0347:異星人コンビの貧困生活
「なぁー、
友情マン」
「……な、なんだいカカロット君」
「だーれにも会わねーなぁ」
「そ、そうだね……」
人気のない夜道を、トボトボと歩く異星人二人。
片やヒーローの皮を被った外道。片や戦闘民族の本能に目覚めた戦士という異色コンビだった。
二人の関係を表すなら、『友達』という単語がもっとも相応しいだろう。
二人で地球人を皆殺しにするという盟約を交わし、手を取り合った二人は、
それがたとえ偽りの『友情』だったとしても、『友達』に変わりはないのだ。
その二人の名は、友情マン&カカロット。
この殺人ゲーム内でも屈指の実力を誇る両名による、紛れもない最強最悪コンビだった。
数時間前、カカロットこと
孫悟空と友達になった友情マンは、
「クックック、しめしめ……カカロット君さえ味方に付いてくれれば、僕の優勝は決まったも同然だ!」
と、手に入れた強大な力にほくそ笑んでいたのだが。
今となっては、笑みも作れない。言葉も出ず、むしろ涙が出てくる。
挙句の果てには、「やっぱり彼と友達になるべきではなかった……」とまで思い始めていた。
その何よりの理由は、カカロット――いや、孫悟空という男の異常とも言える体質にあった。
「なぁー、友情マン」
「……な、なんだいカカロット君」
「腹、すかねぇか?」
(――き、きききキターーーーーーーー!!!)
――これこそが、カカロットという最強の戦士と友達になってしまった唯一のデメリット。
彼を仲間に引き入れて早々、友情マンは溜め込んでいた食料をほぼ全部カカロットに食べられてしまった。
お腹がすいたと言うから食料を分けてあげたのに、まさかそれを全部たいらげてしまうとは。
驚きにしばし呆然としてしまった友情マンは、このまま呆けていては仕方がない、とカカロットを引き連れて参加者狩りに出かけた。
だがしかし。
「なぁー、友情マン」
「……な、なんだいカカロット君」
「腹、すかねぇか?」
第四放送前、カカロットはまたも食料を要求してきた。
迷いが吹っ切れたことで食欲が倍増したのだろうか。そのあたりは友情マンの知るところではないが、これは由々しき問題だった。
なんとか自分の分の食料だけは死守したかった友情マンだが、カカロットは食べ物がないと知ると、
「オラ、食いもん食わねーととリキ出ねぇんだ」
と言ってその場にへたり込んでしまった。
いやいやそれはマズイ。カカロットには、まだなんの活躍もしてもらっていない。
やむを得ず自分の分の食料を渡した友情マンだったが、その瞳には若干の涙が浮かんでいた。
それから、友情マンの頭の中は食べ物のことでいっぱいである。
誰かカモになりそうな参加者を探しながら日本列島を歩き続けるが、ひとっこ一人いない。
途中第四放送が聞こえてきたが、現在陥っている事態の深刻さに、深く考察することができなかった。
(ご褒美に一人蘇生させてくれるだって!? 知るか! 今僕はそれどころじゃないんだ!!)
このまま誰にも会わず、食料を手に入れられなければ、飢え死にしてしまう。
宇宙を舞台に活躍するヒーローが、殺し合いの舞台で餓死などあってはならない。あまりにも惨めすぎる。
己の空腹も深刻だったが、カカロットが空腹で動けなくなるのはもっとマズイ。
こんな強力な戦力が、空腹のせいなんかで役立たずに成り下がってしまっては、計画が全て水の泡だ。
友情マンがカカロットの扱いに四苦八苦している傍ら、悩みの種であるサイヤ人は、放送で呼ばれたある一人の参加者について考えていた。
(
クリリン……死んじまったのかぁ。まぁ、あいつは地球人だったしな。死んでも仕方ねぇか……)
サイヤ人の本能に目覚めたとはいえ、孫悟空としての記憶を失ったわけではない。
カカロットはかつて共に修行し、地球を守るために戦った戦友のことを思い出す。
だが、今となっては大した感慨も浮かんでこない。
そもそも、地球人などと手を取り合っていたこと自体が間違いだったのだ。
昔の自分を思えば思うほど、なんと愚かだったのだろうと反吐が出る。
サイヤ人として覚醒したカカロットは、昔の仲間を手にかけることなど微塵の苦痛にも思わなかった。
それどころか、ヤムチャがそこそこの実力者であるということを知っているので、ワクワクさえしてくる。
(早く戦いてーなぁ……でもその前に)
カカロットは震える闘争本能を押さえ込み、ポツリと呟く。
「……腹へった」
今のカカロットにとっては、かつての兄弟弟子の死よりも、空腹の方が深刻だった。
(な、なにぃぃぃ~!? もうだと!? 早すぎるだろ!!?)
その呟きを聞き逃さなかった友情マンが、途端に焦りだす。
(どうにかしてカカロット君の食料を確保しなくては……
この際死体でもいい! 誰かいないか!? もしくは食べられそうな猪か豚かなんかは――!?)
「なぁー、友情マン。オラ腹減っちまったよ」
(クッ! これ以上はもう無理か……! どこか……どこかに食料は……!!)
冷や汗をダラダラ流しながら奔走する友情マンに、もはや余裕はなかった。
自分は何にも勝る戦力を手に入れたはずなのに。なのになんでこんなに苦労しなくてはならないのか。
と、そこに救いの女神が。
「! あ、あの人影は!?」
ついに見つけた。約8時間ぶりに出会う、カカロット以外のゲーム参加者。
これで食料が手に入る――そう思って近づいていった友情マンは、
「あ」
口を開いて、足を止めて、驚いた。
「――勝利兄さん!!?」
思わぬ場面、思わぬ場所で、兄の死体に遭遇してしまった。
「そ、そんな……勝利兄さんが……」
兄、
勝利マンの死は、既に放送で知っているはずだった。
それでもいざ間近に死体を見てしまうと、ショックが抑えきれない。
勝負事には負け知らずで、勝つことに執念を燃やしていた、あの難攻不落のヒーローが。
「勝利兄さんが死ぬなんて……」
友情マンは、ここにきてやっと現実に直面したような気がした。
「そいつ……友情マンの兄貴か?」
「……ああ」
「じゃあ、そっちに転がってる奴は?」
「へ?」
カカロットに指摘されて、初めて気づいた。
勝利マンのすぐ傍に、地球人の少女の死体が転がっている。
まさか彼女が勝利マンを殺したわけではないだろう。兄がこんな非力そうな少女に負けるなんて、考えられない。
だとすれば、勝利マンは彼女を守ろうとして犠牲になったのか。もしそうだとしたら、あの勝利マンが負けたのにも納得がいく。
「友情マンの兄貴は、そこの地球人と相打ちになっちまったのか。弱いんだな」
「…………」
カカロットが勘違いをしても、友情マンは反論しなかった。
いや、カカロットの言っていることはあながち間違ってはいない。
勝利マンは弱い。だからこそ死んだ。そして、まだ生き残っている自分こそが強い。
「勝利兄さん……分かったよ。やっぱりこのゲームは、頭を使わなくちゃ勝てないんだ」
実力だけでは勝ち残れない。うまく立ち回ることのできる、『別の強さ』が必要だ。
(僕はあなたの分まで生きますよ、勝利兄さん。
もし……主催者が本当に誰か一人を生き返らせてくれると言うのなら、その時は……)
密かに思い、友情マンは兄の死体に手をかけた。
もしかしたら、まだあれが残っているかもしれない。
「……あった。食料だ」
勝利マンのデイパックの中には、一人分の食料が残っていた。
残念ながら少女の方はデイパックごと持ち去られてしまったようだったが、これは思わぬ収穫だ。
(ありがとう……勝利兄さん)
「おぉ~! そいつ食いもん持ってたのか! さっそく食おうぜ!」
「な!? だ、駄目だカカロット君! これは勝利兄さんが残してくれた大切な食料! 大切に食べないと……」
「イチイチうるせぇな、おめぇ。いいからさっさとそれよこせよ」
ドンッと友情マンを突き飛ばし、無理やり勝利マンの食料を強奪する。
サイヤ人の本能が目覚めたことで乱暴になっているのか、そこに温厚だった頃の孫悟空の面影はなかった。
「この……!」
カカロットの横暴に思わず怒り出しそうになった友情マンだったが、寸でのところで思いとどまる。
(いや、ここで彼の機嫌を悪くしてはいけない。もっと友好的に)
「か、カカロット君? その食料、僕にもちょっと分けてくれないかなー。なんて……」
ムシャムシャ。バリバリ。
友情マンが控えめに懇願してみるも、カカロットは聞く耳持たず。
ものの数分で、勝利マンが残した食料はカカロットの胃袋に消えていった。
「ふわぁ~、満腹だ」
(こ、このクソ猿がぁ~!)
心の中でどす黒い嫌悪感を漲らせながらも、表情は依然スマイルを保っているのだから、さすがは『友情』マンと敬服すべきであろう。
とはいえ、結局全部カカロットに食べられてしまった。これはもう、さしもの友情マンでも我慢の限界か。
「う…………なんか、腹いっぱいになったら眠くなっちまったなー。わり、友情マン。オラちょっと寝るわ」
「な、なんだって!?」
「誰か地球人が来たら起こしてくれよ。オラがパパッと殺してやっから。そんじゃ」
「お、おい、カカロ――」
「グガー」
あっという間に、カカロットは食後の睡眠に入ってしまった。
なんということだ。
(こ、こいつ……この場で焼き殺してやろうか!?)
あまりに唯我独尊なカカロットの仕草に、友情マンは本気でそう思った。
だが、そういうわけにもいかない。友情マンは、まだ彼を失うわけにはいかない。
「そうだ。逆転の発想だ。これは逆にチャンスだと考えるんだ……
カカロット君が眠っているということは、その間食料の心配をする必要はないということ」
ならば、と友情マンは立ち上がる。
とりあえず、カカロットをこのまま放置しておくわけにもいかず、彼を担いで適当な民家の中に放り込むと、単身で駆け出した。
(まずは、食料の確保だ。カカロット君が満足できるほどの量を確保しなくては……
彼が目覚めるまでに戻らないとまずいな。だいたい正午前くらいか)
カカロットが寝ている間に、食料を集める。他の参加者から奪うのが手っ取り早いが、それでは効率が悪い。
計画としては、誰か騙されやすそうな人物に接触し、仲間に引き込む。そしてカカロットに会わせて、死んでもらう。
そして食料ゲット。参加者も減って、一石二鳥。
(よし! これでいこう! そうと決まれば膳は急げだ。カカロット君が寝ている今の内に……)
そう計画立て、友情マンは走り出す。
しかし、思うように力が出ない。
(く……空腹がツライな。それに眠い……
思えば、ここまでろくに休んでいなかったからな。カカロット君のせいで心労も溜まったし……)
心中で何度も愚痴を吐く友情マンは、かなり焦っていた。
サイヤ人の――いや、孫悟空という人間の本質を見抜けなかった友情マンに対する、思わぬ痛手だった。
【埼玉県・民家/黎明】
【チーム名/異星人連合】
【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]:肉体的、精神的に軽度の疲労、空腹
[装備]:遊戯王カード@遊戯王(千本ナイフ、光の封札剣)
(ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、落とし穴、は24時間後まで使用不能)
[道具]:荷物一式(食料なし)、ペドロの荷物一式(食料なし)、勝利マンの荷物一式(食料なし)、青酸カリ
[思考]:1.食料の確保。できれば力づくで奪うような手段は取りたくない。
2.正午を目安に、悟空の元に戻る。
3.悟空をサポート、参加者を全滅させる。
4.最後の一人になる。
【孫悟空(カカロット)@DRAGON BALL】
[状態]食後の睡眠中、顎骨を負傷(ヒビは入っていない)、出血多量、各部位裂傷(以上応急処置済・戦闘に支障なし)
全身に軽度の裂傷、カカロットの思考
[装備]フリーザ軍の戦闘スーツ@DRAGON BALL
[道具] 荷物一式(水・半分消費、食料なし) ボールペン数本、禁鞭@封神演義
[思考]1、しばらく寝る。
2、地球人を全滅させる。
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最終更新:2024年06月28日 23:13