「旦那ァよぉ、いつまでこうしてる気なんだァ?」
リビングのソファーから仰け反るように背後を見やるホル・ホース。
視線の先には口をモゴモゴとさせながらその顔を睨むように見つめるスピードワゴンが座っていた。
「……って、何食ってんだアンタッ!?俺に黙ってッ」
ガバッとソファーから飛び降りるホル・ホースに静止するよう右手を出したスピードワゴンはゆっくりと口の中の物を飲み込み答える。
「質問は一つずつにしてくれよ。まずは……そうだな、今食ったもんだ。ありゃ、紙だ」
何か御馳走を、自分も食べられるかも、と期待していたホル・ホースはがっくりと項垂れ、ため息混じりに
「はぁ~!?そんなもん食っても腹は膨れねぇぞ?どうしちまったんだよ、旦那?」
と呟き力なく床にへたり込んだ。
「あぁ、まぁあまり気にしないでくれ。それで、もう一つの質問に答えなきゃあな。いつまでこうしているのか、だったか?
せっかくだ。ついでに今までに俺がまとめた考えも一緒に話してやるよ」
一呼吸ついたスピードワゴンはゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


* * * *



まず最初に。この名簿と地図はおそらく嘘じゃあないと思う。
だが“嘘でない”っていう証拠はどこにもねぇ。だから俺たちはこの世界を回りながらこの地図が本当かどうか確かめなきゃあならねぇ。
勿論名簿もだ。お前さん、名簿はさっき見たよな?誰か知り合いとか、仲間とか、そう言うのは載ってたか?
……ハン、ダンマリかい。まぁ今回は聞かなかった事にしてやるよ。
一方の俺はってぇと、ジョナサン・ジョースターにジョージ・ジョースター、ウィル・A・ツェペリ、エリナ・ペンドルトン、ダイアーにストレイツォの六人。知り合いだし……大切な仲間だ。

すると次に、じゃあこの人たちを探すのか?って事になる。だがこの人たちは殺したって死ぬような人間じゃあない。俺なんかよりもずっと強くてしっかりしてる。
だから俺はこの六人を探さないッ!まぁ、見つかるに越した事ぁないがな……。
つまり!俺たちがやるべきことは“守るべき人間の保護、志を共にする仲間を探す”事だッ!
これについてはお前さんも異論ないだろ。仲間は多いに限るからな。情報も得られるし名簿の証明にもなる。

んで最後だ。いつまでこうしているか?お前さんが俺に聞いた質問だな。
そりゃ簡単だ。第一回目の放送とやらが終わるまで。放送を聞いたと同時に行動開始だ。簡単だろ?
結局この家は俺達以外に誰も入って来やしなかったんだ。日の出まであと十数分、油断はできないが安全だと見ていいだろう。
……と、こんなもんかね?後は?質問あるかい?


* * * *



スピードワゴンの説明を聞き終えたホル・ホースはハハン、と感心した。
単なるゴロツキではない。可能か否かと言う事を一旦置いて考えれば、なるほど理にかなった意見である。
そして……仲間が多ければ多いほどスピードワゴンは喜ぶし、自分の立ち回りも容易になる。
地図はこの際どうでもいいだろう。“仲間集めに夢中で――”とでも言えば丸め込める、そう結論付けた。
「なるほどな……いいアイデアだ。俺もその作戦に乗るぜ。そんな作戦断るバカはいねぇよ」
その言葉通り、断る理由はどこにもなかった。
「よし。じゃあ決定だな」
とスピードワゴン。だが彼が続けた一言にホル・ホースは驚愕する。
「それじゃあ、荷物まとめて俺は北、お前さんは南だ」
「はァ!?」
まさかスピードワゴンが別行動という方針をとるとは……。慌てて言葉を続ける。
「おいおい旦那そりゃないぜ。俺たちはコンビだ。一緒に行動しないで何になるッ!?」
「落ち付けって。今から理由を説明する。……と言っても答えは単純。効率がいいからさ。
 一緒に行って仲間も見つからず共倒れ、じゃ洒落にならんだろう?」

彼の説明を受けて幾分落ち着きを取り戻したホル・ホースは、ならばと自分のすべき事を考え始めた。勿論怪しまれないように、
「ハンハン、なるほどね。そりゃ当然の発想だわ。さすが旦那だな」
などと答えながら―――
ホル・ホースは他人とのコンビで初めてその力を発揮するタイプである。それは彼自身分かっている事だし、そのために必要な観察眼は十分に養ってきている。
スピードワゴンという“旦那”がいなくなってしまっても新たな“旦那”を見つければそれでいい。
力が強い者の下に付けば生存の確率はぐっと上がる。お人好しの下に付いたならこの作戦通りに“仲間を見つけてきた”と言う事にすれば良い。
そして何より“どう転んでも自分が逃げ延びる事が出来る”というストーリーを作り出せる。
何とも甘っちょろい考えだ。お人好しは自分の盾になって死んでいく。強者が勝手に戦ってくれる。自分が手を汚すことは少ない。これほどいい作戦はないだろう―――
「そこで」
一人考えにふけるホル・ホースの意識はスピードワゴンのその一言で現実に帰る。そこで?そこで何をするのだ?
ホル・ホースがそう聞こうとする前に―――

「あんたに“保険”をかけることにした」
そう言うなりスピードワゴンはホル・ホースの腹部に向かって何かを投げつけた。


「!?おいッ旦那!いやテメェ何しやが……」
そう叫び出すホル・ホースを無視してスピードワゴンは言葉を続ける。彼の腹部には衣類と同化したように真っ白な鼠が写っていた。
「おっと俺を殺すなよ。もう遅い。そいつを外すための“カギ”は、俺を殺したら二度と手に入らない」
「……ぐっ、どういう事だ!?」
ギリと歯ぎしりをするホル・ホース。スピードワゴンは鼻を鳴らして説明を始めた。
「いいか。俺はお前さんを完全に信用しきれない。お前さんは嘘をついてる……おっと、答えなくていいぜ。俺には“におい”で分かる。
 だが、だからってここで殺しちまったら俺はこのゲームに乗っちまった事になる。仲間たちに顔向け出来ねぇ。そこでその“ネズミ”だ。
 説明してやるよ。そのネズミはおよそ十時間でお前さんを攻撃するようにできているらしい。つまり制限時間だな。
 要するにお前さんはその間にさっきの計画通り仲間を見つけるなり地図を証明するなりしないと“心が折れて”しまうんだとよ。
 んで、肝心の“カギ”だが、っと……多くは言わねぇぜ。さっき俺が食った“紙”だ。あそこに全て書いてある。今話した説明も全部書いてあった。答えは俺しか知らねえ。
 “メモを食べたら胃を切り開いても取り戻す”?それも不可能。食べなかった一部はお前さんが居眠りこいてる間に外に捨てちまったよ。うまいこと夜風に乗って飛んでっちまった。
 しかも厄介なのが、手錠や何やらと違ってぶっ壊して取り外すことが出来ない、ってとこだ。腹えぐってお前さんが生きてれば話は別だがな」
「クッ……」
完全にスピードワゴンのペースだ。他人の歩調に合わせなければならない、つまり自分の立ち回りが困難になる。それがホル・ホースにとっては一番の屈辱だった。
「だがまぁ俺も鬼じゃあねぇ。……そうだな、第二回放送後にここにまた戻って来い。“カギ”を教えてやるよ。制限時間が十時間だから六時間後なら余裕だろう。
 悪くないだろ?別に俺だってここで踏ん反り返ってる訳じゃあない、ちゃあんと北に向かうさ。あんたが正直者ならそれでいいんだ。信用できなかった俺が悪いって事で土下座して謝ってやるよ」
計画の全てを聞き終えホル・ホースは観念したようだ。スピードワゴンの胸倉から手を離し倒れるように座り込む。
「クソッ……確かにそれじゃあ俺ぁ従う他ねぇな……あんた、いや……旦那、よ」
「OK。契約成立だ。先も言ったが別に俺はお前さんと殺り合おうって訳じゃねえのよ。さ、とりあえず放送を待つとすっか。
言い忘れてたがソイツは攻撃時以外には何の力もない。“心を折る”以外にはこれと言った能力は無いんだと。っつー訳だから動くことも放送のメモも出来るだろ」
「あぁ。だが最後に。旦那、あんた嘘はついてないだろうな?」
「もちろん。この件で嘘ついて損するのは俺だし、俺ぁお前さんとは違うのよ」
「ケッ」
その言葉を最後に二人の間には再び沈黙が流れ出す。


(俺の皇帝が人型じゃあなくって良かったぜ。スタンド出したらそいつも本体同様腹にネズミがくっついてました、じゃあシャレにならねえからな。だがまぁ、痛みがねぇのが救いだな。
 しかし、クソッ!抜け目ないヤツだぜ……だがこいつが“旦那”の内はしばらく生きていけそうだな。後はどんな奴に出会うか、だな。こればっかりは神頼みか……)
奥歯を噛みしめホル・ホースがぶつけようのない怒りを体内で燃やし続ける。

(問題はコイツが偶然“水”に気付いてしまわないか、それと出会った人間を口先で丸め込んで俺を悪者に仕立て上げるかも知れねぇ、って所だよな。
 だが俺は拷問程度じゃあ絶対に口を割らねえぜ。自白剤でも持ってこられたら話は別だがな……)
自分の計画に一抹の不安を抱くスピードワゴン。

この計画が彼らにどのような出会いをもたらすのか。
そしてその出会いは彼らを生き延びさせる力を持ち合わせているのだろうか。
ホル・ホースの腹の“ダニー”がニヤリと笑ったような気がした。


第一回放送まで―――あと、約五分。




【E-4 民家/1日目 早朝・放送五分前】

【No.2と解説役】


【ロバート・E・O・スピードワゴン】
[スタンド]:なし
[時間軸]:コミックス五巻「悪鬼の最期」にて、ジョナサンとエリナを発見した直後。
[状態]:健康
[装備]:無し
[道具]:支給品一式(不明支給品1、確認済)、リサリサのマフラー、民家で見つけた包帯。
(※時計と方位磁石は、ジャケットのポケットに入っています)
[思考・状況]
基本:ジョナサン一人に負担をかけぬよう、自分も弱者を守る。
1.ホル・ホースを警戒しつつ、共に目的を同じくする者との合流を図る。
2.1のためにホル・ホースと分担で仲間を探す。自分はとりあえず繁華街に向かいその後北に向かう(食料・武器の調達もしたいが、無理かもしれないと考えている)
3.1と2に加え、地図が正確か確認する(それほど疑っているわけではない)
4.ホル・ホースは信用しきれない。そのために保険をかけた。だが心の奥底では信用してやりたいとも思っている。
5.あの隕石は自然現象か、それとも……?(一応確認したいかな、程度の思考です)

[備考]
1.ホル・ホースが戦ったのは波紋使いではないかと薄々考えています。
2.スタンドについて未だ知りません。
3.ネズミについての真相はスピードワゴンしか知りません。


【ホル・ホース】
[スタンド]:エンペラー(皇帝)
[時間軸]:「皇帝」の銃弾が当たって入院した直後。
[状態]:シーザーとの戦いで負った怪我は応急処置済みでほぼ健康。腹部にダニー(身体的な異常は0)
[装備]:なし。
[道具]:チューブ入り傷薬、支給品一式(不明支給品0~2、確認済)
[思考・状況]
基本:生き延びるために誰かに取り入り、隙を突いて相手を殺す。
1.ひとまずスピードワゴンと行動を共にし、利用する。
2.1のためにスピードワゴンの作戦に乗ったフリをする。
3.1と2のため作戦通り南へ行く。具体的な場所等は未定。
4.このネズミをどうにかしたい。
5.女は見殺しにできねー。

[備考]
※先刻の【D-4/深夜】にてホル・ホースの悲鳴が近くの参加者に聞こえた可能性があります。
※スピードワゴンにシーザーとの戦闘の事を隠しています。


※ホル・ホース、スピードワゴンの両者は、隕石を見、鉄塔とスペースシャトルの破壊音を聞きました。


※ネズミについて(SPWの不明支給品のひとつでした)
このネズミは【アクセル・ROの作りだした“ジョニィが捨てたダニー”】です。出典はSBR15巻。
このネズミの解除方法は原作同様“水で清める”だけOKです。ただSPWが教えなかっただけなので偶然的に外すことができるかも知れません。
ロワでの制限として“心が折れるまでには約10時間かかる”というものがあります。
ダニー自体を破壊する事は出来ます(コミック内の描写より)が腹と一体化しているのでまず無事では済まないでしょう。
また、ダニーはあくまでも“シビル・ウォーによって作り出されたモノ”であるのでシビル・ウォーの“罪をおっ被る”という能力は持っていません。あくまでも“心を折る”だけが能力です。
上記が記された【説明書】はスピードワゴンが破り、その一部は屋外へ捨て、残りは食べてしまいました。





投下順で読む


時系列順で読む


キャラを追って読む

53:sub、sab、serve、survivor ロバート・E・O・スピードワゴン 124:太陽(ザ・サン)
53:sub、sab、serve、survivor ホル・ホース 129:活路は前に

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年10月12日 12:01