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ヒュンヒュンと高い風切り音は花京院にとって耳慣れたもの。自分は知っている、この音を知っている。花京院は額にじっとりと汗が浮かぶのを感じた。
この音はシルバー・チャリオッツが高速でレイピアを回している音。シルバー・チャリオッツのスピード、達人級の剣捌きが生む一種の芸術品。
そして花京院は知っている。これをポルナレフがやる時は、これを見せる時のポルナレフは―――

―――ポルナレフは本気だ。本気で『切る』気だ。

「考えてみりゃ、いや、気づいてみればって言い変えたほうがいいか。ここに来てからいろんなことがいっぺんに起きすぎてよォ、俺には考える時間がなかった。元々考えるってのがどうも苦手な俺が、だぜ?」

二人の間合いは近くもなく遠くもなく、その点ではイーブンイーブン。
ポルナレフにとっての好都合は場所が室内であること。そして先の騒動で二人の間を遮るものがないこと。
つまり、ポルナレフが踏み込めばあっという間に戦況は傾く。
一方、花京院にとって幸いだったのが入り口に近いこと。
ダービーとフーゴが駆け抜けて行った扉は真後ろ、およそ五メートルの位置。

「でもよ、考えるのも面倒だ。死んだイギーが、アヴドゥルが、そしててめー、花京院がいようがいまいが知ったこっちゃねぇ。俺は自分の目で見たもんしか信じねぇ、そう決めたぜ」

レイピアの回転がピタリと止まった。切っ先は花京院の喉元へ向いていた。

「てめえはホンモノか、ニセモノか、どっちなんだよ『花京院典明』」

勝負は間合いの取り方、その一点に絞られていた。どちらが先に踏み込むか、どちらが先に隙を作り出すか。
花京院は静かに己の傍らにスタンドを呼び出す。ポルナレフの目が細められた。

死んだ者が蘇る。本当にそんなことが可能なのか。
二度と会えないと思ったかけがえのない人物に再開できる。そんな夢のようなことが起こりうるのか。
そんなことはどうでもよかった。そんなことは後で考えればいい。今一番考えなきゃいけないのは―――

―――てめえが本物なら、俺の太刀筋なんか嫌というほど見てるはずたぜ、花京院。

仲間の姿に、仲間だからこその信頼。
同時にポルナレフの脳裏に今再び浮かぶ、承太郎の語った敵。
変幻自在、姿も声も変えるスタンド使い。

―――ニセモノなら容赦はしねぇ。ただ叩っ切るだけだ。

じわりとじわりと距離をつめる。ゆっくりゆっくり出口へ向かう。
互いに出方を伺う。張りつめた緊張感が痛いほどの沈黙となり二人を包む。
花京院が口を開いた。

「いいか、ポルナレフ。聞いてくれ」

その言葉をポルナレフは遮る。

「口を開くな。てめぇが何者か知らねぇがここにアヴドゥルがいる以上、何を言おうと言い訳にしか聞こえねぇ」

もはや両者の激突は何人にも止められない。
ポルナレフは決意を固める。
花京院は覚悟を決めた。
そして己の拳を固め、両者が動き出したその刹那―――



『あー、テステス、テステス――――――』





     ◇   ◆   ◇




もう何時間こうしてるんだろう。ぼんやりした頭でふと壁にかけられた時計を見上げる。
時計は壊れていた。私の八つ当たりの結果、時計は12時を過ぎた少し辺りで時を止めていた。

「うううぅ…………!」

激情に駆られている自分を冷静に見つめるもう一人がいる。何だかすっごく変な気分だわ。こういうの何て言うんだったかしら?二重人格?
ちょっと違う気がする。なんだったかしら。

「うううぅう………ッ!…父さん………父さん………!」

ああ、思い出したわ。そうそう、ハイスクールで習ったんだわ、そういえば。
そう、確か『適応規制』っていうのよ、こういうの。
『昇華』だとか『逃避』だとか色々あったわ。

「イギー………アバッキオ………ウェザー………ああああ………ああぁああ――――――ッ!」

なんでかしらね。こうやって泣いてるのに、涙を流してるのに、悲しんでるのに。
こうやってすごく冷静な自分がいる。まるで無理に泣いてるみたい。不思議な気分。

「あああぁ………あぁああぁ――――――ッ!」

八つ当たりで暴れ回っても気が晴れない。
泣き叫んでも何も変わらない。
子供のように駄々を捏ねても誰もかまってくれやしない。
胸にポッカリと穴が空いた、例えるならそんな感じだった。

「………荒木…荒木、荒木飛呂彦ォオオ――――――ッ!」

可笑しいわね、放送前に覚悟したはずだったのに。
もう何も失わないって誓ったはずなのに。

「父を返せッ!母を返せッ!」

手段も選ばない。戦い抜く、守りたいから戦う。そう思ったのになぁ。

「友を返せッ!仲間を返せッ!………返してよォ…!私の…全部………返せよッ!」

虚しい。とてつもなく虚しい。
今の私は全部カラッポ。それもこれも全部…全部………。

「荒木…荒木ィイイイ―――――――ッッ!!!」

復讐をやめろなんて説得は誰だってできやしない………ハッ、我ながら素敵な言葉だわ。
そうよ、復讐。今の私を突き動かす、この気持ちは復讐。

「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!」

復讐とは自分の運命への決着をつけるためにある。
アンタの言葉を借りるわ、エルメェス。
最初から気づくべきだった。ママが殺された時、ううん、空条承太郎の娘、空条徐倫として生まれた瞬間から『そうなるはず』だったんだわ。

―――決着をつけましょう、荒木飛呂彦。

今度こそ迷わない。前に何が立ちはだかろうと、どんな敵が現れようと、誰が何と言おうとも。
私の覚悟は変わらない。私は―――

―――私はアンタを殺す。





     ◇   ◆   ◇






「駅には治療できるような設備も薬品もない。少し遠いが特別懲罰房に向かいたい。立てるか…?」
「…はい、大丈夫………です」
「………」
「………」
「背負ってやる」
「…ありがとう…ございます」

ディアボロは背中に伝わる鼓動を感じつつ、純粋に驚いていた。子供とはこんな軽いものなのか、と。
その軽さは子供というものを言葉よりも的確に表していた。
他人がいなければ生きていけない、弱く、脆く、儚い存在。
守る大人がいなければあっという間に消えてしまう、蝋燭の火のようなそんな存在。

―――俺は今まで何一つ背負って来なかった

僅かな重みを感じ、ディアボロは改めて実感した。
そして再度誓う。ジョセフの想いを無駄にしないことを。

「………体調は…体は大丈夫か?」
「…大分楽になりました」

早人はその身を大きな背中に預け、想いを馳せていた。一人の男を思い出していた。まさに自分にとってのヒーローを。
赤の他人の自分を身を呈して守ってくれた。傷を気遣いこうやって背負ってくれた。そして自分の危機には本気で怒ってくれた。

―――仇、取らなきゃ

傷だらけになったって構わない。ボロボロになったって仕方ない。ウェザーはそれ以上の傷を負い、そして死んでしまったのだから。
早人は再び誓う。必ずやり遂げる、と。

ディアボロはその重さを背中に感じ、早人はその背中に暖かみを感じた。
会話もなく、街の喧騒もない。不器用なディアボロの優しさが早人を背負わせ、二人は黙ったまま一つだけの足音に耳を傾ける。
ただひたすら歩く。

太陽が二人を照らす。作り出される影は一つ。
だというのに二人はどこまでも遠かった。
そんな二人の耳に飛び込んでくる一人の叫び。それは二人の視界に特別懲罰房がまさに見えてきたといった時だった。


『あー、テステス、テステス――――――』





     ◇   ◆   ◇




ビビってるかって?ああ、ビビってるよ。
勘弁してくれって言いたくなるさ。こんなの馬鹿げてるって放り出したくなるさ。
でもこれはアタシがやるって決めたんだ。誰でもないアタシが決めたこと。そうだろ?
ならやんなきゃなんねーさ。

じいさんから拡声器を預かった後アタシは少し西に移動して繁華街に入った。ちなみに馬には乗ってねぇ。
なんでかって?そりゃまた暴走されたら今度こそ誰かに見つかっちまうからさ。ってももう既に誰かに見られたって可能性もあるけどな。

「ここら辺で…いいかな」

繁華街に入った理由は二つ。
一つは隠れる場所が多いし、要り組んだ地形だからだ。
さすがに覚悟を決めたからといって道路のど真ん中で、アタシはここですよー、なんてクレイジーなことはできねぇ。
命は投げ捨てるもんじゃねし、アタシは死ぬつもりも更々ない。そうなると拡声器を使う場所として重要となるのが声が通るような場所、且つ危険なやつに目ェつけられたとしても逃げれる、まける場所。
そういう訳でアタシがチョイスしたのは繁華街の中で少し浮いてる小さいビル。
屋上に出れるうえ、回りの建物に比べて少しだけ高いってのがミソだ。
声が届きませんでした、なんてこともないだろうし、いざとなったら屋根づたいに逃げられる。まさに至れり尽くせりってやつだ。

二つ目は少しでも人が集まるとこでコイツを使うためだ。
地図にデカデカと『繁華街』と名前が乗っている以上ここに集まる人数は一人や二人じゃねーはずだ。一人でも多くのやつにアタシの言葉を聞いてもらうとしたらここっきゃねえだろ。中央にも近いしな。

「一人でも多く………か」

リスク高ぇな、おい。
…怖ぇよ………怖ぇよ……………………。
心の底では少し思ってたんだ。こんないい場所が見つかりませんように、って。
何かの拍子に拡声器は壊れてしまいました。残念!グェスは結局何も出来ませんでした。
そうならねーかなってよ。

「…やっぱやるっきゃねーか」

ああ、やるっきゃねぇさ。これも神の思し召しってやつだ。これでやんなきゃアタシは一生ウジ虫野郎だ。
やるっきゃねぇ…いや、できる。アタシならできるんだ。やるんだ、グェス!
震える手で拡声器を持ち上げ立ち上がる。ビルの屋上、張り巡らされたフェンスの向こうに広がる繁華街。誰がいるかはわからない。誰が聞くかもわからない。
でも…できる、やるんだ………っ!
ヤクの一種と一緒だ。ヤッちまえばどうってことねぇさ。あっという間にお仕舞いさ。だからグェス、押せ…押せ…!
拡声器のボタンに指をかける。そしておもっいっきり息を止め―――

『あー、テステス、テステス――――――』





    ◆





『あー、テステス、テステス………ゴホンゴホン。あー、どうやらコイツの調子は良好のようだな。
この声が聞こえる全員に聞いて欲しい事がある。先に言っとくがアタシの名前は言えねぇ。
こんなことしといて、なんだが、臆病者なんでな、勘弁してくれ。この話も終わったら直ぐにトンズラさせてもらうつもりなんでね、アタシはまだ死にたくねェ。
だってそうだろ?誰だって死にたくねぇはずだ。誰だって好き好んで人を殺すやつなんてそういねぇよ。
だからもう…荒木の言いなりになるのはやめようぜッ!?
死にたくねぇからだとか、殺らなきゃ殺られるだとか、そんなんを言い訳に…もうウンザリ、沢山だ!
こんな殺し合い馬鹿げてる。クレイジーだ。イカれちまってるッ!
…臆病者のアタシでさえこんなことができるんだ。だから皆勇気を持ってくれ。
殺さねぇ勇気を持ってくれ。んで荒木に立ち向かう、そっちに勇気を向けようぜ………アタシが言いたいのはそんだけだ。
…そろそろ話を切り上げねぇと危ねぇ輩がよってきそうだな。まぁつまりはそういうことだ。アタシができんのはここまでだ。
………それじゃトンズラさせてもらうぜ…あばよ』





     ◆





ドッと汗が吹き出る。心臓がバクバク脈打ち、爆発するんじゃねーかと不安になる。
ああ?トンズラ?できるわけねぇだろ、バカヤロー!あれはな、アタシなりに考えた戦略なんだよ。
いいか、ノッてるやつの立場になって考えてみろ。拡声器で大声あげてアタシはここですよー、なんて言うヤツがいたらどうする?
大喜びで狩りに来るに決まってんだろ!
だからあえて『トンズラする』なんて言ったんだよ。ここら辺で声がしたってことは知られてもいい。でもよ、『ここ』に残っているってことはバレちゃなんねぇんだよ。

それによ、もし仮に見つかってもこっちは屋上だ。うまく隣の屋根を伝っていけば出し抜くのも不可能じゃない。
それに、なにより、逆も然りなんだぜ?
ノッてねぇヤツで、アタシの考えに賛同してくれるヤツがゼロ、ってことはないはずだ。もしそんな奴らが来てくれたら…仲間にしてもらいたい…是非とも。
希望的観測?いいじゃねぇか、夢見たって。夢見て何が悪い?
まぁ、そんなことはいいとして実際問題、一番の難点は見分けがつかねぇことだ。考えて見ろ、姿を現したがいいが話しかけてみたら殺る気満々でした、じゃギャグにもならねぇ。目もあてられないぜ。
だからこその静観なんだよ。向こうにこっちがみられるかもしんねぇがそんなリスクは重々承知、じゃねーとせっかくの拡声器が台無しだ。
奇襲に備えて階段とビルの入り口にトラップも仕掛けてあるしよ。子供騙し程度のもんだが入ってきたってわかりゃ後は屋根上の鬼ごっこ。
んでいざとなったら要り組んだ街中でかくれんぼってわけだ。尤も『張る』のが命じゃそんな余裕もねーがな。
…さて、そろそろ誰か来てもいい頃だな。のんびりしてる場合でもねぇし、気張って―――


―――グェスは計算高かった。拡声器を使うリスクの大きさを充分に理解し、対策を練ってまで利用した。
拡声器の声を聞いた者はそうは思わないだろう。この場で多くの参加者を呼び出す拡声器を使った時点でグェスをある意味喰ってかかる者が大多数。
コイツはなんて馬鹿な参加者なんだろう、と。
その過小評価こそグェスが望んだものだった。そうすれば漬け込める、隙をつける。
グェスの一番の幸運は、一番のファインプレーは感情的に行動しなかった、その臆病さにあった。

―――だがグェスは見逃していた。
問答無用でグェスを襲ってくる相手がいる可能性を。グェスが悪だと、使えないヤツだと決めつける人物がいることを。極限状態で変わってしまったのは何もグェスだけではないことを。


「ん、何だ?影………?」

怒りは、憎しみは、人を容易に変える。

「オラッ!」



例えそれが聖母のような人物であっても。







     ◇   ◆   ◇




アタシは本当にラッキーだった。そもそも何をラッキーとするかは人によって違うだろうけれども少なくともアタシはラッキーだったと言えるね。
なんせコンクリートを粉々に砕く一撃を紙一重でかわせたんだからな。

「ヒィイイ………ッ!」
「チッ!」

だが状況はアンラッキーすぎる。なんだっていうんだよ、急に。
なんだってあんたはアタシに襲いかかってくるのさ、ジョリーン。
確かにアタシはアンタに悪いことをしたさ。でも今の一撃はまるで、まるで………

―――本気でアタシを殺すみたい

「なんだよ、ジョリーン、アタシだよ!!グェスだよ、グェス!!」
「ああ、わかってるわよ、グェス。あんたみたいなクズ野郎はぶちのめさなきゃなんねーってことはね」

本日二度目となるラッキー。だけどさっきみたいなスーパーラッキーとは言えないね。
反射的に庇うようにあげた両腕、それを掻い潜るように捩じ込まれ、顔面に叩き込まれた豪腕。
顔はジンジンするわ、腕のどっちかがゴキリと嫌な音をたてたのにそれでラッキーだなんて言えるんだから泣けてくる。
おまけとは言っちゃなんだが階段の近くまで吹っ飛ばしてくれたから上出来すぎる…なんてか。

「ヒィイイ……ッ!なんでだよ、何があったんだよ、ジョリーン!」
「………ッ!あんたみたいなゲスが生きてるのに、父さんは…父さんは………ッ!」

動揺しまくってるわりにアタシの頭ん中はクールだった。今のジョリーンはイッちまってる。父さん…肉親を亡くして薬中みたいにキレちまってる。
アタシはその八つ当たりの対象にされたってわけか。光栄だわ、本当に……。
アタシの拡声器での演説効果はどうなったって?知るかよ、ボケ。
ジョリーンからすれば小心者でクズでゲスなグェスはホイホイやって来た参加者を殺っちまう最悪なクレイジー野郎なんだろうな。
だから、私が裁くッ!そんなところだろ。
否定しないさ。アタシはクズでゲスで小心者さ。でもよ………

「まだ死にたくないんだよ、アタシは!」
「逃がさない」

情けないことに声は震えてた。足もガクガクさ。でも、まだ死にたくない。
干しっぱなしのシーツを投げると、屋上からの階段を二段飛ばしで一気にかけ降りる。後ろで盛大な悪態をつくジョリーンの声が聞こえた。
狭い階段じゃスタンド能力なんざ、関係ねぇ。アタシのほうが先に下につける。そうだ、余裕をもてよ、グェス。
痛む腕を気にしてる暇もねぇ。とにかくビルの外にでて、出て―――


―――出てまた逃げるのか?


二階の踊り場についた瞬間、その場にしゃがむ。さっきまでアタシの頭があった位置を轟音とともに貫く拳があった。
バラバラとくだけ散った細かいコンクリートが口の中に入りたっぷり味わうことになる。アタシはジョリーンの姿を見ることなく、文字通り階段を転がり落ちる。

アタシはなんのためにあんな馬鹿げたことをした?まさか本当に誰かを殺る気だったのか?誘き寄せてアタシの手でグシャ、そうするつもりだったのか?

ちげーだろーが!
なんとかしてーからやったんだ。一人がやだからやったんだ。誰かの心の中にいたい…だからやったに決まってんだろ!
止めてやるさ、ジョリーン。目覚ましてやるよ、このバカ野郎が。

勢いよく壁に体をうちつけ、ようやくアタシは止まった。
バネ仕掛けのオモチャのように立ち上がると出口へと向かう。身体中が痛むがそんなことは言ってられねぇ。ジョリーンもすぐ後ろにいやがる。
後ろでアタシが仕掛けた空き缶のトラップがカランと鳴った。

アタシはビルに入った時に確認した通り、オフィスフロアーとなっている一階を走る。机と机の間を駆け抜け出口へ向かう。
後ろで思い切りジャンプする音がした。室内の蛍光灯で影ができる。すかさずデスクにヘッドスライディング。

「オラァッ!」

紙の束やらファイルやらを撒き散らし、またもや間一髪でジョリーンの一撃を避ける。出口はすぐそこだ。
キャスター付きの椅子を全力でジョリーンの方へ蹴り飛ばす。コンマ一秒でも時間稼ぎになりゃ上出来だ。

アタシが自動扉のガラスを突き破ったのと同時にさっきの椅子が空を舞った。
体操選手ばりの華麗な前転一回転を成功させ振り向くと目にうつったのは猛然と突っ込んでくるジョリーンの姿。
打つ手なし?アタシのスタンドじゃ太刀打ちできない。
逃げるのも不可能。残念!グェスの冒険はここでお仕舞いでした!…ってか?

いいや、違うね。階段で転がり落ちたのは『そうなった』からじゃない。『そうしたかった』からしたんだ。
アタシは右手に持っていたデイバックをジョリーンに投げつける。当然のようにストーンフリーの強烈な一撃をうけ、明後日の方向へ飛んでいく。だけど違う。狙いはそんなんじゃない。

「!」

デイバックを投げたのは時間を稼ぐのともう一つ役目があった。
そう、アタシがいま投げた『首輪』を投げつける時間とそれを視界から隠すための役目が。
…トラウマを抉るようで申し訳ねぇがそんなこと言ってられる相手じゃねえ。後で謝るから勘弁してくれ、ジョリーン。
いくらジョリーンだろうと流石にこれで隙が生まれないはずがない。殴れば爆発するイメージに重ね、母親の死だ。その隙を利用して―――

―――ポフ

「お前みたいな…お前みたいなクズがいるから………いるから………ッ!!」

ジョリーンのストーンフリーで編み込んだネット。一瞬で作り上げられたそのネットは首輪のエネルギーを吸収。カランカラン、と四つの首輪が地を跳ねる。
ジョリーンはなんなく対処した。それどころか首輪をみて怒りを新たにアタシに向かってくる。

「そう、それが最高ね。弾き返されることもなかったし、首輪が破壊されるなんてこともなかったしよ」

変わったのはアンタだけじゃねえさ、ジョリーン。臆病者のグェスならこうはしねえ。昔のアタシならこうはできねぇさ。


『それでスタンドってはどういうもんなんだよ、花京院』
『そうですね…大雑把に言ってしまうと精神力ですからスタンド使いの気持ち次第で大きく変わるんですよ。勿論基本的なルールはありますけどね』


本当の狙いは『これ』さ。
アンタを殺すつもりもない。アンタをビビらせるつもりもないし、アンタから逃げる気もないね、ジョリーン。
なにより、もう自分から逃げる気も、ない。

『例えば?』

驚愕に見開かれたジョリーンの目。一瞬だけ動作が停止。そして嵐のような拳のラッシュが襲いかかってくる。だが構いやしねぇ。
その一瞬がアタシの勇気の成果。その一瞬が成長の証。

『そうですね…まぁ最初に覚えておくべきは―――』

首輪を投げたと同時にアタシはジョリーンに向かって走り出していた。スタートをきっていたアタシは拳の嵐を掻い潜り懐に潜り込む。
そしてジョリーンが再び狙いを定め、アタシをぶちのめそうと狙いを定める前に………!

『スタンド使いとスタンドが近ければ近いほど正確性、スピード、パワーは強くなるんですよ』


「グーグー・ドールズッ!!」





     ◇   ◆   ◇





「俺はまだてめえを信用してねえ」

チラリと目を向けると、少し後ろから低く押し殺した声が聞こえた。花京院は思い切り舌打ちをしたくなる気分をなんとか我慢するとなるべく冷静な声で返事をした。

「だったら気が済むまで見張ってればいい。そう言ったはずだ、ポルナレフ」

返事代わりの舌打ちに、こっちがしたい気分だ、と花京院は小さく毒づく。
時は少しさかのぼる―――



   ◆



「あの人は一体何を………ッ!」

そこまで言うと花京院は目の前のポルナレフに目もくれず、外に飛び出そうとした。
聞いたことのない女の声とその内容に気を取られていたポルナレフは花京院の突然の行動に虚をつかれた。
考える前に口を開いた。

「待ちやがれッ!」

だからまさか本当に花京院が止まるとは思わなかった。道路で急停止した花京院と先と同じぐらいの距離で再び対峙するポルナレフ。

「まさか本当に止まるとはな…」

その顔にほんのちょっとだけ疑問の色を浮かべるとポルナレフはポツリと呟く。
それとは対称的に花京院は苛立ちを隠せない。普段の彼らしくない焦りを含んだ大声で即座に切り返す。

「今僕達は下らないことで時間を無駄にするわけにはいかないだろ、ポルナレフ!」
「下らない?下らないだと、てめえ!アヴドゥルの―――」
「死者は生き返らないッ!」

興奮ぎみのポルナレフを一喝するかのような花京院の叫び。それはエジプトへの道中をともにしたポルナレフさえ聞いたことがない声だった。
面食らったポルナレフに畳み掛けるように花京院は次々と言葉を投げ掛ける。その表情は真剣そのものだった。

「確かにアヴドゥルさんのことは下らないことなんかじゃない!でも今は一秒だって時間が惜しい!
いいか、さっきの拡声器はここら一帯どころか、繁華街全体、それすら越えて遠くまで聞こえたかもしれない!もし近くに殺戮者がいれば、いや、こうやって言ってる間も彼女は危険に曝されてるんだぞ、ポルナレフ!」
「て、てめえがニセモノの可能性がある以上野放しには―――」
「空条承太郎、スタンドは超高速超精密動作を誇る近距離パワー型スタンド、スター・プラチナ!
ジョセフ・ジョースター、波紋使いでスタンドはハーミット・パープル!念写の能力を持ち波紋はスタンドを伝わせることができる!モハメド・アヴドゥル、スタンドは―――」
「DIOの手下だったらそんぐらい知ってても不思議は―――」
「ジャン・ピエール・ポルナレフ!妹の名前はシェリー、血液型AB、好きな映画は『がんばれ ベアーズ』!」
「そ、それは………」
「君と口論してる暇はもうない。襲いたいなら襲えよ、ポルナレフ」

半ば投げやりに会話を打ち切るとクルリと背を向け花京院は走り出した。その後ろ姿があまりに無防備でポルナレフはなぜだか狼狽した。
まるで裏切られた、そう花京院の背中が言ってるように感じたからだ。

「おい、待て、待てよこの野郎!」

慌ててポルナレフは後を追う。なんだか隣に並ぶのは気が引ける気分で花京院の斜め後ろにつけた。
今更なんだと、言いたげな花京院の視線をしっかり意識しながらもポルナレフはわざと目線を反らし小さい声で主張した。

「お前がニセモノかホンモノかわかるまでついて行かせてもらうぜ」
「…どうぞ」

花京院はわざとらしく鼻を鳴らした。



   ◆



「それで…さっきの拡声器の女はどういうやつなんだ?」

沈黙に耐えきれなくなったか、はたまた少しでも情報を引き出そうという魂胆か。花京院の中にわざと無視してやろうか、というひねくれた考えが浮かぶ。だがそんなことで信用を失うのも馬鹿らしい。
精一杯の反撃としてわざとらしいため息をつくとグェスのことを要領よくまとめ、説明することにした。

「彼女の名前はグェス。行動したのは大体四・五時間ってところでしょうか。10時頃にはぐれてしまい、僕はそれ以来彼女を探してました」
「それで?」
「彼女はスタンド使いで、その能力は自分は小さくなれないが相手を小さくすることができる能力です」
「発動条件は?」
「わかりません」
「おいおい、マジかよ。ホントにお前ら一緒に行動してたんだろうな?」
「ええ、彼女は僕の『友達』で『仲間』です」

友達、仲間という言葉を強調し花京院はキッパリと言い切った。
同時にハイエロファント・グリーンをビルに這わせ、近くに誰かいないか伺う。
その様子をそっと観察する。記憶の中となんら変わらないハイエロファンとを確認するポルナレフ。だがまだ確信はもてない。
返事代わりにポルナレフは皮肉の一つでも言おうかと口を開きかけ、そして突然止まった。
先を行く花京院は後ろから聞こえていた足音が消えたことでそれに気がつく。

待つ必要はないし、そもそもついて来てると言ったのがポルナレフである以上、花京院に止まる必要は全くない。無視してグェスを探しにいっても良かったが彼はそんな男ではない。
何してるんですか、急かすように後ろのポルナレフに問いかけるが返答はない。
舌打ちとともに今来た道を少しだけ引き返す。いい加減にしないと僕も怒りますよ、と半ば脅すように声をかけようとしたその時。

「フーゴにこの声は聞こえたと思うか?」
「!」

二人の顔色が変わる。今だけは二人の心が一つになっていた。それだけは避けなければと。そして同時に走り出す。
花京院はグェスの身を心配してだった。政府公邸での一件の二人、そしてなにより今のフーゴの状態を考えるとどうなるかわからない。最悪のケースもありえると思うと自然と走るスピードもあがる。
ポルナレフも同様だった。無力な参加者も気になるが、彼はフーゴをどうにかしたいという気持ちが強かった。もうこれ以上、誰かを殺させるわけにはいかない。

「ハイエロファント・グリーン!」
「なんか見えるか?!」
「わからない…が近いようだぞ、ポルナレフ!ハイエロファントが振動を感じ取った。僕のスタンドの近くのビルに誰かがいる可能性は高い!」
「よし、案内しろ!」
「次の細い路地を右、大通りにでたら十字路で左だ!」

要り組んだ迷路のような道を駆け抜ける。無意識にだがポルナレフは花京院を守るように先を走っていた。
ハイエロファント・グリーンが先行してる以上、今の花京院は無防備に近い。襲撃にでもあえばひとたまりもない。
口では反発してるがポルナレフは認めつつあったのだ。この花京院はホンモノだ、と。

―――彼女は僕の『友達』で『仲間』です
―――こんなクサイ台詞が似合うのはコイツぐらいしかいねぇだろ

結果から言うとハイエロファントが感じ取った振動はグェスが自動扉を突き破った際に生まれたものだった。
二人は無事に現場にたどり着くことができたのだ。そう、現場に。

指示通り先を行くポルナレフの背中を花京院は追う。ハイエロファント・グリーンも手元に呼び戻したし、もうポルナレフに守ってもらう必要はない。
いや、それどころか直情型のポルナレフだ。いらぬ誤解をグェスとの間に起こしかねないな。そう花京院が思ったのは最後の十字路をポルナレフが曲がった時だった。
だが曲がった先に見えた光景は棒立ち状態のポルナレフの後ろ姿。

何かあったのか、そう言おうとした瞬間―――悪寒。
走る銀閃と花京院が首を仰け反らせたのは同時だった。
目の前で散る髪の毛を見て花京院はゾッとした。もし当たっていたら―――

「ポルナレフ―――」
「その顔で喋るんじゃねえ………ッ!」

訳がわからない。だが敵は、ポルナレフはそんなことで待ってくれない。
完全にシルバー・チャリオッツの間合いにいる花京院はどうして、と理由を聞くこともできず繰り出される突きの回避に専念するのみ。
花京院のそんな精神状態では当然かわしつづけることなどできるわけもなく、徐々に赤い線が身体中に走りはじめ、そして―――

「シルバー・チャリオッツッ!」
「ぐぅう………ッ!」

囮のレイピアに大きく反応してしまった花京院は手痛い蹴りの一撃をうけ、通りの反対側まで吹き飛ばされる。
未だにどうしてポルナレフが変わったかもわからず、グェスの状態も、そもそもそこにいるのかさえわからずいる。
呻きながら何とかその場に立ち上がろうと壁を支えにする。
そして花京院は見た。
訳もわからず殺されてたまるか、と睨み付けるようにポルナレフを見上げた時、映った視界に彼女はいた。



足元に首輪を4つ転がし、その両の手の中でもがく参加者を、今にも握りつぶそうとしているグェスの姿がそこにあった。





     ◇   ◆   ◇





彼女は僕の『友達』で『仲間』です、か。
ああ、そうかい、そういうことか。とんだ仲間だな…とんだ友達だな………ッ!
最初から組んでやがったんだ、コイツらは!なんてことはねぇ、拡声器は獲物を集めると同時に集合の合図。まんまと俺ははめられたってわけか。

「全員動くんじゃね―――ッ!」
「ヒィッ!」

唯一手筈通りにいかなかった理由は時間がなかったってわけだ。本来なら俺が到着する頃にはあの女の手の中にいる参加者は始末済みのはず。
そして何食わぬ顔で合流、ニセ花京院との連携で俺を殺る。そういう心づもりだったんだろ………!

「ポルナレフッ!冷静に僕の話を聞いて―――」
「てめえがその顔で話すんじゃねぇ………ッ!!よくもぬけぬけとそんな言葉が言えるもんだぜ…虫酸がはしる………ッ!」

…ってことはあの手の中の参加者は『俺側』か?徒党を組むようなゲス野郎どもだ。仮に釣られたのが同じゲスだったら…いや、待て。
見境なく殺し回るヤツだったらコイツらにとっても始末する対象………そうすると、いや、そもそも………くそ、わかんねぇ。
ただコイツらはまだ俺を説得できると思ってやがるのは確かだ。じゃなかったらもうとっくに俺は襲われてるはずだ。
建前上ニセ花京院としては、殺せ、なんて指示もできねえ。女も俺に見られた以上目の前で殺るわけにはいかねえ。

「彼女と話をさせてくれッ!これは誤解だッ!いや、正当防衛だッ!何かがここであったんだッ!」
「目の前であんなものを見せられて説得力ねぇんだよッ!てめえ、頭脳がマヌケか?それにな、俺の『仲間』の花京院が信頼した相手だったらな、あんなやつを認めるわけがねぇんだよッ!」

ちょっと待て…となるとこのニセ花京院が俺と会った時同行してたのはフーゴと…フェルディナンド。
待てよ…待てよ、コイツは………もしかしたらッ!!

「ッッッ!違うッ!彼女はそんな人じゃないッ!正当防衛なんだ、きっとッ!襲いかかってきたのはきっとッ!」
「黙れェエエ―――ッ!下手な演技もいい加減にしやがれッ!」

最初からターゲットは『複数』いた?
一人目はフェルディナンド。そして二人目はトニオさん。三人目は拡声器で引き付けられたあの参加者。そして四人目は俺…
いや、違う。店にトニオさんしかいないって状況もありえた。それにフェルディナンドを殺すタイミングがおかしい。
ニセ花京院とフーゴが組んでるならフェルディナンドはもっと早くに始末されてるはず…。
つまりは………

「違うッ!彼女はそんな人じゃないッ!」
「でもコイツはお前の大切なお仲間でお友達なんだろ?アア?ちげーのかッ!?じゃなんでそんなヤツが人殺しなんかしてるか、馬鹿な俺にわかるように説明してくれよッ!」
「………ッ!」
「言ってみやがれ!コイツは、この女はなんでもねぇ、ただのゲス野郎の人殺し、そう言ってみろよ、花京院ッ!」
「………それとこれとは話が違うッ!」

ニセ花京院、フーゴ、そしてこの女、グェスがグル。
つまり三人組の殺し屋。
フェルディナンドを殺そうと三人は一度分裂、ニセ花京院の話を信じるならここでフェルディナンドに接近する。
その場で殺さなかったのはさっきレストランで起きたような混乱を起こすため、そして確実にフーゴが逃げ切れるため。毒はあらかじめしかけられていたのか…?
そしてあわよくばニセ花京院が信頼を勝ち取るという三段構えの作戦。拡声器は再集合の合図と同時に釣りでいうエサ。
三人で集まった輩を始末する………ッ!
間違いない………こういうことだったんだッ!

「言えねーじゃねーかッ!つまりはそういうことなんだろッ!?裏で組んでるってわけだ!妙に律儀なやつだな、裏切れば俺の信頼は少しでも勝ち取れたかもしれねえのによッ!」
「ポルナレフ…信じてくれッ!僕は、僕たちは―――」
「まぁ、尤も―――」

もう迷わねぇ。
最初からこうするべきだったんだ。
トニオさんが死んだ。イギーが死んだ。アヴドゥルが死んだ。そして…承太郎も死んだ。
何を迷ってたんだ、俺は。大人ぶって、ウジウジして、守るって言い訳を振りかざして何もしない。何もできない。
ちげーだろ、ジャン・P・ポルナレフッ!

「どっちみちてめーはダメだ。人殺しの、徒党を組む、こすずるいゲス野郎。そしてなにより俺の仲間、『本物の花京院』を侮辱した以上てめーを」

俺は昔から何も変わってねぇ。何一つ変えちゃいけねぇ。
ただ目の前にある悪を、『黒』を俺は―――

「叩っ切るだけだッ!」





     ◇   ◆   ◇




重力の恩恵を受けたその鋭さはまさに光。かわしきることは叶わず、末端のハイエロファントが宙を舞う。
フィードバックしたダメージで額から血が飛び散る。だがそれに構ってられる余裕も時間もない。
目にも止まらぬと言っても過言ではない連続突きが僕に襲いかかる。
拳で弾くがパワー不足は否めなく、押し負け始めるハイエロファント。手から出血が止まらない。

「くっ…!」

苦し紛れの攻撃も軽くかわされ逆にその腕を貫こうとレイピアが牙を向く。しかし咄嗟に柔軟性をいかしシルバー・チャリオッツの右腕に細くハイエロファントを絡ませる。
敵の剣を握る腕を止めると同時にギシギシと締め上げる。ポルナレフの顔が苦痛に歪む。苦し紛れの左腕のパンチも首をふってかわす。
そのまま腰に体重をのせ、捻るように回す。僕の体を中心にまるでコマ投げのような要領でポルナレフを振り回す。
そして残ったハイエロファントの左腕で顔面にぶちかますカウンター。
遠心力も乗せたうえ、相手の体重を上乗せした一撃。そのまま右腕の拘束を緩めると今度は逆にポルナレフが道路の反対側まで吹き飛んだ。

「『それは仲直りの握手の代わりだ、ポルナレフ』」

言えるわけがない。どっちも認めるわけにはいかないんだよ。
僕はお前の仲間だ、ポルナレフ。このエジプトの旅は、こんな楽しい思い出は、僕の17年間で最高のものさ。
何も隠す必要もない。自分だけに見える未知の力に怯える必要もない。そんな仲間と過ごすのは最高に楽しかったんだぜ?
友達の母を救う。DIOという巨大な悪に立ち向かうのは確かに怖いさ。僕も君も身を持って経験してるはずさ。そうだろ?

年が一回りも二回りも違うジョースターさん。気さくで頼れる人だ。
豪快でユーモア溢れるアヴドゥル。
寡黙だが、その根本にある優しさと怒りを力に変える凄い男、承太郎。

なんでここまで頑張れた?なんで皆戦えた?
僕は仲間がいるからさ。一人じゃない、そうわかったからだ。
友がいるだけでこんなも強くなれる。
仲間がいるだけで巨大な力に立ち向かえる。
お前もその一員なんだよ、ポルナレフ。僕にとって気持ちがかよいあう、同じ目的をもった仲間。

だから負けられないんだ。彼女の『友達』でいる以上僕は、負けられないんだよ、ポルナレフ。
だから―――

「エメラルド・スプラッシュ!」

僕の最強最高の一撃。
これで目を覚ませ、ポルナレフ!僕たちが争ってる場合じゃない!本当の敵は荒木なんだよ!
だから、思い出せ。この一撃で。忘れたわけないだろ、ポルナレフ?
『アヴドゥルさんが死んだ時』の一撃さ。僕のエメラルド・スプラッシュを思い出せ!

緑の宝石がポルナレフに襲いかかる。
驚愕にその瞳を染めつつも、レイピアの高速捌きで次々撃ち落としていく。
だが足りない。気持ちが、精神が、負けられないという根性が違う。
ついに押し負けたシルバー・チャリオッツ。両手を弾かれ、無防備にその体を晒す。

ここから始まるんだ。
誤解だってわかりあえる。間違えたってやり直せる。
そう、強い絆と信頼関係があれば、友達と仲間がいれば、どんな時だって人間は強くなれるんだッ!

スローモーションのように最後のエメラルド・スプラッシュが向かっていく。
ポルナレフは覚悟をしたように目を瞑る。空気を裂き迫る緑の閃光。それは吸い込まれるように、ポルナレフの―――




   「 キ ン グ ・ ク リ ム ゾ ン ! 」





     ◇   ◆   ◇




空条徐倫は『空条承太郎』と『DIO』を知っていた。
ジャン・P・ポルナレフは『空条承太郎』と『DIO』を知っていた。

空条承太郎―最強のスタンド『スター・プラチナ』の使い手であり、ジャン・P・ポルナレフの友人であり、空条徐倫の父親。
DIO―世界を手にいれることを目論む吸血鬼。時を止めるスタンド、『ザ・ワールド』の使い手。
そして突如現れた男、ディアボロ。

全ては仮定の話で決して成り立ちはしない。だがあまりにも不運は重なりあう。
もしもポルナレフが冷静になっていたら。
もしもディアボロが来るのがほんの僅かでも遅れていたら。
もしも徐倫が怒りに目を曇らせることがなかったならば。

偶然は必然。避けては通れぬ道だった。
それを人は『運命』という。

グェスが拡声器を使ってどれ程の時間が経ったのだろう。
一分?十分?一時間?
しかしもう手遅れだ。
彼らの能力をもって時を操ることはできても、動き出した運命は決して止められないのだから。





     ◇   ◆   ◇




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最終更新:2016年07月05日 23:15