「……チッ」

オレは舌打ちして、目の前の河を眺めながら道を歩く。
事故でもあったのか、圧し折れて転がっている道路標識を蹴飛ばした。
ガードレールが道路と歩道を隔てているが、車は一台も通らない。
支給された地図によると、ここは『ヴェネチア運河』と『ナイル川』沿いの位置だ。
遠目に見えるいかにもスラムな街とイルーゾォの奴がブチャラティ達にやられた『ポンペイ』の遺跡がそれを示している。
最初にこのムチャクチャな地図を見たときは驚いたが、どうやら地図が間違っているわけではなさそうだな。

『ザ・グレイトフル・デッドッ!』

見慣れたオレの『スタンド』が出現する。
特に異変はない……だが、心なしかスタンドパワーが落ちている気がするな。

「あのアラキって野郎の仕業か……? チッ」

オレは再度舌打ちをすると、ディバッグに手を伸ばした。


食料、懐中電灯、方位磁石等を確認していくうちに、名簿らしき物と数枚の紙を見つけた。
紙切れを飲料水と一緒にディバックに戻し、名簿に目を通す。
「ペッシ……」

あいつは、オレたち暗殺チームの目的を捨ててこのゲームに乗るだろうか?
恐らくそれはないだろう。だが、このゲームで仲間に会うまで生き残れるかと言うと……。
カタギの奴においそれと殺られるワケはないだろうが、ママっ子のあいつは精神力に問題がある。
とはいえ、あいつはチームの仲間を殺して自分だけ生き残ろうとする程"弱く"はない。
だが、ペッシのスタンド『ビーチ・ボーイ』に太刀打ちできるスタンド使いもそうはいないだろう……。

「ホルマジオ……!? 生きてたのか……?」

安堵がオレに抱きついてくる。と、同時に疑念も沸いてきた。
ヤツは情報によれば、ナランチャの『エアロスミス』に殺られたはず……。
オレ自身は直接死体を確認したわけではないから、断定も出来ないが……一応用心しておくか。
アラキの罠じゃないとも限らねーしな。

「リゾット……ギアッチョ……」

チームの仲間だ。とりあえずの行動方針としては、こいつらと合流して、ここを脱出することだな……。
"栄光"も"成長"も命あってのものだ。こんな危険なゲームに自分から乗って無駄に命を消費する必要はない。

           トリッシュ
「ブチャラティ達に……娘もいやがるゼッ!」

好都合だ。オレは『ザ・グレイトフル・デッド』をしまって、とりあえず街の方に向かおうと振り返る。

数十m先に、根元から折られた道路標識を持った男が立っていた。
驚愕が襲う。オレは暗殺のプロだ。このオレに気付かれず、この間合いまで近づくなど……。

「アンタさァ~……今……『スタンド』出してたよな?」

男がオレに向かって馴れ馴れしく話しかけてくる。そこでオレは気付いた。
暗くてよく分からなかったが……コイツは……女だ。




あたしの名前はエルメェス・コステロ。
とある監獄の女囚だ。
囚人番号はFE40533。
スタンドは『キッス』。
おい、あたしのスタンドの名前を聞いていやらしー想像をするんじゃねえ。

「……さて、どうするか?」

あたしはボソリと呟くと、ガードレールに体重を預け、これからの事を思索し始める。
やはりというべきか、最初に考えたのはこれが夢ではないか……という事だ。
しかし、これがムショのくせー寝床であたしが見ている夢だとしたら……このゲーム会場に呼び出される直前の、
あのスポーツ・マックスへの復讐という本懐も夢だと言う事になる。事実、スポーツ・マックス戦で受けたはずの傷が無くなっている。
半々の気持ちで祈りながら、あたしは自分のほっぺたをつまんでみた。

「イテッ! やっぱ夢じゃあねえのか……」

あたしは「なんかちょっと恥ずかしいな」とか思いながら、いつの間にか自分の肩に掛かっていたディバッグを開く。
名簿を取り出して『空条徐倫』の名前を見つけた瞬間、あたしの脳内に先ほどの徐倫の絶叫が蘇る。

『ママあああああああああああ!!!!』

「徐倫……」

徐倫は、復讐を望むだろうか? 当然だろう……復讐を望まない"被害者"はいない……。
最愛の姉・グロリアの仇を取るための戦いに徐倫を巻き込んでしまったあたしが、徐倫に対して出来ることは一つ。
あいつを助け……徐倫がそれを望むなら、彼女の"復讐"に協力することだけだ。
あいつはこないだのあたしのように、あたしの協力を断るかもしれない。
だが、それでもあたしは、徐倫を放っておくことはできない。
前準備としてとりあえず、ゲームに乗った危険人物を排除しておくか……。

次に、F・Fとマックイイーンの名前を見つけた。
FFもおそらくあたしや徐倫を探しているだろう。
マックイイーンは自殺してそうだな……。

それにしても荒木の野郎、一体全体なんでこんなゲームをあたし達にさせようとしてんだ?
あたしは段々イラついてきて、デイバックから取り出した紙切れをビリビリに破いて捨てた。

ドンッ!

「え?」

何か重いものが落ちたような音が聞こえて、あたしが振り向く。

「な……何だこれはぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!?」

そこには、バラバラに分解されたトラックがあった。あたしが今、破いた紙を捨てた位置にだ。

「なるほど……これが荒木の『スタンド』ってわけか? いや……そうとは限らないな」

あたしはバラバラになったトラックを見ながら、あんな小さな紙切れの中にこれが入っていたのか、と驚く。
まあ、スタンドで驚くのには慣れはじめてきたしな。
有用な移動手段になったであろうトラックをブッ壊しちまったのにははっきり言って落ち込んだが、
気を取り直してディバッグを漁り始める。

「おっ、まだあるじゃんッ」

先ほどの物と酷似した紙切れが二枚出てくる。

「開けばいいのか?」

ぺラリ、と何気なく紙を捲る。

火の付いた導火線が最初に見えた。
次に、ダンボールみたいな色の円筒が、紙の中から姿を現し始める。

「うおおおおおおおおっ!? これはッ!? ダイナマイ……」


とっさに紙を閉じると、ダイナマイトは紙の中に納まった。

「ハァ……ハァ……なんてことしやがるッ! 火をつけたままこんなもんを入れるんじゃねェッ!」

誰にも聞こえないであろう怒号をあげながら、あたしは三枚目の紙切れにも用心しながら手を伸ばした。
ゆっくりと、慎重に紙を開いていく。

「……なんだこりゃ?」




「なぁ……アンタ今……『スタンド』出してたよな?って、聞いてんだぜ……」

女が、驚いて声を出せないオレを鋭い眼で睨めつけながら、再度同じ事を言った。
オレは我に帰り、即座に相手との距離を再確認する。
約20m。
こいつのスタンドが近距離型のスタンドなら、まず接戦は不可能だ。
遠距離型のスタンドだとすれば、オレを攻撃するにはあまりにも近付きすぎている……。

これらの点から、こいつはオレに対して警戒しているが、すぐさま戦闘を開始する気はなさそうだと判断できる。

「ああ……コイツの事だな」

俺は『ザ・グレイトフル・デッド』を発現させ、女に向き合った。

「それがどうした? "見える"ってことは……お前もスタンド使いか?」

「アンタ、ゲームに乗ってんのか?」

質問を質問で返してくる女に、オレは少しイラつきを覚える。
さりげなく、警戒されない程度の速度で、女に向けて『ザ・グレイトフル・デッド』の能力を使う準備を始めた。

「別に……お前はどうなんだ?」

「あたしも、殺し合いに乗る気はない。……あばよ」

女はオレに興味をなくしたらしく、背を向けて離れようとする。

「待て。お前、何故オレに話しかけてきた? オレが"乗っている"ヤツだったらどうしていた?」

今逃げられるのは避けたい。
今コイツに言ったとおり、確かに俺はゲームに乗る気はない。
だが、こいつの持っているであろう食料や飲料水を奪う気はある。コイツの挙動を見る限り、明らかに素人だ。
オレのように死と隣り合わせの日常を送ってきた者ではなく、スタンドが使えるだけの一般人であろう。
ならば、支給品を奪うのも容易い。オレは『ザ・グレイトフル・デッド』の眼から老化ガスを放たせ、暗闇に紛れるように、
女にじわじわとガスを近づかせる。

「あんたがゲームに乗っていたら……倒すつもりだったさ」

フン。要するに、正義感か。
オレたちが生きる世界では絶対に考えられない、馬鹿げた性格だな。
もう少し冷酷なヤツだったら、リゾット達を見つけるまでの仮初の協力者にしてやってもよかったが……。
一緒に行動しても、これでは足を引っ張られるだけだろう。
オレは"カモ"に老化ガスを肉薄させる。あと数mの移動で、ヤツは"老い"始めるだろう。

「そうか……じゃあ、健康に……気をつけなッ!」

オレは、『ザ・グレイトフル・デッド』の能力を行使しようと、気を張ろうとして……。
女が、手元の道路標識から、何かを剥がすのが見えた。

「やはり……乗っていたな……『キッスッ!』」

女のスタンドの像が姿を現し、道路標識がかなりのスピードでオレに向かってくる。
ヤバイ、と一瞬感じたが、十分に対処できる攻撃だ。
『ザ・グレイトフル・デッド』で道路標識を弾き、オレは女に対する認識を改めた。

「思ったより鋭いよう……ッ!?」

バゴォッ!

「命中……正中線上ッ!!」

何が起きたッ!?
背中に激痛が走っている……オレは倒れそうになるのをなんとか踏みとどまり、、自分の背中を見た。

「がっ……! こ……これはっ!? オレがさっき蹴飛ばしたッ……!?」

道路標識がオレの背中に激突していた。
跳ね返って地面に落ちた道路標識は、女が飛ばしたほうの道路標識に引きよせらるように、ひとりでに移動している。

「あたしのスタンド……『キッス』は、生み出したシールを貼り付けることで、物体を二つにし……」




二つの道路標識が接触し、奇妙なことだが……『融合』するように一つになり、破壊された。
女は叫びながら、こちらに走り寄り始める。

「それを剥がすことで、物体を破壊するッ!うおおおおおおおっ! 次はてめえの脳天……?」

オレは、にやり、と笑みを浮かべる。
女の顔に、皺が刻まれ始めていた。

なんとか女に達した老化ガスが作用し始めたことを確認すると、オレはゆっくりと後ろに下がった。
予想外のダメージを受けた……ヤツがオレに近づこうとしていたことから見ると、恐らくヤツの『キッス』は近距離パワー型。
この状態でのパワー比べは避けたい。

「て……てめえッ! これが貴様のスタンドのッ! 」

女が叫ぶ。
……妙だな。 ヤツが女だということを差し引いても、老化の速度が遅い気がする。
オレは念のため、さらに一歩下がった。
女は、老化しながらも、こちらに近づこうとしている。

「能力が発動しきる前にッ! てめえを……ぉぉぉぉぉぉ……ブッ殺す……」

「あまり動かねえ方がいいぜ。体があったまると……"老化"も早まるからな……
 それとブッ殺すなんてのは……まあ、てめえに説教する必要はねえか……」

オレの忠告を聞こうともせず、女はさらに近づいてくる。
……本当に妙だ。オレ自身の長年の経験からして、この距離で、こんなに老化のスピードが遅いわけが……。
オレがさらに一歩下がった時、背後からザリッっと、足音が聞こえた。
オレが振り向く前に、氷のように鋭い、男の声が飛んでくる。

「お前らの……首輪を渡せ」



「……なんだって?」

「首輪を渡せ、と言ったのだ」


オレが女に注意を払いつつ振り向くと、そこにはターバンの様な物を頭に巻き、
腹部から太ももまで、至る所を大胆に露出している男が立っていた。

(何だこの格好は……変態か……?)

オレは見慣れないセンスの服装の男を警戒し、どう対処すべきか考える。
その間に、老化が進む女が、変態に話しかけた。

「何だ……テメーは……?」

「答える必要はない。首輪を渡せ」

男は女も……オレすらも見ず、なにやら地面をじっと見つめている。
オレはとりあえず意思疎通をして見るか、と話しかけた。

「首輪を渡せ……と言われても、な。 あんたにはこれが外せるのか?」

        ..................
「だから……このカーズの手を煩わせるな、と言っているのだ。
 見ていてやるから、お互いにお互いの首をその人形で落とし合うのだ。餌以下の存在らしくな……」


変態男は傲慢な口調で言うと、懐からパック飲料の様な物を取り出し、くつろぎきって飲み始めた。
オレはチラリ、と女のほうを見る。女はどうやらオレと同じく、コイツに対して苛立ちを感じているようだ。
この変態野郎……何様のつもりだ?

「て……めえ……」
「何をそんなにいい気になってるんだ? お前から"老い"させても、一向に構わねえんだぜ?」

息切れ切れの女の言葉を継ぐように、オレはカーズ……と名乗った男を挑発する。
ヤツが『スタンド』を出す前に仕留めようと、『ザ・グレイトフル・デッド』の老化ガスをカーズに向けて排出する。

「……いい気になっている? 人間ごときが、このカーズに何を言っているのだ?」

カーズはその長い腕を伸ばして、俺の『ザ・グレイトフル・デッド』の老化ガスが"老いさせた"路傍の花を指で指し示す。

「貴様等にィ……その花ほどの価値があるとでも、本気で思っているのかァ?
 フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」

狂ったように笑うカーズ。
オレは、この瞬間、感覚で理解した。
コイツは……人間じゃねえ。化物だ。
臨戦態勢に入る。恐らく交渉は不可能だろう。
老化ガスが、カーズの顔まで届き、やつの体内に侵入する。

「『ザ・グレイトフル・デッド!』これで貴様は老いさばらえるッ!」

「『老』・『いィ?』 老いだとォーーーッ! 浅識! 浅識ィ! 」

カーズはニヤニヤ笑いをしながら、オレに近づいてくる。
驚いたことに、その挙動には、『ザ・グレイトフル・デッド』の能力が作用している様子は全く見られない。
クソッ! さっきから何なんだ?
自分のスタンドへの自信が揺らぎそうだぜ。

「おい……あたしを……戻せ……!」
「うるせえッ! お前はそのまましょげ返ってろッ!」
「ヤツ……に……一人で……勝てると……思うか……?」

「……チッ!」

老化がかなり進行した女が、オレと共同戦線を張ろう、と提案している。
オレは渋々『ザ・グレイトフル・デッド』の能力を解除する。
オレだってカーズって野郎の不気味さが異常って事はわかる。
下手に意地を張って無駄死にするのはゴメンだ。

「おおッ! 若返ったッ! 体が軽いぜェェェーーッ」

「喜んでる場合じゃねえぞ……ヤツが来るッ! そこまで来てるぞッ!」

「おい、小ジワとか残ってねえだろうな?」
「さっさとスタンドを出せェーーッ!」

「……」

女は一向にスタンドを出す気配を見せない。
まさか逃げるつもりか?

「何を揉めているんだ? 仲たがいせずに……仲良く死ねぃッ!」
「ハッ!」

いつの間にか、カーズが数mまで近づいていた。
ヤツの右腕がパクリと開き(やはり人間じゃねえ!)、剣が飛び出す。
オレはもう女に構っている暇はないと判断し、『ザ・グレイトフル・デッド』を展開した。
あの剣で斬りつけられるよりは、『ザ・グレイトフル・デッド』の一撃をヤツにぶち込む方が速いはずッ!

「『輝彩滑刀の流法』!」

「『ザ・グレイトフル・デッドッ!』」

カーズの腕から飛び出した剣が光を帯び、オレのスタンドに接近する。

「その人形からッ! 切り刻んでくれるッ!」

「その剣がテメーのスタンドか……?」

『ザ・グレイトフル・デッド』でガードしようと、スタンドの両腕を上げさせる。
しかし、剣は『ザ・グレイトフル・デッド』をすり抜け、地面に激突してアスファルトに切れ目を入れた。

「!? 」

「ただの剣でスタンドに斬りかかってきたのか……? 何考えてんだ?」

「スタンド!? なんだそれは……この人形の名前かッ!?」

オレが見る限りでは、カーズは今始めて焦燥の表情を浮かべている。
オレのスタンドが見えているのに自分のスタンドを出さないのは奇妙だと感じたが、このチャンスを逃す手はねえ。

「『ザ・グレイトフル・デッドッッ!』ヤツの腕を押さえてろォーーッ!!!」

スタンドにカーズの両腕を掴ませ、オレは自身の腕で直接カーズに触れる。

「『直』は素早いんだぜッ! パワー全開だッ! 」

1秒。カーズに変化はない。
2秒。カーズに変化はない。
3秒。カーズに変化はない。

「……なッ!?」

「フン! 」

カーズは自由な足で俺の顎を蹴り上げ、そのまま俺の体を足で持ち上げた。
足が地面から浮くのが分かる。

「グハッ! (こいつ、まさか……"老い"ないのかッ!? 不老の仙人だとでもッ!?)」

「何のつもりか知らんが……人間が俺にわざわざ接触してくるとはな……最も、貴様は俺の素性など知らんか」

『ザ・グレイトフル・デッド』のパワーが弱まり、やつの腕への拘束が解ける。
カーズは左腕で俺の首根っこを掴んで持ち上げなおし、右腕の剣を構えた。
『ザ・グレイトフル・デッド』で殴りつけるが、カーズは微動だにしない。

「あの奇妙な人形に警戒して……血を吸う前に、息の根を止めておくか」

(殺られ……)
「『キッス!』」

死を覚悟した瞬間、今まで完全に意識の外にあった女の声が聞こえた。
俺を掴んでいるカーズの左腕に、『スタンド』の腕がシールを貼り付ける。
俺も、カーズも、完全に虚を突かれていた。
        ......
こいつ……ついさっきまで、いなかったはずだ。それが突然現れた。
瞬間移動のような能力を持っているのか? しかし、スタンドは一人一能力のはず……。

「きさ……まッ!?」

カーズの声が驚愕に染まる。
シールを貼られた自分の左腕が二つに増えたのだ、無理もないだろう。
そして驚いた拍子そのままに、ヤツはオレの体を離した。
解放されたオレは、飛びのくようにその場から退く。
  ....
「はがすッ!」

女がシールを一気に剥がす。
先ほどの道路標識と同じように、二つに分かれたカーズの腕が一つに戻り、破壊された。

「BAAHHHOHHHHHH―――!!!!」

奇声を上げながら、カーズが仰け反る。
女はその隙に『キッス』の蹴りをカーズに食らわせ、ヤツを運河に突き落とした。

「ふぅ~~~……」

息を整える女。
オレはカーズに掴まれていた首根っこをさすりながら、女に問い掛ける。

「何故……オレを助けたんだ? あんなふうに移動できる能力があるなら……」

「自惚れんじゃねえッ! ヤツがてめえにトドメを刺そうとした瞬間にたまたま"到着した"だけだッ!
 あたしをババアにしてくれたお礼はッ! これからするんだぜェェェェェッ!
 ブチのめされたくなかったらワビを入れなッ!!」

一瞬感謝しそうになったが、どうやらコイツは俺を意図的に助けたわけではないようだ。
ん?

「……!」

「何黙りこくってやがるッ! さっさとワビを……」

「伏せてろッ!」

今にも噛み付きそうな女を『ザ・グレイトフル・デッド』で突き飛ばす。

「てめえッ! いきなりなにしやが……!?」

女も気付いたようだ。
ついさっきまで自分が立っていた場所に、カーズの剣が刺さっていることに。
カーズは水中から跳躍し、元の場所に戻ってきていた。
頭部からターバンが取れ、長髪を露わにしている。
先ほど飲んでいた飲料パックのフタを噛み砕き、染み出た赤い液体を飲み干している。
そしてあろうことか、破壊された左腕が僅かづつ修復していくのが確認できた。


「FUUUUU……ふざけた真似をしてくれる……波紋とは異なるエネルギー……『スタンド』とか言ったか……」

「こ……この野郎ッ! あたしの『キッス』の蹴りを喰らってノーダメージなのかッ!?」

「貴様等を『波紋戦士』に比肩する邪魔者とみなしたッ! ここで確実に始末するッ!」

まずいな……!
女とオレのスタンドは、どうやらこいつとの戦いには向いていない。
どういうわけかオレの"老化"はコイツにはきかねえし、スタンド自体での直接攻撃でもほとんどダメージは与えられない。
まともなダメージを与えられそうなのは女の『キッス』の能力だけだが……一度使った以上、もう易々とは成功しないだろう。

考えあぐねているオレに、カーズが鋭い眼光を向けた。

「貴様から……仕留めるとするか」

(来るかッ!)


『ザ・グレイトフル・デッド』を発現させ、カーズの攻撃に全神経を集中させる。
カーズは例の光る剣を露出させ、オレに斬りかかってきて―――――。

鋼弾の雨に、飲み込まれた。

「うおッ!?」

「カァァァァァァァァァァァァァズ!!!! 死ねェェェェェェェい!!!!」

鋼弾の飛んでくる方を見ると、軍服を着た男が腹から機関銃を出して叫んでいた。
銃弾の雨霰に巻き込まれては大変と、オレは慌ててその場を離れる。


「MMMMMMMMMMMMMMMM!!!」

カーズは奇声をあげながら、再び川の中に吹き飛ばされた。
軍人がオレと女に駆け寄り、畳み掛けるように話し始める。

「貴様等ッ! なにをしている! 奴がこの程度で死ぬはずがないッ! 早く逃げるぞッ!」

軍人はどうやらジープに乗ってきていたようで、俺たちを急きたてるように後部座席に案内する。
全身を撃たれたカーズが死んでないとは信じられないし、
この怪しい軍人に付いていくのに一抹の不安はあったが、あわよくば"足"を確保できるかもしれない。
オレは大人しく軍人の言うとおりにし、女の隣に座った。
軍人は慌しく車のキーをガチャガチャすると、ジープを発進させる。

「おいおい……冗談だろあの野郎ッ!」

女がバックミラーを見て叫ぶ。
反対側のバックミラーに眼をやると、カーズは既に陸に上がり、このジープを憎憎しげににらめ付けていた。
今にも俺たちを追って走り出しそうだ。
……なんなんだあいつは? どういう生命力をしているんだ。
オレは溜息をつくと、とりあえず体を休めるため、シートに身を預けた。



「……『柱の男』?」

「そうだ。吸血鬼を生み出し、人間を滅ぼそうとしている……人類全体の敵と言ってもいい悪魔どもだ。
 カーズはその中でもリーダー格だと調査結果がでておるッ!」

カーズから撤退して十数分後。
オレは、ジープにガソリンを補給するために止まった川沿いの駐車場で、ナチス軍人と名乗った(頭イかれてんのか?)
ルドル・フォン・シュトロハイムからカーズの情報を聞き出していた。
不老不死ね……どうりでオレの『ザ・グレイトフル・デッド』が通用しないワケだ。
どうやらこのシュトロハイムは、このゲームに連れてこられる前に『柱の男』とやらと対立していたらしい。

「カーズ・エシディシ・ワムウ・サンタナ……この四人が『柱の男』だ!
 エシディシとサンタナは我等ナチスとその他波紋戦士によって無力化した筈なのだが……」

「アラキが復活させたという可能性は?」

「ナァァァァァァーーーーーーイ!!! サンタナはともかく、エシディシは完全に消滅したという情報が入っておるッ!」

「なるほど……」


ホルマジオと同じか。
単に死んでいなかっただけか?
アラキは死者を操れるのか?
それとも、参加者を撹乱させて殺し合いを加速させるための策か……。

「ところでッ! 波紋もなしにあのカーズに立ち向かった貴様等の勇気! わたしは敬意を表するッ!
 人間の偉大さは恐怖に耐える誇り高き姿にあるのだ! 貴様等なら私とともに柱の男共を倒せるだろうッ!」

「成り行きでやりあっただけだ……てめえと馴れ合うつもりはねえ。
 人が多いだろうこの地図の中心部……市街地まではのっけってってもらうが、そこでお別れだぜ」

「フハハ、照れるな照れるなッ!」

(うぜえ……)

とはいえ、あのカーズを放っておくのも気に掛かる。
今倒せるようなら、倒しておくか……?
リゾットたちと合流した後、邪魔されないとも限らない。
人間を吸血鬼にするとかって話だし、大軍団でもこさえられたらメンドーだ。

「おいッ! ここの車、ほとんどガソリンが入ってねえぞッ!」

ガソリンを調達しに行った女……エルメェス・コステロが戻ってくる。
シュトロハイムは残念そうに唸ると、ジープの燃料の残量を確認する。

「ムウ……市街地に着くころにはなくなってしまうか……そこからは歩きだな」

「それより、モタモタしてていいのか? カーズに追いつかれでもしたら……」

「ナチスの科学は世界イチィィィィィィィ!!! 奴の身体能力は完全に研究しきっておるッ!」

自信たっぷりに言うシュトロハイム。
エルメェスとオレは顔を見合わせ、肩を落とした。
こんなのに助けられたのか……。
と、エルメェスが先ほどのオレとの敵対を思い出したのか、喧嘩腰で詰め寄ってくる。


「そうだプロシュートてめえ~~~ッ、さっきはよくも突き飛ばしてくれたなッ!」

「借りを返してやったんだぜ? これで遺恨はチャラにしな。もうお前を攻撃したりはしねーよ(多分な)」

「コブが出来てんだよ頭にッ!」

「こらこら二人とも男なら小さいことで喧嘩するなァ! フフ……ところで貴様等の不思議な能力ッ!
 この私が名付け親になってやろう! そうだな……『側に立つもの』と言う意味のッ!『スタンド』というのはどうかなッ!?」

「「てめーは黙ってろォォォーーーッ!」」


数分後。
エルメェスとの口論が終わってシュトロハイムのジープのところに戻り、とりあえず走れるところまで行くことになった。

「シュトロハイム、あんたはこれからどうするんだい?」

「とりあえず『JOJO』と『リサリサ』、それと『シーザー』を探す……なんだかんだ言っても奴等の『波紋』が最も
 『柱の男』には効果的だからなッ!」

エルメェスの質問に、シュトロハイムがすらすらと答える。
素性も知らない奴等の前でよくもそう仲間の名前をペラペラ言えるもんだ。
内心呆れながら、ジープに近づく。

「そうだ。アンタらに『シール』を渡しとくぜ。カーズの野郎が襲ってきたら、ドタマに貼り付けてやりな」

エルメェスが立ち止まり、オレとシュトロハイムに『キッス』の『シール』を投げ渡す。
ジープのドアを開けかけていたシュトロハイムは鋼鉄の義手で受け取るが、
鼻で笑うようにしてエルメェスにシールを返そうとする。

「フン! こんな物に頼らずとも、わがゲルマン民族の誇りであるこの体さえあれば……」

ビュンッ!

一瞬、何が起きたか分からなかった。
地面が割れ、シュトロハイムの義手が跳ね飛ばされる。
そして、空中で一回転して俺たちの目の前に着地したのは……!



「カッ! カーズッ!」

「フン!」

カーズはシュトロハイムをジープに叩きつけるように蹴り飛ばした。
ジープは横転し、シュトロハイムは腹の機関銃をぶち抜かれて吹き飛んだ。
カーズが飛び出してきた地面をみると、パイプのような物が割れている。
これは……排水口か?

「キッ! 貴様! 一体……」

「あの若造に出来たことがこのカーズに出来んとでも思ったか? シュトロハイムゥ~」

驚いたことにシュトロハイムはほとんどダメージを受けた様子もなく立ち上がり、カーズを睨めつける。

「なるほど……自分の骨格をねじりッ! 排水口に忍んで近づきおったかァ! 予想外ッ!
 だが修正は効く! ここで貴様をバラバラの肉片にしてやればなァ~~ッ!」

「機械ごときが相手になるか、と言ったはずだがな……」

シュトロハイムは残った一方の義手を突き出し、カーズに掴みかかる。
カーズの肉が千切られ、血が噴出した。 シュトロハイムは勝ち誇ったような表情を浮かべながら、追撃しようとする。

「見たかッ! サンタナのパワーの二倍の超握力! ナチスの科学力はァァァァァ……」

「……貴様、何を考えている? この間バラバラにされたのを忘れたのか?」

「へ?」

次の瞬間、カーズの拳がシュトロハイムの右足を破壊した。
シュトロハイムは崩れ落ち、カーズの方を向いて叫ぶ。

「バッ……バカな! これほどとは! 強い! 強すぎる! 今の人間の科学力では勝てんッ! しかしッ!」
「お前は次に『俺を完全にやっつけたと思うなよカーズ』という」
「俺を完全にやっつけたと思うなよカーズ……ハッ!?」

「なるほど……そういう事か……」

「JO……JOJOの真似事でこけ脅しのつもりかッ! 喰らえィ! 紫外線照射装置作……」

「フン!」

ウィンウィン……と作動音を上げて開いたシュトロハイムの右目。
そこに、カーズの輝く剣が間髪いれず差し込まれた。
シュトロハイムはそのまま投げ飛ばされ、オレとエルメェスの足元まで飛んでくる。

「GYAAAAAAA!!!」

「さて……次はお前らだな」

カーズが振り向く。
まずい……こいつは本当にヤバイ。
戦ったら確実に殺される。リゾットたちと一緒でなければ……。
オレはエルメェスに振り向くと、「一旦逃げるぞッ!」と叫ぶ。

「逃げたいなら逃げな……コイツは……あたしが殺るッ!」

「何ッ!?」

コイツ、何考えてる!?
無駄死にするだけだってわからねーのか?
エルメェスはシュトロハイムの脈を確認して、俺を見ずに言った。

「シュトロハイムはまだちょっぴり生きている……プロシュート、てめえはこいつを連れてここから逃げろ。
 こいつを生かしておけばッ! 『あいつ』の行動をきっと妨げるッ!」

「てめー何意地張ってカッコつけてやがるッ! 自分の命が大事じゃねえのかッ!?」
            ..............
「大事さ……だが、それより優先されるべき物もあるッ!」

「『あいつ』!? ここにお友達でもいるってのか!? そいつにカーズが出会うかも知れないから自分が倒すとでもッ!?」

……待てよ、何故オレはこんなに熱くなってんだ?
放っといて逃げればいいじゃねえか。
だが、何かが俺を引き止める。
次のエルメェスの言葉で、その『何か』が理解できた。

「友達とか仲間なんて生易しいもんじゃねえ……恩人さ。あたしは自分の復讐を『あいつ』のお陰で遂げられた。
                                              ..........          ........
 だから『あいつ』の為なら死ぬかも知れねえ戦いだってやる! 『あいつ』がするかもしれない『復讐』の邪魔になるであろう
 ってだけで! あたしがこいつを倒すのに命を張る理由は十分なんだッ!」

「……!」

こいつは、仲間とぺちゃくちゃ喋って心を慰めあってるような『マンモーニ』じゃねえ。
仲間と、仲間の目的の為に、"行動"だけを出来る奴だ。
それに比べて、ここに来てからのオレはどうだ?
この『柱の男』という超常生物に怯え、仲間の庇護を得ようとする。
ゲームに乗るか乗らないかという決断さえ、中途半端に保留する。
これじゃあペッシの野郎に毎日のように卒業しろと説教していた……『マンモーニ』そのものじゃあねえかッ!

「わかったら、さっさと……」

「いや……シュトロハイムと行くのはお前だぜ、エルメェス」

「何ッ!?」

「オレはッ! 『マンモーニ』にはならねぇッ!」

俺たちの会話をニヤニヤ笑いながら聞いているカーズに向けて、『ザ・グレイトフル・デッド』を発現させた。
そのクサレ顔にシールをぶち込んで……?
突進した『ザ・グレイトフル・デッド』が、何かに引き摺られるように後退していく。
何か? 何かってのは……オレ自身だ。つまり、スタンドの原則からして……。
................
オレが、何かに引き摺られている。

「こ……これはッ!? まさか!」

「頭に血を上らせんじゃねえ……プロシュート。お前のスタンドは、カーズとは相性が悪すぎる。
 今この場で奴に勝ち目があるのは、あたしだけだ。お前は、自分の仲間でも敵でもいい、
 誰かにカーズの事を伝えろ……あたしが殺られた時の為にな」

「エルメェスてめえッ! これはッ! てめえこれはブチャラティ達のッ!」

オレを、オレのスタンドを引き摺っているのは、亀。
ブチャラティ達が潜伏していた、あの亀だ。
オレはシュトロハイムと一緒に、亀の中の部屋に引きずり込まれた。
エルメェスが亀を全力で川に投げ込む。

「うおおッ! 馬鹿なッ! 馬鹿なてめえぇッーーー!!」


オレは叫びながら、『亀の甲羅』から見える景色が水に変わったことに気付く。
今ここから飛び出しても、カーズのところまでは戻れねえ……。
オレは、力なく椅子にへたり込んだ。

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ルドル・フォン・シュトロハイム 44:ママっ子☆マンモーニ!2
カーズ 44:ママっ子☆マンモーニ!2
プロシュート 44:ママっ子☆マンモーニ!2
エルメェス・コステロ 44:ママっ子☆マンモーニ!2

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最終更新:2009年05月06日 17:59