わたしの名前は『吉良吉影』。
 年齢33歳。
 自宅は杜王町東北部の別荘地帯にあり、結婚はしていない。
 仕事は『カメユーチェーン店』の会社員で、毎日遅くとも夜8時までには帰宅する。
『心の平穏』
 それこそわたしが最も重視する『人生の価値観』だ。
 出世したい、金が欲しい、威張りたい…。勝ち負け、だの、刺激的な事件、だの、そんなのはテレビのドラマか映画の中の連中にでもやらせておけば良い。
 ただ日々安心して過ごし、悩みもなくくつろいで熟睡できること。
 それこそが、わたしの求めているものだ。
 しかし ――― どうした事だ?
 今、この状況!!
 爪を噛む。
 心の平穏とはほど遠いいこの状況に、わたしは闇雲に爪を噛む。
 おそらくは深夜。普段ならホットミルクを飲み、30分の軽いストッレッチを済ませて安眠している時間だろう。
 しかし、あの眼鏡の初老の男。
 それから起きた惨殺ショー。
 そして今こここの場所で、わたしが窮地に陥っているという事実!
 アーチ状で高い天井に、ステンドグラス。正面に掲げられた十字架。
 その暗闇のさらに奥。質素だが頑強な長椅子の陰に這い蹲るように隠れている事実に、歯噛みする。

 まずこの状況がいったいどういう事か、という問題もある。
 それは確かに最重要ではあるが、今当面の問題ではないのだ。
 問題は、『奴』…『化け物』の存在だ。
 刺激的な事件なんてのは、テレビのドラマか映画の中の連中にでもやらせておけば良い。しかし、だ。
 今さっき見た『化け物』…。
 このわたしを追い込もうとしている『化け物』…。
 まったく、冗談じゃない……! 
 あんな化け物は、それこそ映画の中だけの存在じゃあないかっ…!?

 そう、化け物だ。
 ドブの底で腐った鼠の死骸のような鼻につく腐臭。
 半ば腐りかけただれた肌に、土気色の顔色。
 なんというタイトルだったかな…? そう、『ナイトオブリビングデッド』だとか…『バタリアン』だとか…。
 つまり、『ゾンビ』…って奴だ。
 生ける屍! 何だっていうんだ!? そんな馬鹿げた奴らが、わたしを襲おうとしているというこの狂気の沙汰…!?

 勿論…わたしは無力なただのサラリーマンではない。
 どんな逆境、苦境に陥っても、それを文字通りに『消し飛ばせる』だけの特別な力がある。
 ただし…相手が人間であれば…だ。
 あいつが本当に生ける屍、映画やゲームに出てくる様な『ゾンビ』だというのなら、わたしの『能力』が、どれほど効果的に使えるかが分からない。
 映画などで見る限り、あいつらはたいてい、腕や足をちょいと吹き飛ばしたくらいでは戦闘不能状態にはならない。
 痛みや恐怖で怯えたり逃げ回ったり、戦意喪失したりもしない。
 うう~、だの、ああ~、だの、ぼぐわぁ~、だの喚いて、感情も知性もなく、ただひたすら人間を襲い続ける。
 勿論、ここにいる『化け物』が、映画そのままの不死性を持っているかどうかは分からない。
 しかし、人間相手ではないという事それ自体が、わたしの不安を煽る。
 確実に…。
 そう、確実に、『化け物』を吹き飛ばし、始末できるという状況。確証。
 それが欲しい。

◆◆◆

『見ィつけたぞ~~…人間~~~ッ!!』
 不意に上空から声がした。
 上空…いや、天井だ。
 声の主、異形の化け物は、まるで醜悪なオブジェの様に礼拝堂の高い天井に貼り付いていた。
『血ィ~をぉぉ~~~…』
 目にも留まらぬ早さで瞬時に降り立った化け物。
『ズビュルズビュルと啜ってェ~~~~!!』
 長椅子を吹き飛ばし、
『ズタズタのギッタギタに引き裂いてやるうぅうぅぅ~~~!!』
 濁った声でそう叫ぶ。

「…何だ、話せるのか…?」
 つい、わたしはそう口にしてしまった。
『むん?』
 化け物が怪訝そうな声を出す。
「話せる…それに今、わたしの言葉に『反応』をしたな…?
 という事はつまり、『知能』があるという事だ。そして疑問を感じるのならば、『感情』もある…んじゃないか…?」
『そ…それがどうした、人間…!?』
「…おい、まさかまさか、今ちょいビビらなかったか…? ゾンビのくせに…?
 人間をビビらせて喰い殺してやろうとしたのに、その相手がビビってないから、逆に戸惑い…ビビってる…?
 『まさかこいつ、何か切り札があるんじゃないか…?』 って考えて…?」
『何だとォ…、ふざけるなこの血袋がァァァァ~~~』
 今度は、激昂。
 間違いない。こいつは化け物だが、中身は人間に近い! 知能も感情もある!
 ならば…。

『シャアアアアー―――!!』

 鋭い牙と爪を閃かし、信じられぬ速度で飛びかかってくる。
 だがしかし、この程度の攻撃なら…。

 バシュッ!!

 腐臭をまき散らし、化け物が消滅した。

◆◆◆

「危ないところだったな…」
 長い黒髪に黒装束。しかもマントをひらひらとさせた様などこの国の民族衣装かも分からぬ服を着たその男が言う。
「…有り難う御座います、助かりました」
 一応はそう言う。ここは、無力な被害者を装うのが、妥当なところだろう。
 危ないところ…そう、たしかに危ないところだったかもしれない。
 わたしは先程、我が能力『キラークイーン』を発動させて、あの化け物を消し飛ばしてやろうと、そう考えていたところなのだ。
 しかし、そこに現れた乱入者。
 ストレイツォと名乗った筋骨隆々の優男が、ロープを投げて化け物を絡めとると、ほとばしる黄金の輝きと共に消し飛ばしたのだ。
 危ない、のは、化け物、ではなかった。
 この男。この男に、わたしが化け物を消し飛ばす現場を見られていたかも知れないという、その事だ。

 実際に、あの化け物はたいした脅威ではなかった。今ははっきり分かる。
 わたしは直接対峙する危険性や、化け物の性質や能力の得体の知れ無さを考えて、キラークイーン第二の爆弾、熱源感知による自動追尾型爆弾シアーハートアタックを放って隠れていたのだが、爆弾は化け物に反応せず、逆に化け物にわたしの居場所を嗅ぎつけられてしまった。
 その事から、化け物は正しく死人の如く、体温を持っていないことが分かったのだが、同時に話しかけ会話をしたことから、化け物ではあるが中身は人間と大差ないことも分かった。
 感情がある。知能がある。ならば、駆け引きも使える。
 即座にシアーハートアタックを戻して、キラークイーンがいつでも新しい爆弾を製造できる状態にする。
 爆弾一発で消し飛ばせなくとも、その威力を見れば化け物にも恐怖や隙が出来る。
 つまり、身体能力がズバ抜けていることを除けば、ただの人間を消すときと、要領は変わらないのだ。

 ストレイツォ曰く、彼は化け物退治の専門家、なのだという。
 山奥で長年修行を積み、心身を鍛え上げ、波紋法と呼ばれる特殊な呼吸法を会得した彼は、その波紋エネルギーにより、亡者や吸血鬼を消滅させる事が出来るという。
 吸血鬼!
 なんとも馬鹿げた話、と、ここに連れてこられる前のわたしなら、一笑に付しただろう。
 しかし今なら分かる。いや、実際に亡者に襲われていたのだから、分かるとか信じるとかいう話ではない。
 とにかく、亡者は居た。人の血を啜る、動く死体。異常な身体能力を持ってはいるが、我が能力の敵ではない。
 そして映画や何かのソレとは違い、人間の様な知能も感情もある。
 ネタが割れればなんということはない。又襲われたとしても、難なく対処できるだろう。
 だが ―――。

「吉良…と言ったね?」
「…何か?」
 聖堂の片隅。掲げられた十字架が月明かりを微かに反射するその広間で、ストレイツォが改めて聞いてくる。
「あの壇上で演説をしていた眼鏡の男に見覚えは?」
「いや…皆目」
 実際、何も分からない。
「…わたしもだ。
 しかし、予想できることはある」
 少しばかり悩ましげに眉根を顰め、ストレイツォが続ける。
「わたしはここに来る直前、ウィル・A・ツェペリという古い友人に請われ、同じく波紋戦士であるダイアー、老師トンペティと共に、ある男を倒そうと旅立っていた。
 男の名はディオ・ブランドー。
 石仮面の力を使い、さっき倒した亡者たちを生み出す邪悪の化身、吸血鬼となった男だ」
 波紋戦士! 石仮面! 亡者たちを生み出す邪悪の化身!
 普段なら当然笑い飛ばす類の言葉の数々。
「しかし目的地に着く前に、こんな状況に陥った。
 どういう手を使ったのか…我らが来るのを察知して、ディオが罠を貼ったに違いない…。
 あの眼鏡の男も、亡者には見えなかったが、それでもディオの手下の1人と見て良い。
 多くの人間を巻き込み、混乱に落とし込んで、我らを分断して倒そうというつもりなのだろう」
 まったく、ハリウッド映画ばりの妄想だ。
 言っていること全てが子供じみてばかばかしい。
 と、いつもなら相手にしない。こんな、漫画か映画の見過ぎでトチ狂った様なことを言うイカレ男なんか、無視するのが一番だ。
 しかしこの男に波紋法というパワーがあるのも、亡者が動き回っているのも、この目で見てしまった事実。
 ならばどこまで真実でどこまでが妄想かなど分かりようがないし…この言葉に真実が多く含まれている可能性だって低くは無い。
 勿論他の可能性もある。
 あるにはあるが……その推測は、まだ保留でよい可能性の一つだろう。
「わたしはまず、彼らと合流したい。
 ダイアー、老師、ツェペリ。…そして、まだ会ったことはないが、ツェペリの新しい弟子だという、ジョナサン・ジョースターという青年に」 
 波紋戦士。つまり先程の化け物を消滅させた波紋エネルギーを操り、そして山奥に篭もって修行したという体術を操る筋肉男たちとの合流。
「亡者やディオの手下がどこに居るか分からない以上、君を見捨てることは波紋戦士の誇りに賭けて出来ない。
 一緒に来るかね? 無理にとは言わないが…」
「…分かった、同行させてもらうよ」


 さて、わたしの性質、目的は、『平穏に暮らしたい』…。ただそれだけだ。
 殺し合いをしろだとか、吸血鬼退治だとか、そんな馬鹿げた騒ぎは御免被りたいのが正直なところ。
 しかし現状、それはどうしようもなく叶わないことくらい、わたしにも分かる。誰にだって分かる。
 だとしたらどうするか…?
 まずとにかく、目立たぬように、自ら強者と思っている正義漢についてまわり、面倒ごとをそいつに全部引き受けて貰う。
 これは、そんなに悪くはない指針だろう。
 いざとなれば、波紋戦士だろうと亡者だろうと、わたしの『キラークイーン』を使えば簡単に消し去れる。
 出来るが、極力そんな真似はしたくない。自分の手の内がバレるかもしれない、そんな真似は。
 ストレイツォについていって、こいつやこいつの仲間が、厄介な化け物や吸血鬼やらを退治してまわり、最期に残った者を纏めて爆発してやれば、言われたとおり「殺し合って最後の一人になる」なんて事も、不可能じゃないだろう。
 今まで、この能力に目覚めて以来きっちりと証拠を「消し飛ばして」きたわたしが、連続殺人犯であると知る者は、父以外に誰も居ない。
 その点で言えばいつも通りに目立たぬようにしていれば、それでいいのだ。
 気がかりなのは ――― わたしがここに連れてこられる前に買ったサンジェルマンのサンドイッチ。
 その袋の中に入れていた『彼女』――― 美しい手首の持ち主だったが、そろそろ匂いがきつくなり始めていた彼女 ――― の指に、わたしがプレゼントした指輪が填められている、という事だ。
 あれはどこにある? 誰かがあれを手に入れていたら―――なんとかして始末しなければならないし ――― 眼鏡の男か、わたしたちを浚った何者が持っているというのなら、やはり当然、始末しなければならない。


 殺人鬼は密かに笑う。
 この会場の中に、彼が連れてこられたより未来の時間において、彼と戦い、彼を打ち破った『黄金の精神』を持った男達が居るという事実を知らずに。

【ワンチェン 死亡】

【残り 139人】



【サンジョルジョマジョーレ教会(D-2)・1日目深夜】

【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]: 健康
[装備]: なし
[道具]: 基本支給品、不明支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:静かに暮らしたい
1.些か警戒をしつつ、無力な一般人としてストレイツォについて行く。
2.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。

※外見は『川尻浩作』ではなく、初登場時の『吉良吉影』のままです。
 また、4部主要キャラのうち、杉本玲美以外と面識はありませんし、
スタンドという呼び方や、他のスタンド使いの存在も知りません。

【ストレイツォ】
[スタンド]: なし
[時間軸]:JC4巻、ダイアー、トンペティ師等と共に、ディオの館へと向かいジョナサン達と合流する前
[状態]: 健康
[装備]: マウンテン・ティムの投げ縄@Part7 STEEL BALL RUN
[道具]: 基本支給品、不明支給品0~1
[思考・状況]
基本行動方針:対主催(吸血鬼ディオの打破)
1.ダイアー、ツェペリ、ジョナサン、トンペティ師等と合流する。
2.吉良吉影等、無力な一般人達を守る。



ワンチェンの支給品と首輪はサンジョルジョマジョーレ教会の床などに転がっているかもしれませんが、
吉良、ストレイツォ共にそれらを確認しては居ません。






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前話 登場キャラクター 次話
GAME START ストレイツォ 064:能ある吉良はスタンド隠す
GAME START ワンチェン GAME OVER
GAME START 吉良吉影 064:能ある吉良はスタンド隠す

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最終更新:2012年12月09日 02:03