誰が言った言葉だっただろうか。
スタンドというのは車やバイクを運転するのと同じなのだ……
能力と根性のないウスラボケはどんなモンスターマシンに乗ってもビビってしまってみみっちい運転するよなぁ――と。
それは決して間違った意見ではない。
だが――この男の考え方は少々異なっていた。
スタンドというのはラジコンを操縦するのと似たようなものだ……
確かな技量さえあればどんなチョロいマシンを操っても鮮やかな操縦を披露できるのだ――と。
* * * *
俺は迷っていた。
道に、という意味ではなく――自分の行動方針に迷いを感じていた。
ナチスの軍人という立場を考えれば、祖国の安全を脅かす輩や敵対する戦力に全力で立ち向かうべきなのだろうが、
もともと喧嘩好きで他人を侮辱し、仲間との協調性がない性格だったために単独部隊であるコマンドーに配属されたようなものだ。
きっと他人と接しても仲間割れから相手の寝首を掻くか……掻かれるか。きっとそうなるだろう。
上官であるシュトロハイム少佐の指示を仰ぐべきなのだがそうすれば十中八九“打倒荒木”を目指すことになるだろう。
反対意見ではない――だが、無謀すぎる。本当に自分たちに出来るのだろうか、出来る人間が存在するのか……。
思考はまた振り出しに戻る。しかし、その間も自分の足は何かに急き立てられるように歩き続けていた。もっとも、明確な行き先がある訳ではないのだが……
どのくらい歩いただろうか。
思考の迷宮にはまりつつも、野生のコウモリにさえ感付かれない足運びで移動し続け、時には隠れ、時には急ぎ……
そして現在、俺が記憶した地図が正しければ――これでも軍人のはしくれだ、移動経路の把握と記憶程度のことは出来る――H-1の橋、そのど真ん中だ。
周囲に自分以外の気配が無いことを確認し、おもむろに座り込む。勿論、いつでも戦闘又は逃走に切り替えられるような体勢ではあったが。
座り込んだ理由は実に単純、水分が必要だったからだ。肩に担ぐデイバッグを地面に叩きつけるように下ろす。
疲労と行き場のないストレスで息を荒くしつつもジッパーを開くとボトルの蓋が見えてくる……が、同時に忌々しい記憶も蘇ってきた。
十数分前の話に遡る――
行動方針を決められずに立ち往生していた俺は、とにかく支給品と武器だけは確認しようとデイバックを開いた。
そこから出てきたものは……とても武器とは呼び難い物だった。
二~三十発の銀玉とライフルの弾が四発。
殺傷能力が無い訳ではないが発射する媒体がないこれを武器と呼ぶにはいささかの抵抗があったのだ。
ベルトに忍ばせていたはずのナイフもどこかへ消えてしまっている。くそッ!忌々しい……
そんな記憶から怒りに身を任せデイバックに当たり散らしてやろうと思ったがそんな精神とは裏腹に肉体の方は素直に水分を要求していた。怒りの感情を押し殺しボトルの封を切る。
齧り付くように口をつけ、一気に半分ほど飲み下す。飲み終わってから言うのもなんだが、これで毒など入っていたら即退場だったな……
そんな事を考えながら体中に沁み渡る水の冷たさを心地よく感じていたちょうどその時だった。
背後にゾクリという悪寒を感じたのだ。
飛び跳ねるようにその場を離れる。武器となるものは手元にはない……格闘戦か、不利だな――
そんな事を考えつつ着地と同時に振り返り、敵が“襲ってきたであろう”場所を睨みつける。
だが――そこには誰も、何もいなかった。自分が回避する時に倒したボトルが目に入る。チッ、せっかくの水分をこぼして消費しちまうとは……
盛大に舌打ちをし肩を揺らしながらデイバックに歩み寄る。ボトルを起こそうと片膝をついた。その瞬間―――
ガッシ!
何かに襟首を掴まれた。まさかこの俺が不意を突かれるとは……!
必死でその手を振りほどこうと必死に首元に手を持ち上げる。
だがそこには……“ほんの少し濡れているだけで何もなかった”のだ。
確かに掴まれている感触はあるのに……!?
いや、そもそもなぜこんな所が濡れているのだ!?
そんな俺の思考を遮るかの如く―――
ボカッ!
殴られた。左顎だ……脳が揺れる。
くそッ!何なんだいきなり!この俺以上に気配を消すことが出来る者など……
そして何なのだ、この漫画みたいな効果音は―――
……そこで俺の思考は停止した。
膝の力が抜け、受け身を取る事もなくドサリと地面に倒れこむ。
オレは死んだ……のだろうか?
* * * *
片桐安十郎は幸運に恵まれていた。
それは――自分が飛ばされた場所が湿地帯そばの倉庫の中であった事、すぐ近くに“川”があり、そして――“カモ”がいた事、である。
「荒木とか言う野郎、俺の事をこんなところに放り込みやがって……いい気になっていやがるな、クソッ!ムカつくぜッ!
……だがこの“ゲーム”、内容は悪くねぇな……殺し合いか。へへへ……」
殺人に明け暮れた青春、死刑宣告、スタンドの目覚め、脱獄、
東方仗助と
空条承太郎、そして悪あがき――
波瀾万丈と言う言葉では語り尽せない程の人生。そんな彼の“本能”と言う名の演算装置がこのゲーム、この状況で自分が取るべき行動を瞬時に弾き出した。
自分の趣味を止める事は出来ない。食欲や性欲のようなものである、絶対に止められない。内容はともかくとして万物が持つ欲求の一種なのだ。
だが、自分に危害が加わる事は御免蒙りたい。これも生きとし生けるものとして至極当然な発想である。
そうなれば……取るべき行動は自ずと決まってくる。
アンジェロの導き出した結果。それは“乗り物”を用意することだった。
川伝いにスタンドを移動させ、カモを見つけたらそいつに“首飾り”をプレゼントしてやる。
そして、そいつを“あやつる人形”として動かし、遊び倒すつもりだった。無論、壊れるまで。
自己の欲求を満たすためだけにその場で殺してしまっては“次”がいつになるのかが分からない。
その上、仲間だと偽って近付けば獲物は増える。嘘吐きは泥棒の始まりと言われるが自分は泥棒以上の存在だ。何を言われる筋合いもない。
そして、自分自身は体内で暴れているだけで良い。それは自分が負うリスクが限りなく0に近くなることを意味する。
自分の体内を攻撃するような、そして自分の体内を守る事が出来るような……そんなスタンドはそう多く存在しないだろう。
どう転んでもアンジェロの満足のいくように仕組まれた緻密な計算結果であった。
そして――いとも簡単に彼の計画の第一段階は成功してしまったのである。
「とりあえず適当に歩き回るとすっか。この道を真っすぐ行くと―――コロッセオだな」
スタンドというのはラジコンを操縦するのと同じなのだ……
アンジェロは
ドノヴァンと言う名のラジコンをどのように“操縦”していくのだろうか―――
【H-1 橋の上/1日目 深夜】
【ドノヴァン】
[能力]:野生のコウモリにさえ気づかれず尾行する移動術とコマンドーの格闘能力
[時間軸]:JC6巻、ジョセフの顔面に膝蹴りを入れた瞬間
[状態]:健康、アクア・ネックレスが憑依しているので意識の有無は不明。
[装備]:ライフルの実弾四発、ベアリング三十発
[道具]:支給品一式、ただし飲料水は空。不明支給品0
[思考・状況]
1.アクア・ネックレスが憑依しているので一切の自由が利かない。と思われる。
2.このゲームでどう行動するか悩んでいる(が憑依されているせいでほとんど考えていません)
※ドノヴァンの移動経路はJ-2北西から道なりにI-1→H-1です。
【G-1 倉庫内/1日目 深夜】
【
片桐安十郎(アンジェロ)】
[スタンド]:アクア・ネックレス
[時間軸]:アンジェロ岩になりかけ、ゴム手袋ごと子供の体内に入ろうとした瞬間
[状態]:健康、テンション高
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、不明支給品0~3(本人は確認済み)
[思考・状況]
1.安全に趣味を実行したい
2.そのために手駒がほしい→見つかってラッキー
3.とりあえずコロッセオに行ってみるか
4.荒木は良い気になってるから嫌い
※アクア・ネックレスの射程距離は約200mですが制限があるかもしれません(アンジェロは制限に気付いていません)
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最終更新:2010年10月12日 11:33