0305:静夜のシ者(上)(修正版) ◆PN..QihBhI






 富山県にて。

 ~~~

 荒波がさんざめく。
 夜の海は、しばしば吸い込まれそうな錯覚を覚えさせる。
 切り立った断崖。限りなく垂直に近い斜面から、木々が傾く様に伸びている。
 その中の一本の幹に腰を下ろし、飛影は小休止を取っていた。

 連戦、加えてこの崖だった。
 新潟が進入不能になり、海岸線沿いに南下するも、この絶壁に阻まれた。

 その後は、時間との戦いだった。
 道なき道を越え、足場にならない足場を踏破して、
 やがて、富山県に到達したのは、禁止エリア発動の僅か十分前だった。
 依然として絶壁は続いていた。一歩踏み違えば、遙か下の闇の海に落下するのみ。

「(放送まで半刻程か)・・・頃合だな」

 呟くと、飛影は再び跳躍した。

 ~~~


 ・十九時過ぎ
 あの後、アビゲイルのおっさん、観光地図とレーダーを交互に見て次の目的地を探し始める。
 何でもゆっくり首輪を研究できるような、そんな拠点を造りたいらしい。
 えー、また移動ぉーって思ったけどさあ。
 まーここもあのクリリンとかいう坊主頭に場所が割れているし、しょーがないかな。

 ・二十時過ぎ
 石川県を通過。おい、アビゲイルのおっさん、アンタどこまで行くつもりなのよぉ。
 聞いたら、ちょーど拠点を造ろうと思っていた辺りにオリハルコンの反応もあるらしい。
 おーこれは一石二鳥じゃない!
 動いてないっぽいし、放置されているなら取りに行かないとね。

 ・二十一時頃
 富山県に到着、さらに北上する。ちょっとぉ!
 このまま行ったら新潟(禁止エリア)まで行っちゃうじゃない!
 でも目的地と反応の場所は、ちょーど新潟県と富山県の境目あたりらしい。ううっ、恐ろしい。

 ・二十一時半頃
 富山県の『親不知』とかいう海岸線に到着。
 目茶目茶スゴイ崖よ。狭い坂道を岩に齧り付く思いで必死に登った。
 そりゃそうよ。一歩でも足を踏み外せば海、つまりドカンよ?死ぬかと思ったわマジで!

 ・二十二時頃
 登り切ると崖の上は小広い丘になっていた。スッゴイ高さから海が見える。
 成程ぉ、拠点にしたいって言っていた意味が分かったわ。
 なぜなら背後は禁止エリア。こんなトコに来る人なんかまずいない。
 見晴らしもいいし、万が一誰か来てもすぐに分かる。
 しかもよ、あの崖すれすれの桟道を登って来るしかないから、狙い易いったらありゃしない。

 ・二十二時半頃
 とか高を括っていたらイキナリよ!
 新潟と富山の境目にあったドラゴンレーダーの反応が、こっちに動き出したらしい。
 何それ聞いてないよーっ!急遽アビゲイルのおっさんと作戦会議を始める。

 ・二十三時頃
 そして今に至る。


―――んで!


 そーなの、今マジやばいのーっ。ヤバイヤバイヤバイって!
 断崖絶壁に銃撃音が木霊している。発砲は戦いの狼煙だった。
 私は木陰に隠れ、銃を取り出した。

 何でこんなことになったのかって?決まってるじゃない!敵よ、敵!
 どうやらアビゲイルの交渉は決裂したみたいね。

 今はアビゲイルがマシンガンで弾幕を張っている。
 やっぱりこの地形を選んで正解だったみたい。襲撃者は狭い桟道に釘付け。
 一歩でも出たら蜂の巣よ!

(でもこのままじゃ埒が明かないわ、どーするのよアビゲイル・・・!)

 作戦は決まっていた。
 アビゲイルはズバリ陽動。私は木陰に身を隠し、
 誘い出された相手にこのベレッタM92で止めを刺す。そういう筋書き。

 多少ベタだけど、流石の私でもこれ以上の策は思い浮かばないわ。
 一応、第二第三の策もあるけど、ここでケリを着けて置くに越したことはない。
 後はアビゲイルが相手を誘き出すのを待つのみ。
 私は木陰から銃の照準を、桟道が最も狭くなるポイントに合わせた。

(道は一本。空でも飛べない限り必ずあそこを通るはず。その時を逃さない!)

 じっとりと汗ばむ手。
 逃げ出したくなるような衝動に襲われる。ううん、こんなんじゃダメ!
 これでも泥棒一筋8年よ、銃器の扱いなんてお手の物じゃない。
 シゴト中に大の男を二人一辺に薙ぎ倒したことだってある。
 それより何より、もう逃げないってあの時ブルマに誓ったんだから。

 ブルマ、私に、も っ と 勇 気 を !

 あ、いきなりアビゲイルが体勢を崩した。斜面に足を取られているわ。
 でも、勿論それはフェイク!直後、釣られる形で襲撃者が飛び出した。

 狙い通り!

 小さな影が桟道を一気に駆け上がる。
 襲撃者は私の構える銃口の前に、完全に姿を晒していた。
 絶好のチャンス到来。私は引き金に力を込めた。
 狙うのは足。なるべく殺したくはない。

(今よ!)

―――でも、

 そこから先の記憶はない。
 何故か引き金を引けなかったのだけは確かだ。
 あと、お嬢さん、と叫ぶ声が耳に残って・・・

 私は、何も出来なかった・・・


 ~~~

 手応えはあった。
 駈けながら刀(無限刃)を抜き放ち、飛影は再度相手を見る。

(下らん真似を)

 邪眼の力を以ってすれば、伏兵を察知するなど容易いこと。
 乗せられた振りをして飛び出し、短刀(マルス)を投げてやった。
 当然、敵も満を持していただろう。こちらも多少のダメージは覚悟したが、
 邪眼の呪縛が効く相手で救われたといったところか。

(女か)

 短刀は、ほぼ狙い通り女の胸部に突き刺さっていた。
 女は仰向けに倒れ動かない。だが、その胸が微かに上下するのを邪眼が捕らえた。

 しかし、本来ならば必殺のタイミングだった。やはり邪眼の力が弱体化している。
 どうやら実際に束縛出来るのは、一瞬程度の時間が関の山のようだ。
 女は短刀が命中する直前に、辛うじて急所を避けたのだろう。

 桟道を駆け上がると、ちょっとした丘になっていた。
 男は崖側、女は山側。飛影は迷わず倒れた女の方へ急行した。
 機関銃を乱射していた男は、まだ斜面で体勢を崩している。
 ここは女を確実に始末しておいた方がいい。刀に妖気を集中させる。まずは一人。

「死ね・・・なっ!?」

 刃が女に届くその刹那、飛影の前に巨大な壁が立ちはだかった。
 交錯。刀越しに、肉を貫く感触が伝わってきた。

 ~~~

「やってくれましたね」

 左肩が貫かれた。
 だが間に合った。空中浮遊の魔術“黒鳥嵐鳥”にて、
 高低差を一気に飛び越え、両者の間に割って入るのに成功した。
 リンスを巻き添えにせず、襲撃者の攻撃を止めるには、他に方法はなかった。

「『赤 斬 光 波 (トール)』」

 『赤斬光波(光属性)』
 破壊と混沌を司る暗黒の神の加護によって、赤熱する光線を眼前より放出する呪文。
 ※BASTARDデータブックP102参照。

「ちっ」
「・・・!(やはり、疾いですね。)」

 至近距離。放たれた高速の赤い刃は、しかし空を切る。
 驚異的な反射神経と速さで、“赤斬光波”を回避し、襲撃者は後方に飛び退いた。
 微かに脇腹を抉ったようだが、致命傷には程遠い。
 既に襲撃者は間合いを取り直し、円形の奇妙な武器を構えていた。その口が開く。

「まさか飛んでくるとはな」
「こちらこそ、作戦が見破られるとは思いませんでした。
 中々に『良い目』を持っていらっしゃる」

 加えてこのスピード。アビゲイルの背筋に冷たいものが流れた。
 目の端でリンスを捉えると、ナイフの様な物が胸の辺りに刺さっていた。
 まだ息はある。だが、一刻も早く回復魔法による処置を施さねば手遅れになる。
 しかし、この襲撃者がそれを許す気がないのは明白だった。

「仕方ありませんね」

 呟いて、左肩に刺さったままの刀を右手で抜き、傍らの地面に突き立てた。
 接近戦である。せめて『テンタクルズ・ブレスト(触手の胸当て)』があれば、
 そんな思いが過ぎったが、考えても仕方の無いことだった。

 一刻も早くこの襲撃者を倒し、リンスを救う。
 今はそれだけだ。アビゲイルは雷人剣を抜き放ち、襲撃者に言った。

「時間が有りませんので、勝負を急ぎます」
「・・・」
「我が名は冥界の預言者アビゲイル。最後に名をお聞きしたい」
「飛影」

 満月の下、戦いが始まる。
 大きな影が揺れ、小さな影が舞う。

 ~~~

 剣戟が響く。鬩ぎ合いが続いていた。
 無数の切り傷が、互いの身体に刻まれている。

 飛影は既に、使い慣れぬ円礫刀を捨て、
 邪王炎殺剣(妖気を具現化させた剣)で戦っていた。
 何よりも早さで翻弄し、アビゲイルに反撃の期を与えない。
 戦の趨勢は、飛影の方へと傾いていた。

「どうした、もう終いか」
「くっ、『赤斬光波』!!」

 放たれた赤い刃が脇を掠める。確かに疾い。
 しかし直線的な攻撃だった。そして放つまでの僅かなタイムラグ。
 タネが分かれば紙一重で避けることも、そう難しくはなかった。

 飛影は刃を交えつつも、冷静にアビゲイルを観ていた。
 邪眼の力は通用しなかった。剣術も素人ではない。目も、反応も悪くない。
 何より剣が素晴らしい。しかし、距離を詰めた時点で勝負は決まっていたようなものだった。
 息もつかせぬ飛影の剣技の前に、アビゲイルの動きは鈍くなってゆく。
 炎殺剣が、その身体を捉え始める。

「フン」
「ああっ、しまった!」

 炎殺剣を、巻き込む様に突き上げた。
 金属音と共に、アビゲイルの雷人剣が弧を描いて舞い上がる。
 間髪入れず、がら空きになった顔面に、強烈な膝蹴りをぶち込んでやった。
 奇妙な悲鳴を上げて、アビゲイルが吹っ飛ぶ。これまでだな、と飛影は思った。

 ~~~

「ぶっ!!いっ、痛ええええ!!」

 アビゲイルは鼻血を噴出させ吹き飛んだ。背後は崖、その下は海である。
 転げながらも、辛うじてアビゲイルは崖際で踏み留まった。

「かっ顔を、てめぇえええ」

 怒りと、激痛に喘ぎながら地を這う。ここまで誤算に次ぐ誤算だった。
 禁止エリア方向からの予期せぬ刺客。この襲撃者の予想以上のスピード。
 更に何故か好機をみすみす逃したリンス。そして、妖気の剣を構えながら尚も迫り来る飛影。
 岸壁を背に負い、最早一歩たりとも退くことは許されない。

(ちくしょおぉぉ、もーこーなったら『コレ』を使うしか)

 最後の策である。更に飛影が詰めて来た。
 アビゲイルは、懐の『排撃貝』を握り締めた。後は引き付けることが全て。
 背水の陣。舞い上がった雷人剣が脇に落ちて、乾いた音が響き渡った。

「今だぁああ!『 地 縛 根 手(ヘテレイカ)!!』」
「―――!!」

 『地縛根手(地属性)』
 対象を地中から出現させた触手で捕縛、攻撃する呪文。
 ※BASTARDデータブックP107参照。

 その時、地より無数の触手が湧き出した。
 絡みつき、そして捕えた。飛影の表情に驚愕の色が浮かぶ。

「な・・・!?」
「うわはははははぁ、引っかかりましたねぇ!!」

 既にアビゲイルは起き上がり、触手に絡まれ動けぬ飛影に迫っていた。
 右手には排撃貝。後はこれを飛影に押し当て、撃つのみ。
 未だ動けぬ目前の飛影。アビゲイルは勝利を確信した。

「終わりです・・・なにぃぃぃ!!?」

 アビゲイルは自分の目を疑った。
 排撃貝を握る手が、飛影の身体をすり抜けていたのだ。
 その勢いのまま、アビゲイルは頭から地面に突っ伏した。

「残像だ」

 頭上から、低い声がした。

 ~~~

「しっ、しまったぁぁぁぁぁぁ!!?」

 アビゲイルが喚いた。
 完全に背後を取った。飛影は勝利を疑わなかった。
 このアビゲイルが振り向く暇も与えずに、首を落としてやる。
 思いのほか梃子摺った。だが最後に勝敗を分けたのは、やはり剣と共に踏んだ場数だった。
 零歳で魔界に落とされ、殺すことと奪うことで生き延びてきたのだ。

 これで終わりだ。飛影は妖気の剣を振り下ろした。




 その時、大地が地響きを上げた。何だ、と思う前に全身の血が引いた。



【富山県宇奈月市(親不知)の岸壁/1日目・真夜中】

【飛影@幽遊白書】
状態:若干疲労、全身に無数の裂傷
装備:なし(邪王炎殺剣)
道具:荷物一式
思考:1.二人を倒す(殺害予定)
   2.強いやつを倒す
   3.氷泪石を探す

【リンスレット・ウォーカー@BLACK CAT】
状態:胸にマルスが刺さっている
装備:ベレッタM92(残弾数、予備含め31発)
道具:荷物一式、漂流・左遷 各一枚@HUNTER×HUNTER、ディオスクロイ(片方)@BLACK CAT
思考:不明

【アビゲイル@BASTARD!! -暗黒の破壊神-】
状態:精神力・疲労半分ほど、左肩貫通、全身に無数の裂傷
装備:排撃貝@ONE PIECE
道具:荷物一式、ブルマの荷物一式、クリリンの荷物一式(食料・水、四日分)、海坊主の荷物一式(食料・水、九日分)
   ドラゴンレーダー@DRAGON BALL、首輪、ディオスクロイ(片方)@BLACK CAT
   超神水@DRAGON BALL、ヒル魔のマシンガン@アイシールド21(残弾数は不明)、衝突@HUNTER×HUNTER
思考:1.一刻も早く飛影を倒し、リンスに治療をする。
   2.首輪を調べる
   3.ヨーコ達、協力者を探す。
   4.ゲームを脱出

備考:燐火円礫刀@幽遊白書 と雷神剣@BASTARD!! -暗黒の破壊神- は二人の傍らに落ちてます。

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256:奸な瞳 飛影 306:静夜のシ者~アビゲイルvs飛影~【下】
301:アトランティスの浮遊金属 リンスレット・ウォーカー 306:静夜のシ者~アビゲイルvs飛影~【下】
301:アトランティスの浮遊金属 アビゲイル 306:静夜のシ者~アビゲイルvs飛影~【下】

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最終更新:2024年06月06日 21:00