この世に生きるものそれぞれには、居場所というものが用意されている。
だんな様にはだんな様の居るべき場所、わたくしには、わたくしの居るべき場所。
……わたくしの居場所は、命の消えた場所。そのはずだったのに……。
「んにゅぅ……ごはんにぃ……なっとぉ……」
今、わたくしが義務付けられた居場所はここ。窓際の、光がよく差し込む暖かな場所。
しかし今は、蛋白石が勝手にわたくしの膝を枕にして昼寝中。許可した覚えはないのですが。
まぁ、だんな様はまだ帰ってこないし、暇なのはよく分かりますが。
「みそしるぅ……のりぃ……たまごぉ……」
それにしても、春になってずいぶんと日差しが強くなった気がする。
冬の間もずっとここにいたから、尚更そう感じる。
……もう、1年近くもここにいる。
小さくも、緑のある庭。ここではいつも、生の営みがある。
空を飛ぶ小鳥、風に揺れる木々、花から花へ移動する蝶。
こんなにも、こんなにも美しいものだったとは……。
「トーストぉ……サラダにぃ……」
この子は一体どんな夢を見ているのでしょうか。ご飯の事なのは分かりますが。
それにしても幸せなそうな寝顔。いつもだんな様に膝枕してもらっているときの、あの穏やかな寝顔。
……どうも、慣れない。こうして誰かに膝を貸すのは。
わたくしはこの子と何の縁もない。同じ場所の居候、それだけ。
なのに、どうしてこの子はこんなにもわたくしに甘えるのだろうか。
生ではなく、死の中にいるはずの……いや、今はその死から離れてしまっている。
……わたくしも、一人の女性に過ぎなかったのでしょうか。
「ミルク……カルシウムぅ」
一人の女性に、過ぎなかったら……。
わたくしも、母親という存在になれるのでしょうか。
「やさいぃ……ビタミン~」
もしもそうなら、こうしてこの子に膝を貸す事にも慣れるでしょう。
その時はまた、このような穏やかな時間を……。
「大豆ぅ……タンパク質ーっ!!」
「きゃっ!?」
「んぅーっ、よく寝たぁ。あれ、殺生石?」
ひ、久々に心から驚いてしまいました。情けない。
やはり昔に比べて身体が鈍っているのでしょうか。
「あ、貴女、何も覚えていないのですか」
「え……あー、そっかぁ。えへへ」
わたくしの膝を借りて寝ていたのを思い出したのだろうか。何故か笑顔の蛋白石。
「殺生石、美味しい野菜のいい匂いがするから。ついつい膝枕してもらっちゃった」
美味しい、野菜の匂い?
それは喜んでいいのでしょうか。
「それは……どういう匂いなのですか?」
「え? んーと……太陽をいっぱい浴びた野菜の匂いだよ」
……見当が付かない。
「花とは違ういい匂いなんだよー。そうだっ、今度一緒におばあちゃんの畑に行こうよ」
「え、しかし妾は……」
「大丈夫だよっ。子供の姿になれば、誰も殺生石を変な目で見ないから」
……わたくしの心が、見透かされているのか。
まさか蛋白石にだんな様のような事を言われてしまうとは。
でも、本当は……。
「殺生石、どうしたの?」
「いえ……まぁ、たまに外に出るのは良い事でしょう。だから、そのうち」
――今のわたくしの居場所がここならば。
こうして、誰かと外に出る約束をするのも……。
「それじゃあ、今度行くときに教えるねっ」
「はい。ところで貴女の寝言について聞きたいのですが……ご飯に納豆がどうのと」
「え……あぁー、寝言で歌ってたんだぁ。えっと、おはよう!! 朝ご飯って歌知らない?」
今の居場所……だんな様や、この子達がいる、この場所。
だから今は、今のわたくしは、普通の女性……。
だんな様にはだんな様の居るべき場所、わたくしには、わたくしの居るべき場所。
……わたくしの居場所は、命の消えた場所。そのはずだったのに……。
「んにゅぅ……ごはんにぃ……なっとぉ……」
今、わたくしが義務付けられた居場所はここ。窓際の、光がよく差し込む暖かな場所。
しかし今は、蛋白石が勝手にわたくしの膝を枕にして昼寝中。許可した覚えはないのですが。
まぁ、だんな様はまだ帰ってこないし、暇なのはよく分かりますが。
「みそしるぅ……のりぃ……たまごぉ……」
それにしても、春になってずいぶんと日差しが強くなった気がする。
冬の間もずっとここにいたから、尚更そう感じる。
……もう、1年近くもここにいる。
小さくも、緑のある庭。ここではいつも、生の営みがある。
空を飛ぶ小鳥、風に揺れる木々、花から花へ移動する蝶。
こんなにも、こんなにも美しいものだったとは……。
「トーストぉ……サラダにぃ……」
この子は一体どんな夢を見ているのでしょうか。ご飯の事なのは分かりますが。
それにしても幸せなそうな寝顔。いつもだんな様に膝枕してもらっているときの、あの穏やかな寝顔。
……どうも、慣れない。こうして誰かに膝を貸すのは。
わたくしはこの子と何の縁もない。同じ場所の居候、それだけ。
なのに、どうしてこの子はこんなにもわたくしに甘えるのだろうか。
生ではなく、死の中にいるはずの……いや、今はその死から離れてしまっている。
……わたくしも、一人の女性に過ぎなかったのでしょうか。
「ミルク……カルシウムぅ」
一人の女性に、過ぎなかったら……。
わたくしも、母親という存在になれるのでしょうか。
「やさいぃ……ビタミン~」
もしもそうなら、こうしてこの子に膝を貸す事にも慣れるでしょう。
その時はまた、このような穏やかな時間を……。
「大豆ぅ……タンパク質ーっ!!」
「きゃっ!?」
「んぅーっ、よく寝たぁ。あれ、殺生石?」
ひ、久々に心から驚いてしまいました。情けない。
やはり昔に比べて身体が鈍っているのでしょうか。
「あ、貴女、何も覚えていないのですか」
「え……あー、そっかぁ。えへへ」
わたくしの膝を借りて寝ていたのを思い出したのだろうか。何故か笑顔の蛋白石。
「殺生石、美味しい野菜のいい匂いがするから。ついつい膝枕してもらっちゃった」
美味しい、野菜の匂い?
それは喜んでいいのでしょうか。
「それは……どういう匂いなのですか?」
「え? んーと……太陽をいっぱい浴びた野菜の匂いだよ」
……見当が付かない。
「花とは違ういい匂いなんだよー。そうだっ、今度一緒におばあちゃんの畑に行こうよ」
「え、しかし妾は……」
「大丈夫だよっ。子供の姿になれば、誰も殺生石を変な目で見ないから」
……わたくしの心が、見透かされているのか。
まさか蛋白石にだんな様のような事を言われてしまうとは。
でも、本当は……。
「殺生石、どうしたの?」
「いえ……まぁ、たまに外に出るのは良い事でしょう。だから、そのうち」
――今のわたくしの居場所がここならば。
こうして、誰かと外に出る約束をするのも……。
「それじゃあ、今度行くときに教えるねっ」
「はい。ところで貴女の寝言について聞きたいのですが……ご飯に納豆がどうのと」
「え……あぁー、寝言で歌ってたんだぁ。えっと、おはよう!! 朝ご飯って歌知らない?」
今の居場所……だんな様や、この子達がいる、この場所。
だから今は、今のわたくしは、普通の女性……。
「さっきからおっきくなったりちっちゃくなったり……どうしたの?」
「いえ、昔みたいに耳と尻尾を隠せるように術の練習をですね……石の期間が長いと色々と不便ですね」
「いえ、昔みたいに耳と尻尾を隠せるように術の練習をですね……石の期間が長いと色々と不便ですね」