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殺生石の求愛

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だれでも歓迎! 編集
  永く、石に化身して過ごしてまいりました。ときどき意識を外に向けて耳をすませたものです。
『ひとりして物をおもへば秋の夜の稲葉のそよといふ人のなき』
  〈秋の夜、独りで物思いに耽っていると、風が稲葉をそよがせる音が心にしみて聞こえる。そんなとき、私の思いに共感して声をかけてくれる人がいないのが辛い〉

  いつも独りでした。それが当たり前だと思っておりました。妾の居場所は禁足地と呼ばれ、訪れる人も途絶えてしまいました。
『雪ふりて人もかよはぬ道なれやあとはかもなく思ひきゆらむ』
  〈雪が降り積もって、道は人も通わなくなったのですね。誰一人訪ねて来ず、このままでは寂しさに跡形もなく私の心は消えてしまうことでしょう〉

  それも……仕方のないことだったのかもしれません。でも……だからこそ人が恋しくなったのです。
『神な月しぐれにぬるるもみぢ葉はただわび人のたもとなりけり』
  〈神無月の時雨に濡れる紅葉の色は、嘆き悲しむ私の血の涙に染まった袖の色そのままです〉

  そんなときでした。まだ赤子だった、だんな様の声が聞こえたのは……。
『初雁のはつかに声をききしよりなかぞらにのみ物を思ふかな』
  〈初雁の声を耳にするように、あの人の声をほのかに聞いてからというもの、うわの空で物思いをしてばかりいます〉

  いつか……会いに行こう。小娘のように……そればかり願って……力を蓄えるために、眠りについたのです。
『君をのみおもひねにねし夢なれば我が心から見つるなりけり』
  〈あなたのことばかり思いながら寝入って見た夢だから、私の心が原因で見た夢だったのですね〉

  明けても暮れても、だんな様のことばかり……。
『うつつにも夢にも人に夜しあへば暮れゆくばかりうれしきはなし』
  〈現実でも夢でも恋人とは夜に逢うので、日が暮れて行くことほど嬉しいことはないのです〉

  ようやく目覚めて、かすかな記憶と思念を辿って、ようやく出会うことができました。
『わが恋はゆくへもしらずはてもなし逢ふを限りとおもふばかりぞ』
  〈この恋は、行方もわからず、果ても知らない。いったいどこに辿り着くというのだろう。ただこれだけは言える、今はただ、あの人と逢うことが終着点と思うばかりなのです〉

  殿方は星の数ほどいらっしゃっても、あのときに聞こえた声は何かの導きに思えてなりません。これが縁でなくて、何が縁だというのでしょう。
  ねえ、だんな様。貴方は妾を数百年の眠りから覚ましたお方。もう少し妾を見てくれてもよろしいのではありませんか? ねえ、だんな様、
『五月雨のたそかれ時の月かげのおぼろけにやはわれ人をまつ』
  〈梅雨の頃の黄昏時の月の光がよくぼんやりしているように、ぼんやりと好い加減な気持で私があなたを待っているとでもお思いですか〉

  女心を無下にすると、後が怖いですわ。今夜は、その辺りをじっくりと聞いていただきましょうか。さあ、閨へ参りましょう……。

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