繁華街へ向かう途中に、何かが破壊される雷のような音が遠くで響いた。
「誰だかが喧嘩おっ始めてやがるな……」
スピードワゴンは低く唸った。チンピラの縄張り争いなら無視できるが、
もし弱者が一方的に攻撃されているのなら、黙って見過ごすつもりは無い。
「ちょいと様子を見に行っとくか……」
進路を変え、【D-4】へと足を向けた。

* *


ホル・ホースは、ズキズキと痛む脇腹を押さえながら逃げていた。
非常に走りにくいが、荒く息を吐きながら体を引き摺るように前へ進む。

なぜ彼がここまで必死になっているのか。それは先程、鈍く重い金属音が背後で轟いたからだった。
(あの音からすると、きっと近くだ。このまま留まるのはマズイ!)

けれど、さっきから体が重く、だるい。
呼吸に合わせて傷口が脈打っているのを感じる。


「んがッ」
とうとう、足を縺れさせて転倒した。
(は……早く、ここから離れねえと……)
焦る頭とは裏腹に体は休息を求めていた。
地面に両手をつき呼吸を整えていると、地面が濡れた。
それは彼の額から滴った脂汗だったが、ホル・ホースは雨が降ってきたのだろうか、
とぼんやりと考えて空を見上げた。

キラリ。

(ン……?)

光を伴った岩が、あちらこちらから、どこかへ降り注いでいる。

(な……なんだ、ありゃあ……!?)
ホル・ホースは上を向いたまま怯えた猫のように身を縮め、一歩後ずさった。
(ヤバイ。ヤバイ、ヤバイ……とにかくヤバイ!)
ホル・ホースは体に鞭打って、再び疾走し始めた。

(隕石だか、胆石だか知らねェが、なんであんなもんが空をブッ飛んでんだ!!
それに、あっちでもこっちでもビルの取り壊ししてるみてーに、スゴーンバゴーンって派手な音出しやがって!)

彼は腹の中で毒づきながら、内心は怯えていた。
もしあの隕石や轟音の原因がスタンドだったら……。
その本体であるスタンド使いがこのゲームに乗っていたら……。
そして、うっかり鉢合わせしてしまったら……。
果たして、自分はこの先も生き残れるのだろうか、と。

* *


「おいおい……」
スピードワゴンは冷や汗を流した。

空を流れていったのは、隕石だろうか。
それらが向かった方向から、かすかな地響きが聞こえた。
珍しい物を見られたと喜ぶべきか、天変地異だと危惧するべきか……。
(ジョースターさんは、無事なのか……? あの音と隕石が落ちた場所にいないでくれよォ……)


そう思いながら少し進むと、1人の男が倒れているのが見えた。
「おい!」
小声で呼びかけ、肩を叩いたが、反応は無い。
しかし脈はあるし、呼吸もしている。気絶しているだけのようだ。
男は手足と脇腹に、刃物で切られたかのような傷を負っていた。
(これは……“刺した”傷じゃあなく、“斬られた”傷……? 
しかも、傷口には火傷がある。普通、刃物でこんな風に傷が付くのか?)

一瞬、“波紋”の文字が頭に浮かんだが、彼はそれを振り払った。
(とにかく、どこかで手当てをしてやらねえと……)
辺りを見回し、民家を見つけた。奇妙な建物だが、今はそれに注目している場合ではない。
スピードワゴンは、気絶している男を抱えた。

* *


「う……」
ホル・ホースは目を開けた。
天井に消えた電灯が見える。ちょっと混乱したが、状況が理解できた。目を瞑ってニヤリと笑う。
(なあ~~~~んだ夢か……それじゃゴロゴロしようっと……
…………………………いやいやいやいやッ!!??)

今度は飛び起きた。電灯は、彼が普段見慣れているものではなかった。
いや、電灯だけではない。辺りにあるもの全てが知らない物だらけ――つまり、他人の家に自分は寝ていたのだ。


「お。やっと起きたな」
顔に傷がある男が、ひょっこりと顔を出した。

ぽかーんとしているホル・ホースに、男は言った。
「『誰だ?』って聞きたそうな表情してんで自己紹介させてもらうがよ。おれぁ、おせっかい焼きのスピードワゴン! 
怪我したあんたが心配なんでここまで連れて来た!」
自分の脇腹を弄ると、包帯がしてあった。
「ああ、それかい。包帯はこの家で見つけたんだけどよ、薬はあんたの支給品を使わせてもらったぜ。
この家で薬箱を見つけたが、包帯しか入ってなかったんでな」
スピードワゴンが示したテーブルの上に、チューブ入りの薬があった。

「そ、そりゃあ面目ねぇ……」
(なんだ……やっぱり現実なのかよ……)
ホル・ホースは手探りで自分の帽子を見つけ、頭に被りながら言った。
「ホル・ホース。おれの名前だぜ……。助けてくれて、ありがとうよ」
「いや、礼にはおよばねえさ」
スピードワゴンは腰に手を当て、辺りを見回した。
「しっかし……この家にはランプがねえんだ。明かりを点けるのは得策じゃあねえが、
蝋燭の一本くれえあっても良さそうなのによ……」
(ランプ……? ランタンって事か? 確かデイパックの中には懐中電灯があったはずじゃあねーか。
それに、これだけ小さな明かりならバレないんじゃあねえの?)
ホル・ホースは、目に付いた傍らのベッドランプのスイッチを押した。
しかし、電気は点かない。
(ああ、なるほど……。電気が来てないのか)
納得するホル・ホースをよそに、スピードワゴンは言葉を続ける。
「食料もねえし、果物ナイフさえもありゃあしねえ。いかにもサバイバルゲーム、って感じだな」


ホル・ホースは心の中で頷いた。そう、これはサバイバルゲームだ。
1人しか生き残れないはずなのに、怪我人である自分を介抱するとは……。
本当にこの男はおせっかい焼きなのか、それとも別の狙いがあるのか……。


「なあ、あんた」
「あ……、ああ、何だ?」
スピードワゴンに声を掛けられ、ホル・ホースは顔を上げる。
「あんた、その怪我からすると誰かとやり合ったんだろ? どんな奴にやられたんだ? 顔は覚えてるか?」
こいつ人を探しているな、とホル・ホースは直感した。能力や場所よりも先に相手の容姿について聞いているのが、何よりの証拠だ。
「ああー、それがよォ、不意打ち食らったんで、相手の顔どころか姿すら見えなくってな。命からがら逃げてきたのよ。
……ったく、ヨソ見している隙に攻撃仕掛けてくるなんて、卑怯なヤローのする事だぜ。なあ?」
「……だな」
ため息交じりに相槌を返された。何か考え事をしているようだ。
つられて自分も考える。今後の身の振り方について、をだ。
死ぬつもりは無い。絶対に死にたくは無い。こんなので死んで溜まるかってんだ!!
……かと言って、1人で87人に対抗できる訳も無い。
だが、自分はコンビを組んで初めて能力を発揮できる。こういう命を脅かすような状況下では、
どっちが上だ、下だという意見がぶつかるのはよくある事。
(まずは下手に出てリーダー気取りの奴にヘーコラしておいてから、隙を突いて寝首を掻く)

そして、チラリとスピードワゴンを見た。
(こういう世話好きには協力する振りをして、いざとなったらポイ……もしくは殺せばいい。ま、盾くらいにはなるだろうよ)
自分を助けたくらいなのだから、仲間集めをしたいと思っているのだろう。だが、人数が多くなればなる程、殺すチャンスは減る。
それを念頭に置いておかねえとな……。
ホル・ホースは帽子を目深に被り、ほくそ笑んだ。

* *


(チッ……丸腰だったから助けてみれば、こいつぁ一癖も二癖もありそうな奴だぜ……)
「不意打ちを食らった」というホル・ホースの話を聞いて、スピードワゴンは彼の言葉の中の嘘を嗅ぎ取っていた。
(不意打ちだったら、手足や腹なんて狙わず、まずは急所である頭部を狙うはずだ。
嬲り殺すのが好きな奴に攻撃されたのだとしても、逃げ切れるほどの軽い怪我だしな……。
威嚇の攻撃でもないだろう。深い傷を負うまでこの男が引き下がらなかった、ということになる)
そこまで考えて、スピードワゴンはすぐに何かに引っかかった。
(だとしたら、なんでこいつ、丸腰なのにすぐに引き下がらなかったんだ……?)

ホル・ホースを見やると、ちょうど彼も顔を上げたところだった。
「大変な事になっちまったけど、まっ、仲良くやろうぜ……スピードワゴンの旦那」
彼はニッと笑うと、右手を差し出した。
「だ、旦那ァ!?」
「おうよ。あんたが1番、おれが2番。それでいいだろ? 命の恩人だもんよ。指揮はあんたに任せるぜ」
スピードワゴンはホル・ホースの手を見つめた。

(ジョースターさん、おれぁ、あんたに顔向けできねえことはしねえぜ)

スピードワゴンは、ホル・ホースの手を握った。
彼もまた、手を握り返してきた。
力強く、しっかりと――


【E-4 民家/1日目 黎明】
【No.2と解説役】

【ロバート・E・O・スピードワゴン】
[スタンド]:なし
[時間軸]:コミックス五巻「悪鬼の最期」にて、ジョナサンとエリナを発見した直後。
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:支給品一式(不明支給品×2)、リサリサのマフラー、民家で見つけた包帯。
(※時計と方位磁石は、ジャケットのポケットに入っています)
[思考・状況]
基本:ジョナサン一人に負担をかけぬよう、自分も弱者を守る。
1. ホル・ホースを警戒しつつ、共に目的を同じくする者との合流を図る。
2.とりあえず繁華街に向かい、食料・武器の調達をしたい(……が、無理かもしれない、と考えている)。
3.地図が正確か確認する(現在も、それほど疑っているわけではない)。
4.あの隕石は自然現象か、それとも……?

[備考]
※ホル・ホースの気絶中に名簿を確認したかどうかは不明。
しかし、ホル・ホースが戦ったのは波紋使いではないかと薄々考えています。
※スタンドについてはまだ知りません。


【ホル・ホース】
[スタンド]:『エンペラー(皇帝)』
[時間軸]:「皇帝」の銃弾が当たって入院した直後。
[状態]:シーザーとの戦いで負った怪我は応急処置済み。
[装備]:なし。
[道具]:チューブ入り傷薬、支給品一式(不明支給品0~2。本人未確認)
[思考・状況]
基本:生き延びるために誰かに取り入り、隙を突いて相手を殺す。
1.ひとまずスピードワゴンと行動を共にし、利用する。
2.女は見殺しにできねー。

[備考]
※先刻の【D-4/深夜】にてホル・ホースの悲鳴が近くの参加者に聞こえた可能性があります。
※スピードワゴンにシーザーとの戦闘の事を隠しています。



※ホル・ホース、スピードワゴンの両者は、隕石を見、鉄塔とスペースシャトルの破壊音を聞きました。


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34:影から支援する男 ロバート・E・O・スピードワゴン 95:オオカミ少年
16:銃はシャボンよりも強し ホル・ホース 95:オオカミ少年

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最終更新:2009年11月03日 20:53