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『エピタフ』は使わなかった。いや、正確には使えなかった。俺が三人を見つけた時には未来を予測する暇などなかったから。
故に即座に『キング・クリムゾン』を発動、時を吹き飛ばす。
イレギュラーが起きる可能性も考慮すると出し惜しみなどしてられなかった。それに心配性はこの俺の性。
帝王の仮面を脱ぎ去った今でも、スタンドを見せることに抵抗がないわけではない。
しかしそれ以上に目の前で起こる戦闘をなんとかせねば、そう思った故の行動。それに―――

「ジャン・P・ポルナレフだな………?」

『仲間』となってくれそうな………いや、この言葉は適切じゃないな。『仲間』にしたらこれほど心強いヤツはそういないからだ。
だがらこそ、ポルナレフのピンチに割って入った。キング・クリムゾンを見せ、時をぶっ飛ばしてでもヤツに借りを作りたかった。
ゆっくりと辺りを見渡す。緑の閃光を放ったスタンド使いは俺を警戒してか、追撃は放たない。腰が抜けたのか、女も震えるばかりで動きはなし。
これならば問題ないだろ。

「ポルナレフ、色々言いたいことはあるだろうがここは俺と協力してくれ」

さすがに背中を預けるほど信用はできなかった。三人が視界に入るようにしたまま、じりじりとポルナレフに近より声をかける。
その表情は影がさし、伺えない。
…それも当然か。俺に二度まで殺されかけた男だ、いきなり現れ信用しろと言われても無理があるのだろう。
自分の手で始末したはずのポルナレフがいることに驚きはない。どうせ荒木が一枚噛んで亀から移し変えたか何かしたのだろう。
義手や車椅子ではなく五体満足でいるのは荒木の手解きか…?
いや、レクイエムが暴走した際の魂の入れ替え、そしてジョルノのゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの可能性もあるが…今は考えるべきでないな。

状況は未知の存在、俺の介入により硬直化していた。
仕方なく俺は言葉を続けようとし、…そしてどうすればいいかわからなくなり、途方に暮れた。
考えみれば俺は交渉などしたこともなければ他人の顔色を伺い行動したこともない。
ブツの交換は部下任せ。その部下への指示はいずれも一方通行なもの、コミュニケーションとはほど遠い。
自分がいかに愚かに、『帝王』の名にすがりついていたか改めて突きつけられたようで自己嫌悪に陥る。
かと言って黙ってるわけにもいくまい。

「ポルナレフ、ポルナレ―――」
「俺に近づくんじゃね―――ッ!」

立ち上がりかけた体勢から、シルバー・チャリオッツが矢のように飛んでくる。
視界の端で青年が動いたことに気を取られた俺は、不意をつかれて初動が遅れる。
右肩を狙った一振りは体を横にし、なんとかかわすものの体勢があまりに悪い。
そのまま横に剣を一閃、胴体を刈り取ろうという一撃はしゃがみこんでかろうじて避ける。

「くっ!」

仲間に引き込む以上、俺から攻撃するわけにはいかず、反射的に繰り出そうとしたキング・クリムゾンの拳を強制停止。
続く突きのコンビネーションも避ける、避ける、避ける。
だがポルナレフという実力者相手にそれが続くわけもなく、髪が舞い、そして額を切られる。生暖かい液体が額を伝う。
だがこの程度なんら問題ない。シルバー・チャリオッツの利き手の逆側、少しでもポルナレフから距離を取ろうと俺は―――
…マズイッ!血が目に入って―――

「シルバー・チャリオッツッ!」
「キング・クリムゾンッ!」

ドォオ――――――――――――ン………

間一髪だった。後一秒でも時を飛ばすのが遅れていたら、と思うとゾッとする。
それにしても…

「血で目がつぶれて、か」

嫌なことを思い出させる。昔の自分がやったこと、過去の自分がやられたこと。
頭を振り、目の前のことに集中する。ぶっ飛ばした時が再びその秒針を音を立てて刻み始めた。

「え………?」
「こ、これは一体………?!」
「…ッ!間違いないねェ、コイツは………」

手痛い一撃を避けれたとは言え改めて見ると逃げた位置が悪かった。小さく舌打ちを一つ。
前方にはポルナレフ、後方には女、そして左手には青年。
…そもそも俺は現状を完全には把握しきれていない。だが俺が見た光景は青年がポルナレフへ攻撃を仕掛けたもの、青年とポルナレフは対立関係にあると見ていいだろう。
だが疑問が2つ。ならば俺とポルナレフとの戦いに一切干渉しない理由は?確かにさっきの攻撃からして近距離型のスタンドとは言えなそうだが、だったら尚更だ。
もう一つはこの女の立場。どちらとも関係がないならここに留まる必要はない。だがどちらかの味方をするでもない。ならば一体?
そんな俺の思考を遮るポルナレフの声。スタンドと共に構えをとる。今は後回しだ。
今の俺の目的はこの場を治め、ポルナレフを説得し仲間にすることだ。

「てめえのそのスタンド…DIOとはどういう関係だ?」
「…DIO?」
「惚けるな!時を操る能力…承太郎から聞いてんだよ!俺をどうして助けたかは知らねえが三人まとめて問答無用で―――」
「ポルナレフッ!君はまだそんなことを言ってるのか!」
「てめえらの猿芝居に付き合ってる暇はねえ!シルバー・チャリオッツッ!」

…訳がわからない。
切っ先を拳で逸らしつつ俺は今の会話から判明した事実を整理する。
ポルナレフから見たら俺を含め三人が組み、ポルナレフと敵対しているらしいな。どういった過程を経てその結論にたどり着いたかはともかくこれは非常に面倒だ。
ここは一時でもいい、青年と手を組みポルナレフを黙らせるべきだろうか…。

だが徐々にではあるがポルナレフは疲れを見せていた。それに気づかずに、いや、気づいてるからこその苛立ちがますます剣の狙いを疎かにする。
このまま疲れてくれれば俺の話も聞いてくれるかもしれないな。いや、こんなにも消耗しているならば或いは攻めに転じるべき…。
考えてみれば俺自身チョコラータとの戦いで疲労は蓄積されている。やはり早めにこの戦い、終わらせるべきだな。
右に左にサイドステップを踏みポルナレフとの間合いを絶妙に調整する。
踏み込めば下がり、下がれば近づく。剣が届くギリギリの位置を探り、それを維持する。
業を煮やしたポルナレフが不用意に接近してくる。キレのない踏み込みからの攻撃を軽くいなす。これを待っていた。

「キング・クリムゾンッ!」

コンマ五秒だけ時を飛ばす、ほんのそれだけで勝負はつく。
他の二人も俺を攻撃するような素振りはない。ポルナレフの背後を取り―――

「ハッ!」
「ッ!しまった、後ろを…」

キング・クリムゾンの手刀がポルナレフの首筋に振り下ろされる。勿論殺しはしない。しばらくの間、眠ってもらうだけだ。
ようやく俺の目的は達成できた。さて、後は青年と女にどう対処するかだな。
戦う意志がないことは確かだな。ならば話し合えば仲間に引き込める可能性は―――

―――油断はしていなかったはずだ。

「時を止めるスタンド、じゃないわね。じゃないと『気がついたら』脱出していた私の説明がつかない」

だが考えもしなかった。この場には四人しかいない。一体誰がそんなことを決めたというのだろう。ならばやはり俺は油断していた、というほかないだろう。

「でもそんなことはどうでもいいわ。アンタのスタンド能力なんて知ったことじゃない。大切なのはアンタが『時を操れてDIOと関係がある』ってこと」

声は耳元でささやくように俺の鼓膜を刺激する。首を回し、俺は見た。

「疑わしいものはなんとか…生憎私は聖母でもないし、裁判員でもない。だから私の納得するようにさせてもらう」

そこには手のひらサイズの女がいた。だがもう既に、だった。キング・クリムゾンのガードは間に合わない。時を吹っ飛ばすことも連続では不可能。

「父さんを殺った可能性が少しでもある者。荒木への障害となる者。私のような人物を出しかねない戦う者」

まるでスローモーションのように彼女はゆったりと構えを取り、そして―――

「皆まとめて…ぶちのめすッ!」

躊躇うことなく彼女は腰が入った重い一発を俺の顔面に叩き込んだ。

「オラァッ!」




     ◇   ◆   ◇


時が動き運命は回る。

「ヒィイイ………ッ!もう嫌だ………ッ!」
グェスはプレッシャーに押し潰され、わけもわからず自分の命を第一に走った。

「グェス…逃がしはしないわッ!」
徐倫は父の死の疑惑より確信を持てる悪を追う決断をくだす。

「待って下さい、グェスさんッ!くそっ、グェスさんッ!」
花京院はその場の平定よりも友の命を優先した。

「ポルナレフ、信じられなくてもいい。俺の話を聞け………」
ディアボロは最初からの目的と自分の尻拭いを怠らなかった。

「…何度も言うが何も変わらねぇ。例え一人だろうと三人だろうと」
ポルナレフは己を信じ、ただ目の前の『黒』を叩っ切ろうと構えを取る。

五人を巻き込む歯車はまだ止まることを知らない。
さらに速く、さらに多くを巻き込んで、運命は回っていく。




     ◇   ◆   ◇





「…やれやれだわ」

見失った、のかしら。逃げ足だけは相変わらず早いわね、あのゲス野郎。
私は走る速度を緩め周りに耳を澄ます。遠くで何か響くような気もするけど確証は持てない。体の一部を紐に変え、建物の振動を感じ取ろうとするも当たりなし。どうやら完全に撒かれたらしい。
さて、これからどうしたものかしら。さっきの場所に戻って情報を集めるっていうのも悪くはないわ。時を飛ばす男も気になるところだし、もしも父さんの死についてなにかあるとするなら―――

「―――許さない」

だけどポルナレフ、だったかしら。確か父さんの記憶にもいた人。真っ直ぐすぎる正義感は悪い人ではないけれど正直今の私とは交わらない。
往々にしてああいう人は私のような復讐者や目的のために、っていうのを許せない人でしょうね。衝突することは目に見えてるわ。ならわざわざ徒党を組むこともない。

いや、違う。もはや私はこんな殺し合いなんかどうでもいい。
荒木を殺す。
父を殺した相手を殺す。
仲間の仇を討つ。
今、私が存在するのはこの目的を果たすため。それを成すためには私は手段を選ばない。

………とりあえずの目的地はDIOの館って所かしら。地図を眺め、私はその目的地をなぞる。勿論そこに行くのには理由がある。ギリッと奥歯を噛み締めた。
DIO…父さんの記憶に焼き付けられた強烈な人物。そして面会室で父さんが口にした名前。ドス黒い、悪。
そんなヤツがまだ生きてる。父さんが死んだのにのうのうとこの舞台に生き残ってる。それが我慢ならない。
八つ当たり?いいえ、違うわ。だってそうじゃない。悪が、人殺しが最後に残るっていうなら元々その時点で父さんが残ることはあり得なかった。私という枷があったから。
そんなのフェアじゃない。こんな酷いことはないわ。だからこの理不尽を修正するだけ。そこで私が負けたならそれを受け入れるしかない。
尤も私に死ぬ気さらさらない。荒木を殺すまでは私は死ねない。

さて、目的地も決まったし行くか。私は地図をしまい直しデイバックを担ぎ直した。その時だった。
ブゥウウン………と低い排気音とタイヤにブレーキをかける音。これはバイクだ。
油断なく私は構えを取る。そうね、プッチの手下だったらぶちのめす。DIOの手下だったら叩き潰す。他は来てから考えればいい。
建物の角でエンジン音が止む。そしてゆっくりと姿を現したのは―――

『私の名はダービー。D'.A.R.B.Y。Dの上にダッシュがつく…』

ダービー・ザ・プレーヤー。父さんの記憶が一瞬で掘り起こされる。そして向こうが何もしない間に私は大地を蹴った。
空中で弓のように体をしならせ拳を放つ。

「徐倫………!」
「オラァッ!」

見知らぬ相手がなぜか私の名前口にしたのを聞きながら。




     ◇   ◆   ◇




私は無我夢中だった。
コロッセオに潜む人間でない、私のようなスタンドですらない完全なモンスター。
ヤツに現実を突きつけられ私は変わった。徐倫を守るため、この手を汚し、全てを捨ててきた。
だけど、そう、無我夢中だったはずだ。ひたすら徐倫のため殺し、獲物を探し、知恵を働かせた。

徐倫に会ったら?…なんて疑問は一度も私の中に沸き起こらなかった。どうしてだろうか。そしてその答えを私は知っていた。
ずっと怯えていたのだ。変わってしまった私を徐倫は受け入れてくれるのだろうかと不安だった。
徐倫のために殺し、徐倫のために私は生きる。そんな私の存在を本人に否定された、私はどうなるだろうか。

勿論否定される。理解している。その覚悟をもって私は変わったはずだ。だが、それでもいざ本人の口から否定の言葉が吐き出されたとしたら、私はどうなかわからなかった。
感情を捨てホワイト・スネイクに命じられた『フー・ファイターズ』に戻っても徐倫から貰ったものまで私は捨てることができなかった。

「オラオラオラオラオラァ!」

衝撃の再会に動けなかった自分。問答無用の一撃目に加え徐倫の追撃が迫る。徐倫は建物の壁を利用し空高く舞っていた。
空中で自由がきかない人間はいい的だ。いつもだったらFF弾を発射、今頃蜂の巣にしてるだろう。
だが撃たない。撃てない。
撃ったらバレてしまう、自分が『フー・ファイター』であることが。そうしたら後はもう見えてる。
『どうした?何があった?なんでその姿なんだ?その人を殺したのはアナタなの、FF?』…次か次へと尋ねられる。そして、そうなったら…。
人差し指を徐倫に向け、下ろす。重力の力も加わった徐倫のスタンドの破壊力は凄まじく、体のあっちこっちが持っていかれる。近くの民家の壁に叩きつけらる。

どうするべきか。すぐに決断は下された。
逃げるべきだ、迷ってる暇はない。自分はこの姿で人を殺しすぎた。どっちみち徐倫を守ろうとしても一緒にいることはできない。ならばここは逃げるべき。
集合体の自分の体は人間のダメージがダメージでない。素早く体勢を立て直すと自分の位置を確認、後はいかにバイクに近づくかが問題だ。

さて、どうしようか。徐倫の強さはわかっている。誤魔化しはきかない。先のタンクのようなものがあれば話は簡単なんだが。
徐倫は構えを解かない。だが、どこか私に違和感を感じているようだ。あの眉を潜めた時の徐倫の表情は大抵戸惑った時に彼女が見せるものだ。

…いっそのことバイクを捨てるか。足を失うのは痛いが最優先はここを離れること。それに徐倫があのバイクを使えば徐倫が生き残る可能性は上がることは間違いないはずだ。
逃げよう、何も知らない参加者の振りをして。ダービー・ザ・プレーヤーとして無力なスタンド使いを演じ、消え去ってしまおう。
徐倫との距離は10メートルはある。なんら問題はない。グッと脚に力をこめる。威嚇するように徐倫を睨み付け、そして私は脱兎のごとく逃げた。

「待ってッ!」

後ろから徐倫の声が聞こえた。今さら何を言っても私の意志は変わらないさ。そのまま振り替えることなく――――

「待て、『フー・ファイターズ』ッ!」

頭を殴られたような衝撃に足が止まった。




   ◆





バレた、バレた、バレた……………ッ!だが、どうして?なぜ?
いや、そんなことを考えてる場合じゃない。何故も理由も必要はない。今、私が徐倫の近くにいてはならない。さっきそう結論づけたはずだった。
だが動けなかった。

「何故………」

何を聞いてるんだ、私は。そんなことをしてる場合ではない。一秒でも早くここを離れろ。一秒でも長くここにいてはならない。
こうやっているのを誰かに見られてみろ。それだけで徐倫への疑いは深まる。
さぁ、早く………走り出せッ!

「指先を銃のように突きつけたってなんの脅しにもならないわ。もしもなんの仕掛けもなしにマジでやってんなら、本気で頭イッてるわよ」

思考はなんら問題はない。極めて単純な問題、結論はすぐに出た。
だが動けない。走らない。まるで徐倫のスタンドが私をそこに縛りつけたかのように。

「でも私は知ってるのよ、あれはFF弾を放つ時に取る姿勢ってね。だから気づいたのよ、外見が大分変わってたから確信はなかったけど」

徐倫はそんなに私を見てくれていたのか。そんな些細なことで私と気づいてくれたのか。こんな私でも『フー・ファイターズ』と認めてくれるのか。

「………徐倫」

掠れた声。初めて私は『フー・ファイターズ』として声を出した気がする。
今更ながらエートロの声には似ても似つかないな、とぼんやりと思った。
未だ振り向くことができない私の耳にカツカツと革靴が鳴る音が届く。徐倫が近づいてくる。必要ない心臓の鼓動が早くなる。こんな風になるとは思っていなかった。

「まぁ、どうしてそんな格好をしてるかは聞かないわ。それに結構似合ってるわよ、イカしてるわ」

思わず吹き出しかけた。徐倫は何も変わってねぇな…。
それにしてもアタシは意気地無しだな。ビビって振り向くこともできやしない。
いや、待て待て、何をアタシはビビってるんだよ。いつも通り振り向けゃいいじゃねーか。

「それにそっちのほうが―――」

いや、それより徐倫になんて説明すればいいんだ?アタシはこの先どうすればいいんだ?そもそも自分のことを何て呼べばいいんだ?
まぁ、いいや。後で考えよう。もうそんなことはどうでもいいや。
やっと踏ん切りがついたアタシは振り返る。そのアタシの視界いっぱいに―――

「お前を殴るのに躊躇しないですむ」

迫り来る拳が映った。





     ◇   ◆   ◇




「くっ………!」
「…?!なんで………徐―――」

流石の反射神経だ。でもその反応は想定の範囲内。
距離を空けられたら指先からの弾丸がある。それにもしかしたらすでに『分裂』してる可能性もある。
距離をあけるわけには行かない。このまま一気に…ケリをつけるッ!

「オラオラオラオラオラオラオラァッ!」
「くっ………?!」

私の拳に対応するスピード、パワーは流石だ。だけど狙いはそこじゃない。捌ききられても別に構いやしないわ。なぜならこのラッシュの目的は………

「なっ………ストーン・フリーにこんな………?!」

私の右の拳をフー・ファイターズが手のひらで受け止めた瞬間にスタンドを変形、ダメージを与えつつ即席の手錠を作り上げた。そして自分の手首も変えていく。
私の左手首と相手の右手首を繋ぐ手錠の完成だ。
相手はプランクトン、強引に手首を切り落とすなり、関節を外すなり、対処法はあるだろう。けどそこには必ず隙があるはずだ。そこを…叩くッ!
突然のことに対処できてない相手。早速手錠を使わせてもらうわ。
ノーガードの顔面に右足で回し蹴りを放つ。片手でガードするも衝撃は受けきれない。たたらを踏むダービー。左手をおもいっきり引くと完全に体勢を崩した。

「オラァアア―――ッ!」

左手を引くスピードに加え、ストーン・フリー本来の右ストレートのスピードも合わさる。
グシャという嫌な音、複雑だが脆い何かを木っ端微塵にした感触が広がる。
鼻血を吹き出し、呻き声をあげるダービー。
血なんか必要ないくせに。痛みなんか感じてないくせに。
…まだだ、この程度じゃ水があればすぐに回復してしまう。完全に『入れ物』を破壊するまでやらないと。そこまでやってようやく五分五分になる。
ガシャンと手錠が軋む。ダービーはぶっ飛ぶこともできない、エネルギーに従い上半身を仰け反らせるのが精一杯。その足に力は入ってないでしょうね。
体を沈めつつ足払いをかける。当然ダービーは派手にスッ転ぶ。背中を強く打ち付けたからか、あたかも息が止まったかのような声がした。
馬乗りの形、俗にいうマウントポジションを取ると私は畳み掛けようと拳を振り上げ―――

「チッ!」

視界の端に映ったのはありえない方向に曲がった相手の左手首。ほぼ垂直に曲がったその指先から無数の塊が私の顔に風穴を空けんと迫る。
仕方なく手錠を解除して両手のラッシュで超至近距離からの弾丸を全て叩き落とした。だがそれは余りに大きな隙。
なんせマウントポジションなのに両手は弾丸に付きっきりなんだから、そうなるも仕方ないんだけど。

当然のようにダービーは不利な状況から脱出しようとする。鋭い蹴りが私の腹に突き刺さった。
もろに内蔵を蹴られた私は息が止まる。捩じ込まれた蹴りはそれだけに留まらず、私を吹っ飛ばす。

「グウゥ………ッ!」

だが体勢が悪かったせいで蹴りが不十分だったのか、私は空中で一回転。足から着地すると距離を少しだけ取る。
相手もムクリと立ち上がった。左手首を反対方向にグイッと曲げ、重症のはずの骨折を治しながら。

やはり、『フー・ファイターズ』は強い。
自分自身がスタンドであるから近距離にも対応できる。距離を取れば弾切れなしの拳銃を相手にしなければならない。身を隠そうものなら分裂して増える始末、これで水さえあれば無限に回復できるっていうんだから手がつけれない。
やれやれだわ…こいつはヘビーすぎる相手だわ。

でも今ので一つわかったことがあるわ。
コイツは『ダービー』じゃなくて『フー・ファイターズ』。
つまり、ダービーという人間がフー・ファイターズというスタンドDISCを入れたのでなく、フー・ファイターズがダービーの皮を被ってる、そういうこと。
…だけどそれは同時に一つの事実を示していた。どっち、だとかそういうのは関係ない。

「徐倫、どうして…アタシは………」
「その顔、その声で私の名を呼ぶな、『フー・ファイターズ』」

仮にダービーがフー・ファイターズのDISCを入れてたとしてもそれはつまり『FF』が消えたこととなる。
私の知ってるオチャメで破天荒な『FF』はホワイト・スネイクによって『消されて』しまったのだろう。
仮にフー・ファイターズが皮を被ってるとしても、間違いなく一度プッチによって『FF』は『消されて』いる。
私の仲間で、友達の『FF』ならこんなことをするわけがないのだから。

「今私の中で『FF』は死んだ。あんたがどれだけ『フー・ファイターズ』になりきろうとも…私の仲間『FF』は帰ってこないんだから」
「――――ッッッ!」

涙は流れなかった。私の心は涙を流すにはあまりに乾ききっていた。
代わりに沸き上がるのは怒り。友を殺された怒り。友を侮辱された怒り。友でありながら変わってしまったことへの怒り。
私を突き動かすのは復讐心。全て燃やして進むだけ。

「いくぞ、フー・ファイターズッ!」
「アタシは…、いや、俺は、私は――――ッ!」






     ◇   ◆   ◇





「ハァ………ハァ………ハァ………!」

どうして逃げ出したか、なんて聞かれたらすぐ答えれる。
怖かったから。
何が怖かったってそりゃもちろん、死ぬのも怖かったさ。
けどそれ以上に怖かった。

「待ってください、グェスさんッ!待ってください………ッ!クソッ………!」

花京院に否定されるのが怖かった。政府公邸で過ごした時間なんてほんのちょっと、語ってくれたエジプトの旅の仲間とじゃ『友達』の密度が違う。
だからアタシが切り捨てられるんじゃないかって思えた。
友情には過ごした時間は関係ない、なんて理想論が現実かどうかなんかアタシにはわからない。
アタシには友達がいないんだもの。

「グェスさんッ!グェスさん………ッ!くそ、何処に…?」

花京院が否定されるのが怖かった。政府公邸で嬉しそうに語った心通じ合う仲間。
その一人に否定され、罵倒される花京院を見るのは辛かった。アタシでもそうなんだから本人は尚更だろうな。

それもこれも全部アタシのせい。きっとアタシのせいなんだと思う。
おい、花京院…笑ってくれよ。アタシ、少しは成長したぜ。
自分が悪いことした、そうやって認めることができるようになったぜ?

この殺し合いに巻き込まれるまでのアタシはクズ野郎のゲスの臆病者さ。その上反省もしない大馬鹿者さ。
だから執行猶予がつこうが、久しぶりにシャバに解放されようが同じ間違いをする。そして決まったようにこういうのさ。
『アタシは悪くない』ってね。

政府公邸でお前を盾にした…本当に申し訳ないと思ってるよ。
だから『謝りはしない』なんて置き手紙して去ったんだ。まぁ、またこうやって助けてもらっちまったけどよ。

「グェスさん、返事をしてくださいッ!グェスさん!」

お前があそこで否定すればアタシはあっという間に串刺しの刑だった。けどしなかった。
仲間に殴られようが、串刺しにされかけようが、ニセモノ呼ばわりされようが、お前は『YES』なんて言わなかった。
お前は本当に馬鹿だな、花京院…。そんなんじゃそのお人好しに漬け込まれて損するぜ?そしたら散々利用されてポイッ、さ。
お前はそんなんでもいいのかよ、花京院………?

あの時と一緒だ。政府公邸のときと一緒。
………ありがとう、なんて言わないぜ。このままアタシはトンズラさせてもらうぜ、花京院。
だってそれがアタシにできることだから。

ポルナレフってやつに見られちまった以上、アタシといたら話は拗れるばかり。でもお前みたいなお人好しはさ…きっとわかるんだと思う。
ほら、映画とかでよくあるじゃねぇか。『男と男は拳で語り合う』だの『心で理解した』のだの。
だからお前はポルナレフん所に帰るべきなんだ。アタシと一緒にいちゃいけない。

アタシはもう天涯孤独ってやつさ。きっと徐倫にも嫌われちまったからな…。知り合いもいねぇしそんなアタシと組んだって何の特もねぇぞ、花京院。
これからどうするかって?なるべく地図の端のほうにいるさ。結構悪くないもんだぜ?
それで最後の二人になったら…そうだな、どーすっかな。その時に考えるか。

アタシは一人ぼっちには慣れてるから。
アタシは友達いないことが普通だから。

アタシに『友達』を教えてくれたのはさ、お前なんだよ、花京院。
だから―――やっぱ最後に恩返しだ。ベタなアニメーションよりはイケてると思うぜ?テーマは自己犠牲と友情、だ。
チープすぎてお前には合わないか?まぁ、最後まで付き合ってくれよ。
女グェス、一斉一代の名演技!題して『やっぱアタシは殺し合いに乗るぜッ!』でいこう。

声が聞こえた角辺りに向かい覗きこむ。花京院はスタンドも使って辺りを捜索中だ。
まったく、自分が無防備になってることなんかお構いなしか。大声出して自分はここですよ、それで無防備か。
なんて甘ちゃん野郎だ。だけど好都合だ。勢いよくアタシは角から飛び出る。

「見つけたッ!」

今のアタシは殺し屋、今のアタシは殺す側………くそ、めっちゃ恥ずかしいぜ。
だが恩返しにはちょうどいいな。それにこれで顔を合わすのも最後だろうしよォ。

「ここで会ったのもなんかの縁だ!小さくしてぶっ殺してや――――」
「なにやってるんですか、貴女はッッッ!!!」

アタシは文字通り飛び上がる。一喝されて縮み上がるアタシに演技だのどーのこーのなんて余裕はない。
肩を怒らせツカツカ花京院が近づいてくるのを見てようやく正気に戻った。

「止まれ、テメェ!」
「どんな危険なことをやったか貴女はわかってるんですか?!」

アタシの言った通りにその場で止まりはしたものの花京院の説教は続く。
その剣幕に押されアタシは口ごもる。ちくしょう、今さら演技止めんのも白々しいよ、気まずいぜ…。前も思ったけど、コイツ結構鈍いよなぁ…。

「あ、あれはアタシなりに考えてだな…その………」
「馬鹿ですか貴女は!?」
「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは!」
「勇気と無謀をはき違えてる者は皆馬鹿です!貴女はそんなこともわかんないんですか?!」
「うるせえ、てめえには関係ねぇだろうがッ!」
「いいえ、あります!」
「アア?」
「僕とグェスさんは『友達』でしょう!」
「ッ!」
「心配しましたよ…傷はないですか?怪我は?」

…アタシはコイツが嫌いだ。
せっかく人が決心したのにすぐにその決意を叩き折っちまう。そのくせ自分を曲げることはしないし、自分の傷も気にしない。
本当のバカ野郎は…お前だよ、花京院…。

「お前は…なんも聞かねーのかよ?」
「何がですか?」
「その、アタシのスタンドとか、そのあれとか………」
「後でゆっくり聞きますよ。今は怪我の治療をして、その後僕と一緒にポルナレフに謝ってもらいます」

すまねぇ…花京院。アタシが本当の甘ちゃんだった。
またこうやってアンタに助けてもらっちゃってよ、なのに何だか悪くねぇ気分なんだ。
アタシは本当に…都合いいよな………。
段々と近づいてくる花京院。アタシも今さらどーするつもりもない。お手上げ、降参、アタシの敗けだ。
そしてふと顔をあげて―――

あれ?なんて言うんだっけ、こういうの。
デジャブ、だったか?なんか見覚えのある光景。
いや、正確には違う。花京院のヤツにその感じはない。それを感じるのは、その後ろの角の『アイツ』。
建物と建物の間から半身だけだしてその手に黒光りする銃を構える『アイツ』。
そうだ、この光景は見覚えあるぞ。政府公邸ん時と一緒だ。あん時の三人だ。
ただ違うのは花京院が今度はアタシを突き飛ばすことなく逆にまるで――――


―――――甲高い発砲音が町に響いた。




   ◆





最初に感じたのは脇腹に焼きごてを突きつけられたかのような熱さ。
その次に遅れて聞こえたかのように甲高い音。これは…銃声か。
ポルナレフとの戦いで知らず知らずの内に疲労が溜まっていたのか。それとも今の一撃で脇腹の筋肉を大幅に削られたのか。僕の体はゆっくり倒れていく。
………いや、駄目だ。ここで倒てはいけない。
せめてグェスさんが逃げる時間は稼がないと、せっかく追ってきた意味がなくなる。彼女を殺させは、しない。

「ハイエロファント・グリーンッ!」

少しでもいい、時間を稼ぐんだ。敵の興味を引き付けようと僕のスタンドを呼び出す。
もちろん僕のハイエロファントは承太郎やポルナレフのスタンドと違って遠距離型。
銃を乱射されたらとてもじゃないが対処しきれないだろう。

だけど…構わない。それでいいんだ、僕は構わない。
承太郎だってジョースターさんだってアヴドゥルさんだって、そして…ポルナレフもこうやってするだろう。
そう思うと勇気が沸いてくる。膝の震えは止まり、折れかけた背筋がピンとなる。
ああ、そうだ。いつだって勇気をくれたのはあなたたちなんだ!
二発目は撃たせやしない。僕のハイエロファントと撃ち合おうっていうなら、この花京院典明、受けてたとうッ!
そう思い振り向いた視線の先。建物と建物の間、クルリと向きを変えた誰か見える。

「自分から仕掛けといて逃げるなんて…!」

だがこれは好機だ。一直線の路地は逃げ場がない。エメラルド・スプラッシュは勿論、僕のハイエロファントを隠しながら潜ませるには絶好の場所だ。
ならば逃がす手はない。追いかけてとっちめてやる。そう思い僕は走り出す。
脇腹も痛む。身体中あちこち痛む。だがそれがなんだ。僕はまだ走れる。

「追い詰め――――」

僕が路地に入ったときまだ相手も路地にいた。
すぐにエメラルド・スプラッシュを放てば充分当たる距離、時間もあった。だけど僕は動けなかった。
その相手の後姿には見覚えがあった。………ああ、忘れるもんか。見間違えるもんか。

コイツは、僕を襲ったのは―――

「フーゴ………?」





     ◇   ◆   ◇









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最終更新:2016年07月05日 23:14