暗い洞窟を歩き続ける一人の青年。
放送が鳴り響いたわずかな時間だけ、育朗は歩みを止めた。
読み上げられた死亡者を書き取り、放送後はしばしの間死者へ黙祷を捧げる。
それが終わると、すぐに育朗は歩き始めた。バイクを押しながら、悪路をゆっくりと進んでいく。
アバッキオとの戦いが育朗をさらなる『戦士の領域』へと押し上げた。
12時間前、億泰と共に戦った怪物、
カーズ。
サンモリッシ廃ホテルで自分を叱咤激励した巨大な戦士(
ワムウ)。
人間でありながら肉体を乗っ取られ、ただ自分を証明するために戦った『アバッキオ』。
どれもが規格外の怪物だった。
圧倒的な身体能力と回復力は怪物と呼ぶにふさわしい。
彼らはまさに人間を超越した、超生物なのだ。
自分だけが彼らを相手にすることができる……!
あのカーズを、巨大な戦士(ワムウ)を、この場にのさぼらせておくわけにはいかないッ!
育朗の瞳の中で、黒く熱い炎が燃え上がる。
それは覚悟を決めた目だ。もはや自分はどうしたって『普通』に戻れない。
それはたまらなく寂しく、そして、苦しい事実。
それでもその道を歩み続けることを決めた、男の目。
そこまで考え、育朗は不意に立ち止まる。
高性能に発達した聴覚が右の暗闇の物音に反応した。
慎重に、気配を殺しながら進む。
少し開けた場所まで進んだのを確認すると、くぼみの中にバイクを隠してあたりを用心深く伺う。
今度は左側から物音がした。どこまでも広がっていくような左側の暗闇に目を凝らす。
しかし何も見えなかった。そして、何も聞こえなかった。
あたりに充満するのは強烈な悪意と……一線を超えた殺意。
育朗の全身がざわつく。戦いを前に、彼の中の怪物がゆっくりと顔を出す。
一歩、二歩と前に進み―――そこで完全に育朗の足が止まった。
「………………」
振り向かないでもそこに誰かが……『何か』がいるのは気配で分かった。
高く伸びた天井に張り付く、一つの人影。水溜りにおぼろげな影が反射し、浮かび上がる。
自慢の髪の毛を、まるで蜘蛛の脚かのように使い、
ブラフォードは育朗の頭上をとっていた。
逆さ吊りで目をギラつかせながら、育朗の首筋にそっと忍び寄る。
何十にも伸ばした髪の毛を、命を刈り取らんばかりに漂わせながら。
育朗は落ち着いた表情で、じっと動かない。今動けばそれは大きな隙になるとわかっていたから。
無音があたりを漂っていく。
長い時間をかけて水滴となった雫が、音を立てて水溜りに落ちていった。
―――戦いは一瞬だった。
「SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
天井を強くけったブラフォードが襲いかかる。育朗は振り向くと同時に飛び下がり ――― 一閃。
すれ違いざまに一瞬だけバオーの力を解放した。左腕から伸びた刃がブラフォードを袈裟斬りにする。
地面に落ちたブラフォード。一瞬でバオーから姿を元に戻した育朗。
そして……沈黙の後、眩い光がブラフォードの体から溢れ出た!
苦悶に満ちた叫びが洞窟をみたし、ブラフォードの体はバチバチと青白い光に包まれるッ!
これが! これが! 育朗の新しい力ッ!
体細胞から発生される電気を刃で貫くとともに一点放出! 切り裂かれた敵は全身を電流に包まれる!
バオー・ブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノン『改』!
「この俺が……この俺が、負けるなどォォォオ……OOOOOOOOOHHHH!」
肉体を焼きこがされ、それでも戦うためにもがくブラフォード。
変身を解除した育朗は暗い目でその様子を見つめていた。
覚悟はある。育朗はこのためにここにいるのだ。大いなる驚異を取り除くため、戦わなければならないものから育朗は逃げない。
ズブリズブリと崩れる体。なぜだ、とブラフォードは思う。まだ死にたくないと、そう思う。
もがき、あがき、叫べば叫ぶほど死は近づく。全身を貫く『痛み』が迫り来る死を明確にする。
これしきの痛みで止まってなるものか……! これしきの苦しみがなんだというのだ……!
「俺は死なん……、死なんぞ!」
育朗はためらわなかった。無慈悲に、残酷なまでに己の役割を果たした。
ブラフォードに近づくと、叫び声を遮るように刀を振るった。
ザクッ ――― 肉を切り裂く残酷な音が響いた。育郎が、バオーが振り下ろした刃は的確に肉体を切り裂いた。
―――ブラフォードをかばうように突然姿を現した、恐竜の肉体を。
「!?」
「ディオ様……、あのお方のためならば、この俺はもはや……! もはやッ!
騎士であることも! 誇りを持つことも! 『人間であった』こともやめてやるッ!」
もろく崩れたブラフォードの体に訪れる、異変。
真っ黒に焼きこげた肉体が剥げ落ち、つやつやとしたウロコが生え伸びる。
わずかに人間味を残していた顔が変わっていく。牙が伸び、眼光は黄色に変わり、細長の爬虫類のような顔に変わっていく。
育朗は大きく後ろに飛び下がる。目の前で起きている出来事が信じられない。
ブラフォードの体は大きくなり続け、最後には3メートルを超えるまでになっていた。
ウロコをまとい、頭部からは長く伸びた髪の毛を振り回し、片腕で軽々とスレッジハンマーを持ち上げる。
冷たい汗がこめかみを伝っていくのを感じた。育朗は思う。
この『化物』相手に、勝つことなんかできるのだろうか、と……。
全身から放たれる底なしの悪意と殺意。
目の前のブラフォードだったものは制御装置を失った殺戮マシーンそのものだった。
言葉にならない叫びを上げながら、恐竜は育朗に襲いかかる。早く、鋭い攻撃だ。
間一髪のところで横っ飛び。続けて放たれる髪の毛の拘束を振り切り、育朗はバオーへと変身する。
二人の怪物が対峙する。望まざる力を得た怪物、望んでさらなる力を得た怪物。
元人間同士の戦いの火蓋が、切っておろされる。
【D-5 北東部 地下/1日目 日中】
【
橋沢育朗】
[能力]:寄生虫『バオー』適正者
[時間軸]:JC2巻 六助じいさんの家を旅立った直後
[状態]:バオー変身中、全身ダメージ(大:急速に回復中)、肉体疲労(大)
[装備]:ワルサーP99(04/20)、手榴弾セット(閃光弾・催涙弾・黒煙弾×2)
[道具]:バイク、
基本支給品×2、ゾンビ馬(消費:小)、打ち上げ花火、
予備弾薬40発、地下世界の地図、不明支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルを破壊
0:目の前の悪意を打ち倒す
1:少年(ビットリオ)を追う?
【ブラフォード】
[能力]:屍生人(ゾンビ)+恐竜化
[時間軸]:ジョナサンとの戦闘中、青緑波紋疾走を喰らう直前
[状態]:恐竜化、腹部に貫通痕、波紋ダメージ(小)
[装備]:大型スレッジ・ハンマー
[道具]:地図、名簿
[思考・状況]
基本行動方針:失われた女王(メアリー)を取り戻す
0:恐竜化&凶暴化中。ただ目の前の存在を始末するのみ。
1:ディオ様のために戦う。
2:次こそは『
ジョナサン・ジョースター』と決着を着ける。
▼
「そうだ、それでいい……それでいいんだ……」
暗闇の中、誰に言うでもない呟きを、ディエゴは一人こぼしていた。
見えるはずのない暗闇に目を凝らし、ディエゴはじっと待ち続ける。
聞こえてくるのは壁を震わす衝撃音、人のものとは思えない凶暴な叫び、そして……背後から一定のリズムを刻む呼吸音。
暗闇から目をそらすと後ろに待たせた恐竜の上を見る。
横たえられているのは気絶したルーシーだった。
呼吸は浅いが止まっていない。外傷もなく、見た目にはただ眠っているように思える。
ただ一点、不自然な箇所を残しては。
「スティーブン・スティール……」
恐ろしいやつだ、とディエゴは思った。
乗馬ヘルメットを外し、流れ落ちる汗を拭いながら、思わずその男の名前を呼んでしまった。
自分の妻を殺し合いに参加させる。それだけでも常識外れのイカレ野郎だ。
しかし、殺し合いという常識を逸したスティールはさらなる狂気に足を踏み入れたとディエゴは思った。
ルーシーの膨らんだ腹部をさすりながら、ディエゴは一人身震いする。
あの
ディエゴ・ブランドーが怯えているのだ。人を人と思わぬ行為を繰り返す、あのディエゴが。
「『神』すらこの殺し合いに巻き込み……一体お前の目的はなんなんだ? スティーブン・スティール」
ルーシーの腹部に宿ったのは遺体の頭部。そして今ディエゴの左の視界を移すのは……遺体の左目。
そのどちらもがディエゴがもっていた誰かの支給品に紛れていたものだった。
支給品を確認したとき、ディエゴは自らの目を疑った。あるべきはずでないものが何故ここに。
しかし時間が経つにつれ、はっきりとわかった。
その美しさと気品……いま自分が目にしてる、宿してる遺体は、間違いなくあの『お方』の遺体だと。
背後をブラフォードに任せ、ディエゴは向かう。
これも全てスティールの手のひらで踊るに過ぎないとわかっていても、今は引かれるまま進むしかない。
そう、遺体が呼ぶ何者かの方へ……。ディエゴは恐竜の鼻先を叩くと、足が向かうままに洞窟を進んでいく。
遺体が示す引力のままに、どこへと知れず歩みだす。
瞬間―――ディエゴの視界は『全てが止まった』ように映って見えた。
歩き出せばそれは気のせいで、ディエゴは気にもとめず、また進みだす。
それが内なる何者かの力と知らず……。そしてそれが、自らの中で芽生えつつあるもうひとつの力と知らず……。
ディエゴは後ろに跳ねた髪の毛をなでつけた。首筋に付いたあざは見方によっては星型の変わった模様のようにも思えた。
【D-4 東部 地下/1日目 日中】
【
ルーシー・スティール】
[時間軸]:SBRレースゴール地点のトリニティ教会でディエゴを待っていたところ
[状態]:気絶中、処女懐胎
[装備]:遺体の頭部
[道具]:基本支給品、形見のエメラルド
[思考・状況]
基本行動方針:スティーブンに会う、会いたい
0.気絶中
1.ディエゴを出し抜く
【ディエゴ・ブランドー】
[スタンド]:『スケアリー・モンスターズ』+?
[時間軸]:大統領を追って線路に落ち真っ二つになった後
[状態]:健康
[装備]:遺体の左目、地下地図
[道具]:基本支給品×4(一食消費)鉈、ディオのマント、ジャイロの鉄球
ベアリングの弾、アメリカン・クラッカー×2
ランダム支給品0~3(ディエゴ:0~1/確認済み、ンドゥ―ル:0~1、
ウェカピポ:0~1)
[思考・状況]
基本的思考:『基本世界』に帰る
0.引力の向かう方へ
1.ルーシーから情報を聞き出す。たとえ拷問してでも
2.別の世界の「DIO(ディオ)」に興味
[備考]
- 遺体の頭部はンドゥール、遺体の左目はミラションの不明支給品でした
- 二人は遺体の引力のままに進んでいます。どこに向かうかは次以降の書き手さんにおまかせします。
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最終更新:2016年01月14日 22:39