どんちゃん騒ぎも過ぎ、みんなが疲れた表情を見せ始める。
かく言う僕もちょっと疲れ気味だったりするけど……。
「主様」
殺生石が、コップ一杯の水を差し出してくれる。
「ありがとう……あー、飲み過ぎたぁ」
「皆さんに乗せられて調子に乗りすぎたからですよ」
「それもそうだね……」
本当はお酒強くないのに、確かに調子に乗りすぎた。
「ごしゅじんしゃまぁ~」
「うわっ!」
きゅ、急に蛋白石が抱きついてっ、ちょ、苦しっ、息っ!
「蛋白石っ、貴女も飲み過ぎです」
「ひゃ、ひゃいっ! ごめんしゃいっ」
た、助かった……というか宝石乙女って酔っぱらうのか……。
「まったく……主様、宴も一段落しましたので、少々妾に時間を頂けますか?」
「え、いいけど。どうしたの?」
「外の空気が吸いたくなりましたので」
「さんぽぉ? わったしもいきみゃ~っす」
「駄目です」
「えぇ~っ、せっしょーせきぃ、ずるいよぉ」
「駄目です」
蛋白石沈黙。酔っ払い相手にも物言わせぬ気迫……恐ろしい。
「というわけで主様。妾、少し外の風に当たりたくなりました。ご一緒してくれませんか?」
「ん、じゃあ喜んで。ちょうど酔い覚まししたかったところだから」
かく言う僕もちょっと疲れ気味だったりするけど……。
「主様」
殺生石が、コップ一杯の水を差し出してくれる。
「ありがとう……あー、飲み過ぎたぁ」
「皆さんに乗せられて調子に乗りすぎたからですよ」
「それもそうだね……」
本当はお酒強くないのに、確かに調子に乗りすぎた。
「ごしゅじんしゃまぁ~」
「うわっ!」
きゅ、急に蛋白石が抱きついてっ、ちょ、苦しっ、息っ!
「蛋白石っ、貴女も飲み過ぎです」
「ひゃ、ひゃいっ! ごめんしゃいっ」
た、助かった……というか宝石乙女って酔っぱらうのか……。
「まったく……主様、宴も一段落しましたので、少々妾に時間を頂けますか?」
「え、いいけど。どうしたの?」
「外の空気が吸いたくなりましたので」
「さんぽぉ? わったしもいきみゃ~っす」
「駄目です」
「えぇ~っ、せっしょーせきぃ、ずるいよぉ」
「駄目です」
蛋白石沈黙。酔っ払い相手にも物言わせぬ気迫……恐ろしい。
「というわけで主様。妾、少し外の風に当たりたくなりました。ご一緒してくれませんか?」
「ん、じゃあ喜んで。ちょうど酔い覚まししたかったところだから」
黒曜石ちゃんの家の前。
辺りの家はやたらと静かで、人の気配もない。これなら殺生石も普段の姿でいられる。
「寒いぃ」
「もう、だんな様ったら。そんな薄着で出てくるからですよ」
「少し風に当たったら戻るつもりだったんだよ……って、殺生石っ」
いつの間にか、殺生石の尻尾に僕の体は包まれていた。まぁ暖かいけど。
「ふふふ、よいではありませんか。こうして思い人同士、夜空の下で寄り添うのも」
思い人、かぁ。
ときどき殺生石と恋人同士だというのが、夢なのではと思ってしまうことがある。
こんなに素敵な女の子が、僕みたいな普通の男を……恋愛ゲームの典型的パターンが現実に起こると、どうも地に足が着いていない気分だ。
「だんな様、暑いですか? ぼんやりしておりますが」
「ん、いいや。大丈夫だよ」
「そうですか、ふふふ」
暑くないと分かるや、僕の腕に抱きついてくる。
こうしているときの殺生石って、やっぱり幸福の絶頂なんだろうなぁ。いつもよりどこか子供っぽい笑顔なんだよね、こういう時の顔。
幸せかぁ。今日はクリスマスだから恋人同士は無条件で幸せとかそんな……。
「あ、そうだ。クリスマスプレゼント!」
「あら、そういえば……せっかく用意したのに、渡さなければ意味がありませんよね」
「そうだね。それじゃあ僕のプレゼント……って、用意してくれたのっ?」
「驚くことはないでしょう。だんな様ったら、ひどいですよ」
「ご、ごめん……じゃあ、殺生石のプレゼント見てみたいな」
「もうひどいことは言いませんか?」
む、ずいぶんと意地悪な笑顔を……。
「はい、言いません」
「よろしい。ではだんな様、この箱を」
手渡されたのは、よくドラマなんかで婚約指輪が入っているあれを少し大きくしたような箱。
まさかこの中に婚約指輪が……いや、殺生石ならそんなまどろっこしいことはしないと思う。契りといえば押し倒して……あー、何考えてるんだろ。
「また失礼なことを考えていませんか?」
「な、ないよ、たぶん……あれ? これって」
箱を開けて、思わず声を出して驚いてしまった。
それは確か、電気石が来てしばらく経ってからだったか。電気石の腰にぶら下がっているあの懐中時計を見て、ああいう時計がいいなぁと思ったのが最初だっけ。後からアレが電源メーターと聞いて驚いたけど。
とまぁ、そういうことがあってから、僕は前々から一個でいいから懐中時計が欲しかった。
その懐中時計。しかも前に時計屋で見かけたかなり高い奴だ。
「殺生石、僕の頭の中読んだ?」
「いいえ。だんな様の欲しい物のためなら、努力を惜しまないだけですよ」
じゃあ蛋白石辺りから聞いたのかな。殺生石に話したことはないはずだし。
「でもすごく高かったんだよ。よく買えたね」
「同じことを言わせるおつもりですか? ふふふ」
「努力を惜しまなかったんだ。すごく嬉しいよ、ありがとう」
こんな日ぐらい、細かいことは気にせず素直に殺生石に感謝しよう。
それにしても嬉しいなぁ。ずっと前から欲しかったんだけどどうしても手が出せなくて……おっと。
「じゃあ、今度は僕からのプレゼントなんだけど……あっ」
目の前に落ちる白くて小さなもの。
雪……音もなく、空から降ってくる。
「これが雪、ですか」
「うん。殺生石は初めてなんだっけ?」
僕の問いかけには答えず、空を見上げている殺生石。
でも、その顔はどこか暗い。手のひらで雪を受け止めている顔は、それを歓迎しているような様子が見られない。
……どうして、そんなに寂しそうな顔をするのだろう。
「殺生石、どうしたの?」
「……冷たい、ですね」
「うん、雪だから」
「冷たい……」
溶けた雪を握りしめ、呟く。
その一言が、やけに重く感じられる。
雪の冷たさに、殺生石は何を思っているのだろう。
それを察することは僕にはできない。でも、その顔は寂しそうで、昔を思い出しているようで。
「冷たいのは……嫌」
その一言が感情を高ぶらせたのだろうか、いつしか殺生石の目から涙が溢れる。
「殺生石……?」
本当ならうろたえてしまいそうなところを、僕は必死でこらえる。
彼女が悲しくて涙を見せるなんて初めてだし、女の子の涙には弱い。
だけど、それより先に殺生石を抱きしめてあげたかった。冷たいのが嫌だという彼女を、少しでも暖めたかったから。
「わたくし……駄目なんです。幸せが続くと、悲しくて……これも、永遠には続かないから」
「僕が、死んじゃうから?」
「……ごめんなさい」
僕の腕の中で、小さく呟く。
でも、どうして謝るのだろうか。これは仕方ないことなのに。
まるで自分がすべて悪いと言っているかのようで……。
「それでも、割り切っているつもりでした……でも、だんな様のお側にいると、我が儘になって……だんな様、冷たくならないで、って……」
「そう、なんだ……」
「今まで当たり前にできていたこと……できなくなってしまいました。人の死を悲しむなど、下らないこと……そう思えなくなってしまいました」
殺生石の手が、服を強く握る。
「幸せは、だんな様が雪のように冷たくなってしまうまで……もう、そう言い聞かせられません。わたくし、わがままですよね……」
「そんなこと……僕だって、できたらずっと殺生石と一緒にいたい」
「……だんな様は優しいから、きっとそう言ってくださると思いましたよ」
涙目で微笑む殺生石。
「やっぱり僕の考え、お見通しなんだね」
その目尻に溜まる涙を、優しく拭う。
「本当は……時計も、嫌いなんです。だんな様の隣にいられる時間が過ぎていくのを、否応なしに伝えてくるのが」
「……そっか。それでも、殺生石はこの時計をプレゼントに選んでくれたんだ」
無言で抱きつく腕に力を込めてくる。
「ここはとっても、暖かい……その贈り物は、わたくしが温もりに触れる権利を得るための、努力なのですから……」
「……暖かいの、好きなんだね」
「はい……」
本当は、こうして殺生石を抱きしめてあげること自体、奇跡のようなことなのかも知れない。
でもその幸せは永遠には続かない。僕が、どんなに望んだとしても。
……ダメだな、どうしても僕は殺生石を悲しませてしまう。
だって、僕もわがままだから。殺生石に嫌われればそれでいいのに、そんなこと絶対にしたくないから。
「……殺生石だって、暖かいよ」
「それは……だんな様のおかげですから」
「それでも、僕もこういう暖かさは大好きだよ。だからずっと、こうしていたい……殺生石と同じだよ」
そう、同じなんだ……僕も、殺生石も。
互いに離れる運命にあっても、悲しみが待っていると分かっていても。
互いに、離れられないのだから……。
「……なんか、子供みたいだね。僕たち」
「ええ、本当……わがままな、子供ですね」
……でも、今はそれでいい。
今は、そうしていたい……。
殺生石を、強く抱きしめる。
辺りの家はやたらと静かで、人の気配もない。これなら殺生石も普段の姿でいられる。
「寒いぃ」
「もう、だんな様ったら。そんな薄着で出てくるからですよ」
「少し風に当たったら戻るつもりだったんだよ……って、殺生石っ」
いつの間にか、殺生石の尻尾に僕の体は包まれていた。まぁ暖かいけど。
「ふふふ、よいではありませんか。こうして思い人同士、夜空の下で寄り添うのも」
思い人、かぁ。
ときどき殺生石と恋人同士だというのが、夢なのではと思ってしまうことがある。
こんなに素敵な女の子が、僕みたいな普通の男を……恋愛ゲームの典型的パターンが現実に起こると、どうも地に足が着いていない気分だ。
「だんな様、暑いですか? ぼんやりしておりますが」
「ん、いいや。大丈夫だよ」
「そうですか、ふふふ」
暑くないと分かるや、僕の腕に抱きついてくる。
こうしているときの殺生石って、やっぱり幸福の絶頂なんだろうなぁ。いつもよりどこか子供っぽい笑顔なんだよね、こういう時の顔。
幸せかぁ。今日はクリスマスだから恋人同士は無条件で幸せとかそんな……。
「あ、そうだ。クリスマスプレゼント!」
「あら、そういえば……せっかく用意したのに、渡さなければ意味がありませんよね」
「そうだね。それじゃあ僕のプレゼント……って、用意してくれたのっ?」
「驚くことはないでしょう。だんな様ったら、ひどいですよ」
「ご、ごめん……じゃあ、殺生石のプレゼント見てみたいな」
「もうひどいことは言いませんか?」
む、ずいぶんと意地悪な笑顔を……。
「はい、言いません」
「よろしい。ではだんな様、この箱を」
手渡されたのは、よくドラマなんかで婚約指輪が入っているあれを少し大きくしたような箱。
まさかこの中に婚約指輪が……いや、殺生石ならそんなまどろっこしいことはしないと思う。契りといえば押し倒して……あー、何考えてるんだろ。
「また失礼なことを考えていませんか?」
「な、ないよ、たぶん……あれ? これって」
箱を開けて、思わず声を出して驚いてしまった。
それは確か、電気石が来てしばらく経ってからだったか。電気石の腰にぶら下がっているあの懐中時計を見て、ああいう時計がいいなぁと思ったのが最初だっけ。後からアレが電源メーターと聞いて驚いたけど。
とまぁ、そういうことがあってから、僕は前々から一個でいいから懐中時計が欲しかった。
その懐中時計。しかも前に時計屋で見かけたかなり高い奴だ。
「殺生石、僕の頭の中読んだ?」
「いいえ。だんな様の欲しい物のためなら、努力を惜しまないだけですよ」
じゃあ蛋白石辺りから聞いたのかな。殺生石に話したことはないはずだし。
「でもすごく高かったんだよ。よく買えたね」
「同じことを言わせるおつもりですか? ふふふ」
「努力を惜しまなかったんだ。すごく嬉しいよ、ありがとう」
こんな日ぐらい、細かいことは気にせず素直に殺生石に感謝しよう。
それにしても嬉しいなぁ。ずっと前から欲しかったんだけどどうしても手が出せなくて……おっと。
「じゃあ、今度は僕からのプレゼントなんだけど……あっ」
目の前に落ちる白くて小さなもの。
雪……音もなく、空から降ってくる。
「これが雪、ですか」
「うん。殺生石は初めてなんだっけ?」
僕の問いかけには答えず、空を見上げている殺生石。
でも、その顔はどこか暗い。手のひらで雪を受け止めている顔は、それを歓迎しているような様子が見られない。
……どうして、そんなに寂しそうな顔をするのだろう。
「殺生石、どうしたの?」
「……冷たい、ですね」
「うん、雪だから」
「冷たい……」
溶けた雪を握りしめ、呟く。
その一言が、やけに重く感じられる。
雪の冷たさに、殺生石は何を思っているのだろう。
それを察することは僕にはできない。でも、その顔は寂しそうで、昔を思い出しているようで。
「冷たいのは……嫌」
その一言が感情を高ぶらせたのだろうか、いつしか殺生石の目から涙が溢れる。
「殺生石……?」
本当ならうろたえてしまいそうなところを、僕は必死でこらえる。
彼女が悲しくて涙を見せるなんて初めてだし、女の子の涙には弱い。
だけど、それより先に殺生石を抱きしめてあげたかった。冷たいのが嫌だという彼女を、少しでも暖めたかったから。
「わたくし……駄目なんです。幸せが続くと、悲しくて……これも、永遠には続かないから」
「僕が、死んじゃうから?」
「……ごめんなさい」
僕の腕の中で、小さく呟く。
でも、どうして謝るのだろうか。これは仕方ないことなのに。
まるで自分がすべて悪いと言っているかのようで……。
「それでも、割り切っているつもりでした……でも、だんな様のお側にいると、我が儘になって……だんな様、冷たくならないで、って……」
「そう、なんだ……」
「今まで当たり前にできていたこと……できなくなってしまいました。人の死を悲しむなど、下らないこと……そう思えなくなってしまいました」
殺生石の手が、服を強く握る。
「幸せは、だんな様が雪のように冷たくなってしまうまで……もう、そう言い聞かせられません。わたくし、わがままですよね……」
「そんなこと……僕だって、できたらずっと殺生石と一緒にいたい」
「……だんな様は優しいから、きっとそう言ってくださると思いましたよ」
涙目で微笑む殺生石。
「やっぱり僕の考え、お見通しなんだね」
その目尻に溜まる涙を、優しく拭う。
「本当は……時計も、嫌いなんです。だんな様の隣にいられる時間が過ぎていくのを、否応なしに伝えてくるのが」
「……そっか。それでも、殺生石はこの時計をプレゼントに選んでくれたんだ」
無言で抱きつく腕に力を込めてくる。
「ここはとっても、暖かい……その贈り物は、わたくしが温もりに触れる権利を得るための、努力なのですから……」
「……暖かいの、好きなんだね」
「はい……」
本当は、こうして殺生石を抱きしめてあげること自体、奇跡のようなことなのかも知れない。
でもその幸せは永遠には続かない。僕が、どんなに望んだとしても。
……ダメだな、どうしても僕は殺生石を悲しませてしまう。
だって、僕もわがままだから。殺生石に嫌われればそれでいいのに、そんなこと絶対にしたくないから。
「……殺生石だって、暖かいよ」
「それは……だんな様のおかげですから」
「それでも、僕もこういう暖かさは大好きだよ。だからずっと、こうしていたい……殺生石と同じだよ」
そう、同じなんだ……僕も、殺生石も。
互いに離れる運命にあっても、悲しみが待っていると分かっていても。
互いに、離れられないのだから……。
「……なんか、子供みたいだね。僕たち」
「ええ、本当……わがままな、子供ですね」
……でも、今はそれでいい。
今は、そうしていたい……。
殺生石を、強く抱きしめる。
……雪が美しいのは、白いからですか? 輝くからですか?
いや、雪は美しいものじゃないのかもしれません。
冷たいのは、悲しいのですから……。
いや、雪は美しいものじゃないのかもしれません。
冷たいのは、悲しいのですから……。
「わたくしが子供みたいになってしまったのは、だんな様のせいですからね」
「え……」
家に帰って、何気なく寄り添ってみたらいきなりそんなことを言われてしまう。
いや、確かにそれはそうなんだけど……。
「だから、だんな様の手で……わたくしを大人にして下さい」
「いや、それってどこかやらしいというか……」
「愛の営みがやらしいはずありません。だから今夜は……ずっと、暖めて下さい」
押し倒される……最初はそう思ったが、それとは裏腹に殺生石は僕の肩に頭を乗せて、目を瞑る。
「ゆっくりで、いいんですよ。冷たい悲しみを乗り越えられるように……ゆっくりで」
「……そうだね。ゆっくり……うん」
今夜は、ゆっくり寝かせてもらえそうだ。
薄い布団も、きっと暖かい。
そうだよね、殺生石……。
「え……」
家に帰って、何気なく寄り添ってみたらいきなりそんなことを言われてしまう。
いや、確かにそれはそうなんだけど……。
「だから、だんな様の手で……わたくしを大人にして下さい」
「いや、それってどこかやらしいというか……」
「愛の営みがやらしいはずありません。だから今夜は……ずっと、暖めて下さい」
押し倒される……最初はそう思ったが、それとは裏腹に殺生石は僕の肩に頭を乗せて、目を瞑る。
「ゆっくりで、いいんですよ。冷たい悲しみを乗り越えられるように……ゆっくりで」
「……そうだね。ゆっくり……うん」
今夜は、ゆっくり寝かせてもらえそうだ。
薄い布団も、きっと暖かい。
そうだよね、殺生石……。