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大きな想い

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だれでも歓迎! 編集
「ご主人様♪」
  僕の隣に、蛋白石が腰を下ろす。
  周りはみんな酔っぱらっていたり、夜も遅いので居眠りを始めていたりと、先ほどに比べてずいぶんと静かだ。
  だから、蛋白石の方も少し大胆だ。僕に密着するや、腕にしがみついてくる。
  それを僕は拒まない。なるべく彼女の好きにさせてあげたいから。
「静かになっちゃいましたけど、すごーく楽しかったですよね?」
「うん」
  誰かに見られてるかも分からないけど、自然と恥ずかしさはこみ上げてこない。
  こうしていることが自然なだけで……。
  ……でも、二人きりになりたい。そんな思いがこみ上げる。
「蛋白石、散歩に行かない?」
「お散歩ですかー?」
「うん、少し酔い覚ましに、ね」
「そういうことなら大歓迎ですよ、ご主人様の身はしっかりと守りますからっ」
  と、頼もしいことを言ってくれる。
  だけどそれよりも嬉しそうな笑顔が可愛くて、二人きりになりたいという思いがいっそう強くなる。
「それじゃあ、いこっか」
「はいっ。どこまでお供しますね」

「……主様ったら」
「んぅ……くー」
「……今日は、この家に泊まっていきましょうか」

  数少ない二人で過ごす時間。
  今の蛋白石にとって、それはどれだけ大切な時間なのだろうか。
  それは幾多の時間の中で得た、穏やかな時間なのだろうか。
「ご主人様ー、寒くないですか?」
「はは、少しね……というかいつもより寒いし、曇ってるし」
  雪……降るかな。
  ふと実家の空を思い出す。大体こういう日は雪が降る。
「こんなに静かな日も珍しいですね」
「そうだね。サンタさんは仕事がしやすくていいんじゃないかな」
「そうですねー。でもそしたら私たち、サンタさんのお仕事の邪魔になっちゃいますよ?」
  二人で静かに笑い合う。
「あ、公園ですよー。こんな小さな公園、こんなところにあったんですね」
「ホントだ……って、蛋白石?」
  公園の前に着くと、蛋白石は真っ先にブランコの方へと向かう。
  まるで子供のような笑顔。夜の公園には似合わぬ、明るい笑顔。
  その後に続いて、僕もブランコの前に立つ。
  子供のころ遊んだ遊具。何の変哲もないブランコ。
  ……すごく小さかった。子供のころは、そんなこと思いもしなかった。
「ご主人様、押してあげましょうか?」
「そもそも乗れるかどうかが怪しいんだけど」
「大丈夫ですよっ、ご主人様小柄ですからー」
  それはあまり褒めていないような……まぁいいや。せっかくなのでブランコに乗る。
  思ったよりも楽に乗れた。なんだかなぁ、成長してないってことだよね、それ。
「えへへ」
「な、何?」
「ご主人様の顔が、私より下にありますよー」
「そりゃあ、こんな小さいのに座ってたら……そういえば蛋白石、ブランコ乗ったことある?」
「え、ないですけど?」
  そっか、乗ったことないのか……。
「……ご主人様? あの、どうしっ」
「ごめん、少し狭いかも知れないけど……」
  一度立ち上がって蛋白石を抱き上げ、膝の上に載せてブランコに座る。
  ……そうしたかった。こうして、蛋白石と触れ合いたかった。
「ご主人様、もしかして寒がりですか?」
  頬を赤くして、蛋白石が尋ねてくる。照れ隠しなのかな。
「そう、だね。寒いね……雪、降ってきたみたいだし」
「え? わぁー」
  穏やかに、静かに、小さな雪が降り始める。
  故郷で見た雪ともまた違う、どこか優しい雪。
  こういうムードたっぷりのシチュエーションでやることは限られるんだろうな。
  でも、僕がやるべきことは……。
「ご主人様ー、雪綺麗ですね……ご主人様?」
「……え、何?」
「どうしたんですかー、ぼんやりしちゃって」
「あー、うん。ちょっと……あ、そういえばプレゼント渡すのまだだったね」
  と、思わずごまかしてしまう。でもプレゼントを渡さないといけないのは確かだよね。
  確か行く前に慌ててポケットに入れたような。まぁ、簡単に壊れるような物じゃないから平気……あれ?
  じゃあこっちは……うぅむ、じゃあここ? それとも……。
「……ははは、忘れてきた」
「あー、ご主人様ひどいですよぉ……でも、私も忘れて来ちゃいました」
  舌を出しててへへと笑う。
「でも、帰ってから渡せば充分ですよー。今はもっと雪の見物ですよ……雪見だいふく食べたいなぁ」
「相変わらず食べ物なんだね」
「えへへ。でもご主人様と二人っきりっていうのは、ちゃーんと分かってますよ」
  蛋白石の頬が赤い。
  寒いからじゃない。もし蛋白石に鼓動があれば、どんなに早く脈動しているだろうか。
「……ご主人様、私に何かお話しががあるんじゃないですか? そんな顔、してますよ」
  ……その通りだ。僕は蛋白石に告げたいことがある。
  とても大きな想い。告げようとすると、胸が苦しくなるような想い。
「蛋白石の昔話、おばあさんから聞いたんだ」
「え……」
  自分ではどうしても告げられないと言っていたこと。
  僕は思いきって、その話を切り出した。
「大変、だったんだね」
「そ、そんなことないですよぉ。全部、私が悪いんですから。それに今のご主人様はご主人様じゃないですか」
「うん」
「私がご主人様と出会えたのは、きっと神様の気まぐれなんですよ。本当は私にこんな優しいご主人様は、分不相応で……」
  少しだけ、腕に力がこもる。
  そんなこと言って欲しくなかった。僕は蛋白石をそんな風に思ってなんか……。
「でも……すごく嬉しかった。初めてですから、こんな風に抱っこしてくれる人がマスター……ご主人様になってくれるのが」
  ――マスター。
  その言葉を蛋白石から聞いたのは、初めてだった。
「初めてご主人様って呼んだとき、すごく恥ずかしがってましたよね。でも私は無理矢理ご主人様って、ずっと……」
「今じゃ慣れっこだけどね」
「えへへ、ごめんなさい……マスターって呼び方、嫌いなんです。昔を思い出しちゃって、とても冷たいから」
  ……昔、か。
「私のマスターはたくさんいました。けれど、ご主人様はご主人様だけですよ」
  これが、おばあさんから教えられたこと。
「……今さら、神様が間違えたからってご主人様と離ればなれにしようとしても、絶対に嫌ですから」
「それは……」
「私は、ずーっとご主人様のそばにいたい。ご主人様が、迷惑でなければ……ですけど」
  ……言える、今なら。
  蛋白石が僕と一緒にいることを望んでいてくれるから。
  彼女の口から言ってもらってやっと切り出せるなんて、なんだかいくじなしだけど。
  でも、この想い……伝えよう。
「……好きだよ」
「え?」
「蛋白石のこと、好きだから。だから僕が迷惑してるとか、そんなこと思って、怯えなくていいんだよ」
  蛋白石は怖かったのかもしれない。今の幸せが偽りかもしれなくて、それでいて僕の心が見えなくて。
  だから伝える。怖がって欲しくないから。
  笑っていて欲しいから。
「……好きって、どれぐらいですか?」
「蛋白石のご飯好きより、ずっと好き」
「じゃあ、私にとっては……この世で一番ですねー。ご飯より上だったら」
  まるで普段と変わらぬ会話だと思うし、僕のたとえだって馬鹿馬鹿しい。
「じゃあ……私はそのご主人様の好きより、ずーっと好きですよ」
  赤い頬、潤んだ瞳。
  そして笑顔。
「……ご主人様は、私の心……ずっと、怖かった……見えちゃって……るん、ですか?」
  蛋白石の涙。
  それが安堵の涙だと、いいんだけどな。
「ご主人様……ぎゅって、して?」
  蛋白石の手が、僕の腕を抱える。
  抱きしめたかった……だから、蛋白石の言う通りに抱きしめる。
「嬉しいな……嬉しい、な……え、えへへ……」
  涙が、服に染みこむ。
  とても暖かい涙。
  悲しい涙は、もういらない。

  帰り道。
  蛋白石の腕が、しっかりと僕の腕に組まれている。
  もうすっかり恋人調子……嬉しいけど。
「ご主人様って、サンタさんみたいですね」
  そう言って、笑顔を浮かべる。
「え、何で?」
「だって、美味しいご飯やお友達も……優しいご主人様も、なーんでも用意してくれるじゃないですか。全部、私の欲しいものですよー」
「んー……あまり自覚がない」
「それでもいいですよー。だって、ご主人様がサンタさんになってくれるのは私だけだもん」
  そうもいかないんだけどなぁ。電気石殺生石だっているし。
「ご主人様ー♪」
  ……まぁ、蛋白石が嬉しいなら、問題ないよね。
  はぁ、寒い。いつまで雪降るんだろう……明日、積もるかな?


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