0221:そして少女は居場所を見つけた
「そうか……そんなことがな……」
ボンチューとの会話後、落ち着いてきたルキアは、
世直しマンたちにこれまでの経緯を話していた。
北海道で起こった激闘と、死んでいった者達。その全てを。
『でもなぁ、やっぱりナース服の魅力には逆らえねぇし…こんなことならスッチーのにしとくんだったか』
人外の化け物を目の前にしても、たわけたことを言い続けた銀髪天然パーマの男。
『其奴が何であろうと、オレの誇り高き龍の僕を汚されてしまってはかなわん!』
一般人でありながら、高貴なプライドを持って向かっていった
海馬瀬人。
――そのきっかけを作ったのは、紛れもない、自分。
「私は、死神なのだ……」
そう、ルキアが呟いた。
銀時も海馬も、自分が招いた災いで死んだ。
二人の死は、私の罪なのだ――と。
ゴチンッ
鈍い音、が頭に。
上を見上げると、傍らにいた
ボンチューのゲンコツの姿があった。
「あだっ!? な、なにをするか馬鹿者がっ!」
「バカはてめぇだ。そういうこと言うんじゃねえよ」
ボンチューはルキアに向き直り、全てを自分の責任にしようとする少女に何気ない言葉を浴びせる。
「べつにそいつらが死んだのはお前のせいじゃねぇ。殺したバケモンが悪いだけだろ」
ボンチューは、このゲームが始まって自分が体験した戦闘――
ピッコロ戦のことを思い出す。
このゲームには、自分のいた世界では考えられないような化け物がいる。
弱い奴が強い奴に向かっていけば、当然殺される。
悔しいが、それがこの世界の現実。
「
ボンチューの言うとおりだ。許すまじはその炎と氷の化け物。君が気負いするべきことではない」
「ああ。俺もそう思うぜ」
世直しマン、そして
バッファローマンも、ルキアを咎めようとはしない。
「し、しかし……私があいつに追われなければ、あの二人は……あだっ!?」
「だーかーらー! いつまでもうじうじ言ってんな!」
「ぬぅ……貴様、二度もこの私をぶったな!? 助平のくせに!」
「なっ!? だから俺はべつになにもしてねぇって言ってんだろうが!」
「ふん、わかるものか。介抱とは名ばかりに、私の横でずっとよからぬことを考えていたのであろう!?」
「んなわけあるか!!」
ルキアと
ボンチューの、他愛もない口げんか。
最初は重苦しい雰囲気だったその空間も、だいぶ和やかになった。
「おいおい、今がどんな状況か分かってんのか?」
「ふっ、まあいいではないか
バッファローマン」
四人の間にあった緊張は、いとも簡単に崩れた。
しかし、現実から目を背けることはできない。
ここ青森の現状を考えれば、今こうして話している時間も惜しい。
「しかし……北海道からやってきた、炎と氷の化け物か……おそらくまだこの近くにいるんだろうな」
ルキアを襲った炎と氷の化け物――
フレイザード。
海馬との戦いで自爆したように見えたが、火竜鏢が見当たらなかったのは、奴が生きていて持っていった可能性が高い。
「ああ。それに
ボンチューを襲った緑肌の男もな。そいつら二人はまず間違いなくマーダーだ。このまま放っておくわけにもいかんだろう」
「もちろんだ。このまま奴らを野放しにしていたら、また犠牲者が出ちまう。正義超人としても、ああいう輩は見過ごせねぇ」
かたや宇宙のヒーロー
世直しマン。かたや正義超人
バッファローマン。
二人に共通するのは、悪を見過ごすことのできない正義。
まだ東北にいるであろう二人の悪を、見て見ぬふりなどできない。
「あんたら、あの緑野郎を追うのか?」
「ああ。北海道から南下してきたはずの炎と氷の化け物も一緒にな。奴らが他の参加者に手をかける前に、なんとしても倒さねば」
「正気か!? その緑肌の男というのは知らんが、あやつは……あの化け物は危険すぎる!」
ルキアはもう、誰にも死んでほしくなかった。
北海道で知り合った海馬も、わざわざ
フレイザードに向かっていって死んだ。
私が
フレイザードに出会わなければ、私が
海馬瀬人に出会わなければ。
ひょっとしたら、この者たちもまた――
ゴチンッ
「っだぁ!?」
ルキアの頭に三度目の衝撃が。
今度は
ボンチューではない。
目の前の、角を生やした大男……
バッファローマンのゲンコツだった。
「ななっ!? あなたまでなにをする!」
「なに、俺もちょっと
ボンチューに倣ってみたまでさ」
「?」
「ようするにだ、自分が死神だとか、自分のせいで死んだとか、そういうことはもう気にすんなってことだ」
自分が死神であることは紛れもない真実なのだが……考えているうちに、
「
バッファローマンの言うとおりだ」
ルキアの頭上に、今度は鎧の男の拳が振り下ろされる。
ゴチンッ!!!
今まで以上に強く、鈍い衝撃音だった。
「く~~~~」
「俺達は簡単には死なん。俺は宇宙をまたにかけるヒーロー。
バッファローマンは悪行超人から人々を守る正義超人。
相手が怪物であろうが、臆したりはしない。だからルキア、君の心配も全く無用だ」
世直しマンの言葉は、自惚れではなかった。
世直しマン、
バッファローマンともに、数々の死線を越えてきた歴戦の戦士である。
たとえ相手が誰であれ、自分の正義が崩れることもなければ、悪に屈することもない。
少女を泣かせるような、死に様を見せることも。
それは、ヒーローとして当然のこと。
「……なあ、
世直しマン」
一人心に誓う
世直しマンに話しかけたのは、
ボンチューだった。
「なにも、あんたまでゲンコツ入れることはなかったんじゃねえか?」
「いや、この流れだと私も一撃与えておくべきだと思ってな」
「でも、こいつさっきからずっと頭押さえてんだが」
「~~~~」
「む……」
見下ろすと、床にしゃがみこんだ状態で、頭を押さえながらぷるぷると震えるルキアがいた。
「おい、
世直しマン……まさかとは思うが、ちゃんと手加減したんだろうな?」
「~~~~~~」
ルキアはなおも、ぷるぷる震えている。
「…………」
「言っておくが、俺はちゃんと手加減したぞ。超人のパンチなんて、一般人が耐えられるもんじゃねえからな」
バッファローマン、ボンチュー、そしてしゃがみこんだ状態のままルキアの視線が、
世直しマン一点に注がれる。
「…………すまん」
この者たちは似ている。
現世で出会った、死神代行などという訳も分からないものを引き受けてくれた少年に。
来るなと言ったのに、わざわざ 尸魂界(ソウルソサエティ)まで助けに来た愚か者達に。
(こんな私を受け入れてくれる者たちが、この世界にもいるとはな……)
「ところで、君が持っていた荷物なのだが」
世直しマンが取り出したのは、一枚のカード。「青眼の白竜」という名の、モンスターカードだった。
「それは……
海馬瀬人のカード!」
ルキアはそのカードを確かに覚えていた。
最初は
フレイザードが所持していたものだが、このカードは元々海馬の持ち物らしい。
なかでも「青眼の白竜」のカードは、海馬が最も信頼するカードであったと聞いている。
「使用方法は?」
「分からない。これと同じ種類のカードは、名前を呼ぶだけで中のモンスターが具現化したのだが……
どういうわけか、この「青眼の白竜」のカードだけは、名前を読んでもなにも起こらなかった」
ルキアは知らない。このカードがどれだけ強力なのかも、「青眼の白竜」が次の0時まで使用不可能ということも。
「ふむ……説明書はその炎と氷の化け物が持っているのか。どちらにせよ、使用方法が分からなければ使い道がないな」
「……遊戯」
海馬が口にしていた名前。
フレイザードと交戦する前、自分を追っていたあの獣「幻獣王ガゼル」は、元は遊戯という名の参加者のカードだと聞いていた。
「遊戯という者に会えば、このカードのことが分かるかもしれない」
言われて、
バッファローマンが名簿を確認する。
「遊戯……
武藤遊戯、これだな。こいつならさっきの第二放送でも呼ばれてなかったし、まだ生きているはずだ」
「そいつは信用できる奴なのか?」
「分からない……が、
海馬瀬人の知り合いならば、少なくともこの助平のような一般人であることは間違いないと思う」
「おい、誰が助平だって?」
もちろん
ボンチューのことだが、ルキアたちは彼を無視して話を進める。
「遊戯か……じゃあそいつに会うまでこのカードはあてにできないな」
「しかしなにが原因で使えるようになるかは分からん。やはりこのカードはルキアが持っていろ」
世直しマンがルキアに「青眼の白竜」のカードを手渡す。
海馬瀬人が、
フレイザードを倒す最後の切り札に使おうとしたカード。
はたしてこのカードは、自分を守ってくれるのだろうか……?
「さて、これからどうするかだが」
「
世直しマンは緑肌の男と炎と氷の化け物を追うんだろう? だったら俺も当然付き合うぜ」
世直しマンと
バッファローマン。この二人が悪を追うのは当然のこと。
「だったら俺も行くぜ」
しかし、それにヒーローでも正義超人でもないはずの、一般人であるボンチューが名乗り出た。
彼としても、このまま
ピッコロになめられっぱなしというわけにもいかない。
ルキアを襲った
フレイザードを、放っておくことも。
「お前は駄目だ」
が、
ボンチューの名乗り出は即座に却下された。
「なんでだよ!?」
「
ボンチューはまだダメージが回復していないだろう。
それに、俺たちが追う二人は明らかにお前の住む世界とは次元の違う化け物だ。こう言っちゃ悪いが……」
「はっきり言おう。足手まといだ」
「!!」
気を使おうとした
バッファローマンの意も酌まず、
世直しマンがきっぱりと言い放った。
「……役立たずだってぇのか、この俺が」
「そうだ」
瞬時に流れる、
世直しマンと
ボンチューの間の一触即発の空気。
このままでは、無駄な争いが生まれてしまう。
(……ったく、こんな時にキン肉マンみたいなムードメーカーがいればいいんだがな)
バッファローマンの気持ちを代弁するかのように、緊張を破ったのはルキアだった。
「やめんか馬鹿者っ!」
「がっ!?」
ボンチューの顔面に直撃するルキアのチョップ。
その一撃が、
ボンチューから威圧感を取り除いた。
「っ……なにするんだテメー!」
「ふん。さっきのゲンコツのお返しだ!
それにこんなもので痛がっているようでは、彼らについていったところで、足手まといになるのは目に見えているわ!」
「んだと、このヤロー!」
「馬鹿め! 私は女だ。野郎などではないわ!」
繰り返されるルキアと
ボンチューの口論。これには
バッファローマンもほとほと呆れるしかなかった。
「全くこの二人は……しかし
世直しマン。連れて行かないにしても、この二人をこのままここに残すのは危険じゃないか?」
「そうだな……」
世直しマンは考える。
ピッコロに
フレイザード、まだどちらも必ずこの付近にいる。
ひょっとしたらもう関東地方に渡っているかもしれないし、ひょっとしたら今いる青森に潜伏しているかもしれない。
ここに残して襲われる、というのも十分に考えられる。
「
世直しマン、私としてはここに残るよりも、関東方面へ南下して仲間を探したい。
ここは日本のようだし、人の集まる地区の方が仲間を見つけやすいからな」
日本出身のもので、仲間との合流を目指す者なら、必ず大都市へ向かうはず。それは、一護も例外ではないはずだ。
「
世直しマン」
今度は、
ボンチューが
世直しマンに提案する。
「確かに俺は、あの緑野郎に手も足も出なかった。それは認める。だからってビビッてここでおとなしくしてろってのも納得いかねぇ」
「……」
「だから、やっぱり俺もあんたらについていく。
足手まといになるつもりはないが、戦いの時邪魔だってんなら、おとなしくどっかの陰にでも隠れとくことにするからよ」
それは、
ボンチューの口から出たとは思えないほどの、精一杯の譲歩だった。
「どうした? 先ほどとは打って変わって聞き分けがよくなったではないか。急に臆したのか?」
「うるせー。そんなんじゃねえよ」
「どうする?
世直しマン」
皆の視線が
世直しマンに注がれる。
いつのまにか、決定権は
世直しマンに託されていた。
「……分かった。では私たち四人、全員で関東方面目指して南下する。
途中、緑肌の男や炎と氷の化け物に出会ったら、戦闘は私と
バッファローマンが行う。
ボンチューはルキアを守れ。これでいいな?」
「ああ」「おう!」「うむ」
返事は全員一緒のタイミングだった。
これからの行動方針は決定したが、
ボンチューはそれに完全に納得したわけではない。
願望としては、
ピッコロも
フレイザードも、自分の手で倒したい。
だが、それには決定的に実力が足りない。
このままでは、ルキアを守りきれるかも怪しい。
それを自覚していたからこそ、
ボンチューはこんな一言を漏らすのだった。
「……もっと、強くならなきゃな……」
【青森県/日中(放送後)】
【ボンチュー@世紀末リーダー伝たけし!】
[状態]ダメージ中(多少は回復しましたが、まだダメージが残っています)
[装備]なし
[道具]荷物一式、蟹座の黄金聖衣(元の形態)@聖闘士星矢
[思考]:1、ルキアを守る。
2、もっと強くなる。
3、これ以上、誰にも負けない。
4、ゲームから脱出。
【朽木ルキア@BLEACH】
[状態]:若干の疲労、右腕に軽度の火傷
[装備]:コルトパイソン357マグナム、残弾21発@CITY HUNTER
[道具]:荷物一式、遊戯王カード(青眼の白龍・次の0時まで使用不可)@遊戯王
[思考]:1、黒崎一護、武藤遊戯(カードの使用方法を知る者)を探す。
2、とりあえず関東方面へ移動。
3、ゲームから脱出。
【世直しマン@とっても!ラッキーマン】
[状態]健康
[装備]世直しマンの鎧@とっても!ラッキーマン、読心マシーン@とっても!ラッキーマン
[道具]荷物一式
[思考]:1、ピッコロ、フレイザードを倒す(ルキア、ボンチューの安全を優先)。
2、関東方面へ移動。
3、ラッキーマン、黒崎一護、武藤遊戯を探す。
4、ゲームから脱出し主催者を倒す。
【バッファローマン@キン肉マン】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]荷物一式
[思考]:1、ピッコロ、フレイザードを倒す(ルキア、ボンチューの安全を優先)。
2、関東方面へ移動。
3、ラッキーマン、黒崎一護、武藤遊戯を探す。
4、ゲームから脱出し主催者を倒す。
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最終更新:2024年03月10日 12:14