\アッカヤ~ン/\みずのなかにいる/ ◆wKs3a28q6Q










      \アッカリ~ン/
















「はー「バウバウ!」「グルルルルルル」






「ば、バトr「ワォーーーーーーーーン!」






「バトロワ「キャイーーーーーーーーン!」「バウワウ!」






「はっじまr「クゥ~~~~~ン」「わんわんわん!」
















      \アッカリ~ン/
















【赤(略)@概念】
[状態]:\アッカリ~ン/
※今回の話にも赤座あかり本人は一切登場いたしません。




―――――――――――――――――――――――――






『ゆっりゆっらっらっらっらゆるゆry』





「え、え? なんっスかこれ」

完全にデジャヴ。
そう思わせるリアクションを、ジャージの少年――切原赤也は取っていた。
その赤也に停止ボタンを連打して見せているのは、タンクトップの少年――前原圭一。
大音量で変な音楽が流れているその理由を、こうして実践して見せてるのだ。

「止まらないんだよ……だから、こうして壊そうかなって」
「ふ~ん……へへ、壊すんなら――こいつでボッコボコにしたらいいんスよ!」

獰猛な笑みを浮かべ、赤也が脇に置いていたバールのようなものを掲げる。
これは赤也に支給されていた武器だ。

――いや、正確には、“これも”と表現するべきか。

「まあ、仕方ないか……」

バールのようなものは、赤也の右に置かれていた。
そして、先程まで圭一の背に突きつけられていた弓矢は、左側に置かれている。
遠近揃った武器を手にしていたとは……切原赤也、恐ろしい子っ!!

「それじゃ、行くっすよー!」

勢いよく振りかぶり、そして――

「!?」

バールをすごい勢いで、圭一めがけて放り投げた。






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






「…………」

気まずい。
御坂美琴は、そんなことを考えていた。

美琴達は現在、着替えを求めてデパートへと向かっている。
デパートになら、商品として衣服が置いてあるだろうと考えてのことだ。
サイズにも困らないし、民家に入るよりもいい。

――そう、着替えを求めているのだ。
湿ったスカートを足に貼り付け歩きにくそうにしている、後ろの二人の少女のために。

(……参ったわね……)

コミュニケーション能力は欠けていないと思っていたが……
目の前で粗相をする、なんていう大失態を犯してしまった年頃思春期な少女に、何と喋りかければいいのか――
そんなこと、いくらなんでも分からない。


とりあえず普段の調子で目的地をデパートに決めたことだけを伝えまではよかったものの、行軍中は全く会話が弾まなかった。
普段の感じで着替えの入手を提案したら、「そんなこと言わないでくださいよ」と半泣きになられたのも、実は地味に効いている。
自分で思っていた以上にデリカシーがなかったのかと考えてしまったのだ。
そして傷つけぬ会話はないかと考えすぎてしまった末、黙るという選択をしてしまったのだ。

(この子……まだ怯えてるみたいだし……まあ、無理もないけど)

桃色の髪の少女は、先程まで命を奪われかけていた。
そのショックから失禁へと至ったのだが――
まあ、失禁の理由などどうでもいいことだろう。
殺されそうだったことの恐怖や失禁してしまったことへの羞恥に比べれば、そんなこと些事である。

(それより……問題は……)

些事どころか大問題となっているのが、桃色の髪の少女から離れて歩く――正確に言えば、離れて歩かせた――少女である。
愛くるしい天使のような顔の少女で、その瞳には恐怖の色がありありと浮かんでいる。
その不安げな表情は庇護欲を掻き立てて、美琴ですら守ってやらねばいけないのではと思ってしまいそうになる。

――そうになる、と言ったのは、正直に守っていいのか迷ってるからだ。

あの天使のような少女こそ、桃色の髪の少女を殺そうとした張本人なのだ。
本人は怖かったからと言っていたし、それが本当なら守ってやるべきなのだろう。
被害者も許してあげてくれたし。
だが――

(あのスタンガンは言い訳不可能よね……)

不意をついてのスタンガンによる襲撃。
冗談なんて一言では勿論済まない。
あの場では押し問答をしてもしょうがなかったし、殺し合いに乗っていると看破したところで、無抵抗の相手を殺せるとは思えなかった。
なにせ相手は失禁までしてくれたのだ。無抵抗王座選手権があれば銀メダル以上間違いなし、グレイト。
そんな相手を殺すことも出来ない以上、とりあえずは許し、手元に置いて凶行を防ぐ方がいいだろう。
そう考え、少女をパーティに入れた。

「あの……」
「何? 相馬さん」

おずおずと、その天使もとい相馬光子が声を上げる。
簡単な自己紹介は済ませているので、相手の名前は分かっている。

とはいえ、済ませたのは簡単な自己紹介だけ。
本格的な情報交換はデパートで落ち着いてからしようという提案をした。
メモをしっかり取っておきたいし、何より声を常に上げながら移動するのは危険だと考えてのことだった。

――柄にもなくそうやって提案したせいで、誰も一言も喋らずに気まずい思いをしたのだけど。
小声で軽く気軽な会話をするくらいなら、してもいいのに。
そう思ったけど、言えなかった。

その原因は、やはりまたしても相馬光子。
相馬光子は友好的な顔で会話をしてきたが、あまりに巧みに心に入ってくるようで、「悪いけど、静かにしていてもらえる?」と一度拒絶してしまったのだ。
大人気なかったとは思う。
それでも、怪しい相手に懐柔されかけていたのだ、仕方のないことと言えよう。

とにかく、自分から会話を打ち切った手前、これから仲間なんだから少しくらい話そうかなんて言えなかった。

「何か、聞こえないかしら」
「え?」

耳を、すます。
考え事をしていたから聞き逃してたが、確かにどこか遠くから何かが聞こえるような気がした。

「こ、この歌声……!」
「吉川さん?」

吉川ちなつ。
桃色の髪の少女の名前だ。
拭いきれなかった液体は太ももをテラテラと輝かせ。白い靴下を黄ばませていた。
そのことをやたらと気にしている節が、動きの端々から見て取れる。
歩きにくそうにしているし、感触が気持ち悪いからかスカートの裾を持ち上げ太腿とスカートが触れることを避けていた。

そんな少女が、突然走り出したのだ。
痒みを促す尿濡れのスカートが足に張り付くことも厭わず。

「ちょ、吉川さん!」

慌てて追いかけ走り出――そうとして、一回立ち止まった。
そして相馬光子の手を握り、改めて走り出す。

「ホラ、走るわよ!」
「……どうしたのかしら、吉川さん」

背中を見せるのは危険に思えたが、まだ武器を隠し持っているとも思えなかった。
むしろここで逃げられる方が面倒である。
だから、手を引き走りだした。

それが正解だったのかどうか、まだ分からないのだけど。






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






「な、ななな!?」

バールのようなものは、圭一の顔の横をすり抜けた。
それでも圭一の脳に、恐怖はしっかり刻み込まれる。

「よく気付いたね、こっそり近付いていたのに」

背後から、声。
それでようやく理解した。
誰かが接近してきたのだと。

もっとも、バールのようなものを投げられた恐怖で体が固まっていて、後ろを確認出来ずにいるけど。

「でも残念。僕の水兵(シーマン)はその程度じゃどうにも出来ない」

バシャンという水音がする。
圭一には見えなかったが、背後で水が人の形を形成した。
そしてその水人形は、圭一の首を締め上げる。

「がっ……!?」

水の化物。そう表現するのが、何より似つかわしかった。

「驚かないんだな……あんたも領域(テリトリー)を――」
「テリトリー? そんな名前なんだ。持ってねえよ。今だってビビってるし」

赤也は、笑う。
混乱し、恐怖を顔に貼り付けている圭一とは対照的に。
未知のものに、ワクワクしながら返事をする。

「何だかすげーファンタジーなことになってるし、興味湧いてきたけど――
 とりあえず、そいつを離してもらうぜっ! 一応仲間なもんでね!」

そう言って、拾い上げた弓矢を構える。
矢の先端は、襲撃者――御手洗清志へと向けられた。
ゲームや漫画の定石に従うなら、こういうのは本体さえ倒せば止められると思ったからだ。

「そんなものが効くと思うな!」

もう一体、水で出来た兵隊が現れる。
その兵隊は、赤也に向かって一直線に走り出した。

「オラァ!」

無機物相手に容赦はしない。
赤也は矢を発射した。
ヘロヘロとした軌道を描いた矢は、水兵(シーマン)の一部を弾け飛ばせただけに終わる。

「やべっ、外した」――そう言おうとした赤也の頬に、激痛が走る。
殴られたのだと理解したのは、数メートルほど地面を転がった後だった。

「君達を殺せばペットボトルが大量に手に入る――」

御手洗は、淡々と告げる。
水兵(シーマン)に、圭一の首を締めさせながら。

「そうなったら、もう誰も僕を止められない」

御手洗は、持っているペットボトルを全て空にした。
この後海で水を補給できるのだ、使い切らない理由はない。
今、水兵(シーマン)は二体いる。
一人一人はやや非力だが、それでもただの人間を殺すには十分だった。

「無様に仲間を捨てて逃げ出してみるか?
 そうしたら、自分だけでも逃げられるかも知れないぞ?」

勿論、逃がす気なんてない。
ただの人間くらい、いつでも追撃して殺せる。
分かっているからこそ、御手洗は己の内の黒い感情を赤也にぶつける。
人間は醜いのだ。仲間を捨ててその醜さをさらけ出せよ、と。

「どうせ、短い付き合いなんだろう」

しかし、誤算があったとすれば――赤也は、ただの人間とは少し違ったことだ。

「冗談じゃねえっ……」

赤也は、立ち上がる。
その手には、矢が一本。
弓は捨てた。どうせ、使えないのだから。

「誰が素直にそんな言葉に従うかよ――!!」

赤也は、ただの人間ではない。
一流のテニスプレイヤーである。

だから、右手に矢を持って。
左手には、弓ではなく石ころを持って。

そして、その石を空へと放つ。

「ぶちのめしてやらァァーーーーーッ!!」

矢を持つ位置を調節し、ラケットの長さと同じにする。
そして、放った石をラケットに見立てた矢で弾き飛ばす。

勿論簡単なことではない。
鍋の蓋でも先端に括りつけてたら話は違っていただろうが、何せこれは単なる矢、もっと言うなら棒である。
普通の人では掠ることすら困難だろう。
テニスプレイヤーですら、威力・コントロールを両立させるということは難しい。

「何!?」

だがしかし――赤也は、知っている。
十字にのみガットを張ったスカスカのラケットでジャックナイフを放つ男を。

赤也は、知っている。
テニスプレイヤーに不可能はないと。
十字だけのラケットでも、棒切れでも、テニスは出来るものなのだと。

「水兵(シーマン)ッ!!」

一直線に御手洗へと向かう石。
しかしそれは、奥の手として隠されていた三体目の水兵(シーマン)によって薙ぎ払われた。
コントロールを重視するあまり、威力が低下していたのだ。

「今のは少しヒヤッとしたよ……でも、終わりだ」

先程赤也を殴りつけた、今しがた石を防いだのとは違う水兵(シーマン)が、赤也の顔に飛びかかる。
そして――顔を、覆いつくした。
まるで水製フルフェイスヘルメット。
勿論、空気なんて欠片もない優れもの。
どうです、奥さん。今ならお安くしておきますよ。

「がぼっ……!?」

水兵(シーマン)は足を赤也の首にかけ、ガッチリと首をホールド。
赤也を、陸の上で溺死させにかかったのだ。

「水死は苦しいよ。大人しく地面を無様に転がってたら、楽に死ねたかもしれないのに」
「冗……談……ぬかせっ……!」
「大真面目さ。そのモップみたいな頭で、荒野のチリでも掃除していればよかったんだ」

ここは、荒野。
地面を転がった赤也の髪には、砂埃や石ころが大量についていた。
――それは、拾い上げて放てる石が多いことも意味している。

「てめ……今何つった……」
「聞こえなかったのか? 小馬鹿にしたんだよ、君のことを」

石を手に、最後の一撃に賭ける。
その間際に聞こえた言葉に、赤也は反応してしまう。

御手洗としては、仲間のために戦おうとした相手に対する苛立ちを、ただ暴言に込めただけ。
だがしかし赤也にとっては、触れられたくない身体的特徴への挑発に聞こえた。

「理解したかい、モップくん。いや、水の中に漂ってるし、ワカメちゃんって言ったほうがしっくりくるかな」

かくしてそれは口にされた。
赤也をテニスプレイヤーから超一流のテニスプレイヤーへと進化させるキーワードを。

赤也の肌が、染まっていく。

「な、何だ!?」

御手洗も、驚愕を顔に浮かべる。
少なくとも、肌の色や眼の色が変化するなんて人間は、今まで見たことがなかった。
ましてや自分やロベルトと違い、ただの人間としか思えぬ戦い方をしていたのに。

「水兵(シーマン)、そいつを窒息させろッ!
 何をやっても無駄だッ! 僕の水兵(シーマン)はもうお前からは離れないッ!」

首に取り付いた水兵(シーマン)は、如何なる手段を用いても外すことがもうできない。
そのことを知ってか知らずか、赤也は自身を溺れさせている水兵(シーマン)を倒すことを諦めた。

狙うは、一人。
その本体、御手洗清志だ。

「ぶっ潰してやるぜェェーーーーーっ!!」

大きめの石を、二つ宙に向けて放つ。
しかし御手洗はその石ころを撃墜しない。
下手にそいつを叩き落としに水兵(シーマン)向かわせて、防御を薄くするわけにはいかないのだ。

何せこのまま気絶さえしなきゃ二人殺害できるのだ。
防御に徹するのが一番に決まっている。
水兵(シーマン)には如何なる打撃も通じない――即ち、負ける要素はないのだから。

「ハッハーーーー!!」

およそ矢と石で出せるような音ではない、まるで爆発音のような音が響き渡る。
矢はへし折れ、その半身が宙を舞った。

その威力は、尋常ではない。
並のテニスプレイヤーでは――それこそ、本来の赤也ですら、出せない程の超威力。
デビルと呼ばれる存在と化した今だからこそ、発動できる超威力である。

「何ィ!?」

その軌道は正確無比。
一流テニスプレイヤーにとって、複数のボールを同時に別のコースに打つなど造作もないこと。
そして同時に、溺れながらプレイできるプレイヤーもいると聞く。
今のデビル赤也にとって、身体の自由が効く状態で狙い通りに超威力を叩きこむなどわけなかった。

「ぐはっ……!」

だがしかし――普通に行けば、御手洗に攻撃など届かない。
水兵(シーマン)が全てを飲み込み、防いでくれるはずなのだから。

しかし現実に、御手洗の腹に石ころがめり込んでいる。
では、一体どうやったのか――

「馬鹿な……ぼ、僕の水兵(シーマン)が……」

再び、御手洗は水兵(シーマン)を出す。
だがしかし攻略法を編み出したデビル赤也に、その防御は通用しない。

――その理由は、デビル赤也の仕える技の一つ『広範囲攻撃』にある。

かつて全国大会決勝戦において、海堂薫と乾貞治を同時に吹き飛ばしたスマッシュ。
名も無き技だが、『二人を一球で同時に吹き飛ばす』ほどの威力を持つのだ。
風圧なのか、回転による何かなのかは分からない。
それでも、まるで稲妻かのようなその打球は、人二人を吹き飛ばす威力があるのだ。

赤目モードで、それだけの威力だったのだ。
パワーアップしたデビル状態でそのスマッシュを放ったのなら。
果たして、人より軽い水などどうなってしまうのであろうか。
直撃させたら取り込まれるが、地面に当て風圧か何かでの攻撃のみを当てたなら、脆い水兵(シーマン)はどうなるだろうか?

「ヒャヒャヒャヒャ!!」

答えは、簡単。
水滴となり飛び散るのである。
そして再び塊となる前に、超速度で放たれたスマッシュが御手洗の体に突き刺さるというわけだ。

「何がシーマンだ! あのキモい人面魚のゲームがなんだっつーの!」

顔面に石ころを受け、御手洗は意識を手放した。
無理もない。
石ころよりも安全なテニスボールですら、乾貞治は気絶したうえに全身包帯巻きを余儀なくされたのだ。
石ころで殴打されつづけたら、意識を手放してしまっても無理は無い。

ましてや御手洗は、ここまで傷つくことになれていない。
無敵の防御を誇るだけに、絶対優位の雨の日ばかりに活動していたばっかりに、死ぬほどの痛みに慣れていなのだ。
だから、乾のように瀕死になっても立ち上がることができなかった。
慣れない痛みに怯え、苦しみ、逃避のために意識を手放す。

――その結果赤也と圭一が解放され、赤也によって追撃をされるのだけれども。

「オラァ! どうした立てよォ!!」

悪魔は追撃を止めない。
倒れ伏した御手洗の体に、恨みを込めて石の弾丸をぶつけ続ける。

赤也に、止める気など無い。
相手は殺し合いに乗ってるのだ。
腕を折り、足を折り、戦闘不能になるまでひたすら傷めつけるつもりでいる。

「や、やめろよ! 死んじまうぞ!」

だがしかし、そんな追撃は羽交い締めにより中断される。
声の主から、それをしたのが圭一であるということが分かる。

「無事だったんスか」
「あ、ああ……! だからもうやめろよ!」

圭一は、赤也を止める。
別に、御手洗のことを想ってやってるわけじゃない。

正直言って、御手洗のことは気持ちが悪い。
殺そうとしてきたわけだし、わけのわからない能力を使うのだ。
気味が悪いに決まっている。

では何故止めるのか。
それはズバリ、仲間である赤也のためだ。
こんな状況で短い時間だったけど、友人になれた男のためだ。

友達を、人殺しにしたくない。その想いから、止めに入るのだ。

「放っといてくれりゃいいんスよ。こいつは……痛い目に合わせねーとダメなんだよ!」

そんな圭一の腕を振り払い、赤也は再びスマッシュを放つ。
石ころは御手洗の額に当たり、鮮血を撒き散らした。

「…………!」

圭一の顔が徐々に恐怖に染まっていく。
そのことに、圭一へと背を向けている赤也はまだ気が付かない。
圭一が恐怖してる対象は、既に自分になっているということに。

「ヒャヒャヒャ! もう悪さ出来ねーようにしてやるぜェェーーーーッ!!」

今度は膝を狙い打つ。
膝に石つぶてが当たり、再び血飛沫が舞った。

「……アン? どうかし――――」

背後から、激しい足音が聞こえた。
どうかしたのかと振り返り――見た。
デイパックを引っつかんだ圭一の背中が、どんどん遠ざかるのが。

「……何だよ……行っちまうのか?」

攻撃の手を止め、呆然と呟いた。

――仲間だったんじゃないのかよ。

そんな想いが、赤也の中を駆け巡る。
デビル化しても、仲間と敵の区別が付かなくなるわけではない。
赤也にとって、圭一は言うことを聞くべき相手ではなかったが、戦う相手でもなかったのだ。

なのに。
なのに――

「クソッ……何だよッ! 何だよそれ!」

逃げた。逃げたのだ。
殺し合いに乗ったヤツを、もう人殺しが出来ないように痛めつけていただけなのに。
助け出してあげたのに。
たった一人で、自分を見捨てて逃げ出した。

「クソが! 分かったよ、畜生!」

最後に一発、御手洗に蹴りを入れる。
それからバールのようなものを拾い上げた。

「所詮殺し合い……どいつもこいつも自分が可愛いってことかよ!」

デタラメにバールのようなものを振るい、歩き出した。
苛立ちを晴らすように、暗闇を殴り続ける。

「いいぜ、上等だ! 俺だって自分が可愛いからな!」

バールのようなものを振るい、どの長さで手にすれば振りやすいかは大体つかめた。
――これで、戦う事ができる。

「そっちがその気なら容赦しねえ!」

赤也は気が付いていない。
人殺しという一線の大きさを。
だから気が付いていない。
容赦しないと言いながら、御手洗にトドメを刺さずにその場を離れた矛盾を。

「返り討ちにしてやる――――ッ!」

デビルは歩く。
どうにもならない苛立ちを抱え。
テニスと違い終わりの見えない試合の中で、その苛立ちを消化するために。






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






「あ、あの、大丈夫ですか?」

御坂美琴が吉川ちなつに追いついた時、吉川ちなつは一人ではなくなっていた。
(ちなみに、一人は危険だから早急に近付きたかったのだが、走りにくいとか行って手を引いている相馬光子が足を引っ張ってきた)
今ちなつは、傷だらけで倒れた少年に声をかけている。

「ね、ねえ、死んでるの?」

光子がやや上ずった怯えたような声を出す。
美琴は答えず、ゆっくりと少年に近付いた。
そしてその脇に屈みこみ、手首へと手を回す。
掌に、確かな鼓動が感じ取れた。

「大丈夫、生きてるわ。酷く殴られてるけど……」
「怖いっ……こんな……やっぱり殺し合いは始まっているんだわ……」
「相馬さん……」

涙を浮かべる光子を見て、ちなつが心配そうに声をかける。
まだ光子が怖いのだろう、距離はしっか取っている。
それでも心から心配そうにしていることから、光子のことを信じようとしていることが感じ取れた。

「とにかく、病院に行きましょう。そこまで行けば、治療も出来るかもしれないし」

言うが早いか、美琴は少年――御手洗清志を背負う。
美琴には、怪我を負ったこの少年こそ殺人鬼だという考えが欠けていた。
単純に、襲われたものと思っている。
ちなつにしてもそうだった。

――その中で、光子だけが、その可能性を考慮している。

(全くお馬鹿さんね……返り討ちにあった殺人鬼って可能性もあるじゃない……)

だからこそ、光子は病院へ行くことを反対する。
戦う相手が万全になる、なんてことを避けるために。

「い、嫌っ……病院って、怪我人を襲おうって人が集まってきそうじゃないっ……」

もっともらしい理屈をこねて、病院行きに何色を示す。
だがしかし、気絶した御手洗を連れていくことに反対はしなかった。
あまりにも薄情な印象を与え、好感度を下げたくないというのもある。
些細なことで美琴と意見を違えるのは下策であるというのもある。

しかし一番の理由は、御手洗が“少年”であるという点だ。
本来光子は、男を相手に騙くらかすのを得意としている。
女だらけでいるよりも、ゆっくりと篭絡できる男を混ぜておいた方が、光子としては好都合なのだ。
それには、御手洗が殺し合いに乗っていようといまいと問題なんて無い。

――むしろ、乗っている方が、同盟を結びやすいとすら思っていた。

しかし、所詮は男と女。
セクシャルという武器をこちらが持っているとはいえ、筋力という武器においては圧倒的にあちらが上。
相手が殺し合いに乗っていて、なおかつ篭絡に失敗した場合、待っているのは肉弾バトルの末の死だ。
そうなっていまう可能性を減らすためにも、怪我を治されては困るのだ。

「でも、放っておくことはできないでしょ?」
「だったら、デパートで調達できるもので簡単な治療でもいいんじゃ……
 そこまで酷い怪我には見えないし、その方が皆の安全にも繋がるわよっ!」
「デパートで治療って……どうやるのよ」
「うーん……洋服を切り裂いて包帯に、とかですかね」

ちなつが、何の気なしに口にした言葉。
それが美琴を悩ませる。

(やっぱり、この子も病院に行くのは怖いものなのかしら)

光子だけならまだしも、ちなつまで反対しているのだとしたら、病院に行くのは下策なのかも知れない。
美琴はそう考えた。
だがしかし、怪我人のことを考えると、病院には行っておきたい。

(でも、二手に分かれるわけにもいかない……二人共違った意味で一人には出来ないし、かといって二人っきりにもさせられないし……)

決定権は、美琴の手にある。
それを分かっているからこそ、美琴は二人に――主に、ちなつに。ていうか、完全にちなつだけに――気を使う。
それ故に、迷っているのだ。

だがしかし、決断はせねばならない。
いつまでも、こうしているわけにはいかないのだ。

わけのわからぬ音楽が、今も鳴り響いているのだから。






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






走る。走る。
前原圭一は走る。

目の前で起きた、理解不能な出来事。
ちょっとやそっとのことでは驚かない自信があったが、あれはちょっとやそっとのレベルではない。

水の化物。
そいつがまるで意志でも持っているかのように襲ってきたのだ。
そして、そいつに殺されかけた。
そのことが、とてつもない恐怖体験として脳に刻み込まれている。

だが――それよりも、もっと恐ろしいこと。
それが、切原赤也の豹変だった。

肌の色も、眼の色も――全てが、変わってしまった。
まるでそれは悪魔のようで。
襲撃者を嬲る姿は、殺人鬼のように見えて。

止めようとは、した。
それでも彼は止まらなかった。
あの気さくだった少年は、もう居なくなってしまったのだ。
居たのは、凶暴な殺人鬼。
だから、逃げてきてしまった。


――“みんなで”生きて帰ると決めたのに、赤也はこの場所で作った最初の友達だったのに。


――赤也は、危険を顧みず自分を助けてくれたのに。


俺は、赤也を見捨ててしまった――――


胸がチリチリと痛む。
それでも足は止まらなかった。

怖かった。御手洗清志が。
怖かった。切原赤也が。
そして怖かった――自分も、ああいう風になるのでは、と。

理解しがたい非科学的な現象が、自分にも振りかかることが恐ろしかった。
殺し合いの誘発のため、赤也のように謎の豹変をさせられるのではないか――
そう考えるだけで、泣き出しそうになった。

それでも、走る。
涙は既に溢れているけど、気にもとめずに走り続ける。
恐怖と絶望から逃げるために。
希望を信じる事を忘れてしまいそうな自分自身から、ひとまず目をそむけるために。

前原圭一は、一心不乱に走り続ける。
物理的には、ひたすら前へ。
精神的には、後ろ向きに。






 ☆  ★  ☆  ★  ☆






御手洗清志の敗因。
それは人への憎悪。

憎悪があるから、音声が聴こえてきた際、逃がすものかと目的地を海から変更してしまった。
憎悪があるから、嬲りにいって反撃の機会を与えた。

けれど――御手洗清志は、変われる。
それは別に、人間に思いを寄せる方向だけとは限らない。
人間を、憎悪している人間を、表面だけでは受け入れて、利用するという道。
それを選ぶという形でも、御手洗清志は変わることが出来るのだ。
更に落ちて行くという道も、彼には用意されているのだ。

目が覚めた時、御手洗清志はどうするだろうか。
手傷を負い、水の量の大切さを痛感させられた直後だが、構わず襲撃するのだろうか。
自分を助けた少女達に、心を開いていくのだろうか。
それとも相手を利用すべく、自身の正体を偽るのだろうか。

それはまだ、分からない。



【F-4/荒野/一日目・黎明】

【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
基本行動方針:皆で生きて帰りたい
1:何なんだよあれ……脱出なんて本当に出来るのか……?
2:逃げ出した自分が情けない
※ラジカセは放置してきました


【切原赤也@テニスの王子様】
[状態]:デビル化
[装備]:バールのようなもの、弓矢@バトル・ロワイアル
[道具]:矢×数本
基本行動方針:思うままに行動する
1:乗ってる奴には容赦しねえ!
2:超イライラする。破壊衝動がパねえ。


【御手洗清志@幽遊白書】
[状態]:左手首から出血(血液300ml消費)、全身打撲、気絶
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(ペットボトル全て消費)、不明支給品(0~2)、鉄矢20本@とある科学の超電磁砲
基本行動方針:人間を皆殺し。『神の力』はあまり信用していないが、手に入ればその力で人を滅ぼす。
1:やはり水が欲しい。ペットボトルだけじゃ足りないことを痛感。
2:エリア西部を中心に参加者を狩る。第二放送の時間に、ロベルトと中学校で待ち合わせ。
3:皆殺し。ただしロベルト・ハイドンと佐野清一郎は後回しにする。
[備考]
※参戦時期は、桑原に会いに行く直前です。
※ロベルトから植木、佐野のことを簡単に聞きました。

【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3、ナイフ、スタンガン
基本行動方針:仲間と一緒に生きて帰る。人殺しはさせない
1:病院に行くか、否か……決断しなくちゃ
2:ちなつと相馬の着替えを探す。
3:佐天さんと初春さんを探す。黒子はしばらくは大丈夫でしょ

【吉川ちなつ@ゆるゆり】
[状態]:健康、スカートと下着が濡れている
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
基本行動方針:皆と一緒に帰る。
1:着替えがほしい。

【相馬光子@バトル・ロワイアル】
[状態]:健康、スカートと下着が濡れている
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~1(武器じゃない)
基本行動方針:どんな手を使っても生き残る。
1:美琴を殺す隙が見つかるまでは仲間のフリを続ける。
2:御手洗を篭絡して手駒にしたい
3:着替えがほしい




【バールのようなもの@現実】
ニュースを騒がす打撃兵器の定番。
バールと何が違うのかはよく分からないけど、とにかくバールのようなものらしい。
主に殴るのに使用する。

【弓矢@バトル・ロワイアル】
原作バトル・ロワイアルにおいて川田章吾が自作した弓矢。
弓で支給品1枠、矢で支給品1枠という扱いだった。
なお、それなりに実践に耐えうるように作られている。
本当にただの中学生かよ、川田……



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最終更新:2012年04月01日 00:15