―――D-2、サン・ジョルジョ・マジョーレ教会。
同じイタリアではあるが、本来ならばローマではなくヴェネツィアの島に存在する教会。
16世紀から18世紀にかけて建築され、ヴェネツィアを一望できる鐘楼や教会内部に存在する数々の名画などは有名な観光名所にもなっている。
このような神聖な場所にはふさわしくない殺人鬼の内面を持つ男、
吉良吉影は
ストレイツォと名乗る波紋戦士と共に床に座り込んでいた。
二人は簡単な情報交換を行った後、地下も含めて教会内部には他に誰もいないことを確認し、今は地図などを見ながら今後について相談している真っ最中である。
「つまり、この『吉良邸』が君の家かどうかはわからない……ということか?」
「そうだ。杜王町というのはわたしが住んでいた町の名だが、駅や図書館の位置も違うし、なによりこんな滅茶苦茶な地形の中には存在しない」
「ふむ……」
とはいっても、提案や質問を行うのはほとんどストレイツォであり、吉良がそれに答えるという場合が多い。
吉良吉影はこの殺し合いの場においても極力目立たないように努めていた。
「では、この『首輪』についてどう思う? ……外せそうか?」
「……よくはわからないが、見た限りわたしのような素人に分解できる代物ではない。
それに、下手をすれば爆発の危険性がある以上、うかつに手を出すべきではないと思うがね」
「やはりそうか……ならば、ひとまずこの首輪は手がかりとして持っていこう」
消滅させた化け物(
ワンチェン)の首輪を前にして相談するが、結局現時点では手出しできそうにないという結論に達する。
ストレイツォが首輪をデイパックにしまうのを見ながら、吉良は自分の立ち回りについて考えていた。
(まるで上司にペコペコするサラリーマンのようだが別に構わないだろう。
実際わたしにもこのハードすぎる状況下で良い考えなどないし、有用な意見をポンポン出したりすると逆に怪しまれかねん。
今のわたしは『一般人』なのだからね……)
あくまでも本音は隠しつつ、今度は吉良の方から質問する。
「それでストレイツォ、まずはどこへ向かうんだ?」
「うむ……最終的に目指したいと考えているのはこの教会のすぐ北にあるDIOの館、ここだ。
DIOとはおそらくディオ・ブランドーのことだろう。ならば奴はここにいる。
仲間達もおそらく、それを理解して集まってくるに違いない」
だが、と一息置いてストレイツォは続ける。
「しかし、今のわたし一人だけではディオに勝てるかどうかわからない。
ツェペリから応援の要請が来たということは、波紋戦士一人では手に余る相手だということだろう。
そこで、まずはこの教会の近辺を捜索して君のような巻き込まれた人間を探し、できるだけ保護する。
太陽が昇る時間になり、仲間達と合流したら皆でDIOの館へと向かおう」
「……わたしも、か?」
思わず確認する吉良。彼としては、危険な敵の本拠地に飛び込む気はさらさらなかった。
「このような妙な場所においてはいつ、どこで亡者が襲ってくるかわからない。
どこかに隠れているよりもわたし達と共に行動していた方が安全といえるだろう。
なに、心配せずとも君に戦いをさせる気など無い」
質問されることを予想していたのか、ストレイツォはすぐに答えを返す。
一方、吉良はストレイツォの提案について考えていた。
(……言っていることはわかる。実際、神聖な場所とされるこの『教会』に化け物がいた以上、
どこかに安全な場所があるとは考えにくい。だが……)
「……大丈夫なのか?」
なにが、とは聞かない。
吉良は自分の認識に対し、ストレイツォが今の状況においてどのような『危険』の可能性を考えているか知っておきたかった。
「先程も言ったが、道中ディオの手下や亡者達が襲ってくるかもしれない。しかし、わたしの誇りにかけて君を守ろう。
奴らは太陽の下には出られない。朝になり、太陽が昇ればひとまずは安心といえる。
そして、我ら波紋戦士が集まれば、ディオにも勝てるはずだ。いや、必ず勝たねばならない」
(やむをえない……か。まあいい、情報収集という意味でも周辺の捜索はするべきだな……もっとも、DIOの館とやらにまでつきあう気はないがね)
ストレイツォから返ってきた答えは大体予想通りのもの。
吉良は頭の中では提案に賛成しつつも、いざとなれば別行動を取ることも選択肢に入れていた。
「わかった。……ところで」
「……? 何かな?」
頷いた後、吉良は気になっていた疑問を投げかける。
「その……『亡者』には生前の記憶というものは残っているのだろうか?」
「記憶……? ふむ、おぼろげに残っている者もいることがあるが、人を襲うという本能に抗える者はほぼ存在しない。
記憶があるかもしれないが、意味を成さない……といったところか。 ……なぜ、そんなことを?」
「……いや、化け物とはいえ、元々人間だった存在を倒すのに抵抗はないのかと思ったものでね……」
吉良のこの答えは嘘である。
彼の懸念は『死者が蘇る』という点にあった。
先程の化け物には『知能』も『感情』も存在した。
加えて『記憶』もあるとなると、自分の殺害した『被害者』が蘇った場合、自分のことをどう思うかは容易に想像できる。
『杉本鈴美』ただ一人を除いて『キラークイーン』で跡形もなく『始末』して遺体すら残っていない者ばかりではあるが、
自分への『手がかり』となってしまう可能性がある以上、念には念を入れなくてはならない。
特に、自分が無くした『彼女の手首』から全身が復元されて誰かに自分の特徴などを喋られる、などということがあっては破滅につながる。
(どちらにせよ、一刻も早く『彼女』を見つけなくてはならないな……
後は地図にある『吉良邸』がわたしの家だとして……そちらは問題ないだろう。
家に殺人の証拠など何一つ残してはいないし、重要な物も……いや、一つだけあったか。
わたしと父に『能力』を授けてくれた、不思議な『弓矢』が)
あの弓矢が一体何なのかは吉良自身も知らないが、他人の手に渡すべきではないということは理解できる。
とはいえ回収に向かう場合、会場の真ん中を横切らなければならない危険があるし、
無事に着いたとしても、そこが同姓の別人の家だったら骨折り損だ。
なにより『吉良邸』に向かう理由をストレイツォに説明しなければならないが、上手い言い訳が浮かばない。
(リスクが大きすぎるな……まあ、『弓矢』自体はわたしの殺人の証拠にはつながらないだろうし、
ここはひとまず、ストレイツォの提案に従っておいたほうがいいだろう。
……父が、家にいてくれれば問題は無いのだが)
弓矢に関しては保留とし、会話の続きへと意識を向ける。
先程の吉良の答えに一瞬だけ何かを思い返すような目をしたストレイツォだったが、すぐに厳しい表情になる。
「……忠告しておくが、亡者はたとえ生前の家族や知り合いであってもためらいなく襲う。
奴らには、安らかな眠りを与えることこそが唯一の救いだ。不用意に近づくと、命を落とすことになるぞ」
「肝に銘じておく。わたしからはこれくらいだろうか」
「……よし」
ストレイツォは地図をしまうと立ち上がる。思えば、情報交換に相談だけで随分時間が経過していた。
「それでは、出発しようか。ここはDIOの館に近い、ぐずぐずしていてはまた襲われるかもしれん。
……そういえば、荷物の中身は見たか? このロープは荷物の中にあった紙に隠されていた」
そう言いながら、ストレイツォは床に転がっていたデイパック―――先程倒したワンチェンの荷物を拾い上げて中身を改め始めた。
吉良も自分のデイパックを開けて支給されたものについて確認しておく。
―――食料、水、地図、磁石、筆記用具、懐中電灯、そしてストレイツォが言っていた折りたたまれた紙。
紙を開いてみると、中にあったのは魔法瓶。
蓋を開けると、湯気と共にいい香りが漂ってきた。
(これは……ハーブティーか。しかし、紙と中身の容積が一致していないが、どうなっているんだ?)
「吉良」
考えている途中で声をかけられ吉良は振り返る、すると
ストレイツォが吉良に向かって薔薇の花を差し出していた。
……一瞬、あるいはもうすこし長いかもしれない沈黙。
(………………似合ってはいる。だがこの男、何のつもりだ?)
吉良は思わず絶句するも、何とか喉の奥から言葉を絞り出す。
「………………ええと、これは?」
「持っておけ。これはヤツの荷物に入っていた『波紋入りの薔薇』だそうだ。亡者に襲われたとき、投げつければ武器になるだろう」
「……はあ」
今の自分はさぞかし間抜けな表情をしているだろうなと思いつつ、吉良は薔薇を受け取る。
(……ハーブティーよりは役に立つかもしれんが、どちらにせよ『キラークイーン』の方が破壊力は大きいだろう。
おおっぴらに使える、という点を除けばあまりアテにしないほうが得策だな……)
「では、今度こそ出発だ」
やるべきことは全て済ませた、とストレイツォは入り口の方へと歩いていく。
吉良も道具をデイパックに入れると遅れないように急いで付いていった。
だが教会から外に出たところで、吉良はストレイツォの様子がおかしいのに気付く。
「どうし……」
「静かに、何者かが近くにいる。念のため下がっていろ」
その言葉を聞いて後ろに下がりつつ、吉良はストレイツォと同じ方向へ視線を向ける。
吉良の目では人の姿を確認することは出来なかったが、ストレイツォは『波紋法』で何者かの存在を感じ取っていた。
(やれやれ、面倒なことにならなければいいが……)
心の中でため息をつきながら建物の陰に隠れる吉良。
しかし程なくして、彼は自分の身体に異変が起きていることに気付いた…………
#
「そこに隠れている者よ、わたしたちは君を傷つける気はない。姿を―――」
前に出たストレイツォは未だ姿を見せない相手に向かい出てくるよう声をかける。
だが……
「やれ!ロッズ達ッ!!」
「―――!?」
隠れていた男―――
リキエルはストレイツォの言葉を最後まで待たずに不意打ちを仕掛けた。
ストレイツォは相手の言葉に危険を察知し、距離をとるため飛びずさろうとするが……
(……足が!?)
片足のみが何故か意思に反して妙な方向に曲がり、ストレイツォは体制を崩して転んでしまう。
それを見て、リキエルは物陰から姿を現した。
「……待て! 話を―――」
「二人、いるのか。同時に始末することが可能だ、ロッズにはそれができる。
しかし先にどうにかするべき厄介な相手は……お前の方だッ!」
リキエルはストレイツォの言葉に耳を傾けようともせず、再び能力を繰り出した。
目の前にいるストレイツォと、建物の陰に隠れている吉良を狙ってロッズを飛び回らせる。
対するストレイツォにとっては気配は感じるものの姿の見えない何かがいる、ということしかわからない。
(なんだ……この男、何をしている……!? 周りに何かがいるようだが、見えん……! それに、どうやって触れもせずわたしに攻撃を……)
考えながらも相手の攻撃を止めるためにロープを構え、リキエルに向かって投げつける。
しかし、正確に投げたはずのロープは動こうとしないリキエルから逸れて地面に落ちてしまった。
ストレイツォには分からないことだが、このときリキエルがロッズに手の体温を奪わせたため関節が勝手に曲がり、狙いが外れたのだった。
「無駄だ、そんな苦し紛れの攻撃が当たると思ったかッ?」
(どうなっている……ならば地面を伝わる波紋を…………ッ!?)
足から地面に波紋を流そうとしたストレイツォは驚愕した。
いつのまにか呼吸が乱れ、波紋がまともに練れなくなっている。
同時に口からは血と、綿のようなカスが出てくるという明らかな異常が起こっていた。
(い、いつの間に……!?)
焦りを感じ始めるストレイツォ。
リキエルは余裕の表情を浮かべながらその様子を眺める。
「もう終わりか……? 手ごたえのない奴だ。さっき倒した奴でももう少し頑張ったっていうのによッ!」
(『さっき倒した』だと!? この男、誰かを殺害してきたというのか……?)
「つまらないな……それじゃあ、そろそろとどめといこう。もっと近づくからな」
ストレイツォに向かって1歩、また1歩とリキエルは近づいてくる。
先程の発言には聞き捨てならない箇所もあったものの、今は他人よりも自分の方が重要であった。
理由はわからないが、ヤツを近づかせてはならない―――そう考えるも、片足は依然妙な方向に曲がったままで、
加えて手の指までもが勝手に折り曲がり、自由に動かせなくなっていた。
(くっ、いかん……ヤツは近づくといっていたが、この状態では波紋はおろか格闘すらも満足にできん……
しかし、あきらめるわけにはいかん……! わたしの後ろには吉良がいる……
なにより波紋戦士として、このような悪漢に負けることなど許されん!!)
だが、リキエルとの距離が縮まってきても、ストレイツォはいまだ希望を捨ててはいなかった。
(見ていろ……わずかでもチャンスがあれば、最大の一撃を喰らわせてやる―――)
数刻前にこの殺し合いの会場のどこかで強大な悪と共に散った男と同じく、守るべき者がいる限り決してあきらめない誇り高き存在。
―――それが『波紋戦士』だった。
#
―――一方、後ろに下がった吉良。
(クソッ……何故だ、勝手にまぶたが落ちて……出血している!? それに、右手の指の関節が妙な方向にッ!)
彼もまた、ロッズの攻撃を受けて身体に異常をきたしていた。
集中的に攻撃されているストレイツォと比べて症状は僅かに軽いが、攻撃の正体がつかめないという不気味さは同じであった。
落ちてくるまぶたを左手で無理やり開き、どうにか視界を確保する。
その目に飛び込んできたのは地面に膝をつくストレイツォと、そこへゆっくりと近づいていく『敵』の姿。
(ストレイツォは劣勢か……どうする?)
吉良にとってこの場合のどうするとは『戦うか逃げるか』ではなく、『相手を如何にして倒すか』ということである。
なぜならば、吉良吉影は追ってくる者を気にして背後におびえるというのはまっぴらな性格だからだ。
このような攻撃の正体も射程距離も不明な『敵』を放置して逃げるという選択肢は元から無かったのである。
加えるなら、自分の『隠れ蓑』となるストレイツォを早々に失いたくはないという理由もあった。
さすがに目立ちたくないなどと言っている場合ではないため、バレない程度に『キラークイーン』を使うことも視野に入れて考える。
(近くの石を爆弾に……ダメだ、接触型はこんな状態でヤツに当てられるかどうかわからんし、
点火型を使うにしても右手が妙な状態になっていてスイッチが押せん、なによりストレイツォは目を閉じていない!
シアーハートアタックは……これもダメだ、位置関係が悪すぎる……今のままではヤツよりも先にストレイツォの体温を感知して……体温?)
ふと気がついたことがあり、冷静になって考える。
(そういえば、わたしやストレイツォに出ている症状には覚えがある……たしか、家にあった人体健康事典に載っていた―――)
吉良吉影は長所を人前に出さない男である。
出た大学は二流だったが、それはあくまで目立たないようにするため。
本来の彼は、高い知能と能力を隠し持つ恐るべき男なのである。
(関節が曲がる、まぶたが落ちる、口から綿のようなカスが出る、これらの症状は全て『体温が低くなった場合』に発生するものだ!
どうやってかは知らないが、ヤツはわたしたちから『体温』を奪っていたというわけかッ!!)
吉良は自身の知識と記憶、そして現在の状況から、あっさりとリキエルの攻撃の正体に辿り着いた。
続いて、対処法について頭を巡らせる。
(ならばシアーハートアタックで……いや待て、わたしとストレイツォの症状が違うということは、
攻撃されている部位が限定的だと考えるべきだ……ストレイツォの体温が残っている部分によってはそちらに向かってしまう可能性もある。
……となれば、ストレイツォの説明で聞いた限りだが、『波紋法』でなんとかしてもらうのが手っ取り早いッ!)
急いでデイパックを開き、目的の物を探り当てるとリキエルに向かって走り出す。
「ストレイツォ!」
「吉良……? 来るな、逃げ―――」
「……そっちかッ!!」
大声で叫び、リキエルとストレイツォ、両方の注意を自分の方にひきつける。
リキエルも向かってくる吉良に向き直り、ロッズを差し向けようとする。
その瞬間、吉良は行動を起こした。
「体温だッ! ヤツはこちらの体温を奪っているッ!!」
「……そうかッ!」
叫ぶと同時に蓋を開けた魔法瓶をストレイツォに向かって投げる。
(さて……これでも負けるようなら『波紋法』とやらもそこまでだということだ。
そのときは、わたしも『キラークイーン』を出し惜しみしている場合ではないな……)
直後、吉良は足の体温を奪われて関節が曲がり、地面に倒れこむ。
傍から見れば自己犠牲に見えるが、彼はストレイツォが負けた場合においてもしっかり次の手を考えていた。
吉良がそんなことを考えているとは露知らず、熱いハーブティーを頭からかぶり一時的に体温低下を防いだストレイツォは間髪いれず次の行動に移った。
「炎の波紋ッ! 緋色の波紋疾走(スカーレットオーバードライブ)!!」
自らの身体を殴って波紋を流し、熱エネルギーを発生させることにより全身の体温を上昇させる!
ロッズが奪う以上の熱量を発生させることで、ストレイツォの身体は自由を取り戻したのだった!
吉良に追撃を加えようとするリキエルにストレイツォは素早くロープを投げる。
「ハッ!!」
「……グッ!? このッ……」
リキエルの周りに配置されていたロッズはロープに流される『はじく波紋』で弾き飛ばされ、今度こそリキエルの首にロープが食い込む。
自分の首へと視線を移したリキエルは、一刻も早くロープを外そうと手を掛けるが……
バチッ!
(!? ビリッときたぁぁぁ!!)
ロープを通じて流された波紋がリキエルの動きを止める。
その隙にストレイツォはロープを引き寄せると、リキエルに向かって駆けた!
「……おまえ、何を!?」
「このストレイツォ―――」
このとき、リキエルには黄金に輝き全身から発熱するストレイツォのどこから体温を奪うべきかがわからなかった。
もし、リキエル自身に『全身が炎に包まれるような』経験があるか、あるいは『波紋法』についての知識があれば、
彼は迷いなく、ストレイツォの『口の中』を狙っていただろう。
奇妙なことに、リキエルがこの殺し合いに参加しない『本来の運命』を辿っていた場合でも、彼は似たような状況に遭遇することになる。
そしてその場合、彼は自分の身体に火を放つという荒業で一時的とはいえ乗り切ることに成功しているのだ。
しかし『今の』リキエルにはそのようなことは出来ず、一瞬の躊躇が致命的な隙を生み出してしまった。
「ロッ……」
「―――容赦せん!」
ボッゴォッッッ!!
―――直撃。
格闘者として鍛え上げられたストレイツォが繰り出した顔面への容赦ない蹴りの一撃は、単なる暴走族でしかないリキエルには重すぎた。
あっさりと意識を手放し、地面に崩れ落ちる。
同時に、ロッズ達も動きを停止し、遥か彼方へと飛び去って行った。
―――もし、ロッズが体温を奪うことにより、体内の血管ごと凍らせる――リキエルの父親、DIOがかつて使用していた『気化冷凍法』のような――ことが出来れば、
ストレイツォの身体に波紋は流れず、立ち上がることは出来なかっただろう。
『スカイ・ハイ』―――空高くとも、さらにその上にある『太陽』のエネルギーである波紋を完全に止めることは出来なかった。
そういう意味では、リキエルの能力はDIOに遠く及ばなかったのだ。
周囲と自分達の状態を確認し、ストレイツォは吉良の元に駆け寄る。
「……終わったぞ。大丈夫か、吉良? すまない、逆に助けられてしまったな」
「いや……気付けたのは偶然だ。それにとにかく必死だったから役に立てたなら幸いだよ」
「うむ。待っていろ、すぐに波紋で治療を行う」
ストレイツォは自分にやったのと同じように波紋で吉良の体に熱を発生させる。
病気から回復した吉良は、リキエルを眺めつつ聞いた。
「……ヤツは死んだのか?」
「いや、容赦はしなかったが命までは奪っていない。ヤツにはディオとの関係など、いろいろと聞きたいことがある」
「……しかし、目を覚ましてまた襲ってくるという可能性は……」
「そうだな……ヤツが『ロッズ』と叫ぶとき、右腕に付いた妙な生き物を動かしているのが見えた。……だから、こうしておこう」
ストレイツォは気絶しているリキエルをうつぶせにして右肩と腕の付け根に手をかけると、掴んだ腕を凄まじい勢いで体の後方に捻る。
グキリ、と嫌な音がしてリキエルの肩が外れた。
「!? グ、あああーーーッッッ!!」
痛みに耐えかね、リキエルが覚醒する。
しかしストレイツォは容赦なく、左肩も同様に外してしまった。
絶叫の後、ピクリとも動かなくなったリキエルを見て、吉良は思う。
(殺し合いの敵は『化け物』だけでなく、『人間』もいる。考えてみれば当然のことだったな……
しかし、相手の体温を奪うというのは、こいつの『能力』なのか?
わたしや父だけでなく、こんな『能力』を持った人間が他にもいるのか?
この男を生かしておくのは危険だが、『始末』する前に確認しておかなければな……)
同情の念は一切なく、初めて戦った不思議な『能力』の使い手に対する数々の疑問。
(この殺し合いに同じような『能力』の使い手がまだ複数存在するのならば、ストレイツォだけでは不利かもしれん……
先程はどうにか勝利したが……まあ、いざとなればストレイツォごと『爆破』すれば済むことだ。
わたしに『キラークイーン』を使わせることが無いよう、せいぜい頑張ることだね……)
リキエルの処遇についてストレイツォと話しながらも、
吉良は依然変わりなく、心の中で密かに笑い声を上げていた―――
#
―――徐倫達が乗るヘリを落とし、バイクに乗って落下地点に到着した瞬間、世界が変わった。
大勢の人がひしめき合うホールで男達の首が吹っ飛び、気がついたらリキエルは暗い地面の上に立っていた。
彼はわけもわからぬうちに、殺し合いに参加させられてしまったのだ。
いつものようにまぶたが落ち、呼吸が苦しくなり、正常な判断ができなくなっていた。
(こんな殺し合いなんて、オレ一人じゃどうにもならない……
きっとオレは、あの見せしめと同じく虫けらのように殺されてしまう……いや、落ち着け。
まだそうと決まったわけじゃない。無理に殺し合いに参加せずとも、生き延びるだけならば、なんとかなるかもしれない。
まずは武器とやらを確認しよう)
そう思い近くにあったデイパックの中を探ろうとする……が、手が震えてなかなかうまくいかない。
ようやく中を確認できたものの、武器と言えそうなものは何も無かった。
(……どうする?どうするんだ? こうしている間にも、誰かがオレを殺しにやってくるかもしれない。
……落ち着け、まずは水でも一口飲んで……)
震える手でペットボトルの蓋を開けようとするが、取り落として足元に中身を撒き散らしてしまう。
(ヤバイ……それによく考えれば、水がわざわざ支給されるってことは貴重なものだってことかもしれないのに……)
あわてて地面に落ちたボトルを拾いあげる……だが、その時リキエルに電撃が走った。
リキエルは気付いていなかったが、彼がこぼしたペットボトルは『支給品』であり、中身はただの水ではなかったのである。
(……どうして、あっさり殺されるなんて考える? オレには新しく身についた『能力』があるじゃないか……
第一、何故こんな殺し合いに勝手に参加させられなければならない? それが『運命』だとでも?)
無性に腹が立ち、『闘志』が沸いてきた。
いつの間にかまぶたは開いていたし、息苦しさもなくなっている。
同時に、自分には何でもできるような、どんな敵にも負ける気がしないような高揚感があった。
試してみたい―――そう思って歩き出し、近くにいたガンマンに戦いを仕掛け、勝利してデイパックを奪い取った。
(もう、昔のオレではない、オレは生まれ変わったんだ)
そう思えていた。
続いて教会の前を通りかかったとき、二人組みの男達を発見し、同じように『本能』の赴くまま襲い掛かったのだが―――
(ど、どうなってるんだ、何故こんなに顔や肩が痛いんだ……? それに腕がぜんぜん動かない……
ええと、とりあえず立ち上がって……いや、どうやって? それよりもそこで話している二人に……いや、ダメだ……
どうすれば、どうすればいいんだ………………? ああッ、まぶたが落ちて、それに、息が……苦し……)
ゲームスタート直後、支給品のペットボトルに入っていた『サバイバー』の能力により『怒って』いたリキエルはここに至ってようやく、能力から開放された。
実のところ、彼にとってそれがよかったかどうかは疑問であるし、少しばかり手遅れだったかもしれないが。
リキエルには分からない。現在の状況は、彼自身の想像以上に危ういものであることが。
なぜならば彼の『血統』はストレイツォ達の宿敵、吸血鬼DIOに直接関わるものなのだから―――
【D-2 サン・ジョルジョ・マジョーレ教会前 / 1日目 黎明】
【ストレイツォ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:JC4巻、
ダイアー、トンペティ師等と共に、ディオの館へと向かいジョナサン達と合流する前
[状態]:肺にわずかなダメージ(波紋で治療済み、波紋使用には支障なし)
[装備]:
マウンテン・ティムの投げ縄
[道具]:
基本支給品×2、不明支給品0~1(確認済み)、ワンチェンの首輪
[思考・状況]
基本行動方針:対主催(吸血鬼ディオの打破)
1.倒した男(リキエル)から情報を聞き出す(他の参加者やディオについて)。
2.周辺を捜索し吉良吉影等、無力な一般人達を守る。
3.ダイアー、ツェペリ、ジョナサン、トンペティ師等と合流した後、DIOの館に向かう。
【吉良吉影】
[スタンド]:『キラークイーン』
[時間軸]:JC37巻、『吉良吉影は静かに暮らしたい』 その①、サンジェルマンでサンドイッチを買った直後
[状態]:まぶたから微量の出血(波紋で治療済)
[装備]:波紋入りの薔薇
[道具]:基本支給品、ハーブティー(残り1杯程度)
[思考・状況]
基本行動方針:静かに暮らしたい
1.倒した男(リキエル)から情報を聞き出す(特に『能力』について)。
2.些か警戒をしつつ、無力な一般人としてストレイツォについて行く。
3.サンジェルマンの袋に入れたままの『彼女の手首』の行方を確認し、或いは存在を知る者ごと始末する。
4.機会があれば吉良邸へ赴き、弓矢を回収したい。
※ストレイツォから波紋や吸血鬼について説明を受けました。
※ランダム支給品はハーブティー(第7部)のみでした。
【リキエル】
[スタンド]:『スカイ・ハイ』
[時間軸]:徐倫達との直接戦闘直前
[状態]:両肩脱臼、顔面打撲、痛みとストレスによるパニック
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0~1(
ホル・ホースの物、確認済み)、サバイバー入りペットボトル(中身残り1/3)
[思考・状況]
基本行動方針:
0.パニック状態。痛みと恐怖でまともに物事を考えられない。
※ランダム支給品は『サバイバー入りペットボトル』のみでした。
※現在ダメージを受けて一度気絶したことにより、サバイバー状態は解除されています。
[備考]
- ワンチェンのランダム支給品は『波紋入りの薔薇』のみでした。
- 二人が情報を聞きだした後、リキエルをどうするかは次の書き手さんにお任せいたします。
【支給品】
波紋入りの薔薇(第1部)
ワンチェンに支給。
首だけになったダイアーが波紋を込めてディオに飛ばした赤い薔薇の花。
有名なセリフ「フフ……は…波紋入りの薔薇の棘は い 痛か……ろう………フッ」のアレ。
ロワ仕様として、誰かに刺すまで波紋は消えないようになっている。
サバイバー入りペットボトル(第6部)
リキエルに支給。
見た目は共通支給品と同じ水入りペットボトルだが
中の水を飲んだり触ったりするとスタンド『サバイバー』の電気信号が脳に送られ、その人物を『怒らせる』効果がある。
『サバイバー』で怒った人間は
- 闘争本能が引き出され、ほとんど見境なしに相手を襲う
- 相手の「強い」ところが光って「見える」
- 身体能力が強化される
といった状態になる。
ハーブティー(第7部)
吉良吉影に支給。
SBR11巻でジョニィが淹れたミントのハーブティー。
原理は不明だがジョニィはハーブを飲むことで撃った爪が速く生えてくる。
カモミールを混ぜるのが効果的。
原作ではキャンプケトル(キャンプ用のやかん)に入っていたが、
ロワでは魔法瓶に入っているため、冷めることはない。
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最終更新:2012年08月07日 03:03