0160:激震の大地、大魔王新生◆SD0DoPVSTQ



「――ふむ、では貴様が来た方角にはもう人がいないのだな」
「ケケケ、何人殺したかは覚えてねぇがな。餓鬼を一人逃がしちまったが、それも大方死んじまっただろうしよ」
どかっと腰を下ろし、胡座をかいた上に肘をつきながらフレイザードの話に耳を傾ける大魔王――ピッコロ
つまり、この地点で北から来た奴をもう探さなくても良いということだ。
優勝するためには皆殺ししながら南下すれば良いだけの事。
解りやすい分、下手に真ん中に配置されるよりは幸運といえた。
尤も、その近くに配置された者としてはたまったモノでなかった訳であるが。

「で、テメェは何を支給されたんだ?」
次は自分の質問の番だとばかりにピッコロに喋りかける。
「支給……そういえば最初にそんな事も言っておったな。無論、この儂にはその様な小道具等不必要であるが」
「なに、そう馬鹿にしたもんじゃないぜ。忌々しい制限もあるし運が悪いと虫螻如き相手にこれだ」
そう言ってフレイザードは自分を指し示した。
北海道で闘ってきた相手は決して強い相手ではなかった。
召喚されたモンスターも普通ならば負けない相手だ。
しかし支給品を理解し其れを応用することで通常での効果の二倍、三倍に威力を引き出せる事を高い授業料だったが教わった。
体力、攻撃力そして防御力までもがぐっと制限され、虫螻呼ばわりしていた人間との差も忌々しい事ながら縮まっている。
つまりはそれだけ支給品の影響するファクターが占めているのであり、重要性も増してくるという事だ。
無論フレイザードの本音としては、隙あらば襲いかかる時の不安要素を一つでも減らしたかったのであるが。
「…………」
確かに目の前の怪物の言うことも一笑に出来ない。
先程戦った男も金色の鎧を装備したとたんに腕力などが上がっていた。
それでも雑魚には変わりないのだが、それが多人数を一遍に相手するとなったら苦戦を強いられるだろう。
そしてなにより、自身が長年の間その小道具に封印されていた苦い記憶がある。
電子ジャーと魔封波――その両者が揃えばまた自分自身が封印される可能性も出てくる。
クリリン孫悟空という、魔封波を知っている者がいる限り可能性が零では無いわけだ。
噛みしめた奥歯と握りしめた手のひらから紫色の血がつつと流れ落ちる。
「確かに小道具であろうが馬鹿にはできんかったな」
そう言って今の今まで仕舞っていたカプセルを初めて取り出した。
ピッコロがカプセルを投げると、ぼんっと音と共に木の実らしき物が入った瓶が出てきた。
「ケッ、武器じゃねぇのかよ」
毒づきながらフレイザードが一緒に落ちていた説明書の方を氷の手で掴む。
「前世の実、トキタダレの実の果汁を飲むと少しの間若返ることが出来る……だとよ」
「儂は今が強さの絶頂期、無用の代物だったか」
ピッコロの言葉を耳に入れつつフレイザードが人差し指と親指で瓶の口をつまみ持ち上げる。
「此奴にそんな効果があるとはな。欲しい奴はとことん欲しがるぜ」
「――確かにな、また老いたその時に……うっ!」
口を押さえながらピッコロが立ち上がりフレイザードを睨み付ける。
「き、貴様……何をした?」
「ケケケ、飲みたいなら俺が飲ませてやろうと気を遣ったのによ」
そう言いつつ間合いを取るためにピッコロから離れる。
「此奴は俺の支給品、宝貝『霧露乾坤網』だ。使い方は……まぁ今見せた通りだ」
フレイザードの直ぐ横には水の塊が宙に浮かんでいた。
そしてその手には蓋を開けた前世の実の瓶が握られている。
つまりは、そういうことなのだろう。
「貴様……良い条件を目の前にぶら下げれば喰い付いてくるかと思いきや、力関係も理解できないような犬だったとはな」
怒りと、次なる戦いへの喜びで身体が震え出す。
「この、大魔王も嘗められたもんだ。よかろう、頭で理解できないのなら身体で教えてやる」

「ちっ、話が違ぇじゃねぇか」
そう毒づき、自分の意思とは無関係に目の前の脅威から一歩、また一歩と後ずさる。
声と表情は平然を装ってはいるものの内心は非常に穏やかではなかった。
本当ならば前世の実を飲ませ、弱体化したピッコロを襲うはずだったのだ。
正直今の自分では体力が全回復していたとしても、ピッコロ相手では五分の戦いに縺れ込むだろう。
今までの相手とは格からして何もかも違う。
一緒に行動すれば体力は回復するかも知れない――が、休んでいる間にピッコロが強い武器を手に入れる可能性も多分に出てくる。
そうなるとかなり厄介ではある。
何も策が無いのなら従ったフリをしていても良かったのだが、そこに降って湧いたチャンスがこれだった。
ピッコロ自身が今が絶頂期と口にしたのをはっきりと耳にした。
つまりは昔に戻れば戻るほど弱り、勝てる確率が反比例してぐんと増える。
水を操る霧露乾坤網もばれていない今なら奇襲が通じる上に、液体の前世の実との相性は抜群だ。
そして何より前世の実の瓶が自分の手の内にあるのは今しかない。
だが、その結果がこの通りだ。
外しても良いように、飲ませようと球にして飛ばした液体の量が少なかったからなのか、何か起きる気配すら全くない。
目の前の魔王に勝てるならば体力回復のチャンスを捨てても良いとも思ったのだが、それがとんだ裏目に出た。
もう十分な間合いは取っている筈なのにフレイザードの足は震えていた。
其れは決して武者震いではなく、純粋なる恐怖からである。
将軍と魔王の激突に呼応するかの如く大地も震えている様にも見えた。
距離を取るフレイザードに大地を蹴りすかさず魔王が肉薄する。
フレイザードはそのまま繰り出される岩をも抉るかのような手刀を紙一重でかわした。
だが疲労が激しく大技は疎か、反撃に移ることすら出来ない。
ピッコロも其れを見越して怒りのまま一撃必殺の大振り攻撃を仕掛けてきているのだろう。
だが、それはフレイザードにとって幸運でもあった。
避けることに集中していれば何とかかわす事の出来る攻撃だ。
「ふはははは、怯えて手も足も出ないか!所詮はこの程度よ!!」
笑いながらその場でショットガンのような拳を連射する。
多少のダメージなら核鉄で回復できる。
威力の低い牽制は敢えて喰らい、その後に来る大技を集中して避ける。
「流石に虫螻とは違いしぶといな。身体も温まった事だ、そろそろ本気で行くぞ」
魔王が左手を使わず右手だけで先程と同じ威力のパンチを繰り出してくる。
「ケッ、流石自称大魔王を名乗るだけある」
咄嗟に取り出した火竜鏢で消えかけた左半身の炎を強化して迎え撃つ。
しかしフレイザードは焦っていた。
体力が無いから持久戦に持ち込まれれば負けるという事もある。
が、それ以上にピッコロの左手に集中するエネルギーと妖しげな輝きが気になっていた。
――冗談じゃねぇ。こんな所で殺される位なら一か八か死ぬ覚悟で弾岩爆花散に賭けるぜ。
だがピッコロの怒濤の攻撃の前ではその技を使用する一瞬の隙も無い。
そうやってタイミングを計っている間にも、ピッコロの左手に集まる光は大きくなっていく。
片手での爆力魔波。
威力は街を破壊した両手時より数段落ちるが、
制限下の其れでいて尚、直撃すれば自分が核ごと消滅する威力はフレイザードも本能で察知していた。
使うなら相手がそのエネルギーを解放する前しかない。
そう決心したその時、ふと拳の嵐が止んだ事に気が付いた。
「な、何がっ!!」
そう叫びつつ、空へと逃げるピッコロ大魔王。
よくは解らないが、なにやら戸惑っている事だけは察しが付く。
左手に集まっていた光も今では霧散し、体格が一回り小さくなっていた。
「――今頃あの液体が効き始めたのか。此奴はついてるぜ」
今がチャンスと左手に持っていた火竜鏢を投げ付ける。
「く、糞っ!!」
ピッコロがフレイザードの行動に気が付き、慌てて回避行動を取ろうとする。
「へっ、やっぱり勝つのは俺様なんだよ!!」
おまけとばかりになけなしの魔力で渾身のメラゾーマを火竜鏢目がけてぶっ放す。
回転しながら飛んでいく火竜鏢より直線で進むメラゾーマの方が速度的に速い。
ピッコロが叩き落とそうとする直前に火竜鏢に当たったメラゾーマが、唯でさえ読むのが難しい火竜鏢の軌道を更に変更させた。
更に速度、火力共にメラゾーマで跳ね上がった火竜鏢がピッコロを襲う。
これ以上と無い必殺のタイミング。
避けるのも、軌道を読み叩き落とすのも無理と悟ったピッコロ大魔王はすかさず防御姿勢に入った。
直後に起こる大爆発。
「ざまぁみろってんだ」
巻き起こる煙を見上げフレイザードは勝利を確信した。

「ふ……ふはははは!やってくれるではないか!」
しかし戦闘姿勢を解除しようとしたその瞬間、煙の中から最悪の笑い声がその場一帯に木霊した。
「ば、馬鹿な!直撃だぜ……」
もう魔力も体力も使い果たしたフレイザードは狼狽えるしかなかった。
全ての手は尽き、最高の一撃も大したダメージは与えられていない。
唯一カードが1枚残っていたが、バッグから取り出し使用する隙が何処にあろうか?
「この大魔王に火傷を負わせたこと、誇りに思うが良い」
煙の中から手が伸びてきてフレイザードが抱えていた前世の実の瓶を奪い取る。
「此奴は大したアイテムだ……」
煙から現れたのは両腕に軽い火傷をしただけで瓶を眺めているピッコロ大魔王。
ぱっと見外見は変わってはいない。
だがその身体から放たれる威圧感は出会った時と比べものにならない迄に増大していた。
其の威圧感を前に金縛りにあっていたフレイザードにもう片方の腕が襲いかかった。
「ぐっ……」
気が付いたときにはもう遅く、首を絞められたままフレイザードの巨体は宙に浮いていた。
「ククククク、見事だ。以前の数倍も力が湧き溢れる」
其処にいたのは神と分裂する前の、ナメック星の天才と呼ばれた戦士そのものであった。
「しかし、この肉体でいられるのが少しの間とは口惜しい。神龍もこの肉体まで若返らせてくれれば良かったものを」
空中からすとんと着地して前世の実の瓶を地面に置いた。
そしてもう空いた手を伸ばしフレイサードの顔の前で手のひらを広げる。
「さて、このまま貴様を一撃で吹き飛ばしてやろう。この距離だとろくな攻撃も出来はしまい」
確かにこの距離だと制限されている弾岩爆花散では大してダメージを与えられずに終わるだろう。
勿論そんな事をする魔力ももう無い訳だが。
「――だが、この力を発見した貴様にもう一度チャンスをやろう」
最早これまでと半ば諦めかけていた時にその言葉が耳に入った。
首を絞めていた手を開き、掴まれていたフレイザードはそのまま重力に引かれ腰から落ちる。
「なに、これで馬鹿な犬だろうと立場をわきまえるだろうよ」
「クソが……」
悪態を付くフレイザードと、其れを気にもかけないピッコロ大魔王。
「但し二度目はない。其れだけは心に止めておく事だな」
フレイザードはこの世界での最要注意人物が誰か改めて思い知った。
最後の10人迄待つ必要なんて何処にもない。
隙あらば殺す――否、優先的にでもまず目の前の障害を排除しなくてはいけない。
「先程飲んだ量から考えて、飲めて後3、4回か……」
瓶を拾い、落ちていた蓋を閉めカプセルに再び仕舞う。
カプセルに仕舞われては近づいて破壊も霧露乾坤網で操作も出来はしない。
ならば3、4回使った後、もうあの化け物に変身出来なくなった時迄体力を温存して……
「ククク、言い忘れたが貴様が死ぬまではこの水は残しておく。貴様の命の為にも変な事は考えない様にな」
笑いながら一人先へと進んで行く。
取り残されたのはフレイザードと落ちていた火竜鏢。
武器を残して行ったのは余裕の現れか?
体力がないので逃げる訳にもいかない。
全てはあの大魔王の手の上という事らしい。
希望は全て断ち切られた。
ならば新たな希望が現れるまで傍に付いて体力回復に専念するのが無難か……
何度目かになる悪態を飲み込み、フレイザードは立ち上がった。
今はまだ耐える時だと自分に言い聞かせながら。

大地を闊歩する大魔王は宿敵、孫悟空を思い浮かべる。
だが今のピッコロ大魔王が悟空の知る其れではないのと同じく、ピッコロが知る悟空は過去の悟空。
あれから成長した悟空もまた、此処に来てピッコロと同じく忘却の彼方にあった過去の自分を取り戻していた。
尤もピッコロの場合は記憶ではなく肉体、悟空の場合は肉体ではなく本能であったが。
斯くして、東北の地に新たなる大魔王が新生した。
名を忘れたナメック星人ではなく、恐怖のピッコロ大魔王として。





【青森県北部/午前】

【ピッコロ@DRAGON BALL】
 [状態]:両腕に軽度の火傷
 [装備]:なし
 [道具]:荷物一式、前世の実@幽遊白書
 [思考]:1.フレイザードを利用してゲームに乗る。とりあえず南下。
     2.残り人数が10人以下になったら同盟解除。バッファローマン、悟空を優先して殺す。
     3.最終的に主催者を殺す。(フレイザードには秘密)

【フレイザード@ダイの大冒険】
 [状態]:重度の疲労、成長期、傷は核鉄で常時ヒーリング
 [装備]:霧露乾坤網@封神演義、火竜鏢@封神演義、核鉄LXI@武装錬金
 [道具]:支給品一式 、遊戯王カード1枚(詳細は不明)@遊戯王 
 [思考]:1.体力をまず回復させる。
     2.回復次第チャンスを見つけピッコロを殺す。
     3.残り人数が10人以下になったら同盟解除。ダイ、ポップ、マァム、武藤遊戯を優先。
     4.優勝してバーン様から勝利の栄光を。


時系列順で読む


投下順で読む


135:悪のパーティー ピッコロ 206:彷徨える黒龍、眼前の魔王
135:悪のパーティー フレイザード 206:彷徨える黒龍、眼前の魔王

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年06月04日 09:27