433:その星は誰を照らす ◆YR7i2glCpA
―――皆さん、ごきげんよう。
この声を聞くのももう7回目か。
もういつから慣れてしまったのだろう。
一瞬そんな事を
アビゲイルは考えたが、それはすぐに崩れてしまった。
五人。
今までの死者に比べると格段に少ないが、問題はその数ではない。
星矢――越前君の仲間で、恐らく主催者ハーデスについて最もよく知っていたであろう人物。
秋本・カトリーヌ・麗子――彼女も越前君の仲間で、越前君が謝りたかった女性。
姉崎まもり――新八君が共に行動していた、彼の仲間。
ケンシロウ――かつて言葉を交わした、とても強く、そして哀しみを湛えた瞳をしていた男。
ピッコロ――斗貴子が探し求めていた、ドラゴンボール計画に欠かせなかった、凄く強いはずの参加者。
ずしり、と言葉が
アビゲイルの胸にのしかかる。
もう100人以上が死んでしまったのだ。
そう思うと額に脂汗が滲む。
――本題に戻るとしましょうか。
その声に
アビゲイルは急いで地図をとり出す。
万一今居る滋賀県を禁止エリアにされたらたまったものじゃない。
――これより追加される禁止エリアは、『秋田県』『島根県』『三重県』です。
放送に集中し、ペンで仙道と香に教えてもらった県名にそれぞれ印を付けていく。
その間も、放送は流れていく。
主催者たちの、意地の悪い愚劣な声が神経を逆撫でしていく。
――それでは皆さん、ごきげんよう。さらなる奮闘を期待していますよ。
放送が終わった。
アビゲイルの顔に、じわり、とさらに汗が浮かんでいく。
「…まずい事になりましたね。」
アビゲイルが見ていたのは、地図。
すでに禁止エリアであちこちの県が黒く塗りつぶされていたが、そこに新たに三つの県が加わるのだ。
『秋田県』『島根県』『三重県』
アビゲイルが気にかけていたのはそのうちの一つ、『三重県』
今
アビゲイルが危険な吸血鬼と一緒にいるここ、滋賀県の丁度南に隣接する県。
ここが封鎖されるという事は、すなわち東西を結ぶ道がここ、滋賀と電車のみになってしまうという事。
「…全く、主催者の方々も厄介な事をしてくれるものです。」
放送によると、電車を一台破壊した者がいるという。
大事な移動手段を破壊した理由は
アビゲイルには分からなかったが、それにより東西を結ぶ道が減ってしまったのは事実だ。
(…なおさら、私が頑張らないといけないというわけですね。)
東日本からやってくるであろう、対主催の意思を持った人間のためにも、サクラ達のためにも、
アビゲイルはここで倒れるわけにはいかない。
(ん?待てよ?)
――機関車を一車、破壊したお馬鹿さんたちがいました。
主催者は何故その事が分かった?
まるでその様子を見ていたかのように話していた。
今ここでそう決めてしまうのは些か短絡的かもしれないが、恐らく主催者たちは見ていたのであろう。
しかしどうやって?
まず、第一に考えられたのは首輪だったが、それだけではないと
アビゲイルは踏む。
自分もそうであるように、首輪に盗聴機能などが仕掛けられていると察知している参加者はいるはずだ。
そういった参加者はそれこそ様々な手を講じるだろう。
例えば首輪に布を巻いてみたりするとか。
そうすると次に考えられるのは、主催者の手のものが何らかの技術を使いこっそり直接見ているか。
それも可能性は低い。
自分もそうであるように、このバトルロワイアルでは異能の者が多く参戦している。
そんな者同士がぶつかり合ったら、当然周りにも影響が及ぶ。
爆発や地割れとかに巻き込まれてばれ、そこから芋蔓式に主催者の居城がばれてしまったら…
少なくとも自分が主催者だったらそんな危険を冒してまで様子を探ろうとはしない。
となると、あと考えられる事は――
(何か、監視する機械か何かを既に配備していたか、でしょうかね)
そう考えれば、色々と納得はいく。
リスクは少なく、見返りは大きい。
万一故障が起きたとしてもこちらがどこにいるかは分からない。
(まぁ、これはもっと落ち着いて考えるべきでしょうね。それよりも今は――)
アビゲイルは首輪に触れる。
小さな冷たい機械の輪は、自らの動きを束縛し生命をその手に握る。
何とも馬鹿げた話だ。
『冥界の預言者』と呼ばれ何百年の時を生きてきた自分の首にも、なんら異能の力を持たない仙道のような人間の首にも、首輪は巻かれている。
全ての参加者に、平等に与えられた首枷。
外すこともままならず、いつ起爆するか分からない恐怖でその身を縛りつける、憎き小さな機械の輪。
(そう言えば…『禁止エリア』に入るとどうなってしまうんでしょう?)
アビゲイルの頭に浮かぶ、新たな疑問。
主催者はただ「爆発する」としか言わなかったが、問題はどのように爆発するかだ。
これは推測にすぎないが、入った瞬間即ドカン、という可能性はほぼゼロだと
アビゲイルは踏む。
今までこの会場をあちこち歩いてきたが、県境を特定できる境界線のようなものは見た事がなかった。
自然の多い場所を歩いてきたから、という事もあるかも知れないが、
恐らくこのミニ日本のどこにも境界線は引かれてはいないと
アビゲイルは推測する。
では、境界線が引かれていなかったためにうっかり入ってしまった場合はどうなるのか?
恐らく、入ったらなにかしらの警告が流れるのだろう。
あの主催者たちがさせたいのは殺し合いだ。
その殺し合いを加速させるために禁止エリアと首輪という二つの枷を作っておきながら、
その枷により首輪がボンボン爆発して全滅、終了なんて事になっては本末転倒だ。
問題は、その流れるであろう警告から起爆までに要する猶予時間だ。
かなり多く見積もっても30秒、といったところだろう。
いや、15秒か…少なくとももし自分が仕掛けるならば、そのぐらいの時間しか与えない。
1秒という時間は、意外と長いのだ。
(まぁ、最終的には自分の目で確かめない事にはどうとも言えませんがね。)
そう思うと
アビゲイルは残された自分の道具を整理し始めた。
日が沈み、星が瞬き出した。月も見える。
DIOは小屋から出ると、静かな夜の気を胸いっぱい吸い込んだ。
「ンッン~、実にいい気分だ。鼻歌の一つでも歌いたい気分だぞ、なあAYA?」
「ええ…とても良い気分……」
いつの間にか三歩後ろに立っていた、つい先日人間をやめた吸血姫――AYA。
日の完全に沈んだ頃を見計らい、二人は『狩り』をするべく外に出ていた。
ケンシロウという誇り高き戦士の血を吸った二人は、多くの者が傷ついているこの殺し合いの場にいるとは思えないほどに、心身共に充実していた。
「AYAよ、君はもう気付いているかね?」
「…何がですか?」
きょとんとした顔をするAYAを見て、
DIOは不敵に笑う。
「我々が今居るここ『シガケン』には我々の他に参加者がいる。」
「え…」
「ついて来い。」
DIOは、少し先の方に見える林のほうに歩きだした。
AYAは何も言わず
DIOの後ろについて歩く。
「…これは、」
「そう、君なら分かるであろう。ここに誰かが『いた』ことは。」
DIOとAYAの目の前の草は、何者かに踏み固められたようになっていた。
足跡は見つけるのも一苦労するくらい薄いものだったが、そのそばに残っていた。
「どのような者がここにいたかはわからんが…この
DIOの敵ではない。」
ニヤリ、と月光に照らされた顔に狂気の微笑みが宿る。
その笑みにつられるかのように、AYAも微笑んだ。
「これからの『狩り』、君の力も借りたい…貸してくれるね?」
「勿論、元よりそのつもりでした…」
その言葉を聞き、
DIOは口元をニヤリと曲げる。
DIOはゆっくりと、歩を進める。AYAは静かにその後ろに続いた。
DIOは、その眼に頂点に立つという確かな揺るぎない決意を秘めて。
AYAは、その心に愛する人に会い永遠を手に入れる夢を秘めて。
二人の吸血鬼は、夜を歩く。
アビゲイルは、歩く。
ただ歩いているだけなのに、一歩足を踏み出すたびに重圧のようなものが全身にのしかかる。
(なんて嫌な気分だ…この殺気、まるでお尻にツララを突っ込まれたような気分ですね…)
サクラに治療してもらった傷が疼きだしたような、そんな気がした。
こんな気持ちを、サクラは味わったのか。
アビゲイルの脳裏に、あの時のサクラの顔が浮かぶ。
サクラは、恐怖していた。
まるで見てはいけないものを見てしまったかのように。
サクラが見たもの――それは、仲間の死。
ケンシロウが、
DIOに殺されている様をサクラは見てしまった。
アビゲイルは彼女を気遣いつつも、吸血鬼の情報を得るために話を聞いた。
だが、サクラも見ていた時間は短かったのでこれといった情報は得られなかった。
せいぜい
DIOと呼ばれた吸血鬼が、何か人型の使い魔のようなものを出して戦うということぐらいか。
だが、サクラの言葉の中に一つだけ気になる事があった。
「ありのまま、見たままを話しますと」
サクラはそう前置きすると、汗を流しながら言った。
「ケンシロウさんは拳を突き出したまま、
DIOの攻撃を受けたんです。」
「突き出したまま?」
「はい、あのまま行ったらケンシロウさんは
DIOにその拳を当てていました…ですが、
DIOのほうが早く当てていたんです。」
「ん~…何とも奇妙な話ですねぇ…」
「何を言っているのかわからないと思いますが、私もケンシロウさんが何をされたのかさっぱりわかりませんでした…
忍術とか超スピードとかそんなチャチなものなんかじゃない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分です……」
普通に考えればおかしな話だ。
説明がつけられるようなことではない。
だが、ここには自分の知りえない様々な世界から多くの人と物が集まっている。
そしてそのすべてに『
ルール』、すなわち理が存在する。
オリハルコンと名のつく金属が、同じように魔力を発しているように。
何かしらの理の元に動いている世界ならば、その理さえ知れれば…
アビゲイルは、考える。
考えながらも、歩く。
邂逅の時は、近い。
夜空に輝くのは月と星。
広い大地を照らす星の中に、七つ連なる星があった。
普段は七つのその星が、
今夜その空には一つ多かった。
死を呼ぶ星、死兆星。
その星は帝王に輝いているのか、吸血姫に輝いているのか、冥界の預言者に輝いているのか…
それは、誰にもわからない。
【滋賀県/中央部・林/二日目・夜】
【アビゲイル@BASTARD!! -暗黒の破壊神-】
[状態]:左肩貫通創、全身・特に右半身に排撃貝の反動大、無数の裂傷(傷はサクラによって治療済み)
太公望からの情報は香から受け取りました。
[装備]:無限刃@るろうに剣心
[道具]:荷物一式、食料・水18食分、兵糧丸(1粒)@NARUTO、遊戯王カード『六芒星の呪縛』@遊戯王
五光石@封神演義、排撃貝@ONE PIECE
[思考]:1.……嫌な気分だ。
2.吸血鬼『DIO』と交渉。無理なら戦闘。危なくなったら逃げる。
3.香、サクラ、仙道、新八、リョーマが逃げるだけの時間を稼ぐ。
4.なるべく早い内に斗貴子を止めたい。
5.首輪の解析を進める。
6.協力者を増やす。
7.ゲームを脱出。可能ならば主催者の打倒。
【滋賀県北東部/森林/2日目・夜】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:体力100パーセント、最高に「ハイ!」な気分
[装備]:忍具セット(手裏剣×8)@NARUTO
[道具]:荷物一式×6(五食分と果物を少し消費)、マグナムスチール製のメリケンサック@魁!!男塾
フェニックスの聖衣@聖闘士星矢(半壊)
[思考]:1.『狩り』を楽しむため移動する。
2.付近の地形(湖など)を使った戦闘方法を考える(あまり考えていません)。
3.頂点に立つ。
【東城綾@いちご100%】
[状態]:吸血鬼化、波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた、マァムの腕をつけている、気分高揚
[装備]:双眼鏡
[道具]:荷物一式×3、ワルサーP38、天候棒(クリマタクト)@ONE PIECE
[思考]:1.DIOに絶対の忠誠。DIOの望むままに行動する。
2.DIOを優勝させ、西野つかさを蘇生させてもらう。
3.真中くんと二人で………
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最終更新:2024年08月02日 21:07