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貴方がいれば

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「んー……」
 悩んでいる。
「え……と」
 すごく悩んでいる。
「はぁ……」
「ペリドット、悩みなら聞くぞ」
「あ……実は、今晩のおかずはどうしましょうかと」
「嘘付け」
「……ばれちゃいましたか」
 まぁ、おかずで迷うこともあるかも知れないが、先のペリドットの悩み方は
レシピのそれとは違う。
 大体、あからさまに七夕用の短冊を前にして悩んでいるのだ、察しは付く。
「妹達と、七夕を祝うことになったのですが、そのときにみんなで短冊を
飾りましょうということになっていて」
「で、その願い事に詰まっているわけだ」
 はい、とうなずくペリドット。
「良い姉妹仲を続けていけますように、とか、そんなのでいいんじゃないのか?」
「ええ、一応そのようなことも考えているのですが……もっと、こう、違うものはないかと」
「……毎日おかずで悩まずに済みますように、ってのはどうだ?」
「マスター」
 どうやら真剣に悩んでいるらしい。素直に謝っておく。
 しかし、違う願いといってもなぁ……。
 姉妹円満……これはどちらかといえば全体への願いだから、ペリドット個人への
願いっていうのはどうだろうか。
 例えば……おかず以外だと、掃除が楽になりますようにとか。いや、それは
ペリドットのイメージとは遙かにかけ離れているだろう。
「マスターが、お仕事の後女性の香水の匂いを付けてこないように、というのはどうでしょうか」
 飲もうと口に含んだ牛乳を吹き出しそうになる。
 唐突に何を蒸し返してくるかと思えば……。
「いや、だからそれは別に浮気とかそういうのじゃ……つーかまだ根に持ってたのか」
「いいえ、冗談ですよ」
 こういういい笑顔のときのペリドットの言葉は、大体とげがある。
 ちなみにこの前は……いや、止めておこう。とにかく俺は潔白だ。
「別に根になど持っていませんよ。ふふふ」
「……とにかく、お前の素直な願いを書けばそれでいいだろ」
 なんかこれ以上深みに嵌ると墓穴を掘りそうなので、無理矢理話を変える。
「素直な願い、ですか……んー」
 で、結局悩むところに辿り着く。
 全然役に立ってない自分に自己嫌悪……。
「しかし、どうしてそんなに願い事で悩むんだ?」
「はぁ……どうしてでしょう?」
 まるでその答えを俺に尋ねているかのような視線を送ってくるペリドット。
「……願いが必要ないほど、満足な生活を送ってるからじゃないのか?」
 だとしたら、相当贅沢なことだと思う。
 俺なんて願いを考えたらいくつも出てくる。金とか仕事とか……汚れてるな、俺。
「満足、ですか。だとしたらマスターのせいですよ」
「ちょっと待て、何でそこで俺が出てくるんだ?」
 突然の指摘に眉をひそめる。
 だが、ペリドットはそんな俺にいつもの笑顔で……。
「だって、私の欲しい物はマスターが全て与えてくれましたから」
 と、さも当然のように答える。
「身も心も満たしてくれる、色々なものを与えてくれますから。マスターが」
 その言葉が、ものすごく恥ずかしく思えてしまう。
 あまりにも恥ずかしい……顔が熱くなる。
「だから、マスターも一緒に願い事を考えてくれなきゃめーですよ?」
「……むぅ」
 何でそうなるんだか……。
 大体、俺の方がペリドットに与えられているものがたくさんありすぎて……。
「マスター、こっちを向いて、ちゃんと聞いてください」
「あ、ああ……」
 この後小一時間、短冊の願い事について熱い議論を繰り広げることとなった。

「『もう望むことはありません』……あれだけ考えて結局これかよ」
「ふふふ……私には、もうマスターがいますから」
「だからそういうことは……もういい」

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