夜を刳り抜く獣の眼のような月。

冷やしては水に浸け、繰り返す、擦り切れた自分の手。

彼が目覚めた瞬間、胸を満たしたあの安堵。

骨折した腕で自分を支えてくれた、あの時の感覚。
彼は優しい声で囁いてくれた。

「いつだってささえるさ」

ハネムーンで乗り込んだ客船で、群れからはぐれた鳥を迎えに来た仲間鳥を見て涙していた自分。
誇り高い彼の腕の中にいることに、自分は幸福の極みを味わっていた。

ああ、これは夢、夢なのだ…


でも。

(夫は私を満たしてくれた、私も彼を慈しんだ。
それだけは、今の私にはよく分かっている。私の心が、語ってくれるのだから。)

ベッドを自らの涙で濡らしつつ、エリナ・ペンドルトンは覚醒した。

意識が曖昧なまま、髪をかき上げると、自分の手が凝固した血で覆われていることに気づき、完全に意識がはっきりとした。
外はすっかり日が昇っている。

(なんてこと、先ほどの何もかもを包み込んでくれるような幸福の感覚が夢で、私が弱さ故に起こしてしまったすべての血腥い罪が現実だなんて…)
(私は孤独…)

しかし、先ほどの夢の曖昧な残像に、ジョナサン…と呟くだけで心臓が持ち上がるような硬い緊張がゆっくりとほどけるのだった。
大きすぎる不幸の連続に、錯乱していた思考が、徐々に、徐々にまとまってゆく。

昨夜のジョナサンは、一体なんだったのだろう?今、彼は何をしているのだろう?孤独に酔いしれ、あてどもなく彷徨っているのだろうか?
誰が彼を、癒してあげられるのだろう?

私が犯した全ての罪悪を、彼はどう思うのだろう?
(軽蔑するだろうか、彼は?それだけは耐えられない、心が折れてしまう…)

ぎゅっと目をつぶり、シーツを握りしめて思う。
(冷静さを取り戻すのですエリナ、お義父さまのこと、逃げてはいけない。考えて考えて!)

今!お義父さまを助けられるのは、宇宙で私だけ。

必死に記憶を手繰り、逃げていた昨夜の記憶を、今度は追いかける。
確かに義父の体には死の実感があった。
(ではあの奪われた魂は…?私が何もしなければ、今人形に閉じ込められている義父の魂は、永遠に苦しみ続けるだろう…
こんなことは無実に対する不当な仕打ちだわ!彼が何をしたというのです…でも、私がそのきっかけを作ってしまった。)

しかし、そこでふと気が付く。あのテレンスという執事の男性は、彼(テレンス)を殺すと、義父の魂も天に召される…と言っていた。
つまり、現状ではエリナがチケットを使わない限り、誰にも気づかれないテレンスが無事ならば、義父の命はひとまずは安全…
もしそうだとすれば、彼(テレンス)は…

「まさか!”敢えて”!!」
義父の魂を傷ついた肉体から離し、人形内に確保することで、ひとまず命を預かってくれたのでは!?
しかし何のために?控えめに見ても、そのような慈悲心を持っている人間には見えなかった。
義父を助けることが何か彼のメリットになるのだろうか…

(彼とは必ず再会しなくては。お義父さまを助けて、聞きたいことも山ほどあるのですもの…)

肉体から離れた魂を元に戻すにはもう一度、あの奇妙な執事の男性・テレンスと賭けをし、勝つこと。
しかしエリナにそんなギャンブルのスキルはない。自分には「”勝つ”ために何をすればいいのか」というギャンブルの基本的な精神の問答がわからない。
そんなものとは無縁の世界で生きてきたのだから。
自分は無力ということを受け入れ、無茶な事をして事態を悪化させないことが最良…

つまり、プレイを請け負ってくれる人物を探し、自分の魂をチップにしてもらい、もう一度挑む。
しかし、そもそもこの状況下、自分のように訳もわからず、錯乱している者の方が普通なのではないのか?
そのような中で見ず知らずの他人に、協力を仰げるのだろうか…
ましてや、自分の身に起こったファンタジーやメルヘンのような出来事を誰かに話して、信じてもらえるのだろうか?

(信じてもらえるようにしよう。協力してもらう、そのためになら何でもしよう。私の軽率な行動のために、義父を悠久の苦しみの中へ落とし込んでしまったこと、
私が弱さ故に流され、犯してしまった罪、包み隠さず話そう。それでお義父さまを助けられるのならば、自らの薄汚さを告白しよう…)

誇りある淑女として生きてきた彼女には、つらい選択であったに違い無い。
彼女を支えるのは愛=希望!しかし希望は常に、暖かな太陽の光を連れてくるとは限らない。

「ああ、もう私の心は決まってしまった。地獄が始まったのだ!でも、生き抜いて見せましょう。お義父さまの魂を解き放つ
その時まで、決して躊躇はしない…」

ジョナサンには再び会えるのだろうか?あの柔らかな抱擁を、取り戻せるだろうか?

(そしてお義父さまをきっちりと責任を果たして助けることができたなら、ジョナサンにもう一度会って、すべてを打ち明けて…許してもらいたい。
でも今はそのことにはこだわらない。)

「私はジョナサン・ジョースターの妻!彼への愛、これは真実・・・愛とは今この心を鼓舞し、先に進むことを許してくれるものすべてのことよ!
Mr.アラキ、たどり着くことさえ出来たのなら、私の全存在を懸けても、この言葉の意味を教えて差し上げるわ。」

彼女の瞳に燃えているのは、愛を溶かしこんだ漆黒の意志。

そして賭けるは、朧げなれど滅すること無き愛の約定。
混沌たる業を背負うは迷い道、迷いし果てる、その先は…

その先は?


【G-2 ジョースター邸 二階寝室/1日目 午前】

【エリナ・ペンドルトン】
[時間軸]:ジョナサンと結婚後
[状態]:精神疲労(限界)、身体疲労(中)
[装備]: ドレスの裾が破れてSexy 手は血塗れでgrotesque
[道具]:木刀(元々はアレッシーの支給品)。支給品一式。不明支給品残り0~1(確認済)。靴(脱いでデイパック内にしまいました)
    サブマシンガン(残り弾数不明) 。不明支給品0~2(未確認)、ダービーズチケット
[思考・状況]
1.現実を受け入れた。しかし罪を背負った自分は薄汚い。それが悲しい。
2.漆黒の意思(しかし愛が溶け込んでいる)
3.責任を果たすために、自分がどんなに汚れても義父を助ける。そのための協力者を探す。
4.でもなるべく人は殺したくない。
5.ジョナサンを守るための戦いの覚悟はできていた。でも今はジョナサンには会いたくない。ジョージをきちんと助けたらきっと…
6.もし再び会えるのならば、あの男性(ミスタ)に謝罪をしたい。
[備考]
※アレッシーを、「危険人物」と認識しました。アレッシーの支給品には武器が無いと判断しました(あくまでエリナの判断です)
※自分の支給品、アレッシーの支給品を確認しました。
※不明支給品1~2(未確認)とダニーについて書かれていた説明書(未開封)が入ってるジョナサンのデイバッグ、
 タルカスの剣、ジョージのデイバッグの三つがジョースター邸内(C-2)に放置されてます。
※ジョージの魂が奪われたことが真実であろうと嘘であろうと、ジョナサンに合わせる顔がないと思ってます。
 自分のせいで穏やかに死ぬ運命だったジョージを永遠に苦しめる結果にしてしまったからです。
※半信半疑ながらも、テレンスの親切に気がつきました。→テレンスが実はジョージを助けるために、魂を一時預かってくれたのでは…?
※第一回放送を聞き逃しました。
※何時ごろに起きたかは不明。後の書き手さんにお任せします。6~8時の間で、少なくとも日は昇っています。
※行動方針は決まりましたが、どこかへ移動するべきか等、具体的な事まではまだ考えていません。


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最終更新:2009年08月11日 14:21