パカラッ、パカラッ、パカラッ……
「乗馬なんてのは金持ちの優雅なご趣味と思ってたんだが、なかなかどうして車やバイクとはまた違うこの『一体感』ってのもいいもんだな」
◆ ◆ ◆
ディ・ス・コと
サーレーを倒し、形兆に別れを告げたシーザーはまず進路を南東に取り、DIOの館へとたどり着いた。
DIOを倒すための手掛かりがないかを調べるためだったが、ざっと見た限りDIOの素性やスタンドの弱点に迫れそうなものは見つからない。
また波紋による生命探知にも反応がなく、結果としては空振りに終わり、早々に探索を切り上げることにした。
一見徒労に終わったように見えるだろうが、実際のところ彼にとってはある意味幸運な事だった。
ゲーム開始から半日、シーザーは常に『間に合わなかった』。泉のほとりで貫かれていたか弱い少女、友人スピードワゴン、恩師
リサリサ、そして
虹村形兆。
いくら強靭な波紋戦士と言えども、若干二十歳の青年である。頼れる仲間も無くこの短時間であまりに多くの死に触れたせいで、表には現れずとも
シーザーの心は確実に消耗していた。
もしそのまま探索を続け、塔の最上階で
ポコロコと
スループ・ジョン・B、まだ僅かに体温の残るミスタとミキタカの凄惨な死体を発見してしまっていたら、
きっとこの後の衝撃にはとても耐えられなかっただろう。
探索の最後にと入った図書室には戦闘の跡があった。比較的新しい血だまりといくつかの銃痕、ブーツに粘りつく血の具合から見て重傷を負ったものがまだ
近くにいるかもしれないと外に出たシーザーは見つけてしまったのだ。
「先…………生…………」
すでに分かっていたことだ。むしろこのような形でも再会できたことに感謝すらしなければならない程この地には異常で、残酷な死が蔓延している。
もし逆の立場だったら?母のように慕っていた師はきっと極限まで感情を抑え込み、冷静かつ気丈に振る舞うのだろう。
ならば自分もそれに倣うべきだ。
(わかっています、自分はここで崩れ落ちてはいけない。泣き叫んでもいけない)
もう十分涙は流したのだから。
ゆっくりと膝を折ると、恐れるように、乞うように、震える手を伸ばす。
(ですが……ですが先生)
リサリサの頬にそっと指先が触れ
(お許しください)
――――――――――――そこに生命の波紋は感じられなかった。
「あ……ああ……今は……今だけは……!!」
ついにシーザーは感情を押さえきれなかった……リサリサの体をしかと抱きしめると、後から後から悲しみの涙があふれてくる。
だがしかし、それでもわずかな嗚咽をこぼすのみで、泣き叫ぶことだけはしなかったのだ!
それは師の教えとのギリギリの妥協点だったかもしれないし、敵を呼び寄せない為の冷静な判断だったかもしれない。
別れの時間を誰にも邪魔されたくない気持ちもあったかもしれない。あるいはそれら全て……
大きな穴を掘れそうな場所はDIOの館の庭ぐらいだったが、忌まわしい吸血鬼に関わる場所など御免だった。
戦いに巻き込まれないよう通りから奥に入った民家のベッドに遺体を横たえると、十字架の代わりにチェストに置いてあったエジプト・アンクを握らせる。
そうして短い祈りを捧げ終わるころにはようやく涙も乾いていた。
名残を惜しみながらも民家を後にすると今度こそ気持ちを切り替え、遺体に感じた不自然さについての考察を始める。
(先生の遺体は綺麗なもんだった……いや、『綺麗すぎた』!)
衣服こそあちこち破れてはいたが、事実リサリサの体には見る限り目立った外傷はなかった。
ただ一点、首を彩る二本目の輪――――紅い指痕を除いては。
(おそらく先生もここに来てから複数回は戦闘をしていただろう。その度に波紋で癒していたとすれば傷が見当たらないのは不自然ではない)
だがリサリサが死に至った最後の戦いにおいて、負傷した跡が見当たらない。この遺体の状況は、リサリサが身体を拘束あるいは意識を失うなど、
行動不能の状態にされた上で素手で首を絞められ、窒息死した事を示していた。
(波紋使い相手に先生が遅れをとることは考えられないし、柱の男なら尚更そんなまだるっこしいやり方はしない。必然的に先生を殺した奴は
『相手を無傷のまま行動不能にすることが可能な能力』を持つ者、つまりスタンド使いに限られる)
動きを封じることはできるが直接攻撃することはできない。スタンドの多様性からいって、そういう能力の存在を今更疑う必要は無いだろう。
ならばなぜ素手なのか、という疑問が浮かぶ。石で殴るなり川に沈めるなりする方が力もいらないし手っ取り早い。周囲に武器になるものが無かった訳でも
ないのにあえてそうした理由は何なのか。怨恨、快楽殺人の線も疑われるが……と、そこまで考えたところでシーザーは唐突に思考を打ち切った。
可能性はそれこそいくらでもあるし、推理や考察もいくらでもできる。だが真実が如何なるものであろうとも、犯人が『明確な殺意をもって』リサリサを殺したことは
確かな事実であり、それで十分だった。
(先生を殺した奴が今も生きてるのか死んでるのかはわからんが、ひとつだけ言えることがあるぜ。たとえどんな事情や理由があったとしても、
既に動けない先生の首をわざわざ絞めてまでとどめを刺すようなゲス野郎を、俺は『絶っっっ対に許さねえ』ってことだ!)
リサリサが息子ジョセフの為に狂気へと身を堕としたことも、その果てに瀕死の傷を負い、DIOの息子、ジョルノが癒したことも。
殺された時点で既に波紋を使えるような状態でなかったこともシーザーにはわからない。
そしてシーザーが言う所のゲス野郎――――
蓮見琢馬がリサリサを殺した理由も、心も、まだ知ることは無い。
◆ ◆ ◆
リサリサとの悲しい再会はシーザーに希望をもたらす事こそなかったが、ひとつの区切りはついた。
後は何としてでも生き抜いて、同じくどこかで生きているJOJO、シュトロハイムと合流する。そうして柱の男たちを倒し、主催者を倒し、皆で脱出する。
この先の戦いやまだ見ぬ仲間の事を考えると力が湧いてきた。皆のためにもやるべき事はたくさんある。
そうして次にシーザーは川の上流へという当初の目的から離れ、一旦西へと戻る事にした。丁度すぐ近くに禁止エリアがあるので一度自分の目で見て
情報収集をしておきたいという考えからだ。
「サン・ピエトロ大聖堂か。教皇様のお力も主催者どもには通じなかったみたいだな……ん、あれは馬か?」
広大な広場の石畳はさんさんと降り注ぐ午後の日差しを照り返し、白く輝いていた。
光に紛れて一瞬見落としてしまいそうになったが、広場の中央に一頭の白馬が座り込んでいる。
参加者以外の生き物を見かけたのも初めてだが、どこかで見覚えがあるような気がして近寄ってみると、額には特徴的な星の模様。
そこでやっとシーザーの記憶がつながった。そう、まさにティベレ川で拾ったDISCに映っていたのと同じ馬なのだ。
「マンマミーヤ! 本当に居たとは……って馬だけ見つけてもこのレコードもどきが何なのかわからなけりゃ意味無いんだけどな。
鞍がついてるってことは誰かの馬なんだろうが、おい、お前のご主人はどこ行っちまったんだ?」
一応聞いてはみるが、返事は無い。手綱を引っ張ってみても動こうとせず、閉じた目を開けようともしない。無反応というより意識そのものが無いように見える。
この馬の状態とDISCが関係している事は間違いないのだろうが、シーザーにはそれ以上どうすればいいのかわからなかった。
無理もない話だ。1939年時点から飛ばされてきたシーザーはそもそもコンパクトディスクやレーザーディスクといったDISCに酷似した記録媒体の存在自体を
知らない。仮にレコードからの連想で記録媒体だというところまでたどり着いたとしても、それを再生機器に『差し込む』という概念が一般に浸透したのは戦後、
カセットテープやビデオテープが普及してからの話であり、レコードと8mmフィルムしか知らないシーザーはどのみち途方に暮れるしかないのだ。
だからこの場合幸運だったのはむしろ馬の方だろう。
頭をひねるシーザーの手からうっかり滑り落ちたDISCが綺麗に額の星に当たったのだ。
「こ、これは!? 円盤が馬の頭にズブズブ吸い込まれていくぞ!!」
ブルルルルルッ!
記憶を取り戻した馬は勢いよく立ち上がると体を震わせ、嬉しそうにシーザーの周りをぐるりと一周してそのまま大聖堂の向かって左、
南側の列柱の方へと駆けて行った。
「おい待て! そっちは確か禁止エリアだぞ――――」
慌てて馬を追って走り出したシーザー。すると突如首輪がトーキー映画のようなザラついた声で『喋りだした』。
『オーノーだズラ。おめえ、もうだめだズラ。禁止エリアに入っちまったズラ』
……セリフの内容よりもまず人を小馬鹿にした言い回しにイラッとしたが、数歩後ろに下がると声がやんだ。
「なるほど、ここからが禁止エリアってことか。目に見える境界線が無い分爆発まで猶予を設けてあるんだな」
すぐには爆発しないことがわかると数歩進んでは戻ってを繰り返す。足だけを伸ばしたり首だけを入れてみたりと色々試した結果、どうやら首輪が境界線を
越えたかどうかが判定の基準だという事がわかった。
そしてシーザーの考えを補強するように視線の先――――『禁止エリア内』を馬が自由に駆け回っている。
「クソッタレ、これじゃあまんま首輪に繋がれた犬じゃねーか。しかし俺には機械の知識は無いときた。詳しそうなのはシュトロハイムあたりか……? それか
俺より未来から来ている人間なら、こいつを外す手がかりを掴んでる奴がいるかもしれんな」
DISCの使い方も一応は理解したが、自分一人で試すには危険すぎるので一旦保留にする。今は何にせよ共闘できそうな人間に出会いたい。そう結論付けた
シーザーは馬に別れを告げて広場を後にすることにした。
だが広場の入り口まで来たところで後ろから襟をぐいと引っ張られ、首元に生暖かい息がかかる。
「悪いな、お前にかまってる暇はないんだ。さ、殺し合いに巻き込まれない内に遠くに逃げちまいな」
ブルブルブル、ブフゥーッ
馬はシーザーの前に回り込んで、何かを訴えるようにじっと見つめてくる。
「ひょっとして……乗れってのか?」
改めてよく見ると、何とも美しく鍛え上げられた馬体だ。その艶やかな毛並みは素人目にも十分な手入れをされているのだとわかる。
馬に合わせて作られただろう鞍はよく使い込まれており、馬名が小さく刻まれていた。きっと持ち主はこの馬に深い愛情を注ぎ、大切にしていたのだろう。
人の手が入っているとはいえ初対面の人間を嫌がったり警戒する馬も多いが、自分を目覚めさせてくれた礼に乗せてもいいと言ってくれたこの馬の心意気に
シーザーは胸が熱くなるのを感じた。
「じゃあ行くか『シルバー・バレット』!」
シルバー・バレットの真の乗り手である
ディエゴ・ブランドー。
彼が奇しくも仇敵DIOと同じ名を持つことも、どれだけ素晴らしい技術と経歴を持つ騎手であり、どれだけ残忍で残酷な実利主義者か、
そしてこのバトルロワイヤルで犯してきた所業や企みも、まだ知ることは無い。
そうして話は冒頭へと戻る――――――――――――――
◆ ◆ ◆
パカラッ、パカラッ、パカラッ……
移動速度が飛躍的に上がった一人と一頭は念の為禁止区域に設定されたA-2を避けてカイロ市街地を斜めに抜け、地図の北端に到達。氾濫の原因はついに
分からなかったが、ジャコモ・マッテオッティ橋からティベレ川を越えて古代環状列石を一通り見て回り、小さな墓に花を増やしてからボルケーゼ公園で
シルバー・バレットの食事がてら休憩。のち他の参加者がいないか通りを細かく探しながら南下しシンガポールホテル、マンハッタン・トリニティ教会を抜けて
現在位置はD-4、ナヴォーナ広場。時刻はもうすぐ夕方に差し掛かるかといった頃合いだ。
「ここから東に行けば空条邸だな、さっきから漂ってた焦げ臭さはあそこからだったのか。よし、行くぞシルバー・バレット……どうした?」
近くの建物に上って空条邸からの煙を確認してきたシーザーは今度こそ他の参加者に遭遇することを期待して手綱を握る。が、当のシルバー・バレットが
首を嫌々と振って動こうとしない。
乗馬初心者のシーザーは手綱に軽く波紋を流すことで方向を伝えていたが、それが本当に補助程度の意味しかないくらいにシルバー・バレットは賢い馬だった。
時にはシーザーが波紋を流すより先に、手綱を握る手のわずかな筋肉の動きを感じ取って進路を変える事さえしてくれた。
駆ける速度も速すぎて乗り手に負担がかからぬよう、気遣いながら調節してくれていたおかげでシーザーは体力を十分回復できていたのだ。
それがここに来ての反抗である。さすがに只のわがままではないとシーザーも理解――――
「何だよ、やっぱボルケーゼ公園で俺が無理矢理木の葉ばっか食わせようとしたの根に持ってんのか? いや馬って首が長いんだから高いところの葉を
食べると思うのは仕方無いことだと思うぜ。お前が芝生とか雑草しか食わないって知らなかったんだからな!」
――――理解まではいかなかった。当然ではあるが、やはり人と動物の相互理解は一朝一夕で上手くゆくほどお手軽なものではない。
「なあ頼むから機嫌直せよ……まいったな。こうなりゃ俺一人で走って行くしかないか」
空こそまだ青いが、柱の男たちの時間は確実に迫っている。一刻も早く共闘できる人間を探したいシーザーはじりじりとした気持ちでデイパックから
コーヒーガムを一枚取り出し、口に運ぶ。
『コーヒーガム』を。
『コーヒーガム』を!
ワンワンワンワンワンワンワンワンワンッッッツ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「おわああああああ! こっこっこっこっこいつは――――ッ 犬!?」
超スピードだとか瞬間移動かと思う位唐突に飛び掛かってきた犬に、シーザーはJOJOには決して聞かれたくない情けない悲鳴を上げてしまった。
しかし紙一重で避けてコーヒーガムを死守する辺りは流石である。一方犬はくるくるっと空中で回転して着地。
『ああ?おめーが今やるべきは地面に這いつくばって『どうぞお食べくださいお犬様』ってコーヒーガムを差し出す事だけだろうが』と言わんばかりに睨んでくる。
(なんつー犬だ……貧民街で残飯あさってる野良犬より意地汚ねー顔してやがる)
いや、この犬はきっと相当飢えていたのだろう。こっちを睨むのももしかしたら恐怖の裏返しなのかもしれない。強引にそう考えると何だか哀れに思えてきた。
思い直してガムをやろうとしたところ、犬はふと何かを思い出したようにシーザーの横をすり抜け、空条邸とは逆方向に向かって走り出した。
一度こちらを振り向いてワンと吠え、もう少し進むとまた吠える。
「あの犬……ついて来いって言ってるのか? あ、おいシルバー・バレット!」
シーザーの意見を待たずにシルバー・バレットも犬を追いかけて勝手に駆けだした。こうなればままよ、と手綱を握り直すとスピードを上げてついて行く。
目的地までは30秒もかからなかった。
◆ ◆ ◆
路地に張り出したオープンカフェのテントの下で、その少年は静かに横たわっていた。
右腕は肩から先が失われ、脇腹と左足も大きくえぐれている。とめどなく血を流していた赤黒い傷口は、今は砂で固められていて見えない。
正確には犬が少年の約10m以内に入ったところで突然砂が現れたのだ。
おそらくこれが犬の能力の射程距離。能力を発動した途端しんどそうに伏せの姿勢で舌を出したところからも疲労の色が伺える。
血液をたっぷり吸いこんでどす黒く変色した砂が少し崩れかけた。往復1分足らずであっても、この傷では流れた血の量はかなりのものになる。
それでも、少年が失血死する危険を冒してでも敵か味方かわからないシーザーに直接助けを求めなければならないくらい犬の負担は大きく、
追いつめられていたのだとシーザーは理解した。
「決死の覚悟で俺を呼んだんだな……わかった、もう少しがんばって止血してくれ。治療してみる」
さっき死守したガムを犬に放ると、すぐさま少年の体に波紋を流し込む。シルバー・バレットがそうしたように、少年に過度な負担がかからぬよう調節しながら
慎重に、迅速に。そのまま一時間ほど流し続け、何とか傷をふさぎ出血を止める事が出来た。犬に能力を解くように指示するとテーブルクロスを破いて包帯代わりに巻きつける。
「シルバー・バレット、さっきは勘違いして悪かった。お前には犬が近づいてきてたのがわかってたんだな……犬、お前もご主人の為に必死だったってのに
意地汚いヤツだとか思って悪かったアデデッ! 何で噛むんだよ!!」
「アウオオ!」
忌々しそうに首輪と犬サイズのデイパックを見せつけてきた。
「あ、ああそうだな。お前もスタンド使いってことは参加者なんだよな。こいつと組んで行動してったってことか、さっきの発言は撤回する」
ペット扱いされたのが気に入らなかったらしい。しかも人間の言葉をしっかり理解している節がある。そして噛まれた手にはこれまた噛みつくしたガム。
シーザーは犬の知性に感心しながらも、内心めんどくさいヤツだとため息をついた。
「…………うう」
ようやく少年が目を覚まして弱弱しく辺りを見回す。体を起こそうとするのを静止して、砂山の上に畳んだテーブルクロスを置き、枕代わりにすると再び寝かせてやる。
「意識が戻ってよかった。俺の名はシーザー・アントニオ・ツェペリだ、お前は?」
「……
パンナコッタ・フーゴ。その犬は……
イギー。手当てをしていただいて感謝します」
「礼ならむしろ犬、いやイギーの方が相応しいさ。俺をここまで連れてきてくれたのはアイツなんだ」
「そうでしたか……すまない、イギー」
イギーはそっぽをむいてアギ、と一声だけ返してきた。だが、そのそっけない返事だけでもフーゴには十分伝わったようだ。
かすかに笑みを浮かべるフーゴにしかし、シーザーは伝えなければならなかった。
「フーゴ、はっきりと言おう。俺は波紋って技術でお前さんの出血を止めた。一応傷口も塞げた……だが、これ以上の治療となると俺にも難しい。
つまり、お前は再起不能で……いつ死んでもおかしくない」
◆ ◆ ◆
最初にフーゴを見た瞬間、死体だと思った。
そう、
マッシモ・ヴォルペと
ヴァニラ・アイスとの戦いで負った傷は当然致命傷で、イギーが止血した傷口もまた砂である以上じわじわと血は滲んでいた。
さらにシーザーを連れてくるのに能力を解いていた間の出血。トータルで見るとショックを起こすには十分だったのだ。
そうしてあと少し遅ければ尽きていただろうフーゴの命をシーザーが何とか食い止めた。今の状態は『死んで当然』から、『死んでもおかしくない』に引き戻したにすぎない。
たとえば設備の整った病院で輸血をしつつ長時間波紋を流し続ければ命だけは助かるだろうが、それでも失われた血や肉を再生することはできない。
あとはせめて苦痛を和らげるくらい……医師でないシーザーにできるのはここまでだった。
「覚悟はできています……死は怖くありません」
「言い残すことがあるなら今のうちに聞いておこう」
「大切な……仲間がいるんです……ナランチャ、トリッシュ。ここで出会った人たちと行動を共にしていました……
東…………D-7……追ってきてい、るかも」
「わかった。必ず探し出してお前たちの事を伝えてやる」
「どこにいるかわからない……ミスタ。それから……生きていたんです…………ジョジョが……」
「JOJO!? やはり生きていたのか!!」
思わぬ名前にシーザーの心臓が跳ね上がる。この少年がJOJOを知っていたとは。ようやく手がかりが掴めた。
「あなたも知っ……のですか……ジョジョを……」
「知ってるも何も俺はあいつの仲間だ! あいつなら大丈夫、いつだって思いもよらねえ発想でピンチを切り抜けてきた奴だ。
今頃平気な顔して俺たちの事を探し回ってるに違いないさ!」
「はは、ちがいないや……彼は、希望の光です。どうか……お願いします。トランプ使いのムーロロには気をつけて…………」
「ツェペリ家の男の誇りにかけて、お前の願いを承った。後は……自分が生きる事だけ考えろ」
「…………ああ……会いたいなぁ……」
最後はうわごとのようにつぶやくと、フーゴは焦点の合わない目を閉じて眠りについた。
だが『永遠の』眠りにつくにはまだ早い。
(フーゴよ……JOJOと同じくらい、お前だって俺の希望なんだぜ。どうか、死なないでくれ)
やっと、やっと『間に合った』のだから。祈るようにシーザーは波紋を流し続ける。
もしクリーム・スターターのDISCを自身に差し込んでいたなら、確実にフーゴを救えただろうが、その事をシーザーは知る由もない。
『ジョジョ』と『JOJO』。ふたりが心に思い浮かべた姿は似ても似つかない、けれども等しく黄金の精神を持つ別人であることも、今はまだ知ることは無い。
(はーやれやれ、やっと一息つけたぜ)
イギーは後ろ足で首元を掻いている。慣れない首輪を長時間付けていたせいでかゆくて仕方ないのだ。
(どうにか教会まで戻ったと思ったらいきなりバンバカ撃たれるわ、しょーがねーからフーゴの野郎の仲間と合流しようとしたら案の定途中で倒れられるわ、
コーヒーガムの匂いに気付かなかったらあのままジリ貧で、下手すりゃ共倒れだったぜ)
ブルブルッと毛を飛ばすとあくびを一つ。
(まあ面倒なお荷物が片付いて新しい用心棒も手に入れた事だし、このまま東へ移動すりゃ予定通り合流できそうだ。盾は多い方がいいもんな。
よしよし、俺の運もまだまだ尽きちゃあいねえぜ)
何ともひどい言いぐさである。が、しかしこの口の悪さだけで彼を判断してはいけない。
一時共闘しただけのフーゴを見捨てる事なく支え続け、助けを呼んできた。
ほんの一瞬コーヒーガムに気を取られたことは……事実だが、そのまま
タルカスの時の様に適当に媚を売って取り入った方が簡単なはずだったのに。
何よりフーゴを治療する間の一時間、大好物のコーヒーガムの追加をシーザーに強請りもせず止血をし続けた。
つまりイギーという犬は、そういう奴なのだ。
(そ-いう事だからよー、悪りいがおめーの行きたがってる教会方面に戻るつもりはないぜ?)
フーッ、フーッ、バルルルッ……
(おいおい、なに歯ぁむき出してんだ……やんのか? ああ!?)
「ところでお前ら……何をそんなに睨み合ってるんだ?」
主人の居る教会へ行きたいシルバー・バレットと、フーゴの仲間達と合流したいイギー。
二頭の決着がどうなるのか、そもそもどうしてこんなことになっているのか、シーザーには……やっぱりわからない。
【D-3 路地 / 一日目 夕方】
【どう猛な野獣タッグ+白馬の波紋戦士】
【シーザー・アントニオ・ツェペリ】
[能力]:『波紋法』
[時間軸]:サン・モリッツ廃ホテル突入前、ジョセフと喧嘩別れした直後
[状態]:胸に銃創二発(波紋で回復中)
[装備]:トニオさんの石鹸、メリケンサック、シルバー・バレット
[道具]:
基本支給品一式、モデルガン、コーヒーガム(1枚消費)、ダイナマイト6本
ミスタの記憶DISC、クリーム・スターターのスタンドDISC、
ホット・パンツの記憶DISC
[思考・状況]
基本行動方針:主催者、柱の男、吸血鬼の打倒。
1.とりあえず二頭の決着がつくまでに次の行き先を考える
2.フーゴに助かってほしい
3.ジョセフ、シュトロハイムを探し柱の男を倒す。
4.DIOの秘密を解き明かし、そして倒す。
【備考】
- リサリサの遺体はC-3の民家に安置されています。
- DISCの使い方を理解しました。スタンドDISCと記憶DISCの違いはまだ知りません。
- 『ジョジョ』をジョセフの事だと誤解しています。
- シルバー・バレットとイギーがどうしてケンカを始めたのかさっぱりわかりません。
【パンナコッタ・フーゴ】
[スタンド]:『パープル・ヘイズ・ディストーション』
[時間軸]:『恥知らずのパープルヘイズ』終了時点
[状態]:右腕消失、脇腹・左足負傷(波紋で止血済)、大量出血
[装備]:DIOの投げたナイフ1本
[道具]:基本支給品(食料1、水ボトル少し消費)、DIOの投げたナイフ×5、
[思考・状況]
基本行動方針:"ジョジョ"の夢と未来を受け継ぐ。
1.……(意識不明)
【備考】
- サン・ジョルジョ・マジョーレ教会から南東方向にイギーVSヴァニラ、フーゴVSヴォルペの戦闘跡があります。
- フーゴの容体は深刻です。危篤状態は脱しましたが、いつ急変してもおかしくありません。
【イギー】
[時間軸]:JC23巻 ダービー戦前
[スタンド]:『ザ・フール』
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:ここから脱出する。
1.この馬にどっちが上か教えてやる
2.コーヒーガム(シーザー)穴だらけ(フーゴ)と行動、フーゴの仲間と合流したい
3.花京院に違和感。
4.煙突(ジョルノ)が気に喰わない
【備考】
- シルバー・バレットがサン・ジョルジョ・マジョーレ教会方面に行きたい事に気付いていますが、行かせるつもりはありません。
- 二頭の決着がどうなったかは以降の書き手さんにお任せします。
※イギー・フーゴは一旦教会に戻りましたが、ジョンガリに発砲された為方向転換しました。撃たれた時の状況やジョンガリの詳しい行動は
後の書き手さんにお任せします。
投下順で読む
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最終更新:2016年02月20日 20:48