0242:少年に残されたものは  ◆Cwu0MyTAiU





「う~ん、彼らももうあんなところまで行ってしまったか。そんな駆け足で逃げなくても。
 去るときはエレガントに、と相場は決まっているものなのね」

名古屋城、対となっている金鯱の中央に立ち尽くす男、趙公明
彼は今、如意棒を回収し、自分から逃げるように去っていったL一行を優雅に見送っていた。

「しかし…あの目の隈の酷い従者…どこかで見たような…?」
趙公明の頭を悩ます一つの疑問。それはLについてだった。
このゲーム内で己が見知っているのは同じ世界からの参加者である太公望、妲己、竜吉公主のみのはず。
それなのにあの従者、不思議なことにほんのかすかだが見覚えがあった。
不思議なことはそれだけには終わらない。

「あの男…確か世界最高の頭脳…L、エラルド・コイル・ドヌーブという名前だったか?」
そう、見覚えがあっただけではなかった。名前さえ知っていたのだ。
趙公明は熟考する。彼とは今が初対面のはず。なら、何故自分が彼の名前を知っているのかを。

――――――――――!

「そうか…あのときか」
あのとき、それは参加者達が一同に会し、主催者達と接触したときだった。
あの男は主催者達に世界最高の頭脳と呼ばれ、唯一主催側と言葉を交えた男。

「…なら、このまま逃がすわけにはいかないね」

あの男が主催者達と言葉を交わしたとき、趙公明は見たのだ。
その目に宿る、静かなる炎、正義という名の意志を。かつて見た太公望と同じ目をした男。
ならばあの男は必ずこのゲームには乗らず、この世界から脱出を図ろうとするはず。
世界最高の頭脳と呼ばれているのなら尚更である。
……見逃すわけにはいかない。

「さてさて、しかしどうしたものか。追おうにも彼らはあんなに遠くに行ってしまったしね。
 あ、そうだ!あのビューティフルなやり方で追うとしよう!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ここまで来れば大丈夫でしょう」
「むーん、ならもうこれも下ろして良いだろう」
「いて!も、もう少しゆっくり下ろしてよ…僕は怪我人なんだから…」
(僕を背負って逃げると聞いたときは、楽できてラッキー!と思ったけど結局ついてねー!)

L一行。彼らは趙公明から急いで離れ、趙公明が追って来ていないことを確認するとそこに腰を下ろし、一時の休憩を始めた。
名古屋城からだいぶ離れ、仮に趙公明が走って追ってきたとしても、それが分かるように街道が見通せる高台の公園に留まった。

「しかしラッキーだったね、あの強敵から五体満足で逃げ出せるとは。
 戦えるのは私だけ、残りは非戦闘員の上、一人は怪我をしていて容易に逃げることはできない。
 死者が一人も出なかったのは本当に幸運としか言えないね」
「確かに、洋一君がいながら何も無かったのは運がよかったとしか。
 私達の一生分の運を使い果たしたと言っても過言じゃないですね」
(そんな言い方しなくたって…やっぱりこの人たちについていくんじゃなかった…ついてねー…)
「ここで五分ほど休憩して、その後もう少し離れるとしましょう。
 あの勘違い男があんな派手に登場したおかげで、誰に見られてもおかしくありませんから。
 せっかく助かった命、大事にするとしましょう」

Lの言葉にムーンフェイスは頷くと、街道を見張りながら体を休め始め、洋一もそれに合わせるように隅で丸く蹲り、体を休めた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「よぉ~し、ストップだ如意棒君!それぐらいの長さでいい!」
趙公明は未だ名古屋城の天守閣。
その彼だが、恐ろしく伸びきった如意棒を片手に携えると、
ズドンという音を周囲に響かせながら少し前の地面に降ろし、そのまま天守閣の最後方まで下がった。
「アーハッハッハ!今すぐそっちにいくよエラルド・コイル・ドヌーブ君!」
片手に仕込み傘を持ち、名古屋城に寄りかかった如意棒目指して走りこみ、そして――――――

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「さて、そろそろ行きましょうか」
「むーん、洋一くん、今度は一人で歩けるかね?」
「う、うん…って、あれは何…?」

「君達!待ちたまえ!」

ズガガガガガガガ!

洋一が空を飛ぶ物体を発見したその瞬間、空から弾丸がまるで雨の如くL達に降りかかった。

「い、いってぇ~~~~!!!」
「むーん!」「くっ!」

発砲音が聞こえたその刹那、ムーンフェイスは、その人間を超えた瞬発力を持って三人の荷物を空中に投げ、そして二人を掴み即座に回避した。
空中に投げた荷物は軟弱ながらも銃弾からL達を守る壁となり、ムーンフェイスが二人を助ける時間を稼いだのだ。
しかし、所詮は荷物。完全には弾丸を防ぎきれず、いくつか貫通し、結果洋一の左足とLの右肩に命中する。
そして…

ひゅーーーーーーーーーーーーーーズドン!

「やぁやぁ、また会ったね麗しき月の好敵手!それに世界最高の従者エラルド・コイル・ドヌーブ君!」
「「「…」」」

二度目ながらなんとも非常識な登場に言葉を失くす三人。先程の奇襲すら忘れてしまうインパクトだ。

「…むーん、棒高跳びの要領でここまで飛んでくるとは恐れ入った」
「ムーンフェイスさん、感心しないでください。ああいうのは非現実的と言うんですよ」
(そんな、顔が三日月の怪物に言ったって説得力が…)

軽口を叩く三人であったが、趙公明が再び現れたことに正直疑問を抱かずにはいられなかった。
また、ムーンフェイスは即座に戦闘態勢をとり、Lを守るように前に出た。
趙公明は長くなった如意棒を縮め、元の大きさに戻すと三人の前に立ちはだかった。

「残念だけど、君達、特にそこのエラルド・コイル・ドヌーブ君を見逃すわけにはいかなくなったよ」
「むーん、どういった事情かは知らないが、最近の田舎貴族は約束も守れなくなったのかい?」
「フッフッフ、普通の紳士ならそうかもしれないが…僕は…」

趙公明は俯きながら不気味な声でフッフッフと呟くと、どこに隠し持っていたのか、いきなりマントを取り出すと自身をそれで包み込んだ。
しかしそれも一瞬で、すぐにマントを脱ぐとそこには…

「僕は極悪非道の ブ ラ ッ ク 趙 公 明 だったのさ!」

「「「…」」」
そこにいたのは金髪だった髪が黒く変色していただけの趙公明だった。
趙公明のハイテンションについていけず、本日二回目の沈黙が辺りを支配した。趙公明以外。

「あれ?リアクションが薄いな…正体をバラすタイミングを見誤ったかな?」
予想外の空気に非常に残念がりながら、そそくさと髪の色を黒から金に戻す趙公明。
彼とて貴族。場の空気をちゃんと重視する。外したときは言い訳せず元通りにするのが礼儀というもの。
しかし髪を元に戻す趙公明は何処か寂しそうで、シュールだった。

「…今のうちに逃げましょう皆さん」
「おっと、そうはいかないよ」
逃げ出そうとしたL達に一瞬で間合いを縮め、Lだけに標的を絞り如意棒を振りかざす趙公明。

「むーん!私を忘れては困る!」
Lの脳天が砕かれようとしたそのとき、ムーンフェイスが二人の間に割って入り如意棒を跳ね除け、Lの命を救った。
ムーンフェイスはLを離れたところに置くと、再び趙公明の前に立ちはだかった。

「困るなムーンフェイス君、君とはまたあとで戦いたかったのに…邪魔をするなら君を殺るしかないじゃないか」
ムーンフェイスは見た。仕方なく戦うと言った趙公明の顔が、悪寒と恐怖さえ覚える笑顔をしていたのを。
そして改めて悟る。この男には勝てない、と。以前の直感、どうやらそれは思い過ごしではなかったようだ。

(さてさて、勝てないとなると、問題はどれぐらい時間を稼げるかということだね。
 洋一君は足を怪我してとてもじゃないが逃げ切れない、ならばLを優先して逃がすべき)

「全く、せっかちな田舎貴族だね君は。無粋という言葉は君にピッタシだよ」
「僕だって全力の君と戦いたいさ、でも邪魔するから仕方なしに戦うのさ」
ムーンフェイスは趙公明と言葉を交えながらLに背中を向け、片腕を後ろに回すとLに向けて空に字を書き始めた。
趙公明には見えないように、指を小さく動かしながら。

(…あれは…Lニゲロ、ジカンカセグ、ヨウイチノコトハマカセロ…)

Lは悟る。ムーンフェイスは自分の身を犠牲にして時間を稼ぐのだと。
自分と洋一を逃がすために。
出来ることなら彼を援護してやりたいが、荷物は全て趙公明の周りにあり、自身の体を持って援護すれば返り討ちに遭うのは目に見えている。
悔しいがここは彼の言う通りに逃げるしかない。
彼の命を代償にして。Lはこれほど無力感に苛まれたことは無かった。
洋一のことに関してもそうだ。ムーンフェイスが時間を稼いだとしても、洋一は今足に怪我を負っており、
彼を背負って逃げるとなれば…ムーンフェイスの命で稼いだ時間を持ってしても…容易に追いつかれるだろう。
それにあの男の目的は自分であって洋一ではない。一緒に逃げれば洋一の命も危ない。
ならば洋一のことはムーンフェイスに任せて一人で逃げたほうがいい…それも早い内に。
自分が逃げれば洋一のことには目もくれず追いかけてくるかもしれない。
が、それでも彼をここに留まらせたのは…デスノート。

(出来れば手元に置いておきたい…あれを持つことで主催者を罠に嵌めることも出来るかもしれない、必要な物。
 しかし現状ではあれを取り戻すのは不可能…ならば夜神月や敵に渡るより先に処分しておかないと…それも難しいが)

この場を去ることに躊躇するL。
必死に考えるが、あの趙公明を前にしてノートを処分する手段が一向に思い浮かばない。

(む…また…ノートモワタシニマカセロ…カンガエガアル)

確かに戦闘能力のないLがノートを処分しようとなると結果無駄死にするだろうが、
ムーンフェイスなら戦いながらノートを処理することも出来るはず。

(ありがとうございますムーンフェイス…そしてすみません)

「ま、待ってよ!ぼ、僕も…!」
一人でその場から逃げ出そうとするLに狼狽し、助けを請う洋一だが、
Lは洋一に対して「彼を信じてください」とだけ残して、走り去っていった。

(むーん、これでいい。洋一とノートに対する心配を取り除いてやればLの不安要素はなくなるはず、と読んだ通りだな。
 ノートに関しては策はあるが…洋一はどうでもいいんでね)

Lは気づかなかった。ムーンフェイスの嘘に。
ムーンフェイスにとって一番大事なもの、それは月を輝かせる太陽。それだけ。
太陽は身を挺して守る価値はあるが、屑星は守るに値しない。
せいぜい太陽を守るために利用するしか価値がない、ムーンフェイスにとって洋一とはそれぐらいの価値以下であった。

「さぁ始めようじゃないか!貴族同士のデュエルを!」
「むーん、せっかちな男だ」
Lとの筆談のために雑談をして時間を稼いでいたムーンフェイスだが、趙公明の苛立ちは頂点に達したようだ。
これ以上の時間稼ぎは出来ないと判断したムーンフェイスは最後の手段、自分の命で時間を稼ぐ手段に出た。

「むん!」
後手に回れば一瞬で殺られる、そう直感したムーンフェイスは自ら打って出た。
趙公明の周りを弧を描くように跳びはね、三回転半捻りやアクロバチックな動きで趙公明を翻弄しようとする。
柔軟な身のこなしから繰り出される曲芸的な舞。そんな軽やかなイメージからは想像もつかない力で着実にダメージを与え、
防戦一方の趙公明に肉薄するムーンフェイス。何より特筆すべきは、見事なまでのムーンサルト。
攻防一体を兼ね備えたこの技に趙公明は手も足も出なかった。初めのうちは。

このままいけば趙公明に勝利することも夢ではない。
そう洋一の目に映ったこの戦いだが、突如今までの劣勢を覆すように趙公明が反撃に転じた。

「全く、これの何処が貴族の振る舞いなのか僕にはさっぱり分からないね」
反撃に転じた当初こそ、ムーンフェイスのトリッキーな動きに翻弄されて攻撃が当たらなかった趙公明だが、
攻撃を重ねるたびにその命中精度は上がっていき、徐々にムーンフェイスを追い込んでいく。

「僕が田舎貴族だとすると、君はさしずめ貴族の衣装を纏ったピエロ、というところかな?」
ムーンフェイスが跳躍すれば一歩後ろに下がって迎え撃ち、左右に体を揺さぶってフェイントをかけようとすれば自ら突進し、フェイントを潰す。
こうして曲芸のような攻撃を一つ一つ冷静に対処され、瞬く間に全ての攻撃を封じられたムーンフェイスには成す術もなく、いつのまにか攻守逆転していた。

「先刻、僕は超高速戦闘といえるゴージャスな戦いを経験してね、それも君以上の接近戦のスペシャリストさ。
 君のパワー、スピード、どれも申し分ないけど…今の僕には少し物足りないよ」

―――ラーメンマンとの戦い。あの戦いを経験した趙公明にとって、この戦いは少々退屈なものだった。
いくらトリッキーな動きで翻弄しようとも、その超高速戦闘を経験した趙公明からすれば、
その動きはとてもスローに見え、一度見た動きなら十分に対処できるレベルだったのだ。

(むーん、まさかここまでレベルが高かったとは。誤算だったね)
「さて、そろそろ終局とさせてもらうよ。良い戦いをありがとう―――ピエロ君」

ムーンフェイスが跳躍すると見せかけ、趙公明が一歩後ろに下がろうとした瞬間、
全身の力を込め、ムーンフェイスは一気に趙公明の懐に飛び込もうとした…が。
趙公明はその動きを読んでおり、後ろには退かず、力を蓄えていた。

「最後に一つ聞かせておくれ。その身を犠牲にして何故あの男を守るんだい?」
「やはり君は分かっていないね。太陽が輝きを失えば、月もまた輝きを失う。
 私が輝くには彼が必要なだけだよ。それだけで命懸けで守る価値があるというものさ」

            ニ  カ  ッ

ムーンフェイスは常に微笑んでいたが、より一層笑顔になる。
その様はまるで太陽の光を一身に浴び、恩返しだと言わんばかりに太陽が不在の夜を照らす月のように。

「素晴らしい!君は情緒溢れる詩人のようだ。だが、そろそろお別れの時だよ。残念だけど。
 ……アディオス!良い曲芸をありがとうピエロ君!」



      エレガント斬!
             ×の字斬り!




―――――― 一閃


洋一の目には何が起こったか理解できなかった。
先程まで激しい戦いを繰り広げていた。目の前にムーンフェイス、その対面に趙公明。
そういう位置関係だったはず。
しかし今、一瞬で位置が入れ替わったと思えば二人とも微動だにせず、ただ静止するのみだった。

「むうん…見事だ。恐れ入ったよ無粋な田舎貴族君」
「君も中々だったよ。良い戦いをありがとうピエロ君」

趙公明はムーンフェイスに振り返り、構えを解くと、如意棒で地面をトン、と叩く。
―――ムーンフェイスの身体は胴体を中心に×の字状の傷が広がり……体が四つに分かれた。

(時間は十分稼いだ。後は洋一があの行動を取れば…ノートは処分できる)
薄れゆく意識の中、ムーンフェイスは頭の中で今後の動きを予想する。
あの洋一なら取る行動、それ対して趙公明がどう対応するのか。
ムーンフェイスの脳裏に浮かぶその光景。間違いなく取るであろう二人の行動が容易に目に浮かぶ。
そしてそのときこそ…最大のチャンス。

「さて、君のお仲間は逝ったよ。次は君の番だ…君はどのような麗しい戦いをしてくれるのだね?」
「た、助けて!し、死にたくないよぉ~!!!」
趙公明が洋一に歩み寄り、すかさず逃げ出そうとするが腰が抜けていて逃げることが出来ない。
その様子に趙公明はやれやれ、といった感じで残念がり、さっさと止めを刺そうとする。

「ま、待って!良い物をあげるから…命だけは!」
「良い物…?」
「そこ、の鞄に入ってる、デスノートって言うんだよ!名前を書くだけでそいつを殺すこと出来る、んだよ!」

ほう、と首をかしげ、周囲に散乱している鞄を一つ一つ開け、黒のノート…デスノートを手にした。

「ほう…これがそのノートか…」
趙公明の呟きにひたすら首を縦に振るしかない洋一。
これで助かると思っていた洋一だが、徐々に趙公明の顔が険しくなり、明らかに不愉快になっているようだった。
その理由が分からず、ただ自分の身に災いが降ってこぬように祈る洋一。

「命のやりとりというものはお互いが死力を尽くして戦うからこそ美しいのだよ。
 ……こんなものは無粋の極みというもの」

 ビリ

趙公明は不機嫌な顔付きでノートを縦に破り裂いた。
その光景を口をあんぐり開けながら呆然と見つめる洋一と…ほくそえみ、勝ち誇った様子で眺めるムーンフェイス。

(やはり戦いに美学を見出しているあの田舎者にとって、あのノートの存在は許せない物だったようだ。
 そして、我を忘れてあのノートを消し去ろうとしている…今がチャンス!)

体から切り離され、機能を停止したはずの右腕がかすかに動き出す。
ムーンフェイスが狙っていたのは…完全に自分から意識が逸れ、何かに集中しているこのときだった。
そしてそのときが来た今こそ、狙うは趙公明の命。
ホムンクルスである自分が出来る一撃必殺の技。捕食。
先程の戦いでも行おうとしたが、趙公明にいなされ、それが出来なかった。
が、今は違う。趙公明は自分が死んだものと思い込み完全に無防備で、今なら触れることが出来る。

(むう…しかし思ったより体の反応が鈍い。まさかホムンクルスの超生命がここまで制限されているとは。
 もうすぐ私の命も尽きるだろう。だが…触れるには十分だ)

趙公明は未だ夢中になってノートを破り続けている。その間にもムーンフェイスの右腕は少し、少しずつだが距離を縮めていく。
距離を縮め、あともう一歩…

「あ…え?…なんで?」
(…屑星が…黙っているがいい)

洋一は右腕が一人でに動いていることに驚き、声を漏らす。
その様子にムーンフェイスは激昂し、洋一を睨みつけるが、彼の目はその右腕に釘付け。
ムーンフェイスの威嚇も意味を成さず、洋一はひたすら右腕の動向に目を向けていた。

(むーん、これは予想外だ。まさかここまで足手まといとはね。
 趙公明が意識を逸らしているこの一瞬こそ最大のチャンスなのに、わざわざ意識をこちらに戻すようなマネをするとは…
 だが、もうここまで来れば…!)
「何をしているんだいムーンフェイス君?」

気付かれた。最後の力を振り絞って右腕を飛び掛らせるが如意棒で叩き落され、ムーンフェイスの顔のところまで弾き飛ばされた。

―――チャンスは無駄に終わった。太陽の周りを漂うしかない屑星のせいで。

「全く、世の中は広いものだね。名を記すだけで人を殺せるノートや五体を切り裂いても動くことが出来る怪物。
 念には念を入れておくか」

ズガガガガガガガガガ!

(むん…やはり始末しておくべきだったね。屑星が月や太陽の邪魔をしないうちに…)

趙公明は仕込み傘の一斉掃射でムーンフェイスのバラバラとなった五体に弾丸を叩き込み…
ホムンクルスのムーンフェイスは…太陽の光を受けることはなくなり、永遠に輝きを失った。

「さて、このノートもさっさと廃棄するかな」
趙公明はばらばらとなったノートを手に集めると、それを天高々に掲げる。
ノートは風に乗り紙吹雪となりながら、海に飛んでいき全て落ちていった。かくしてデスノートは消滅したのだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  • デスノートを使用したものは13日以内に次の名前を書き込み、人を殺し続けなければ自分が死ぬ。
  • このノートを刻む、焼くなどして使えなくすれば、それまでにノートに触れた全ての人間が死ぬ。

いわゆる裏表紙のHOW TO USE…
この手にノートがあったころは13日ルールについて疑いの目を持ったこともある。
それは今も変わらない。表のHOW TO USEについては自分が検証した通りだったので疑う余地はない。
しかしこの13日ルールだけが腑に落ちない。これさえなければ夜神月のアリバイは崩れ、月=キラであると確証が持てるはずなのに。

だが、今はこの13日ルールに拘っている時間も猶予もない。
今、もっとも懸念すべきは…ノートを処分した者、接触した者全てに与えられる罰則。

このゲームに参加する前はあまり興味を持たなかったが、今ではこのルールが頭を支配して離れない。
もしかすれば、このルールも13日ルールと同様で虚偽のものかもしれない。確かめる術はないが。
問題は、今ここで裏のルールを検証することではなく、この後者のルールに備えておくこと。

「…本当に運がよかった」
Lがポケットから持ち出した物、それは一切れの紙だった。
勿論ただの紙ではない。死神の力が宿った、死のノートの一部。

「検証のため、ページの切れた部分と同じサイズの紙を破り取っていたのが幸運だった」
ノートに残っていた、不自然な切れ跡。Lは知る由も無いが、それは夜神月が火口を葬り去るために切り取った部分である。
人一人分しか書けない様な切れ端に本当にノートとしての効力があるのか検証するために、Lも同サイズの紙を破り取っていたのだ。
勿論人の名を書き記しそうという考えは全く無かったが。

「この切れ端にノートの能力があれば、いや、ある…夜神月もこの切れ端で火口を殺害したはず。
 あの状況で火口を殺害するにはこの方法しかない。
 …今はそんなことはどうでもいいか。とにかくこれがあれば仮に裏ルールが本当であっても、
 ノートを使うことは可能、本体のノートを処分しても皆死ぬことはないはず」

出来れば手放したくはなかった。あれさえあれば主催者たちを罠にかけることもできた。
しかし、今持っている紙切れでは、裏表使っても書き込めるのはせいぜい二人分の名前。長文などは無理だ。
これではルールの書き換えを行うことは出来ない。
更に懸念することがある。それはもしも二人分の名前を書いてしまった場合。
これ以上使うことが出来なくなれば、それは処分されたと見なされないだろうか?
確かめる術がない現状では、二人分の名前を書かないことぐらいしか対策は見つからない。
もっとも、極力このノートを使うつもりは毛頭無いが。
だが、今更愚痴を言っても仕方ない。あの状況ではノートを取り戻すのは不可能。
なら処分するしかない。ムーンフェイスに任せて。

「ムーンフェイス…」
口にするのは身代わりとなった彼の守護者の名。
おそらくもう会うことはないだろう。今ではもう彼の生死すら確かめることは出来ない。

「ムーンフェイス、見ててください。正義は必ず勝つということを」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「さて…残るは君だけだが、どうする?」
「え、え?」
「僕と戦うかい?」
「め、めめめめめめっそうもない!」
趙公明の問いに身振り手振り全身を使い、正に命がけでNOの意思を表示する洋一。
その様子に趙公明はまるで最初から期待していなかったような反応で残念がり、無造作に落ちている鞄を拾い上げ、
そのうち二つを洋一へ手渡した。

「な、なんで?」
「弱者への救済の手を差し伸べるのも貴族の嗜みというものさ。それも仲間に見捨てられた哀れな男ならなおさらね」

―――見捨てられた?

―――俺が?

洋一は高鳴る鼓動と沈んでいく精神を必死に落ち着かせ、ゆっくり、自分なりにこの状況を考える。
Lはいの一番に逃げ出した。あの怪物を信じろとか言って。
けどその怪物は自分を守るどころか何も指示を出さずに死んだ。

洋一は元来疑り深い性格ではない。しかしLの言動を好意的に解釈しようにも、
彼らと行動を共にしてからLの頭脳は凄いと思ったことはあったが、心から信頼できることはなかった。
Lは洋一を見捨てる気はなかったのだが、状況がそれを許さず、ムーンフェイスの提案に乗ることが最善だと考え、一人で逃亡した。
だが、当のムーンフェイスはあくまでLを逃がすための方便で洋一のことは任せろ、と言っただけであった。
二人の真意を知らぬ洋一からすれば見捨てられたも同然であろう。
そのことも起因して、彼が導き出した答えは…

「やっぱり俺…見捨てられたのかよ…ついてねー…」
「あぁ、まさかここまで不運な少年が存在するとは…そんな助けを請う子豚のような眼差しを向けないでおくれ」
勿論洋一はそんな眼差しを向けていない。
むしろ失意のどん底にあり、見捨てられたというショックで今にも涙を流さんばかりである。

「俺が何したっていうんだよ…俺だって俺なりに必死に頑張ってるんだよ…俺…どうすればいいんだよ」
彼の脳裏に過ぎる、今までの出来事。
いきなりこの世界に放り込まれた彼。唯一の力、ラッキーマンの力を奪われ、樹海を長時間彷徨い、
ようやく仲間と巡り合えたと思ったらすぐに敵と遭遇。自分も怪我をし、仲間ともすぐ死別(香は生きているが)。
幸運にも別のパーティーと組むことが出来たが、自分はほとんど蚊帳の外。
怪物顔には、口には出されなかったけど邪険に扱われる始末。しかもその後またもや敵と遭遇。
更に怪我を負い、極めつけは仲間に見捨てられたという今回の出来事。
その名に恥じぬ、ついてない出来事のオンパレードである。

「誰か…俺を助けてよ…守ってよ…何でもするからさぁ…怖い…怖いよぉ」
「嗚呼、この少年を襲う悲劇、さながらロミオとジュリエットの悲劇より辛いだろう」

口から出任せ、洋一のことを何も知らない趙公明はひたすら適当なことを言って悦に浸っている。

「一人は嫌だ…死にたくない、死にたくないよ…」
「ふむ、一人は嫌で、死にたくないか。なら…」
ここまでお互いのことを省みず、ひたすら独り言を繰り返していた二人だが、
ここにきて趙公明が洋一の言葉に耳を傾け、洋一にとって思いも寄らぬ発言をすることになった。

「僕の召使いになるかい?」





【愛知県/午後 名古屋駅】

【L(竜崎)@DEATHNOTE】
[状態]:右肩銃創
[道具]:無し
[思考]:1、名古屋駅で洋一を待つ。
    2、参加者のグループを捜索。合流し、ステルスマーダーが居れば其れを排除。
    3、出来るだけ人材とアイテムを引き込む
    4、沖縄の存在の確認
    5、ゲームの出来るだけ早い中断

【愛知県/午後 高台の公園】

【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
[状態]:右腕骨折、左ふくらはぎ火傷と銃創、疲労
[道具]:荷物一式×2(食料少し消費) 、護送車(ガソリン無し、バッテリー切れ、ドアロック故障)@DEATHNOTE、双眼鏡
[思考]:1、召使い?
    2、死にたくない
    3、Lへの不信感

【趙公明@封神演義】
[状態]:中度の疲労、全身各位に小ダメージ
[道具]:荷物一式×2(一食分消費)、如意棒@DRAGON BALL、神楽の仕込み傘@銀魂
[思考]:1、召使いになるかい?
    2、ディズニーランドでラーメンマンを待って煌びやかに闘う。
    3、エレガントな戦いを楽しむ。太公望、カズキ、ラーメンマンを優先。
    4、脱出派の抹殺


【ルナール・ニコラエフ(ムーンフェイス)@武装練金 死亡確認】
【残り86人】




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0224:ほしのおうじさま~エビフリャー地獄変~ 追手内洋一 0271:たらい回しの不運
0224:ほしのおうじさま~エビフリャー地獄変~ 趙公明 0271:たらい回しの不運

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最終更新:2024年04月24日 12:59