さて、いよいよ……というべきか、このバトルロワイヤルも佳境に差し掛かった、と言って差し支えないだろう
ここまで多くの命の炎が燃え尽き、そしてその場には必ず何かしらの戦いがあった。
全てを賭けた棒倒しも。鼠と猫の狩り合戦も。親の敵に取り入られ、そして裏切る一人の軍隊も。
それらを否定するわけじゃあないんだけどさ。
やっぱどうも――こう『グッと来ない』感があってさ。
やっぱ“戦い”ってのはこう、思いっきりぶん殴って、思いっきり蹴り返されて。
裏をかいたり意表を突いたりなんかしない。そんなクリーンな『ドツキ合い』がさ、グッと来ないかなあ?わかる?
あ、いや、良いんだよ人の価値観だから。単に俺が複雑な心理戦が苦手だってのもあるし。
ともかく――今回はそんな『グッとくる戦い』の話だ。
登場人物……人物と言っていいのか?うーん、とりえず『異形が二頭』と表現しようかな。
で、だ。本当はここで皆に話の流れを“実況”するところだけれども、それもやっぱり違う気がする。
ここで
ブラフォードが爪を立てる。
それをバオーが身をひるがえして回避、勢いのまま刃を振りかざす。
……なんて言ってたらいつまでたっても終わりが見えない、せっかくのスピード感が削がれちゃう気がしてね。やっぱりグッと来ない。
だからとりあえず今回は彼らの戦いを『解説』させてもらうよ。
なーに、君たちの目なら俺が話すまでもなくこの激闘さえもしっかりと見極められるだろうさ。
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まず最初に必要なものは、各々が戦いに――あるいは全てに――対して持っている『目的』だ。
黒騎士ブラフォード“だったモノ”は、もう完全に本能のまま戦ってる。
主君であるディオへの忠誠心と、自分が捨て去った世の中への怒りは確かにあるが、恐竜と化している現状、これらはもはや行動の第一原理ではなくなってしまった。
一方の来訪者、バオーの目的は、ご存じ「こいつのにおいを止めてやる」の一言に尽きる。
これも確かに本能に従った戦いだが、何がブラフォードと違うかって、中の人、って表現はマズイか。
橋沢育朗がこの本能を承知し、理解し、彼自身の目的ともした事だ。
『欲望と意思が同じベクトルを向くのは一番厄介な事である』たしか君らに一番初めに話したね。
まあ、ブラフォード恐竜にはもうそれを厄介事だと認識するほどの脳ミソはないんだけども。
と――話しておいてなんだけど、この『目的』だが、それだけでは決着の要因には、そりゃあならない。
この場においてはどちらが正しいとか、人として間違ってる――まあヒトじゃないけど――とか、そういう事を説く必要性は全くないんだし。
だけども、どうしてもこれを話さないで次に行ってしまうと、この戦闘がなんだったのか、その意義?意味?価値?……まあそういうモノがなくなっちゃうからね。
●●●
さて、ここからが本題だ。次に解説するのはもちろん『スペック』さ。
この二人がガチンコで殺し合いを続けられるための――さっきの目的をメンタル面とするなら今度はフィジカルの面。
黒騎士ブラフォード。現在ディエゴの能力によって身体は恐竜のそれと化した。
装備品、なし。厳密にいうなら――スレッジハンマーは足元に転がっているし、恐竜化する際のパンプアップではじけ飛んだ甲冑もそこらに散らかっている。
だがまあ、いわゆる全裸装備という奴だ。まあ恐竜にとっては身にまとい、手に持つ武器は不要だろう。むしろ邪魔なんじゃあないだろうか。
だが、その代わりに鋭い爪と牙、強靭な尾と鱗に覆われた皮膚、力強い膂力を生み出す筋肉はさらに強化された上に恐竜の優れた動体視力を手に入れた訳だ。
対するは橋沢育朗。現在その身体は生物兵器・バオーとなっている。
装備品、こっちもなし……何期待してるんだ?全裸じゃあない。袖の破れたジャケットとベージュのチノパンは着てるさ。
だがまあ、武器や防具に該当する装備は一切ないし、ブラフォード同様にバオーにも必要ないものだ。
と、解説したのはフィジカルというか……いわゆる“見て呉れ”だが、どうだろう。そんな大差ないんじゃあないか?
が――それは否。
どうだろう、今でこそお互いが怪物として存在しているが……その中身は。
比べるまでもない。中世に英雄としてその名を轟かせた騎士と、異形の力に目覚めて一週間かそこらの少年。
戦いの年季の違いだとか、茶道部が甲子園に挑むとかいう表現でさえ生易しく聞こえる。
やっとハイハイが出来るようになった赤ん坊をリングに放り込んでアシュラマンと戦わせるような、とでもいうべきか。つまり……
『基本スペック』では圧倒的にブラフォードが勝っているッ!
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とは言え――とは言えだ。
肉体のスペックのみで勝敗が決まる訳ではないのが戦いというモノでもある。
とすれば次に彼らの戦いにおいて必要な要素は『能力』であるのも当然の成り行きだろうね。
そして……異能、その点に関してバオーはブラフォードどころか、そこらのスタンド使いよりも多くを手に入れていると言って良いだろうッ!
掌からは万物を溶解させる体液を放出するし、皮膚を硬質化させた刃は育郎自身の機転と成長で電撃を纏う剣となった。
状況に応じてそれを“セイバー・オフ”させれば、帯電させることは出来なくとも遠距離での攻撃を可能にさせる。
もちろん電撃攻撃を単体で行う『ブレイク・ダーク・サンダー』自体も彼の武装現象として、時に拳に乗せ、時に足元の水たまりを媒介とし、ブラフォードを襲う。
そうして距離を置いたブラフォードを襲うのは、両腕から飛ばされる刃だけではない。
自然発火する体毛、『シューティング・ビースス・スティンガー・フェノメノン』。
――しかしッ!だがしかし!
『バオーに数々の能力があるのは』確かだが、
『ブラフォードに異能がない』などと俺は一言も言っていない!
そうッ彼にはあるのだ!自分の接近を許さない、雨のように襲いくる髪の毛を打ち落とす手段が!それは――
“意外!それは 髪の毛ッ!!”
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かつて、スピードワゴンは『それ』のことを、
「ヤツの髪の毛は筋肉でもついているのか!」と評し恐れた。
だが、髪の毛はあくまでも髪の毛でしかないし、筋繊維でもない。
ブラフォードの髪の毛を『死髪舞剣』という技に昇華している根拠は植物に多く見られる『膨圧運動』というものである。
植物が細胞内の水分量を調節することで膨らむ、あるいは萎む運動の事であるが――
もともとブラフォードが人間だったころから敵の手足に絡みつく程度には動かすことが可能であったし、
屍生人となってからはこの能力を応用して相手の血を吸う事すら可能になった。
それが恐竜となった今。
血液どころか肉そのものを食い――吸血する必要がなくなった今、その力はある意味で屍生人の時代のそれより劣化しているのかもしれない。
しかし、最初に言った通り、彼は今本能で戦っている。
つまり――その髪の毛をどうやって使うのが得策かを本能で理解した、理解できたということ。
目の前に迫りくる障害を束にした髪で叩き落とす。
思い切り散開させた髪でバオーの手足を縛り自分自身が飛びかかる。
とても技と呼べるようなものではないが、死髪舞剣のさらなる応用編、と言ったところだろう。
……もちろんバオーも抵抗はする。しかし拘束されている現状、自然と攻撃手段は身体を動かさずに発生させられるブレイク・ダーク・サンダーに限られる。
水分たっぷりの髪の毛。そこに伝わる高圧電流での攻撃は果たして“効果はバツグン”だろうか。
――否、これも否。
『電気抵抗』というのは電気が流れる導線の太さに大きく関係する。
「水鉄砲は穴が小さい方が勢いよく遠くまで飛ぶという事だ」という理論ももちろん存在するが、それと同時に、
「水撒きをするならホースでチマチマやるよりもバケツをひっくり返す方が一気に多くの水が流れる」という理屈である。
つまり一本一本が1ミリにも満たない髪の毛では大した電流が流れないのだ。
ましてや先の膨圧運動は細胞内の水分量を調節するもの。水が少なくなれば電撃は流れなくなるのもまた当然。
有利なのは依然としてブラフォード。無論、黙ってやられるバオーでもない。
切断した足をくっつけて動かすことが出来るような回復力の持ち主であるバオーは己の肉がちぎれるのも無視して髪の毛を振りほどく。
……これはおそらく『寄生虫バオー』が痛覚を持たないことも要因の一つだろう。
仮に拘束する側とされる側が逆だったらどうだろうか。おそらく恐竜の事だ、パワーで振り切ってもその後の機動力と攻撃力はダダ下がりになることは想像に難くない。
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――と、そんなやり取りが何度も続く。
殴れば殴り返され、蹴れば蹴り返され、斬れば斬られ、髪を振り回せば髪で打ち落とされる。
とは言っても……戦闘時間そのものはそんなに長引きはしなかった。
考えてみようか、例えばボクシングのタイトルマッチはどうだろう。何ラウンドもの殴り合いこそあれど、途中にはセコンドが入り、実際にやりあっているのは一度に三分間。
戦闘行為の、というか攻防の密度が高くなればなるほど体感時間と実際の時間との差は大きく開くものなのだ。
二人が“変身”してから8分22秒。ブラフォードが屍生人の状態で初撃を放ってからカウントしても9分47秒。
異形の片方が崩れ落ちる。
決着がついた。
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――最後に解説するのは当然『勝因と敗因』だ……二つある。
『感覚器官』
そして
『そいつに触れることは死を意味する』
という事だ。
●●●
最初にバオーの戦闘におけるスタンスを話した。
『こいつのにおいを止めてやる』と。皆も知っている通りの事さ。
――さて、この“におい”とは、一体なんだ?
バオーはあくまでも寄生虫。宿った肉体の表面を鱗で覆うなどの変身を行いはするが、何も整形手術をするわけではない。
犬に宿ったバオーなら鼻は長く耳はとがった形に、人間に宿っていれば目や耳も残したままに『武装現象』を完了させるのだが――
その時、宿主の感覚器官は全く機能しなくなっている。
視覚も聴覚も嗅覚もバオーには関係ない。手足の感触や痛覚、そして喜怒哀楽と言った感情さえも関係ないのだろう。
そして、それらのすべてを頭部の触覚で理解するのだ。
つまり……われわれ人間の脳では、バオーがそれらの感覚を“どういうモノとして受け取っているのか”を表現できないのである。
ゆえに『臭い』でも『匂い』でもなく、便宜上『におい』と――そう言っているに過ぎないのだ。
対するブラフォードは……いや、この場では『恐竜は』と表現するか。
彼の感じる“におい”は、今度は我々が鼻で感じる“臭い”と同様のものだ。
もっとも現在、橋沢育朗の体臭がどうなっているのかは不明だし、さまざまな戦闘がおこり、現在進行形で土埃の舞うこの戦場では嗅覚はほぼ機能してはいないと言える。
とすれば何でもって彼らは敵を認識するのか。
それは『動体視力』――先ほど話した恐竜のスペックの一つだ。
これもまたわれわれ人間が考えているそれよりも数倍、数十倍の感覚で理解はしているのだろうが……
一つだけ弱点がある。
それは『ゆっくりの動きには対応しきれない』という事。
昆虫の複眼などとは違い、あくまでも一対、たった二個の眼球で動くものを理解するのだから、目のピントを合わせる筋肉の動きに隙が出来るのだ。
『向こうから勢いよく迫ってくるもの』に対応はできても『それまで止まっていたものが急に目の前で動き出した』場合には対応できない、と言えば伝わりやすいだろうか。
これらの違いを踏まえて戦いを振り返ると……
バオーは終始“におい”で相手を把握、正確に攻撃を仕掛け続けていた。
一方でブラフォードは迫りくる敵、あるいは自らが敵に接近する際の“動きを目で見て”戦っていた。
やがて、というほど時間の経過がなかったのは先に言った通りだが、とにかくバオーが成長したのか、それとも育郎の知識が後押ししたのか、次第に戦術が変わっていく。
シューティング・ビースス・スティンガー・フェノメノン、そして射出するリスキニーハーデン・セイバーを中心に、さらに投石なども交えた飛び道具を主体にしていったのだ。
そして……それらのすべてに的確に迎撃を行うブラフォードの目には怒涛の攻撃の影から『ゆっくり迫りくるバオーの姿』は映っていなかった。
恐竜の両頬に群青色の掌が触れた時にはもう遅かった。
いくら髪の毛で縛り上げようが、爪で刺そうが薙ぎ払おうが全て無意味だった。
恐竜の顔がドロドロに溶けてなくなっていく。
決まり手――バオー・メルテッディン・パルム・フェノメノン。
まさに『そいつに触れることは死を意味する』という訳である。
●●●
さて……どうだ?彼らの激闘を君らの目で追う事は出来たかい?
だがね、これで終わりじゃあなかったんだ。
変身を解く育朗。
目の前の死体を見て、やはりどうも複雑な気分のようだ。
いくら自分を襲う敵だったとはいえ、戦士としての自覚を持ったとはいえ、やはり根は心優しい少年なのだから。
――そりゃあもちろん「やっぱり怖くなったから戦うの止めま~す」なんて言うような真似はしない。
完全に液状化した頭部から転がり落ちた首輪を一瞥し拾い上げ、止めておいたバイクのデイパックに仕舞い込んで再び歩き出す。
己の身体を隠すことはもうしない。
袖は破けてしまったし、ウロコ状に変質化し始めた皮膚がその面積を広げても、それが己の肉体だと心に刻んでいるからだ。
……気がついたかい?
確かに橋沢育朗は『バオー』で皮膚は人間状態に戻っていようがウロコのように硬質化し始めている。
だがそんな急激に鱗が腕全体に広がるか?いくら激闘で経験値を積んだとしても?
思い出してくれ、ブラフォードは最後に何をしたか。
恐竜化したその爪でバオーを何度も傷つけていたんだぜ?
――言い方を変えるとするなら、この戦いでの真の勝者はこの場にいなかった男、ディエゴかもしれない。
そう。彼は立ち去る際にブラフォードを『リーダー』としたのさ。
お気に入りの
ドノヴァン恐竜と同様もともとの人間のスペックが高かったことに加え、ドノヴァンとの決定的な違いは“直接的な戦闘力が高い”こと。
そして『スケアリー・モンスターズ』の能力の本質……というか、本来の持ち主、フェルディナンド博士の能力は、リーダー恐竜を媒介に恐竜化の感染者を増やすこと。
つまり『そいつに触れることは死を意味する』ってところかな。
さてさて、本当に『スケアリー・モンスターズに触れたものは』になってしまうのかどうか。橋沢育朗の未来やいかに?
その話はまた今度にしよう。
――どうだい?グッとくる話じゃあなかったか?やっぱり異形との殴り合いはスカッとする気がするんだよねぇ~。
さっきもさ、ここにゴキブリでてさぁ。殴りかかってくるもんだから見事に返り討ちにしてやったんだよ。でさぁ――
【ブラフォード 死亡】
【残り 35人】
【D-5 北東部 地下/1日目 午後】
【橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:全身ダメージ(中:急速に回復中)、肉体疲労(中)、恐竜化の兆候(?)
[装備]:ワルサーP99(04/20)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾・黒煙弾×2)
[道具]:バイク、
基本支給品×3、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、
予備弾薬40発、地下世界の地図、ブラフォードの首輪、大型スレッジ・ハンマー、不明支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
1:少年(ビットリオ)を追う?
2:具体的な目的地は不明・未定
[備考]
1:ブラフォードの基本支給品ならびに武器のスレッジハンマーを回収しました。
2:ブラフォードに接触したため恐竜化に感染した疑いがあります。
(実際に感染していたのか?恐竜化するまでの制限時間は?など詳細は後の書き手さんにお任せいたします)
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最終更新:2015年12月31日 14:53