「ハァ……ハァ……ハァ……」
あの薄気味悪い街から一刻も早く出るために何時間歩いただろうか……
当然歩けば喉も渇く、花京院はデイパックの水に手を伸ばそうとしたが……
「ま……まてよ、毒が入っているかもしれないとさっき自分で言ったじゃないか……ひょっとしたら水を飲んだ途端に口から血を吐いて死んでしまうかもしれないじゃないか……ッ」
そう、つまる所花京院典明は疑心暗鬼に陥ってしまっていた。
殺し合いという異常な状況、首が爆発してミートパイのようにはじけ飛んだ女性、そしてここへ連れてこられる直前の眼前に迫る水のスタンド、その全てが花京院を恐怖という崖に追いつめていた。
当然。食料にも毒が入っていないかと疑う。当然、空腹になればそれ以外の事が考えられ無くなる。
一つの事を疑えば二つを疑う、二つの事を疑えば四つ……
ゆっくりとゆっくりと、しかし確実に疑心の連鎖は続く。
疑心の影がゆっくりと伸び、足を捕まえ引きずり込まれる。
そして全てを疑う様になる、旅を共にした仲間すらも……
花京院はまだその段階ではないが、いつそうなるかもわからない。
いつ落ちるかもしれない、殺し合いとは違う疑心暗鬼の無間地獄。
彼は恐怖を乗り越える事が出来るのだろうか、それとも……


          *   *   *


落ち着け……落ち着くんだ……冷静になるんだ……考えろ……
何とか仲間と合流しなければ……ジョースターさん達ならどこへ向かう?
考えろ……考えるんだ……
しかし、思考を続ける僕に何かが話しかける、ドス黒い何かが。

オイオイ ジョースタータチガ ゲームニノッテナイトハ カギラナインジャナイノカ?

――――――――違う――――――――

ホントニソウカ? ヒョットシタラ オマエガナカマダトオモッテ ユダンシテイルスキニ アヴドゥルガ オマエヲ モヤスカモシレナイゾ?

――――――――違う――――――――

ポルナレフニ キリキザマレルカモシレナイゾ? ジョウタロウニ ナグラレルカモシレナイゾ? ジョースターニ イバラデシメラレテコラサレルカモシレナイゾ?

「違うっ! 違うっ! 彼らがそんなことをするものかっ!」

ドウカネエ……ジツハオマエハ リヨウサレテルダケカモシレナイゾ? ディオヲ タオスタメニ リヨウサレテイル ダケカモ……

「黙れっ! それ以上僕に話しかけるなっ! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れっ! 」

ケケケ……オノゾミドオリ ダマッテヤルヨ……ダガオマエガ ココロニヤミヲ モチツヅケルカギリ オレハキエナイ オマエハオレデアッテ オレハオマエデモアル……ソレヲキモニ メイジテオクコトダナ……

「ハァ……ハァ……ハァ……」
なんだったのだろうか……とても恐ろしいなにか……
ジョースターさん達が?そんな馬鹿な、彼らはそんな人間じゃない、そんな……
そんな事をする筈がない……決して……そんな筈は……
駄目だ、この考えに引きずられては駄目だ……引き込まれていく……
振り払わなければ……疑心の底なし沼にはまってしまう……
考えるな、考えるんじゃない、歩け、歩くんだ……そうすれば考えずに済む……
そうだ……デイパック……あのハンカチ以外にも何かが入っているかもしれない。
開けてみるともう一枚、さっきと同じ紙が入っていた。
さっきのハンカチの様な物が出てくるのだろうか、開けてみる。果たして中には……
悪趣味なケースが顔を出す、中を開けてみると……
「これは……トランプ? 」
開けると一枚目からジョーカーが入っていた。あの男、荒木飛呂彦が描かれている。
54枚全てに人物が描かれていた、ジョーカーは2枚とも荒木飛呂彦で、2枚とも同じ人間の筈なのに微妙に違う気がしたが気のせいだろう。
他のカードには承太郎、アヴドゥルさん、ポルナレフ、イギーホル・ホース、DIO、そして自分が描かれている物があった、自分のカードは何故か目に傷跡がある。
あの水のスタンドに目をやられた自分、という事だろうか。
他にも様々な人物が描かれていたが、僕が知っているのは自分を含め6人と1匹だけだ。
このトランプはいったい何なのだろうか? このゲームに参加させられている者達?
いや、数が足りない、88人の参加者に対し54枚のトランプでは足りない。
荒木が推している者、期待を掛けている者、と言った所かもしれない。
いくら考えても埒があかない、一旦このトランプの事は置いておくことにしよう、それよりさっきのハンカチだ、もう一度デイパックの中身を調べている時にハンカチになにかが刺繍されている事に気づいた。
Jonathan Joestar、ジョナサン・ジョースター、名簿の一番最初に記されていた名前、ジョースターの性を持つ者、しかしそれだけでは無かった筈だ。思い出せ、ジョースターさんが言っていた事を……

そもそも旅の目的、ホリィさんを救う為の旅、何故彼女が倒れた?
DIO、ディオ・ブランドーがジョースターさんの祖父、ジョナサン・ジョースターの肉体を奪って生き延び、100年の歳月を経て復活した。
承太郎とジョースターさんのスタンド能力もこの影響で発現したらしい。
しかし、スタンドは本体の精神力で操るもの、闘いの本能で操る者。
その為闘争心がない平和を好む性格のホリィさんにとっては害としかならず、数十日でとり殺される。
その呪縛を解くには元凶であるDIOを倒す事、それしかない。
ホリィさんの命を救うため僕らはエジプトまでの旅を始めた。
話は逸れたが、何故その首から下を奪われたジョナサン・ジョースターの名前が載っているのか?更に言えば何故その次にDIOが本名のディオ・ブランドーの名で載っているのか?
つまりこうは考えられないだろうか?ジョナサン・ジョースターは殺される、ディオ・ブランドーは肉体の大部分を失う前からこの地に呼び寄せられているのではないだろうか?
これなら死んだ筈のJ・ガイルやエンヤ婆の名前がある事も説明できる。
つまり荒木飛呂彦は"時を操る"スタンド使いではないだろうか?
名簿の名前の並び方はグループ別ではなく、時代別という事になる。
ジョナサン・ジョースターからジャック・ザ・リパーまでのグループを時代Aとする、恐らくは19世紀の末、ジャック・ザ・リパーは有名な殺人鬼だ、彼の出没した時期と一致する。
次に、シーザー・アントニオ・ツェペリからカーズまでのグループを時代Bとする。
これは旅の途中でジョースターさんが話してくれた内容と合致する。
次に、ジョセフ・ジョースターからヴァニラ・アイスまでのグループを時代Cとする。
時は1989年、僕の連れてこられた時代でもある。
次に、東方仗助から吉良吉影までのグループを時代D、ジョルノ・ジョバァーナからディアボロまでのグループを時代E、空条徐倫からエンリコ・プッチまでのグループを時代Fとする。
僕から見れば未来の人々、という事になる。とするとこの空条徐倫は承太郎の子孫なのだろうか?

しかし、一概には言い切れない。雲を掴むような話だ、ひょっとすれば同姓同名の別人かもしれない。しかし、幾つかのグループに分けてある事は事実。
この仮説を信頼できる人物に話す必要がある。それも100%信用できる人物にだ。
出来れば承太郎、ジョースターさん、アヴドゥルさんが望ましいだろう。
ポルナレフは……言ってもわからないだろうな。
しかし贅沢は言っていられない、兎にも角にもまずは他の人物と接触することだろう。
そうと決まれば急がねば、ジョースターさん達が簡単に死ぬとは思えないが、出来るだけ早く。


【G-5 中部/1日目 黎明】
【花京院典明】
【スタンド】:『ハイエロファントグリーン』
【時間軸】:ゲブ神に目を切られる直前(目、顔に傷なし。恐怖を乗り越えていない)
【状態】:とても喉が渇いている。周囲を警戒。慎重になりすぎて、疑り深くなっている。
【装備】:なし
【道具】:ジョナサンのハンカチ(ジョナサンの名前入り)、ジョジョロワトランプ、支給品一式。
【思考・状況】
1.自分の仮説を信頼できる人物に話す。(承太郎、ジョセフ、アヴドゥルが望ましい)
2.仲間と合流しなければ…
3.安心して飲める水が欲しい。

※水のスタンド(=ゲブ神)の本体がンドゥールだとは知りません(顔も知りません)
※ハンカチに書いてあるジョナサンの名前に気づきました。
※水や食料、肌に直接触れるものを警戒しています。
※4部のキャラ全員(トニオさん含む)を承太郎の知り合いではないかと推測しました。
※荒木のスタンド能力は時を操る能力ではないかと推測しています。
※1で挙げている人物は花京院が100%信頼できて尚かつ聡明だと判断した人物です。
※決してポルナレフやイギーが信頼出来ないという訳ではありません。


【ジョジョロワトランプについて】
前回の参加者51人に見せしめの重ちー、主催者の荒木飛呂彦が描かれているトランプです。
2枚のジョーカーはそれぞれ荒木飛呂彦(1st)と荒木飛呂彦(2nd)です。



投下順で読む


時系列順で読む


キャラを追って読む

13:一髪の幸運と不安 花京院典明 81:いいのかい、ホイホイついてきて?僕は参加者でもかまw(ry ①

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年11月09日 20:45