(おれは「腹が痛い」と言ってポルナレフとジョースターの車から降りた)
気持ちを落ち着かせるために米神を揉みながら、うんうん、と
オインゴは一人頷く。
(そんでもって、ポルナレフの野郎が「ほれ 紙だ」だとか言っておれにティッシュを渡してきて、走り去ろうとしたら……)
オインゴは、たっぷり数分かけて、その時のことを思い出す。
ティッシュをひったくり、走り出したら風景ががらりと変わった。
何が何だか分からないまま、前につんのめって椅子の背にぶつかったのを覚えている。
そしていきなり出てきた変な東洋人曰く、"殺し合いをしてもらう"。
その後に女2人がくっちゃべって注意され、団子頭の女の母親が殺されて――
"注意された女は、肉親を殺された"。
オインゴは、ひやりとした。もし、注意されたのが自分だったら……殺されたのは弟のボインゴだったのかもしれない。
「そ、そうだッ! 弟よ! ボインゴ! おまえ、いるのか!?」
返事は、無い。
辺りを見回していると、側にバッグが落ちているのに気付いた。
中身を確認すると、飲食物や懐中電灯、地図など、生き残るのに必要最低限のもの、そして名簿が入っていた。
オインゴは逸る気持ちを抑えながら、名簿を確認する。ボインゴ、ボインゴ……
――載っていない。
大きく安堵の息を吐きながら、今度は、どんな奴が参加しているのかをチェックする。
ディオ・ブランドー? DIO様に名前が似ているな……。
あと、ジョースターって名前がいくつかあるのはなんでだ……?
ゲッ、承太郎のやつらまでいるじゃあねえか!
しかも、九栄神も何人かいるな……。どういうこった、これは?
安堵した直後に胃が痛くなってきた。こいつらと殺し合えだなんて、どう考えても"死ぬ"に決まってるだろ!!
(何か無いか、何か……)
デイパックの底に折りたたまれた紙を見つけた。藁にもすがる思いで紙を開く。
「……」
若い女向けの下着が入っている。普段なら大喜びするのだろうが、生憎と今はそんな気持ちにはなれない。
もう1つの紙を開く。すると今度は、矢が出てきた。どこかで見たことがあるような気がしたが、時に気に留めない。
いや、正確には、違う所に気が散っていた。
矢は風見鶏のようにくるくると回り、ここから北東の方角を指して止まった。
おかしいぞ、と思い、オインゴは方位磁石を取り出す。やはり向こうは北東だ。
この矢の形をした磁石は狂っているのか? いや、そもそもなぜ磁石が2つも入っているんだ。
そうか、こうやって錯乱させるために――。
確認のために、矢が示した方向を向く。すると、荷物を抱えた人影が、こちらに向かってくるのが見えた。
(マッ……マズイ!!)
オインゴはすぐ側に茂みを見つけ、音を立てないように回り込んで隠れた。
* *
「ン?」
人の気配を感じ、億泰は懐中電灯を茂みに向ける。
しかし誰もいないし、葉だって揺れていない。億泰は無表情でそれを見つめ、無言で再び歩き始める。
億泰の足取りは重い。
チェックした名簿には、知り合いの名前が何人かあった。仗助や康一、承太郎、スタンドを持たない早人、死んだはずの重ちー、吉良。
そして――
億泰は奥歯を噛み締めた。兄貴の仇の名が、ここにある。
様々な思いが浮かんでは消え、彼の胸の中を駆け巡る。
(どうすればいい?)
自分の右手を見つめる。
(なあ、兄貴。おれはこれから、どうすればいい?)
不安だった。兄の仇を討つよりも、億泰の心を支配しつつある感情があった。
(もし、こうしている間にも仗助たちが誰かに襲われていたら――)
そう思うと、足元が掬われた様な、体の内部からストンと落ちてしまいそうな気分になる。
この静寂のせいかもしれない。気を紛らわすために、億泰は小声で自分に言い聞かせる。
「まず、仗助や承太郎さんたちと合流しなきゃな……」
* *
低くなった姿勢のまま、オインゴは首を傾げた。
(今、"じょうたろう"って聞こえたよな?)
前を通っていった人物を茂みの影から窺う。年は十代半ばを過ぎた頃だろう。
今度は名簿に目を移す。さっき見た限りでは、"じょうたろう"という名の人物はただ一人、"
空条承太郎"だけのはず。
(口振りからして、味方……だよな? わざわざ敵に"さん"まで付けて、合流しようなんて言わないもんな……。
ああ、でも、もしあいつが戦闘向きじゃないスタンド能力持ってたら……)
ガサッ
「やっぱり誰かいたじゃあねえかァ~~」
オインゴは飛び上がらんばかりに驚いて、とっさに振り返った。そこにいたのは、さっき通り過ぎたはずの少年だったのだ。
(こ、殺される!?)
しかし相手は懐中電灯を向けたまま、首を傾げただけだった。
「……? あれ、おまえどっかで……って、ああ! 承太郎さん!!」
「え、あ……」
「す、スイマセン、承太郎さん! だってまさか承太郎さんだなんて思わなくって……そもそも、なんで隠れてるんスかァ~~」
「いや……それは、その……ちょっと落し物したみたいで……」
オインゴは冷や汗をかいて顔を撫でた。どうやら、クヌム神で変身したままのようだった。
「と……ところで、懐中電灯を仕舞ってくれないか? こんな暗い中で灯りが燈ってたら誰かに見つかっちまうかもしれないからな。
やれやれだぜ」
表情を読み取られるとバレるかもしれない。オインゴはそれを、身をもってよ~く知っていた。
* *
億泰はすっかり安心して、ペラペラと捲くし立てた。
「……と、いうわけで承太郎さん! 仗助、康一、由花子、あと露伴と合流した方がいいっスよね!
あと、戦闘向きじゃあねーが、重ちーとトニオさん、スタンド持ってない早人も見つけて……
とにかく、みんなで吉良と音石明とアンジェロをブッ潰さねーと! それから、荒木って野郎も!」
オインゴは、たくさんの知らない単語に、曖昧に頷きながら名簿を見た。
(こいつが言った名前は、承太郎の名前の周りに集中してるな……。この法則でいくと、こいつは"
虹村億泰"か"片桐安十郎"だよな。
でも、アンジェロ? そんな名前は見当たらない……)
一か八か。例え間違ったとしても、なんとか誤魔化せばいい。
まだ喋り続ける億泰に、上擦った声を掛ける。
「よ、よし。そうしようか……"億泰"」
「ハイ」
どうやら合っていたらしい。
他人に成りすます能力。実に暗殺向きではあるが、心臓と胃にかかる負担はでかい。
(殺されるより先に、病気で死にそうな気がするぜ……)
オインゴは、心の中でさめざめと泣いた。
そんな彼の様子に、億泰は眉を顰める。
「なんか承太郎さん、変じゃあねえスか?」
「い、いきなり殺し合いだなんて言われて、困ってるんだ! やれやれだぜ」
勘付き始めたのだろうか。オインゴは「それより」と話題を変えた。
「支給品は見たか?」
「あ、まだっス」
(早くしろよォ~~。何か強い武器があったら、おれはそれ貰ってお前とオサラバするんだからよ~~~!!)
億泰はモタモタとバッグの中を漁った。
紙を開いて出てきたのは……瓶だった。ラベルには「シアン化カリウム」とある。
「ああ、あれッスよね。牛乳に含まれてるやつ」
「それはカルシウムだろ……」
突っ込みつつ、オインゴは喉をごくりと鳴らした。
シアン化カリウム。別名、青酸カリ。
いくら強いスタンド使いとはいえ、本体は生物。毒物は効く。だからこそ、自分だって承太郎たちの飲み物に毒を混ぜようとしたのだから。
しかし、問題は"使い方"だ……。
考えあぐねていると、億泰が驚いた様子で手元を注視しているのに気付いた。
「承太郎さん。その矢は……?」
億泰の出現によってすっかり忘れていたが、そういえば、この矢の用途をまだ理解していないのだった。
「あ、ああ……これか」
それっきり彼が黙ってしまったので、
(承太郎さんが特に何も言わないってことは、"あの"矢じゃあないってことだよな……)
と、億泰は無理やり自分を納得させた。
沈黙が続き、2人が気まずい思いをしていると、矢が反応した。
(あ! そういや、億泰が近付いてきたときも、こんな風に矢が反応したな……。
とすると、これは人がいる位置を教えてくれているのか? つまり……)
「近くに誰かいる!」
オインゴは小声で叫んだ。が、億泰は呑気に指をポキポキと鳴らした。
「じゃあ、そいつに会いに行かねーと。行くッスよ、承太郎さん」
「へ? だ、だって、ゲームに乗った奴かもしれねーぞ!」
今度は億泰が「へ?」という顔をした。
「だったら尚更、おれと承太郎さんで潰しに行かなきゃあなんねーじゃあねッスか。
それに、仗助や康一かも知れねーし」
億泰は矢が指した方向へ、スタスタと歩みを進める。
(ああ~~!! 戦うハメになったら絶対バレる!! でもついて行かなくても不審に思われるだろうし……)
オインゴは頭を抱えて悶えていたが、ふと、億泰の言葉を反芻した。
『"おれと承太郎さんで潰しに"行かなきゃあなんねーじゃあねッスか』
つまり……
(こいつのスタンドは、戦闘型! だったら一人でいるより心強い……)
「何やってんすかァ~、承太郎さん。腹でも痛いんすか?」
(どのみち、おれは戦えないし――)
「あ、ああ――いま行く」
(いざ戦闘になったら、どっかに隠れてこいつを見捨てればいいよな……)
2人は無言で道を進む。
1人は仲間に出会えた喜びと、正義の希望を胸に。
1人は偽りの仮面を被って。
運命はどちらに破滅をもたらすのか、まだ誰も知らない。
【C-8 政府公邸・南の小道/1日目 深夜】
【ダブル"O"ブラザーズ】
【オインゴ】
[スタンド]:『クヌム神』
[時間軸]:JC21巻 ポルナレフからティッシュを受け取り、走り出した直後
[状態]:承太郎の顔に変身中。胃が痛い。
[装備]: なし
[道具]: エルメェスのパンティ(直に脱いぢゃったやつかは不明)、首輪探知機(※スタンド能力を発動させる矢に似ていますが別物です)、支給品一式。(不明支給品残り0~1)
[思考・状況]
基本行動方針:生き残れそうに無いが、変身能力を活かしてバトルを避けたい。
1. 億泰のスタンド能力を聞き出したい。(とりあえず戦闘型ではないかと推測)
2. 承太郎じゃないってバレたらどうしよう……!
3.でもこいつ馬鹿そうだから大丈夫かな……。
※ 名簿を確認しました。
※現在は承太郎の顔ですが、顔さえ知っていれば誰にでも変身できます。スタンドの制限は特にありません。
※億泰の味方、敵対人物の名前を知りました。
【虹村億泰】
[スタンド]:『ザ・ハンド』
[時間軸]:4部終了後
[状態]:健康
[装備]: なし
[道具]: 青酸カリ、支給品一式。(不明支給品残り0~2)
[思考・状況]
基本行動方針:味方と合流し、荒木、ゲームに乗った人間をブチのめす(特に音石は自分の"手"で仕留めたい)。
1.承太郎さん、変なものでも食ったのかあ?
2.なんで重ちーや吉良が生きてるんだ……!?
※オインゴを承太郎だと思っています。暗いので、彼が知っている承太郎よりも若いことに気付いていません。
※ 名簿は4部キャラの分の名前のみ確認しました。ジョセフの名前には気付いていません。
※首輪探知機を「矢に似ているだけで、スタンドが発動するあの矢ではない」と認識しました。
※【C-8の東部】(「戦」の字が重なっている辺り)から南下してオインゴの元に来たようです。
※2人は現在、首輪探知機が反応した場所に向かっています。どこへ向かうかは後の書き手さんにお任せします。
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最終更新:2009年04月24日 18:02