そうだ、残った奴らでゲームをしようぜ
 何人断罪できるかだ、一般生徒は1P、無能は教師たちは3P、転校生は10Pだ、どうだ?」
「面白いじゃないか」
「勝手にやればいい」
「ずっと反吐が出そうな正義を抱える奴らと一緒にいることを我慢してきたんだ
 これぐらいの楽しみはないとね…」
「ヒャッヒャッヒャ!
 じゃあこんなところで時間潰してるわけにはいかねぇな!」
「お前はどうするんだ?」
「興味ないな」
「…ふん」


10/6(月)同時刻

「執行部の暴走か…」
「また仕事増えちゃいましたね~」
「どうします?今なら僕らが行けば鎮静化できますよ?」
「…好きにさせておけ」
「いいんですか?」
「執行部は本能で自らの役割を理解する
 与えられた役割をこなしているなら奴らが何をしようとも関係はない」
「しかし本当にいいのですか?
 一般生徒の不満は間違いなく高まりますよ」
「好きなだけ言わせ続けて、同時に恐怖を食らわせ続ければいい
 …そして不満を全て吐き出し恐怖で胃袋を満たし気持ち悪くなった奴らは叫びだす
 法による正義をな…」
「わかりました」
「だが気になることもある」
「…やはり転校生ですか」
「俺が執行部に与えた力を消し去るあの力…
 あれはまるで…」
「さすがの会長もあの力までは完全には出来ていませんか」
「だが役に立たないこともない」
「どちらに?」
「利用できるものは例えそれが自らに刃を向ける者であろうと利用すればいい」
「…いってらっしゃいませ」


10/6(月)同時刻

しばらく気持ちを落ち着けてから
俺はようやく不快感から脱し、寮に戻ることにした
もう校内に人の姿は見えなかった、そろそろ下校の鐘が鳴るからだ
下駄箱について靴を履き替える
その時、後ろから物凄い威圧を感じた
この感覚、前にも味わったことがあった
全身から冷たい汗が噴き出るような感覚、絶対的な死の恐怖
恐る恐るゆっくりと振り向く

「…やっぱり…お前か…!」
「…フ、死のイメージを乗り越えたとはいえ…
 やはりまだ完全に拭い切れてはいないんだな」

白やんがそこに立っていた
あの夜と変わらぬ圧倒的な恐怖を携えて

「何の用だ…まさかまた俺を…」
「それが望みならばそうしてやってもいいが?」
「ぐ…」

揺ぎ無いその瞳が相変わらずとてつもない恐怖を俺に与えてくる
まるでアリを見るようなその瞳に映る自分は命の価値すらも無いと感じられてくる

「…どうした?顔面蒼白だぞ?」
「…ク、クソッ…」
「…安心しろ、今日は貴様をどうしようなどと思っていないさ」
「え…?」
「…執行部が暴走を始めている」
「暴走?」
「貴様が執行部を倒していくことによりバランスが崩壊した
 後に残っているのはタチが悪い…そしていよいよ暴走を始めた」
「…だからさっき…」
「原因はお前にある、この現状を憂うならばお前が鎮めろ」
「…なんだと?」
「俺は言ったはずだがな、お前の中途半端な正義が犠牲を増やすと」
「お前なら…簡単に止められるだろう」
「俺は別にこんなことどうでもいいんでな」
「…じゃあなぜ俺に止めろと言ってくる!」
「見せてみろ」
「…何を?」
「お前の正義が、中途半端なのかどうかを」
「…」
「とはいえ…簡単なことだ
 お前は今まで通り執行部を倒していけばいい」
「…」
「急がないと犠牲はどんどん増えるがな…」
「…!クソ野郎!!」
「愚かな大衆は何も解決しないと理解していても
 吼えるだけだ…お前も同じか?」
「…絶対に…!!」
「ん…?」
「絶対にテメェをそこから引き摺り下ろしてやる!!!」
「…やってみろ…それじゃあな…
 幸運を祈ろうか…クックッ…」

白やんは去っていった
降り続く雨は土砂降りとなっていた
恐怖を通り越して沸いた怒りの感情
奴の思い通りに動くのは絶対にごめんだが一歩も後ろに退くものか
何人執行部が残ってるのかは知らないが1人残らず叩き潰してやる

10/6(月)夜

寮に戻り自分の部屋で考える
今後は迎え撃つんじゃなくこちらから攻撃を仕掛けるべきなのかもしれない
しかし執行部はどこの誰かもわからないし…
あえて校則を破りおびき出すしかないのか?
その時ふっと思いついた

別にそんなことしなくても7不思議を当たっていけば
奴らに辿り着けるんじゃないか?
ただ担当していないえび助や透過もいたし全員というわけではないが…
となるとやはり重要なのは小川だろうか
あいつはなぜか七不思議に詳しい
そして俺は209号室へと向かった
自ら小川に会いに行くなんて全く想像できなかったな
ドアをノックする

「…小川さん」

キィ…と音を立て、ドアが小さく開いた
しかし全ては開かず隙間から闇の中に小川の目だけが見えた
それはなんだか地獄からこちらを覗く悪魔の目のように見えた

「…君か…僕を尋ねてきたと言うことは…」
「七不思議について教えてください」
「…成る程…そうか…
 だけど…全ては語れない」
「…何でですか」
「何事にも順がある…
 だから今君に教えてあげられるのは…」

ドアの隙間から青白い腕が伸びてきた
そして指が3本立てられる

「3番目だ」
「…3番目の噂…」
「…ある生徒達が深夜に校内に忍び込み…屋上で騒いだ…
 その中の1人が不意に後ろから視線を感じる…
 振り向くとそこには一羽のカラスがいた…
 カラスは別段その生徒達を恐れることも無くただジッと見ていた…」
「…」
「翌日…その生徒達は皆死体で発見された…
 目は抉られ…肉は食いちぎられ…
 屋上は地獄絵図…そして死体に紛れ大量のカラスの羽根が落ちていた…
 これが3番目の噂…人食いカラスだ…」
「人食いカラス…」
「…参考になったかい?」
「…ああ、ありがとう」
「とても…楽しみだ…」
「え?」

ドアがパタンと閉まる
最後の一言が微妙に引っかかったが…
とりあえず部屋に戻ることにする

戻る途中に廊下でゆき兄に出会った
いや、正確には待ち伏せされていたというのが正しいというか…
俺の姿を見るとすぐに話しかけてきた

「小川と何を話していた?」
「…七不思議について聞いていた」
「何のためにだよ…」
「白やんにまた会った」
「何だと…?」
「…俺が執行部を倒していくことで残った奴らが暴走を始めたらしい
 白やんは止めてみろと言った」
「…挑発か…」
「…俺は今日の放課後、執行部の暴走というのを垣間見た
 なんにせよ白やんは執行部を止める気はない…俺が止めないと犠牲者が増える」
「…相変わらずの考え方だ」
「それに何だか…引き下がれない」
「あん?」
「白やんは言ったんだ…俺の正義が中途半端なのか見せてみろって…
 だからこれは死のイメージを乗り越えた俺に対する白やんからの挑戦状…
 なんかそんな気がする」
「そういう…勝手に意地張って何かしでかそうとする奴は嫌いじゃない」
「ああ、話が逸れた
 とりあえず今後はこちらからガンガン攻めていこうと思ったんだ
 だから執行部の居場所の手がかりになる七不思議を聞いてたんだ」
「…そうか…確かに…どちらにせよ全面的な宣戦布告をした以上は…
 そっちのほうがいいのかもな」
「少し怒られるかと思ったよ」
「そんなん今更だろ」
「そっか、それで手伝ってくれるの?」
「寝てなけりゃあな」

ゆき兄は自分の部屋の方へ戻っていってしまった
ああ、多分来てくれるなぁと思いながら俺も部屋に戻って深夜に備え準備をする
準備といっても別に何をするわけでもない
なんつーか今から戦うぞーと覚悟を決めるというか何というか…
何度も戦ってきて段々感覚が麻痺してきている気がするが
怯えて動けなくなるよりはよっぽどこっちのほうがマシか
そんなことを考えてるうちに時間は過ぎていった

10/6(月)深夜

時刻が0時を回った頃
俺は黄龍鉄甲を手からぶら下げていつもの侵入に使う場所へ向かう
ゆき兄は先に来ていた

「ハハ、やっぱり来たんじゃないか」
「…」

ゆき兄は反応せず、腕を組んで窓を見ていた

「…どうしたの?」
「アレ見ろアレ」

アレと言ってゆき兄が指差したのは窓だった
何の変哲も無い窓

「窓がどうしたの?」
「…鍵かかってるぜ」
「うぇい!?」

慌てて窓を開けようとするが確かに開かない
普段は開いてるくせにどうしてこういう時だけ…

「…さてどうする?」
「日を改めるって手もあるけど…」
「困ってるようだなガキンチョども」
「他に入れそうな場所を探すか?」
「そう都合よくあるかなぁ?」
「普段ならお前らが困ろうと全く気にしないんだが
 今回は特別にどうしてもと頭を下げるなら…」
「まぁガラスの1枚ぐらい叩き割っても俺はかまわんが」
「…それは…やめとこうよ」
「無視してんじゃねぇゴルァァァァ!!(巻き舌)」

ゆっくり後ろを振り向くと
前にシャインの倉庫で一戦やらかしたほろにががいた

「…またあんたか」
「そんな邪険にすんなよー
 前回のことは謝るからさー」
「思い出したら腹立ってきた」
「あー、待て待て待て待て
 過去にこだわるな、大事なのは今だ
 それより、お前ら校舎の中に入りたいけど入れないで困ってるんだろ?」
「…まぁそうだが」
「おいでおいで」

ほろにがが手招きしながら変なステップを踏んで校舎を回っていく
俺とゆき兄は顔を見合わせた

「…どうする?」
「何を考えてるか知らないが…
 あいつが直接執行部と関わりがあるわけじゃあないからな
 とりあえずついていってみよう」
「わかった」

ゆき兄に賛成し、ほろにがについて行くことにした
しばらく進むと非常用階段に辿り着いた

「ふんふんふふ~ん」
「おい、オッサン」
「オッサンじゃねぇーよ!!!」
「…ここは普段使われてないから
 間違いなく鍵がかかってると思うんだが」
「普段使われていなからこそ注意がおろそかになるもんだ」

ほろにがはポケットから何か取り出した
どうみても、鍵

「じゃじゃじゃーん」
「盗ったのか?」
「借・り・た・だ・け
 ほれ、開いたぞ」
「…ありがとう」

校舎内に入って屋上を目指す
俺の後ろにゆき兄とほろにががついて歩いてきている
ん?

「何でお前がついてくるんだよ!!!」
「いや鍵開けてやったからな」
「答えになってねぇよ!!」
「いやー何お前らについていけばこの学園に隠された謎がちっとはわかりそうで…」

ゆき兄と顔を見合わせる
さすがにコイツの執行部とか黄龍鉄甲の力とかそういうのは見せるのはマズい
考えてることは同じだったようで一呼吸置いたあと俺とゆき兄は猛ダッシュした

「あ!!待てガキンチョども!!」
「たまゆら、あとで落ち合うぞ」
「おっけー!」

それぞれ別々に走り出す
ほろにがはワンテンポ遅れて追いかけてきたが
どちらを追うか迷ったらしくて足がもつれて転んだみたいだった
後ろからドガバガシャーンゴロンゴロンズドン!!とバイオレンスな音が響いた

「消火器きた!消火器あたった!
 これマジ消火器!普通に消火器だから!!」

騒いでるほろにがを完全にシカトして一応遠回りして屋上に向かった
屋上に続くドアの前でゆき兄を待つことにした
待ってる最中に思ったがやっぱり夜の校舎というのは恐怖を感じる
1人でいるとそれはなおさらだ
ほろにがはこんな場所を何日もたった1人で調べてるのか…
とぼけた態度ではあるが、芯は強いのかな
そんなことを考えながら待っているとゆき兄が階段を上がってきた

「んじゃ行くか」
「うん」

俺とゆき兄は屋上のドアを開ける
月と星の光で屋上は比較的明るい雰囲気で少し安堵した
しかし誰もいない
人食いカラス…いや、普通のカラス、それどころか鳥すらいない

「誰もいない…」
「…いや、気をつけろ
 何か…いる…」

ゆき兄に言われ黄龍鉄甲を構えて辺りを見回す
しかしどこにも人の姿は見えない
張り詰めた空気が辺りを支配する

「カァー!」
「何ッ!?」

いつの間にかカラスが足元にいた
こいつが人食いカラス…?

「カァー!カァー!カァー!」

突然辺り一面からカラスの鳴き声が響く
物凄い音量、一体何匹のカラスが集まればここまでの大合唱になるんだ!?

「たまゆら…上見てみろ…」
「上…?なッ…!?」

頭上には黒く蠢く巨大な塊があった
気がつくと月の光などは全て遮られて辺りは闇に落ちていた
闇には無数のカラスの瞳が浮かび上がり
その全てがこちらを見ていた

「な…なにコレ…」
「不吉にも程があるなコリャ…」
「カァッ!!」
「まずい!!たまゆら伏せろ!!!!」

その刹那
まるで戦場で飛び交う銃撃のように
高速で何かが周囲を縦横無尽に貫く
けたたましい翼の音と鳴き声
身体に走る肉を裂くような激痛
急所を隠すように本能的にうずくまってもその地獄は止むことがなかった

「ん、なろぉっ…!
 前と同じだ!たまゆら耳塞いどけ!!!」
「…!!わかった!!!」
「くらいな、カラスども!!」

ゆき兄に言われた通り耳を塞ぐ
またアレを使うのか…というか前回使ったのにまだ持ってたんだ
そして次の瞬間、背中に物凄い衝撃を感じた
同時に闇が散り散りになり月の光が差し込んだ

「ギャア!ギャアギャア!!」

それでもしばらくカラスのけたたましい鳴き声は止まなかったが
時間が立つと屋上は来たときと同じ平穏を取り戻した

「いっつ…大丈夫か?」
「なんとか…」

服がところどころ切り裂かれ
肌が露出していた部分は大小の多数の切り傷ができていた
動くたびにズキズキと痛むがなんとか大丈夫なようだった

「やってくれやがったな…おいコラ出てきやがれ!!」

ゆき兄が叫ぶ
返事は無かったが、後ろでガンと鉄を叩くような音がした
振り向くと貯水タンクの上
屋上で最も高い場所に誰かが立っていた
その背に月を背負って

「…10ポイントが僕のところに飛び込んでくるとは運がいいな」

そう言い放った男はところどころ破れたボロボロの黒いマントのようなものを羽織っていた
長い黒髪の黒はマントの黒と混ざり合い
白い月に照らされたその男は絶対的な黒

「聞くまでもないだろうけど…執行部か?」
「ああ…黒やん、だ」
「…随分とやってくれだが
 お前の手下は皆散り散りだぞ」
「カラスとは…今でこそ迷惑な鳥とされているが
 古来より世界各地で神の使い、あるいは神そのものとされている」
「あん?」
「…なぜ示し合わせたかのように世界各地でカラスが神聖視されていたのかはわからない
 ただ人は惹きつけられていたんだろう、カラスの持つその神聖さに…」
「何だお前、カラスフェチか?」
「…そしてカラスはとても頭がよくてね
 敵が自らの命を脅かすような攻撃手段を持っていないと気づいた場合…」

周囲からバサバサと音が聞こえてきた
サーッと、幕が降りるように段々とまた月の光が覆い隠されていく

「気をつけろよ、カラスの爪は…鋭いんだ」
「カァー!カァー!!」

段々とさっきと同じように辺りが闇に包まれだす
普通に理解できる、これは物凄くまずい状況だ

「ど、どうする!?」
「一旦退却するのがいいかもしれないな…」
「賛成!!」

言うが早いかドアに向かって走り出す

「…言ったろ?カラスは頭がいい…と
 お前らの浅知恵なんか…お見通しだよ」
「なッ!?」

ブワッ!と闇が大きく横を突っ切り
唯一のドアが闇に包み込まれた

「…くそっ…!」
「終わりかな、これで10ポイント…」
「さっきから10ポイントって何のこと…!!」
「鴉突…」

闇が一気に爆散する
まるで高速回転する闇のドームに閉じ込められたような錯覚
これが全て銃弾のように行き交うとしたらどれだけの破壊力が生み出されるんだ?
必死に脱出する方法を考えるがどうしても思いつかない
数え切れないほどのカラスを殲滅するほどの力は俺たちには無い
ゆき兄と背中合わせになり牽制しながら突破口を探すが
どうしても見つからない
そしてその焦りが一滴の汗を雫にして床に落とした
それがまるで合図だったかのように一気に周りの闇が爆ぜた

「がッ…!!!」
「ゴフッ…!?」

さっきと違い切り裂かれるような痛みだけではない
塊を叩きつけられたような打撃に似た衝撃
同時に何かが突き刺さるような激痛
その全てが絶え間なく襲い掛かる
顔を上げることすらできずただ急所を抑えてうずくまるしかなく
攻撃が止むのを祈るしかなかった

「…弱いな、が、恥じるなよ
 戦いには相性ってもんがあるんだよ
 たまたま俺とお前の相性が抜群だっただけのことさ
 最もお前にとっては最悪ということかもしれないが」

もうその言葉すらも霞みがかかったようにぼやけて聞こえなかった
ただこの地獄が止むのを待つしかなかった

「たまゆらぁ…!!」
「!?」

名前を呼ばれて腕の隙間からゆき兄のほうを見ると
ゆき兄は立っていた
とても立てるような状況じゃあないのに
いや、その通りだ、時折身体に衝撃を受けて足がふらついてる
同時に足元には血だまりが出来ている

「何やってんだよ!伏せろよ!」
「伏せててもジワジワなぶり殺しにされるのを待つだけじゃねぇか…!」
「でも…!」
「お前言ったろうが!!
 これは白やんからの挑戦状なんだって!!意味わかんねぇ意地張ってたろうが!!」
「あ…」
「いいか…!!
 正義とか悪だとか何だとか俺には知ったこっちゃねぇよ!!
 戦う理由に正義だ悪だブラ下げてくる奴にはヘドが出る!!
 どんだけ奇麗事並べたって戦いなんて所詮は意地の張り合いだ!!
 意地張ってここに来たってんなら死んでも自分の張った意地から逃げ出すんじゃねぇ!!!!!」
「…ゆき兄…!!」

俺はゆっくりと、立ち上がろうとする
腹部に衝撃

「グフッ…!ぐぐ…!」

奥歯を噛み締め、痛みを噛み潰す
そうだ、俺がここにいるのは白やんを引きずり下ろしてやるという意地だ
絶対に負けてたまるか…
激痛をこらえながらなんとか立ち上がる

「そうだ、どんな強大な力に襲われても可能性はある
 それでもうずくまってるなんとかなるのを待ってるだけじゃ何とかなる可能性は0に等しいんだ…」
「ハァハァ…!だけど…どうすればいいんだ…?」

こうしてるうちにも身体はドンドン傷つけられている
もう長くは持ちそうにない

「立ち上がることが出来たら
 あとは信じてればいいさ」
「何を?」

その時
カンッとコンクリートを何か硬いものが跳ねるような音がした
次の瞬間だった
辺りを眩いばかりの閃光と爆音が包んだ
その光と音に追い立てられるように意識が吹っ飛んでいく
意識が途切れる寸前に誰かの高笑いのようなものが聞こえた

「ハッハッハ!俺に感謝しろよガキンチョどもぉ!!」



6時限目 - 胎動 -



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最終更新:2009年11月01日 02:41