「お前の事はあたしの記憶に無い…。
だからもう一度問う。
お前はあたしの『敵』か? 『味方』 か…?」
ああ、分かってるよ。
おれみたいな奴が、間抜けにもこんなときこんな場所で気ィ失って寝とぼけてなんかいたら、話になんねぇ。
スマートに決めてスマートに立ち去る。そいつが本来おれの流儀。
しょぼくれて、若造に訳も分からずにしこたまやられて、お次は可愛い子ちゃんと来た。
こりゃツイてるのか? ツイてねぇのか?
☆ ☆ ☆
ひとまず、気がついたときに話を戻すぜ。
気がついた、ってのは、つまりおれが意識を取り戻したとき、ってのと、この女に気がついたとき、ってのと二つの意味でだ。
意気消沈していたところを、やたらに調子の良い小僧にしてやられて、おれとしちゃあもう殺されたと思っていたわけだが、そうじゃ無かった。
あの小僧、おれを舐めてたのか、いざとなってブルっちまったのか、単にそこまで考えて無かったのか、荷物だけ盗んだだけで、止めを差しもせずズラかりやがったらしい。
川っぺりでアホみてーにぶっ倒れていただろうおれだが、意識を取り戻すのにそう時間が掛かったワケじゃ無い…と、思うぜ。
まあそこんとこは曖昧だ。そんなに根拠はねえし、一々突っ込むなって。
ただ、意識がぼんやりとでも戻ってきていることと、すぐさま行動できるってのは別だ。そうだろ?
まあこれ又情けねぇことに、意識が戻って周りの状況(そして、おれ自身の状況)が分かってからもしばらくは、這い蹲ってただ辺りを眺めているだけだった。
で、ざまぁねぇや、と自重するヒマも無く、川を流れてくるそいつが目に入ったワケだ。
初めは、死体かと思ったぜ。
そりゃそうだろう。泳いでる、でも、溺れている、でもねぇ。ただ水に浮かんで、ゆるりとした流れに運ばれているだけだ。
ただの死体ならそう気にもしなかった。どこのどいつか知らねーが、とんでもねぇパワーのスタンド使いに浚われて殺し合いをしろなんて言われてりゃ、死体が流れてきたっておかしかねぇ。
おれだってそうだ。ついさっき、殺されたと思ったんだからな。
ただ、微かな光に照らされて、二つのふくらみが見てとれて、おれはようやく上体を起こしたわけだ。
何だって? つまり、胸だよ、胸。乳房。女の身体でも、群を抜いて魅力的な部位のことさ。
要するに、シリコンでも埋め込んだヤローでないなら、そいつは女だってことだ。そうだろ?
で、俺は女にゃ優しい男だ。いつだって、な。
ああ、そりゃあ勿論、利用もするし騙しもする。けど、優しいってのは間違いじゃねぇし、進んで女を傷つける真似もしねぇ。
そして勿論、困ってる女を見捨てたりもしねぇ。ま、相手は選ぶがな。(エンヤ婆みてーなのは俺だってお断りだ)
もしかしたらまだ生きてるかもしれねえ。死んでいたとしても、そのまま川を流れたままにしておくってのはあんまりだろ?
で、ここに来ておれはようやく、ちょっとばかしいつものペースを取り戻しかけた、ってわけさ。
がばと起きあがり、ざんっ、と川へと入ると、その女の方へと泳ぐ。
泳いで、肩を掴むと、ぐいと引き寄せ声に出して聞いた。
「おい、お嬢ちゃん、生きてっか? 生きてるなら返事をしな!?」
で、そこから冒頭に繋がってくわけだ。
「…お前は、敵か?」
おいおい、いきなりそれはねぇだろうよ。
「お前の……その行為は……状況から察するに、『救助』しようとしている…という事に思える……。
だが『わたし』はお前を知らない……。
ならば、何故『助ける』……?」
妙な具合だぜ、こいつは。
「おうおう、無事なら結構。
とにかく岸に上がろうぜ。水の中をぷかぷか浮いていたら、落ち着いて話しも出来やしねえ。
少なくとも今はアンタの『敵』じゃあねぇ。
おれは世界中の可愛い子ちゃんの『味方』だぜ」
女は、月明かりに見ても美人だった。この俺が言うんだから間違いねえぜ。
東洋人とアングロサクソンの血が混じったような、エキゾチックな雰囲気がある。なんとはなしに見覚えのある気もしたが、いや、やっぱり記憶にゃあ無かった。
ただ、妙なのは言葉や態度だけじゃねぇ。
なんというか、巧く言えねえが、何かが妙だった。
ぎくしゃくしているというか、ちぐはぐというか、機械的ってのとも違う。何か人間のようで人間でない、妙な感じだ。
とはいえ、それでも目の前の女を助けないってのは、俺の流儀にゃ反する。
反するし、何よりここに来てようやく、『俺らしい』事が出来る機会が来たってのも、重要っちゃ重要だ。
女の肩をそのままぐいと引いて、岸まで行く。
それに抗う素振りも見せず、そのま素直に、ふたりして岸へと上がった。
さて、ずぶ濡れだ。俺としても正直気持ち悪いし、ここは2人とも服を脱いで乾かすのがベターなところだが、女は濡れた服のことなどまったく気にした様子が無い。
「とにかく、どっかの建物に入って、服を脱いで乾かした方が良いぜ。
おっと、変な気持ちで言ってるんじゃねえ。
俺は少なくとも女に対しちゃあ紳士だ。特に可愛い女の子には、な」
軽くおどけた調子で、気持ちをほぐそうとする。
改めて向き合うと、思っていた以上に若い。もしかしたらまだ10代かもしれねえ。
首輪がつけられている事から、おれ同様に無理矢理連れてこられて殺し合いをしろと言われているお仲間、って事なんだろうが、態度様子からもその事を気にしている風でも無い。
顔立ちの美しさに加えて、プロポーションも悪くない。ただ、立ち姿がちょいと様になっていない……というか、変だ。
そしてその姿勢以上に、女の反応はどうもぎこちない。
いや、ぎこちないというか、俺の言っていることを理解していないというか……いや、むしろ俺のことを観察している感じだ。
警戒している、というわけでもない。
最初はそう思った。だからおどけた事を言ってみたわけだが、そこには何の反応も無いんだから、どうにもつかみようがない。
「……その恰好」
表情のない視線を俺に向け、妙な事を言い出す。
「『あたし』の記憶によれば、『西部劇』とやらの……カウボーイか…ガンマンみたいだが……お前はそういうヤツなのか……?
そういうヤツ、というのは、つまり『西部で牛を追って暮らしている人間』なのか、という事だ。
『あたし』の記憶の中では、直接会った事は無いんだ。『西部劇』の中か、フェスティバルの扮装以外では、という事だが……」
さて、どうしたもんか。
状況から混乱しているのか? それともハナっからイカれてるのか…? 或いは記憶障害ってーヤツかもしれねえ。
「あー、俺はまあ、『世界中を旅している男』さ。
そんなのは『職業』じゃねぇって言う奴もいるが、そりゃそうだ。ま、言うなれば『生き様』ってーヤツだからな。
で、この恰好はそーゆー俺の『開拓精神』に即してるからってのもあるし、険しい土地でも丈夫で破けねえから、ってのもある」
「理解した。つまりその恰好は、『カウボーイでは無いが、カウボーイの様に生きたいという意思表示』という事だな」
うぐ…。なんかそう簡潔に纏められると、ちょっと恥ずかしい気がしてくるじゃねえかよ。くそっ。
調子狂うぜ。
「とにかく、お前は『わたし』の敵ではない。そして ――― 『ありがとう』 と言っておこう。
『あたし』の記憶において、こういうときはそう言うべきはずだ……」
回りくどい、というより、非常に奇っ怪だ。
狂っている、ってーんでもない。何が何やら、とにかく妙だ。混乱しているというのも又違う。
いや、むしろ逆だ。混乱はしていない。凄く理路整然としている。
そして、理路整然としつつ、おかしいんんだ。
まいったぜ。こんな女…いや、こんなタイプのヤツは、見たことも会ったこともねえ!
俺の方が些かに混乱していると、それを尻目に女はくるりときびすを返し歩き出した。
「お、おい、ちょっと待ちなよ、嬢ちゃん!
どこに行こうってんだ?
とにかく一端落ち着きなって。服も乾かした方が良いしよ。風邪ひくぜ?」
妙な女だと思いつつも、ついそう呼び止めてしまう。
呼び止められた女は、またぎこちない姿勢で変な具合に振り返る。
「『わたし』は、刑務所に向かう。そこに、『あたし』の記憶があるからだ。
『わたし』は、『あたし』の記憶を見なければならない。そうしなければ、『あたし』を『わたし』のものにする事は出来ないからだ」
この点、嘘偽りなく正直に言っておくぜ。
『おれ』は間違いなくこのとき、とてつもなく間抜けな面をしていただろうさ。見てねーけどな、自分じゃ。
☆ ☆ ☆
で、今おれが居るのは、地図上で『GDS刑務所』と書かれた場所の真ん前、ってわけだ。
塀に囲まれた、妙に近代的 ―― というか、未来的? ――― なコンクリートの建物は、敷地内にゃ椰子の木なんか生やしてやがって、ちょいとした南国気分で、刑務所って感じがしねえ。
空も白み始めているし、だんだんと周りが見え始めている。
その中で見てもこの女は確かに美人で、そして同時にやはり、何か妙に、人間らしさが無かった。
そんな妙な女に何故のこのこと付いていっているのか、って言うと、結局のところ『成り行き』と、『他にやることがなかったから』って事になっちまうかもしれねえ。
勿論、妙な女だが女は女だし、そうそう放ってもおけねえってのもあるし、打算的な事を言えばいずれ『利用』出来るかもしれねえってのもある。
だが、そうだな ――― もっと妙な事を言えば、例えばこう、『引力』みたいなもんかもしれねえ。
いやいやいや、変な意味じゃあねえぜ。
おれは夢見る乙女の運命論みたいなのとは無縁な男さ。
それでもこの女とは、今ここで別れるってのは『無い』って気がしたのは、事実なんだよ。
そして、それがツイていたのかツイてなかったのか、ってのも、これまた分からねぇ。
女は何かを確認するように、立ち止まり周りを見て居る。
記憶、と言っていたが、その記憶と合致しているところを確認しているかのようにも思えた。
そして暫くして、唐突にこう言い出した。
「『知性』 ――― と、『記憶』……。
自分を自分たらしめるものは、一体どっちなんだろうな ―――」
妙な事ばかり言う女だ。最初はそれが自分に向けられた言葉なのか、ただの独り言なのか分からなかった。
そして、おそらくは独り言だろうとは思ったんだが、かと言って無視するのも何か変な気がしたもんで、おれはこう答えた。
「そりゃ、『記憶』だろうよ。
どっちも必要だし、どっちも欠けたら困るけどな。
おれがおれでいるのは、おれとして生きてきた『記憶』があるからだし、おれの女たちにしたって、『おれとの記憶』が無くなっちまったら、もうそいつは『見知らぬ女』になっちまう。つまり、『別人』さ」
まあ、やはりというか当然というか、おれから答えが返ってくるとは思っていなかっただろう女が、こちらへと顔を向けて、なんというか「きょとん」とした様な表情を浮かべていた。
初めて見た、ちょっとは『人間らしい』 と言える表情だ。なかなか可愛いじゃねえのよ。
「――― そうだな」
今度は軽く口の端を上げて、微笑んだように見えた。
「だから ――― あたしは、
空条徐倫なんだ。
『わたし』は、
F・Fだが、『あたし』は、空条徐倫でもあるんだな ―――」
「ニャ…ニャニィ ー――z___ ッ!?」
な? たしかにこいつは、ちょっとした『引力』だ。
そしてこの『引力』が、ツイていたのかツイていなかったのか、まだ分からねえ。
【H&F】
【E-2 GDS刑務所 / 1日目・早朝】
【
ホル・ホース】
[スタンド]:『皇帝-エンペラー-』
[時間軸]:二度目のジョースター一行暗殺失敗後
[状態]:些かの疲労、まだ服が濡れて気持ち悪い
[装備]:マライアの煙草(濡れている)、ライター
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:死なないよう上手く立ち回る
1.『空条徐倫』 だってェー――z___ ッ!?
2.牛柄の青年と決着を付ける…?
【F・F】
[スタンド]:『フー・ファイターズ』
[時間軸]:農場で徐倫たちと対峙する以前
[状態]:健康、空条徐倫の『記憶』に混乱
[装備]:空条徐倫の身体、体内にFFの首輪
[道具]:
基本支給品×2、ランダム支給品1~4
[思考・状況]
基本行動方針:存在していたい
1.GDS刑務所の中で空条徐倫を知り、彼女となる
2.敵対する者は殺す。それ以外は保留。
【備考】
※F・Fの首輪に関する考察は、あくまでF・Fの想像であり確証があるものではありません。
※空条徐倫の支給品(基本支給品、ランダム支給品1~2(空条徐倫は確認済))を回収しました。
※空条徐倫の参戦時期は、ミューミュー戦前でした。
※体内にFFの首輪を、徐倫の首輪はそのまま装着している状態です。
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最終更新:2012年08月24日 03:17